【実施例】
【0022】
〔実施例1の構成〕
図1ないし
図9に基づいて本発明の実施例1を説明する。以後の説明では、特に断らない限り、各部材の位置および方向の特定は、各実施例を通して対応する図面の左右および上下方向に従う。
【0023】
本発明に係るチェーン・ラック式駆動装置1では、
図1および
図2に示すように、設置面Gに据え付けられたラック台2に運動体3、4が左右に配置されている。ラック台2はラック板として形成されており、例えば、上面に多数のスプロケット歯2aを所定のピッチ間隔Pで並列させている。ラック台2は、
図3に示すように、基台2cの一側面に取り付けられている。
基台2cの他側面には、上端にスライダーガイド5を有する取付板7Aが取り付けられている。スライダーガイド5は、長手方向Tに沿って設けられており、スライダー6を長手方向Tに沿って摺動可能に取り付けている。スライダー6の取付板7Aとは反対側には、支持板7Bが取り付けられている。
【0024】
右側の運動体4は、二輪体に構成したもので、支持板7Bには、第1回転体10および第2回転体11が左右に所定間隔Eだけ離間した状態で、ともに回転可能に設けられている。すなわち、第1回転体10はスプロケット(鎖歯車)を成し、その駆動軸17aを支持板7Bに取り付けている。駆動軸17aは、チェーン駆動部として機能する駆動モータ21の回転軸21aに連結されている。
【0025】
第1回転体10は、外周の突歯10aを後述するチェーン16の駒部16aを介してスプロケット歯2aに噛合させている。第2回転体11はテンションプーリ13であり、回転軸13aを支持板7Bに取り付けるとともに、チェーン16の駒部16aをスプロケット歯2aに噛合させている。
テンションプーリ13の回転軸13aは、
図4(a)に示すように、その回転軸13aの先端部に形成した雄ねじ部13bと、支持板7Bで回転軸13aを挿通させた長穴7aとから成る張力調整部材14を構成する。長穴7aは、長手方向Tに沿って細長く形成されている。この場合、テンションプーリ13は、
図4(b)に示すように、中央に隆起する凸環部13jを周方向に形成している。チェーン16をテンションプーリ13に掛けた状態では、リンク16fが凸環部13jを挟み、ピン16eが凸環部13jに摺接している。
【0026】
張力調整部材14では、長穴7aに対する回転軸13aの位置を変更して締付ナット15を雄ねじ部13bに締め付け直すことにより、後述するチェーン16への張力を調整することができる。締付ナット15に締め付けに伴い、締付ナット15と鍔体7cとで支持板7Bを挟持してテンションプーリ13を保持する。
この際、
図4(c)に示すように、支持板7Bに折曲辺7kを設け、鍔体7cから折曲辺7kを貫通して外部に突出する螺子部7hにナット7fを締め付けてもよい。ナット7fの締付けにより、回転軸13aを矢印Nで示す方向に移動させてチェーン16への張力を調整してもよい。
【0027】
当接調整部材7Mは、
図5(a)、(b)に示すように、支持板7Bをスライダー6に対して上下動可能に設けることにより、スプロケット歯2aに対する第1回転体10および第2回転体11の当接度合いを調整する。すなわち、当接調整部材7Mは、支持板7Bに形成された上下長穴7eと、上下長穴7eを挿通する上下螺子7gから成る。
上下長穴7eに対する支持板7Bの上下位置を変更して上下螺子7gを上下長穴7eからスライダー6の螺子穴6eに締め直すことにより、スプロケット歯2aに対する第1回転体10および第2回転体11の当接度合いを調整可能にしている。
【0028】
チェーン16は一般のもので、ピン16eとリンク16fから成る駒部16aを周方向に沿って多数連結して構成されている。チェーン16は、第1回転体10から第2回転体11に掛け渡されている。チェーン16の外側には、ラック台2のスプロケット歯2aに噛合する多数の駒部16aを周方向に沿って連結させている。
【0029】
駆動モータ21への通電に伴い、第1回転体10および第2回転体11を回転駆動することにより、第1回転体10および第2回転体11から成る回転機構21Aを駆動する。これにより、チェーン16を周方向に沿って循環移動させ、駒部16aをスプロケット歯2aに順に噛合させて支持板7Bを運動体4としてラック台2の軌道(長手方向T)に沿って移動させる。
【0030】
押え板22は、
図5(a)、(b)に示すように、縦辺22aと横辺22bとから断面L字状に形成されている。横辺22bは、チェーン16のうち駒部16aがスプロケット歯2aに噛合する噛合領域Hの内側に押え部材として摺接可能に配置され、チェーン16の移動時にチェーン16がスプロケット歯2aから外れて飛び跳ねるのを阻止する。
【0031】
押え板22は、チェーン16に摺接するため、低摩擦で高耐摩耗性を有する素材(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))により形成されている。
押え板22は、後述するように、その長さ寸法が噛合領域Hの長さ寸法に納まる範囲内で延出されている。なお、チェーン16の押え板22と摺接する内側には、PTFEの薄膜をコーティングしたり、貼り付けてもよい。
