(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記ブレーキ操作が行なわれかつユーザの要求制動力が前記第1制動力に対応する値以上であるときは、前記第1制動力と前記第2制動力との合計制動力が前記要求制動力となるように前記第2制動力を調整する第1協調制御を行なう、請求項1に記載の車両。
前記制御装置は、前記ブレーキ操作が行なわれかつ前記要求制動力が前記第1制動力に対応する値未満であるときは、前記合計制動力が前記要求制動力を超えることを許容しつつ前記クランキング時の前記合計制動力の変化率が前記第1制動力の変化率よりも小さくなるように前記第2制動力を調整する第2協調制御を行なう、請求項4に記載の車両。
前記動力分割装置は、前記第1モータに連結されるサンギヤと、前記駆動輪に連結されるリングギヤと、前記サンギヤおよび前記リングギヤと係合するピニオンギヤと、前記エンジンに連結され前記ピニオンギヤを自転可能に支持するキャリアとを含む遊星歯車装置である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の車両。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような惰性走行中にエンジンをクランキングする際には、クランキングによって発生する反力が駆動輪に伝達される場合がある。そのため、その反力を相殺するための力(以下「キャンセル力」という)を発生させることが望ましい。
【0006】
エンジンおよびモータを含む駆動装置を備える車両においては、上記のキャンセル力をモータから発生させることが考えられる。ところが、オイルポンプから供給される油圧で作動する変速機がモータと駆動輪との間に設けられる場合には、制御システムの停止によってオイルポンプが停止されているため、クランキング時には変速機がニュートラル状態となっておりモータからのキャンセル力を駆動輪に伝達することができない可能性がある。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、エンジンとモータと変速機とを備えた車両において、駆動力の発生が許容されていない状態(システム停止状態)での車両走行中に駆動力の発生が許容された状態への切替要求(システム起動要求)がユーザによってなされた場合に、制動力の発生を抑制しつつエンジンを始動させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る車両は、駆動輪を回転させて走行する車両である。この車両は、駆動輪に伝達される駆動力を発生する駆動装置と、駆動輪に伝達される制動力を発生する制動装置と、駆動装置および制動装置を制御する制御装置とを備える。駆動装置は、エンジンと、第1モータと、エンジンと第1モータと駆動輪との間に設けられた動力分割装置と、第2モータと、第2モータと駆動輪との間に設けられた変速機とを備える。制御装置は、駆動力の発生が許容されていない第1状態での車両走行中に駆動力の発生が許容された第2状態への切替要求がユーザによってなされた場合、ユーザのブレーキ操作が行なわれたときに、第1モータと制動装置とを関連付けて制御する協調制御を行なうことによってエンジンを始動させる。
【0009】
好ましくは、協調制御は、エンジンのクランキングを行なうための動力を第1モータから発生させつつ、クランキングによって駆動輪に発生する第1制動力に応じて制動装置が発生する第2制動力を調整する制御である。
【0010】
好ましくは、制御装置は、ブレーキ操作が行なわれたことに加えてユーザの要求制動力が第1制動力に対応する値以上であるときに、協調制御を行なう。
【0011】
好ましくは、協調制御は、第1制動力と第2制動力との合計制動力が要求制動力となるように第2制動力を調整する制御である。
【0012】
好ましくは、制御装置は、ブレーキ操作が行なわれかつユーザの要求制動力が第1制動力に対応する値以上であるときは、第1制動力と第2制動力との合計制動力が要求制動力となるように第2制動力を調整する第1協調制御を行なう。
【0013】
好ましくは、制御装置は、ブレーキ操作が行なわれかつ要求制動力が第1制動力に対応する値未満であるときは、合計制動力が要求制動力を超えることを許容しつつクランキング時の合計制動力の変化率が第1制動力の変化率よりも小さくなるように第2制動力を調整する第2協調制御を行なう。
【0014】
好ましくは、制御装置は、ユーザの要求制動力が第1制動力に対応する値未満であるときは、ユーザにブレーキ操作を促すための情報を出力する。
【0015】
