(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917836
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】内燃機関の燃料供給装置
(51)【国際特許分類】
F02M 21/02 20060101AFI20160428BHJP
F02B 43/00 20060101ALI20160428BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20160428BHJP
F02M 31/10 20060101ALI20160428BHJP
F02M 31/16 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
F02M21/02 U
F02B43/00 A
F02M21/02 L
F02M37/00 341D
F02M37/00 P
F02M31/10 D
F02M31/16 E
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-127562(P2011-127562)
(22)【出願日】2011年6月7日
(65)【公開番号】特開2012-255350(P2012-255350A)
(43)【公開日】2012年12月27日
【審査請求日】2014年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100130133
【弁理士】
【氏名又は名称】曽根 太樹
(72)【発明者】
【氏名】小菅 英明
(72)【発明者】
【氏名】小島 進
(72)【発明者】
【氏名】清水 里欧
(72)【発明者】
【氏名】杉本 知士郎
(72)【発明者】
【氏名】秋田 正侑
(72)【発明者】
【氏名】田中 仁
(72)【発明者】
【氏名】中川 周
(72)【発明者】
【氏名】池谷 昌紀
【審査官】
寺川 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−017058(JP,A)
【文献】
特開昭60−227099(JP,A)
【文献】
特開平06−174194(JP,A)
【文献】
特開2007−231757(JP,A)
【文献】
特開平08−093570(JP,A)
【文献】
国際公開第02/090750(WO,A1)
【文献】
特表2009−530532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 43/00 − 45/10
F02M 21/00 − 21/12
F02M 31/00 − 33/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化燃料通路と機関冷却水通路との間の熱交換壁を有する熱交換器を具備し、前記熱交換器の前記液化燃料通路から流出する加熱気化させた燃料を内燃機関へ供給する内燃機関の燃料供給装置において、
前記熱交換器の前記液化燃料通路へ供給される液化燃料の流量が設定され、
前記熱交換壁の前記液化燃料通路側の内面温度が、設定された前記流量の液化燃料が前記液化燃料通路において核沸騰と遷移沸騰との境界近傍で核沸騰又は遷移沸騰する温度となるように、設定された液化燃料の前記流量と、前記熱交換器の前記機関冷却水通路へ供給される機関冷却水の温度と、に基づき前記熱交換器の前記機関冷却水通路へ供給される機関冷却水の流量が決定されることを特徴とする、
内燃機関の燃料供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化燃料を気化させて内燃機関へ供給するための内燃機関の燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料として、LPGのような常温常圧では気体の燃料を使用することが公知である。このような気体燃料は、冷却により液化されて燃料タンク内に貯蔵される。燃料タンク内の液化燃料は、加熱気化させて内燃機関の気筒内へ供給されることとなる。液化燃料の加熱気化には、一般的に、機関冷却水の熱が利用されるが、機関冷却水が低温であるときには、電気ヒータの熱を利用する燃料供給装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−121645
