特許第5917993号(P5917993)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5917993
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂を含む接合体
(51)【国際特許分類】
   H05K 7/20 20060101AFI20160428BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20160428BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20160428BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   H05K7/20 F
   H01L23/36 D
   B32B27/30 A
   C08L33/08
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-95994(P2012-95994)
(22)【出願日】2012年4月19日
(65)【公開番号】特開2013-225540(P2013-225540A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴻上 亜希
(72)【発明者】
【氏名】萩原 一男
(72)【発明者】
【氏名】大熊 敬介
【審査官】 遠藤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−053331(JP,A)
【文献】 特開2009−234112(JP,A)
【文献】 特開2006−241333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 7/20
B32B 27/30
C08L 33/08
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体および/または放熱体と熱伝導性樹脂からなり、該熱伝導性樹脂が以下のものであることを特徴とする接合体。
1)該熱伝導性樹脂のSUS基板に対する180度剥離強度が0.10N/25mm以上0.50N/25mm以下である、
2)該熱伝導性樹脂が、硬化性アクリル系樹脂(I)と熱伝導性充填材(II)とを少なくとも含有する、23℃での粘度が30Pa・s以上3000Pa・s以下である熱伝導性硬化性樹脂組成物を、湿気または加熱によって硬化して得られたものである、
3)発熱体−放熱体間に該熱伝導性樹脂を塗布し、湿気または加熱によって硬化させた後に発熱体および/または放熱体から剥離させる際は接着界面で界面剥離するものである、
4)該接合体中の該熱伝導性樹脂上に、あらたに該熱伝導性硬化性樹脂組成物を直接吐塗し、湿気または加熱により硬化させることが可能である。
【請求項2】
硬化性アクリル系樹脂(I)が、アクリル酸ブチルを用いて得られるものであることを特徴とする、請求項1記載の接合体。
【請求項3】
熱伝導性充填材(II)が、アルミナまたは水酸化アルミナを含むものであることを特徴とする、請求項1記載の接合体。
【請求項4】
熱伝導性樹脂が、さらに硬化性ポリエーテル系樹脂を含むものであることを特徴とする、請求項1記載の接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パソコン、携帯電話、PDA等の電子機器や、LED、EL等の照明及び表示機器等、種々の発熱体から効率的に放熱を行なうための放熱性熱伝導性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話、PDA等の電子機器や、LED、EL等の照明及び表示機器等の性能向上は著しく、それは演算素子や発光素子の著しい性能向上によっている。この様に演算素子や発光素子の性能向上に伴い発熱量も著しく増加し、電子機器、照明、表示機器における放熱をどの様に行うかが重要な課題になっている。熱対策として、演算素子や発光素子の発生する熱をロス無く放熱体に伝え、放熱体を通じて放熱するために、発熱体と放熱体との間に熱伝導性材料層(Thermal Interface Materials:TIM)を設ける対策が重要である。
