特許第5918054号(P5918054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5918054ケイ素及び/又はフッ素を有するダイヤモンド微粒子を含む離型性に優れた摺動性樹脂部材。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918054
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】ケイ素及び/又はフッ素を有するダイヤモンド微粒子を含む離型性に優れた摺動性樹脂部材。
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/16 20060101AFI20160428BHJP
   C01B 31/06 20060101ALI20160428BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20160428BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   C08J5/16CFD
   C01B31/06 A
   C08L101/00
   C08K3/04
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-160947(P2012-160947)
(22)【出願日】2012年7月3日
(65)【公開番号】特開2014-12803(P2014-12803A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】500462834
【氏名又は名称】ビジョン開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】藤村 忠正
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 茂
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−025930(JP,A)
【文献】 特開平07−258465(JP,A)
【文献】 特開2002−284995(JP,A)
【文献】 特開2006−016561(JP,A)
【文献】 特開2012−087273(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/148667(WO,A1)
【文献】 特表2002−522593(JP,A)
【文献】 米国特許第06461679(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02、5/12−5/22
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C01B 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子樹脂中に、ケイ素を有するダイヤモンド微粒子及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子、並びに無機微粒子を含む摺動性樹脂部材であって、前記無機微粒子が、鱗片状及び/又は不規則薄片状であることを特徴とする摺動性樹脂部材。
【請求項2】
高分子樹脂中に、ケイ素を有するダイヤモンド微粒子及び無機微粒子を含む摺動性樹脂部材であって、前記無機微粒子が、鱗片状及び/又は不規則薄片状であることを特徴とする摺動性樹脂部材。
【請求項3】
高分子樹脂中に、ケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子及び無機微粒子を含む摺動性樹脂部材であって、前記無機微粒子が、鱗片状及び/又は不規則薄片状であることを特徴とする摺動性樹脂部材。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の摺動性樹脂部材において、前記ケイ素を有するダイヤモンド微粒子がケイ素化処理されたダイヤモンド微粒子であり、前記フッ素を有するダイヤモンド微粒子がフッ素化処理されたダイヤモンド微粒子であることを特徴とする摺動性樹脂部材。
【請求項5】
請求項3に記載の摺動性樹脂部材において、前記ケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子が、ケイ素化処理及びフッ素化処理されたダイヤモンド微粒子であることを特徴とする摺動性樹脂部材。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の摺動性樹脂部材において、前記ケイ素化処理がシリル化処理であることを特徴とする摺動性樹脂部材。