特許第5918008号(P5918008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918008
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】冷却器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20160428BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20160428BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   H01L23/36 D
   H01L25/04 C
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-106885(P2012-106885)
(22)【出願日】2012年5月8日
(65)【公開番号】特開2013-235936(P2013-235936A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(72)【発明者】
【氏名】大滝 篤史
(72)【発明者】
【氏名】大山 茂
【審査官】 小山 和俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−004534(JP,A)
【文献】 特開2011−233735(JP,A)
【文献】 特開2010−238932(JP,A)
【文献】 特開2011−183797(JP,A)
【文献】 特開2011−119653(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0010429(US,A1)
【文献】 特開2013−219134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 25/07
H01L 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に被冷却体がはんだ付けによって接合されるNi又はNi合金で形成されたNi層と、前記Ni層の下面側に配置されたTi又はTi合金で形成されたTi層と、前記Ti層の下面側に配置されたAl又はAl合金で形成されたAl層と、が積層状に接合一体化された積層材を製造する積層材製造工程と、
前記積層材の前記Al層の下面と冷却器本体の冷却面とをろう付けによって接合するろう付け接合工程と、を備えていることを特徴とする冷却器の製造方法。
【請求項2】
前記ろう付け接合工程では、ろう付け材料としてブレージングシートを用いたろう付けによって接合を行う請求項1記載の冷却器の製造方法。
【請求項3】
前記ろう付け接合工程では、ろう付け材料としてろう材板を用いたろう付けによって接合を行う請求項1記載の冷却器の製造方法。
【請求項4】
前記ろう付け接合工程の後で、前記積層材のNi層の上面に形成されたNi酸化膜を除去するNi酸化膜除去工程を備えている請求項1〜3のいずれかに記載の冷却器の製造方法。
【請求項5】
前記積層材製造工程は、前記Ni層と前記Ti層とを拡散接合によって接合し、これにより、前記Ni層と前記Ti層との接合界面に前記Ni層のNiと前記Ti層のTiとが合金化したNi−Ti系超弾性合金層を形成する第1拡散接合工程を含んでいる請求項1〜4のいずれかに記載の冷却器の製造方法。
【請求項6】
前記積層材製造工程は、前記第1拡散接合工程の後で前記Ti層と前記Al層とを拡散接合によって接合する第2拡散接合工程を含んでいる請求項5記載の冷却器の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の冷却器の製造方法により得られた冷却器における積層材のNi層の上面に、被冷却体として、半導体素子が実装される絶縁基板をはんだ付けによって接合することを特徴とする半導体モジュールの製造方法。
【請求項8】
上面に被冷却体がはんだ付けによって接合されるNi又はNi合金で形成されたNi層と、前記Ni層の下面側に配置されたTi又はTi合金で形成されたTi層と、前記Ti層の下面側に配置されたAl又はAl合金で形成されたAl層と、が積層状に接合一体化された積層材を備えるとともに、
前記積層材の前記Al層の下面と冷却器本体の冷却面とがろう付け材料によって接合されていることを特徴とする冷却器。
【請求項9】
請求項記載の冷却器における積層材のNi層の上面に、被冷却体として、半導体素子が実装される絶縁基板がはんにより接合されていることを特徴とする半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基板等の被冷却体を冷却する冷却器の製造方法、半導体モジュールの製造方法、冷却器、及び、半導体モジュールに関する。
【0002】
なお本明細書では、「板」の語は「箔」も含む意味で用いられる。さらに本明細書では、説明の便宜上、冷却器における被冷却体が接合される面側を、冷却器(冷却器本体)の上面側と定義する。
【背景技術】
【0003】