【0003】
この熱伝導性材料層として、特許文献1には架橋性官能基を有する硬化性アクリル系樹脂と熱伝導性充填材からなる熱伝導性材料が開示されている。この熱伝導性材料は、高い熱伝導率を有するだけでなく、硬化前は流動性を有するため、シート状やゲル状の熱伝導性材料と異なり、凸凹形状の発熱体と放熱体の間でも良好な密着性を有することができ、使用時の剥がれ落ちやエアギャップ等に起因する接触熱抵抗の上昇を抑制することができる。また、室温で硬化するため、グリース状熱伝導性材料の課題である系外への経時的な流出がないことや、シリコーン系熱伝導性材料の課題である発熱体電子部品の接点障害の原因である低分子シロキサン成分や環状シロキサン成分が揮発する可能性がないことといった長期安定性に優れる材料であった。
【0004】
一方、熱伝導性材料の加工面においては、作業現場や保守現場における取り扱いや作業性が挙げられ、特に、修理や点検、部品交換の際に施工した熱伝導性材料層を取り外す作業(リペア工程)については、発熱体や放熱体から容易に剥離できること、熱伝導性材料が一部残存しても打ち継ぎにより性能が劣化することなく利用可能であることが求められている。
【0005】
このような熱伝導性材料の打ち継ぎや剥離性については、例えば特許文献2には硬化性シリコーン系樹脂の接着方法が、特許文献3には剥離性が改善された硬化性シリコーン系樹脂について開示されている。しかしながら、シリコーン組成物であることから、前述した低分子シロキサン成分の揮発という問題点があった。また、特許文献4には架橋性官能基を有する硬化性液状樹脂からなるプライマー組成物に関する技術が開示されている。この技術を用いることで打ち継ぎ時の密着性を向上することが予測できるが、プライマーを塗布する工程を設ける必要があり、生産性が低下するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−53331号公報
【特許文献2】特許第454716号
【特許文献3】特開2006−96986号公報
【特許文献4】特開2002-363484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、発熱体と放熱体との間に用いられる熱伝導性材料層に対して、基材との剥離性に優れ、かつ残留した熱伝導性材料に対して良好な接着性を有する熱伝導性硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有するものである。
【0009】
発熱体および/または放熱体と熱伝導性樹脂からなり、該熱伝導性樹脂が以下のものであることを特徴とする接合体。
1)該熱伝導性樹脂のSUS基板に対する180度剥離強度が0.05N/25mm以上1N/25mm以下である、
2)該熱伝導性樹脂が、硬化性アクリル系樹脂(I)と熱伝導性充填材(II)とを少なくとも含有する、23℃での粘度が30Pa・s以上3000Pa・s以下である熱伝導性硬化性樹脂組成物を、湿気または加熱によって硬化して得られたものである、
3)発熱体-放熱体間に該熱伝導性樹脂を塗布し、湿気または加熱によって硬化させた後に発熱体および/または放熱体から剥離させる際は接着界面で界面剥離するものである、
4)該接合体中の該熱伝導性樹脂上に、あらたに該熱伝導性硬化性樹脂組成物を直接吐塗し、湿気または加熱により硬化させることが可能である。
【0010】
本発明においては、上記硬化性アクリル系樹脂(I)が、アクリル酸ブチルを用いて得られるものであることが好ましい。また本発明においては、上記熱伝導性充填材(II)が、アルミナまたは水酸化アルミナを含むものであることが好ま
