特許第5918043号(P5918043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918043
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】オートテンショナ
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/12 20060101AFI20160428BHJP
【FI】
   F16H7/12 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-141590(P2012-141590)
(22)【出願日】2012年6月25日
(65)【公開番号】特開2014-5870(P2014-5870A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 勝也
(72)【発明者】
【氏名】米田 哲朗
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−112549(JP,A)
【文献】 特開2003−336702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/00− 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1円筒部を設けた固定部材と、
少なくとも一部分が前記第1円筒部と径方向の内外に重なって同軸上に配置される第2円筒部を設け、前記固定部材に対して回動自在に支持されて、ベルトが巻き掛けられるプーリを取り付け可能な回動部材と、
前記径方向の内外に重なる2つの円筒部の内径側に収容され、一端が前記固定部材に係止され、他端が前記回動部材に係止されて、前記固定部材に対して前記回動部材を一方向に回動付勢するコイルばねと、
一端が前記固定部材と前記回動部材の一方と前記コイルばねの端面との間に挟持され、他端が自由端とされて、前記固定部材と前記回動部材の他方に設けられ、前記径方向の内外の内側に重なる内側円筒部の内周面に沿って、前記コイルばねの外周側で円弧状に延在する弾性体と、
前記弾性体に結合され、前記内側円筒部の内周面に接触する摩擦部材とを備えたオートテンショナにおいて、
前記弾性体を弾性復元力によって前記内側円筒部の内周面に圧接させ、
前記弾性体の前記一端を前記コイルばねの前記端面との間に挟持する側の前記固定部材と前記回動部材の前記一方に、前記弾性体の内周側で、ベルト張力が増加する場合に拡径変形する前記コイルばねを当接させるコイルばねサポート部を設けたことを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
前記コイルばねサポート部を、前記コイルばねの端面が前記弾性体の前記一端を挟持する周方向位置から、前記コイルばねが周回して延びる方向に80°〜100°の範囲の周方向位置を中央位置として、その両側に拡がる周方向領域に設けた請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項3】
前記中央位置の両側に拡がる周方向領域の片側の中心角を35°〜50°とした請求項2に記載のオートテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトの張力を調整するオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の補機駆動システム等における伝動ベルトの張力を調整するオートテンショナには、第1円筒部を設けた固定部材と、少なくとも一部分が第1円筒部と径方向の内外に重なって同軸上に配置される第2円筒部を設け、固定部材に対して回動自在に支持されて、ベルトが巻き掛けられるプーリを取り付け可能な回動部材と、径方向の内外に重なる2つの円筒部の内径側に収容され、いずれか一方の端が固定部材に係止され、他方の端が回動部材に係止されて、固定部材に対して回動部材を一方向に回動付勢するコイルばねと、一端に形成された折り曲げ部が固定部材と回動部材のいずれか一方とコイルばねの端面との間に挟持され、他端が自由端とされて、他方の固定部材または回動部材に設けられ、径方向の内外の内側に重なる内側円筒部の内周面に沿って、コイルばねの外周側で円弧状に延在する弾性体と、弾性体に結合され、内側円筒部の内周面に接触する摩擦部材とを備えたものがある(例えば、特許文献1−3参照)。弾性体は板ばね等の金属で形成され、摩擦部材はナイロン樹脂等を主成分とする合成樹脂で形成されている。
