【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、Al−Si系ろう材に、600℃における蒸気圧が10Torr以上の元素を適正に添加することで、ろう付時この元素が蒸発し、ろう付阻害要因となる材料表面酸化膜の分断作用を高めることを見出した。また、該元素が蒸発して接合部近傍の気相中に含まれる微量の酸素と反応することで酸素濃度をさらに下げてより良好なろう付け性が得られることも見いだした。
【0008】
すなわち、本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法のうち第1の本発明は、Al−Si系ろう材が芯材にクラッドされて最表面に位置するアルミニウムクラッド材を用いるろう付方法であって、前記Al−Si系ろう材が、質量%で、Mgを0.2〜5.0%、Siを3〜13%含有し、さらに600℃における蒸気圧が10Torr以上の元素を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、
600℃における蒸気圧が10Torr以上の元素として、質量%で0.01〜0.05%のCsを含有し、減圧を伴わない非酸化性雰囲気中で、前記Al−Si系ろう材とろう付対象部材とを接触させ、加熱温度559〜620℃において、前記Al−Si系ろう材によりフラックスレスで接触部において前記芯材と前記ろう付対象部材とを接合することを特徴とする。
【0009】
本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法のうち第2の本発明はは、
Al−Si系ろう材が芯材にクラッドされて最表面に位置するアルミニウムクラッド材を用いるろう付方法であって、前記Al−Si系ろう材が、質量%で、Mgを0.2〜5.0%、Siを3〜13%含有し、さらに600℃における蒸気圧が10Torr以上の元素を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、600℃における蒸気圧が10Torr以上の元素として、質量%で0.01〜0.3%のPおよび0.01〜0.3%のSから選択される1種または2種の元素を含有し、減圧を伴わない非酸化性雰囲気中で、前記Al−Si系ろう材とろう付対象部材とを接触させ、加熱温度559〜620℃において、前記Al−Si系ろう材によりフラックスレスで接触部において前記芯材と前記ろう付対象部材とを接合することを特徴とするアルミニウム材のフラックスレスろう付方法。
【0010】
第3の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、第
1の本発明において、前記Al−Si系ろう材が、600℃における蒸気圧が10Torr以上の前記元素として、質量%で0.01〜0.3%のPおよび0.01〜0.3%のSから選択される1種または2種の元素を含有することを特徴とする。
【0011】
第4の本発明のアルミニウム材のフラックスレスろう付方法は、第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記Al−Si系ろう材が、600℃における蒸気圧が10Torr以上の前記元素として、質量%で0.01〜0.3%のK、0.01〜0.3%のNa、0.01〜0.05%のRbおよび0.01〜1%のSeから選択される1種または2種以上の元素を含有することを特徴とする。
【0014】
以下、本発明に規定する条件について説明する。なお、以下における各成分の含有量はいずれも質量%で示されている。
【0015】
(ろう材)
【0016】
Si:3〜13%
Siの含有量は、一般的にろう材として用いられる3〜13%とする。さらに下限は6%、上限は12%が好適である。6%未満ではろう付け時の液相量が不足する傾向にあり、12%を越えると、Al−Si系合金の過共晶Si領域となり、アルミニウム板製造時の加工性が悪くなる傾向にある。
【0017】
Mg:0.2〜5.0%