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の摺動性樹脂部材において、前記フッ素化処理がフルオロアルキル基含有オリゴマーによる処理であることを特徴とする摺動性樹脂部材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の摺動性樹脂部材において、前記ダイヤモンド微粒子の比重が2.55g/cm以上であることを特徴とする摺動性樹脂部材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の摺動性樹脂部材において、前記無機微粒子が、雲母、合成雲母、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム、チタニア、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、フッ化マグネシウム、スメクタイト、合成スメクタイト、バーミキュライト、ITO(酸化インジウム/酸化錫)、ATO(酸化アンチモン/酸化錫)、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム及び酸化アンチモンからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする摺動性樹脂部材。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の摺動性樹脂部材において、オイルレス摺動部材であることを特徴とする摺動性樹脂部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動性樹脂部材に関し、さらに詳しくは、耐擦傷性や耐摩耗性に優れるとともに、特に金型や押出し成型機等からの離型性に優れた摺動性樹脂部材、医療用、電気・電子部品製造用の用途に使用される摺動性樹脂部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、市場が増大している携帯用の情報端末の入力装置として、成型加工された摺動性樹脂部材が多量に使用されている。
【0003】
摺動性樹脂部材において、成形体の表面の平坦化が重要な課題である。特開平11−348186号(特許文献1)には、樹脂構造物から成形される成形体の品質は、その表面の精度や品質にかかっており、すなわち摺動性樹脂部材の表面の精度や品質にかかっていると言っても過言ではない。さらに電気・電子部品製造で使用される摺動性樹脂部材は、その表面にフッ素樹脂やシリコーンを使用することで、離型性が良好で生産性が上がるが、転写による品質の不具合が発生するので、極力減らすことが検討されてきた。フッ素樹脂やシリコーン原材料中の低分子量オリゴマーや架橋反応時の未反応物が完全除去できず、僅かな転写が起こる。成型部品に転写したフッ素樹脂やシリコーンはその後の製造工程において、コンタミネーションや密着性を阻害し、品質や耐久性の不具合をもたらしている。
【0004】
一方、特開2004−42653号(特許文献2)には、雲母、合成雲母、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム、チタニア、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、フッ化マグネシウム、スメクタイト、合成スメクタイト、バーミキュライト、ITO(酸化インジウム/酸化錫)、ATO(酸化アンチモン/酸化錫)、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム及び酸化アンチモン等の無機微粒子を添加する技術が開示されている。特許文献2は、これらの無機微粒子を添加することによりブロッキングを防止できると記載している。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の無機微粒子は、離型性が不十分で、より離型性の良好な、耐擦傷性、耐摩耗性に優れた滑り性良好なフィラーの開発が望まれている。
【0006】
一方摺動性樹脂部材にシリコーン系化合物やフッ素系化合物を含有させ、樹脂構造物表面に離型性を付与することが行われている。しかしながら、これらのシリコーン系化合物やフッ素系化合物はその表面から徐々に失われて効果が長期にわたって持続しないという欠点がある。
【0007】
長期間の離型性能を保持しながら、フッ素樹脂やシリコーンの転写を防いで、品質の不具合を抑え、耐擦傷性、耐摩耗性に優れた摺動性樹脂部材の出現が望まれていた。
【0008】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−42653号公報
【特許文献2】特開2004−230562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、耐擦傷性や耐摩耗性に優れるとともに、離型性に優れた樹脂構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、樹脂構造物に、ダイヤモンド微粒子をケイ素化処理及び/又はフッ素化処理してなるケイ素及び/又はフッ素を有するダイヤモンド微粒子を樹脂構造物に含有させることにより、ケイ素やフッ素樹脂がナノダイヤモンドに固定化されているため、転写による品質の不具合の発生が長期間なく、耐擦傷性、耐摩耗性が飛躍的に改良し、摺動性樹脂部材となることを見出し、本発明に想到した。
