特許第5918019号(P5918019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918019
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20160428BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20160428BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20160428BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20160428BHJP
【FI】
   H01M10/0585
   H01M10/052
   H01M10/0562
   H01M4/13
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-114549(P2012-114549)
(22)【出願日】2012年5月18日
(65)【公開番号】特開2013-243006(P2013-243006A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】小笠 和仁
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−078119(JP,A)
【文献】 特開2006−261008(JP,A)
【文献】 特開2010−225432(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0258984(US,A1)
【文献】 特開2009−238463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極層と、
前記第一電極層の両側に固体電解質層を挟んで積層された第二電極層と、
を有する全固体二次電池であって、
前記第一電極層と、前記第一電極層に隣接する固体電解質層と、を貫通しており、前記第一電極層及びそれに隣接する固体電解質層を平面視した場合にその外周形状が閉じた第一開口部が少なくとも1つ設けられ、
前記第一開口部の内部で、前記第一電極層の両側にある前記第二電極層が直接、又は周囲を前記第一開口部に囲まれた島状部を介して接触する全固体二次電池。
【請求項2】
前記第一開口部の内壁が、固体電解質によって覆われている、請求項1に記載の全固体二次電池。
【請求項3】
複数の前記第一電極層と複数の前記第二電極層とが、前記固体電解質層を挟んで交互に積層され、
積層方向の一端部に前記第二電極層が設けられ、
前記第一開口部が、前記第一電極層の各々と、それに隣接する固体電解質層と、を貫通するように設けられる、請求項1又は2に記載の全固体二次電池。
【請求項4】
前記第二電極層の両側に固体電解質層を挟んで積層された第一電極層を有し、
前記第二電極層と、前記第二電極層に隣接する固体電解質層と、を貫通しており、前記第二電極層及びそれに隣接する固体電解質層を平面視した場合にその外周形状が閉じた第二開口部が少なくとも1つ設けられ、
前記第二開口部の内部で、前記第二電極層の両側にある前記第一電極層が直接、又は周囲を前記第二開口部に囲まれた島状部を介して接触する、請求項1から3のいずれかに記載の全固体二次電池。
【請求項5】
前記第二開口部の内壁が、固体電解質によって覆われている、請求項4に記載の全固体二次電池。
【請求項6】
複数の前記第一電極層と複数の前記第二電極層とが、前記固体電解質層を挟んで交互に積層され、
積層方向の一端部に前記第一電極層が、他端部に前記第二電極層が設けられ、
前記第一開口部が、前記一端部以外に設けられた前記第一電極層の各々と、それに隣接する固体電解質層と、を貫通するように設けられ、
前記第二開口部が、前記他端部以外に設けられた前記第二電極層の各々と、それに隣接する固体電解質層と、を貫通するように設けられる、請求項4又は5に記載の全固体二次電池。
【請求項7】
前記第二開口部の内部で、前記第二電極層の両側にある前記第一電極層が前記島状部を介して接触する、請求項4から6のいずれかに記載の全固体二次電池。
【請求項8】
前記第一開口部の内部で、前記第一電極層の両側にある前記第二電極層が前記島状部を介して接触する、請求項1から7のいずれかに記載の全固体二次電池。
【請求項9】
前記固体電解質層の厚さが0.1μm以上50μm以下の範囲にある、請求項1から8のいずれかに記載の全固体二次電池。
【請求項10】
前記第一電極層及び前記第二電極層の一方が正極層であり、他方が負極層である、請求項1から9のいずれかに記載の全固体二次電池。
【請求項11】
複数の正極層と複数の負極層とが、固体電解質層を挟んで交互に積層され、
積層方向の一端部に前記正極層が、他端部に前記負極層が設けられ、
前記一端部以外に設けられた前記正極層の各々と、それに隣接する固体電解質層と、を貫通するように第一開口部が設けられ、
前記他端部以外に設けられた前記負極層の各々と、それに隣接する固体電解質層と、を貫通するように第二開口部が設けられ、
前記第一開口部は、前記正極層及びそれに隣接する固体電解質層を平面視した場合にその外周形状が閉じており、
前記第一開口部の内部で、前記正極層の両側にある前記負極層が、直接、又は周囲を前記第一開口部に囲まれた島状部を介して接触しており、
前記第二開口部は、前記負極層及びそれに隣接する固体電解質層を平面視した場合にその外周形状が閉じており、
前記第二開口部の内部で、前記負極層の両側にある前記正極層が、直接、又は周囲を前記第二開口部に囲まれた島状部を介して接触している全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
無機固体電解質を用い、電極にも有機物を用いない全固体二次電池は、有機電解液の漏液や有機電解液からのガス発生の心配がないため、安全な電池として期待されている。また、全固体二次電池は、液系の電池と比較して電池反応以外の副反応が生じることが少ないため、液系の電池に比べて長寿命化が期待できる。
【0003】
全固体二次電池の一例として、例えば特許文献1には、負極集電体層の両側に負極活物質層が積層された負極層と、正極集電体層の両側に正極活物質層が積層された正極層とが、固体電解質層を介して交互に積層されており、これら正極層や負極層が接続している端部電極について、導電性物質が活物質を担持する構造を有していることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−198692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示されているような積層構造を有する全固体二次電池では、負極層及び正極層が固体電解質層を介して交互に積層されることで、全固体二次電池が積層方向に並べられるような構造になるため、単位面積当たりの放電容量を高めることが期待される。しかし、特許文献1で開示されている積層構造では、放電容量に関係しない集電体層が負極層及び正極層の各々に形成されているため、単位体積当たりの放電容量は十分に高いとはいえない。その一方で、特許文献1の全固体二次電池で集電体層を用いずに活物質層のみで負極層や正極層を形成しようとする場合、電子が負極層や正極層を通って端部電極まで移動することになり、全固体二次電池の内部抵抗が大きくなるため、却って放電容量が低下し且つ全固体二次電池からの出力電流も小さくなる。