Mgは、0.2%未満では本発明の効果であるろう付け時接合面の再酸化防止効果が得られず、5%を越えると効果が飽和し、かつ、アルミニウム材料の加工性に難を生じる。Mg含有量を最適化してAl−Si−Mg系ろう材の固相線温度の低下効果を利用すれば、優れたろう付性を発揮できる。この場合のMgの最適含有量は、Si含有量により変動するが、例えばSi含有量が6〜12%の場合は、Mg含有量は0.75〜1.5%が好ましい。この範囲であれば、ろうの融点低下が十分に得られ、Mgによるゲッター作用との相乗効果により、より良好なろう付性を得ることが可能となる。具体的には、Al−Si−Mg合金で最も低い固相線温度の559℃以上でろう付けができるようになる。
【0018】
(600℃における蒸気圧が10Torr以上の元素)
ろう材には600℃における蒸気圧が10Torr以上の元素を少なくとも1種含有する。このような元素はろう付け温度である559〜620℃の範囲においてMgと同等以上の蒸気圧を持つことから、ろう付け時にMgよりも早い段階から材料の酸化膜破壊作用、再酸化防止作用が得られる。
なお、このような元素を添加することで、ろう付阻害要因となる、材料添加Mgの材料表面における酸化を抑制し、Mgに期待する役割である酸化膜破壊作用を高めることができる。
該元素のうち、上記の酸化膜破壊および再酸化防止効果が最も高いのはCsである。K、Na、Rb、Se、P、Sにも同様の効果が期待できるが、添加量はCsに比較して多いため、使用するろう付け品に求められるコスト等を考慮して適宜選択する。
また、P、Sは気相中でも雰囲気中の酸素を消費し、材料酸化膜の成長を抑制する効果がある。なお、上記の酸素とは非酸化雰囲気中に微量に含まれる酸素を指す。
これら元素の含有量以下に説明する。
【0019】
Cs:0.01〜0.05%
Csはろう付時にMgと同等以上の蒸気圧をもつことから、ろう付時にMgよりも早い段階から材料の酸化膜破壊作用、再酸化防止作用を得るために選択により含有させる。Csの含有量が0.01%未満であると材料の酸化膜破壊作用と再酸化防止作用が低下し、安定的な接合状態が得られない。一方0.05%超えでは材料製造面において、合金化不良、コスト高等を生じ、製造上実用性が損なわれる。そのため、Csの含有量は0.01〜0.05%とする。なお、同様の理由で下限を0.02%、上限を0.04%とするのがより好ましい。
【0020】
P、S:0.01〜0.3%
P、Sはろう付時に大気圧より大きな蒸気圧をもち、材料の酸化膜破壊作用、再酸化防止作用に加えて、気相中でも雰囲気中の酸素を消費し、材料酸化膜の成長を抑制する効果があるため選択により含有させる。P、Sが各々0.01未満では、材料酸化膜破壊作用と再酸化防止作用が低下し、安定的な接合状態が得られない。一方、各々0.3%超えでは材料製造面において、合金化不良、コストUP等を生じ、製造上実用性が損なわれる。そのため、P、Sは上記範囲で含有させる。なお、同様の理由で下限を0.1%、上限を0.2%とするのがより好ましい。
【0021】
K、Na:0.01〜0.3%
Rb :0.01〜0.05%
Se :0.01〜1%
K、Na、RbおよびSeはろう付時にMgと同等以上の蒸気圧をもつことから、ろう付時にMgよりも早い段階から材料の酸化膜破壊作用、再酸化防止作用を得るために選択により含有させる。K、Na、Rb、Seが各々0.01%未満では材料の酸化膜破壊作用と再酸化防止作用が低下し、安定的な接合状態が得られない。一方、K、Naが0.3%超、Rbが0.05%超、Seが1%超では合金化不良、コストアップ等を生じ、材料の製造上実用性が損なわれる。そのため、K、Na、RbおよびSeは上記範囲とする。なお、同様の理由でK、Naの下限を0.1%、上限を0.2%、Rbの下限を0.02%、上限を0.04%、Seの下限を0.3%、上限を0.6%とするのがそれぞれより好ましい。
【0022】
以上のように、600℃における蒸気圧が10Torr以上の元素として上記各元素を説明したが、本発明としてはこれら元素に限定されるものではない。ただし、上記元素は製造面での取り扱い易さ、コスト面から適宜選択されたものであり、ここに挙げていない放射性物質や特段の毒性を示す元素よりも実用面において優位である。
