(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された冷却機構は、プランジャロッドから供給される冷却水をプランジャロッドの軸線方向に沿って冷却室に導くものである。そのため、冷却室に導かれた冷却水は冷却室の底面中央部に向けて流出する。
しかしながら、特許文献1に開示された冷却機構は、底面中央部を効果的に冷却するもののその周囲に位置する底面端部を効果的に冷却することができない。
【0005】
冷却室の底面端部は略円筒形状のプランジャチップの外周面と近接している。そのため、底面端部を効果的に冷却することができない冷却機構の場合、溶湯の冷却時において、プランジャチップの先端面に接する溶湯の熱によってプランジャチップの先端面近傍の外周面がビスケットにより加熱された状態となる。プランジャチップの先端面近傍の外周面の冷却が不十分であると、プランジャチップの先端面近傍の外周面が熱により膨張してプランジャスリーブの内周面と接触あるいは近接した状態となる。
【0006】
この場合、溶湯の冷却が完了したことに伴ってプランジャチップをプランジャスリーブ内で摺動させると、プランジャチップの先端面近傍の外周面がプランジャスリーブの内周面と接触して、接触部分に摩耗が生じたり、プランジャチップとプランジャスリーブの双方に傷が生じる可能性がある。このような摩耗が生じると、プランジャチップおよびプランジャスリーブの寿命が短くなる可能性がある。また、このような摩耗によりプランジャチップの外周面とプランジャスリーブの内周面との間の隙間が大きくなると、射出時に溶湯の一部が隙間から噴出する危険がある。また、隙間へ溶湯が差し込まれた状態となり、プランジャチップがプランジャスリーブ内で摺動不能となる可能性がある。さらに、摺動抵抗が大きくなることによって金型内への溶湯の射出速度が安定せず、製品の品質にばらつきがでる可能性がある。
【0007】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、プランジャチップの先端面近傍の外周面を十分に冷却し、プランジャチップの先端面近傍の外周面とプランジャスリーブの内周面とが接触して摩耗が生じることを抑制したプランジャチップ、冷却機構、および射出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明の一態様に係るプランジャチップは、冷却水供給口と冷却水排出口とを有するプランジャロッドの先端部に取り付けられるプランジャチップであって、前記プランジャロッドと同軸に配置されるとともに前記プランジャロッドの軸線方向に延びる凹所が形成された略円筒形状の本体部と、前記プランジャロッドと同軸かつ前記凹所に挿入された状態で配置されるとともに前記冷却水供給口に接続される冷却水供給流路と前記冷却水排出口に接続される冷却水排出流路とが内部に形成された略円筒形状の冷却機構とを備え、前記冷却水供給流路は、前記軸線方向に沿って前記冷却水供給口から流入する冷却水を前記軸線方向に導いて前記凹所の底面中央部に向けて流出させる第1流路と、前記軸線方向に沿って前記冷却水供給口から流入する冷却水を前記軸線方向から傾斜した方向に導いて前記凹所の底面端部に向けて流出させる第2流路とを有し、前記冷却水排出流路は、前記冷却水供給流路によって前記本体部の内周面と前記冷却機構の外周面との間の空間に導かれた冷却水を、前記冷却機構の内部に導いて前記冷却水排出口へ排出する。
【0009】
本発明の一態様に係るプランジャチップは、略円筒形状の本体部と略円筒形状の冷却機構とを備え、本体部に形成された凹所に冷却機構が挿入された状態で配置される。プランジャロッドの冷却水供給口から流入する冷却水は、略円筒形状の冷却機構の内部に形成された冷却水供給流路に供給される。冷却水供給流路によって本体部の内周面と冷却機構の外周面との間の空間に導かれた冷却水は、冷却機構の外周面から冷却水排出流路を経由してプランジャロッドの冷却水排出口へ排出される。
【0010】
冷却水供給流路に供給された冷却水は、第1流路によってプランジャロッドの軸線方向に導かれて凹所の底面中央部に向けて流出する。凹所の底面中央部に向けて流出した冷却水により凹所の底面中央部が冷却されるため、金属の溶湯と接するプランジャチップの先端面中央部が冷却される。
