(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
パラ型全芳香族ポリアミド繊維を代表とする全芳香族ポリアミド繊維は、高強力、高モジュラス、高耐熱性等に優れた繊維である。このため、その高機能性を活かして、産業用繊維として様々な分野で使用されている。
【0003】
そして近年、これら高機能繊維が幅広い用途で用いられるにしたがい、その特性に対する要求がますます高まっている。そのひとつとして、各種マトリックスの補強材として使用する際に、使用中に繊維が破断しない高強度な全芳香族ポリアミド繊維が必要とされている。
【0004】
ここでパラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法としては、例えば、全芳香族ポリアミドと溶媒とを含む等方性溶液を、口金から不活性気体中へ紡出し、さらに凝固液と接触させて未延伸糸となし、引き続き加熱延伸して繊維を得る方法が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
そして、高強度のパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得るためには、乾燥状態の糸に対して高倍率で加熱延伸する必要があった。しかしながら、高倍率の加熱延伸は、強度を向上させる一方で伸度を低下させるという問題があった。
【0006】
また、ヘテロ環含有芳香族コポリアミド繊維においては、3.0〜6.0倍の範囲で可塑延伸することにより、高強度の繊維が得られることが知られている(特許文献2参照)。しかしながら、このような高い延伸倍率では、その後の加熱延伸工程において単糸切れが発生し、工程通過性が悪化するという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
<コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維>
本発明におけるコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維とは、コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドを主成分とするものである。繊維中に含まれるポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドは、繊維質量全体に対して、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0014】
<コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの製造方法>
本発明の繊維の材料となるコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸クロライド成分と、芳香族ジアミン成分とを反応せしめることにより、コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドのポリマー溶液を得ることができる。
【0015】
[原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの原料となる芳香族ジカルボン酸クロライド成分としては、テレフタル酸ジクロライドを用いる。本発明においては、芳香族環に置換基が存在していても差し支えない。また、テレフタル酸ジクロライド以外の少量のジカルボン酸ジクロライド成分を、テレフタル酸ジクロライドとともに併用してもよい。
【0016】
(芳香族ジアミン成分)
コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの原料となる芳香族ジアミン成分としては、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを組み合わせて用いる。本発明においては、芳香族環に置換基が存在していても差し支えない。また、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテル以外の少量のジアミン成分を、これらとともに併用してもよい。
【0017】
[原料組成比]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比として、0.90〜1.10の範囲とすることが好ましく、0.95〜1.05の範囲とすることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比が0.90未満または1.10を超える場合には、芳香族ジアミン成分との反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0018】
[反応条件]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との反応条件は、特に限定されるものではない。酸クロライドとジアミンとの反応は一般に急速であり、反応温度としては、例えば、−25℃〜100℃の範囲とすることが好ましく、−10℃〜80℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0019】
[重合溶媒]
コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの製造に用いるアミド系溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPともいう)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独であっても、また、2種以上の混合溶媒として用いることも可能である。なお、用いる溶媒は、脱水されていることが望ましい。
【0020】
本発明に用いられるコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの製造においては、汎用性、有害性、取り扱い性、コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドに対する溶解性等の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることが最も好ましい。