【特許文献2】特開平9−113168
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の燃料供給装置は、機関冷却水の温度が設定温度以上となると、機関冷却水と液化燃料との熱交換により液化燃料を加熱気化させるようになっている。しかしながら、機関冷却水の温度が比較的高くなると、機関冷却水から液化燃料への熱流束が低下して液化燃料を十分に気化させることができなくなることがある。
【0005】
従って、本発明の目的は、熱交換器において機関冷却水から液化燃料への熱流束の低下を抑制することにより燃料タンク内の液化燃料を機関冷却水の熱を利用して良好に気化させて気筒内へ供給することができる内燃機関の燃料供給装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による請求項1に記載の内燃機関の燃料供給装置は、液化燃料通路と機関冷却水通路との間の熱交換壁を有する熱交換器を具備し、前記熱交換器の前記液化燃料通路から流出する加熱気化させた燃料を内燃機関へ供給する内燃機関の燃料供給装置において、前記熱交換器の前記液化燃料通路へ供給される液化燃料の流量が設定され、
前記熱交換壁の前記液化燃料通路側の内面温度が、設定された前記流量の液化燃料が前記液化燃料通路において核沸騰と遷移沸騰との境界近傍で核沸騰又は遷移沸騰する
温度となるように、
設定された液化燃料の前記流量と、前記熱交換器の前記機関冷却水通路へ供給される機関冷却水の温度
と、に基づき前記熱交換器の前記機関冷却水通路へ供給される機関冷却水の流量が決定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明による請求項1に記載の内燃機関の燃料供給装置によれば、液化燃料通路と機関冷却水通路との間の熱交換壁を有する熱交換器を具備し、熱交換器の液化燃料通路から流出する加熱気化させた燃料を内燃機関へ供給する内燃機関の燃料供給装置において、熱交換器の液化燃料通路へ供給される液化燃料の流量が設定され、
熱交換壁の液化燃料通路側の内面温度が、設定された流量の液化燃料が液化燃料通路において核沸騰と遷移沸騰との境界近傍で核沸騰又は遷移沸騰する
温度となるように、
設定された液化燃料の流量と、熱交換器の機関冷却水通路へ供給される機関冷却水の温度と、に基づき熱交換器の機関冷却水通路へ供給される機関冷却水の流量が決定されるようになっている。こうして、熱交換器の液化燃料通路において、液化燃料が核沸騰と遷移沸騰との境界近傍で核沸騰又は遷移沸騰すれば、液化燃料は機関冷却水から極大値近傍の熱流束が得られていることとなり、液化燃料を良好に気化させて内燃機関へ供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明による内燃機関の燃料供給装置を示す概略図である。
【
図2】液化燃料の沸騰時の過熱度と熱流束との関係を示すグラフである。
【
図3】液化燃料の流量と機関冷却水の温度とに基づき決定される機関冷却水の流量を示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明による内燃機関の燃料供給装置を示す概略図である。以下に説明する燃料供給装置の各部材の制御は電子制御装置(図示せず)により実施される。同図において、10は燃料タンクであり、プロパン(沸点−42.09°C)及びブタン(沸点−0.5°C)を主成分とするLPGを貯蔵している。もちろん、本発明による燃料供給装置が対象とする液化燃料は、LPGに限定されることなく、常温常圧では気体の任意の可燃性物質とすることができる。例えば、プロパンと同程度の沸点を有する可燃性物質、ブタンと同程度の沸点を有する可燃性物質、プロパンの沸点とブタンの沸点との間の沸点を有する可燃性物質とすることができる。
【0010】