【0011】
また、冷却水供給流路に供給された冷却水は、第2流路によって軸線方向から傾斜した方向に導かれて凹所の底面端部に向けて流出する。凹所の底面端部に向けて流出した冷却水により凹所の底面端部が冷却されるため、金属の溶湯と接するプランジャチップの先端面端部が冷却される。
【0012】
このように本発明の一態様に係るプランジャチップによれば、プランジャロッドから導かれる冷却水が、冷却機構の内部に形成された冷却水供給流路によって、凹所の底面中央部と凹所の底面端部とのそれぞれに向けて個別に導かれる。そのため、金属の溶湯と接するプランジャチップの先端面中央部とその周囲の先端面端部とが、それぞれ効果的に冷却される。プランジャチップの先端面端部が効果的に冷却されるため、それにともなって先端面端部に近接するプランジャチップの外周面も効果的に冷却される。
したがって、プランジャチップの先端面近傍の外周面を十分に冷却し、プランジャチップの先端面近傍の外周面とプランジャスリーブの内周面とが接触して摩耗が生じることを抑制することができる。
【0013】
本発明の一態様に係るプランジャチップにおいて、前記冷却水供給流路は、前記凹所の底面中央部の複数の位置に向けて冷却水を流出させる複数の前記第1流路と、前記冷却水供給口から流入する冷却水を複数の前記第1流路に分配する分配流路とを有する構成であってもよい。
本構成によれば、複数の第1流路によって凹所の底面中央部の複数の位置に向けて冷却水がそれぞれ流出するため、凹所の底面中央部の複数の位置をそれぞれ効果的に冷却することができる。
【0014】
上記構成のプランジャチップにおいて、前記冷却水供給流路は、前記凹所の底面端部の複数の位置に向けて冷却水を流出させる複数の前記第2流路を有し、前記第2流路は、前記分配流路から前記第1流路に導かれた冷却水の一部を分岐して前記冷却機構の外周面から前記底面端部に向けて冷却水を流出させるようにしてもよい。
このようにすることで、プランジャロッドの軸線方向に沿って冷却機構に複数の第1流路を形成し、冷却機構の外周面から第1流路に通じる第2流路を形成するという比較的簡易な工程により冷却水供給流路を形成し、凹所の底面中央部と凹所の底面端部とのそれぞれに向けて冷却水を流出させることができる。
【0015】
上記構成のプランジャチップにおいて、前記冷却水供給流路は、前記凹所の底面端部の複数の位置に向けて冷却水を流出させる複数の前記第2流路を有し、前記第2流路は、前記冷却機構の外周面から流出する冷却水の流出方向が前記プランジャロッドの軸線を中心とした周方向の成分を有するように前記冷却水を流出させるものであってもよい。
このようにすることで、第2流路から流出する冷却水をプランジャロッドの軸線を中心とした周方向に旋回させて、プランジャチップの先端面の冷却効果を高めることができる。
【0016】
本発明の一態様に係るプランジャチップにおいて、前記凹所は、前記軸線方向に直交する径方向の断面積が前記軸線方向に沿って前記底面から遠ざかるにつれて漸次減少する形状と
なっている。
このようにすることで、凹所の底面の面積を十分に確保してプランジャチップの先端面の冷却効果を高めつつ、底面から遠ざかった位置のプランジャチップの肉厚を十分に確保してプランジャチップの耐座屈性能を高めることができる。
【0017】
本発明の一態様に係るプランジャチップにおいて、前記凹所の前記底面と対向する位置に配置される前記冷却機構の先端面に、前記凹所の前記底面中央部に向けて流出した冷却水を前記底面端部へ導く第3流路が形成され、前記第3流路の底面と前記凹所の底面との間の前記軸線方向の距離は、前記底面中央部から前記底面端部へ向けて漸次短くなるようにしてもよい。
このようにすることで、第1流路から底面中央部に向けて流出した冷却水が、底面中央部から底面端部に向けて流路断面積が漸次小さくなる第3流路を経由して底面端部へ導かれる。第3流路を通過する冷却水は、流路断面積の減少に伴って漸次流速が増加するため、流速が増加した状態で底面端部に排出される。したがって、プランジャチップの先端面端部の冷却効果を高めることができる。
【0018】