【0032】
押え調整部材23は、噛合領域Hに対する押え板22の位置を変更することにより、噛合領域Hに対する押え板22(横辺22b)の摺接度合いを調整する。このため、押え調整部材23は、
図5(a)、(b)に示すように、縦辺22aに形成した縦長穴23aと縦長穴23aを挿通する調整螺子24と支持板7Bに形成した雌ねじ部23cとを備えている。
縦長穴23aに対する調整螺子24の上下位置を変更し、調整螺子24を雌ねじ部23cに締め直すことにより、押え板22の横辺22bから噛合領域Hへの距離を長短変化させて摺接度合いを調整する。
【0033】
回転機構21Aの回転駆動時に、チェーン16のうち駒部16aがスプロケット歯2aに噛合し始める側では、押え板22の先端部22Aが第1回転体10あるいは第2回転体11に対して干渉しない2mm−5mmの近接範囲H1まで延出されている(最接近位置)。すなわち、押え板22の先端部22Aは、駒部16aをスプロケット歯2aに押え付けて強制的に噛合させるように設定している。
この場合、運動体3、4の左方向への走行を考慮して、押え板22の左側の先端部22Aを示したが、運動体3、4の右方向への走行を考慮して、押え板22の右側の先端部22Bも左側の先端部22Aと同様に第2回転体11に干渉しない2mm−5mmの近接範囲H2まで延出している。
【0034】
左側の運動体3では、右側の運動体4に対して三輪体に構成したもので、運動体4と異なるところは、
図1に示すように、第1回転体10および第2回転体11をともにプーリとして構成したことである。
支持板7Bにおける第1回転体10と第2回転体11との中間部位には、テンションプーリを兼ねる駆動スプロケット18がチェーン駆動部として配置されている。駆動スプロケット18はチェーン16に上方から噛合し、駆動モータ18eの通電により駆動スプロケット18が回転してチェーン16に周回移動力を伝達する。
【0035】
駆動モータ18eの駆動軸18bは、
図5(a)に示すように、駆動軸18bが補助板19の貫通孔19cから縦長孔18cに挿通し、螺子18dの操作により取り付けられている。
すなわち、補助板19には、螺子孔19bが形成され、支持板7Bには螺子孔19bに対応する縦長孔19aが形成されてテンション調整機構18Sを構成している。
駆動軸18bを縦長孔18c内で上下方向の位置を変更し、螺子18dを螺子孔19bに締め直すことにより、チェーン16に与える張力を調整することができる。
【0036】
〔実施例1の効果〕
実施例1では、ラック台2に回転機構21Aとチェーン16とを組合せて使用し、運動体3、4で示すように、三輪体および二輪体のいずれにも適用することができる。
チェーン16の駒部16aをスプロケット歯2aに噛合させる構成のため、両者の同時噛み合い歯数が多くなり、チェーン16からラック台2への伝達力を向上させることができる。
【0037】
チェーン16をラック台2のスプロケット歯2aに噛み合わせる簡素な構造のため、軽量で静粛および高速化を実現でき、メンテナンスが簡便で安価に製造できる長所に加えて、堅牢でかつ耐久性を向上させることができる。
【0038】
また、張力調整部材14は、雄ねじ部13bと支持板7に回転軸13aを挿通させた長穴7aおよび締付ナット15から成る簡素な構造となり、コストの低減化に寄与することができる。
押え板22の先端部22Aは、第1回転体10あるいは第2回転体11に干渉しない範囲で近接するまで延出されており、駒部16aをスプロケット歯2aに押え付けて強制的に噛合させるように設定している。
これにより、押え板22の先端部22Aが逸早く駒部16aを押え付けてスプロケット歯2aに噛合させることができ、とりわけ駆動開始時にスプロケット歯2aに対するチェーン16の円滑な移動を確保することができる。
【0039】
チェーン16の駒部16aとラック台2のスプロケット歯2aとの噛合は、
図6(a)に示すように、圧力角θが小さく伝達効率が良好であるが、運動体3、4が高速走行したり、高負荷を受けた場合、チェーン16の駒部16aがスプロケット歯2aから浮き上がる可能性がある(
図6(b)の矢印F参照)。これを防ぐため、チェーン16の噛合領域Hに対して押え板22を軽接触状態に設けたものである(
図6(c)参照)。
【0040】
運動体4の第1回転体10はスプロケット10Eとして設け、第2回転体11はテンションプーリ13として設けている。スプロケット10Eは、
図7(a)に示すように、突歯10eがスプロケット歯2aに干渉するため、スプロケット歯2aおよび突歯10eの各歯丈を短く設定して干渉を抑制している。運動体3では、第1回転体10および第2回転体11が従動プーリとして機能するので、歯丈を短く設定しなくてもスプロケット歯2aに対する干渉は生じない。
【0041】
スプロケット歯2aは、
図7(b)に示すように、ピン16eが隣接のピン16eを中心として描く半径Rが干渉しない従動軌跡歯形として形成されている。このため、スプロケット歯2aに対してピン16eが確実に噛み合ってガタが生じない。
当接調整部材7Mは、上下長穴7eや上下螺子7gから成る簡素な構造でよく、省スペース化が図られるとともに、製造コスト的にも有利である。