好ましくは、変速機は、エンジンの動力で作動するオイルポンプから供給される油圧を用いて第2モータの動力を駆動輪に伝達する。制御装置は、ブレーキ操作が行なわれたことに加えて変速機に供給される油圧の低下によって第2モータの動力を駆動輪に伝達できないときに、協調制御を行なう。
【0016】
好ましくは、制御装置は、協調制御によってエンジンを始動させた後に第2状態への切替を行なう。
【0017】
好ましくは、制御装置は、ブレーキ操作が行なわれないときは、第2状態への切替を行なわずに第1状態を維持する。
【0018】
好ましくは、制御装置は、第1状態での車両走行中に第2状態への切替要求がなされた場合、ユーザにブレーキ操作を促すための情報を出力する。
【0019】
好ましくは、動力分割装置は、第1モータに連結されるサンギヤと、駆動輪に連結されるリングギヤと、サンギヤおよびリングギヤと係合するピニオンギヤと、エンジンに連結されピニオンギヤを自転可能に支持するキャリアとを含む。遊星歯車装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、エンジンとモータと変速機とを備えた車両において、システム停止状態での車両走行中にユーザによってシステム起動要求がなされた場合に、制動力の発生を抑制しつつエンジンを始動させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
[実施の形態1]
図1は、本実施の形態に従う車両1の全体ブロック図である。車両1は、駆動輪82を回転させて走行する。車両1は、駆動輪82に伝達される駆動力を発生する駆動装置と、駆動輪82に伝達される制動力を発生する電子制御制動装置(Electric Controll Braking System、以下「ECB」という)580と、駆動装置およびECB580を含む車両1の各機器を制御する電子制御装置(Electronic Control Unit、以下「ECU」という)1000とを備える。
【0023】
車両1の駆動装置は、主に、エンジン100、第1MG(Motor Generator)200、動力分割機構300、第2MG400、変速機500、PCU(Power Control Unit)600、およびバッテリ700などで構成される。
【0024】
エンジン100は、燃料を燃焼させて動力を出力する内燃機関である。エンジン100の動力は動力分割機構300に入力される。
【0025】
動力分割機構300は、エンジン100から入力された動力を、プロペラ軸(出力軸)560への動力と第1MG200への動力とに分割する。
【0026】
動力分割機構300は、サンギヤ(S)310と、リングギヤ(R)320と、サンギヤ(S)310とリングギヤ(R)320とに噛合するピニオンギヤ(P)340と、ピニオンギヤ(P)340を自転かつ公転自在に保持しているキャリア(C)330とを有する遊星歯車機構である。
【0027】
キャリア(C)330はエンジン100のクランクシャフトに連結される。サンギヤ(S)310は第1MG200のロータに連結される。リングギヤ(R)320は出力軸560に連結される。
【0028】
第1MG200および第2MG400は、交流の回転電機であって、電動機(モータ)としても発電機(ジェネレータ)としても機能する。第2MG400の動力は変速機500に入力される。
【0029】
変速機500は、第2MG400の回転速度を変速して出力軸560に伝達する。
変速機500は、一組のラビニョ型遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、変速機500は、第1サンギヤ(S1)510と、第2サンギヤ(S2)520と、第1サンギヤ(S1)510に噛合する第1ピニオン(P1)531と、第1ピニオン(P1)531および第2サンギヤ(S2)520に噛合する第2ピニオン(P2)532と、第2ピニオン(P2)532に噛合するリングギヤ(R1)540と、各ピニオン531,532を自転かつ公転自在に保持しているキャリア(C1)550とを有する。したがって、第1サンギヤ(S1)510とリングギヤ(R1)540とは、各ピニオン531,532と共にダブルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成し、また第2サンギヤ(S2)520とリングギヤ(R1)540とは、第2ピニオン(P2)532と共にシングルピニオン型遊星歯車機構に相当する機構を構成している。
【0030】
キャリア(C1)550は、出力軸560に連結される。第2サンギヤ(S)520は、第2MG400のロータに連結される。
【0031】
さらに、変速機500には、第1サンギヤ(S1)510を選択的に固定するB1ブレーキ561と、リングギヤ(R1)540を選択的に固定するB2ブレーキ562とが設けられている。