本発明の一態様に係る冷却機構は、冷却水供給口と冷却水排出口とを有するプランジャロッドの先端部に取り付けられる略円筒形状の冷却機構であって、前記プランジャロッドと同軸に配置されるとともに略円筒形状の本体部に形成された凹所に挿入された状態で配置され、前記冷却水供給口に接続される冷却水供給流路と、前記冷却水供給口に接続される冷却水供給流路と前記冷却水排出口に接続される冷却水排出流路とが内部に形成されており、前記冷却水供給流路は、前記プランジャロッドの軸線方向に沿って前記冷却水供給口から流入する冷却水を前記軸線方向に導いて前記凹所の底面中央部に向けて流出させる第1流路と、前記軸線方向に沿って前記冷却水供給口から流入する冷却水を前記軸線方向から傾斜した方向に導いて前記凹所の底面端部に向けて流出させる第2流路とを有し、前記冷却水排出流路は、前記冷却水供給流路によって前記本体部の内周面と前記冷却機構の外周面との間の空間に導かれた冷却水を、前記外周面から前記冷却機構の内部に導いて前記冷却水排出口へ排出する。
【0019】
本発明の一態様に係る冷却機構は、本体部に形成された凹所に挿入された状態で配置される。プランジャロッドの冷却水供給口から流入する冷却水は、略円筒形状の冷却機構の内部に形成された冷却水供給流路に供給される。冷却水供給流路によって本体部の内周面と冷却機構の外周面との間の空間に導かれた冷却水は、冷却機構の外周面から冷却水排出流路を経由してプランジャロッドの冷却水排出口へ排出される。
【0020】
冷却水供給流路に供給された冷却水は、第1流路によってプランジャロッドの軸線方向に導かれて凹所の底面中央部に向けて流出する。凹所の底面中央部に向けて流出した冷却水により凹所の底面中央部が冷却されるため、金属の溶湯と接するプランジャチップの先端面中央部が冷却される。
【0021】
また、冷却水供給流路に供給された冷却水は、第2流路によって軸線方向から傾斜した方向に導かれて凹所の底面端部に向けて流出する。凹所の底面端部に向けて流出した冷却水により凹所の底面端部が冷却されるため、金属の溶湯と接するプランジャチップの先端面端部が冷却される。
【0022】
このように本発明の一態様に係る冷却機構によれば、プランジャロッドから導かれる冷却水が、内部に形成された冷却水供給流路によって、凹所の底面中央部と凹所の底面端部とのそれぞれに向けて個別に導かれる。そのため、金属の溶湯と接するプランジャチップの先端面中央部とその周囲の先端面端部とが、それぞれ効果的に冷却される。プランジャチップの先端面端部が効果的に冷却されるため、それにともなって先端面端部に近接するプランジャチップの外周面も効果的に冷却される。
したがって、プランジャチップの先端面近傍の外周面を十分に冷却し、プランジャチップの先端面近傍の外周面とプランジャスリーブの内周面とが接触して摩耗が生じることを抑制することができる。
【0023】
本発明の一態様に係る射出装置は、金属の溶湯を貯留する略円筒形状のプランジャスリーブと、前記プランジャスリーブ内に摺動可能に装着される上記に記載のプランジャチップと、前記プランジャチップを前記プランジャスリーブ内で摺動させるプランジャロッドと、を備える。
本態様の射出装置によれば、プランジャチップの先端面近傍の外周面を十分に冷却し、プランジャチップの先端面近傍の外周面とプランジャスリーブの内周面とが接触して摩耗が生じることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、プランジャチップの先端面近傍の外周面を十分に冷却し、プランジャチップの先端面近傍の外周面とプランジャスリーブの内周面とが接触して摩耗が生じることを抑制したプランジャチップ、冷却機構、および射出装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係る射出装置を備えるダイカスト鋳造装置について、図面を参照して説明する。
図1に示す本実施形態のダイカスト鋳造装置100は、アルミニウム、亜鉛、またはマグネシウムの鋳造を行うための装置である。
【0027】
図1に示すように、ダイカスト鋳造装置100は、射出装置1と、固定金型2と、可動金型3と、固定プラテン4と、可動プラテン5と、固定金型キャビティ6と、可動金型キャビティ7と、押出し板16と、押出しピン16aと、チルベント20とを備える。可動金型キャビティ7の一部として、金型分流子17が備わっている。
