特許第5917625号(P5917625)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917625
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】ソレノイド用緩衝装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/16 20060101AFI20160428BHJP
   F16F 9/02 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   H01F7/16 H
   F16F9/02
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-152493(P2014-152493)
(22)【出願日】2014年7月28日
(65)【公開番号】特開2016-31957(P2016-31957A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2014年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108627
【氏名又は名称】タカノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 大喜
【審査官】 堀 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭48−070861(JP,A)
【文献】 実開昭54−088664(JP,U)
【文献】 特開昭49−046163(JP,A)
【文献】 実開昭54−041949(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/16
F16F 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に離間して配した一対のコイルを有するコイル部と、一対のコイル間に配したマグネット部と、ケーシング部を含む固定ヨーク部とを有するステータを備えるとともに、前記コイル部の内側に配し、かつ前記ケーシング部により軸方向へ変位自在に支持されるシャフト部と、このシャフト部に固定した可動ヨーク部とを有するプランジャを備え、前記コイル部の通電により前記プランジャが前進位置と後退位置へ選択的に変位するソレノイドに付設し、変位した前記プランジャに対して停止時の緩衝を行うソレノイド用緩衝装置であって、前記ケーシング部(本体ケーシング部)の後端面部に取付けることにより後方へ突出し、かつシリンダ部を兼ねるとともに、前記本体ケーシング部の組立時に使用する固定手段を兼用して当該本体ケーシング部に取付ける補助ケーシング部と、前記プランジャにおけるシャフト部の後端部に固定し、前記補助ケーシング部の内部に収容したピストン部と、このピストン部の前後面間に貫通する貫通孔により形成し、当該ピストン部により仕切られる前記シリンダ部の前室と後室間を、所定の開口面積を有する連通部により相連通させる圧縮圧調整部と、前記補助ケーシング部を取付ける前記本体ケーシング部の後端面部における前記シャフト部を支持する軸受部に設けて当該シャフト部に当接するシーリング用パッキンとを備えてなることを特徴とするソレノイド用緩衝装置。
【請求項2】
前記連通部は、前記開口面積の大きさを変更可能に構成することを特徴とする請求項1記載のソレノイド用緩衝装置。
【請求項3】