【0003】
この種のオートテンショナは、回動部材が、ベルト張力を下げるベルト弛み方向に回動する場合と、ベルト張力を高めるベルト張り方向に回動する場合とで、摩擦部材と内側円筒部の内周面との間に発生する摩擦力を異ならせて、回動部材の回動方向に対して非対称なダンピング特性を持たせることができる。すなわち、ベルト弛み方向では摩擦力を大きくしてダンピングを強くすることにより、伝動ベルトの急激な張力の低下による弦振動を防止することができ、ベルト張り方向では摩擦力を小さくてダンピングを弱くすることにより、低下した伝動ベルトの張力を速やかに回復させることができる。
【0004】
特許文献1、2に記載されたものは、コイルばねが拡径変形するときの外向きのばね力によって、弾性体に結合された摩擦部材を内側円筒部の内周面に押圧するようにしている。また、特許文献3に記載されたものは、コイルばねが軸方向に伸張するときのばね力によって、弾性体に結合された摩擦部材を内側円筒部の内周面(底壁部)に押圧する機能が付加されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−97898号公報
【特許文献2】特表2009−533619号公報
【特許文献3】特開2010−112549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載された非対称ダンピング特性のオートテンショナは、拡径変形するときのコイルばねの外向きのばね力が周方向で不均一となりやすく、この周方向で不均一なばね力によって内側円筒部の内周面に押圧される摩擦部材が偏摩耗する問題がある。このような偏摩耗が進行すると、摩擦部材が弾性体から離脱する恐れもある。
【0007】
なお、特許文献2の図4には、内側円筒部となるベース部材2(固定部材)の外側スリーブ16(第1円筒部)に、円周部に沿って半径方向内側に延び、拡径変形するばね要素11(コイルばね)を支持する支持突起36を設けているが、この支持突起36は、その図1に示されるように、摩擦ライニング22(摩擦部材)の支持ブッシュ21(弾性体)が延在しない軸方向の領域に設けられている。このため、図2に示されるように、拡径変形するばね要素11は、支持ブッシュ21に当接され、摩擦ライニング22が外側スリーブ16の内周面に、周方向で不均一なコイルばねのばね力によって押圧される。
【0008】
そこで、本発明の課題は、内側円筒部の内周面に押圧される摩擦部材が偏摩耗しない非対称ダンピング特性のオートテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、第1円筒部を設けた固定部材と、少なくとも一部分が前記第1円筒部と径方向の内外に重なって同軸上に配置される第2円筒部を設け、前記固定部材に対して回動自在に支持されて、ベルトが巻き掛けられるプーリを取り付け可能な回動部材と、前記径方向の内外に重なる2つの円筒部の内径側に収容され、一端が前記固定部材に係止され、他端が前記回動部材に係止されて、前記固定部材に対して前記回動部材を一方向に回動付勢するコイルばねと、一端が前記固定部材と前記回動部材の一方と前記コイルばねの端面との間に挟持され、他端が自由端とされて、前記固定部材と前記回動部材の他方に設けられ、前記径方向の内外の内側に重なる内側円筒部の内周面に沿って、前記コイルばねの外周側で円弧状に延在する弾性体と、前記弾性体に結合され、前記内側円筒部の内周面に接触する摩擦部材とを備えたオートテンショナにおいて、前記弾性体を弾性復元力によって前記内側円筒部の内周面に圧接させ、前記弾性体の前記一端を前記コイルばねの前記端面との間に挟持する側の前記固定部材と前記回動部材の前記一方に、前記弾性体の内周側で、ベルト張力が増加する場合に拡径変形する前記コイルばねを当接させるコイルばねサポート部を設けた構成を採用した。

【0010】