【0012】
すなわち、本発明の摺動性樹脂部材は、ケイ素を有するダイヤモンド微粒子及び/又はフッ素を有するダイヤモンド微粒子を含む摺動性樹脂部材で形成されたことを特徴とする。
【0013】
本発明の摺動性樹脂部材は、ケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子を含む摺動性樹脂部材で形成されたことを特徴とする。
【0014】
前記ケイ素を有するダイヤモンド微粒子はケイ素化処理されたダイヤモンド微粒子であり、前記フッ素を有するダイヤモンド微粒子はフッ素化処理されたダイヤモンド微粒子であるのが好ましい。
【0015】
前記ケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子は、ケイ素化処理及びフッ素化処理されたダイヤモンド微粒子であるのが好ましい。
【0016】
前記ケイ素化処理はシリル化処理であるのが好ましく、前記フッ素化処理はフルオロアルキル基含有オリゴマーによる処理であるのが好ましい。
【0017】
前記ダイヤモンド微粒子は特に限定されないが、天然ダイヤモンド、合成ダイヤモンドいずれでもよいが、爆射法で得られたナノダイヤモンドであるのが好ましい。
【0018】
前記摺動性樹脂部材は、さらに無機微粒子を含むのが好ましい。
【0019】
前記無機微粒子は、雲母、合成雲母、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム、チタニア、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、フッ化マグネシウム、スメクタイト、合成スメクタイト、バーミキュライト、ITO(酸化インジウム/酸化錫)、ATO(酸化アンチモン/酸化錫)、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム及び酸化アンチモンからなる群から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。
【0020】
無機微粒子の平均粒子径は、10〜300nmが好ましく、10〜200nmがより好ましく、30〜150nmが最も好ましい。平均粒子径が、10nm以上の場合は、より小さい表面粗さを有する摺動性樹脂部材を形成することができ、一方、前記平均粒子径が300nm以下の場合は、より優れた光学特性を有する摺動性樹脂部材を形成できる。
【0021】
鱗片状及び/又は不規則薄片状の無機微粒子を使用することにより、より優れた摺動性樹脂部材が形成できる。このような形状を有する無機微粒子としては、シリカ、チタニア、酸化ジルコニウム、ITO等を鱗片状に成形したもの、雲母、合成雲母、スメクタイト、合成スメクタイト、バーミキュライト等が挙げられる。
【0022】
摺動性樹脂部材中の無機微粒子の含有量は、0.01〜6重量%であるのか好ましく、0.01〜5.5重量%であるのがより好ましい。前記含有量が、0.01重量%以上であると、より優れた離型性を有する樹脂構造物を形成することができ、6重量%以下であると、より優れた光学特性を有する摺動性樹脂部材を形成できる。
【0023】
前記摺動性樹脂部材はエンジニアリングプラスティック(エンプラ)として使用され、その形状等は用途に応じて適宜変わるので特に限定されない。
【0024】
エンプラの多くは、家電製品内部の▲1▼平歯車▲2▼ピニオン▲3▼はすば歯車や▲4▼転がり軸受け、▲5▼すべり軸受け▲6▼磁気軸受け▲7▼流体軸受けといった機構部品に多用されている。▲4▼転がり軸受けに、玉軸受け(ボール軸受け、ボールベアリング)▲5▼すべり軸受けに、ころ軸受(円筒コロ、円錐コロ、自動調心コロ、ローラーベアリングetc.)があり、これらは油がなくとも耐摩耗性に優れ、軽量で錆びず、複雑な形状も精度良く成形加工でき大量生産に向く。
その他、無給軸受け、静圧軸受け、含油軸受け、流体動圧軸受けなどがある。また、家電に限らず電気製品全般の筐体にも、広く採用されている。十分な強度を持ち、内部/外部の複雑な形状を容易に作り得るため装置の小型化が可能で、塗装が不要であったり、塗装時も定着が良いものが選べ、携帯機器などに最適となっている。
【0025】
前記摺動性樹脂部材の基材は特に限定されないが、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)や、ガラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、高分子量ポリエチレン(UHPE)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)等のエンジニアリング・プラスチックが挙げられる。
【0026】