【0028】
射出装置1は、プランジャロッド11と、プランジャスリーブ12と、プランジャチップ13と、湯口スリーブ14と、射出シリンダ15とを備える。
プランジャロッド11は、軸状部材であり一端部がプランジャチップ13に連結され、他端部が射出シリンダに連結されている。
【0029】
プランジャスリーブ12は、固定プラテン4に固定された略円筒形状の部材である。プランジャスリーブ12の中心軸である軸線X方向の中央部分には、溶湯の流路となる中空部12fが設けられている。
プランジャスリーブ12には、内部に形成される冷却溝12b(
図6参照)に冷却水を供給するための冷却水供給配管22と、冷却溝12dに供給された冷却水を排出するための冷却水戻り配管23とが接続されている。
【0030】
冷却溝12bと冷却溝12dとは、それぞれプランジャスリーブ12の外周面に軸線X回りに形成された環状溝と、環状溝を取り囲むように配置される円筒状部材12eの内周面とによって形成される空間である。
冷却溝12bと冷却溝12dとは、それぞれ独立した空間であるが、連通流路12cによって軸線X方向に連通している。そのため、冷却水供給配管22から冷却溝12bに供給された冷却水は、連通流路12cを介して冷却溝12dへ流入し、冷却水戻り配管23に排出される。冷却溝12bおよび冷却溝12dを流通する冷却水により、湯口スリーブ14に隣接するプランジャスリーブ12の内周面12aが冷却される。
【0031】
プランジャチップ13は、プランジャスリーブ12の内径と略同径の外径の外周面を備える略円筒形状の部材である。プランジャチップ13は、
図1に2点鎖線で示す位置からプランジャスリーブ12の内周面12aに沿って進退可能となっている。
【0032】
湯口スリーブ14と対向する位置に金型分流子17が配置されている。可動金型3が固定金型2に近接した
図1に示す状態において、湯口スリーブ14と金型分流子17との間には、湯口ランナー9が形成される。
図1に示すプランジャチップ13の位置は、プランジャチップ13を金型分流子17に最も近接させた位置である。プランジャチップ13が
図1に示す位置に配置される場合、プランジャチップ13の先端面と金型分流子17の先端面との間のビスケット10が形成される空間に金属の溶湯が充填された状態となる。
【0033】
射出装置1には、プランジャスリーブ12の上方に設けられた溶湯供給口21からプランジャスリーブ12の中空部12fへ、高温の溶湯が供給されるようになっている。射出装置1は、射出シリンダ15の油圧によってプランジャチップ13を
図1の2点鎖線で示す位置から金型分流子17に向けて押し出すことにより、金属の溶湯をキャビティ8に向けて射出する。
【0034】
図6に示すように射出装置1が金属の溶湯を射出する前の状態において、プランジャスリーブ12の中空部12fには、中空部12fの直径(軸線Xに直交する方向の幅)の半分未満となる位置まで溶湯供給口から溶湯が供給される。射出装置1は、
図6に示す状態から金型分流子17に向けてプランジャチップ13を一定の第1速度(例えば、0.3m/s)にて押し出す。
【0035】
図7に示すように第1速度でプランジャチップ13を押し出すにつれて溶湯の湯面の高さが上昇する。射出装置1は、
図7に示す状態からプランジャチップ13を更に押し出した時点で押出速度を第1速度から第2速度(例えば、2〜3m/s)に増速し、一定の第2速度で
図8に示す状態までプランジャチップ13を押し出す。射出装置1がプランジャチップ13の押出速度を増速しているのは、溶湯を高圧で射出してキャビティ8内に確実に溶湯を充填するためである。
【0036】
固定金型2は、固定プラテン4に固定された部材である。固定金型2に形成された凹所2aには、内部に溶湯が導かれる固定金型キャビティ6が収容されている。
可動金型3は、可動プラテン5に固定された部材である。可動金型3に形成された凹所3aには、可動金型キャビティ7が収容されている。可動金型3は、可動プラテン5に連結される油圧シリンダ等の駆動機構(図示略)によって、
図1に示す固定金型2に近接した位置と、固定金型2から離間した位置(図示略)とを切り替える。
【0037】