【0021】
[中和反応]
反応終了後には、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加して、中和反応を実施することが好ましい。
【0022】
[重合後処理等]
重合して得られるコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドは、アルコール、水などの非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。取り出されたコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドを再度他の溶媒に溶解し、その後に繊維の成形に供することもできるが、重合反応によって得られたポリマー溶液を、そのまま紡糸用溶液(ドープ)に調製して用いることも可能である。
【0023】
一度取り出してから再度溶解させる際に用いる溶媒としては、コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドを溶解するものであれば特に限定されるものではないが、上記したコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの重合に用いられる溶媒とすることが好ましい。
【0024】
<コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法>
本発明のコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得る方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、以下に記載するような半乾半湿式紡糸法を採用することができる。本発明の引張伸度と引張強度の両者が高い繊維を得るためには、凝固工程で得られた凝固糸に対して、特定範囲の倍率で可塑化延伸を実施することが重要である。
【0025】
[紡糸用溶液(ドープ)の調製工程]
繊維を得るにあたっては、先ず、コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドおよび溶媒を含む紡糸用溶液(ドープ)を調製する。紡糸用溶液(ドープ)を調製する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により調製することができる。
【0026】
ここで、紡糸用溶液(ドープ)の調製に用いる溶媒としては、上記したコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの重合に用いられる溶媒であって、コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドおよびその他の任意成分を溶解または分散させることのできる溶媒であることが好ましい。なお、用いられる溶媒は、1種単独であっても、2種以上の溶媒を混合した混合溶媒であってもよい。
【0027】
コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの製造によって得られたポリマー溶液から当該ポリマーを単離することなく、そのまま紡糸用溶液(ドープ)として用いることも可能である。
【0028】
さらに、繊維に機能性等を付与する目的で、本発明の要旨を超えない範囲において添加剤等のその他の任意成分を配合してもよい。任意成分を配合する場合には、紡糸用溶液(ドープ)の調製において導入することができる。その他の任意成分としては、無機塩、繊維状または粉末状等の充填剤、酸化防止剤、耐候剤、染料、帯電防止剤、難燃剤、導電性ポリマー、その他の重合体等を挙げることができる。導入の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ルーダーやミキサ等を使用して導入することも可能である。
【0029】
紡糸用溶液(ドープ)におけるポリマー濃度、すなわちコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの濃度は、0.5質量%〜30質量%の範囲とすることが好ましく、1質量%〜25質量%の範囲とすることがより好ましい。紡糸用溶液(ドープ)におけるポリマー濃度が0.5質量%未満の場合には、ポリマーの絡み合いが少ないことから紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、ポリマー濃度が30質量%を超える場合には、口金の吐出孔から吐出する際に不安定流動が起こりやすくなり、安定的に紡糸することが困難となる。
【0030】
[紡糸・凝固工程]
本発明の繊維の製造においては、上述の如く調製された紡糸用溶液(ドープ)を用いて、エアギャップを設けた半乾半湿式紡糸法によって繊維を成形する。すなわち、先ず、上記で得られた紡糸用溶液(ドープ)をノズルから吐出し、続いて、凝固浴中の凝固液に接触させて、可塑化状態にある凝固糸を形成する。
【0031】
凝固浴としては、コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの貧溶媒が用いられるが、紡糸用溶液(ポリマードープ)の溶媒が急速に抜け出して、得られる凝固糸に欠陥ができないように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。貧溶媒としては水、良溶媒としてはコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド用の溶媒を用いるのことが好ましい。良溶媒/貧溶媒の質量比は、コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの溶解性や凝固性にもよるが、15/85〜40/60の範囲とすることが好ましい。
【0032】
[可塑延伸工程]
本発明においては、凝固工程で得られた可塑状態にある凝固糸を、1.2〜1.5倍範囲にて延伸することが必須である。延伸倍率は、1.3〜1.5倍の範囲とすることが好ましく、1.4〜1.5倍の範囲とすることが最も好ましい。
【0033】
可塑状態にある凝固糸束の延伸倍率が1.2倍未満の場合には、凝固糸束を十分に延伸できていないため、その後の延伸工程において十分な延伸を付与しても高強度の繊維を得ることが困難となる。一方、可塑状態にある凝固糸束の延伸倍率が1.5倍を超える場合には、延伸時において単糸切れが発生し、切れた単糸を含む繊維束の強度は結果として低下し、また、工程通過性が非常に悪化する。