【0023】
(被ろう付け材の表面粗さ)
本発明によって、接合形態を限定せず様々な被ろう付け材でのフラックスレスろう付が可能となる。熱交換器内の各接合部間などで接合状態のばらつきを少なくするには、接合部の表面粗さを低減することが有効である。表面粗さが低減することで、接合対象材料間の接触面での密着度が増して外部からの酸素供給がされにくくなり、ろう付け昇温過程での材料の酸化抑制力が高まる。ここで言う酸素供給とは、大気雰囲気中での酸素を意味するのではなく、非酸化性雰囲気中に僅かに含まれる酸素によるものを示す。本理由により、前記アルミニウムクラッド材、及び、前記被ろう付け材においては、少なくとも接合部接触部の表面粗さが、0.3μm以下であることがより好ましい。
【0024】
(芯材)
本発明に用いるAl−Si系ろう材がクラッドされているアルミニウムクラッド材の芯材組成は、接合を得るにあたって特に限定されるものではないが、フラックスレスろう付けを実現したことにより、高強度化を狙ったMg添加が積極的に行える。
【0025】
芯材成分として、質量%で、Si:0.1〜1.2%、Mg:0.01〜2.0%を含有し、残部Alと不可避不純物からなるものが示される。
また、芯材成分として、質量%で、Mn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Si:0.1〜1.2%、Fe:0.1〜1.0%を含有し、残部Alと不可避不純物とからなるものが示される。
また、芯材成分として、質量%で、Si:0.1〜1.2%、Mg:0.01〜2.0%を含有し、さらにMn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物とからなるものが示される。
また、芯材成分として、質量%で、Si:0.1〜1.2%、Mg:0.01〜2.0%を含有し、さらにMn:0.2〜2.5%、Cu:0.05〜1.0%、Fe:0.1〜1.0%の内1種または2種以上を含有し、さらにZr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.3%、Cr:0.01〜0.5%の内1種または2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物とからなるものが示される。各元素の限定理由は以下のとおりである。
【0026】
Si:0.1〜1.2%
Si単体でマトリックスに固溶して材料強度を向上させる他、本発明においては、Mgの積極添加との相乗効果によって得られるMg
2Siの析出により、材料強度を向上させる。このMg
2Si析出による硬化は、ろう付け熱処理後の時効析出により、飛躍的な材料強度向上に寄与する。従来のA3003合金等をベースとした合金設計においては、Al−Mn−Si化合物として分散して、材料強度を向上させる。下限未満では効果が不十分であり、上限を越えると、融点が低下し、芯材が溶融するので、上記範囲が望ましい。なお、Si含有量の一層好ましい範囲は0.3〜1.0%である。Mn等の含有によりSiの積極的な含有を要しない場合、0.1%未満のSiを不純物として含有することは許容される。
【0027】
Mg:0.01〜2.0%
Mgは、Siと同時に添加されることでろう付後に微細な金属間化合物Mg
2Siとして析出し、時効硬化により著しく強度が向上する効果を有する。また、ろう付加熱中にろう材から拡散してきたSiとも反応し、同様の強度効果を有する。さらに一部はろう材中に拡散し、ろう材表面の酸化膜破壊、酸化膜成長抑制作用に寄与する。下限未満では効果不十分であり、上限を超えると融点が低下し、芯材が溶融する。このため、Mg含有量は上記範囲が望ましい。
【0028】
Mn:0.2〜2.5%
Mnは、金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。また、芯材の電位を貴にして耐食性も向上させる。下限未満では効果が不十分であり、上限を超えると、圧延などの加工性が低下する。また、一層の効果は得られない。これら理由によりMn含有量は上記範囲が望ましい。なお、Mn含有量の一層好ましい範囲は0.5〜1.5%である。