【0042】
支持板7Bが第1回転体10および第2回転体11を挟むように両側に設けられた両持支持構造(
図8(a)参照)では、チェーン16の交換時に、第1回転体10および第2回転体11対するチェーン16の抜き出しや装着が面倒である。
これに対して、単一の支持板7Bに第1回転体10および第2回転体11を取り付けた片持支持構造(
図8(b)参照)では、チェーン16の交換時、第1回転体10および第2回転体11に対するチェーン16の抜き出しや装着が容易になるとともに、チェーン16への張力調整が容易となる。
【0043】
運動体3、4が二輪体の場合、単一のラック台2を継ぎ合わせて使用するが、隣接するラック台2の間に1−2歯分の隙間を設定しても走行に支障が生じない。このため、ラック台2の少ない継ぎ足しで大きな距離を設定できる便宜がある。
【0044】
ラック台2の製造にあたっては、例えば、金属材料を用いてプレスやレーザーカットなどの加工手段により平板形、L字形あるいはT字形に形成することが可能である(
図9(a)、(b)、(c)参照)。ラック台2は厚みが小さいので、上記の加工手段で安価に製作することができる。
【0045】
〔実施例2の構成〕
図10は本発明の実施例2を示す。実施例2が実施例1と異なるところは、押え板22の横辺2bには、ラック台2の両側に垂下されてチェーン16を囲繞する垂下辺部22e、22fを一体に形成したことである。
押え板22に垂下辺部22e、22fを形成したのは、垂下辺部22e、22fによりチェーン16をラック台2やスプロケット歯2aから外さないように規制するためである。
【0046】
〔実施例3の構成〕
図11は本発明の実施例3を示す。実施例3が実施例1と異なるところは、回転機構21Aを立体ホルダー21Bに設置し、ラック台2(断面矩形、断面円形)を立体ホルダー21Bに対して移動可能に貫通させたことである(
図11(a)、(b)参照)。
この場合、ラック台2が直線ガイドの役割を兼ねるので、スライダーガイド5およびスライダー6が不要になって全体の構造が簡素となる。
【0047】
〔実施例4の構成〕
図12は本発明の実施例4を示す。実施例4が実施例1と異なるところは、ラック台2を環状に形成したことである(
図12(a)参照)。
ラック台2が立体駐車場のターンテーブル(図示せず)として構成される例のように、ラック台2を特に径大に形成する場合、円弧状のラック台2を多数繋いで形成することができる(
図12(b)参照)。
ラック台2を環状構造体とした場合、MRI装置の磁石架台2mに内蔵した電磁コイル体(図示せず)など径大な構造体を回転駆動させるのに適している(
図13参照)。
【0048】
〔実施例5の構成〕
図14は本発明の実施例5を示す。実施例5が実施例1と異なるところは、押え板22の横辺22bに代わって回転ローラ35a、35b、35cを押え部材として用いたことである。回転ローラ35a、35b、35cは、チェーン16の噛合領域Hに長手方向Tとは直角方向に交差する状態に並列されている。
実施例5における回転ローラ35a、35b、35cでも、押え板22によるものと同様な効果が得られる。
【0049】
〔実施例6の構成〕
図15は本発明の実施例6を示す。実施例6が実施例1と異なるところは、ラック台2を長尺に設定してカーブさせたことである(
図15(a)参照)。
チェーン16は、
図15(b)に示すように、ピン16aをスプロケット歯2aに噛合させる構成のため、スプロケット歯2aの歯厚をチェーン16のピン16aの幅寸法よりも小にすることにより、運動体3に大きなカーブを走行させることができる。
実施例9では、ラック台2を長距離軌道に沿ってカーブさせているので、とりわけ遊具、建設機械、山岳畑の搬送車に好適となる。
【0050】
〔実施例7の構成〕
図16は本発明の実施例7を示す。実施例7が実施例1と異なるところは、ラック台2とチェーン16とを復列に設置したことである。
【0051】
すなわち、ラック台2を二台並置し、各ラック台2のスプロケット歯2aに噛合する第1回転体10、第2回転体11を二枚ずつ設け、かつチェーン16の駒部16aに噛合する駆動スプロケット18を二機設けている。
図16には、便宜上の観点からチェーン16および駒部16aを省略しているので、チェーン16や駒部16aについては、
図14を参照されたい。
実施例10では、運動体3がコンパクトになるため、省スペース化が図られ、狭いスペースで、チェーン16からラック台2への伝達力を大幅(2−3倍)に増強することができる。
【0052】
〔他の実施例〕
(a)回転機構21Aを構成する各種のプーリは、表面が円滑なものを用いたが、チェーン16の外側に駒部16aに対応する歯溝を形成した歯付きプーリでもよい。
(b)チェーン16に摺接するため、低摩擦で高耐摩耗性を有する素材の押え板22は、PFETに限らず、同様な特性を有する他のプラスチック材料により形成してもよい。
(c)駆動モータ21の動力源は、電源に限らず、バッテリー(蓄電池)を用いてもよく、駆動モータ21に代わって内燃機関のエンジンによる駆動力を用いてもよい。