しい。また本発明においては、上記熱伝導性樹脂が、さらに硬化性ポリエーテル系樹脂を含むものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱伝導性材料は、電子・電気機器や照明、表示機器等において発熱体から放熱体へ効率的な放熱が必要とされる部位に好適に用いることができる。また、修理や点検、部品交換の際に容易に熱伝導性材料を剥離・打ち継ぎすることができるため、作業時間の短縮や繰返し部品を使用できる等といった利点を有する。更に、打ち継いだ複合体の熱伝導率は打ち継ぎ前の熱伝導性材料と同等の結果を示すため、打ち継ぎ後も発熱体から放熱体への放熱性能の低下が見られないという利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<熱伝導性硬化性樹脂組成物>
熱伝導性硬化性樹脂組成物は、硬化性液状樹脂(I)と、熱伝導性充填材(II)とを少なくとも含有する熱伝導性硬化性樹脂組成物が用いられる。これらの他に必要に応じて、硬化性液状樹脂を硬化させるための硬化触媒、熱老化防止剤、可塑剤、増量剤、チクソ性付与剤、貯蔵安定剤、脱水剤、カップリング剤、紫外線吸収剤、難燃剤、電磁波吸収剤、充填剤、溶剤、等が添加されていても良い。
【0013】
<硬化性液状樹脂(I)>
硬化性液状樹脂は、分子内に反応性基を有し硬化性がある液状樹脂が好ましい。硬化性液状樹脂の具体例としては、硬化性アクリル系樹脂や硬化性メタクリル系樹脂、硬化性ポリプロピレンオキサイド系樹脂に代表される硬化性ポリエーテル系樹脂、硬化性ポリイソブチレン系樹脂に代表される硬化性ポリオレフィン系樹脂、等が挙げられる。反応性基としては、エポキシ基、加水分解性シリル基、ビニル基、アクリロイル基、SiH基、ウレタン基、カルボジイミド基、無水カルボン酸基とアミノ基との組合せ、等各種の反応性官能基を用いることができる。これらが2種類の反応性基の組合せ、あるいは反応性基と硬化触媒との反応、により硬化する場合には、2液型組成物として準備した後、基板や発熱体へ塗布する際に2液を混合することにより、硬化性を得ることができる。あるいは加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂の場合には、空気中の湿気と反応して硬化できることから、一液型室温硬化性組成物とすることも可能である。ビニル基とSiH基とPt触媒との組合せの場合や、ラジカル開始剤とアクリロイル基の組み合わせ、等の場合には、一液型硬化性組成物あるいは二液型硬化性組成物とした後、架橋温度にまで加熱させたり、紫外線や電子線等の架橋エネルギーを付与したりすることにより、硬化させることもできる。一般的には、放熱構造体全体をある程度加熱するのが容易である場合には、加熱硬化型組成物を用いるのが好ましく、放熱構造体の加熱が困難である場合には、二液型硬化性組成物とするか、湿気硬化型組成物とするのが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0014】
硬化性液状樹脂の中でも、低分子量シロキサンによる電子機器内汚染の問題が少ないこと、耐熱性に優れていること等から、硬化性アクリル系樹脂または硬化性ポリプロピレンオキサイド系樹脂を用いるのが好ましい。硬化性アクリル系樹脂としては、公知のさまざまな反応性アクリル樹脂を用いることができる。これらの中でも、分子末端に反応性基を有するアクリル系オリゴマーを用いるのが好ましい。これら硬化性アクリル系樹脂としては、リビングラジカル重合、特に原子移動ラジカル重合にて製造された硬化性アクリル系樹脂と、硬化触媒との組合せを最も好ましく用いることができる。このような樹脂の例として、(株)カネカ製カネカXMAPが良く知られている。また、硬化性ポリプロピレンオキサイド系樹脂としては、公知の様々な反応性ポリプロピレンオキサイド樹脂を用いることができ、例えば、(株)カネカ製カネカMSポリマーを挙げることができる。これら硬化性液状樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上併用して使用しても良い。
【0015】
<熱伝導性充填材>