パワー半導体モジュール等の半導体モジュールにおいて、半導体素子は絶縁基板上に実装されている。さらに、半導体素子の動作に伴い上昇した半導体素子の温度を下げるため、絶縁基板は冷却器(ヒートシンク、放熱板等の放熱器を含む)の冷却面上に配置されて冷却面に接合されている。
【0004】
この絶縁基板は、電気絶縁層としてのセラミック層、配線層(回路層)等を備えている(例えば特許文献1〜4参照)。配線層は銅やアルミニウム等で形成されている。
【0005】
冷却器は、銅製のものやアルミニウム(その合金を含む)製のものなどが用いられているが、近年、アルミニウム製のものが広く用いられるようになっている。その主な理由は、アルミニウム製冷却器は軽量であり且つ安価に入手できるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−328012号公報
【特許文献2】特開2004−235503号公報
【特許文献3】特開2006−303346号公報
【特許文献4】特開2009−147123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、アルミニウム製冷却器は、はんだ接合性が悪い。そのため、この冷却器の冷却面に絶縁基板をはんだ付けによって接合する場合には、はんだ接合性を向上させるため、冷却器の冷却面にNiめっき層を形成する必要がある。
【0008】
しかし、冷却器の冷却面にNiめっき層を形成する場合には、洗浄・乾燥不足等によるNiめっき層の汚染によってはんだ濡れ不良を引き起こすことがある。特に、冷却器の全面にNiめっき層を形成する場合には、一般的に冷却器の形状は複雑であるために、そのようなはんだ濡れ不良を引き起こし易いという難点があった。
【0009】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、はんだ接合性が良好な冷却器の製造方法、該冷却器を備えた半導体モジュールの製造方法、冷却器、及び、半導体モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の手段を提供する。
【0011】
[1] 上面に被冷却体がはんだ付けによって接合されるNi又はNi合金で形成されたNi層と、前記Ni層の下面側に配置されたTi又はTi合金で形成されたTi層と、前記Ti層の下面側に配置されたAl又はAl合金で形成されたAl層と、が積層状に接合一体化された積層材を製造する積層材製造工程と、
前記積層材の前記Al層の下面と冷却器本体の冷却面とをろう付けによって接合するろう付け接合工程と、を備えていることを特徴とする冷却器の製造方法。
【0012】
[2] 前記ろう付け接合工程では、ろう付け材料としてブレージングシートを用いたろう付けによって接合を行う前項1記載の冷却器の製造方法。
【0013】
[3] 前記ろう付け接合工程では、ろう付け材料としてろう材板を用いたろう付けによって接合を行う前項1記載の冷却器の製造方法。
【0014】
[4] 前記ろう付け接合工程の後で、前記積層材のNi層の上面に形成されたNi酸化膜を除去するNi酸化膜除去工程を備えている前項1〜3のいずれかに記載の冷却器の製造方法。
【0015】
[5] 前記積層材製造工程は、前記Ni層と前記Ti層とを拡散接合によって接合し、これにより、前記Ni層と前記Ti層との接合界面に前記Ni層のNiと前記Ti層のTiとが合金化したNi−Ti系超弾性合金層を形成する第1拡散接合工程を含んでいる前項1〜4のいずれかに記載の冷却器の製造方法。
【0016】
[6] 前記積層材製造工程は、前記第1拡散接合工程の後で前記Ti層と前記Al層とを拡散接合によって接合する第2拡散接合工程を含んでいる前項5記載の冷却器の製造方法。
【0017】
[7] 前項1〜6のいずれかに記載の冷却器の製造方法により得られた冷却器における積層材のNi層の上面に、被冷却体として、半導体素子が実装される絶縁基板をはんだ付けによって接合することを特徴とする半導体モジュールの製造方法。
【0018】
[8] 前項1〜6のいずれかに記載の冷却器の製造方法により得られたことを特徴とする冷却器。
【0019】
[9] 前項7記載の半導体モジュールの製造方法により得られたことを特徴とする半導体モジュール。
【0020】
[10] 上面に被冷却体がはんだ付けによって接合されるNi又はNi合金で形成されたNi層と、前記Ni層の下面側に配置されたTi又はTi合金で形成されたTi層と、前記Ti層の下面側に配置されたAl又はAl合金で形成されたAl層と、が積層状に接合一体化された積層材を備えるとともに、
前記積層材の前記Al層の下面と冷却器本体の冷却面とがろう付けによって接合されていることを特徴とする冷却器。
【0021】
[11] 前項10記載の冷却器における積層材のNi層の上面に、被冷却体として、半導体素子が実装される絶縁基板がはんだ付けにより接合されていることを特徴とする半導体モジュール。
【発明の効果】
【0022】
本発明は以下の効果を奏する。
【0023】
前項[1]の冷却器の製造方法によれば、ろう付け接合工程において積層材のAl層の下面と冷却器本体の冷却面とを接合することにより、積層材のNi層の上面が冷却器の上面側(即ち冷却器における被冷却体が接合される面側)に配置されるので、はんだ接合性が良好な冷却器を得ることができる。したがって、冷却器におけるNi層の上面に絶縁基板等の被冷却体をはんだ付けによって良好に接合することができる。