前記ピストン部の周面には、前記シリンダ部の内周面に圧接するOリングを装填することを特徴とする請求項1又は2記載のソレノイド用緩衝装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソレノイドに付設することにより変位したプランジャに対して停止時の緩衝を行うソレノイド用緩衝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ステータにおけるコイル部の内側に配し、ケーシング部により軸方向へ変位自在に支持されたプランジャを備えたソレノイドは知られているが、この種のソレノイドは、コイル部の通電によりプランジャが前進位置と後退位置へ選択的に変位するため、変位したプランジャが固定部位に衝突して停止する際に発生する無用な振動や騒音などの不安定挙動を防止するため、通常、停止時の緩衝を行う緩衝装置が付設されている。また、緩衝装置に用いる緩衝手段としては、ゴムやスプリング等の弾性素材を用いたタイプも知られているが、一方において、エアダンパを用いた緩衝装置も提案されている。
【0003】
従来、このようなエアダンパを用いた緩衝装置としては、特許文献1で開示されるソレノイドに備える緩衝装置及び特許文献2で開示される直動型ソレノイドに備える緩衝装置が知られている。
【0004】
特許文献1に開示されるソレノイド(緩衝装置)は、消音効果を向上し、保持力の低下を防ぎ、少ない励磁電流で連続保持を可能にすることを目的としたものであり、具体的には、励磁時、可動鉄心と固定鉄心の間に所定の吸引力F2が働き、可動鉄心は弾性体に衝突するまで吸着動作を行い、可動鉄心が弾性体に衝突後、可動鉄心と補助固定鉄心間の吸引力F3によりF3−Fo(Fo:補助固定鉄心が弾性体によりフレームに押付けられる力)の力で補助固定鉄心は可動鉄心に衝突し、b面で面吸着する(b面で保持力を出す)ようにするとともに、可動鉄心と補助固定鉄心の間には弾性体を配設し、エアダンパにより補助固定鉄心を可動鉄心側に付勢させ、可動鉄心の吸着最終位置で可動鉄心と固定鉄心とを面吸着させるものである。一方、特許文献2に開示される直動型ソレノイド(緩衝装置)は、プランジャの当接音が発生しないとともに、接続される外部機器の摺動音及び接触音等を低減し、且つ、製造容易で安価な直動型ソレノイドの提供を目的としたものであり、具体的には、コイルを配設したソレノイド本体の筒体内に、励磁したとき該本体の後端側に吸引可動するプランジャーを備え、筒体の後端開口部を蓋部材により閉塞することによって、その閉塞内面を含む筒体内面とプランジャー後端部により囲繞されるエアーダンパー室を形成し、コイルが励磁したときに、プランジャーが蓋部材に当接しないように構成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−196317号公報
【特許文献2】特開2000−164423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したソレノイドに備えるエアダンパを用いた従来の緩衝装置は、次のような問題点があった。
【0007】
第一に、いずれもソレノイドの内部構造の一部を利用して緩衝装置を構成するため、緩衝能力を高めるには限界があり、必要な緩衝能力を十分に確保できない。しかも、他の緩衝手段と組合わせたり、ソレノイド自体の機構を変更する必要があるなど、構造面及び能力面からソレノイド本来の性能に少なからず影響を与える虞れがあり、必ずしも望ましい緩衝手段とは言えない。
【0008】
第二に、一定の緩衝能力を得ることができるとしても、緩衝機能を発揮させる際の十分な精度を確保できない。即ち、ソレノイドの内部構造を利用することから設計自由度に劣り、ソレノイドと組合わせた際の最適化や緩衝時の高い精度を確保できない。結局、動作時間や騒音レベルなどの緩衝特性(緩衝効果)にバラツキを生じることになり、安定性や精度が要求される用途には適さない。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したソレノイド用緩衝装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するため、軸方向Fsに離間して配した一対のコイル3a,3bを有するコイル部3と、一対のコイル3a,3b間に配したマグネット部24と、ケーシング部4を含む固定ヨーク部25とを有するステータ2を備えるとともに、コイル部3の内側に配し、かつケーシング部4により軸方向Fsへ変位自在に支持されるシャフト部5sと、このシャフト部5sに固定した可動ヨーク部26とを有するプランジャ5を備え、コイル部3の通電によりプランジャ5が前進位置Xfと後退位置Xrへ選択的に変位するソレノイド1に付設し、変位したプランジャ5に対して停止時の緩衝を行うソレノイド用緩衝装置Dを構成するに際して、ケーシング部(本体ケーシング部)4の後端面部4rに取付けることにより後方Fsrへ突出し、かつシリンダ部12を兼ねるとともに、本体ケーシング部4の組立時に使用する固定手段21…を兼用して当該本体ケーシング部4に取付ける補助ケーシング部11と、プランジャ5におけるシャフト部5sの後端部5srに固定し、補助ケーシング部11の内部に収容したピストン部13と、このピストン部13の前後面間に貫通する貫通孔22により形成し、当該ピストン部13により仕切られるシリンダ部12の前室12fと後室12r間を、所定の開口面積を有する連通部14hにより相連通させる圧縮圧調整部14と、補助ケーシング部11を取付ける本体ケーシング部4の後端面部4rにおけるシャフト部5sを支持する軸受部4rsに設けて当該シャフト部5sに当接するシーリング用パッキン27とを備えてなることを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、連通部14hは、開口面積の大きさを変更可能に構成することも可能である。また、ピストン部13の周面には、シリンダ部12の内周面に圧接するOリング23を装填することができる。
【発明の効果】
【0012】
このような構成を有する本発明に係るソレノイド用緩衝装置Dによれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) 基本構造はソレノイド1に対して独立した構成となるため、ソレノイド1の構造に大きく制限されることなく必要な緩衝能力を確保できる。即ち、ソレノイド本来の性能を維持しつつ、緩衝性や静粛性等に係わる十分な緩衝性能を確保できる。しかも、高い設計自由度を確保できるため、ソレノイドと組合わせた際の最適化を容易に行うことができるとともに、緩衝機能を発揮させる際の安定性及び精度の向上にも寄与できるなど、この種のソレノイドに用いて最適な緩衝装置Dとして構築できる。
【0014】
(2) ソレノイド1における本体ケーシング部4の外面一部を利用した構造となるため、ソレノイド1自身の設計変更を行うことなく、緩衝装置Dの付設が可能になるとともに、ソレノイド1に対する一体化構造が可能になる。したがって、既存のソレノイドに対してもそのまま又は僅かな改良で適用及び後付け可能になるため、設計や製造の容易化、更にはコスト削減に寄与できるとともに、汎用性及び発展性にも優れる。
【0015】
(3) 補助ケーシング部11を取付けるに際し、本体ケーシング部4の組立時に使用する固定手段21…を兼用して当該本体ケーシング部4に取付けることができるため、部品点数の削減、更には組立工数の低減を図ることができるとともに、コスト削減及び小型軽量化にも寄与できる。
【0016】
(4) 連通部14hは、ピストン部13の前後面間に貫通する貫通孔22により形成したため、ピストン部13の周面に切欠を形成したり、シリンダ部12の内周面に軸方向に沿った溝を形成するなどの他の形成態様と異なり、連通部14hにおける正確で安定した通気流量を確保できる。
【0017】
(5) ソレノイド1を構成するに際し、ステータ2として、軸方向Fsに離間して配した一対のコイル3a,3bを有するコイル部3と、一対のコイル3aと3b間に配したマグネット部24と、本体ケーシング部4を含む固定ヨーク部25とを備えるとともに、プランジャ5として、シャフト部5sと、このシャフト部5sに固定した可動ヨーク部26とを備えて構成したため、変位するプランジャ5が停止する二位置、即ち、前進位置Xfと後退位置Xrの双方において有効な緩衝機能を発揮させることができるとともに、無通電状態であっても前進位置Xfと後退位置Xrにプランジャ5を安定に停止(保持)させることができる。
【0018】
