(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
≪アイオノマー組成物≫
本発明のアイオノマー組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー(A)(以下、「カリウムアイオノマー(A)」や「A成分」とも称する)99.9質量%〜50質量%と、分子内に水酸基を4個又は5個有する糖アルコール(B)(以下、「糖アルコール(B)」や「B成分」とも称する)0.1質量%〜50質量%と、を含む。本発明のアイオノマー組成物は、必要に応じその他の成分を含んでいてもよい。
本明細書中において、前記カリウムアイオノマー(A)及び前記糖アルコール(B)の含有量(質量%)は、それぞれ、前記カリウムアイオノマー(A)と前記糖アルコール(B)との合計量を100質量%としたときの含有量(質量%)である。
【0009】
従来より、カリウムアイオノマーと分子内に水酸基を3つ以上有する分子量400以下の脂肪族多価アルコールとを含むアイオノマー組成物が、優れた帯電防止性を有することが知られていた。
しかしながら、上記従来のアイオノマー組成物では、良好な帯電防止性を示していても、高温(例えば40℃以上。以下同じ。)保管時に帯電防止性が低下する場合がある。この傾向は、分子量が低い脂肪族多価アルコール(例えばグリセリン(分子量92))を用いた場合に顕著である。高温保管時の帯電防止性の低下の原因は、分子量が低い脂肪族多価アルコールが高温保管時に揮発し易いためと考えられる。
更に、上記従来のアイオノマー組成物においては、脂肪族多価アルコールが室温で液体である場合が多い(例えば、脂肪族多価アルコールがグリセリンやジグリセリンである場合等)。この場合にアイオノマー組成物を製造するためには、まず、カリウムアイオノマーが収容された溶融混合装置内に、送液ポンプ(液添ポンプ)を用いて脂肪族多価アルコール(液体)を送液し、次いで、この溶融混合装置内で両者を混合する必要がある。この方法は、室温で固体であるポリマーを2種以上混合させる通常のポリマーブレンドの方法と比較して複雑である。更に、溶融混合装置に加えて送液ポンプが必要となるため、製造装置の構成も複雑であり、また、送液ポンプの清掃や管理が必要となるなど、生産の効率も低い。
【0010】
そこで本発明者は、カリウムアイオノマーに対する帯電防止性の改質剤として、室温(例えば25℃。以下同じ。)で固体である、分子内に水酸基を4個又は5個有する糖アルコールを選択すると、通常のポリマーブレンドの方法と同様の方法により、簡易にアイオノマー組成物を製造できるとともに、帯電防止性をある程度高く維持したまま、高温保管時の帯電防止性の劣化を抑制できるとの知見を得、この知見に基づき本発明を完成させた。
即ち、本発明のアイオノマー組成物は、固体の材料同士(前記カリウムアイオノマー(A)及び前記糖アルコール(B))を加熱溶融混合することにより簡易に製造できる。例えば、本発明のアイオノマー組成物は、カリウムアイオノマーが収容された溶融混合装置内にフィーダーによって糖アルコールを投入する方法や、カリウムアイオノマーと糖アルコールとをドライブレンドした後、得られたブレンド物を溶融混合装置内に投入する方法等、通常のポリマーブレンドと同様の簡易な方法によって製造できる。
更に、本発明のアイオノマー組成物によれば、帯電防止性をある程度高く維持したまま、高温保管時の帯電防止性の劣化を抑制できる。
更に、本発明のアイオノマー組成物によれば、高温(例えば150℃以上)成形時や経時(長期保管時等)における帯電防止性の劣化も抑制できる。
【0011】
以下、本発明のアイオノマー組成物の各成分について説明する。
【0012】
<カリウムアイオノマー(A)>
本発明のアイオノマー組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体のカリウムアイオノマー(A)を少なくとも1種含む。
本発明におけるカリウムアイオノマー(A)としては特に限定はなく、エチレンと不飽和カルボン酸とが少なくとも共重合したエチレン・不飽和カルボン酸共重合体(ベースポリマー)のカルボキシル基の少なくとも一部がカリウムで中和された構造の、公知のカリウムアイオノマー(例えば、特許第3474285号の段落0007〜0010に記載されたカリウムアイオノマー)を用いることができる。
【0013】
前記カリウムアイオノマー(A)のベースポリマーであるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸から選ばれるモノマーとを少なくとも共重合成分として共重合させた共重合体である。前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体には、必要に応じて、不飽和カルボン酸以外のモノマーが共重合されてもよい。