【0006】
また、単位体積当たりの放電容量を大きくするには、固体電解質層を薄くし(例えば厚さ1μm〜2μm程度)、電極層を厚く形成する必要がある。特許文献1に開示された積層構造及び製造方法において、固体電解質グリーンシート層(特許文献1における固体電解質ペースト層)を薄く形成し、その一部に電極グリーンシート層(特許文献1における正極活物質ペースト層又は負極活物質ペースト層)を厚く(例えば厚さ10μm〜20μm程度)積層すると、PETフィルム等の支持体から積層後のグリーンシート群を離型する際に、固体電解質グリーンシート層が破れてしまう問題がある。
一方で、薄い固体電解質グリーンシートの全面に、厚い電極層グリーンシートを積層すると、グリーンシート群の端面で正極と負極が短絡してしまう問題がある。
したがって、特許文献1に開示された積層構造及び製造方法では、固体電解質層を薄くしながら電極層を厚くすることが困難なため、単位体積当たりの放電容量を大きくすることは困難である。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、内部抵抗の増大を抑えながらも、単位体積当たりの放電容量が十分に高い全固体二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、第一電極層に設けられた第一開口部の内部で、第一電極層の両側にある第二電極層が接触することで、第一開口部を通じた電子の流通が可能になることで、積層方向への電子の移動が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 第一電極層と、前記第一電極層の両側に固体電解質層を挟んで積層された第二電極層と、を有する全固体二次電池であって、前記第一電極層と、前記第一電極層に隣接する固体電解質層と、を貫通する第一開口部が少なくとも1つ設けられ、前記第一開口部の内部で、前記第一電極層の両側にある前記第二電極層が接触する全固体二次電池。
【0010】
(2) 前記第一開口部の内壁が、固体電解質によって覆われている、(1)に記載の全固体二次電池。
【0011】
(3) 複数の前記第一電極層と複数の前記第二電極層とが、前記固体電解質層を挟んで交互に積層され、積層方向の一端部に前記第二電極層が設けられ、前記第一開口部が、前記第一電極層の各々と、それに隣接する固体電解質層と、を貫通するように設けられる、(1)又は(2)に記載の全固体二次電池。
【0012】
(4) 前記第二電極層の両側に固体電解質層を挟んで積層された第一電極層を有し、前記第二電極層と、前記第二電極層に隣接する固体電解質層と、を貫通する第二開口部が少なくとも1つ設けられ、前記第二開口部の内部で、前記第二電極層の両側にある前記第一電極層が接触する、(1)から(3)のいずれかに記載の全固体二次電池。
【0013】
(5) 前記第二開口部の内壁が、固体電解質によって覆われている、(4)に記載の全固体二次電池。
【0014】
(6) 複数の前記第一電極層と複数の前記第二電極層とが、前記固体電解質層を挟んで交互に積層され、積層方向の一端部に前記第一電極層が、他端部に前記第二電極層が設けられ、前記第一開口部が、前記一端部以外に設けられた前記第一電極層の各々と、それに隣接する固体電解質層と、を貫通するように設けられ、前記第二開口部が、前記他端部以外に設けられた前記第二電極層の各々と、それに隣接する固体電解質層と、を貫通するように設けられる、(4)又は(5)に記載の全固体二次電池。
【0015】
(7) 前記第二電極層は、周囲を前記第二開口部に囲まれた島状部を有する、(4)から(6)のいずれかに記載の全固体二次電池。
【0016】
(8) 前記第一電極層は、周囲を前記第一開口部に囲まれた島状部を有する、(1)から(7)のいずれかに記載の全固体二次電池。
【0017】
(9) 前記固体電解質層の厚さが0.1μm以上50μm以下の範囲にある、(1)から(8)のいずれかに記載の全固体二次電池。
【0018】
(10) 前記第一電極層及び前記第二電極層の一方が正極層であり、他方が負極層である、(1)から(9)のいずれかに記載の全固体二次電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、内部抵抗の増大を抑えながらも、単位体積当たりの放電容量が十分に高い全固体二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】第一実施形態における、全固体二次電池の一例を示す断面図である。
図1B】第一実施形態における、全固体二次電池の発電要素の一例を示す断面図である。
図2】第二実施形態における、全固体二次電池の発電要素の一例を示す断面図である。
図3】実施例で得られた全固体二次電池のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の全固体二次電池は、第一電極層と、前記第一電極層の両側に固体電解質層を挟んで積層された第二電極層と、を有する全固体二次電池であって、前記第一電極層と、前記第一電極層に隣接する固体電解質層と、を貫通する第一開口部が少なくとも1つ設けられており、且つ、前記第一開口部の内部で、前記第一電極層の両側にある前記第二電極層が接触している。
【0022】
これにより、第一電極層の両側にある第二電極層が第一開口部の内部で接触して導通することで、第二電極層の中での電子の移動距離が低減される。そのため、集電体を第二電極層に設けなくても、全固体二次電池の内部抵抗の増大を抑えることが可能になる。
【0023】
加えて、全固体二次電池を作製するにあたり集電体を設けなくてもよいことで、全固体二次電池の単位体積当たりの放電容量が高められる。従って、内部抵抗の増大を抑えながらも、単位体積当たりの放電容量の十分に高められた全固体二次電池を提供することができる。
【0024】
以下、必要に応じて図1及び図2を参照しながら、本発明の全固体二次電池及びその製造方法の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0025】
≪全固体二次電池の基本形態≫
本発明の全固体二次電池1は、例えば図1Aに示すように、第一電極層、第二電極層及び固体電解質層を備えた発電要素10と、発電要素10の第一電極層と導通し且つ第一電極端子を兼ねる金属製ケース2と、発電要素10の第二電極層と導通し且つ第二電極端子を兼ねる金属製封口板3と、金属製ケース2と金属製封口板3とを絶縁し且つこれらを固定するように設けられる絶縁体4と、を備える。
図1Aは、全固体二次電池1の一例を示す断面図である。
【0026】
第一実施形態では、発電要素10aとして、第一電極層111a〜113aと、第一電極層111a〜113aの両側に固体電解質層12を挟んで積層された第二電極層131a〜133aと、を備える。この発電要素10aは、第一電極層113aと金属製ケース2との間に介在するように第一集電体層162を備え、第二電極層131aと金属製封口板3との間に介在するように第二集電体層161を備える。
図1Bは、全固体二次電池1の発電要素10aの一例を示す断面図である。
【0027】
(第一電極層及び第二電極層)