【0024】
さらに、積層材製造工程において、Ni層とAl層との間にTi層が配置されているので、次の効果を奏する。すなわち、もしNi層とAl層との間にTi層を配置しないでNi層とAl層とを直接接合した場合には、Ni層とAl層との接合界面に強度の弱い合金層が形成されてしまい、その結果、冷熱サイクル等に伴い発生する熱応力(熱歪み)によってこの合金層で割れや剥離が生じ易くなる。これに対して、積層材製造工程で製造される積層材では、Ni層とAl層との間にTi層が配置されているので、そのような強度の弱い合金層は形成されない。これにより、積層材の割れや剥離の発生を防止できる。したがって、冷熱耐久性に優れた冷却器を得ることができる。
【0025】
前項[2]によれば、ブレージングシートはろう材板に比べて安価に入手可能であり且つ取り扱いが容易であることから、積層材のAl層の下面と冷却器本体の冷却面との接合を、ろう付け材料としてブレージングシートを用いたろう付けによって行うことにより、積層材と冷却器本体とを確実に接合できることはもとより、更に、冷却器を安価に製造することができるし、その製造作業(即ちろう付け接合作業)を容易に行うことができる。
【0026】
前項[3]によれば、積層材と冷却器本体とを確実に接合することができる。
【0027】
前項[4]によれば、Ni酸化膜除去工程においてNi酸化膜を除去することにより、Ni層の上面を清浄化することができ、これにより、はんだ接合性を確実に向上させることができる。
【0028】
前項[5]によれば、積層材製造工程の第1拡散接合工程において、Ni層とTi層との接合界面にNi−Ti系超弾性合金層を形成することにより、熱応力(熱歪み)をこの超弾性合金層によって更に緩和することができる。そのため、積層材の割れや剥離の発生を確実に防止できる。
【0029】
前項[6]によれば、積層材製造工程は、第1拡散接合工程の後でTi層とAl層とを拡散接合によって接合する第2拡散接合工程を含んでいるので、次のような効果を奏する。
【0030】
すなわち、もしTi層とAl層とを接合した後でNi層とTi層とを接合する場合には、Ni層とTi層との接合時の熱によってTi層とAl層との接合界面に強度の弱い合金層(例:Al−Ti合金層)が形成される虞がある。これに対して、Ni層とTi層とを接合した後でTi層とAl層とを接合することにより、Ti層とAl層との接合界面にそのような強度の弱い合金層が形成されるのを確実に防止することができる。
【0031】
さらに、もしTi層とAl層とを拡散接合ではなくろう付けによって接合する場合には、Ti層とAl層との接合界面に、Ti層のTiとAl層のAlとろう付け材料中のSiとが合金化したTiAlSi合金層が形成される。この合金層は強度が弱い。そのためこの合金層で割れや剥離が生じ易くなる。そこで、この難点を解消するため、Ti層とAl層とをろう付けでなく拡散接合によって接合する。これにより、積層材の割れや剥離の発生を更に確実に防止できる。
【0032】
前項[7]の半導体モジュールの製造方法によれば、絶縁基板と冷却器とをはんだ付けによって良好に接合することができる。
【0033】
前項[8]の冷却器によれば、前項[1]〜[6]のいずれかの効果と同様の効果を奏する。
【0034】
前項[9]の半導体モジュールによれば、絶縁基板と冷却器とがはんだ付けによって良好に接合されて、接合強度が高く且つ冷却性能が高い半導体モジュールを得ることができる。
【0035】
前項[10]の冷却器によれば、前項[1]〜[6]のいずれかの効果と同様の効果を奏する。
【0036】
前項[11]の半導体モジュールによれば、絶縁基板と冷却器とがはんだ付けによって良好に接合されて、接合強度が高く且つ冷却性能が高い半導体モジュールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る冷却器を備えた半導体モジュールの概略正面図である。
図2図2は、同冷却器の概略正面図である。
図3図3は、同半導体モジュールの製造工程例を示す概略正面図である。
図4図4は、Ni層とTi層とを拡散接合としてのクラッド圧延によって接合する第1拡散接合工程を示す概略断面図である。
図5図5は、Ni層とTi層とを拡散接合としての放電プラズマ焼結法によって接合する第1拡散接合工程を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0039】
図1において、20は本発明の一実施形態に係る半導体モジュール(パワー半導体モジュールを含む)である。この半導体モジュール20は、半導体素子21と、絶縁基板16と、本発明の一実施形態に係る冷却器1とを具備している。
【0040】
半導体モジュール20は、IGBTモジュール、MOSFETモジュール、サイリスタモジュール、ダイオードモジュール等である。
【0041】
半導体素子21は絶縁基板16上に実装されている。半導体素子21は、IGBTチップ、MOSFETチップ、サイリスタチップ、ダイオードチップ等である。
