特許第5917847号(P5917847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917847
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】チェーンガイドおよびチェーン伝動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/08 20060101AFI20160428BHJP
   F16H 7/18 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   F16H7/08
   F16H7/18 B
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-165424(P2011-165424)
(22)【出願日】2011年7月28日
(65)【公開番号】特開2013-29155(P2013-29155A)
(43)【公開日】2013年2月7日
【審査請求日】2014年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】大石 真司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃央
【審査官】 中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−180900(JP,A)
【文献】 実開昭62−172847(JP,U)
【文献】 特開平11−044349(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/090139(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/08
F16H 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーン(5)の走行方向に延びるガイドベース(15)と、そのガイドベース(15)にチェーン(5)の走行方向に沿って間隔をおいて取り付けられた複数のローラ軸(16)と、その各ローラ軸(16)に回転可能に支持されたローラ(17)とからなり、そのローラ(17)の円筒状の外周面(17a)で前記チェーン(5)を案内するチェーンガイドにおいて、
前記ローラ(17)が、鋼板形成されたシェル形外輪を外輪(22)とするころ軸受であり、そのローラ(17)の外周面(17a)の円筒度が20μm以下であり、
前記シェル形外輪(22)が、前記チェーン(5)に直接接触して案内する
ことを特徴とするチェーンガイド。
【請求項2】
前記外輪(22)肉厚が1.0mm以上である請求項1に記載のチェーンガイド。
【請求項3】
前記外輪(22)の肉厚が3.0mm以下である請求項2に記載のチェーンガイド。
【請求項4】
前記外輪(22)が、外径が一定のストレート部(22A)と、そのストレート部(22A)の両端に設けられた断面円弧状のアール部(22B)と、そのアール部(22B)から径方向内向きに延びる鍔部(22C)とからなる請求項3に記載のチェーンガイド。
【請求項5】
前記アール部(22B)の外面の円弧半径(r)を0.5mm〜1.5mmの範囲に設定した請求項4に記載のチェーンガイド。
【請求項6】
前記ローラ軸(16)が中実の円柱体である請求項1から5のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項7】
駆動スプロケット(2)と従動スプロケット(4)の間に掛け渡されたチェーン(5)と、そのチェーン(5)の弛み側に設けられた揺動可能なチェーンガイド(7)と、そのチェーンガイド(7)をチェーン(5)に向けて押圧するチェーンテンショナ(8)とを有するチェーン伝動装置において、
前記チェーンガイド(7)が請求項1から6のいずれかに記載のチェーンガイドであることを特徴とするチェーン伝動装置。
【請求項8】
前記チェーン(5)の張り側に設けられた固定のチェーンガイド(9)を更に有し、そのチェーンガイド(9)が請求項1から6のいずれかに記載のチェーンガイドである請求項7に記載のチェーン伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トルク伝達用チェーンの走行を案内するチェーンガイドおよびそのチェーンガイドを用いたチェーン伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンは、クランク軸の回転をタイミングチェーン(以下、単に「チェーン」という)を介してカム軸に伝達し、そのカム軸の回転により燃焼室のバルブを開閉する。