第一電極層111a〜113a及び第二電極層131a〜133aは、全固体二次電池1の両極を構成する。ここで、第一電極層111a〜113a及び第二電極層131a〜133aのうち一方が正極活物質を含む正極層であり、他方が負極活物質を含む負極層である。このとき、第一電極層111a〜113aを正極層として第二電極層131a〜133aを負極層としてもよく、第二電極層131a〜133aを正極層として第一電極層111a〜113aを負極層としてもよい。
【0028】
本実施態様では、複数の第一電極層111a〜113aと複数の第二電極層131a〜133aが、固体電解質層を挟んで交互に積層されている。これにより、他端部に形成された第二電極層131aが発電要素10aの第二電極になり、且つ、一端部に形成された第一電極層113aが発電要素10aの第一電極になる。第一電極や第二電極の集電体の構造を簡素化できるため、特別な配線構造を設けなくても全固体二次電池1をボタン型等の形状にすることができ、全固体二次電池1の小型化や薄型化を図ることができる。
【0029】
ここで、第一電極層113aは発電要素10aの積層方向の一端部に設けられ、第二電極層131aは発電要素10aの積層方向の他端部に設けられる。これにより、一端部に形成された第一電極層113aの全面が発電要素10aの第一電極になり、他端部に形成された第二電極層131aの全面が発電要素10aの第二電極になる。そのため、第一電極や第二電極の面積を大きくすることができ、且つ第一電極や第二電極に設けられる第一集電体層162や第二集電体層161の構造を簡素化できるため、全固体二次電池1の小型化や薄型化を図ることができる。
【0030】
第一電極層111a〜113aの電気伝導率は、第一電極層111a〜113aの厚さに応じて設定されるが、例えば1×10−6S/cm以上であることが好ましい。これにより、第一電極層111aと第一電極層112aの接触する部分を流れる電流や、第一電極層112aと第一電極層113aの接触する部分を流れる電流が増加するため、全固体二次電池1の内部抵抗を低減できる。また、第二電極層131a〜133aの電気伝導率も、第一電極層111a〜113aと同様の理由で、1×10−6S/cm以上の範囲であることが好ましい。従って、第一電極層111a〜113a及び第二電極層131a〜133aの電気伝導率は、好ましくは1×10−6S/cm、より好ましくは1×10−5S/cm、最も好ましくは1×10−4S/cmを下限とする。
【0031】
第一電極層111a〜113aの厚さは、40μm以下であることが好ましい。特に、一端部以外に形成される第一電極層111a、112aの厚さを40μm以下にすることで、発電要素10aの厚さ方向の電気抵抗を低減できる。また、単位体積当たりの電極層の積層数の増加が可能になるため、単位体積当たりの放電容量を向上し易くできる。このうち、特に後述する第一開口部141、142が設けられる第一電極層111a、112aの厚さを40μm以下にすることで、第二電極層131aと第二電極層132aが近接し易くなり、且つ第二電極層132aと第二電極層133aが近接し易くなるため、これらの接触を図り易くできる。従って、第一電極層111a〜113aの厚さの上限は、好ましくは40μm、より好ましくは30μm、最も好ましくは20μmである。一方で、第一電極層111a〜113aの厚さを2μm以上にすることで、第一電極層111a〜113aに吸蔵できるリチウムイオンが増加するため、全固体二次電池1に所望の放電容量を確保できる。また、第一電極層111a〜113aの平面方向における電気伝導性を充分なものとすることができる。従って、第一電極層111a〜113aの厚さの下限は、好ましくは2μm、より好ましくは5μm、最も好ましくは10μmである。
【0032】
また、第二電極層131a〜133aの厚さの上限は、第一電極層111a〜113aと同じ理由で、好ましくは40μm、より好ましくは30μm、最も好ましくは20μmである。第二電極層131a〜133aの厚さの下限も、第一電極層111a〜113aと同じ理由で、好ましくは2μm、より好ましくは5μm、最も好ましくは10μmである。
【0033】
(固体電解質層)
固体電解質層12は、リチウムイオンの移動媒体となる固体電解質を含有し、第一電極層111a〜113aの少なくとも一方の面に隣接して積層され、且つ第二電極層131a〜133aの少なくとも一方の面に隣接して積層されるものであり、第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aとの間に挟まれるように積層される。これにより、第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aとの間でリチウムイオンの移動が行われながらも導通が抑えられるため、これらの間に二次電池を形成できる。
【0034】
ここで、固体電解質層12の厚さは、0.1μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。特に、固体電解質層12の厚さを50μm以下にすることで、例えば第一電極層111aの内部で、第二電極層131aと第二電極層132aが近接し易くなるため、第一電極層同士の接触や、第二電極層同士の接触を図り易くできる。また、固体電解質層12のイオン伝導抵抗が減ることで、全固体二次電池1の内部抵抗を低減できる。また、固体電解質層12が電極層よりも薄く構成されるため、単位体積当たりの電極層の積層数を増加でき、単位体積あたりの放電容量やエネルギー密度を向上できる。この場合、固体電解質層12の厚さの上限は、好ましくは50μm、より好ましくは10μm、最も好ましくは3μmである。一方で、固体電解質層12の厚さを0.1μm以上にすることで、第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aとの導通を確実に抑えられる。この場合、固体電解質層12の厚さの下限は、好ましくは0.1μm、より好ましくは1μm、最も好ましくは2μmである。
【0035】
(第一開口部)
第一開口部141は、第一電極層111aと、第一電極層111aに隣接する固体電解質層12を貫通するように設けられる。これにより、第一電極層111aの両側に設けられた第二電極層131aと第二電極層132aが第一開口部141の内部に入り込んで接触することで、第二電極層131aと第二電極層132aの間が導通し、これらの層の厚さ方向(積層方向)に電流が生じる。そのため、第二電極層131a、132aの面方向の端部に端部電極を設けなくても、積層方向に複数形成された二次電池セルの各々との電子のやりとりが可能になるため、第二電極層131a、132aの内部における電子の移動距離を低減できる。従って、第二電極層131aや第二電極層132aの中に集電体を設けなくても、全固体二次電池1の内部抵抗の増大を抑えることが可能になる。
【0036】