可動金型3と固定金型2とが近接した状態(
図1参照)で、可動金型3と固定金型2との間にキャビティ8が形成される。この状態でキャビティ8に溶湯を導いて一定時間(例えば、2〜30秒)冷却することにより、キャビティ8の形状に対応する製品が鋳造される。
【0038】
可動金型キャビティ7の一部に設けられる金型分流子17には、内部に形成される冷却穴(図示略)に冷却水を供給するための冷却水供給配管18と、冷却穴に供給された冷却水を排出するための冷却水戻り配管19とが接続されている。金型分流子17の内部を冷却することにより、ビスケット10が形成される空間と湯口ランナー9を通過あるいはそれらに滞留する溶湯が冷却される。
【0039】
押出し板16は、可動金型3の内部に配置されるとともに複数の押出しピン16aが連結される板状部材である。押出し板16は、可動金型3が固定金型2から離間した状態で押出機構(図示略)によって鋳造された製品が固定金型2に近付く方向に押し出される。これにより、押出しピン16の先端がキャビティ8によって形成された製品が押し出し、製品が可動金型キャビティ7から取り外される。
【0040】
チルベント20は、キャビティ8へ溶湯が導かれることによって押し出されるガスをダイカスト鋳造装置100の外部へ放出するガス抜きをするために使用される金属部材である。チルベント20は、固定金型2に固定される固定チルベント20aと、可動金型3に固定される可動チルベント20bとを備える。固定チルベント20aには吸引ポート20cが設けられている。
【0041】
吸引ポート20cにはポンプ(図示略)が接続されている。ポンプによって吸引を行うことにより、固定チルベント20aと可動チルベント20bとの間に形成される間隙を介して、キャビティ8内のガスを吸引してポンプへ導く。
【0042】
次に、本実施形態のプランジャチップ13の構造について、
図2〜
図5を参照して説明する。
図2,
図3に示すように、プランジャチップ13は、冷却水供給口11aと冷却水排出口11bとを有するプランジャロッド11の先端部11eに取り付けられる部材である。プランジャチップ13は、プランジャチップ本体13a(本体部)と、冷却ホルダ13b(冷却機構)とを備える。
【0043】
冷却水供給口11aは、プランジャロッド11の中心軸である軸線Xの位置に配置される冷却水パイプ11cの内周面により形成される流路である。冷却水排出口11bは、冷却水パイプ11cの外周面とプランジャロッド11の内周面との間に形成される流路である。
図2に示すように、冷却水パイプ11cの先端部は、プランジャロッド11の先端部11eから突出し、冷却ホルダ13bの内部に挿入された状態で配置される。
【0044】
プランジャチップ本体13aは、プランジャロッド11の軸線Xと同軸に配置されるとともに軸線X方向に延びる凹所13cが内部に形成された略円筒形状の部材である。
図2に示すように、プランジャチップ本体13aのプランジャロッド11側の端部の内周面には雌ねじ部が形成されており、プランジャロッド11の先端部11eの外周面に形成された雄ねじ部11fに締結されている。
【0045】
凹所13cのビスケット10と最も近接する底面は、軸線X近傍の底面中央部13dと、その周囲に位置する底面端部13eとによって構成されている。
図3に示すように、凹所13cは、軸線Xに直交する軸線Y方向(径方向)の断面積が軸線X方向に沿って凹所13cの底面(13d,13e)から遠ざかるにつれて漸次減少する断面視略三角形状となっている。
【0046】
冷却ホルダ13bは、プランジャロッド11の軸線Xと同軸かつ凹所13cに挿入された状態で配置される略円筒形状の部材である。
図2に示すように、冷却ホルダ13bのプランジャロッド11側の端部の外周面には雌ねじ部が形成されており、プランジャロッド11の先端部11eの内周面に形成された雌ねじ部11gに締結されている。
【0047】
冷却ホルダ13bの内部には、冷却水供給口11aに接続される冷却水供給流路30と冷却水排出口11bに接続される冷却水排出流路40とが形成されている。
冷却水供給流路30は、複数の第1流路31と、複数の第2流路32と、分配流路34とを有する。
【0048】