(6) 本体ケーシング部4における補助ケーシング部11を取付ける後端面部4rであって、シャフト部5sを支持する軸受部4rsに、当該シャフト部5sに当接するシーリング用パッキン27を設けたため、シリンダ部12を兼ねる補助ケーシング部11を組付ける場合であっても、本体ケーシング部4の内部に対する空気漏れを有効に防止できるため、シリンダ部12としての機能を発揮させる十分な気密性を確保できる。
【0019】
(7) 好適な態様により、連通部14hにおける開口面積の大きさを変更可能に構成すれば、緩衝特性の異なる緩衝装置Dを容易に得ることができるため、例えば、動作時間よりも騒音をできるだけ小さくしたい、或いは騒音よりも動作時間をできるだけ短くしたいなど、ユーザの希望に応じた最適化を容易に行うことができる。しかも、変更は必要に応じて任意に行うことができるため、ユーザサイドの利便性や使い勝手の向上に寄与できる。
【0020】
(8) 好適な態様により、ピストン部13の周面に、シリンダ部12の内周面に圧接するOリング23を装填すれば、無用な空気漏れを防止できるため、連通部14hのみを通して空気を移動させることができ、バラツキのない正確な緩衝特性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の好適実施形態に係る緩衝装置を付設したソレノイドであってプランジャが引込状態における断面側面図、
図2図1中A−A線断面図、
図3】同緩衝装置を付設したソレノイドであってプランジャが突出状態における断面側面図、
図4】同緩衝装置の作用説明図、
図5】同緩衝装置を付設したソレノイドの使用説明図、
図6】同緩衝装置を付設したソレノイドのプランジャの変位ストロークに対する抗力特性説明図、
図7】同緩衝装置を付設したソレノイドの駆動電圧対騒音レベル特性図、
図8】同緩衝装置を付設したソレノイドの駆動電圧対動作時間特性図、
図9】本発明の変更実施形態に係る緩衝装置の断面側面図、
図10】本発明の他の変更実施形態に係る緩衝装置の断面側面図、
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
まず、本実施形態に係る緩衝装置Dの理解を容易にするため、この緩衝装置Dを付設して好適なソレノイド1の概要について、図1図5を参照して説明する。
【0024】
図1はソレノイド(ラッチングソレノイド)1の内部構造を示す。ソレノイド1は、大別して、ステータ2とプランジャ5を備える。また、基本的な構成として、ステータ2は、軸方向Fsに離間して配した一対のコイル3a,3bを有するコイル部3と、一対のコイル3aと3b間に配したマグネット部24と、本体ケーシング部4を含む固定ヨーク部25とを備えるとともに、プランジャ5は、シャフト部5sと、このシャフト部5sに固定した可動ヨーク部26とを備える。
【0025】
この場合、ステータ2において、各コイル3a,3bは、それぞれコイルボビンにワイヤを巻回してリング状に構成するとともに、マグネット部24も各コイル3a,3bと同径となるようにリング形に形成する。また、固定ヨーク部25は、本体ケーシング部4と端面コア部31を備え、全体を磁性材により形成する。本体ケーシング部4は、断面が矩形となる筒体部4sと、この筒体部4sの両端開口を閉塞する矩形に形成した前端面部4f及び後端面部4r(図2参照)とを備えて構成するとともに、端面コア部31は前端面部4fの中央位置に固定し、内部内方へ突出させる。この端面コア部31は、後述するプランジャ5のシャフト部5sを軸方向Fsへ変位自在に支持する前側の軸受部4fsを兼ねている。なお、位置関係は、プランジャ5の変位出力側が前側となる。また、図3において、符号43はコイル3a,3bの導出ケーブルを示す。
【0026】
さらに、後端面部4rの中央位置にはシャフト部5sを軸方向Fsへ変位自在に支持する後側の軸受部4rsを設けるとともに、この軸受部4rsには、シャフト部5sに当接して気密性を確保するシーリング用パッキン27を設ける。このようなパッキン27を設ければ、後述するシリンダ部12を兼ねる補助ケーシング部11を組付ける場合であっても、本体ケーシング部4の内部に対する空気漏れを有効に防止できるため、シリンダ部12としての機能を発揮させる十分な気密性を確保できる利点がある。