特に、本実施形態のように、複数の第一電極層111a〜113aと複数の第二電極層131a〜133aが固体電解質層12を挟んで交互に積層されている態様では、第一開口部141、142は、一端部以外に設けられた複数の第一電極層111a、112aの各々と、それらに隣接する固体電解質層12と、を貫通するように設けられることが好ましい。これにより、第一開口部141、142の各々において、第一開口部141、142に隣接する第二電極層131a〜133aが接触することで、他端部に形成されていない第二電極層132a〜133aの各々から、他端部に形成された第二電極層131aまで、第一開口部141、142の内部を通じて積層方向に電流が生じる。すなわち、他端部にある第二電極層131aに第二集電体層161を形成したときに、第二集電体層161と各々の第二電極層131a〜133aとが導通するため、第二電極層131a〜133aの面方向の端部に端部電極を設けなくても全固体二次電池1を構成できる。また、発電要素10aにおける、第二電極層131a〜133aから第二集電体層161までの電子の移動距離の総和が小さくなることで、全固体二次電池1の内部抵抗の増大を抑えられる。
【0037】
第一開口部141、142の周縁に形成される開口は、円形が好ましい。これにより、第二電極層131a〜133aが第一開口部141、142に入り込み易くなることで、第二電極層131aと第二電極層132aとを接触させ易くでき、且つ第二電極層132aと第二電極層133aとを接触させ易くできる。
【0038】
第一開口部141の開口の面積は、第一電極層111aや固体電解質層12の厚さ、後述する島状部の有無に応じて設定されるが、第一電極層111aや固体電解質層12を平面視した場合における、当該第一電極層111aや固体電解質層12の面積に対する開口の合計面積の割合は、好ましくは1%、より好ましくは3%、さらに好ましくは4%を下限とする。これにより、第二電極層131aと第二電極層132aとを接触し易くできるため、第二電極層131aと第二電極層132aとの接触部分における電気抵抗を低減できる。一方で、第一開口部141の開口の面積割合の上限は、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらに好ましくは5%とする。これにより、第一電極層111aや固体電解質層12の有効面積が確保されるため、全固体二次電池1の放電容量の低減を抑えられる。他の第一開口部142も、第一開口部141と同様の面積割合を有する。
ここで、上述の合計面積の割合は、下記式で表される。
面積割合(%)=[第一開口部141の開口の合計面積]/[第一開口部141の開口の面積を含んだ、第一電極層111aや固体電解質層12の面積]×100
【0039】
第一開口部141、142の内壁は、固体電解質層12によって覆われている。これにより、第一開口部141、142の内壁に第二電極層131a〜133aが接触しても、第一電極層111a、112aと第二電極層131a〜133aとの短絡を防ぐことができる。
【0040】
ここで、第一開口部141、142の内壁に形成される固体電解質層12の厚さは、第一電極層111a、112aと第二電極層131a〜133aとの導通を確実に抑える観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、最も好ましくは1μm以上の範囲である。一方で、第一開口部141、142の内壁に形成される固体電解質層12の厚さは、固体電解質層12の形成による単位体積当たりの放電容量の低下を抑える観点から、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、最も好ましくは2μm以下の範囲である。
【0041】
(第二開口部)
第二開口部151、152は、第二電極層132a、133aと、第二電極層132a、133aに隣接する固体電解質層12を貫通するように設けられる。このとき、第二電極層132aの両側に設けられた第一電極層111a、112aが第二開口部151の内部に入り込んで接触し、且つ、第二電極層133aの両側に設けられた第一電極層112a、113aが第二開口部152の内部に入り込んで接触する。これにより、第一電極層111aと第一電極層112aの間、及び、第一電極層112aと第一電極層113aが導通し、積層方向に電流が生じる。そのため、第一電極層111a〜113aの面方向の端部に端部電極を設けなくても、積層方向に複数形成された二次電池セルの各々との電子のやりとりが可能になるため、第一電極層111a〜113aの内部における電子の移動距離を低減できる。
【0042】
第二開口部151、152の内壁は、第一開口部141、142と同様に、固体電解質層12によって覆われている。これにより、第二開口部151、152の内壁に第一電極層111a〜113aが接触しても、第二電極層131a〜133aと第一電極層111a〜113aとの短絡を防ぐことができる。
【0043】
第二開口部151、152の周縁に形成される開口の形状や、第二開口部151、152の開口の面積、第二開口部151、152の内壁に形成される固体電解質層12の厚さは、第一開口部141、142と同様である。
【0044】
≪第一電極層や第二電極層が島状部を有する態様≫
他の実施形態では、発電要素10bとして、第一電極層111b、112bや第二電極層132b、133bが、周囲を第一開口部141、142や第二開口部151、152に囲まれた島状部171〜174を有する。
図2は、発電要素10bの一例を示す要部断面図を示す。
【0045】
(島状部)
第一電極層111bに形成される島状部173は、周囲が第一開口部141に囲まれるように構成される。これにより、第一電極層111bの両側にある第二電極層131bと第二電極層132bが島状部173を介して間接的に接触することで、第二電極層131bと第二電極層132bの導通が島状部173によって確保されながらも、第二電極層131b、132bが第一開口部141に入り込むことによって生じる第二電極層131b、132bの変形が低減される。そのため、第二電極層131bと第二電極層132bをより接触し易くして全固体二次電池1の内部抵抗を低減することができる。また、特に発電要素10bを作製する際の、焼成前のグリーンシート積層体の表面において、第一開口部141による凹凸を低減でき、この凹凸によって厚みの少ない固体電解質グリーンシートが破断することを低減できる。
【0046】
第二電極層132bに形成される島状部171は、島状部173と同様の理由により、周囲が第二開口部151に囲まれるように構成される。
【0047】
ここで、第一電極層111bの面方向についての、第一電極層111bの面積に対する島状部173の面積割合は、島状部173による電気抵抗を低く抑え、ひいては全固体二次電池1の内部抵抗を低減する観点から、好ましくは0.5%、より好ましくは2.5%、さらに好ましくは3.5%を下限とする。一方で、島状部173によって第一電極層111bの体積が減少することによって生じる、全固体二次電池1の電池容量の低減を抑える観点から、第一電極層111bの面方向に関する、第一電極層111bの面積に対する島状部173の面積割合は、好ましくは9.5%、より好ましくは7.5%、さらに好ましくは4.5%を上限とする。他の島状部171、172、174も、島状部173と同様の面積割合を有する。
ここで、上述の面積割合は、下記式で表される。
面積割合(%)=[島状部173の面積]/[第一開口部141の開口の面積と、島状部173の面積を含んだ、第一電極層111aや固体電解質層12の面積]×100
【0048】