20は、燃料タンク10内の液化燃料を気化させるための熱交換器であり、液化燃料通路として機能する内管20aと、機関冷却水通路として機能する外管20bとを有している。こうして、内管20aの管壁は、液化燃料と機関冷却水との間の熱交換壁として機能する。内管20aの入口部20cには、燃料タンク10内の液化燃料を供給するための燃料流入通路30が接続され、内管20aの出口部20dには各気筒の燃料噴射弁へ直接的に又は各気筒共通の蓄圧室を介して気化燃料を供給するための燃料流出通路40が接続されている。
【0011】
また、外管20bの入口部20eには、シリンダブロック(図示せず)内の冷却水通路において加熱されてラジエタ(図示せず)により冷却される前の機関冷却水を供給するための冷却水流入通路50が接続され、外管20bの出口部20fには、外管20bから流出する機関冷却水をラジエタ(又はシリンダブロックの冷却水通路)へ戻すための冷却水流出通路60が接続されている。冷却水流入通路50には必要に応じて冷却水ポンプが設けられる。
【0012】
燃料タンク10内には、燃料流入通路30へ液化燃料を圧送するための燃料ポンプPが設けられている。燃料流入通路30には、燃料ポンプPにより圧送された液化燃料の流量を調量して熱交換器20の内管20aへ供給するための燃料調量弁V1が設けられている。また、冷却水流入通路50と冷却水流出通路60とを連通する連通路70が形成されており、この連通路70には冷却水調量弁V2が設けられ、冷却水調量弁V2により連通路70を通過して熱交換器20の外管20bを通過しない機関冷却水の流量を調量することにより、外管20bを通過する機関冷却水の流量を制御することが可能となる。80は、冷却水流入通路50内の冷却水の温度を測定するための温度センサである。
【0013】
このように構成された本実施例の燃料供給装置は、液化燃料通路として機能する内管20a内を矢印で示すように通過する液化燃料と、機関冷却水通路として機能する外管20bと内管20aとの間を矢印で示すように通過する機関冷却水との間で熱交換が行われることにより、液化燃料を内管20a内で沸騰させるようになっており、内管20aの管壁内面は、内管20aの外側を通過する機関冷却水の熱を液化燃料へ伝える伝熱面となる。
【0014】
図2は、特定の液化燃料を熱交換器の内管20a内で沸騰させるときの過熱度と熱流束との関係を示すグラフである。ここで、過熱度とは、内管20aの管壁内面、すなわち、伝熱面の温度と液化燃料の沸点との差であり、熱流束とは、単位面積の伝熱面から液化燃料へ単位時間に伝えられる熱量である。
図2に示すように、特定の液化燃料に対して、過熱度と熱流束との関係を示すグラフは、内管20aの外側を通過する機関冷却水の温度と流量との組み合わせ毎に存在し、機関冷却水の温度が高いほど、同じ過熱度に対する熱流束は大きくなり、また、機関冷却水の流量が多いほど、同じ過熱度に対する熱流束は大きくなる。すなわち、グラフL1、L2、L3、L4の順で、機関冷却水の流量が多くなるか又は機関冷却水の温度が高くなっている。
【0015】
このように、特定の液化燃料に対して、過熱度と熱流束との関係を示す多数のグラフが存在することとなるが、
図2に示すように、ほぼ一定の境界過熱度ΔTtに対して熱流束が極大値となる。境界過熱度ΔTtより過熱度が低い領域は、伝熱面の特定点から蒸気泡を発生させる核沸騰により液化燃料が沸騰する核沸騰領域であり、境界過熱度ΔTtより過熱度が高い領域は、伝熱面の特定点からの蒸気泡がつながって伝熱面に部分的に蒸気膜が形成される遷移沸騰により液化燃料が沸騰する遷移沸騰領域である。
【0016】
また、各グラフにおいて、内管20aを通過する液化燃料の流量が多いほど、内管20aの管壁内面、すなわち、伝熱面の温度が低下するために、過熱度は低くなる。例えば、熱交換器20へ供給される機関冷却水の特定の流量と特定の温度との組み合わせのグラフL4において、境界過熱度ΔTtより高い過熱度の点a4となるときの熱交換器20へ供給される液化燃料の流量は、境界過熱度ΔTtが実現される点a4tとなるときの熱交換器20へ供給される液化燃料の流量より少なくなるが、点a4となるときの流量の液化燃料へは、点a4tとなるときの流量の液化燃料より少ない熱流束しか与えられず、境界過熱度ΔTtより高い過熱度の点a4において、液化燃料は良好に沸騰しない。それにより、点a4となるときの流量の液化燃料を良好に気化させるためには、このときの機関冷却水の温度に対して機関冷却水の流量を少なくし、同じ流量の液化燃料に対して、同じ温度の機関冷却水によって境界過熱度ΔTtが実現されるようにすれば良い。