【0003】
このようなカム軸駆動用のチェーン伝動装置として、クランク軸に取り付けられた駆動スプロケットと、カム軸に取り付けられた従動スプロケットと、駆動スプロケットと従動スプロケットの間に掛け渡されたチェーンと、そのチェーンの弛み側に配置された揺動可能なチェーンガイドと、そのチェーンガイドをチェーンに向けて押圧するチェーンテンショナと、チェーンの張り側に配置された固定のチェーンガイドとを有するものが多く用いられる。
【0004】
ここで、揺動側のチェーンガイドは、チェーンテンショナの付勢力でチェーンを押圧することによりチェーンの張力を一定に保ち、固定側のチェーンガイドは、理想的なチェーンの走行ラインを保ちながらチェーンの振動を抑制する。
【0005】
かかるチェーン伝動装置で使用される揺動側のチェーンガイドや固定側のチェーンガイドとして、チェーン走行方向に沿って延びる案内面をチェーンに滑り接触させる形式のものが知られているが、この滑り形式のチェーンガイドは、チェーンに対する接触が滑り接触なので、チェーンの走行抵抗が大きく、トルクの伝達ロスが大きいという問題がある。
【0006】
このような問題を解消するため、本願発明の発明者らは、チェーンの走行方向に延びるガイドベースと、そのガイドベースにチェーンの走行方向に沿って間隔をおいて取り付けられた複数のローラ軸と、その各ローラ軸に回転可能に支持されたローラとからなり、そのローラの円筒状の外周面で前記チェーンを案内するチェーンガイドを提案している(特許文献1)。
【0007】
このチェーンガイドは、チェーンに対する接触が転がり接触なので、チェーンの走行抵抗が小さく、トルクの伝達ロスが小さいという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2010/090139号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、この発明の発明者らは、上記転がり形式のチェーンガイドの性能を評価するために、クランク軸に取り付けた駆動スプロケットとカム軸に取り付けた従動スプロケットの間にチェーンを掛け渡し、そのチェーンの走行を転がり形式のチェーンガイドで案内する試験機を製作し、その試験機のクランク軸を、0を超える値から6500rpmまでの範囲で回転させる試験を行なった。
【0010】
その結果、転がり形式のチェーンガイドを使用することによって、滑り形式のチェーンガイドを使用した場合よりも、チェーンの走行抵抗を20〜50%程度低減できることを確認することができたが、その一方で、転がり形式のチェーンガイドを使用した場合の方が、滑り形式のチェーンガイドを使用した場合よりも、チェーンの走行音が大きくなりやすいことが分かった。
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、静粛性に優れたチェーンガイドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明の発明者らは、転がり形式のチェーンガイドを使用した場合にチェーンの走行音が大きくなる原因を究明したところ、エンジンのカム軸駆動用のチェーンを案内するときにローラが高速で回転した状態でチェーンに接触するので、ローラの外周面にわずかな寸法誤差があるだけでもチェーンとローラの間の接触圧が変動し、この接触圧の変動によってチェーンが振動することが、チェーンの走行音の原因の一つになっていることを見出した。
【0013】
そして、上記課題を解決するため、この発明では、チェーンの走行方向に延びるガイドベースと、そのガイドベースにチェーンの走行方向に沿って間隔をおいて取り付けられた複数のローラ軸と、その各ローラ軸に回転可能に支持されたローラとからなり、そのローラの円筒状の外周面で前記チェーンを案内するチェーンガイドにおいて、前記ローラの外周面の円筒度を20μm以下に設定したのである。
【0014】
このようにすると、ローラが高速で回転した状態でチェーンに接触しているときに、チェーンとローラの間の接触圧が変動しにくいので、チェーンが振動しにくく、チェーンの走行音を効果的に抑えることができる。
【0015】
外輪の内側に複数のころを組み込んだころ軸受を、単独で前記ローラとして使用することができ、このとき、ころ軸受の外輪の外周面が前記ローラの外周面となる。この外輪は、熱処理が施された熱処理品とすることにより外周面の耐摩耗性を確保することができるが、外輪に熱処理を施すと、熱歪みによって外輪の外周面の円筒度が低下してしまう。そこで、外輪の肉厚は1.0mm以上に設定すると好ましい。このようにすると、外輪の剛性が高くなるので、熱処理を施したときに円筒度が低下しにくくなり、外周面の円筒度が20μm以下の外輪を得ることが可能となる。