【0042】
絶縁基板16は、電気絶縁層(図示せず)と配線層(図示せず)と金属層(図示せず)とを備えている。電気絶縁層は、AlN、Al、Si、Y、CaO、BN、BeO等のセラミックから形成されており、具体的に例示するとセラミック板から形成されている。配線層はCuやAl等の金属から形成されており、具体的に示すとCu又はCu合金板やAl又はAl合金板などの金属板から形成されている。この配線層は電気絶縁層の上面に積層状に接合されている。金属層は熱応力を緩和する作用などを奏するものであり、CuやAl等から形成されており、具体的に示すとCu又はCu合金板やAl又はAl合金板などの金属板から形成されている。この金属層は電気絶縁層の下面に積層状に接合されている。さらに、絶縁基板16の下面はCu等のはんだ付け可能な金属で形成されている。そして、この絶縁基板16の上面に半導体素子21がはんだ付けによって接合されている。そのため、絶縁基板16と半導体素子21との接合界面には、両者を接合したはんだ層22が介在されている。なお図面では、このはんだ層22は、他の層と区別し易くするためクロスハッチングで図示されている。その他の後述するはんだ層17についても同様に理由によりクロスハッチングで図示されている。このような絶縁基板16としてDBC基板などが用いられる。
【0043】
図2に示すように、冷却器1は、半導体素子21の動作に伴い上昇した半導体素子21の温度を下げるための水冷式又は空冷式のものであり、冷却器本体10と積層材2とを備えている。本実施形態では、冷却器1の冷却器本体10として、複数の放熱フィン10bを有する空冷式のヒートシンクが用いられている。また本実施形態では、半導体素子21が実装された絶縁基板16が、冷却器1により冷却される被冷却体に対応している。
【0044】
冷却器本体10は金属製であり、詳述すると例えばAl又はAl合金製である。この冷却器本体10における放熱フィン10bとは反対側に形成された冷却面10aは略平坦状である。
【0045】
積層材2は、上から順にNi層3とTi層5とAl層6とを備えるとともに、この順にこれらの層3、5、6が積層状に接合一体化されている。各層は、水平状に配置されており、また平面視略方形状に形成されている。
【0046】
Ni層3は、Ni又はNi合金で形成されたものであり、詳述するとNi又はNi合金板から形成されたものである。さらに、このNi層3は、その上面3aに絶縁基板16の下面がはんだ付けによって接合されるものである。図1において、17は、Ni層3と絶縁基板16とを接合したはんだ層であり、このはんだ層17はNi層3と絶縁基板16との接合界面に介在されている。さらに、このはんだ層17の厚さは例えば1〜5μmである。
【0047】
Ti層5は、Ti又はTi合金で形成されたものであり、詳述するとTi又はTi合金板から形成されたものである。このTi層5は、Ni層3の構成元素であるNiとTi層5の構成元素であるTiとが合金化することによりNi−Ti系超弾性合金層4をNi層3とTi層5との接合界面に生成させる役割などを有している。そして、このTi層5がNi層3の下面側に配置されて、Ni層3とTi層5とが拡散接合(クラッド圧延、放電プラズマ焼結法など)によって積層状に互いに接合されている。すなわち、Ti層5はNi層3の下面に直接接合されている。さらに、この接合により、Ni層3とTi層5との接合界面に、Ni層3のNiとTi層5のTiとが合金化したNi−Ti系超弾性合金層4が薄く形成されている。このNi−Ti系超弾性合金層4は、詳述するとNi−Ti系超弾性合金相を含む層である。本実施形態では、Ni−Ti系超弾性合金層4は、例えばNiTi超弾性合金相を含む層であり、即ちNiTi超弾性合金層である。
【0048】
この超弾性合金層4の超弾性合金は、室温から半導体素子21の動作温度(例:300℃)までの温度範囲に亘って超弾性特性を有していることが望ましく、特に望ましくは、室温から後述するろう付け接合工程S4のろう付け温度(例:600℃)までの温度範囲に亘って超弾性特性を有していることが良い。
【0049】
ここで、Ni層3、Ti層5及び超弾性合金層4の厚さは、それぞれ限定されるものではない。しかし、Niの熱伝導率は90.7W/m・K、Tiの熱伝導率は21.9W/m・K、Ni−Ti系超弾性合金の熱伝導率は20.0W/m・Kであり、これらの熱伝導率はAlの熱伝導率236W/m・Kと比べて著しく低い。したがって、Ni層3、Ti層5及び超弾性合金層4はいずれもなるべく薄い方が、絶縁基板16の熱伝導率を向上させうる点で望ましい。そこで、Ni層3の厚さの上限は200μm、Ti層5の厚さの上限は200μm、超弾性合金層4の厚さの上限は50μmであるのが望ましい。一方、これらの層3、5、4が薄すぎると、各層の所望する特性が発現しなくなる虞がある。そこで、Ni層3の厚さの下限は5μm、Ti層5の厚さの下限は5μm、超弾性合金層4の厚さの下限は0.05μmであるのが望ましい。
【0050】