【0017】
また、例えば、熱交換器20へ供給される機関冷却水のもう一つの特定の流量ともう一つの特定の温度との組み合わせのグラフL3において、境界過熱度ΔTtより低い過熱度の点a3となるときの熱交換器20へ供給される液化燃料の流量は、境界過熱度ΔTtが実現される点a3tとなるときの熱交換器20へ供給される液化燃料の流量より多くなる。この場合において、点a3となるときの流量の液化燃料へは、点a3tとなるときの流量の液化燃料より少ない熱流束しか与えられず、点a3において液化燃料は良好に沸騰しない。それにより、点a3となるときの流量の液化燃料を良好に気化させるためには、可能であれば、このときの機関冷却水の温度に対して機関冷却水の流量を多くして、同じ流量の液化燃料に対して、同じ温度の機関冷却水によって境界過熱度ΔTtが実現されるようにすれば良い。同じ過熱度に対する熱流束が大きくなるほど、すなわち、グラフL1、L2、L3、L4の順で、境界過熱度ΔTtが実現されて液化燃料へ極大の熱流束が与えられるとき(点a1t、a2t、a3t、a4tにおける)の熱交換器20へ供給される液化燃料の流量は多くなる。
【0018】
こうして、境界過熱度ΔTtが実現されて、液化燃料へ極大値の熱流束が与えられるときの熱交換器20へ供給される機関冷却水の流量QW及び温度TWと、熱交換器20へ供給される液化燃料の流量QFとの組み合わせが存在し、ほぼ境界過熱度ΔTtが実現されて、液化燃料へほぼ極大値の熱流束が与えられるように、液化燃料の流量QFと機関冷却水の温度TWとに基づき、機関冷却水の流量QWを決定するためのマップを
図3のように設定することができる。
【0019】
それにより、機関負荷及び機関回転数に基づく現在の機関運転状態に対して必要な各気筒の燃料噴射量を実現するために、熱交換器20の液化燃料通路、すなわち、内管20aへ供給される液化燃料の流量QFが設定されれば、こうして設定された流量の液化燃料が液化燃料通路において核沸騰と遷移沸騰との境界近傍で核沸騰又は遷移沸騰するように、熱交換器20の機関冷却水通路、すなわち、外管20bへ供給される機関冷却水の温度TWに基づき、
図3のマップから熱交換器20の機関冷却水通路へ供給される機関冷却水の流量QWを決定することができる。
【0020】
設定された液化燃料の流量QFは、燃料調量弁V1が制御することにより実現することができ、また、決定された機関冷却水の流量QWは、冷却水調量弁V2を制御することにより実現することができる。熱交換器20へ供給される機関冷却水の温度TWは、温度センサ80により検出可能である。しかしながら、機関冷却水の温度TWは機関運転状態に基づき推定することも可能である。
【0021】
こうして、熱交換器20の液化燃料通路において、液化燃料が核沸騰と遷移沸騰との境界近傍で核沸騰又は遷移沸騰すれば、液化燃料は機関冷却水から極大値近傍の熱流束が得られ、液化燃料を良好に気化させて内燃機関へ供給することができる。
【0022】
特に、
図3のマップにおいて、機関冷却水の温度TWが設定温度より低く、液化燃料の流量QFが設定流量より多いときには、熱交換器20の外管20b内を通過する機関冷却水のレイノルズ数が2000以上となるような流量とされ、機関冷却水を乱流とすることにより、機関冷却水から内管20aへの熱伝達を促進させて内管20aの内面から液化燃料へ伝えられる熱流束を大きくするようにしても良い。
【0023】
熱交換器20は、
図1に示すような二重管形状に限定されることなく任意の形状としても良い。もちろん、
図3に示すマップは、大きさ、形状、及び材質の異なる熱交換器毎に異なるものとなり、また、沸点及び気化熱の異なる燃料毎に異なるものとなる。例えば、LPGを燃料とする場合において、プロパンとブタンとの混合比率毎に
図3に示すマップを設定しておいて、混合比率を検出する等して混合比率毎にこれらマップを使い分けることが好ましい。
【符号の説明】
【0024】
10 燃料タンク
20 熱交換器
20a 内管
20b 外管
30 燃料流入通路
40 燃料流出通路
50 冷却水流入通路
60 冷却水流出通路
V1 燃料調量弁
V2 冷却水調量弁