【0032】
B1ブレーキ561は、変速機500のケース側に固定された摩擦材と第1サンギヤ(S1)510側に固定された摩擦材との摩擦力によって係合力を生じる。B2ブレーキ562は、変速機500のケース側に固定された摩擦材とリングギヤ(R1)540側に固定された摩擦材との摩擦力によって係合力を生じる。これらのブレーキ561,562は、ECU1000からの制御信号に応じた油圧を出力する変速用油圧回路(図示せず)に接続されており、この変速用油圧回路から出力される油圧によって係合されたり解放されたりする。
【0033】
B1ブレーキ561を係合して第1サンギヤ(S1)510を固定するとともに、B2ブレーキ562を解放してリングギヤ(R1)540を固定しない場合には、変速機500の変速段が高速段Hiとなる。一方、B2ブレーキ562を係合してリングギヤ(R1)540を固定するとともに、B1ブレーキ561を解放して第1サンギヤ(S1)510を固定しない場合には、変速機500の変速段が高速段Hiより変速比の大きい低速段Loとなる。なお、変速比は、変速機500の出力軸回転速度(=出力軸560の回転速度Np)に対する入力軸回転速度(=第2MG回転速度Nm2)の比である。
【0034】
ECB580は、ECU1000によって制御される油圧シリンダ(図示せず)が発生する制動油圧によって、駆動輪82に油圧制動力FECBを作用させる。なお、ECB580は従動輪(図示せず)に対しても設けられるようにしてもよい。
【0035】
車両1には、第1MG200、動力分割機構300、第2MG400、および変速機500の各部に潤滑油および冷却油として作用するオイルを供給する機械式オイルポンプ(M−O/P)800および電動式オイルポンプ(E−O/P)900が並列に設けられる。
【0036】
機械式オイルポンプ800は、エンジン100の駆動力によってオイルパン(図示せず)に貯留されたオイルを吸い込み、吸い込んだオイルを各部に供給する。したがって、エンジン100が停止されると、機械式オイルポンプ800も停止される。一方、電動式オイルポンプ900は、ECU1000からの制御信号によって制御されるモータ(図示せず)の駆動力によってオイルパンに貯留されたオイルを吸い込み、吸い込んだオイルを各部に供給する。したがって、エンジン100が停止されても、電動式オイルポンプ900は駆動可能である。
【0037】
機械式オイルポンプ800および電動式オイルポンプ900からのオイルは、上述した変速用油圧回路にも供給され、変速機500の作動油圧(B1ブレーキ561およびB2ブレーキ562を係合させるための油圧)の元圧としても利用される。
【0038】
出力軸560は、動力分割機構300を介して伝達されるエンジン100の動力および変速機500を介して伝達される第2MG400の動力の少なくともいずれかの動力によって回転する。出力軸560の回転力は減速機を介して駆動輪82に伝達される。これにより、車両1が走行される。
【0039】
図2は、動力分割機構300および変速機500の共線図を示す。
動力分割機構300が上述のように構成されることによって、サンギヤ(S)310の回転速度(=第1MG回転速度Nm1)、キャリア(C)330の回転速度(=エンジン回転速度Ne)、リングギヤ(R)320の回転速度は、動力分割機構300の共線図上で直線で結ばれる関係(いずれか2つの回転速度が決まれば残りの回転速度も決まる関係)になる。
【0040】
また、変速機500が上述のように構成されることによって、第1サンギヤ(S1)510の回転速度、リングギヤ(R1)540の回転速度、キャリア(C1)550の回転速度、第2サンギヤ(S2)520の回転速度(=第2MG回転速度Nm2)は、変速機500の共線図上で直線で結ばれる関係(いずれか2つの回転速度が決まれば残りの2つの回転速度も決まる関係)になる。
【0041】
変速機500のキャリア(C1)550は出力軸560に接続されているため、キャリア(C1)550の回転速度は出力軸560の回転速度(すなわち車速V)と一致する。また、動力分割機構300のリングギヤ(R)320も出力軸560に接続されているため、リングギヤ(R)320の回転速度も出力軸560の回転速度(すなわち車速V)と一致する。
【0042】
低速段Loでは、B2ブレーキ562が係合されてリングギヤ(R1)540が固定されるので、リングギヤ(R1)540の回転速度が0となる。また、高速段Hiでは、B1ブレーキ561が係合されて第1サンギヤ(S1)510が固定されるので、第1サンギヤ(S1)510の回転速度が0となる。したがって、第2MG回転速度Nm2が同じである場合には、