更に、非晶ポリアリレート(PAR)、ポリスルホン(PSF)ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、フッ素樹脂、液晶ポリマー(LCP)等のスーパーエンジニアリング・プラスチックが挙げられる。
【0027】
上記以外、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート等のポリエステル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、脂環式構造含有重合体等のポリオレフィン系ポリマー等の構造物、繊維、フイルム、セロファン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート等のフイルムの他、ポリ塩化ビニルフイルム、ポリ塩化ビニリデンフイルム、ポリビニルアルコールフイルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フイルム、ポリスチレンフイルム、ポリスルホンフイルム、ポリエーテルエーテルケトンフイルム、ポリエーテルスルホンフイルム、ポリエーテルイミドフイルム、ポリイミドフイルム、フッ素樹脂フイルム、ポリアミドフイルム等に用いることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の摺動性樹脂部材は、耐擦傷性、耐摩耗性に優れ、かつ離型性が良いのでデジタル家電、家電製品、事務機器等の内部の送り機構、摺動機構に使用の歯車、軸受け、ボールベアリング、カム機構、コロ、送り機構等の生産および使用に好適である。特に滑り性が良いので、カム、シリンダー、ボールベアリングのオイルレス樹脂摺動部材として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
摺動性樹脂部材中のケイ素を有するダイヤモンド微粒子、フッ素を有するダイヤモンド微粒子、及びケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子の含有量は、特に限定されないが、摺動性樹脂部材に対して、合計で0.001〜30質量%であるのが好ましく、0.01〜10質量%であるのがより好ましく、0.1〜5質量%が最も好ましい。添加量が0.001質量%未満であると耐擦傷性や耐摩耗性に劣り、特に離形層の剥離特性が安定しなくなり30質量%を超えると凝集が起こりやすく粗大凝集物が発生して好ましくない。ケイ素を有するダイヤモンド微粒子及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子を混合して使用する場合は、それらの比率はどのような比率でも良いが、2:8〜9:1の範囲であるのが好ましく、3:7〜8:2の範囲であるのがより好ましい。
【0030】
摺動性樹脂部材には、さらに必要に応じて、アニオン、カチオン性やノニオン性界面活性剤、光安定剤や紫外線吸収剤、触媒、重合禁止剤、レベリング剤、増粘剤、沈殿防止剤、難燃剤、有機・無機顔料・染料の各種添加剤、添加助剤等を含むことができる。
【0031】
本発明のケイ素を有するダイヤモンド微粒子、フッ素を有するダイヤモンド微粒子、並びにケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子は、2〜500nm程度のダイヤモンド微粒子を、ケイ素原子を含有する基及び/又はフッ素原子を含有する基で修飾したものである。すなわち、ケイ素のみを有するダイヤモンド微粒子であってもよいし、フッ素のみを有するダイヤモンド微粒子であってもよいし、ケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子であってもよい。
【0032】
ケイ素原子を含有する基及び/又はフッ素原子を含有する基を修飾するためのダイヤモンド微粒子としては、天然ダイヤモンド、合成ダイヤモンドいずれでも良いが、爆射法で得られたナノダイヤモンドを用いるのが好ましい。爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンドは、ナノダイヤモンドの表面をグラファイト系炭素が覆ったコア/シェル構造を有しており黒く着色している。未精製のナノダイヤモンドをこのまま用いても良いが、より着色の少ない摺動性樹脂部材を得るためには、未精製のナノダイヤモンドを酸化処理し、グラファイト相の一部又はほぼ全部を除去して用いるのが好ましい。
【0033】
未精製のナノダイヤモンドは、グラファイトリッチで、2〜10nm程度のダイヤモンドの一次粒子からからなるが、凝集したナノダイヤモンドのメジアン径は0.5μm〜数μm(動的光散乱法)の二次粒子である。又、酸化処理して得られたナノダイヤモンドは、2〜10nm程度のダイヤモンドの一次粒子からなるメジアン径30〜250nm(動的光散乱法)の二次粒子である。グラファイト相を除去することにより、着色成分はほとんどなくなるが、微量に残ったグラファイト系炭素の表面に−COOH、−OH等の親水性官能基が存在するため、水、アルコール、グリコール等の親水的な溶剤への分散に優れている。
【0034】