【0016】
前記外輪としては、鋼板の絞り加工により形成されたシェル形外輪を使用すると、削り加工により形成したソリッド形外輪を使用するよりも低コストである。一般に、シェル形外輪の肉厚は、絞り加工の容易化を図るために0.5mm〜0.8mm程度に設定されるが、本願発明では、シェル形外輪の肉厚を1.0mm〜3.0mmの範囲に設定すると好ましい。肉厚を1.0mm以上とすると、シェル形外輪の剛性が高くなるので、熱処理を施したときの円筒度の低下が小さくなり、外周面の円筒度が20μm以下のシェル形外輪を得ることが可能となる。また、シェル形外輪の肉厚が3.0mmよりも大きいと、外輪を形成するための絞り加工を複数回に分けて段階的に行なう必要が生じ、絞り加工の設備費および金型費用が上昇するため、シェル形外輪の肉厚は3.0mm以下が好適である。
【0017】
前記外輪は、外径が一定のストレート部と、そのストレート部の両端に設けられた断面円弧状のアール部と、そのアール部から径方向内向きに延びる鍔部とからなるものを使用することができる。このように、外輪の端部に断面円弧状のアール部を設けると、外輪の端部がガイドベースに接触した場合のガイドベースに対する攻撃性が低減され、ガイドベースの摩耗を防止することができる。
【0018】
前記アール部の外面の円弧半径は、0.5mm〜1.5mmの範囲に設定すると好ましい。円弧半径を0.5mm以上とすることにより、外輪の端部がガイドベースに接触した場合のガイドベースに対する攻撃性を効果的に低減することができる。また、円弧半径を1.5mm以下とすることにより、外輪の全長を抑えながらストレート部の長さを確保して、チェーンを安定して案内することが可能となる。
【0019】
前記ローラ軸としては、熱処理された中実の円柱体を使用すると好ましい。このようにすると、ローラ軸が熱処理により硬化されているので、ローラ軸の耐摩耗性を確保することができる。また、ローラ軸が中実なので、熱歪みによるローラ軸の表面の円筒度の低下を抑えることができ、その結果、ローラの回転音を抑えることが可能となる。
【0020】
また、この発明では、上記のチェーンガイドを用いたチェーン伝動装置として、駆動スプロケットと従動スプロケットの間に掛け渡されたチェーンと、そのチェーンの弛み側に設けられた揺動可能な上記のチェーンガイドと、そのチェーンガイドをチェーンに向けて押圧するチェーンテンショナとを有するチェーン伝動装置を提供する。
【0021】
チェーンの張り側に固定のチェーンガイドを更に設ける場合、その固定のチェーンガイドにも上記チェーンガイドを使用することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明のチェーンガイドは、ローラの外周面の円筒度が20μm以下なので、ローラが高速で回転した状態でチェーンに接触しているときに、チェーンとローラの間の接触圧が変動しにくい。そのため、チェーンが振動しにくく、チェーンの走行音を効果的に抑えることができ、静粛性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明の実施形態のチェーン伝動装置を示す概略図
図2図1に示すチェーンガイドの斜視図
図3図2に示すチェーンガイドの縦断面図
図4図3に示すチェーンガイドの右側面図
図5図3のV−V線に沿った断面図
図6図5に示すローラの拡大断面図
図7】ガイドベースの一部とローラとを示す分解正面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、この発明の実施形態のチェーンガイドを組み込んだチェーン伝動装置を示す。このチェーン伝動装置は、エンジンのクランク軸1に固定して取り付けられた駆動スプロケット2と、カム軸3に固定して取り付けられた従動スプロケット4と、駆動スプロケット2と従動スプロケット4の間に掛け渡されたチェーン5を有し、このチェーン5を介してクランク軸1の回転をカム軸3に伝達し、そのカム軸3の回転により燃焼室のバルブ(図示せず)を開閉する。
【0025】
エンジンが作動しているときのクランク軸1の回転方向は一定(図では右回転)であり、このときチェーン5は、クランク軸1の回転に伴って駆動スプロケット2に引き込まれる側の部分が張り側となり、駆動スプロケット2から送り出される側の部分が弛み側となる。そして、チェーン5の弛み側には、支点軸6を中心として揺動可能に支持されたチェーンガイド7と、チェーンガイド7をチェーン5に向けて押圧するチェーンテンショナ8とが設けられている。一方、チェーン5の張り側には、固定のチェーンガイド9が設けられている。
【0026】