島状部173を形成する手段としては、例えば第一電極層111bにレーザを照射し、第一電極層111bに形成される開口と島状部173との間に空隙を形成する手段を用いることができる。このとき、第一電極層111bに隣接するように固体電解質層12を形成する一方で、島状部173の厚さ方向の表面には固体電解質層12を形成しないことで、島状部173と第二電極層131b、132bとの導通を確保する一方で、島状部173と第一電極層111bとの導通を抑えることができる。
【0049】
≪全固体二次電池のその他の態様≫
第一開口部141、142は、第一電極層111a、112a(又は第一電極層111b、112b)の1層当たり1箇所設けられていてもよいが、1層当たり2箇所以上設けられていてもよい。特に、第一開口部141、142が1層当たり2箇所以上設けられることにより、発電要素10における、第二電極層131a〜133a(又は第二電極層131b〜133b)から第二集電体層161までの電子の移動距離の総和がより短くなり易くなるため、全固体二次電池1の内部抵抗をより低くし易くできる。
【0050】
第一開口部141、142の周縁に形成される開口の形状は、円形に限られず、内部に第二電極層131a〜133a(又は第二電極層131b〜133b)が入りこみ得る形状であればよい。
【0051】
また、本発明において、「開口部」とは、電極層や固体電解質層12の厚さ方向に形成された孔であり、電極層や固体電解質層12を平面視した場合に、その外周形状が閉じられたものを意味するが、これに限らず、電極層や固体電解質層12の端部に形成された切欠きであって、その外周形状が閉じられていないものも含まれる。但し、電極層内の電子伝導経路の総和を短くする観点からは、第一開口部141、142や第二開口部151、152は厚さ方向に貫通する孔であることが好ましい。
【0052】
上述の実施形態では、第一開口部141、142や第二開口部151、152が積層方向について互いに重なるように設けられているが、積層方向について互いに重ならないように設けてもよい。
【0053】
ここで、例えば第一開口部141、142を積層方向について互いに重なるように設けた場合、最も一端側に形成された第二電極層133から他端側にある第二集電体層161までの電流が流れる際の電子の移動距離が小さくなるため、全固体二次電池1の内部抵抗をより小さくできる。
【0054】
一方で、図示しないが、第一開口部を積層方向について互いに重ならないように設けた場合、特に発電要素10を作製する際の、焼成前のグリーンシート積層体の表面において、第一開口部141、142による凹凸を低減でき、この凹凸によって厚みの少ない固体電解質グリーンシートが破断することを低減できる。積層方向について互いに重ならないように設ける手段としては、円形に切り取られた第一電極層の中心を重ねながら、第一電極層を回転方向に少しずつずらして積層する手段を用いることができる。
【0055】
また、上述の実施形態では、第一電極層及び第二電極層はそれぞれ3層ずつ用いられているが、それに限定されない。特に、単位体積当たりの放電容量を高めつつ、出力電流をより大きくする観点では、第一電極層及び第二電極層は、それぞれ10層ずつ以上あることが好ましく、30層ずつ以上あることがより好ましく、50層ずつ以上あることが最も好ましい。
【0056】
≪全固体二次電池の作製≫
以下、本発明の全固体二次電池1に用いられる発電要素10aを作製する方法について、図1A及び図1Bを基に説明する。
発電要素10aは、例えば、第一電極層111a〜113aの原料組成物を塗布して第一電極グリーンシートを形成した後、第一開口部141、142を形成する部分に開口部を形成し、次いで後述する第二開口部151、152を形成する一部領域を除いて固体電解質層12の原料組成物を塗布する第一シート作製工程と、第二電極層131a〜133aの原料組成物を塗布して第二電極グリーンシートを形成した後、第二開口部151、152を形成する部分に開口部を形成し、次いで第一開口部141、142を形成する一部領域を除いて固体電解質層12の原料組成物を塗布する第二シート作製工程と、第一シートの開口部と第二シートの一部領域とが重なり、且つ第二シートの開口部と第一シートの一部領域とが重なるように第一シートと第二シートを積層する積層工程と、第一シートと第二シートの積層体を加圧しながら加熱する加熱プレス工程と、を経て作製される。なお、本明細書では、第一電極層111a〜113a及び第二電極層131a〜133aを電極層と総称し、正極活物質及び負極活物質を電極活物質と総称する。
【0057】
本発明における「グリーンシート」とは、薄板状に成形されたガラス粉末、結晶(セラミックス又はガラスセラミックス)粉末の未焼成体を指す。具体的には、固体電解質と、有機バインダ、溶剤等からなる原料組成物を薄板状に成形したものをいう。また、「グリーンシート」には、他のグリーンシート又は他のグリーンシートの焼成体に原料組成物が塗布されたものも包含される。
【0058】
[原料組成物]
全固体二次電池1の作製に用いられる原料組成物は、固体電解質と、電極活物質や導電助剤を含有し、スラリーやペーストの態様をなす。これにより、原料組成物が所望の粘性や硬さを有するため、このような原料組成物を用いて電極層や固体電解質層12を作製することで、第一開口部141、142や第二開口部151、152によって隔てられた電極層同士を接触させることができる。
【0059】
ここで、正極層となる電極層は、正極活物質と、固体電解質と、導電助剤を含有する。一方で、負極層となる電極層は、負極活物質と、固体電解質と、導電助剤を含有する。また、固体電解質層12は、固体電解質を含有する。
【0060】
(固体電解質)
本工程で用いる固体電解質として、リチウムイオン伝導性のガラスや結晶を用いる。
特に、第一電極層111a〜113aや第二電極層131a〜133aに含まれる固体電解質としてリチウムイオン伝導性のガラスを用いることにより、後述する加熱プレス工程でガラスが軟化することで、第一電極層111a〜113aや第二電極層131a〜133aが柔軟になって第一開口部141、142や第二開口部151、152に入り込み易くなる。そのため、電極層同士の密着性を高めてこれらの間での電気抵抗を低減できる。
【0061】
また、固体電解質としてリチウムイオン伝導性のガラスを用いることにより、後述する加熱プレス工程を行ったときにガラスが軟化するため、電極層に含まれる電極活物質や導電助剤の濃度を増やすことで固体電解質の濃度を減らしても、電極層が所望のリチウムイオン伝導性を得られる。従って、電極層をより薄くすることができる。
【0062】
一方で、固体電解質としてリチウムイオン伝導性の結晶を用いることにより、固体電解質のリチウムイオン伝導性がより高められるため、全固体二次電池1の充放電効率をより高められる。
【0063】
ここで、リチウムイオン伝導性の結晶としては、例えばNASICON型、β−Fe(SO型、及びペロブスカイト型から選ばれる酸化物の結晶が挙げられる。より具体的には、例えばLiBaLaTa12、LiN、La0.55Li0.35TiO、Li1+XAl(Ti,Ge)2-X(PO、LiTi12、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO、Li1+x+yZr2−x(Al,Y)Si3−y12(但し、0.05≦x≦0.3、0.05≦y≦0.3)を挙げることができる。その中でも特に、Li1+x+z2−jSi3−y12(但し、j、x、y、zは0≦x≦0.8、0≦z≦0.6、yは0≦y≦0.6、jは0≦j≦0.6を満たし、EはAl、Ga、Y、Sc、Ge、Mg、Ca、Ce、Smから選ばれる1種以上、GはTi、Zrから選ばれる1種類以上)が好ましい。