すなわち、弾性体を弾性復元力によって内側円筒部の内周面に圧接させ、弾性体の一端をコイルばねの端面との間に挟持する側の固定部材または回動部材に、円弧状に延在する弾性体の内周側で、拡径変形するコイルばねを当接させるコイルばねサポート部を設けることにより、縮径して組み込まれる弾性体の弾性復元力によって、周方向で均一な押圧力で摩擦部材を内側円筒部の内周面に押圧するようにし、拡径変形するコイルばねがコイルばねサポート部に当接されて、延在する弾性体に当接されず、弾性体に結合された摩擦部材を押圧しないようにして、摩擦部材が偏摩耗しないようにした。また、このコイルばねサポート部は、回動部材を回動付勢するコイルばねのコイル中心からの傾きを抑制する働きもする。
【0011】
前記コイルばねサポート部を、前記コイルばねの端面が前記弾性体の前記一端を挟持する周方向位置から、前記コイルばねが周回して延びる方向に80°〜100°の範囲の周方向位置、好ましくは90°の周方向位置を中央位置として、その両側に拡がる周方向領域に設けることにより、より確実にコイルばねが延在する弾性体に当接されないようにすることができる。
【0012】
前記中央位置の両側に拡がる周方向領域の片側の中心角は35°〜50°、好ましくは40°とするとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るオートテンショナは、弾性体を弾性復元力によって内側円筒部の内周面に圧接させ、弾性体の一端をコイルばねの端面との間に挟持する側の固定部材または回動部材に、円弧状に延在する弾性体の内周側で、拡径変形するコイルばねを当接させるコイルばねサポート部を設けたので、縮径して組み込まれる弾性体の弾性復元力によって、周方向で均一な押圧力で摩擦部材を内側円筒部の内周面に押圧し、拡径変形するコイルばねが延在する弾性体に当接されず、弾性体に結合された摩擦部材を押圧しないようにして、摩擦部材が偏摩耗しないようにすることができる。また、コイルばねサポート部は、回動部材を回動付勢するコイルばねのコイル中心からの傾きを抑制する効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施形態のオートテンショナを示す縦断面図
図2図1のII−II線に沿った断面図
図3図1の板ばねと摩擦部材を結合する方法を示す斜視図
図4】第2の実施形態のオートテンショナを示す縦断面図
図5図4のV−V線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1乃至図4は、第1の実施形態を示す。このオートテンショナは、自動車エンジンのクランクシャフトの動力を補機に伝達する伝動ベルトの張力を調整するものであり、図1および図2に示すように、エンジンブロック(図示省略)に取り付けられる固定部材1に設けた第1円筒部1aと、固定部材1に回動自在に支持され、伝動ベルトが巻き掛けられるプーリ2が取り付けられる回動部材3に設けた第2円筒部3aとが、同軸上で径方向の内外に重ねられ、これらの円筒部1a、3aの内径側に収容されたコイルばね4の一端側が固定部材1に、他端側が回動部材3に係止されて、回動部材3が一方向に回動付勢されている。
【0016】
この実施形態では、固定部材1の第1円筒部1aが内側に重ねられた内側円筒部とされており、弾性体としての金属製の板ばね5が第1円筒部1aの内周面に沿って、コイルばね4の外周側で円弧状に延在して、一端側に内向きの折り曲げ部5aを形成され、他端側が自由端とされている。一端側の折り曲げ部5aは、内側円筒部を備えない側の回動部材3のコイルばね係止部とコイルばね4の端面4aとの間に挟持されている。また、板ばね5の外周側には円弧状の摩擦部材6が一体に結合され、第1円筒部1aの内径側に縮径して組み込まれた板ばね5の弾性復元力によって、摩擦部材6が第1円筒部1aの内周面に押圧されるようになっている。
【0017】
前記固定部材1は、先端側が回動部材3の第2円筒部3aの内側に重なる内側円筒部としての第1円筒部1aと、第1円筒部1aの内側に形成された内筒部1bと、第1円筒部1aと内筒部1bを連結する環状の底壁部1cと、第1円筒部1aの外周面に形成されたエンジンブロック取り付け用のフランジ部1dとからなり、内筒部1bに軸部材7が内嵌固定されている。軸部材7の先端には、回動部材3を抜け止めする外向きのフランジ部7aが形成されている。