図2に示すように、高速段Hiの共線(一点鎖線)と低速段Loの共線(実線)との関係により、高速段Hi形成時の車速Vは低速段Lo形成時の車速Vよりも高くなる。
【0043】
図1に戻って、PCU600は、バッテリ700から供給される高電圧の直流電力を交流電力に変換して第1MG200および/または第2MG400に出力する。これにより、第1MG200および/または第2MG400が駆動される。また、PCU600は、第1MG200および/または第2MG400によって発電される交流電力を直流電力に変換してバッテリ700へ出力する。これにより、バッテリ700が充電される。
【0044】
バッテリ700は、第1MG200および/または第2MG400を駆動するための高
電圧(たとえば200V程度)の直流電力を蓄える二次電池である。バッテリ700は、代表的にはニッケル水素やリチウムイオンを含んで構成される。なお、バッテリ700に代えて、大容量のキャパシタも採用可能である。
【0045】
SMR(System Main Relay)710は、バッテリ700とPCU600を含む高電圧システムとの電気的な接続状態を切り替えるためのリレーである。
【0046】
さらに、車両1には、エンジン回転速度センサ10、出力軸回転速度センサ15、レゾルバ21,22、アクセルポジションセンサ31、ブレーキストロークセンサ32が備えられる。エンジン回転速度センサ10は、エンジン回転速度Ne(エンジン100のの回転速度)を検出する。出力軸回転速度センサ15は、出力軸560の回転速度Npを車速Vとして検出する。レゾルバ21,22は、それぞれ第1MG回転速度Nm1(第1MG200の回転速度)、第2MG回転速度Nm2(第2MG400の回転速度)を検出する。アクセルポジションセンサ31は、アクセルペダル操作量A(ユーザによるアクセルペダルの操作量)を検出する。ブレーキストロークセンサ32は、ブレーキペダル操作量B(ユーザによるブレーキペダルの操作量)を検出する。これらの各センサは検出結果をECU1000に出力する。
【0047】
さらに、車両1には、スタートスイッチ35が備えられる。スタートスイッチ35は、システム起動要求およびシステム停止要求をユーザが入力するための操作を行なうスイッチである。システム起動要求とは、駆動装置などを含む車両1の制御システム(以下、単に「車両システム」という)の制御状態を起動状態(以下「Ready−ON状態」という)にさせるための要求である。システム停止要求とは、車両システムの制御状態を停止状態(以下「Ready−OFF状態」という)にさせるための要求である。スタートスイッチ35は、システム起動要求が入力された場合は、システム起動要求信号RonをECU1000に出力し、システム停止要求が入力された場合はシステム停止要求信号RoffをECU1000に出力する。
【0048】
さらに、車両1には、監視ユニット37が備えられる。監視ユニット37は、バッテリ700の電圧、電流、温度などを監視し、監視結果をECU1000に出力する。さらに、監視ユニット37は、自らの故障が生じた場合およびバッテリ700の異常を検出した場合には、故障を示す故障信号FLTをECU1000に出力する。
【0049】
さらに、車両1には、報知装置38が備えられる。報知装置38は、ECU1000からの制御信号に応じてさまざまな情報を映像および/または音声でユーザに報知する。
【0050】
ECU1000は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵し、当該メモリに記憶された情報や各センサからの情報に基づいて所定の演算処理を実行する。ECU1000は、演算処理の結果に基づいて車両1に搭載される各機器を制御する。
【0051】
ECU1000は、車両システムの制御状態を、上述のReady−ON状態およびReady−OFF状態のいずれかに切り替える。
【0052】
Ready−ON状態では、ECU1000は、ユーザのアクセルペダル操作に応じて駆動装置から駆動力を発生させることを許容する。具体的には、Ready−ON状態では、エンジン100が始動状態(燃料の燃焼エネルギで回転している状態)に維持されるとともに、SMR710が閉じられ、かつPCU600の動作(第1MG200および第2MG400の制御)が可能な状態にされる。また、Ready−ON状態では、電動式オイルポンプ900やECB580などの他の機器も作動可能な状態にされる。
【0053】
一方、Ready−OFF状態では、ECU1000は、ユーザのアクセルペダル操作に応じて駆動装置から駆動力を発生させることを許容しない。具体的には、Ready−OFF状態では、エンジン100が停止状態(燃料の燃焼が停止された状態)にされるとともに、PCU600の動作も停止される。したがって、Ready−OFF状態では、ユーザがアクセルペダルを操作しても駆動力は発生しない。また、Ready−OFF状態では、電動式オイルポンプ900やECB580などの他の機器も停止される。