【0014】
前記不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル(マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等)、無水マレイン酸モノエステル(無水マレイン酸モノメチル、無水マレイン酸モノエチル等)等の炭素数3〜8の不飽和カルボン酸またはハーフエステルが挙げられる。
本明細書中において、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸を指す。
前記不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0015】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中において、エチレンから導かれる構成単位の含有割合(以下、「エチレン含量」ともいう)は60質量%〜97質量%が好ましく、より好ましくは70質量%〜90質量%である。前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体中において、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有割合(以下、「不飽和カルボン酸含量」ともいう)は3質量%〜40質量%が好ましく、より好ましくは10質量%〜30質量%である。
【0016】
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体には、エチレン及び不飽和カルボン酸以外のその他の共重合性モノマーから導かれる構成単位が含まれていてもよい。
前記その他の共重合性モノマーとしては、不飽和エステル、例えば、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸イソブチル等の(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
前記その他の共重合性モノマーから導かれる構造単位の含有割合は、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の全量に対し、0質量%〜30質量%が好ましく、より好ましくは0質量%〜20質量%である。
前記エチレン・不飽和カルボン酸共重合体としては、エチレンと不飽和カルボン酸との2元共重合体(より好ましくは2元ランダム共重合体)が好ましい。
【0017】
また、前記カリウムアイオノマー(A)中におけるカリウムイオンの含有量には特に限定はないが、帯電防止性の観点から、好ましくは、カリウムアイオノマー(A)1kg当たり0.4モル〜4モルであり、より好ましくは、カリウムアイオノマー(A)1kg当たり0.6モル〜2モルである。
カリウムイオンの含有量がカリウムアイオノマー(A)1kg当たりに0.4モル以上であれば帯電防止性により優れ、カリウムイオンの含有量がカリウムアイオノマー(A)1kg当たりに4モル以下であれば流動性により優れる。
【0018】
前記カリウムアイオノマー(A)のJIS K7210−1999(190℃、2160g荷重)に準拠したメルトフローレート(MFR)は、0.01〜1000g/10分が好ましく、0.1〜100g/10分がより好ましい。
【0019】
前記カリウムアイオノマー(A)は公知の方法により製造でき、例えば、高温、高圧下のラジカル共重合によりランダム共重合体(エチレン・不飽和カルボン酸共重合体)を得た後、このランダム共重合体とカリウム含有化合物とを反応させることにより製造できる。
【0020】
本発明のアイオノマー組成物中における前記カリウムアイオノマー(A)(A成分)の含有量(2種以上である場合には総含有量。以下同じ。)は、99.9質量%〜50質量%である。ここで、A成分の含有量が50質量%以上であることはA成分及びB成分の合計中においてA成分が主成分であることを意味する。
A成分の含有量は、帯電防止性をより向上させる観点からは、99質量%〜55質量%が好ましく、99質量%〜65質量%がより好ましく、98質量%〜75質量%が更に好ましい。
【0021】
<糖アルコール(B)>
本発明のアイオノマー組成物は、分子内に水酸基を4個又は5個有する糖アルコール(B)を少なくとも1種含む。
前記糖アルコール(B)としては、分子内に水酸基を4個有する糖アルコールの少なくとも1種を用いてもよいし、分子内に水酸基を5個有する糖アルコールの少なくとも1種を用いてもよいし、分子内に水酸基を4個有する糖アルコールの少なくとも1種と分子内に水酸基を5個有する糖アルコールの少なくとも1種との混合物を用いてもよい。
【0022】