熱伝導性硬化性樹脂組成物に用いられる熱伝導性充填材(II)としては、市販されている一般的な良熱伝導性充填材を用いることが出来る。なかでも、熱伝導率、入手性、絶縁性や電磁波シールド性や電磁波吸収性等の電気特性を付与可能、充填性、毒性、等種々の観点から、グラファイト、ダイヤモンド、等の炭素化合物;酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の金属窒化物;炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化ケイ素等の金属炭化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩;結晶性シリカ:アクリロニトリル系ポリマー焼成物、フラン樹脂焼成物、クレゾール樹脂焼成物、ポリ塩化ビニル焼成物、砂糖の焼成物、木炭の焼成物等の有機性ポリマー焼成物;Znフェライトとの複合フェライト;Fe−Al−Si系三元合金;金属粉末、等が好ましく挙げられる。
【0016】
さらに、入手性や熱伝導性の観点から、グラファイト、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、結晶化シリカがより好ましく、グラファイト、α―アルミナ、六方晶窒化ホウ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、Mn−Zn系ソフトフェライト、Ni−Zn系ソフトフェライト、Fe−Al−Si系三元合金(センダスト)、カルボニル鉄、鉄ニッケル合金(パーマロイ)がより好ましく、球状化グラファイト、丸み状あるいは球状のα―アルミナ、球状化六方晶窒化ホウ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、Mn−Zn系ソフトフェライト、Ni−Zn系ソフトフェライト、球状Fe−Al−Si系三元合金(センダスト)、カルボニル鉄、が特に好ましい。本発明でカルボニル鉄を用いる場合には、還元カルボニル鉄粉であることが望ましい。還元カルボニル鉄粉とは、標準グレードではなく、還元グレードに分類されるカルボニル鉄粉であり、標準グレードに比べ、カーボンと窒素の含有量が低いことが特徴である。
【0017】
また、これらの熱伝導性充填材は、樹脂に対する分散性が向上する点から、シランカップリング剤(ビニルシラン、エポキシシラン、(メタ)アクリルシラン、イソシアナートシラン、クロロシラン、アミノシラン等)やチタネートカップリング剤(アルコキシチタネート、アミノチタネート等)、又は、脂肪酸(カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の飽和脂肪酸、ソルビン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸等)や樹脂酸(アビエチン酸、ピマル酸、レボピマール酸、ネオアピチン酸、パラストリン酸、デヒドロアビエチン酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、コルム酸、セコデヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸等)等により、表面が処理されたものであることが好ましい。
【0018】
このような熱伝導性充填材の使用量としては、本発明の樹脂組成物から得られる熱伝導性材料の熱伝導率を高くすることができる点から、熱伝導性充填材の容積率(%)が全組成物中の25容量%以上となることが好ましい。25容量%よりも少ない場合は、熱伝導性が十分でなくなる傾向がある。さらに高い熱伝導率を望む場合は、熱伝導性充填材の使用量を、全組成物中の30容量%以上とすることがより好ましく、40容量%以上とすることがさらに好ましく、50容量%以上とすることが特に好ましい。また熱伝導性充填材の容積率(%)が全組成物中の90容量%以下となることが好ましい。90容量%よりも多い場合は、硬化前の熱伝導性硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎることがある。
【0019】
ここで熱伝導性充填材の容積率(%)とは、樹脂分及び熱伝導性充填材のそれぞれの重量分率と比重から算出されるものであり、次式により求められる。なお、次式においては、熱伝導性充填材を単に「充填材」と記載した。
充填材容積率(容量%)=(充填材重量比率/充填材比重)÷[(樹脂分重量比率/樹脂分比重)+(充填材重量比率/充填材比重)]×100
ここで、樹脂分とは、熱伝導性充填材を除いた全成分を指す。
【0020】