Al層6は、Al又はAl合金で形成されたものであり、詳述するとAl又はAl合金板から形成されたものである。そして、このAl層6がTi層5の下面側に配置されて、Ti層5とAl層6とが拡散接合(クラッド圧延、放電プラズマ焼結法など)によって積層状に互いに接合されている。すなわち、Al層6はTi層5の下面に直接接合されている。Al層6の厚さは、Al層6をTi層5に拡散接合によって良好に接合できるようにするため、30〜100μmの範囲に設定されるのが特に望ましい。さらに、後述するろう付け接合工程S4の際のろう付け接合熱によってAl層6と冷却器本体10とを接合するための軟化又は溶融したろう付け材料12がTi層5と接触すると、当該接触部分に強度の弱いTiAlSi合金層が形成され、この合金層で割れや剥離が生じ易くなる。そこでこの難点を解消するため、Al層6の厚さは、更にろう付け材料12の厚さ以上であることが特に望ましい。
【0051】
以上のように、Ni層3とTi層5とAl層6とは積層状に接合一体化されており、これにより積層材2が構成されている。
【0052】
そして、積層材2のAl層6の下面と冷却器本体10の冷却面10aとがろう付けによって接合されている。そのため、積層材2のAl層6の下面と冷却器本体10の冷却面10aとの接合界面には、両者を接合したろう付け材料12が層状に介在されている。なお図面では、ろう付け材料12は、他の層と区別し易くするためドットハッチングで図示されている。
【0053】
ろう付け材料12としては、ろう材板又はブレージングシートが用いられる。ろう材板の厚さは例えば10〜100μmである。ブレージングシートの厚さは例えば100〜300μmである。このブレージングシートは、Al又はAl合金板を心材としその両面にそれぞれろう材板がクラッド(接合)されてなるものである。
【0054】
さらに、この冷却器1では、積層材2のNi層3の上面3aに形成されたNi酸化膜(11、図3参照)が除去されており、これにより、Ni層3の上面3aが清浄化されて、はんだ接合性が確実に向上している。
【0055】
次に、本実施形態の冷却器1及び半導体モジュール20の製造方法について図3〜5を参照して以下に説明する。
【0056】
図3に示すように、本実施形態の冷却器1の製造方法は、積層材製造工程S1と、ろう付け接合工程S4と、Ni酸化膜除去工程S5とを備える。ろう付け接合工程S4は積層材製造工程S1の後で行われる。Ni酸化膜除去工程S5はろう付け接合工程S4の後で行われる。
【0057】
積層材製造工程S1は、Ni層3とTi層5とAl層6とが積層状に接合一体化された積層材2を製造する工程であり、詳述すると、第1拡散接合工程S2と第2拡散接合工程S3とを備えている。第2拡散接合工程S3は第1拡散接合工程S2の後で行われる。
【0058】
第1拡散接合工程S2では、Ni層3とTi層5とを互いに重ね合わせて拡散接合によって積層状に互いに接合し、これにより、Ni層3とTi層5との接合界面にNi−Ti系超弾性合金層4を形成する。換言すると、Ni層3とTi層5との接合界面にNi−Ti系超弾性合金層4が形成されるように、Ni層3とTi層5とを拡散接合によって接合する。拡散接合としては、クラッド圧延、放電プラズマ焼結法等が用いられる。この拡散接合により形成される超弾性合金層4は、Ni−Ti系超弾性合金相を含み、しかもNiとTiとの組成比が厚さ方向に徐々に変化する傾斜材料構造を採る。したがって、この超弾性合金層4は、熱応力を確実に緩和・吸収する役割を果たしうる。
【0059】
なお、Ni層3とTi層5とを拡散接合ではなくろう付けによって接合しても、両層3、5の接合界面に超弾性合金層4は形成されない。
【0060】
ここで、放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering:SPS)法は、一般的に、粉体を焼結するため又は部材同士を接合するために適用されるものであり、本実施形態では部材同士(詳述すると金属板同士)を接合するために適用されている。なお、この放電プラズマ焼結法は、「SPS接合法」、「パルス通電圧接法(Pulsed Current Hot Pressing:PCHP)」等とも呼ばれている。
【0061】
Ni層3とTi層5とを拡散接合としてのクラッド圧延によって接合する場合には、両層3、5間に超弾性合金層4を確実に形成できるようにするため、温間ないし熱間クラッド圧延によって両層3、5を接合するのが望ましい。すなわち、図4に示すように、互いに平行に配置された上下一対の圧延ロール31、31を具備したクラッド圧延装置30を用い、互いに重ね合わされたNi層3とTi層5とを両圧延ロール31、31間に通して両圧延ロール31、31でNi層3とTi層5を挟圧することにより、Ni層3とTi層5とを接合(クラッド)する。この接合の際に、Ni層3とTi層5との接合時の熱によって両層3、5の接合界面にてNi層3のNiとTi層5のTiとが拡散するとともに、拡散したNiとTiとが合金化してNi−Ti系超弾性合金層4が両層3、5の接合界面に形成される。その結果、両層3、5の接合界面にNi−Ti系超弾性合金層4が介在される。その接合条件は、Ni層3とTi層5とを、両層3、5の接合界面にNi−Ti系超弾性合金層4が形成されるように、クラッド圧延により接合可能な条件であれば良く、特に限定されるものではない。例えば、接合条件は、クラッド温度630〜750℃、及び、クラッド率40〜60%である。