本発明のアイオノマー組成物では、前記カリウムアイオノマー(A)に加えて前記糖アルコール(B)を用いることにより、前記カリウムアイオノマー(A)の帯電防止性が向上する。この理由は、前記糖アルコール(B)の水酸基によってカリウムアイオノマー(A)からのカリウムイオンの解離が促進され、解離したカリウムイオンの移動によってアイオノマー組成物中における電荷の蓄積が低減されるためと考えられる。
【0023】
本発明のアイオノマー組成物において、前記糖アルコール(B)に代えて、分子内の水酸基の数が3個である糖アルコールを用いた場合には、高温保管時に、アイオノマー組成物の帯電防止性が劣化する。この理由は、分子内の水酸基の数が3個である糖アルコール(例えば、グリセリン等のトリトール;分子量92)は、前記糖アルコール(B)と比較して分子量が小さく、高温保管時に揮発し易いためと考えられる。
即ち、本発明のアイオノマー組成物では、分子内の水酸基の数が3個である糖アルコールよりも分子量が大きい糖アルコール(B)を用いているため、分子内の水酸基の数が3個である糖アルコールを用いた場合と比較して、高温保管時における帯電防止性の低下が抑制される。同様の理由により、本発明のアイオノマー組成物によれば、高温(例えば150℃以上)成形時や経時(長期保管時等)における帯電防止性の劣化も抑制できる。
【0024】
一方、本発明のアイオノマー組成物において、前記糖アルコール(B)に代えて、分子内の水酸基の数が6個以上である糖アルコールを用いた場合には、(高温保管時等に限らず)アイオノマー組成物の帯電防止性が低下する。この理由は明らかではないが、分子内の水酸基の数が6個以上である糖アルコール(例えばソルビトール等のヘキシトール;分子量182)は、前記糖アルコール(B)と比較して分子量が大きいために、前記カリウムアイオノマー(A)中のカリウムイオンに近づきにくくなり、その結果、上述したカリウムイオンの解離が起こりにくくなるためと推測される。
即ち、本発明のアイオノマー組成物では、分子内の水酸基の数が6個以上である糖アルコールよりも分子量が小さい糖アルコール(B)を用いているため、分子内の水酸基の数が6個以上である糖アルコールを用いた場合と比較して帯電防止性が向上し、既述のとおり、ある程度高い帯電防止性が維持される。
【0025】
前記糖アルコール(B)の分子量は、分子内に水酸基を4個又は5個有する糖アルコールがとり得る分子量であれば特に限定はないが、高温保管時の帯電防止性の劣化抑制と、アイオノマー組成物の帯電防止性向上と、をより効果的に両立させる観点からは、100〜170が好ましい。
【0026】
また、本発明における、分子内に水酸基を4個又は5個有する糖アルコール(B)は、室温(例えば25℃。以下同じ。)で固体である。
これにより、室温で固体であるカリウムアイオノマー(A)との混合を、通常のポリマーブレンドと同様の手法により、簡易に行うことができる。
前記糖アルコール(B)の融点には特に限定はないが、50℃以上であることが好ましい。即ち、前記糖アルコール(B)は、室温を含めた50℃未満の温度領域で固体であることが好ましい。
【0027】
前記糖アルコール(B)としては、分子内に水酸基を4個又は5個を有する糖アルコールの少なくとも1種であれば特に限定はないが、本発明の効果をより効果的に奏する観点から、テトリトール及びペンチトールの少なくとも一方であることが好ましい。
前記テトリトール(分子量122)としては、エリスリトール(融点121℃;「エリトリトール」ともいう)、D−トレイトール(融点88℃)、L−トレイトール(融点87〜90℃)が挙げられる。
前記ペンチトール(分子量152)としては、キシリトール(融点93〜95℃(単斜晶)、融点61〜62℃(斜方晶))、リビトール(融点102℃;「アドニトール」ともいう)、D−アラビニトール(融点103℃;「D−アラビトール」ともいう)、L−アラビニトール(融点103℃;「L−アラビトール」ともいう)が挙げられる。
上記のうち、工業的生産されており、入手が容易である点では、テトリトールではエリスリトールが、ペンチトールではキシリトールが優れている。
【0028】
前記糖アルコール(B)としては、アイオノマー組成物の帯電防止性をより向上させる観点からは、テトリトールであるか、又は、テトリトール及びペンチトール(混合物)であることが好ましい。
前記糖アルコール(B)がテトリトール及びペンチトール(混合物)である場合、テトリトール及びペンチトールの合計量に対するテトリトールの含有量には特に限定はないが、帯電防止性向上の観点から、前記テトリトールの含有量は、20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
帯電防止性向上の観点からは、前記糖アルコール(B)が、テトリトール(最も好ましくはエリスリトール)であることが特に好ましい。