また、樹脂に対する熱伝導性充填材の充填率を高める1手法として、粒子径の異なる熱伝導性充填材を2種類以上併用することが好適である。この場合、粒子径の大きい熱伝導性充填材と、粒子径の小さい熱伝導性充填材との粒径比を100/5〜100/20程度とすることが好ましい。
【0021】
またこれら熱伝導性充填材は、同一種類の熱伝導性充填材だけでなく、種類の異なる2種以上を併用することもできる。また本発明の効果を妨げない程度に、熱伝導性充填材以外の各種充填材を必要に応じて用いても良い。熱伝導性充填材以外の各種充填材としては、特に限定されないが、木粉、パルプ、木綿チップ、アスベスト、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、クルミ殻粉、もみ殻粉、ケイソウ土、白土、シリカ(ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、溶融シリカ、ドロマイト、無水ケイ酸、含水ケイ酸、非晶質球形シリカ等)、カーボンブラックのような補強性充填材;ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、アルミニウム微粉末、フリント粉末、活性亜鉛華、亜鉛末、炭酸亜鉛およびシラスバルーン、ガラスミクロバルーン、フェノール樹脂や塩化ビニリデン樹脂の有機ミクロバルーン、PVC粉末、PMMA粉末等の樹脂粉末等の充填材;石綿、ガラス繊維およびガラスフィラメント、炭素繊維、ケブラー繊維、ポリエチレンファイバー等の繊維状充填材等が挙げられる。 これら充填材のうちでは沈降性シリカ、ヒュームドシリカ、溶融シリカ、ドロマイト、カーボンブラック、酸化チタン、タルク等が好ましい。なおこれら充填材の中には、わずかに熱伝導性充填材としての機能を有しているものもあり、また炭素繊維、各種金属粉、各種金属酸化物、各種有機繊維のように、組成、合成方法、結晶化度、結晶構造によっては優れた熱伝導性充填材として使用可能となるものもある。
【0022】
<熱伝導性硬化性樹脂組成物の硬化前粘度>
熱伝導性硬化性樹脂組成物は、室温における硬化前の粘度が30Pa・s以上の流動性を有するが比較的高粘度な樹脂組成物を塗布することが好ましい。硬化前の粘度が30Pa・s未満程度の低粘度であると、塗布後に発熱体と放熱体との間の硬化物が流失してしまう等して、塗布時の作業性が低下してしまうという課題が生じる。硬化前の粘度は好ましくは40Pa・s以上、より好ましくは50Pa・s以上である。硬化前の粘度は、23℃雰囲気下でBH型粘度計を用いて2rpmの条件で測定した値を用いる。硬化前の粘度の上限値に特に制限は無いが、あまり粘度が高すぎると、塗布が困難となったり、塗布時に空気を巻き込んでしまい熱伝導性を低下させる一因となったりする場合があるため、一般的には3000Pa・s以下、好ましくは2000Pa・s以下のものが用いられる。
【0023】
<熱伝導性材料>
本発明の熱伝導性材料は、本発明の熱伝導性硬化性樹脂組成物を常温放置または加熱して硬化させることにより容易に製造することができる。また、スピンコート法、ロールコート法、ディッピング法、スプレー法等の公知の塗布方法やディスペンサーを用いた注入方法等により、発熱体と放熱体の間に施工することができる。熱伝導性材料の形状は特に限定されず、シート状、テープ状、短冊状、円盤状、円環状、ブロック状、不定形が例示される。
【0024】
本発明の熱伝導性材料は、発熱体と放熱体を有する部材であれば特に限定するものではなく、例えば電子・電気機器、照明部材、表示機器、精密機械、自動車等に使用できる。特に、電子機器の中でも携帯電話、スマートフォン、ノートパソコン、タブレット端末等の小型モバイル機器に好適である。
【0025】
<熱伝導性材料の熱伝導率>
熱伝導性材料は、熱を効率的に外部に伝える必要があることから、熱伝導性が高いことが求められる。熱伝導率は具体的には0.7W/mK以上、好ましくは0.8W/mK以上、さらに好ましくは0.9W/mK以上であるとよい。このような高熱伝導性材料を用いることにより、発熱体が空気と接している場合と比較して、発熱体の熱を効率よく逃がすことが可能となる。
【0026】