【0054】
ECU1000は、Ready−ON状態でReady−OFF条件が成立すると、車両システムの制御状態をReady−ON状態からReady−OFF状態に切り替える。ここで、「Ready−OFF条件」とは、たとえば、スタートスイッチ35からシステム停止要求信号Roffを受信した(ユーザが誤ってスタートスイッチ35を操作した)という条件などを含む。
【0055】
以上のような構成を有する車両1において、車両走行中にReady−OFF状態に切り替えられた場合は、しばらくの間は、駆動力の発生が停止された状態で惰性(慣性)での走行が継続されることになる。
【0056】
図3は、Ready−OFF状態で車両1が前進方向に惰性走行する場合の共線図を示す。Ready−OFF状態では、エンジン100が停止されてエンジン回転速度Neが0となる。一方、車両1は惰性で走行しており、出力軸560に接続されたキャリア(C1)550およびリングギヤ(R)320の回転速度はしばらくの間は0には低下しない。そのため、動力分割機構300の共線図の関係から、第1MG200は負回転状態(Nm1<0)となる。
【0057】
このようなReady−OFF状態での車両走行中にシステム起動要求があった場合には、再びエンジン100を始動させてReady−ON状態とすることが望ましい。そのためには、第1MG200を負回転回生状態(負回転でジェネレータとして機能する状態)に制御することで第1MG200から正方向のクランキング力Fを発生させてエンジン100をクランキングする必要がある。この際、リングギヤ(R)320には、クランキングにより発生する反力FCが負方向に作用する。リングギヤ(R)320は出力軸560に連結されているため、反力FCは車両1の制動力として作用することになる。したがって、クランキングによって制動力が発生することになる。
【0058】
このような制動力の発生を防止するためには、第2MG400を制御することによって、反力FCを相殺するための力(以下「キャンセル力FCcancel」という)を出力軸560に正方向に作用させることが望ましい。ところが、Ready−OFF状態では、機械式オイルポンプ800および電動式オイルポンプ900の双方が停止されているために、変速機500に十分な作動油圧が供給されず、B1ブレーキ561およびB2ブレーキ562は解放されている可能性がある。そのため、クランキング時は変速機500はニュートラル状態(動力を伝達しない状態)となっており、第2MG400の動力を出力軸560に伝達することができない可能性がある。また、仮に電動式オイルポンプ900を作動させることも考えられるが、電動式オイルポンプ900が故障している場合はやはり変速機500に十分な作動油圧を供給できない。そのため、第2MG400を用いてキャンセル力FCcancelを発生させることができない可能性がある。
【0059】
そこで、本実施の形態によるECU1000は、Ready−OFF状態での車両走行中にシステム起動要求があった場合、ユーザによってブレーキ操作が行なわれたとき(ユーザが制動力を要求したとき)に、第1MG200とECB580とを関連付けて制御する「協調制御」を行なうことによってエンジン100をクランキングする。
【0060】
本実施の形態では、協調制御の一例として、
図3に示すように、第1MG200からクランキング力Fを発生させつつ、反力FCと油圧制動力FECBとの合計がユーザの要求制動力Freq(ブレーキペダル操作量Bに対応する制動力)となるように油圧制動力FECBを調整する場合を説明する。
【0061】
図4は、Ready−OFF状態での車両走行中にECU1000が行なう処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、Ready−OFF状態での車両走行中に所定周期で繰り返し実行される。なお、Ready−OFF状態での車両走行中は、エンジン100が停止され(機械式オイルポンプ800が停止され)、かつ電動式オイルポンプ900も停止されている。
【0062】
S10にて、ECU1000は、システム起動要求の有無を判定する。システム起動要求がない場合(S10にてNO)、処理は終了される。
【0063】
システム起動要求がある場合(S10にてYES)、ECU1000は、S11にて、ユーザにブレーキ操作を促すための情報を報知装置38に出力する。これにより、ブレーキ操作を促すための情報が映像および/または音声でユーザに報知される。