分配流路34は、冷却水供給口11aから流入する冷却水を複数の第1流路31のそれぞれに分配する流路である。分配流路34は、
図5に破線で示すように、軸線Xに直交する径方向に延びる流路であり、軸線Xを中心に8方向に延びる放射状の流路である。分配流路34は、全ての第1流路31の一端部と連通している。
【0049】
第1流路31は、軸線X方向に沿って冷却水供給口11aから分配流路34に流入する冷却水を軸線X方向に導いて凹所13cの底面中央部13dの複数の位置に向けて冷却水を流出させる流路である。
第2流路32は、第1流路31により軸線X方向に導かれる冷却水を軸線X方向から傾斜した方向に導いて凹所13cの底面端部13eの複数の位置に向けて流出させる流路である。
図3に示すように、第2流路32が延びる方向は、軸線Xに直交する軸線Yに対して傾斜角θだけプランジャチップ13の外周面13fに向けて傾斜している。
【0050】
第2流路32は、
図5に示す12箇所の第1流路31のうち、軸線Xを中心とした径方向の外周側に位置する第1流路31に連通している。第2流路32は、分配流路34から外周側に位置する第1流路31に導かれた冷却水の一部を分岐して冷却ホルダ13bの外周面から凹所13cの底面端部13eに向けて冷却水を流出させる。
図5に示すように、複数の第2流路32は、軸線Xを中心とした放射状の8方向のそれぞれに向けて冷却水を流出させる。
【0051】
図3に示すように、冷却水供給口11aの中心軸である軸線Xと、第1流路31の中心軸とは一致していない。そのため、冷却水供給口11aから軸線Xに沿って分配流路34に流入する冷却水の一部(軸線Xの近傍を流通する冷却水)は、分配流路34を形成する壁部に衝突する。分配流路34の壁部に衝突した冷却水は、軸線Xに直交する径方向に拡散する。そのため、複数の第1流路31のうち、軸線Xに近接した第1流路31を流通する冷却水が増加し、その他の第1流路31を流通する冷却水が減少する不具合が抑制される。軸線Xから遠い位置に配置される第1流路31を流通する冷却水の流量が一定程度確保されるため、第2流路32を流通する冷却水の流量も一定程度確保されることとなる。
【0052】
冷却水排出流路40は、冷却水供給流路30によってプランジャチップ本体13aの内周面と冷却ホルダ13bの外周面との間の空間(凹所13c)に導かれた冷却水を、冷却ホルダ13bの内部に導いて冷却水排出口11bへ排出する流路である。
図3に示すように、冷却水排出流路40は入口部40aを有しており、軸線X回りの4箇所に設けられた入口部40aから、冷却水を冷却ホルダ13bの内部へ導く。
【0053】
凹所13cの底面中央部13dと対向する位置に配置される冷却ホルダ13bの先端面には、底面中央部13dに向けて流出した冷却水を底面端部13eへ導く第3流路33が形成されている。
図4に示すように、第3流路33は、軸線Xを中心に第1流路31を通過するように径方向に延びる放射状の溝により形成される流路である。
【0054】
図2に示すように、第3流路33の底面(溝の底部)と凹所13cの底面中央部13dとの間の軸線X方向の距離は、軸線Xに一致する底面中央部13dにおいてW1である。一方、第3流路33の端部における第3流路33の底面と凹所13cの底面中央部13dとの間の軸線X方向の距離はW2である。
図3に示すように、第3流路33の底面と底面中央部13dとの間の軸線X方向の距離は、底面中央部13dの軸線Xに一致する位置から底面端部13eに向けて漸次短くなっている。
【0055】
次に、冷却水供給口11aから冷却ホルダ13bに供給される冷却水が、冷却水排出口11bから排出されるまでの冷却水の流れについて
図2を参照して説明する。
図2に示す矢印は、プランジャロッド11およびプランジャチップ13の内部を流通する冷却水の流通方向を示している。
【0056】
冷却水は、冷却水パイプ11c内部の冷却水供給口11aをプランジャロッド11側からプランジャチップ13側に向けて流通し、冷却ホルダ13bの冷却水供給流路30の分配流路34に流入する。
図5に示すように、分配流路34は軸線Xを中心に径方向に放射状に延びる流路であり、12箇所の第1流路31と連通している。そのため、分配流路34に流入した冷却水は、12箇所の第1流路31へ導かれる。
【0057】