<熱伝導性材料の硬度>
熱伝導性材料の硬度は、高温時の熱膨張や歪みを吸収できるように低いことが好ましい。材料間の線膨張率差による剥離やクラックを防ぐため、好ましい硬度はアスカーC型硬度計で10以上99以下、より好ましくは10以上95以下、更に好ましくは20以上90以下である。
【0027】
<熱伝導性材料の180度剥離強度>
熱伝導性材料の剥離強度はJIS Z 0237(粘着テープ、粘着シートの試験方法)に基づいた試験において測定した。熱伝導性材料はSUS304板に対する180°剥離強度(剥離速度300mm/min)が0.05N/25mm以上1.00N/25mm以下、好ましくは0.075N/25mm以上0.75N/25mm以下、より好ましくは0.10N/25mm以上0.50N/25mm以下であることが望ましい。熱伝導性材料の剥離強度が0.10N/25mm以上であれば、発熱体や放熱体との密着力が良く、接触熱抵抗が抑えられるため熱伝導性が向上する。また、剥離強度が1.00N/25mm以下であれば、特に凸凹状の発熱体や放熱体から容易に剥離することができ、作業性が向上する傾向にある。
【0028】
<熱伝導性材料と熱伝導性硬化性樹脂組成物の接着方法>
本発明の熱伝導性硬化性樹脂組成物を熱伝導性材料に接着した状態で硬化させる方法として、本発明の熱伝導性硬化性樹脂組成物を熱伝導性材料に接触させた後、室温で放置する方法、50〜200℃に加熱する方法、紫外線や電子線等の架橋エネルギーを付与する方法が挙げられる。
【0029】
このようにして熱伝導性硬化性樹脂組成物を熱伝導性材料に接着・硬化させてなる複合材料は十分に密着した状態で得られ、取り扱いが良好である。該複合材料の熱伝導率は0.7W/mK以上、好ましくは0.8W/mK以上、さらに好ましくは0.9W/mK以上であるとよい。また、該複合材料のアスカーC型硬度計で10以上99以下、より好ましくは10以上95以下、更に好ましくは20以上90以下である。
【実施例】
【0030】
以下に実施例により発明の実施態様、効果を示すが、本発明はこれに限られるものではない。
【0031】
(熱伝導性材料の硬度)
熱伝導性硬化性樹脂組成物を23℃50%RH条件下で1日養生し、20×20×6mmの硬化物を作製し、アスカーC型硬度計で硬度を測定した。
【0032】
(熱伝導性材料の熱伝導率)
熱伝導性硬化性樹脂組成物を23℃50%RH条件下で1日養生し、厚み3mm、直径20mmの円盤状サンプルを2枚得た。ホットディスク法熱伝導率測定装置TPA−501(京都電子工業(株)製)を用い、4φサイズのセンサーを2枚の試料で挟む方法にて、硬化物の熱伝導率を測定した。
【0033】
(熱伝導性材料の180度剥離強度)
剥離強度はJIS Z 0237(粘着テープ、粘着シートの試験方法)に基づいた試験において測定した。長さ150mm、幅20mm、厚さ25μmのPETフィルムに熱伝導性硬化性樹脂組成物を200μm塗布し、SUS304板に2kgローラー1往復により貼り合わせた。23℃50%RH条件下で1日養生した後、万能引張試験機を用い、剥離角度180度、引張速度300mm/minで剥離試験を行い、剥離強度を測定した。
【0034】
(熱伝導性材料の剥離性)
熱伝導性硬化性樹脂組成物をメモリー基板(MV−DN333−A512M、バッファロー製)上に5g塗布し、23℃50%RH条件下で1日養生した後、5分間の剥離作業を行なったときの熱伝導性材料の残留状況を以下の基準で評価した。
【0035】
○:熱伝導性材料の残留なし
△:一部、熱伝導性材料の残留あり
×:熱伝導性材料が剥離できず、大部分が残留。
【0036】
(熱伝導性材料の接着性)
剥離強度はJIS Z 0237(粘着テープ、粘着シートの試験方法)に基づいた試験において測定した。厚さ25μmのPETフィルムの上に熱伝導性硬化性樹脂組成物を厚さ1mmとなるように塗布し23℃50%RH条件下で1日養生した後、この熱伝導性硬化物上に該熱伝導性硬化性樹脂組成物を1mmの厚さに塗布し、23℃50%RHで1日養生させて接着した。この熱伝導性硬化物の端部を該硬化物層に対して90°の方向(垂直方向)に引っ張ることにより、該熱伝導性硬化物同士の接着性を以下の基準で評価した。
【0037】