【0018】
前記回動部材3は、第1円筒部1aの外側に重なる第2円筒部3aと、第2円筒部3aの内側に形成された内筒部3bと、第2円筒部3aと内筒部3bを連結する環状の底壁部3cと、プーリ2が取り付けられるプーリ支持部3dとからなり、内筒部3bがブッシュ8を介して、軸部材7に回動自在に支持されている。また、底壁部3cの内側面には、コイルばね4を沿わせる螺旋面9が形成され、この螺旋面9の周方向段差部に形成された螺旋段差面9aが、前記コイルばね係止部とされている。底壁部3cの外側面には、オートテンショナの内部をシールするキャップ体10が取付けられている。
【0019】
前記コイルばね4は、一端側が固定部材1の底壁部1c側に係止され、他端側の端面4aが回動部材3のコイルばね係止部としての螺旋段差面9aに、板ばね5の折り曲げ部5aを挟持するように係止されている。図示は省略するが、コイルばね4の一端側は、固定部材1の底壁部1cまたは内筒部1bに形成された溝や孔に嵌め込まれて係止されている。固定部材1側に設けた螺旋溝に一端側を係止してもよい。
【0020】
前記コイルばね4の外周側に延在する板ばね5の内周側には、回動部材3の底壁部3cから軸方向に延出し、拡径変形するコイルばね4を当接させるコイルばねサポート部11が設けられている。このコイルばねサポート部11は、図2に示すように、コイルばね4の端面4aが板ばね5の折り曲げ部5aを挟持する周方向位置から、コイルばね4が周回して延びる方向に80°〜100°、実施例では90°の周方向位置を中央位置として、片側で35°〜50°、実施例では40°ずつの中心角で両側に拡がる周方向領域に設けられている。
【0021】
前記固定部材1側と回動部材3側のコイルばね4の端部には、コイルばね4のねじり変形で発生するモーメントによって荷重がかかるため、コイルばね4にはこれを倒す外力が作用する。このコイルばね4の倒れは、コイルばね4の端面4aから80°〜100°の周方向位置で最も大きくなるので、コイルばねサポート部11をこの周方向位置を中心として設けることが好ましい。
【0022】
また、前記コイルばねサポート部11の片側の周方向領域が35°未満では、コイルばねサポート部11の強度が不足して、コイルばね4の拡径力で破損する恐れがあるとともに、コイルばね4が共振周波数の振動を受けると、コイルばねサポート部11による支持領域が狭いことから、コイルばねサポート部11から外れる恐れもある。一方、片側の周方向領域が50°を超えると、コイルばね4の有効弾性変形領域が減ってばね定数が増加し、オートテンショナの揺動時のベルト張力変動が大きくなる問題がある。
【0023】
前記コイルばねサポート部11は、延在する板ばね5の内周側で拡径変形するコイルばね4を当接させることにより、コイルばね4が板ばね5に当接しないようにする。したがって、このオートテンショナは、後述するように、縮径して第1円筒部1aの内径側に組み込まれる板ばね5の弾性復元力のみによって、摩擦部材6を内側円筒部としての第1円筒部1aの内周面に押圧し、拡径変形するコイルばね4によって、板ばね5に結合された摩擦部材6を第1円筒部1aの内周面に押圧することはない。このため、拡径変形するコイルばね4による周方向で不均一な押圧力によって、摩擦部材6が偏摩耗することはない。また、コイルばねサポート部11は、回動部材3を回動付勢するコイルばね4のコイル中心からの傾きも抑制する。
【0024】
図3に示すように、前記板ばね5は、円弧状の一端側に折り曲げ部5aが設けられ、他端側に長円形の貫通孔5bが設けられている。また、摩擦部材6は、ナイロン、ポリアセタール、ポリアリレート等の合成樹脂を主成分として円弧状に形成され、幅方向の一端側に内向きの鍔部6aが設けられ、周方向の一端側に長円形の内向きの突起部6bが設けられている。摩擦部材6は、板ばね5の外周側から組み付けられ、鍔部6aを板ばね5の一方の幅端面に沿わせて、突起部6bを板ばね5の貫通孔5bに嵌め込むことにより、板ばね5に一体に結合される。摩擦部材6が一体に結合された板ばね5は、縮径して、第1円筒部1aの内径側に組み込まれる。なお、板ばね5をインサート部材として、摩擦部材6を射出成形によって一体成形してもよい。