【0064】
S12にて、ECU1000は、ユーザによるブレーキ操作の有無を判定する。ECU1000は、ブレーキペダル操作量Bが0以上である場合に、ブレーキ操作があると判定する。
【0065】
ブレーキ操作がない場合(S12にてNO)、処理は終了され、Ready−OFF状態が維持される。
【0066】
ブレーキ操作がある場合(S12にてYES)、ECU1000は、S13にて、ブレーキペダル操作量Bからユーザの要求制動力Freqを求め、求めた要求制動力Freqがクランキングによって発生する反力FC以上であるか否かを判定する。より詳しくは、ECU1000は、要求制動力Freqが反力FCのピーク予測値(以下「反力最大値FCmax」という)以上である場合に、要求制動力Freqが反力FC以上であると判定する。なお、反力最大値FCmaxとしては、予め実験等で求められた値を用いてもよいし、車両状態に応じて算出された値を用いてもよい。
【0067】
要求制動力Freqが反力FC未満であると(S13にてNO)、処理は終了され、Ready−OFF状態が維持される。なお、この際、S11の処理と同様に、ユーザにブレーキ操作を促すための情報を報知装置38に出力するようにしてもよい。
【0068】
要求制動力Freqが反力FC以上であると(S13にてYES)、ECU1000は、S14にて、上述の協調制御によってエンジン100をクランキングする。具体的には、上述したように、ECU1000は、第1MG200からクランキング力Fを発生させつつ、反力FCと油圧制動力FECBとの合計がユーザの要求制動力Freqとなるように、反力FCに応じて油圧制動力FECBを調整する。なお、反力FCの大きさは、たとえば第1MG200の実出力から算出可能である。
【0069】
図5は、Ready−OFF状態での車両走行中に協調制御によってクランキングを行なう際の反力FCおよび油圧制動力FECBの変化態様の一例を示す図である。
【0070】
図5に示す例では、システム起動要求がなされた時刻t1において、既にブレーキ操作が行なわれており、かつ要求制動力Freqは反力最大値FCmaxよりも大きい。そのため、その後の時刻t2以降に、実際にクランキングが行なわれるとともに、クランキングによって発生する反力FCと油圧制動力FECBとの合計(=FC+FECB)が要求制動力Freqとなるように油圧制動力FECBが調整される。具体的には、時刻t2にて反力FCが増加し始めると、反力FCの増加分だけ油圧制動力FECBが減少され、時刻t3にて反力FCが減少し始めると、反力FCの減少分だけ油圧制動力FECBが増加される。時刻t3における反力FCのピーク値(=反力最大値FCmax)は要求制動力Freqよりも小さいため、制動力は生じない。これにより、実際に車両1に作用する制動力(=FC+FECB)を要求制動力Freqに維持しつつ、クランキングを行なうことができる。
【0071】
図4に戻って、S15にて、ECU1000は、クランキングによってエンジン100が始動したか否かを判定する。より具体的には、ECU1000は、クランキング中の燃料噴射および点火によってエンジン100が始動状態となったか否か(いわゆる完爆したか否か)を判定する。エンジン100が始動していない場合(S15にてNO)、処理はS11に戻される。
【0072】
エンジン100が始動した場合(S15にてYES)、ECU1000は、S16にて、車両システムの制御状態をReady−ON状態に切り替える。
【0073】
以上のように、本実施の形態に係るECU1000は、Ready−OFF状態での車両走行中にシステム起動要求があった場合、ユーザによってブレーキ操作が行なわれたときに、第1MG200を用いてエンジンのクランキングを行ないつつ、クランキングによって発生する制動力(=反力FC)とECB580が発生する制動力(=油圧制動力FECB)との合計が要求制動力Freqとなるように、反力FCに応じて油圧制動力FECBを調整する「協調制御」を行なう。これにより、制動力を抑制しつつエンジン100を始動させることができる。
[実施の形態2]
上述の実施の形態1では、ブレーキ操作があっても、その操作量が小さく要求制動力Freqが反力FC未満であるとき(
図4のS12にてYESかつS13にてNOのとき)は、協調制御によるクランキングは行なわれない。
【0074】
これに対し、本実施の形態2では、ブレーキ操作があった場合には、たとえ要求制動力Freqが反力FC未満であっても、協調制御によるクランキングを行なう。より具体的には、ブレーキ操作があった場合に、要求制動力Freqが反力FC以上であるか否かに応じて第1協調制御および第2協調制御のいずれかを選択し、選択した協調制御によるクランキングを行なう。その他の構造、機能、処理は、上述の実施の形態1と同じであるため、ここでの詳細な説明は繰り返さない。