【0027】
一方、プランジャ5は、円筒形をなす可動ヨーク部26を備え、この可動ヨーク部26の内側に丸棒状のシャフト部5sを挿通させるとともに、所定の固定手段により一体となるように固定して構成する。プランジャ5は、全体を磁性材により形成する。なお、可動ヨーク部26の前端には、前述した端面コア部31が挿入して嵌合するコア収容凹部26iを形成する。これにより、可動ヨーク部26は各コイル3a,3bの内側に配されるとともに、シャフト部5sの前側は軸受部4fsにより支持され、前端面部4fから前方へ突出する。他方、シャフト部5sの後側は軸受部4rs(パッキン27)により支持され、後端面部4rから後方へ突出する。
【0028】
次に、このようなソレノイド1に付設して好適な本実施形態に係る緩衝装置Dの構成について、図1図5を参照して具体的に説明する。
【0029】
緩衝装置Dは、大別して、シリンダ部12を兼ねる補助ケーシング部11と、補助ケーシング部11の内部に収容したピストン部13と、ピストン部13に設けた圧縮圧調整部14とを備える。
【0030】
この場合、補助ケーシング部11は、図1に示すように、一端を開口した円筒カップ状に形成する。なお、補助ケーシング部11は、本体ケーシング部4の機能とは異なるため、例えば、プラスチック素材等により一体形成できる。また、開口側の端縁には、本体ケーシング部4の後端面部4rの外形と同じ外形サイズとなるフランジ部35を一体形成する。これにより、補助ケーシング部11を本体ケーシング部4に取付けるに際しては、図1及び図2に示すように、本体ケーシング部4の組立時に使用するボルトナット(固定手段21…)を兼用して当該本体ケーシング部4、即ち、後端面部4rに取付けることができる。このように、補助ケーシング部11を本体ケーシング部4に取付けるに際し、本体ケーシング部4の組立時に使用する固定手段21…、具体的にはボルトナット(図5参照)を兼用して取付ければ、部品点数の削減、更には組立工数の低減を図ることができるとともに、コスト削減及び小型軽量化にも寄与できる利点がある。
【0031】
一方、ピストン部13は、補助ケーシング部11(シリンダ部12)の内部に収容し、中心位置を、本体ケーシング部4の後端面部4rから突出したシャフト部5sの後端部5srに固定ネジ36により固定する。この際、ピストン部13の周面には周方向に沿った凹溝を形成し、シリンダ部12の内周面に圧接するOリング23を装填する。このように、ピストン部13の周面に、シリンダ部12の内周面に圧接するOリング23を装填すれば、無用な空気漏れを防止できるため、連通部14hのみを通して空気を移動させることができ、バラツキのない正確な緩衝特性を確保できる利点がある。
【0032】
また、ピストン部13には、図1及び図2に示すように、このピストン部13により仕切られるシリンダ部12の前室12fと後室12r間を、所定の開口面積を有する連通部14hにより相連通させる圧縮圧調整部14を設ける。例示は、連通部14hとして、ピストン部13の前後面間に貫通形成した貫通孔22を用いた。なお、連通部14hとしては、ピストン部13の周面に切欠を形成したり、シリンダ部12の内周面に軸方向Fsに沿った溝を形成するなど、他の形成態様によっても設けることができるが、例示のように、貫通孔22を設けることにより、連通部14hにおける正確で安定した通気流量を確保できる利点がある。この場合、貫通孔22の内径Ld(図4参照)を選定することにより、貫通孔22の開口面積を設定できるため、貫通孔22を通る通気流量を設定できる。したがって、貫通孔22の内径Ldを選定することにより、ソレノイド1の動作時間(切換時間),吸引力(押圧力),騒音レベル等について、異なる緩衝特性となるように容易に設定できる。
【0033】
次に、本実施形態に係る緩衝装置Dを含むソレノイド1全体の使用方法及び動作(機能)について、図5図8を参照して具体的に説明する。
【0034】