【0034】
[その他の工程]
凝固糸条を可塑延伸した後は、公知の方法によって、最終的なコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得ることができる。例えば、形成した可塑延伸糸から溶媒を除去するための水洗工程を実施し、乾燥工程等を経て、必要に応じてさらに延伸することにより、最終的な繊維を得ることができる。
【0035】
さらに延伸を実施する場合には、乾燥糸状態での加熱延伸等を行うことができる。延伸倍率については特に制限はないが、5倍以上であることが好ましく、8倍以上であることがさらに好ましい。延伸倍率を制御することにより、得られるコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の伸度および強度を制御することができる。
【0036】
<コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の物性>
(引張強度)
本発明のコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維は、引張強度が27.5cN/dtexより大きい。引張強度は、27.8cN/dtex以上であることが好ましく、28.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。
【0037】
(引張強度)
本発明のコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維は、引張伸度が4.00〜4.50%の範囲であることが好ましい。引張伸度は、4.10〜4.50%の範囲であることがより好ましく、4.20〜4.50%の範囲であることが最も好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これに何等限定されるものではない。
【0039】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、下記の項目について、下記の方法によって測定・評価を行った。
【0040】
(1)繊維の繊度
得られた繊維を、公知の検尺機を用いて100m巻き取り、その質量を測定した。得られた質量に100を乗じた値を10000mあたりの質量、即ち繊度(dtex)として算出した。
【0041】
(2)繊維の引張強度、破断伸度
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)により、糸試験用チャックを用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件で測定を実施した。
[測定条件]
温度 :室温
試験片 :75cm
試験速度 :250mm/分
チャック間距離 :500mm
【0042】
<実施例1>
[紡糸用溶液の調製工程]
紡糸用溶液(ドープ)として、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミド(共重合モル比が1:1の全芳香族ポリアミド)の濃度6質量%N−メチルピロリドン(NMP)溶液を準備した。
[紡糸・凝固工程]
紡糸用溶液(ドープ)を、紡糸口金から吐出し、エアギャップを介して、NMP濃度30質量%の50℃の水溶液で満たされた凝固浴中に紡出し、凝固糸を得た(半乾半湿式紡糸法)。
[可塑延伸工程]
次いで、可塑状態にある凝固糸を、1.2倍に延伸して可塑延伸糸を得た。
[その他工程]
得られた可塑延伸糸を水浴にて水洗し、乾燥を実施した。最後に、温度520℃下で11倍に延伸し、巻き取りを実施することにより、コポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0043】
<実施例2>
可塑延伸工程において、可塑状態にある凝固糸の延伸倍率を1.3倍とした以外は、実施例1と同様にコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を、表1に示す。
【0044】
<実施例3>
可塑延伸工程において、可塑状態にある凝固糸の延伸倍率を1.4倍とした以外は、実施例1と同様にコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を、表1に示す。
【0045】
<実施例4>
可塑延伸工程において、可塑状態にある凝固糸の延伸倍率を1.5倍とした以外は、実施例1と同様にコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を、表1に示す。
【0046】
<比較例1>
可塑延伸工程において、可塑状態にある凝固糸の延伸倍率を1.0倍とした以外は、実施例1と同様にコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を、表1に示す。
【0047】
<比較例2>
可塑延伸工程において、可塑状態にある凝固糸の延伸倍率を1.1倍とした以外は、実施例1と同様にコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を、表1に示す。
【0048】
<比較例3>
可塑延伸工程において、可塑状態にある凝固糸の延伸倍率を1.6倍とした以外は、実施例1と同様にコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を、表1に示す。
【0049】
<比較例4>
可塑延伸工程において、可塑状態にある凝固糸の延伸倍率を2.0倍とした以外は、実施例1と同様にコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得ようと試みた。しかしながら、加熱延伸工程において断糸が多発して製糸できなかった。
【0050】
<比較例5>
可塑延伸工程において、可塑状態にある凝固糸の延伸倍率を1.0倍とし、加熱延伸工程において、乾燥糸の延伸倍率を16倍とした以外は、実施例1と同様にコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を、表1に示す。
【0051】
【表1】