【0062】
Ni層3とTi層5とを拡散接合としての放電プラズマ焼結法によって接合する場合には、図5に示すように、まず、放電プラズマ焼結装置40に備えられた筒状ダイ41内にNi層3とTi層5とを互いに重ね合わせて積層状に配置する。これにより、両層3、5の周囲がダイ41で包囲される。ダイ41は導電性を有するものであり、例えば黒鉛製である。次いで、両層3、5をその積層方向に上下一対のパンチ42、42で挟む。各パンチ42は導電性を有するものであり、例えば黒鉛製である。また、各パンチ42の基部には電極43が電気的に接続されている。そして、例えば1〜10Paの真空雰囲気中、又は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中にて、両パンチ42、42で両層3、5をその積層方向に加圧しつつ、両パンチ42、42間の通電を確保した状態で両パンチ42、42間にパルス電流を通電することで両層3、5を加熱し、これによりNi層3とTi層5とを接合する。これにより、Ni層3とTi層5との接合界面にNi−Ti系超弾性合金層4が形成される。この接合では、所定厚さのNi−Ti系超弾性合金層4が形成されるように接合条件(例:加熱温度、加熱温度の保持時間、昇温速度、加圧力)を設定するのが望ましい。この接合条件について具体的に例示すると、加熱温度は600〜700℃、加熱温度の保持時間は5〜20min、室温から加熱温度への昇温速度は5〜50℃/min、両層3、5への加圧力は10〜20MPaである。
【0063】
第2拡散接合工程S3では、第1拡散接合工程S2の後でTi層5とAl層6とを互いに重ね合わせて拡散接合によって積層状に互いに接合する。拡散接合としては、上述したクラッド圧延、放電プラズマ焼結法等が用いられる。
【0064】
Ti層5とAl層6とを拡散接合としてのクラッド圧延によって接合する場合には、その接合は、図4に示した上記クラッド圧延装置30を用い、Ni層3とTi層5との接合に適用したクラッド温度よりも低い温度をクラッド温度として適用した冷間ないし温間クラッド圧延によって行われる。その接合条件は、Ti層5とAl層6とをクラッド圧延により接合可能な条件であれば良く、特に限定されるものではない。例えば、接合条件は、クラッド温度350〜430℃、及び、クラッド率30〜60%である。
【0065】
Ti層5とAl層6とを拡散接合としての放電プラズマ焼結法によって接合する場合には、その接合は、図5に示した上記放電プラズマ焼結装置40を用いて行われる。その接合条件は、両層5、6を接合可能な条件であれば良く、具体的に例示すると、加熱温度は500〜560℃、加熱温度の保持時間は5〜20min、室温から加熱温度への昇温速度は5〜50℃/min、両層5、6への加圧力は10〜20MPaである。
【0066】
以上のように第1拡散接合工程S2と第2拡散接合工程S3とを順次行うことにより、Ni層3とTi層5とAl層6とが積層状に接合一体化された積層材2が得られる。
【0067】
次いで、図3に示すように、ろう付け接合工程S4が行われる。このろう付け接合工程S4は、積層材2のAl層6の下面と冷却器本体10の冷却面10aとをろう付けによって接合する工程である。
【0068】
このろう付け接合工程S4では、積層材2のAl層6の下面と冷却器本体10の冷却面10aとの間にろう付け材料12としてろう材板又はブレージングシートを介在させた状態で、冷却器本体10の冷却面10a上に積層材2を配置する。そして、炉内ろう付け等のろう付けによって真空中などで積層材2のAl層6の下面と冷却器本体10の冷却面10aとを接合する。これにより、積層材2と冷却器本体10とが接合一体化される。この際のろう付け温度は580〜610℃、ろう付け温度の保持時間は5〜30min、真空度は1×10−3〜1×10−5Paであることが特に望ましい。このような接合条件でろう付け接合を行うことにより、積層材2と冷却器本体10とを確実に良好に接合することができる。
【0069】
このろう付け接合工程S4の際に、積層材2のNi層3の上面3aとろう付け雰囲気中に含まれている酸素(例:ろう付け雰囲気中の残存酸素)とがろう付け接合熱を受けて反応することで、Ni層3の上面3aに薄いNi酸化膜11が形成される。このNi酸化膜11の厚さは例えば0.001〜0.1μmである。
【0070】
次いで、Ni酸化膜除去工程S5が行われる。このNi酸化膜除去工程S5は、主にろう付け接合工程の際に積層材2のNi層3の上面3aに形成されたNi酸化膜11を除去する工程である。
【0071】
このNi酸化膜除去工程S5では、Ni層3の上面3aに対して研磨(例:バフ研磨)やブラスト処理等を施すことにより、Ni酸化膜11を除去する。その後、Ni層3の上面3aに対して洗浄(例:水洗い、炭化水素洗浄)及び乾燥を順次施す。これにより、Ni層3の上面3aを清浄化する。
【0072】
以上の工程を得ることにより、本実施形態の冷却器1が得られる。
【0073】