○:該熱伝導性硬化物の接着界面で剥離せず硬化物の破壊が生じた(凝集破壊)
×:該熱伝導性硬化物の接着界面で剥離した(界面剥離)。
【0038】
(合成例1)
窒素雰囲気下、250L反応機にCuBr(1.09kg)、アセトニトリル(11.4kg)、アクリル酸ブチル(26.0kg)及び2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル(2.28kg)を加え、70〜80℃で30分程度撹拌した。これにペンタメチルジエチレントリアミンを加え、反応を開始した。反応開始30分後から2時間かけて、アクリル酸ブチル(104kg)を連続的に追加した。反応途中ペンタメチルジエチレントリアミンを適宜添加し、内温70℃〜90℃となるようにした。ここまでで使用したペンタメチルジエチレントリアミン総量は220gであった。反応開始から4時間後、80℃で減圧下、加熱攪拌することにより揮発分を除去した。これにアセトニトリル(45.7kg)、1,7−オクタジエン(14.0kg)、ペンタメチルジエチレントリアミン(439g)を添加して8時間撹拌を続けた。混合物を80℃で減圧下、加熱攪拌して揮発分を除去した。
【0039】
この濃縮物にトルエンを加え、重合体を溶解させた後、ろ過助剤として珪藻土、吸着剤として珪酸アルミ、ハイドロタルサイトを加え、酸素窒素混合ガス雰囲気下(酸素濃度6%)、内温100℃で加熱攪拌した。混合液中の固形分をろ過で除去し、ろ液を内温100℃で減圧下、加熱攪拌して揮発分を除去した。
【0040】
更にこの濃縮物に吸着剤として珪酸アルミ、ハイドロタルサイト、熱劣化防止剤を加え、減圧下、加熱攪拌した(平均温度約175℃、減圧度10Torr以下)。
更に吸着剤として珪酸アルミ、ハイドロタルサイトを追加し、酸化防止剤を加え、酸素窒素混合ガス雰囲気下(酸素濃度6%)、内温150℃で加熱攪拌した。
【0041】
この濃縮物にトルエンを加え、重合体を溶解させた後、混合液中の固形分をろ過で除去し、ろ液を減圧下加熱攪拌して揮発分を除去し、アルケニル基を有する重合体を得た。
【0042】
このアルケニル基を有する重合体、ジメトキシメチルシラン(アルケニル基に対して2.0モル当量)、オルトギ酸メチル(アルケニル基に対して1.0モル当量)、白金触媒[ビス(1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン)白金錯体触媒のキシレン溶液:以下白金触媒という](白金として重合体1kgに対して10mg)を混合し、窒素雰囲気下、100℃で加熱攪拌した。アルケニル基が消失したことを確認し、反応混合物を濃縮して末端にジメトキシシリル基を有するポリ(アクリル酸−n−ブチル)樹脂(I−1)を得た。得られた樹脂の数平均分子量は約26000、分子量分布は1.3であった。樹脂1分子当たりに導入された平均のシリル基の数を1H NMR分析により求めたところ、約1.8個であった。
【0043】
(合成例2)
数平均分子量約2,000のポリオキシプロピレンジオールを開始剤とし、亜鉛ヘキサシアノコバルテートグライム錯体触媒にてプロピレンオキシドの重合を行い、数平均分子量25,500(送液システムとして東ソー製HLC−8120GPCを用い、カラムは東ソー製TSK−GEL Hタイプを用い、溶媒はTHFを用いて測定したポリスチレン換算値)のポリプロピレンオキシドを得た。続いて、この水酸基末端ポリプロピレンオキシドの水酸基に対して1.2倍当量のNaOMeメタノール溶液を添加してメタノールを留去し、更に塩化アリルを添加して末端の水酸基をアリル基に変換した。未反応の塩化アリルを減圧脱揮により除去した。得られた未精製のアリル基末端ポリプロピレンオキシド100重量部に対し、n−ヘキサン300重量部と、水300重量部を混合攪拌した後、遠心分離により水を除去し、得られたヘキサン溶液に更に水300重量部を混合攪拌し、再度遠心分離により水を除去した後、ヘキサンを減圧脱揮により除去した。以上により、末端がアリル基である数平均分子量約25,500の2官能ポリプロピレンオキシドを得た。
【0044】