図5に、ソレノイド1の外観図を示すとともに、ソレノイド1を使用したロックシステム40を使用例(一例)として示す。Mは矢印Fm方向へ移動する開閉ドア等の可動体を示す。また、51はロックピン、52はロックピン51を変位させる伝達リンク機構、53はロックピン51をロック方向へ付勢するスプリングをそれぞれ示す。さらに、41はソレノイド1(コイル3a,3b)に接続し、コイル3a,3bに対する通電制御を行うコントローラであり、可動体Mの位置を検出する位置センサ42をコントローラ41に接続する。
【0035】
このロックシステム40では、可動体Mが実線位置にあれば、位置センサ42は非検出信号を出力する。この場合、プランジャ5は実線で示す前進位置Xfに位置し、ロックピン51はロック解除位置に変位している。したがって、この状態はプランジャ5が前進位置Xfにある図3に示すソレノイド1と同じ状態となる。一方、可動体Mが、仮想線で示す、図中、左側の位置まで移動した場合を想定する。この場合、位置センサ42は検出信号を出力し、ロックモードに基づいて、コントローラ41はソレノイド1のコイル3a,3bを通電制御する。これにより、プランジャ5は実線で示す前進位置Xfから仮想線で示す後退位置Xrまで後退変位するとともに、ロックピン51はロック位置に変位する。この状態はプランジャ5が後退位置Xrにある図1に示すソレノイド1と同じ状態となる。他方、コントローラ41に対してロック解除指令Scが付与されれば、ロック解除モードに基づいて、コントローラ41はソレノイド1のコイル3a,3bを通電制御する。
これにより、プランジャ5は仮想線で示した後退位置Xrから実線で示す前進位置Xfまで前進変位するとともに、ロックピン51はロック解除位置に変位し、可動体Mに対するロックが解除される。なお、後退位置Xr及び前進位置Xfでは無通電状態となるが、プランジャ5は、後退位置Xr又は前進位置Xfに保持(停止)される。
【0036】
ところで、プランジャ5が変位した後、停止する際には、可動ヨーク部26が前端面部4f(端面コア部31)又は後端面部4rにそれぞれ当接する。この際、ソレノイド1には本実施形態に係る緩衝装置Dが付設されているため、プランジャ5の変位に対しては緩衝装置Dに基づく抗力が作用する。
【0037】
今、図4において、ピストン部13が後退位置(Xr)から途中位置まで、ストロークLmsだけ移動したものとする。この際、移動開始からシリンダ部12における前室12fの空気が圧縮されるため、この圧縮圧による抗力を受ける。また、同時に、前室12fの空気は、点線矢印Fa…で示すように、貫通孔22を通して後室12rに流入し、この通気流量に基づく速度で移動する。したがって、図3に示すように、プランジャ5が後退位置Xrから前進位置XfまでのストロークLmだけ変位した場合、図6に示すように、変位ストロークに対する抗力の変化特性は、特性線Piのように変化する。この特性線Piから明らかなように、後退位置Xrから前進位置Xfまで変位した場合、最初は所定の抗力まで上昇し、この後、ソレノイド1の推力が増すため、当該抗力を略一定に維持するとともに、前進位置Xfに停止した後は抗力がゼロになる。この際、無通電状態であってもプランジャ5は前進位置Xfに保持される。このような挙動は前進位置Xfから後退位置Xrへ変位する場合にも同様となる。なお、図6において、Psは、スプリングを用いた緩衝装置の特性線である。スプリングの場合、バネ定数×変位ストロークの力が加わるため、変位ストロークに対して抗力は比例的に大きくなる。そして、停止した際には、圧縮したスプリングにより保持力に対して逆向きの抗力が発生し、保持力の低下を招く。また、ゴム等の弾性体を用いた緩衝装置の場合、停止時にはプランジャ5側と固定側間に弾性体が介在する。これにより、磁路に対して少なからず空隙が発生し、保持力の低下を招く。しかし、本実施形態に係る緩衝装置Dの場合、磁路に対する空隙は発生しない。
【0038】