【0029】
本発明のアイオノマー組成物中における前記糖アルコール(B)(B成分)の含有量(2種以上である場合には総含有量。以下同じ。)は、0.1質量%〜50質量%である。ここで、B成分の含有量が0.1質量%以上であることは、アイオノマー組成物中にB成分が実質的に含まれていることを意味する。
B成分の含有量は、帯電防止性をより向上させる観点からは、1質量%〜45質量%が好ましく、1質量%〜35質量%がより好ましく、2質量%〜25質量%が更に好ましい。
【0030】
<その他の成分>
本発明のアイオノマー組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記A成分及び前記B成分以外のその他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、酸化防止剤、老化防止剤、光安定剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、ブロッキング防止剤、可塑剤、粘着剤、無機充填剤、ガラス繊維、カーボン繊維等の強化繊維、顔料、染料、難燃剤、難燃助剤、発泡剤、発泡助剤、ダイマー酸(又はその金属塩)などを挙げることができる。
但し、本発明の効果をより効果的に奏する観点からは、前記A成分及び前記B成分の合計量は、アイオノマー組成物全量に対し、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。
【0031】
本発明のアイオノマー組成物のJIS K7210−1999(190℃、2160g荷重)に準拠したメルトフローレート(MFR)は、0.01〜1000g/10分が好ましく、0.1〜100g/10分がより好ましい。
【0032】
<製造方法>
本発明のアイオノマー組成物を製造する方法としては特に制限はなく、カリウムアイオノマー(A)と糖アルコール(B)と(必要に応じその他の成分と)を混合(例えば溶融混合)する工程を有する製造方法を用いることができる。前記混合は、公知の混合装置(例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練装置)を用い、既述のとおり簡易な方法により行うことができる。
本発明のアイオノマー組成物は、例えば溶融混合により製造した後、溶融状態のまま用いることもできるし、必要に応じ冷却固化(例えばペレット化)して用いることもできる。
【0033】
≪高分子型帯電防止剤、重合体組成物、成形体≫
本発明の高分子型帯電防止剤は、本発明のアイオノマー組成物を有効成分として含む。
即ち、既述の本発明のアイオノマー組成物は、例えば、前記カリウムアイオノマー(A)以外の熱可塑性樹脂(詳細は後述する)に添加されるか、前記熱可塑性樹脂にコーティング又は積層される高分子型帯電防止剤として好ましく用いられる。これにより、前記熱可塑性樹脂の帯電防止性を向上させることができる。
本発明のアイオノマー組成物(高分子型帯電防止剤)を前記熱可塑性樹脂に添加する方法には特に制限はないが、例えば、前記アイオノマー組成物を溶融混合により製造した後ペレット化し、ペレット化された前記アイオノマー組成物と他の熱可塑性樹脂とを溶融混合する方法が挙げられる。また、本発明のアイオノマー組成物を溶融混合により製造した後(または製造中に)、溶融状態のまま他の熱可塑性樹脂と溶融混合してもよい。
また、本発明のアイオノマー組成物(高分子型帯電防止剤)を、前記熱可塑性樹脂にコーティング又は積層する方法には特に制限はなく、押出しコーティング成形、共押出し成形、多層インフレーション成形、サンドイッチラミネート成形等の公知の方法を用いることができる。これらのコーティング又は積層の際には、カリウムアイオノマーと分子内の水酸基の数が3個である糖アルコールとの混合物を他の熱可塑性樹脂にコーティング又は積層する場合と比較して、糖アルコールの揮発(更には帯電防止性の低下)が抑制される。
【0034】
本発明の重合体組成物は、本発明のアイオノマー組成物(又は高分子型帯電防止剤)と、前記カリウムアイオノマー(A)以外の熱可塑性樹脂と、を含む。
前記熱可塑性樹脂としては特に制限はなく、例えば、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリオレフィンエラストマー、各種ゴム等が挙げられる。
前記スチレン系樹脂、前記ポリアミド、前記ポリエステルとしては、例えば、特許第3474285号公報の段落0018〜0020に記載されたものを用いることができる。