【0025】
以下に、図2に基づいて、上述したオートテンショナの作動を説明する。前記プーリ2に巻き掛けられる伝動ベルトの張力が増加した場合は、回動部材3がコイルばね4の付勢力に抗して時計回りのベルト弛み方向へ回動し、コイルばね4の端面4aと螺旋段差面9aに挟持された板ばね5の折り曲げ部5aも時計回りに回動する。このとき、板ばね5は時計回りに回動する折り曲げ部5aによって、摩擦部材6の摩擦抵抗に抗して周方向に圧縮されるので、摩擦部材6を第1円筒部1aの内周面に押圧する力が大きくなる。したがって、回動部材3のベルト弛み方向への回動が強いダンピングで減衰し、伝動ベルトの急激な張力の低下による弦振動やスリップを防止することができる。なお、このベルト張力が増加する場合は、コイルばね4が拡径変形しようとするが、コイルばね4の拡径変形はコイルばねサポート部11によって規制され、コイルばね4が摩擦部材6を押圧することはない。
【0026】
前記伝動ベルトの張力が減少した場合は、回動部材3がコイルばね4の付勢力によって反時計回りのベルト張り方向へ回動し、コイルばね4の端面4aと螺旋段差面9aに挟持された折り曲げ部5aも反時計回りに回動する。このとき、板ばね5は反時計回りに回動する折り曲げ部5aによって、摩擦部材6の摩擦抵抗に抗して周方向に引っ張られるので、摩擦部材6を第1円筒部1aの内周面に押圧する力が小さくなる。したがって、回動部材3のベルト張り方向への回動には弱いダンピングしか作用せず、伝動ベルトの張力を速やかに回復させることができる。このように、このオートテンショナは、ベルト弛み方向とベルト張り方向とで非対称なダンピング特性を有する。
【0027】
図4および図5は、第2の実施形態を示す。このオートテンショナも、クランクシャフトの動力を補機に伝達する伝動ベルトの張力を調整するものであり、エンジンブロックに取り付けられる固定部材1、固定部材1に回動自在に支持された回動部材3、回動部材3を一方向に回動付勢するコイルばね4、板ばね5および摩擦部材6とからなる基本的な部品構成は、第1の実施形態のものと同じである。
【0028】
この実施形態では、前記回動部材3の第2円筒部3aが内側に重ねられた内側円筒部とされており、第2円筒部3aの内周面に沿ってコイルばね4の外周側で円弧状に延在する板ばね5の一端側に形成された折り曲げ部5aが、内側円筒部を備えない側の固定部材1のコイルばね係止部とコイルばね4の端面4aとの間に挟持されている。板ばね5の外周側に一体に結合された摩擦部材6は、縮径して組み込まれた板ばね5の弾性復元力によって、第2円筒部3aの内周面に押圧される。
【0029】
前記固定部材1は、回動部材3の第2円筒部3aの外側に重なる第1円筒部1aと、第1円筒部1aの内側に形成された内筒部1bと、第1円筒部1aと内筒部1bを連結する環状の底壁部1cとからなり、内筒部1bに軸部材7が内嵌固定されている。また、底壁部1cの内側面には、コイルばね4を沿わせる螺旋面9が形成され、この螺旋面9の周方向段差部に形成された螺旋段差面9aが、前記コイルばね係止部とされている。軸部材7の先端には、回動部材3を抜け止めする外向きのフランジ部7aが形成されている。
【0030】
前記回動部材3は、第1円筒部1aの内側に先端側が重なる第2円筒部3aと、第2円筒部3aの内側に形成された内筒部3bと、第2円筒部3aと内筒部3bを連結する環状の底壁部3cと、プーリ2が取り付けられるプーリ支持部3dとからなり、内筒部3bがブッシュ8を介して、軸部材7に回動自在に支持されている。底壁部3cの外側面には、オートテンショナの内部をシールするキャップ体10が取付けられている。
【0031】
前記コイルばね4は、一端側が回動部材3の底壁部3c側に係止され、他端側の端面4aが固定部材1のコイルばね係止部としての螺旋段差面9aに、板ばね5の折り曲げ部5aを挟持するように係止されている。図示は省略するが、コイルばね4の一端側は、回動部材3の底壁部3cまたは内筒部3bに形成された溝や孔に嵌め込まれて係止されている。
【0032】