一方、図7には、本実施形態に係る緩衝装置Dを付設したソレノイド1の駆動電圧に対する騒音レベル特性を示す。図7中、Pnifは、後退位置Xrから変位した後、前進位置Xfで停止する際の特性線、Pnirは、前進位置Xfから変位した後、後退位置Xrで停止する際の特性線をそれぞれ示す。いずれも騒音レベルは75〔dB〕前後であるが、後退位置Xr側の方が吸引力が弱いため、騒音レベルは前進位置Xf側よりも若干低くなっている。なお、Pnsf,Pnsrは、緩衝装置Dを付設しない場合における同様の特性線を示している。この場合、Pnsfは、後退位置Xrから変位した後、前進位置Xfで停止する際の特性線、Pnsrは、前進位置Xfから変位した後、後退位置Xrで停止する際の特性線をそれぞれ示す。特性線Pnsfの場合、騒音レベルは85〜95〔dB〕程度、特性線Pnsrの場合、騒音レベルは80〜83〔dB〕程度である。したがって、騒音レベルについては、緩衝装置Dを付設することにより、大きく改善されることを確認できる。
【0039】
他方、図8には、本実施形態に係る緩衝装置Dを付設したソレノイド1の駆動電圧に対する動作時間特性を示す。図8中、特性線Ptifは、後退位置Xrから変位した後、前進位置Xfで停止する際の特性線、Ptirは、前進位置Xfから変位した後、後退位置Xrで停止する際の特性線をそれぞれ示す。また、Ptsf,Ptsrは、緩衝装置Dを付設しない場合における同様の特性線を示している。この場合、Ptsfは、後退位置Xrから変位した後、前進位置Xfで停止する際の特性線、Ptsrは、前進位置Xfから変位した後、後退位置Xrで停止する際の特性線をそれぞれ示す。駆動電圧を100〔V〕とした場合、本実施形態に係る緩衝装置Dを付設することにより、動作時間は、概ね4倍ほど遅くなることを確認できる。なお、後退位置Xr側の方が吸引力が弱いため、動作時間も前進位置Xf側よりも遅くなる。
【0040】
ところで、このような動作時間と騒音レベルは、貫通孔22(連通部14h)の開口面積の大きさを設定(設計)することにより、容易に変更(調整)できる。この場合、前述したように、設計段階において、開口面積の大きさを選定することにより、容易に緩衝特性を設定できるが、図9に示す変更実施形態のように、一例として示したマニュアル調整機構を設けることにより、ユーザサイドで開口面積を任意の大きさとなるように自由に調整することも可能である。
【0041】
図9に示す変更実施形態に係る緩衝装置Dは、前述した補助ケーシング部11を、前側に位置する筒形の本体分割部11mと後側に位置する蓋体分割部11cに分割し、本体分割部11mの後端開口に対して蓋体分割部11cを着脱できるようにした。なお、蓋体分割部11cの着脱は固定ネジ61…を用いて行うことができる。また、前述したピストン部13に設ける連通部14hを構成するに際し、貫通孔22の代わりにネジ孔22fを設け、かつこのネジ孔22fの中間位置と後室12rを連通させる補助孔22rを設けるとともに、ネジ孔22fに対して後室12r側から調整ネジ62を螺合させて構成した。したがって、調整を行う際には、仮想線で示すように、蓋体分割部11cを本体分割部11mから取り外すとともに、ドライバ等の工具を用いて調整ネジ62を回し操作すればよい。これにより、調整ネジ62は前進又は後退し、ネジ孔22fに臨む補助孔22rの開口面積の大きさを任意の大きさに変更(調整)できる。その他、図9において、図1に示した緩衝装置Dと同一部分には同一符号を付してその構成を明確にするとともにその詳細な説明は省略する。
【0042】
この変更実施形態によれば、連通部14hにおける開口面積の大きさを任意の大きさに変更し、緩衝特性の異なる緩衝装置Dを容易に得ることができるため、例えば、動作時間よりも騒音をできるだけ小さくしたい、或いは騒音よりも動作時間をできるだけ短くしたいなど、ユーザの希望に応じた最適化を容易に行うことができる。しかも、変更は必要に応じて任意に行うことができるため、ユーザサイドの利便性や使い勝手の向上に寄与できる。
【0043】