【0064】
また、リチウムイオン伝導性のガラスとしては、例えばLiPO、70LiPO−30LiPO、LiO−SiO、LiO−SiO−P−B−BaO系の、非晶質又は多晶質のガラスが挙げられる。その中でも特に、LiO−P系ガラス及びLiO−P−M’系のガラス(PがSiに置換されたものも含む。M’はAl、Bである。)から選択される1種以上が好ましい。
【0065】
特に、固体電解質層12に含まれる固体電解質の含有率の下限は、焼成後の空隙を介した第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aとの導通を低減できる観点から、原料組成物の全体に対して、好ましくは5質量%、より好ましくは10質量%、最も好ましくは20質量%とする。一方で、固体電解質層12に含まれる固体電解質の含有率の上限は、固体電解質層12の機械的強度を高める観点から、好ましくは80質量%、より好ましくは60質量%、最も好ましくは40質量%とする。
【0066】
ここで、全固体二次電池1に含まれる固体電解質、電極活物質及び導電助剤の含有量とこれらの組成は、全固体二次電池1を構成する固体電解質層12及び/又は電極層を削り出して、電界放出形透過電子顕微鏡(FE−TEM)に搭載されたエネルギー損出分析装置若しくはX線分析装置、又は電界放出形走査顕微鏡(FE−SEM)に搭載されたX線分析装置を用いて特定することが可能である。このような定量分析や点分析を用いることで、例えば固体電解質の存在の有無やその組成比がわかる。X線分析装置を用いた場合、LiOは直接分析できないため、他の構成成分から電荷を算出することで、LiO含有量を推定する。
【0067】
(電極活物質)
電極活物質のうち正極活物質は、例えばNASICON型のLiV(PO、オリビン型のLiMtPO(但し、JはAl、Mg、Wから選ばれる少なくとも1種以上であり、MtはNi、Co、Fe、Mnから選ばれる1種以上、0.9≦x≦1.5、0≦y≦0.2)、層状酸化物、又はスピネル型酸化物であることが好ましい。その中でも特に、LiMtO及び/又はLiMt(但し、MtはFe、Ni、Co及びMnの中から選ばれる1種以上)からなることがより好ましい。これにより、正極活物質がリチウムイオンを吸蔵し易くなるため、全固体二次電池の放電容量をより高めることができる。正極活物質の具体例としては、例えばLiCoPO、LiCoO、LiMnを用いることができる。
【0068】
一方で、負極活物質は、NASICON型、オリビン型、スピネル型の結晶を含む酸化物、ルチル型酸化物、アナターゼ型酸化物、若しくは非晶質金属酸化物、又は金属合金等から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。その中でも特に、Li1+x+zAlTiSi3−z12(但しx、y、zは0≦x≦0.8、0≦z≦0.6、yは0≦y≦0.6を満たす)、LiTi12、TiOからなることがより好ましい。これにより、負極活物質がリチウムイオンを吸蔵し易くなるため、全固体二次電池の放電容量をより高めることができる。負極活物質の具体例としては、例えばLi(PO、LiFe(PO、LiFePO、LiTi12、SiOx(0.25≦x≦2)、CuSnを用いることができる。
【0069】
電極層の原料組成物に含まれる正極活物質と負極活物質の含有量は、原料組成物の全体に対して、10質量%以上80質量%以下であることが好ましい。特に、この含有量を30質量%以上にすることで、リチウムイオンの吸蔵量を高められるため、全固体二次電池1の放電容量を高めることができる。そのため、正極活物質と負極活物質の含有量は、好ましくは10質量%、より好ましくは20質量%、最も好ましくは30質量%を下限とする。一方で、この含有量を80質量%以下にすることで、固体電解質や以下に述べる導電助剤をより多く含有できることで、電極層のリチウムイオン伝導性や電子伝導性が高められるため、全固体二次電池1の内部抵抗を低減できる。そのため、正極活物質及び負極活物質の含有量は、好ましくは80質量%、より好ましくは60質量%、最も好ましくは40質量%を上限とする。
【0070】
(導電助剤)
導電助剤は、炭素、並びにNi、Fe、Mn、Co、Mo、Cr、Ag及びCuの少なくとも1種以上からなる金属及びこれらの合金を用いることできる。また、チタンやステンレス、アルミニウム等の金属や、白金、銀、金、ロジウム等の貴金属を用いてもよい。このような電子伝導性の高い材料を導電助剤として用いることで、電極層中に形成された狭い電子伝導経路を通じて伝導できる電流量が増大するため、集電体を用いなくても内部抵抗の小さい全固体二次電池を形成できる。
【0071】
導電助剤の含有率は、放電容量と電極層の抵抗率とのバランスを考慮し、電極層の原料組成物の全体に対し、2質量%以上15質量%以下であることが好ましく、3質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上7質量%以下であることが最も好ましい。
【0072】
(溶剤)
原料組成物には、塗布を容易にするために溶剤が用いられる。溶剤としては、PVA、IPA、ブタノール等の公知の材料を用いることができるが、環境負荷を軽減できる点でアルコール又は水を用いることが好ましい。また、より均質で緻密な固体電解質を得るために、適量の分散剤を併用してもよく、乾燥する際の泡抜き効率を向上するために、適量の界面活性剤を併用してもよい。
【0073】
(有機バインダ)
原料組成物には、有機バインダを用いてもよい。有機バインダとしては、プレス成形やラバープレス、押出成形、射出成形用の成形助剤として汎用されている市販のバインダが使用できる。具体的には、アクリル樹脂、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂、ブチルメタアクリレート、ビニル系の共重合物等が挙げられる。
【0074】
[第一シート作製工程]
第一シート作製工程では、第一電極層111a〜113aの原料組成物を塗布して第一電極グリーンシートを形成した後、一端部以外の第一電極層111a、112aになる第一電極グリーンシートについて、第一開口部141、142を形成する部分に開口部を形成する。次いで、第二開口部151、152を形成する一部領域を除いて固体電解質層12の原料組成物を塗布する。これにより、第一開口部141、142を形成する部分には、第一電極グリーンシートと、固体電解質層12のグリーンシートとを貫通する開口部を有する第一シートを作製することができる。
【0075】
第一電極層111a〜113aの原料組成物を塗布する基材には、離型処理が施されたPET等の基材を用いることができる。また、第一電極層111a〜113aの原料組成物の塗布は、例えばドクターブレードやカレンダ法、スピンコートやディップコーティング等の塗布法、印刷法、ダイコーター法、スプレー法を用いることができる。
【0076】