チェーンガイド7は、チェーン5に沿って上下に長く延び、その上端部に設けた挿入孔10に支点軸6が挿入され、この支点軸6を中心に揺動可能に支持されている。チェーンガイド7の揺動端部にはチェーンテンショナ8が接触しており、このチェーンテンショナ8によってチェーンガイド7はチェーン5に向けて押圧されている。
【0027】
チェーンガイド9も、チェーンガイド7と同様に、チェーン5に沿って上下に長く延びる形状である。チェーンガイド9は、上下両端部にそれぞれ設けられた挿入孔13にボルト14が挿入され、このボルト14の締め付けによって固定されている。
【0028】
ここで、揺動側のチェーンガイド7と固定側のチェーンガイド9とを対比した場合、揺動側のチェーンガイド7は、一端部に揺動の支点軸6を挿入するための挿入孔10が形成されているのに対し、固定側のチェーンガイド9は、両端部に固定用のボルト14を挿入するための挿入孔13が形成されている点で相違するが、その他の点では同一の構成である。
【0029】
そのため、揺動側のチェーンガイド7について以下に説明し、固定側のチェーンガイド9については、対応する部分に同一の符号を付して説明を省略する。
【0030】
図2図4に示すように、チェーンガイド7は、チェーン5の走行方向に延びるガイドベース15と、そのガイドベース15にチェーン5の走行方向に沿って間隔をおいて取り付けられた複数のローラ軸16と、その各ローラ軸16に回転可能に支持されたローラ17とからなる。
【0031】
ガイドベース15は、チェーン5の走行方向に沿って長く延びて各ローラ軸16の両端を支持する対向一対の側板18,18と、隣り合うローラ軸16の間に配置されて側板18,18同士を連結する連結部19とを有する。連結部19は、その両端が側板18に固定され、側板18の対向間隔を保持している。図3および図7に示すように、各側板18の互いに対向する対向面には、ローラ軸16の軸端を支持する円形凹部20と、側板18の凸側の縁から円形凹部20に連通する軸導入溝21とが設けられている。
【0032】
図7に示すように、軸導入溝21は、側板18の凸側の縁から円形凹部20に向かって次第に溝幅が狭くなるテーパ状に形成され、この軸導入溝21を通じてローラ軸16の軸端を円形凹部20に導入するようになっている。ここで、円形凹部20内に導入されたローラ軸16の軸端が軸導入溝21に逆戻りするのを防止するため、軸導入溝21は、狭小部分の幅Dが円形凹部20の内径Dよりも小さくなるよう形成されている。
【0033】
円形凹部20の内径Dは、ローラ軸16の軸端の外径dよりもわずかに小径とされ、ローラ軸16の軸端が締め代をもって円形凹部20に嵌合するようになっている。
【0034】
ガイドベース15は、繊維強化材を配合した合成樹脂の射出成形により形成することができる。合成樹脂としては、例えば、ナイロン66やナイロン46などのポリアミド(PA)を使用することができる。合成樹脂に配合する繊維強化材は、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維などを使用することができる。ガイドベース15はアルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽金属で形成してもよい。
【0035】
ローラ軸16は、SUJ2やSC材等の鋼材で形成された中実の円柱体であり、表面の耐摩耗性を向上させるために熱処理が施されている。熱処理としては、光輝焼入れ、高周波焼入れが挙げられる。このように、ローラ軸16を中空構造ではなく中実構造とすることにより、熱歪みによるローラ軸16の表面の円筒度の低下を抑えることができ、その結果、ローラ17の回転音を抑えることが可能となっている。
【0036】
図5図6に示すように、ローラ17は、ローラ軸16の外周に回転可能に装着され、ローラ17の円筒状の外周面17aがチェーン5に接触して案内を行なう。ここで、ローラ17は、外輪22と、外輪22の内側に組み込まれた複数のころ23と、これらのころ23を保持する保持器24とからなるころ軸受である。
【0037】
図6に示すように、外輪22は、SPCやSCM等の鋼板をカップ状に絞り加工したシェル形外輪であり、外径が一定のストレート部22Aと、そのストレート部22Aの両端に設けられた断面円弧状のアール部22Bと、そのアール部22Bから径方向内向きに延びる鍔部22Cとからなる。外輪22の端部に断面円弧状のアール部22Bを設けると、外輪22の端部がガイドベース15に接触した場合のガイドベース15に対する攻撃性が低減され、ガイドベース15の摩耗を防止することができる。
【0038】