図3に示すように、第1流路31は軸線X方向に延びている。そのため、第1流路31に導かれた冷却水は、第1流路31内を軸線X方向に流通し、冷却ホルダ13bの先端面から凹所13cの底面中央部13dに向けて排出される。底面中央部13dに向けて排出された冷却水は、第3流路33に沿って底面中央部13dから底面端部13eに向けて放射状に流通し、底面端部13eに到達する。
【0058】
ここで、第3流路33の底面と底面中央部13dとの間の軸線X方向の距離は、底面中央部13dの軸線Xに一致する位置から底面端部13eに向けて漸次短くなっている。そのため、冷却水は、底面中央部13dから底面端部13eに近付くにつれて漸次その流速が増加する。
【0059】
図5に示すように、12箇所の第1流路31へ導かれた冷却水のうち、軸線Xに対して外周側に配置される8箇所の第1流路31は、それらに連通した8箇所の第2流路32へと分岐する。
図3に示すように、第2流路32が延びる方向は、軸線Xに直交する軸線Yに対して傾斜角θだけプランジャチップ13の外周面13fに向けて傾斜している。そのため、第2流路32へ分岐した冷却水は、底面端部13eに向けて流出する。
【0060】
図2に示すように、第1流路31から底面中央部13dへ向けて流出した冷却水と、第2流路32から底面端部13eへ向けて流出した冷却水は、底面端部13eで合流し、プランジャチップ本体13aの内周面に沿って冷却ホルダ13bの入口部40aへ向けて流通する。
底面端部13eでは、第1流路31から凹所13cに流入した冷却水が流速を増加して流通するとともに、第2流路32から流出した冷却水が流通する。そのため、底面端部13eが冷却水によって効果的に冷却される。
【0061】
底面端部13eはプランジャチップ13の先端面13gに近接したプランジャチップ13の外周面13fと近接している。そのため、底面端部13eが冷却水によって効果的に冷却されると、それに伴って外周面13fが効果的に冷却される。外周面13fは、ビスケット10を形成する溶湯に近接しているため、溶湯を冷却する際に溶湯の熱によって軸線Xに直交する径方向に熱膨張し易い。
本実施形態では、外周面13fが効果的に冷却されるため、外周面13fが径方向に拡大することを抑制することができる。これにより、外周面13fがプランジャスリーブ12の内周面12aに接触して摩耗が生じることが抑制される。
【0062】
入口部40aに到達した冷却水は、冷却ホルダ13bの内部に形成された冷却水排出流路40に流入する。冷却水排出流路40に流入した冷却水は、プランジャチップ13側からプランジャロッド11側に向けて流通し、冷却水排出口11bから排出される。
【0063】
以上説明した本実施形態に係る射出装置1が奏する作用および効果について説明する。
本実施形態の射出装置1が備えるプランジャチップ13は、略円筒形状のプランジャチップ本体13a(本体部)と略円筒形状の冷却ホルダ13b(冷却機構)とを備える。プランジャチップ13は、プランジャチップ本体13aに形成された凹所13cに冷却ホルダ13bが挿入された状態で配置される。プランジャロッド11の冷却水供給口11aから流入する冷却水は、略円筒形状の冷却ホルダ13bの内部に形成された冷却水供給流路30に供給される。冷却水供給流路30によってプランジャチップ本体13aの内周面と冷却ホルダ13bの外周面との間の空間に導かれた冷却水は、冷却ホルダ13bの外周面から冷却水排出流路40を経由してプランジャロッド11の冷却水排出口11bへ排出される。
【0064】
冷却水供給流路30に供給された冷却水は、第1流路31によってプランジャロッド11の軸線X方向に導かれて凹所13cの底面中央部13dに向けて流出する。凹所13cの底面中央部13dに向けて流出した冷却水により凹所13cの底面中央部13dが冷却されるため、金属の溶湯と接するプランジャチップ13の先端面13g中央部が冷却される。
【0065】
また、冷却水供給流路30に供給された冷却水は、第2流路32によって軸線X方向から傾斜した方向に導かれて凹所13cの底面端部13eに向けて流出する。凹所13cの底面端部13eに向けて流出した冷却水により凹所13cの底面端部13eが冷却されるため、金属の溶湯と接するプランジャチップ13の先端面13g端部が冷却される。