この冷却器1を用いて半導体モジュール20を製造する場合には、冷却器1の積層材2のNi層3の上面3aに絶縁基板16(詳述すると絶縁基板16の下面)をはんだ付けによって接合する。その後、この絶縁基板16の上面に半導体素子21をはんだ付けによって接合する。あるいは、絶縁基板16の上面に半導体素子21をはんだ付けによって接合し、その後、冷却器1の積層材2のNi層3の上面3aに絶縁基板16をはんだ付けによって接合しても良いし、あるいは、Ni層3の上面3aへの絶縁基板16のはんだ付けによる接合と、絶縁基板16の上面への半導体素子21のはんだ付けによる接合とを同時に行っても良い。このようなはんだ付けによる接合工程を「はんだ付け接合工程」という。これにより、半導体モジュール20が得られる。
【0074】
本実施形態の冷却器1の製造方法には次の利点がある。
【0075】
本実施形態の冷却器1の製造方法によれば、ろう付け接合工程S4において積層材2のAl層6の下面と冷却器本体10の冷却面10aとを接合することにより、積層材2のNi層3が冷却器1の上面側(即ち冷却器1における絶縁基板16が接合される面側)に配置されるので、Ni層3の上面3aが冷却器1における絶縁基板16が接合される面となって、はんだ接合性が良好な冷却器1を得ることができる。したがって、冷却器1におけるNi層3の上面3aに絶縁基板16をはんだ付けによって良好に接合することができる。
【0076】
さらに、積層材製造工程S1において、Ni層3とAl層6との間にTi層5が配置されているので、次の効果を奏する。すなわち、もしNi層3とAl層6との間にTi層5を配置しないでNi層3とAl層6とを直接接合した場合には、Ni層3とAl層6との接合界面に強度の弱い合金層が形成されてしまい、その結果、冷熱サイクル等に伴い発生する熱応力(熱歪み)によってこの合金層で割れや剥離が生じ易くなる。これに対して、本実施形態の冷却器1の製造方法では、Ni層3とAl層6との間にTi層5が配置されているので、そのような強度の弱い合金層は形成されない。これにより、積層材2の割れや剥離の発生を防止できる。したがって、冷熱耐久性に優れた冷却器1を得ることができる。
【0077】
さらに、ブレージングシートはろう材板に比べて安価に入手可能であり且つ取り扱いが容易であることから、積層材2のAl層6の下面と冷却器本体10の冷却面10aとの接合を、ろう付け材料12としてブレージングシートを用いたろう付けによって行うことにより、積層材2と冷却器本体10とを確実に接合できることはもとより、更に、冷却器1を安価に製造することができるし、その製造作業(即ちろう付け接合作業)を容易に行うことができる。
【0078】
一方、積層材2のAl層6の下面と冷却器本体10の冷却面10aとの接合を、ろう付け材料12としてろう材板を用いたろう付けによって行うことにより、積層材2と冷却器本体10とを確実に接合することができる。
【0079】
また、Ni酸化膜除去工程S5においてNi酸化膜11を除去することにより、Ni層3の上面3aを清浄化することができ、これにより、はんだ接合性を確実に向上させることができる。
【0080】
さらに、積層材製造工程S1は第1拡散接合工程S2を含んでいるので、熱応力を緩和しうるNi−Ti系超弾性合金層4をNi層3とTi層5との接合界面に形成することができる。そのため、積層材2の割れや剥離の発生を更に確実に防止できる。
【0081】
さらに、積層材製造工程S1は、第1拡散接合工程S2の後でTi層5とAl層6とを接合する第2拡散接合工程S3を含んでいるので、次のような効果を奏する。
【0082】
すなわち、もしTi層5とAl層6とを接合した後でNi層3とTi層5とを接合する場合には、Ni層3とTi層5との接合時の熱によってTi層5とAl層6との接合界面に強度の弱い合金層(例:Al−Ti合金層)が形成される虞がある。これに対して、Ni層3とTi層5とを接合した後でTi層5とAl層6とを接合することにより、Ti層5とAl層6との間にそのような強度の弱い合金層が形成されるのを確実に防止することができる。
【0083】
さらに、もしTi層5とAl層6とを拡散接合ではなくろう付けによって接合する場合には、Ti層5とAl層6との接合界面に、Ti層5のTiとAl層6のAlとろう付け材料12中のSiとが合金化したTiAlSi合金層が形成される虞がある。この合金層は強度が弱い。そのためこの合金層で割れや剥離が生じ易くなる。そこでこの難点を解消するため、Ti層5とAl層6とを拡散接合によって接合する。これにより、積層材2の割れや剥離の発生を更に確実に防止できる。
【0084】
以上で本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々に変更可能である。
【0085】
また上記実施形態では、冷却器本体10はヒートシンクであるが、本発明では、冷却器本体10がヒートシンクであることに限定されるものではない。さらに本発明では、冷却器本体10の冷却機構は限定されるものではなく、例えば空冷式であっても良いし水冷式であっても良い。
【0086】
また本明細書では、上述したように、説明の便宜上、冷却器1における被冷却体(絶縁基板16)が接合される面側を、冷却器1の上面側と定義したが、本発明では、冷却器1の上下方向及び左右方向は任意に設定されるものである。
【実施例】
【0087】
次に、本発明の具体的な実施例を以下に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