さらに、図10には、他の変更実施形態に係る緩衝装置Dを示す。図1図9に示した実施形態は、ピストン部13に貫通孔22を形成することにより挿通部14hを設けた例を示したが、図10に示す緩衝装置Dは、補助ケーシング部11(シリンダ部12)に挿通部14h…を設けたものである。具体的には、補助ケーシング部11の内外面間に貫通し、常に前室12fに臨む第一の貫通孔22と常に後室12rに臨む第二の貫通孔22により形成し、前室12fと後室12rを、一対の貫通孔22,22及び外部の大気を介して連通させたものであり、ピストン部13には貫通孔を設けない。その他、図10において、図1に示した緩衝装置Dと同一部分には同一符号を付してその構成を明確にするとともにその詳細な説明は省略する。
【0044】
この変更実施形態によれば、ピストン部13の進退移動時には、各貫通孔22…から空気が出入りし、図1の緩衝装置Dと同様の緩衝機能を発揮させることができるとともに、密封状態の場合とは異なり、ソレノイド1の温度上昇による結露の発生を防止できる利点がある。
【0045】
よって、このような本実施形態に係る緩衝装置Dによれば、基本構造はソレノイド1に対して独立した構成となるため、ソレノイド1の構造に大きく制限されることなく必要な緩衝能力を確保できる。即ち、ソレノイド本来の性能を維持しつつ、緩衝性や静粛性等に係わる十分な緩衝性能を確保できる。しかも、高い設計自由度を確保できるため、ソレノイドと組合わせた際の最適化を容易に行うことができるとともに、緩衝機能を発揮させる際の安定性及び精度の向上にも寄与できるなど、この種のソレノイドに用いて最適な緩衝装置Dとして構築できる。また、ソレノイド1における本体ケーシング部4の外面一部を利用した構造となるため、ソレノイド1自身の設計変更を行うことなく、緩衝装置Dの付設が可能になるとともに、ソレノイド1に対する一体化構造が可能になる。したがって、既存のソレノイドに対してもそのまま又は僅かな改良で適用及び後付け可能になるため、設計や製造の容易化、更にはコスト削減に寄与できるとともに、汎用性及び発展性にも優れる。
【0046】
特に、本実施形態に係る緩衝装置Dを付設した例示のソレノイド1は、ステータ2として、軸方向Fsに離間して配した一対のコイル3a,3bを有するコイル部3と、一対のコイル3aと3b間に配したマグネット部24と、本体ケーシング部4を含む固定ヨーク部25とを備えるとともに、プランジャ5として、シャフト部5sと、このシャフト部5sに固定した可動ヨーク部26とを備えて構成したため、変位するプランジャ5が停止する二位置、即ち、前進位置Xfと後退位置Xrの双方において有効な緩衝機能を発揮させることができるとともに、無通電状態であっても前進位置Xfと後退位置Xrにプランジャ5を安定に停止(保持)させることができる。
【0047】
以上、好適実施形態(変更実施形態)について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0048】
例えば、連通部14hの開口面積の大きさを変更する形態として図9に一例を挙げたが、その他、複数の貫通孔22…設け、使用しない貫通孔22…を着脱可能な栓により閉塞し、これにより、開口面積の大きさを変更(選択)するなど、各種変更形態により実施できる。なお、Oリング23は必ずしも設けることを要しない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る緩衝装置は、異なる位置に選択的に変位するプランジャを内蔵するラッチングソレノイドをはじめ、同様の機能を備える各種ソレノイドに利用できる。
【符号の説明】
【0050】
1:ソレノイド,2:ステータ,3:コイル部,3a:コイル,3b:コイル,4:ケーシング部(本体ケーシング部),4r:本体ケーシング部の後端面部,4rs:軸受部,5:プランジャ,5s:シャフト部,5sr:シャフト部の後端部,11:補助ケーシング部,12:シリンダ部,12f:シリンダ部の前室,12r:シリンダ部の後室,13:ピストン部,14:圧縮圧調整部,14h:連通部,21…:固定手段,22:貫通孔,23:Oリング,24:マグネット部,25:固定ヨーク部,26:可動ヨーク部,27:シーリング用パッキン,Fs:軸方向,Fsr:後方,Xf:前進位置,Xr:後退位置,D:ソレノイド用緩衝装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10