【0075】
図6は、本実施の形態によるECU1000がReady−OFF状態での車両走行中に行なう処理手順を示すフローチャートである。なお、
図6に示したステップのうち、前述の
図4に示したステップと同じ番号を付しているステップについては、既に説明したため詳細な説明はここでは繰り返さない。
【0076】
ブレーキ操作がありかつ要求制動力Freqが反力FC以上である場合(S12にてYESかつS13にてYES)、ECU1000は、処理をS14aに移す。
【0077】
S14aにて、ECU1000は、第1協調制御によってエンジン100をクランキングする。第1協調制御は、上述の
図4のS14の処理内容と同じ制御である。すなわち、ECU1000は、第1MG200からクランキング力Fを発生させつつ、反力FCと油圧制動力FECBとの合計がユーザの要求制動力Freqとなるように油圧制動力FECBを調整する(
図5参照)。
【0078】
一方、ブレーキ操作はあったものの要求制動力Freqが反力FC未満である場合(S12にてYESかつS13にてNO)、ECU1000は、処理をS14bに移す。
【0079】
S14aにて、ECU1000は、第2協調制御によってエンジン100をクランキングする。第2協調制御は、反力FCと油圧制動力FECBとの合計が要求制動力Freqを超えることを許容しつつ、反力FCと油圧制動力FECBとの合計の変化率が反力FCの変化率よりも小さくなるように油圧制動力FECBを調整する制御である。すなわち、要求制動力Freqが反力FC未満である場合、実制動力(=FC+FECB)はクランキング時に要求制動力Freqを超えることになるが、ユーザは少なくともブレーキ操作を行なっており制動力の発生を要求している。この点を考慮し、実制動力が要求制動力Freqを超えることを許容して、クランキングを優先させる。ただし、制動力を最小限に抑えるために、実制動力(=FC+FECB)が少なくとも反力FC以下になるように油圧制動力FECBを調整する。また、クランキング時の実制動力(=FC+FECB)の変化率が反力FCの変化率よりも小さくなるように油圧制動力FECBを調整する。
【0080】
図7は、第2協調制御によってクランキングを行なう際の反力FCおよび油圧制動力FECBの変化態様の一例を示す図である。
【0081】
図7に示すように、システム起動要求がなされた時刻t11において、既にブレーキ操作が行なわれており要求制動力Freqは0よりも大きい。しかしながら、ブレーキペダル操作量Bは比較的小さく、要求制動力Freqは反力最大値FCmax未満である。このような状態でクランキングを行なうと要求制動力Freqを超える制動力が生じることになるが、少なくともユーザはブレーキ操作を行なっており制動力を要求している。この点を考慮し、要求制動力Freqを超える制動力を許容して、時刻t12にてクランキングを開始させる。ただし、実制動力(=FC+FECB)が反力最大値FCmax以下になるように油圧制動力FECBが調整される。すなわち、反力FCが最大となる時刻t13において油圧制動力FECBは0とされる。これにより、制動力が最小限に抑えられる。また、クランキング時の実制動力(=FC+FECB)の変化率が反力FCの変化率よりも小さくなるように油圧制動力FECBが調整される。すなわち、反力FCが増加する時刻t12〜t13においては、実制動力(=FC+FECB)の増加率が反力FCの増加率よりも小さくなるように油圧制動力FECBが徐々に減少される。また、反力FCが減少する時刻t13〜t14においては、実制動力(=FC+FECB)の減少率が反力FCの減少率よりも小さくなるように油圧制動力FECBが徐々に増加される。これにより、反力FCの変化を極力和らげることができる。なお、
図7に示す例では、実制動力の変化率をより小さくするために、クランキング前(時刻t12よりも前)の所定期間およびクランキング後(時刻t14よりも後)の所定期間においても、実制動力(=FECB)が要求制動力Freqを超えることが許容されている。
【0082】
以上のように、本実施の形態に係るECU1000は、Ready−OFF状態での車両走行中にシステム起動要求があった場合、ユーザによってブレーキ操作が行なわれたときに、要求制動力Freqが反力FC以上であるか否かに応じて第1協調制御によるクランキングおよび第2協調制御によるクランキングのいずれかを選択的に行なう。これにより、制動力を極力抑制しつつエンジン100を始動させることができる。
【0083】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。