【0035】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン(高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、等)、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体、等が挙げられる。
【0036】
前記熱可塑性樹脂のJIS K7210−1999(190℃、2160g荷重)に準拠したメルトフローレート(MFR)は、0.01〜1000g/10分が好ましく、0.1〜100g/10分がより好ましい。
【0037】
前記熱可塑性樹脂としては、本発明のアイオノマー組成物との相溶性の観点から、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、中でも、前記カリウムアイオノマー(A)以外のエチレン系重合体が好ましい。
ここで、エチレン系重合体は、エチレンに由来する構造単位を少なくとも含む重合体を指し、具体的には、ポリエチレン(高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、等)、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン・不飽和カルボン酸・不飽和カルボン酸エステル共重合体、等が挙げられる。
【0038】
本発明の重合体組成物において、前記アイオノマー組成物及び前記熱可塑性樹脂(好ましくはエチレン系重合体)の質量比には特に制限はなく、例えば、前記アイオノマー組成物及び前記熱可塑性樹脂の合計量を100質量%としたとき、前記アイオノマー組成物が1質量%〜99.5質量%であり前記熱可塑性樹脂が99質量%〜0.5質量%である質量比とすることができ、前記アイオノマー組成物が1質量%〜50質量%であり前記熱可塑性樹脂が99質量%〜50質量%である質量比が好ましい。更には、前記アイオノマー組成物が2質量%〜40質量%であり前記熱可塑性樹脂が98質量%〜60質量%である質量比がより好ましく、前記アイオノマー組成物が5質量%〜30質量%であり前記熱可塑性樹脂が95質量%〜70質量%である質量比が特に好ましい。
【0039】
本発明の重合体組成物は、インフレーション成形、キャスト成形、射出成形、プレス成形等の成形方法によりそのまま成形して用いることができる。また、本発明の重合体組成物は、押出しコーティング成形、共押出し成形、多層インフレーション成形、サンドイッチラミネート成形等の成形方法により、他の熱可塑性樹脂にコーティング又は積層して用いることもできる。
これらの成形の際には、カリウムアイオノマーと分子内の水酸基の数が3個である糖アルコールとの混合物を用いた場合と比較して、糖アルコールの揮発(更には帯電防止性の低下)が抑制される。よって、より高い成形温度での成形も可能である。
【0040】
本発明の成形体は、本発明の重合体組成物を含んで構成されたものであり、本発明の重合体組成物を用いて成形されたものであること以外は特に制限はない。成形体の形状にも特に制限はなく、フィルム形状(シート形状)、容器形状、及び各種部品の形状をはじめとするあらゆる形状とすることができる。成形方法の例については前述したとおりである。
【0041】
本発明のアイオノマー組成物(及び高分子型帯電防止剤)は帯電防止性に優れ、かつ、高温保管時等の帯電防止性の劣化が抑制されているため、本発明のアイオノマー組成物(又は高分子型帯電防止剤)を用いた本発明の重合体組成物又は成形体は、具体的には、天井材、床材等の建築、土木材料;自動車部品;OA機器;電気・電子部品、家電製品部品、またはそれらの保管・収納ケース;文具;各種フィルム;その他の日用品などに広く使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。また、「MFR」は、JIS K7210−1999に準拠して測定された、190℃、2160g荷重でのメルトフローレート(単位:g/10分)である。また、湿度を示す「%」は、相対湿度(%RH)である。
【0043】
〔実験例1〕
≪アイオノマー組成物の帯電防止性の評価≫
下記アイオノマー組成物1〜4を作製し、表面抵抗率を測定することにより、各アイオノマー組成物の帯電防止性の評価を行った。
詳細を以下に示す。
【0044】
<アイオノマー組成物1の作製>
下記カリウムアイオノマー1(以下、「K−IO1」ともいう)及び固体(粉体)のエリスリトール(三菱化学フーズ(株)製;テトリトール)をドライブレンドした後、押出機内に投入し、この押出機内でK−IO1とエリスリトールとを、樹脂温度200℃の条件で溶融混合し、アイオノマー組成物1を得た。
上記アイオノマー組成物1において、K−IO1とエリスリトールとの混合質量比は、K−IO1:エリスリトール=90:10とした。
【0045】
−カリウムアイオノマー1(K−IO1)−
エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含量86質量%、メタクリル酸含量14質量%)のカリウムアイオノマー〔中和度87%、MFR=1.0/10分、カリウムアイオノマー1kg当たりのカリウム含有量1.3mol〕
【0046】
<アイオノマー組成物2の作製>
上記アイオノマー組成物1の作製において、固体(粉体)のエリスリトールを同質量の固体(粉体)のキシリトール(物産フードサイエンス(株)製;ペンチトール)に変更したこと以外はアイオノマー組成物1の作製と同様にしてアイオノマー組成物2を作製した。
【0047】
<アイオノマー組成物3(比較用)の作製>
上記アイオノマー組成物1の作製において、固体(粉体)のエリスリトールを同質量の固体(粉体)のソルビトール(物産フードサイエンス(株)製;ヘキシトール)に変更したこと以外はアイオノマー組成物1の作製と同様にしてアイオノマー組成物3(比較用)を作製した。
【0048】
<アイオノマー組成物4(比較用)の作製>
液温80℃に加温されたジグリセリンを、前記K−IO1が投入された押出機内に送液ポンプによって送液し、この押出機内で、樹脂温度200℃の条件にてK−IO1とジグリセリンとを溶融混合し、アイオノマー組成物4(比較用)を得た。
上記アイオノマー組成物4(比較用)において、K−IO1とジグリセリンとの混合質量比は、K−IO1:ジグリセリン=90:10とした。
【0049】
<帯電防止性の評価(表面抵抗率の測定)>
上記アイオノマー組成物1〜4のそれぞれについて、以下のようにして表面抵抗率測定用のサンプルを作製した。
【0050】
(表面抵抗率測定用のサンプルの作製)
各アイオノマー組成物を、それぞれ180℃で加圧成形し、厚さ0.2mmのシート(表面抵抗率測定用のサンプル)とした。
【0051】
(表面抵抗率の測定)
表面抵抗率測定用の各サンプルを、下記表1に示す各測定条件下で24時間以上保管した。
保管後、各測定条件下において、下記の条件でサンプルの表面抵抗率〔Ω/□〕を測定し、帯電防止性を評価した。評価結果を下記表1に示す。
この評価では、表面抵抗率が小さいほど帯電防止性に優れていることを示している(以下、同様である)。
−電気抵抗測定条件−
・測定使用機器:三菱化学社製、Hiresta-UP MCP-HT450、MCP-JB03
・測定モード:表面抵抗(Surface Resistivity)
・プローブ:JIS/ASTM (JボックスUタイプ)
・印加電圧:500V
・印加時間:10秒
・測定限界(測定上限値):1.0×10
14Ω/□
【0052】
【表1】
【0053】
〜表1の説明〜
表面抵抗率(Ω/□)欄の「1.9E+09」等の表記は、1.9×10
9等を表し、、「<1.0E+08」の表記は、表面抵抗率が1.0×10
8Ω/□未満であることを示す(以下、同様である)。
【0054】
表1に示すように、送液ポンプを用いず固体の糖アルコールを用いて簡易に作製されたアイオノマー組成物1(エリスリトール含有)及びアイオノマー組成物2(キシリトール含有)では、加温されたジグリセリンを送液ポンプによって押出機に送液する方法によって作製されたアイオノマー組成物4(比較用;ジグリセリン含有)と同等又は同等以上の帯電防止性を示した。アイオノマー組成物1では、特に優れた帯電防止性を示した。
また、アイオノマー組成物3(比較用;ソルビトール含有)は、アイオノマー組成物1及び2と比較して帯電防止性に劣っていた。
【0055】
〔実験例2〕
≪インフレーションフィルムの帯電防止性の評価≫
各種のアイオノマー組成物とエチレン系重合体とを溶融混合して重合体組成物を作製し、得られた重合体組成物をインフレーション法によって成形してインフレフィルム1〜3を作製した。インフレフィルム1〜3の表面抵抗率を測定することにより、各種のアイオノマー組成物による帯電防止性(高温保管時の帯電防止性を含む)の評価を行った。
詳細を以下に示す。
【0056】
<インフレフィルム1の作製>
上記実験例1におけるアイオノマー組成物1(エリスリトール含有)とエチレン系重合体とを溶融混合して重合体組成物を作製し、得られた重合体組成物をインフレーション法により成形してインフレフィルム1を得た。
詳細には、エチレン系重合体としてのメタロセン直鎖状低密度ポリエチレン((株)プライムポリマー製のエボリューSP2320、密度=920kg/m
3、MFR=1.9g/10分;以下、「LLDPE1」ともいう)(80部)と、上記アイオノマー組成物1(20部)と、をインフレーション成形機に投入し、溶融混合して重合体組成物とし、この重合体組成物をインフレーション法によりフィルム状に加工し、インフレフィルム1とした。このときの加工温度(溶融混合時及び押し出し時の樹脂温度)は、200℃とした。
【0057】
<インフレフィルム2の作製>