ケイ素を有するダイヤモンド微粒子、フッ素を有するダイヤモンド微粒子、並びにケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子は、前記爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンド、又は前記酸化処理して得られたナノダイヤモンドを、ケイ素化処理及び/又はフッ素化処理することによって得られ、前記ナノダイヤモンド表面に存在する−COOH、−OH等の親水性官能基にケイ素原子を有する基、及び/又はフッ素原子を有する基が結合したものである。
【0035】
ケイ素を有するダイヤモンド微粒子、又はケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子中のケイ素原子の量は、特に限定されないが、ダイヤモンド微粒子に対して、0.1〜25質量%であるのが好ましく、0.2〜20質量%であるのがより好ましい。フッ素を有するダイヤモンド微粒子、又はケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子中のフッ素原子の量は特に限定されないが、ダイヤモンド微粒子に対して、0.1〜20質量%であるのが好ましく、0.2〜15質量%であるのがより好ましい。
【0036】
ケイ素を有するダイヤモンド微粒子、フッ素を有するダイヤモンド微粒子、並びにケイ素及びフッ素を有するダイヤモンド微粒子は、ダイヤモンド微粒子をケイ素化処理及び/又はフッ素化処理することにより得ることができる。ケイ素化処理は、フッ素化処理よりも先に行うのが好ましい。
【0037】
(1)ダイヤモンド微粒子の製造方法
ダイヤモンド微粒子としては、爆射法により得られた未精製のナノダイヤモンド(BDと言うこともある。)、又はそれを酸化処理しグラファイト系炭素の一部又は全部を除去したナノダイヤモンドが好ましい。前記酸化処理して得られるナノダイヤモンドとしては、後述のグラファイト相の一部が除去されたナノダイヤモンド(グラファイト−ダイヤモンド粒子と呼ぶ)及びグラファイト相がほとんど除去された精製ナノダイヤモンド粒子が好ましい。
【0038】
酸化処理したナノダイヤモンドの比重は、グラファイト系炭素(グラファイトの比重:2.25g/cm)の残存量が少なくなればなるほどダイヤモンドの比重(3.50g/cm)に近づく。
従って、精製度が高くグラファイト系炭素の残存量が少ないほど比重が高くなる。本発明で用いるナノダイヤモンドの比重は2.55g/cm(ダイヤモンド24体積%)以上3.50g/cm(ダイヤモンド100体積%)であるのが好ましい。3.0g/cm(ダイヤモンド84体積%)以上3.46g/cm(ダイヤモンド97体積%)以下であるのがより好ましく、3.38g/cm(ダイヤモンド90体積%)以上であるのが最も好ましい。本発明では天然ダイヤモンドも含むので、上限の比重は3.50g/cmである。なおナノダイヤモンド中のダイヤモンドの体積%は、前記ダイヤモンドの比重3.50g/cm及びグラファイトの比重2.25g/cmを用いて、ナノダイヤモンドの比重から算出した。
【0039】
(2)粒子の比重測定法
本発明で用いるナノダイヤモンドの真比重は以下の操作により測定できる。
1.試料を比重ビンに入れ、蓋をした状態で秤量し重量を求める。
2.蒸留水を試料の少し上位まで入れ、煮沸法で気泡を完全に除去する。
3.25℃蒸留水を入れ、恒温槽(25℃)に10分間入れて、基線まで満たす。
4.恒温槽から比重ビンを取り出し、外側の水分を良く拭き取った後秤量し重量を測る。
5.比重ビンをよく洗浄し、25℃の蒸留水のみを入れ、恒温槽(25℃)に10分間入れて、基線まで満たし、4と同様に重量を測定する。
6.上記操作で得た値から以下の式(1)により真比重ρを求める。
ρ=[(W−P)・dw]/[(W1−P)−(W2−P)] ・・・(1)
(ここで、W:比重ビン+試料の重量、
W1:比重ビンに蒸留水のみを満たしたときの重量、
W2:比重ビンに試料と蒸留水を満たし、完全に気泡を満たした(空気を除いた)時の重量、
P:比重ビンの重量、及び
dw:測定時の温度における水の比重である。)
【0040】
未精製の粗ダイヤモンドの酸化処理方法としては、(a)硝酸等の共存下で高温高圧処理する方法(酸化処理A)、(b)水及び/又はアルコールからなる超臨界流体中で処理する方法(酸化処理B)、(c)水及び/又はアルコールからなる溶媒に酸素を共存させて、前記溶媒の標準沸点以上の温度及び0.1MPa(ゲージ圧)以上の圧力で処理する方法(酸化処理C)、又は(d)380〜450℃で酸素を含む気体により処理する方法(酸化処理D)が挙げられる。これらの酸化処理は、単独で行ってもよいし、組合せて行っても良い。酸化処理を組合せる場合は、爆射法で得られた未精製の粗ダイヤモンドにまず酸化処理Aを施し、さらに酸化処理B〜Cのいずれかを施すのが好ましい。
【0041】