第一電極層111a〜113aの原料組成物を塗布によって作製される第一電極グリーンシートのうち、一端部以外の第一電極層111a、112aになる第一電極グリーンシートについて、第一開口部141、142を形成する部分に開口部を形成する。これにより、第一電極層111a〜113aを貫通するように開口部が形成される。第一電極グリーンシートに開口部を形成する手段としては、例えばレーザ照射等の手段を用いることができる。
【0077】
次いで、開口部の形成された第一電極グリーンシートに、第二開口部151、152になる領域を除いて、固体電解質層12の原料組成物を塗布する。このとき、第一電極グリーンシートの上にスクリーン印刷を行って固体電解質層12の原料組成物を塗布することが好ましい。これにより、固体電解質層12のグリーンシートと第一電極グリーンシートとを一体的に取り扱えるため、固体電解質層12をより薄くすることができ、全固体二次電池1の単位体積あたりの放電容量を高めることができる。また、第一電極グリーンシートの所望の位置に、所望の大きさ及び厚さの固体電解質層12のグリーンシートが形成されるため、第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aとの間の導通を低減できる。また、第一電極グリーンシートの開口部の内壁に沿って固体電解質層12の原料組成物が付着するため、内壁が固体電解質層12で覆われた第一開口部141、142を形成できる。また、第一電極グリーンシートの外縁にも固体電解質層12が付着するため、発電要素10aの端面における短絡を低減できる。
【0078】
[第二シート作製工程]
第二シート作製工程では、第二電極層131a〜133aの原料組成物を塗布して第二電極グリーンシートを形成した後、他端部以外の第二電極層132a、133aになる第二電極グリーンシートについて、第二開口部151、152を形成する部分に開口部を形成する。次いで、他端部以外の第二電極層132a、133aになる第二電極グリーンシートについて、第一開口部141、142になる一部領域を除いて、固体電解質層12の原料組成物を塗布する。これにより、第二電極グリーンシートの一部領域を除いた領域に固体電解質層12のグリーンシートが形成された、他端部以外に用いられる第二シートが作製される。また、第二電極グリーンシートからなり、固体電解質層12のグリーンシートが形成されていない、他端部に用いられる第二シートも作製される。
【0079】
第二電極層131a〜133aの原料組成物を塗布する基材には、離型処理が施されたPET等の基材を用いることができる。また、第二電極層131a〜133aの原料組成物の塗布は、例えばドクターブレードやカレンダ法、スピンコートやディップコーティング等の塗布法、印刷法、ダイコーター法、スプレー法を用いることができる。
【0080】
他端部以外の第二電極層132a、133aになる第二電極グリーンシートに対して固体電解質層12の原料組成物を塗布する際、第二電極グリーンシートの上にスクリーン印刷を行うことが好ましい。これにより、固体電解質層12のグリーンシートを第二電極グリーンシートと一体的に取り扱えることで、固体電解質層12をより薄くすることができ、全固体二次電池1の単位体積あたりの放電容量を高めることができる。また、第二電極層132a、133aになる第二電極グリーンシートの一部領域に、固体電解質層12のグリーンシートが形成されない領域を正確に形成できるため、第二電極層131a〜133aが互いに接触する部分における電気抵抗を低減することができる。
【0081】
第二電極グリーンシートの一部領域に、固体電解質層12のグリーンシートが形成されない領域を設ける手段として、上述のスクリーン印刷の印刷版の一部領域にマスクを形成する手段を用いる。これにより、印刷版のマスクで覆われた領域には固体電解質層12のグリーンシートが形成されなくなるため、固体電解質層12の形成されない領域を有する第二電極層132aを効率よく作製できる。
【0082】
[積層工程]
積層工程では、第一シートの開口部と第二シートの第一開口部141、142になる領域とが重なり、且つ第二シートの開口部と第一シートの第二開口部151、152になる領域とが重なるように、第一シートと第二シートを積層して積層体を形成する。これにより、第一シートの開口部と第二シートの当該領域とが貫通し、且つ、第二シートの開口部と第一シートの当該領域とが貫通するため、電極層と、その電極層に隣接する固体電解質層12とを貫通する第一開口部141、142や第二開口部151、152を形成できる。
【0083】
積層工程の態様としては、例えば、基材に形成された第一シートと第二シートを用い、第一シートに第二シートを積層した後、積層した第二シートの基材を剥離し、次いで、第一シートに第一シートを積層した後、積層した第一シートの基材を剥離する態様が挙げられる。
【0084】
積層工程の後、グリーンシートの積層体をCIP(冷間静水圧成形)によりプレスしてもよい。これにより、第一開口部141、142の内部に第二電極層131a〜133aが入り込み易くなり、且つ、第二開口部151、152の内部に第二電極層111a〜113aが入り込み易くなるため、これらの層の厚さ方向(積層方向)についての電気抵抗を低減できる。
【0085】
[脱脂工程]
脱脂工程では、グリーンシートの積層体に含まれる有機バインダー成分を加熱し、有機バインダー成分をガス化させて除去する。この工程により、加熱プレス後の固体電解質層12に残留する炭素が低減するため、短絡(固体電解質層12における電子導通)を防止できる。
脱脂工程における加熱温度は、350℃〜550℃が好ましい。
【0086】
[加熱プレス工程]
加熱プレス工程は、グリーンシートの積層体を加圧しながら加熱して固体電解質層12や電極層を形成する工程である。これにより、特に固体電解質層12や電極層に含まれる成分が軟化する等により、第一開口部141の内部に第二電極層131a及び132aが入り込み、第二電極層131aと第二電極層132aが接触する。
特に、加圧によって第一開口部141の内部に第二電極層131a、132aが入り込み易くなることで、第二電極層131aと第二電極層132aの接触面積が増加し易くなり、接触部分における電気抵抗が低減される。すなわち、第一開口部141を貫通するような電子の流通経路を確保し易くできるため、全固体二次電池の内部抵抗をより低減できる。
このことは、他の第一開口部142や第二開口部151、152でも同様である。
【0087】
加熱プレス工程を行う際の熱処理温度は、特に第二電極グリーンシートにリチウムイオン伝導性のガラスが含まれている場合、リチウムイオン伝導性ガラスのガラス転移点よりも高い温度で行うことが好ましく、リチウムイオン伝導性ガラスのガラス転移点よりも100℃以上高い温度で行うことがより好ましい。これにより、固体電解質が軟化することで第二電極グリーンシートに柔軟性がもたらされるため、第一開口部141、142や第二開口部151、152の内部に電極層を入り込み易くできる。一方で、固体電解質層12のグリーンシートにリチウムイオン伝導性のガラスが含まれている場合、固体電解質が軟化することで、固体電解質層12がより緻密になるため、第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aとの間における導通をより低減できる。
【0088】
加熱プレス工程における最高温度は、固体電解質粉末、電極活物質及び導電助剤が溶融したり相変化したりしない範囲で設定することが好ましい。例えば、この最高温度は、好ましくは1100℃、より好ましくは1050℃、最も好ましくは1000℃を上限としてもよい。