上記インフレフィルム1の作製において、アイオノマー組成物1(エリスリトール含有)を、同質量の上記実験例1におけるアイオノマー組成物4(ジグリセリン含有;比較用)に変更したこと以外は上記インフレフィルム1の作製と同様にして、インフレフィルム2を作製した。
【0058】
<インフレフィルム3の作製>
(アイオノマー組成物5(グリセリン含有;比較用)の作製)
前記カリウムアイオノマー1(K−IO1)が投入された押出機内にグリセリン(液温60℃)を送液ポンプによって送液し、この押出機内で、K−IO1及びグリセリンを溶融混合し、アイオノマー組成物5(グリセリン含有;比較用)を得た。
上記アイオノマー組成物5(グリセリン含有;比較用)において、K−IO1とグリセリンとの混合質量比は、K−IO1:グリセリン=90:10とした。
【0059】
(インフレフィルム3の作製)
上記インフレフィルム1の作製において、アイオノマー組成物1(エリスリトール含有)を、同質量の上記アイオノマー組成物5(グリセリン含有;比較用)に変更したこと以外は上記インフレフィルム1の作製と同様にして、インフレフィルム3を作製した。但し、このときの加工温度(溶融混合時及び押し出し時の樹脂温度)は、グリセリンの揮発を防止するために、他のアイオノマー組成物の作製における樹脂温度(200℃)よりも低い180℃とした。
【0060】
<帯電防止性(高温保管時の帯電防止性を含む)の評価>
上記の各インフレフィルムを、下記表2に示す各エージング条件(条件A〜E)でエージングし、エージング後、下記表2に示す各測定条件下で保管した。
保管後、各測定条件下において、各インフレフィルムの表面抵抗率〔Ω/□〕及び帯電減衰時間(秒)の測定を行い、帯電防止性(高温保管時の帯電防止性を含む)を評価した。
評価結果を下記表2に示す。
ここで、表面抵抗率〔Ω/□〕の測定条件は実験例1における測定条件と同様である。
帯電減衰時間(秒)の測定は以下のようにして行った。
【0061】
(帯電減衰時間(秒)の測定)
上記各条件におけるエージング及び各測定条件下での保管の後、各測定条件下で、各インフレフィルムのMD方向(マシンディレクション方向)に印加電圧±5000Vにて電圧を印加した。
印加後、インフレフィルムの表面電圧が、印加直後の値から、印加直後の値の10%の値にまで減衰する時間(帯電減衰時間(秒))を、電荷減衰測定器(Model 406D Static Delay Meter、Electro-Tech Systems Inc製)を用いて測定した。
この測定結果は、帯電減衰時間(秒)が短いほど帯電防止性に優れていることを示している。
【0062】
【表2】
【0063】
〜表2の説明〜
・「8h」、「24h」、及び「48h」は、それぞれ、8時間、24時間、及び48時間を示している。
・条件B及びDでは、湿度の調整を行わずにエージングを行った。
・帯電減衰時間(秒)欄の「1>」の表記は、帯電減衰時間(秒)が1秒未満であったことを示している。
【0064】
表2に示すように、アイオノマー組成物1(エリスリトール含有)を用いたインフレフィルム1では、アイオノマー組成物4(ジグリセリン含有;比較用)を用いたインフレフィルム2(比較用)よりも低い表面抵抗率及び短い帯電減衰時間を示し、インフレフィルム2(比較用)と比較して帯電防止性に優れていた。
更に、インフレフィルム1では、高温条件(条件D及びE)のエージング後においても、低温条件(例えば条件A)のエージング後と同程度の表面抵抗率を示し、高温保管時の帯電防止性にも優れていた。
一方、アイオノマー組成物5(グリセリン含有;比較用)を用いたインフレフィルム3(比較用)では、エージング条件が高温になるにつれて(条件A→C→D)表面抵抗率が上昇し、高温保管により帯電防止性が劣化した。この現象は、高温保管時におけるグリセリンの揮発によるものと考えられる。
【0065】
〔実験例3〕
≪エリスリトール含有量依存性≫
上記K−IO1及びエリスリトールを、ラボプラストミルを用いて下記表3に示す各質量比で溶融混合し、各質量比のアイオノマー組成物をそれぞれ作製した。
得られた各アイオノマー組成物を、それぞれ180℃で加圧成形し、厚さ0.2mmのシート(サンプル)とした。
得られたサンプルを23℃及び12%RHの条件で24時間以上保管した後、この条件下にて実験例1と同様の方法により、表面抵抗率を測定した。
測定結果を下記表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
〜表3の説明〜
各成分の比率(質量%)は、K−IO1及びエリスリトールの合計量を100質量%としたときの比率(質量%)である。
【0068】
表3に示すように、エリスリトールの含有量が50質量%以下の領域で、10
10Ω/□オーダー以下の低い表面抵抗率を示した。