【0029】
Cu:0.05〜1.0%
Cuは、固溶してろう付後の強度を向上させると共に、芯材の電位を貴にして耐食性を向上させる。下限未満では効果が不十分であり、上限を超えると、融点が低下し、芯材が溶融する。このため、Cu含有量は上記範囲が望ましい。なお、Cu含有量の一層好ましい範囲は0.1〜0.7%である。
【0030】
Fe:0.1〜1.0%
Feは金属間化合物として晶出または析出し、ろう付後の強度を向上させる。また、最終焼鈍時とろう付時の再結晶を促進する。下限未満では効果が不十分であり、上限を超えると、腐食速度が速くなりすぎる。また、最終焼鈍後の結晶粒径が細かくなりすぎて成形時に加工の導入されない部分でろうの侵食が著しく大きくなる。これら理由によりFe含有量が上記範囲が望ましい。なお、Fe含有量の一層好ましい範囲は0.2〜0.5%である。
【0031】
Zr、Ti:0.01〜0.3%
Cr :0.01〜0.5%
Zr、TiまたはCrは、ろう付後に微細な金属間化合物として分散し、強度を向上させる。下限未満では効果不十分であり、上限を超えると加工性が低下する。このため、これら成分の含有量は上記範囲が望ましい。
【0032】
Bi:0.01〜1.0%
Biは、材料の再酸化を抑制し、ろう材の濡れ拡がり性を向上させる。下限未満では効果が不十分であり、上限を超えても一層の効果は得られない。このため、Biの含有量は、上記範囲が望ましい。
【0033】
(クラッド材)
本発明に使用する上記クラッド材においては、少なくとも片面に上記Al−Si系ろう材がクラッドされていればよく、適宜、片面と両面クラッド材を使い分けることができる。両面クラッド材では、芯材の両面にろう材がクラッドされているものであってもよく、また片面に上記ろう材がクラッドされ、他の片面に犠牲材等のその他の材料がクラッドさ
れているものであってもよい。
【0034】
(被ろう付け材の材質)
ろう材以外の被ろう付け材としては、一般的に用いられているアルミニウム合金であれば何れも問題なく使用可能である。
【0035】
(被ろう付け材の初期酸化膜厚)
本発明の実施に当たっては、特に材料の初期酸化皮膜を抑制するような材料製作は必要としない為、通常、アルミニウムの量産コイル材として作製され得る、初期酸化膜厚20〜500Å程度のアルミニウム材料を使用できる。20Å未満では、従来技術に示したような酸洗浄等が必要となり、500Åを越えるものはMgによる酸化膜破壊作用が十分に得られず、良好な接合状態が得られにくくなる。
【0036】
(炉内雰囲気)
本発明の実施にあたっては、炉内雰囲気を不活性ガス、或いは還元性ガス等の非酸化性ガスとすることで、雰囲気中の酸素濃度や露点を低下させ、被ろう付け材の再酸化を抑制する必要がある。使用する置換ガスの種類としては、接合を得るにあたり特に限定されるものではないが、コストの観点で、不活性ガスとしては窒素、アルゴン、還元性ガスとしては水素、アンモニア、一酸化炭素を用いることが好適である。雰囲気中の酸素濃度管理範囲としては、2〜100ppmがよい。2ppm未満の場合は、接合に不具合は生じないが、雰囲気の管理に多量のガスを使用する等、製造コストの増大懸念が生じるためである。100ppm超では被ろう付け材の再酸化が進みやすくなり、特にろう材が表面にないベア構成部材とろう材間の接合が十分に得られない為である。
【0037】
(ろう付け温度)
本発明においては、ろう材Al−Si−Mg合金の最も低い固相線温度の559℃以上でろう付けができ、当然、従来からのAl−Siろう材によるろう付け温度範囲も使用可能である。具体的には559〜620℃が良い。559℃未満ではろうの溶融が得られずろう付けが得られない。620℃超ではろう侵食が顕著となり、製品形状の維持等に問題が生じるため好ましくない。但し、この温度範囲においても、ろうの合金組成によって固相線温度が低い場合には、ろう侵食が顕著になる場合もあり、その際は、この温度範囲の中で合金組成にあったろう付け温度を選択するのが好ましい。