【0089】
加熱プレス工程でグリーンシートの積層体を加圧する圧力の下限は、このような効果を得易くできる観点で、好ましくは10MPa、より好ましくは50MPa、最も好ましくは100MPaを下限とする。また、この圧力の上限は、成形型やグリーンシートの積層体の破損を低減する観点で、好ましくは300MPa、より好ましくは250MPa、最も好ましくは200MPaを上限とする。グリーンシートの積層体の加圧は、例えばグリーンシートの積層体を成形する成形型に上型を載せて油圧プレス等で加圧することで行うことができる。
【0090】
(集電体の形成)
次いで、一端部にある第一電極層113aに導通するように第一集電体層162を形成し、他端部にある第二電極層131aに導通するように第二集電体層161を形成する。これにより、集電体を通じて電気を取り出せるため、全固体二次電池1への充電や、全固体二次電池1からの放電を行うことができる。集電体を積層する具体的態様としては、加熱プレス後の第一電極層113aや第二電極層131aに薄膜状の金属層を積層又は接合してもよく、グリーンシートの積層体に金属層や導電体の前駆体を積層した後で上述の加熱プレス工程を行ってもよい。
【実施例】
【0091】
以下、本発明について、具体的な実施例を挙げて説明する。
【0092】
(固体電解質の作製)
固体電解質として、セラミック電解質とガラス電解質を用いた。
セラミック電解質として、Li1.3Al0.1Zr1.80.1Si0.12.912を作製した。原料としてLiCO、ZrO、Al、Y及びSiOの紛体と、HPO溶液とを量論比で混合した後、白金板上で1480℃で1時間焼成した。焼成した原料の混合物をスタンプミルで200μm以下に粉砕し、φ2mmのYTZボール、エタノールを加え、遊星ボールミルで粉砕した。得られた粉末を乾燥し、1.0μm(D50)のセラミック電解質粉末を得た。
【0093】
ガラス電解質として、LiO−Al−P系ガラスを作製した。酸化物換算組成で、50mol%のLiOと、9mol%のAlと、41mol%のPとを含有するように原料を秤量して均一に混合した後、坩堝に投入して1250℃で溶解した。熔解したガラスを水中にキャストすることで、ガラス電解質を作製した。この電解質を、スタンプミルと遊星ボールミルを用いて平均粒子径2μm(D50)まで粉砕することで、ガラス電解質粉末を得た。
【0094】
(正極スラリー・負極スラリー・固体電解質ペーストの作製)
正極スラリーは、正極活物質としてLiFePO(三井造船株式会社製)を用い、これに上述のセラミック電解質及びガラス電解質と、導電助剤であるアセチレンブラックを表1に示す割合で混合し、これにバインダ、分散剤、湿潤材、DOS及び溶剤を表2に示す割合で加えてボールミルで混合して作製した。
負極スラリーは、負極活物質としてLiTi12を用い、これに上述のセラミック電解質及びガラス電解質と、導電助剤であるアセチレンブラックを表1に示す割合で混合し、これにバインダ、分散剤、湿潤材、DOS(セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル)及び溶剤を表2に示す割合で加えてボールミルで混合して作製した。
固体電解質ペーストは、上述のセラミック電解質及びガラス電解質を表1に示す割合で混合し、これにバインダ、分散剤、湿潤材、DOS及び溶剤を表2に示す割合で加えてボールミルで混合した後、三本ミルにて混練し、ハイブリットミキサーで脱泡して作製した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
得られた正極スラリーと負極スラリーをそれぞれ塗工機で塗布し、厚さ25μm、幅18cm、長さ5mのグリーンシートを作製し、そのシートを12cm角に裁断して正極グリーンシートと負極グリーンシートを作製した。
【0098】
このうち、正極グリーンシートに、レーザ加工機(パナソニック電工SUNX社製、型番LPV−15U)を用いてレーザを照射し、直径1mmの開口を有する開口部を形成した。負極グリーンシートにも、レーザ加工機を用いてレーザを照射し、正極グリーンシートの開口部とは異なる位置に直径1mmの開口を有する開口部を形成した。
【0099】
開口部を形成した正極グリーンシートと負極グリーンシートに対して、スクリーン印刷機(東海精機社製、型番SSA−PC250−IPP−L)を用いて、厚さ20μmになるように固体電解質ペーストを印刷した。このとき、正極グリーンシート及び負極グリーンシートの開口と同じ位置に、直径1mmの印刷されない領域を設けた。また、正極グリーンシートのうち負極グリーンシートの開口部と重なる位置と、負極グリーンシートのうち正極グリーンシートの開口部と重なる位置に、直径0.5mmの印刷されない領域を設けた。ここで、スクリーン印刷を行った後の正極グリーンシート及び負極グリーンシートの開口部には、固体電解質ペーストの層が薄く形成された。
【0100】
次いで、固体電解質ペーストをスクリーン印刷した正極グリーンシートと、固体電解質をスクリーン印刷した負極グリーンシートとを交互に積層した。このとき、負極グリーンシートに設けられた直径0.5mmの印刷されない領域に、正極グリーンシートの開口部を重ね合わせた。次いで、正極グリーンシートに設けられた直径0.5mmの印刷されない領域に、負極グリーンシートの開口部を重ね合わせた。このような正極グリーンシートと負極グリーンシートの積層を50回繰り返した後、開口部を設けておらず、且つスクリーン印刷も行っていない正極グリーンシートを積層した。積層したグリーンシートは、真空パックを行って静水圧プレスで加圧整形した後、レーザ加工機を用いて所定のサイズに切断した。
【0101】
所定のサイズにしたグリーンシートを直径11mmの成形型に入れて直径11mmの上型を載せ、金型内の雰囲気を窒素で置換した後、窒素雰囲気中で3時間にわたり450℃で脱脂した。その後、油圧プレスで2000kg/cmの圧力を掛けながら600℃まで2℃/secの昇温速度で加熱し、600℃に到達した後に圧力を開放して室温まで放冷し、全固体二次電池を得た。
【0102】
図5に、実施例で得られた全固体二次電池のSEM像を示す。ここから、本発明の実施例の全固体二次電池では、第一電極層の両側にある第二電極層が接触していることが明らかになった。
【0103】
従って、本発明の実施例の全固体二次電池は、第一開口部の内部で、第一電極層の両側にある第二電極層を接触させることが可能であることが明らかになった。このことから、本発明が課題としている、内部抵抗の増大を抑えながらも、単位体積当たりの放電容量が十分に高い全固体二次電池を提供できることが推察される。
【0104】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0105】
1 全固体二次電池
2 金属製ケース
3 金属製封口板
4 絶縁体
10、10a、10b 発電要素
111a〜113a 第一電極層
111b〜113b 第一電極層
12 固体電解質層
131a〜133a 第二電極層
131b〜133b 第二電極層
141、142 第一開口部
151、152 第二開口部
161 第二集電体層
162 第一集電体層
171〜174 島状部
図1A
図1B
図2
図3