<実施例>
本実施例では、図1に示した構成の冷却器1を上記実施形態の冷却器の製造方法に従って製造した。その具体的な製造方法は以下のとおりである。
【0089】
積層材2を製造するため、Ni層3、Ti層5及びAl層6として、それぞれ次の平面視方形状の板を準備した。
【0090】
・Ni層3 :長さ25mm×幅25mm×厚さ30μmの純Ni板
・Ti層5 :長さ25mm×幅25mm×厚さ20μmの純Ti板
・Al層6 :長さ25mm×幅25mm×厚さ80μmのAl合金板。
【0091】
Ni層3を形成する純Ni板の純度はJIS(日本工業規格)1種である。Ti層5を形成する純Ti板の純度はJIS1種である。Al層6を形成するAl合金板の材質はJISで規定されたアルミニウム合金記号A1100である。
【0092】
積層材製造工程S1の第1拡散接合工程S2では、Ni層3とTi層5とを温間ないし熱間クラッド圧延によって接合し、これによりNi層3とTi層5との接合界面にNi−Ti系超弾性合金層4としてNiTi超弾性合金層(厚さ:約1μm)を形成した。次いで、積層材製造工程S1の第2拡散接合工程S3では、Ti層5とAl層6とを冷間ないし温間クラッド圧延により接合した。これにより、Ni層3とTi層5とAl層6とが積層状に接合一体化された積層材2を得た。
【0093】
また、冷却器本体10として、次の平面視方形状の板を準備した。
【0094】
・冷却器本体10:長さ50mm×幅50mm×厚さ5mmのAl合金板。
【0095】
冷却器本体10を形成するAl合金板の材質はJISで規定されたアルミニウム合金記号A3003である。なお、このAl合金板は冷却器本体10を模したものであり、このAl合金板の片側の表面を冷却器本体10の冷却面10aとみなした。
【0096】
次いで、ろう付け接合工程S4を次のように行った。すなわち、積層材2のAl層6の下面と冷却器本体10の冷却面10a(即ちAl合金板の片側の表面)との間にろう付け材料12としてAl系ろう材板を介在させた状態で、冷却器本体10の冷却面10a上に積層材2を配置した。ろう材板の大きさは長さ25mm×幅25mm×厚さ20μmであり、その材質はAl−10質量%Siである。そして、積層材2のAl層6の下面と冷却器本体10の冷却面10aとが密着する方向に積層材2を押圧し、この状態を維持したままで真空中にて炉内ろう付けによって積層材2のAl層6の下面と冷却器本体10の冷却面10aとを接合した。この際のろう付け接合条件は、積層材2の押圧力:490Pa(5gf/cm)、ろう付け温度:600℃、ろう付け温度の保持時間:20min、真空度:4×10−4Paである。そして、このろう付け接合が終了したら、積層材2への押圧を解除した。
【0097】
次いで、Ni酸化膜除去工程S5を次のように行った。すなわち、積層材2のNi層3の上面3aに形成されたNi酸化膜11を除去するため、Ni層3の上面3aに当該上面3aが金属光沢を呈するようになるまでバフ研磨を施した。その後、Ni層3の上面3aに対して水洗い及び炭化水素洗浄を順次施した。これにより、Ni層3の上面3aを清浄化した。
【0098】
以上の工程により得られた冷却器1について、その積層材2のNi層3の上面3aに絶縁基板16の下面をリフロー炉を用いたはんだ付けによって接合することを試みたところ、Ni層3の上面3aに絶縁基板16を良好に接合することができた。
【0099】
<比較例>
冷却器本体10として、次の平面視方形状の板を準備した。
【0100】
・冷却器本体10:長さ50mm×幅50mm×厚さ5mmのAl合金板。
【0101】
冷却器本体10を形成するAl合金板の材質はJISで規定されたアルミニウム合金記号A3003である。なお、このAl合金板は冷却器本体10を模したものであり、このAl合金板の片側の表面を冷却器本体10の冷却面10aとみなした。
【0102】
次いで、冷却器本体10を、上記実施例のろう付け接合工程S4で適用したろう付け接合条件(ろう付け温度、ろう付け温度の保持時間、真空度等)と同じ条件で熱処理した。次いで、上記実施例のNi酸化膜除去工程S5で適用した除去条件と同じ条件で、冷却器本体10の冷却面10aに対してバフ研磨を施した。その後、冷却面10aに対して水洗い及び炭化水素洗浄を順次施した。
【0103】
次いで、冷却器本体10の冷却面10aに絶縁基板16の下面をリフロー炉を用いたはんだ付けによって接合することを試みたところ、冷却面10aに絶縁基板16を接合することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、絶縁基板等の被冷却体を冷却する冷却器の製造方法、半導体モジュールの製造方法、冷却器、及び、半導体モジュールに利用可能である。
【符号の説明】
【0105】
1:冷却器
2:積層材
3:Ni層
4:Ni−Ti系超弾性合金層
5:Ti層
6:Al層
10:冷却器本体
11:Ni酸化膜
12:ろう付け材料
16:絶縁基板(被冷却体)
17:はんだ層
20:半導体モジュール
21:半導体素子
22:はんだ層
30:クラッド圧延装置
40:放電プラズマ焼結装置
図1
図2
図3
図4
図5