【0066】
このように本実施形態のプランジャチップ13によれば、プランジャロッド11から導かれる冷却水が、冷却ホルダ13bの内部に形成された冷却水供給流路30によって、凹所13cの底面中央部13dと凹所13cの底面端部13eとのそれぞれに向けて個別に導かれる。そのため、金属の溶湯と接するプランジャチップ13の先端面13g中央部とその周囲の先端面13端部とが、それぞれ効果的に冷却される。プランジャチップの先端面13g端部が効果的に冷却されるため、それにともなって先端面13g端部に近接するプランジャチップ13の外周面13fも効果的に冷却される。
したがって、プランジャチップ13の先端面13g近傍の外周面13fを十分に冷却し、プランジャチップ13の先端面13g近傍の外周面13fとプランジャスリーブ12の内周面12aとが接触して摩耗が生じることを抑制することができる。
【0067】
本実施形態のプランジャチップ13において、冷却水供給流路30は、凹所13cの底面中央部13dの複数の位置に向けて冷却水を流出させる複数の第1流路31と、冷却水供給口11aから流入する冷却水を複数の第1流路31に分配する分配流路34とを有する。複数の第1流路31によって凹所13cの底面中央部13dの複数の位置に向けて冷却水がそれぞれ流出するため、凹所13cの底面中央部13dの複数の位置をそれぞれ効果的に冷却することができる。
【0068】
本実施形態のプランジャチップ13において、冷却水供給流路30は、凹所13cの底面端部13eの複数の位置に向けて冷却水を流出させる複数の第2流路32を有する。第2流路32は、分配流路34から第1流路31に導かれた冷却水の一部を分岐して冷却ホルダ13bの外周面から底面端部13eに向けて冷却水を流出させる。
このようにすることで、プランジャロッド11の軸線X方向に沿って冷却ホルダ13bに複数の第1流路1を形成し、冷却ホルダ13bの外周面から第1流路31に通じる第2流路32を形成するという比較的簡易な工程により冷却水供給流路30を形成し、凹所13cの底面中央部13dと凹所13cの底面端部13eとのそれぞれに向けて冷却水を流出させることができる。
【0069】
本実施形態のプランジャチップ13において、凹所13cは、軸線X方向に直交する径方向の断面積が軸線X方向に沿って底面(13d,13e)から遠ざかるにつれて漸次減少する形状である。
このようにすることで、凹所13cの底面(13d,13e)の面積を十分に確保してプランジャチップ13の先端面13gの冷却効果を高めつつ、底面(13d,13e)から遠ざかった位置のプランジャチップ13の肉厚を十分に確保してプランジャチップ13の耐座屈性能を高めることができる。
【0070】
本実施形態のプランジャチップ13において、凹所13cの底面中央部13dと対向する位置に配置される冷却ホルダ13bの先端面に、凹所13cの底面中央部13dに向けて流出した冷却水を底面端部13eへ導く第3流路33が形成されている。第3流路33の底面と凹所13cの底面中央部13dとの間の軸線X方向の距離は、底面中央部13dから底面端部13eへ向けて漸次短くなっている。
このようにすることで、第1流路31から底面中央部13dに向けて流出した冷却水が、底面中央部13dから底面端部13eに向けて流路断面積が漸次小さくなる第3流路33を経由して底面端部13eへ導かれる。第3流路33を通過する冷却水は、流路断面積の減少に伴って漸次流速が増加するため、流速が増加した状態で底面端部13eに排出される。したがって、プランジャチップ13の先端面13g端部の冷却効果を高めることができる。
【0071】
〔他の実施形態〕
以上の説明において、第2流路32は、軸線Xを中心とした放射状の8方向のそれぞれに向けて冷却水を流出させるものであったが、他の態様であってもよい。例えば、
図9の第2流路32’のように、冷却ホルダ13bの外周面から流出する冷却水の流出方向がプランジャロッド11の軸線Xを中心とした周方向の成分を有するように冷却水を流出させるようにしてもよい。
このようにすることで、第2流路32’から流出する冷却水をプランジャロッド11の軸線Xを中心とした周方向に旋回させて、プランジャチップ13の先端面の冷却効果を高めることができる。