この外輪22は、熱処理を施すことにより硬化した熱処理品であり、熱処理によって外周面17aの耐摩耗性が確保されている。外輪22の熱処理としては、高周波焼入れ、浸炭処理、浸炭窒化処理が挙げられる。また、外輪22の外周面17aの円筒度は、熱処理後の状態で20μm以下となっている。
【0039】
ここで、外周面17aの円筒度とは、外周面17a上のすべての点が2つの同軸円筒の間にあり、その2つの円筒の半径方向の間隔が最小となるような同軸円筒を想定した場合の、2つの円筒の半径方向の間隔である。
【0040】
一般に、外径が25mm以下のシェル形外輪の肉厚は、絞り加工の容易化を図るために0.5mm〜0.8mm程度に設定されるが、ここでは、外輪22の肉厚を1.0mm〜3.0mmの範囲に設定している。外輪22の肉厚を1.0mm以上とすると、外輪22の剛性が高くなるので、熱処理を施したときに外周面17aの円筒度が低下しにくくなり、外周面17aの円筒度が20μm以下のシェル形外輪を得ることが可能となる。また、外輪22の肉厚が3.0mmよりも大きいと、外輪22を形成するための絞り加工を複数回に分けて段階的に行なう必要が生じ、絞り加工の設備費および金型費用が上昇するため、外輪22の肉厚は3.0mm以下が好適である。
【0041】
外輪22のストレート部22Aの外径は10mm〜25mmの範囲に設定されている。アール部22Bの外面の円弧半径rは0.5mm〜1.5mmの範囲に設定されている。円弧半径rを0.5mm以上とすることにより、外輪22の端部がガイドベース15の側板18に接触した場合の側板18に対する攻撃性を効果的に低減することができる。また、円弧半径rを1.5mm以下とすることにより、外輪22の全長を抑えながらストレート部22Aの長さを確保して、チェーン5を安定して案内することが可能となる。
【0042】
次に、上記構成からなるチェーン伝動装置の動作例を説明する。
【0043】
エンジンが作動しているとき、駆動スプロケット2と従動スプロケット4の間でチェーン5が走行し、そのチェーン5によってクランク軸1からカム軸3にトルクが伝達される。このとき、揺動側のチェーンガイド7は、チェーンテンショナ8の付勢力でチェーン5を押圧することによりチェーン5の張力を一定に保ち、固定側のチェーンガイド9は、理想的なチェーン5の走行ラインを保ちながらチェーン5の振動を抑制する。
【0044】
ここで、チェーンガイド7,9の各ローラ17は、チェーン5を構成する各コマの背側の縁に接触しながら回転し、チェーン5とチェーンガイド7,9の接触が転がり接触なので、チェーン5の走行抵抗が小さく、トルクの伝達ロスが小さい。
【0045】
一般に、エンジンのクランク軸の回転数は最大で8000rpm程度であるが、クランク軸が3000rpmで回転するときでも、ローラ17は6000rpm〜9000rpm程度の高速で回転する。このように、ローラ17は高速で回転した状態でチェーン5に接触するので、ローラ17の外周面17aにわずかな寸法誤差があるだけでもチェーン5とローラ17の間の接触圧が変動し、この接触圧の変動によってチェーン5が振動し、チェーン5の走行音が大きくなる可能性がある。
【0046】
これに対し、この実施形態のチェーンガイドは、ローラ17の外周面17aの円筒度が20μm以下に設定されているので、ローラ17が高速で回転した状態でチェーン5に接触しているときに、チェーン5とローラ17の間の接触圧が変動しにくい。そのため、チェーン5が振動しにくく、チェーン5の走行音を効果的に抑えることができ、静粛性に優れる。
【0047】
上記実施形態では、ローラ17を軽量化してチェーン5の走行抵抗を最小限に抑えるために、ころ軸受を単独でローラ17として用い、外輪22の外周面がローラ17の外周面17aとなるようにしているが、ころ軸受の外輪22の外側に樹脂製の円筒部材を締め代をもって嵌め合わせ、その円筒部材の外周面がローラ17の外周面17aとなるようにしてもよい。また、外輪22として、削り加工により形成したソリッド形外輪を使用することも可能であり、ころ軸受にかえて他の形式の軸受を用いることも可能である。ここで、ころ軸受とは、円筒ころ軸受および針状ころ軸受をいう。
【0048】
クランク軸1の回転をカム軸3に伝達するチェーン5としては、サイレントチェーンのほか、ローラチェーンや、ローラチェーンからローラを省いたブシュチェーン等を採用することができる。
【符号の説明】
【0049】
2 駆動スプロケット
4 従動スプロケット
5 チェーン
7 チェーンガイド
8 チェーンテンショナ
9 チェーンガイド
15 ガイドベース
16 ローラ軸
17 ローラ
17a 外周面
22 外輪
22A ストレート部
22B アール部
22C 鍔部
23 ころ
r 円弧半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7