得られたアリル末端ポリプロピレンオキシド100重量部に対し、触媒として白金含量3wt%の白金ビニルシロキサン錯体イソプロパノール溶液150ppmを添加して、トリメトキシシラン0.95重量部と90℃で5時間反応させ、トリメトキシシリル基末端ポリオキシプロピレン系重合体(I−2)を得た。上記と同様、1H−NMRの測定の結果、末端のトリメトキシシリル基は1分子あたり平均して1.3個であった。
【0045】
(実施例1)
合成例1で得られた樹脂(I−1):100重量部、可塑剤(DIDP(ジェイプラス製)):100重量部、酸化防止剤(Irganox1010(チバ・ジャパン製)):1重量部、熱伝導性充填材(AS−40(アルミナ、昭和電工製)/酸化亜鉛(堺化学製)):1070/500重量部を手混ぜで十分攪拌混練した後に、5Lバタフライミキサーを用いて加熱混練しながら真空に引き脱水した。脱水完了後に冷却し、脱水剤(A171(東レダウコーニングシリコーン製)):4重量部、硬化触媒(ネオデカン酸スズU−50H(日東化成製)):4重量部と混合し、熱伝導性硬化性樹脂組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0046】
(実施例2)
合成例1で得られた樹脂(I−1):100重量部、可塑剤(DIDP):100重量部、酸化防止剤(Irganox1010):1重量部、熱伝導性充填材(BF−083(水酸化アルミナ、日本軽金属製)/酸化亜鉛:500/450重量部を手混ぜで十分攪拌混練した後に、5Lバタフライミキサーを用いて加熱混練しながら真空に引き脱水した。脱水完了後に冷却し、脱水剤(A171)):4重量部、硬化触媒(ネオデカン酸スズU−50H):4重量部と混合し、熱伝導性硬化性樹脂組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0047】
(実施例3)
合成例1で得られた樹脂(I−1):90重量部、合成例2で得られた樹脂(I−2):10重量部、可塑剤(DIDP):95重量部、酸化防止剤(Irganox1010):1重量部、熱伝導性充填材(BF−083(水酸化アルミナ、日本軽金属製)/酸化亜鉛:440/100重量部を手混ぜで十分攪拌混練した後に、5Lバタフライミキサーを用いて加熱混練しながら真空に引き脱水した。脱水完了後に冷却し、脱水剤(A171):2重量部、硬化触媒(ネオデカン酸スズU−50H):4重量部と混合し、熱伝導性硬化性樹脂組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1)
熱伝導性硬化性エラストマー(KE3467、信越化学製)を用いて実施例と同様に評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0049】
(比較例2)
熱伝導性硬化性エラストマー(SE4420、東レダウコーニングシリコーン製)を用いて実施例と同様に評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、本発明の熱伝導性硬化性樹脂組成物からなる熱伝導性材料は、180度剥離試験における剥離強度が小さいため、想定する発熱体(実施例ではメモリ基板)上に塗布し、硬化してなる硬化物を容易に剥離することが可能であった。かつ、該熱伝導性硬化物の上から該熱伝導性硬化性樹脂組成物を硬化させた後、90°方向に引っ張っても接着界面による剥離は見られず凝集破壊が生じた。これらのことから、本発明の熱伝導性硬化性樹脂組成物からなる熱伝導性材料は想定する発熱体(実施例ではメモリ基板)との剥離性に優れ、かつ材料同士の接着性を兼ね備えていることが確認された。一方、比較例は熱伝導性硬化性エラストマーの接着界面で凝集破壊が生じることから接着性には優れることが確認されたが、180度剥離強度が1.00N/25mmより大きく、メモリ基板上に硬化物が一部、または大部分残留する結果となり、剥離性が劣り作業性が悪いものであった。更に、打ち継いだ複合体の熱伝導率は打ち継ぎ前の熱伝導性材料と同等の結果を示し、ヒートショック、耐熱試験、JIS C 60068−2−58に準拠したリフロー試験の後でも接着性の低下も見られないため、打ち継ぎ後も発熱体から放熱体への放熱性能の低下が見られないという利点を有する。