前記コイルばね4の外周側に延在する板ばね5の内周側には、固定部材1の底壁部1cから軸方向に延出し、拡径変形するコイルばね4を当接させるコイルばねサポート部11が設けられている。このコイルばねサポート部11は、図5に示すように、コイルばね4の端面4aが板ばね5の折り曲げ部5aを挟持する周方向位置から、コイルばね4が周回して延びる方向に80°〜100°、実施例では90°の周方向位置を中央位置として、片側で35°〜50°、実施例では40°ずつの中心角で両側に拡がる周方向領域に設けられている。コイルばねサポート部11の周方向中央位置と周方向領域をこのように設定した理由は、前述の通りである。
【0033】
前記コイルばねサポート部11は、第1の実施形態のものと同様に、延在する板ばね5の内周側で拡径変形するコイルばね4を当接させることにより、コイルばね4が板ばね5に当接しないようにする。したがって、縮径して内側円筒部としての第2円筒部3aの内径側に組み込まれる板ばね5の弾性復元力のみによって、摩擦部材6を第2円筒部3aの内周面に押圧するので、拡径変形するコイルばね4による周方向で不均一な押圧力によって、摩擦部材6が偏摩耗することはない。このコイルばねサポート部11も、回動部材3を回動付勢するコイルばね4のコイル中心からの傾きも抑制する。
【0034】
前記板ばね5は、第1の実施形態のものと同様に、折り曲げ部5aと反対側の他端側に貫通孔が設けられ、摩擦部材6は、周方向の一端側に設けられた内向きの突起部が、板ばね5の貫通孔に外周側から嵌め込まれて、板ばね5に一体に結合されている。
【0035】
以下に、図5に基づいて、上述したオートテンショナの作動を説明する。前記伝動ベルトの張力が増加した場合は、回動部材3が時計回りのベルト弛み方向へ回動する。このとき、折り曲げ部5aを固定部材1の螺旋段差面9aに固定された板ばね5は、第2円筒部3aから摩擦部材6に負荷される時計回りの摩擦力によって、周方向に圧縮されるので、摩擦部材6を第2円筒部3aの内周面に押圧する力が大きくなる。したがって、回動部材3のベルト弛み方向への回動が強いダンピングで減衰し、伝動ベルトの急激な張力の低下による弦振動を防止することができる。
【0036】
前記伝動ベルトの張力が減少した場合は、回動部材3がコイルばね4の付勢力によって反時計回りのベルト張り方向へ回動する。このとき、折り曲げ部5aを螺旋段差面9aに固定された板ばね5は、第2円筒部3aから摩擦部材6に負荷される反時計回りの摩擦力によって、周方向に引っ張られるので、摩擦部材6を第2円筒部3aの内周面に押圧する力が小さくなる。したがって、回動部材3のベルト張り方向への回動には弱いダンピングしか作用しない。このように、このオートテンショナも、ベルト弛み方向とベルト張り方向とで非対称なダンピング特性を有する。
【0037】
上述した各実施形態では、コイルばねサポート部を、延在する板ばねの内径側で、回動部材側または固定部材側のみに設けたが、板ばねが延在しない領域で、これらと反対側の固定部材固定部材側または固定部材側にも設けてもよい。これらの板ばねが延在しない領域で設けたコイルばねサポート部は、コイルばねのコイル中心からの傾きのみを抑制する。
【0038】
上述した各実施形態では、弾性体を金属製の板ばねとし、その一端側にコイルばねの端面で挟持される折り曲げ部を形成したが、弾性体は合成樹脂製の円弧状スリーブ等とすることもでき、その一端側に突出部や膨出部等を形成して、コイルばねの端面で挟持することもできる。
【0039】
上述した各実施形態では、自動車エンジンのクランクシャフトの動力を補機に伝達する伝動ベルトの張力を調整するものとしたが、本発明に係るオートテンショナは、他のベルト伝達機構の伝動ベルトの張力を調整するものにも採用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 固定部材
1a 第1円筒部
1b 内筒部
1c 底壁部
1d フランジ部
2 プーリ
3 回動部材
3a 第2円筒部
3b 内筒部
3c 底壁部
3d プーリ支持部
4 コイルばね
4a 端面
5 板ばね
5a 折り曲げ部
5b 貫通孔
6 摩擦部材
6a 鍔部
6b 突起部
7 軸部材
7a フランジ部
8 ブッシュ
9 螺旋面
9a 螺旋段差面(コイルばね係止部)
10 キャップ体
11 コイルばねサポート部
図1
図2
図3
図4
図5