爆射法で得られた未精製の粗ダイヤモンドに酸化処理Aを施すことによりグラファイト相の一部が除去されたナノダイヤモンド(グラファイト−ダイヤモンド粒子)が得られ、このグラファイト−ダイヤモンド粒子に酸化処理B〜Cのいずれかの処理を施すことにより前記グラファイト相をさらに除去することができる。
【0042】
(1)爆射法によるBDの合成
爆射法によるBDの合成は、例えば、水と多量の氷を満たした純チタン製の耐圧容器に、電気雷管を装着した爆薬[例えば、TNT(トリニトロトルエン)/HMX(シクロテトラメチレンテトラニトラミン)=50/50]を胴内に収納させ、片面プラグ付き鋼鉄製パイプを水平に沈め、この鋼鉄製パイプに鋼鉄製のヘルメット状カバーを被覆して、前記爆薬を爆裂させることにより行うことができる。反応生成物としてのBDは容器中の水中から回収する。
【0043】
前記爆射法は、Science,Vol.133,No.3467(1961),pp1821−1822、特開平1−234311号、特開平2−141414号、Bull.Soc.Chem.Fr.Vol.134(1997),pp.875−890、Diamond and Related materials Vol.9(2000),pp861−865、Chemical Physics Letters,222(1994),pp.343−346、Carbon,Vol.33,No.12(1995),pp.1663−1671、Physics of the Solid State,Vol.42,No.8(2000),pp.1575−1578、K.Xu.Z.Jin,F.Wei and T.Jiang,Energetic Materials,1,19(1993)、特開昭63−303806号、特開昭56−26711報、英国特許第1154633号、特開平3−271109号、特表平6−505694号(WO93/13016号)、炭素,第22巻,No.2,189〜191頁(1984)、Van Thiei.M.&Rec.,F.H.,J.Appl.Phys.62,pp.1761〜1767(1987)、特表平7−505831号(WO94/18123号)、米国特許第5861349号及び特開2006−239511号等に記載の方法を用いることができる。
【0044】
(2)酸化処理工程
(i)酸化処理A
爆射法で得られた未精製の粗ダイヤモンド(BD)は、まず酸化処理Aを施すのが好ましい。
酸化処理Aを施すことによりグラファイト相の一部が除去されたグラファイト−ダイヤモンド粒子が得られる。酸化処理Aは、(a)爆射法で得られたBDを、酸中で酸化性分解処理する工程、(b)酸化性分解処理したBDを、さらに厳しい条件で処理する酸化性エッチング処理工程、(c)酸化性エッチング処理後の液を中和する工程、(d)脱溶媒工程、及び(e)洗浄工程からなり、必要に応じてグラファイト−ダイヤモンド粒子分散液の(f)pH及び濃度を調製する工程、又は(g)乾燥して微粉末とする工程からなる。
【0045】
(a)酸化性分解処理工程
回収したBDを55〜56質量%の濃硝酸、又は濃硝酸と濃硫酸との混合物とともに、1.4MPa程度の圧力及び150〜180℃程度の温度で10〜30分間処理し、電気雷管等の混入金属、炭素等の夾雑物等の不純物を分解する。
【0046】
(b)酸化性エッチング処理工程
酸化性分解処理したBDは、濃硝酸中で酸化性分解処理よりもさらに厳しい条件(例えば、1.4Mpa、200〜240℃)で行う。このような条件で10〜30分処理すると、BD表面を被覆する硬質炭素、すなわちグラファイトを大部分除去することができる。
【0047】
(c)中和工程
酸化性エッチング処理後のグラファイト−ダイヤモンド粒子を含む硝酸水溶液(pHが2〜6.95)に、それ自身又はその分解反応生成物が揮発性の塩基性物質を加えて中和反応させる。塩基性物質の添加によりpH7.05〜12に上昇する。前記塩基性物質を使用することにより、凝集したグラファイト−ダイヤモンド粒子内に浸透した塩基が、粒子内の硝酸と反応し、ガス化することにより凝集体を個々のグラファイト−ダイヤモンド粒子に解体するといった効果が得られる。この工程により、グラファイト−ダイヤモンド粒子の大きな比表面積及び孔部吸着空間が形成されるものと思われる。
【0048】
塩基性材料としては、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、アリルアミン、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、ジイソプロピルアミン、ジエチレントリアミンやテトラエチレンペンタミンのようなポリアルキレンポリアミン、2−エチルヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ピペリジン、ホルムアミド、N,N−メチルホルムアミド、尿素等を挙げることができる。
【0049】
(d)脱溶媒工程
得られたグラファイト−ダイヤモンド粒子を含む液は、遠心分離、デカンテーション等により脱溶媒するのが好ましい。
【0050】
(e)水洗工程
脱溶媒したグラファイト−ダイヤモンド粒子はデカンテーション法により水洗するのが好ましい。洗浄操作は3回以上行うのが好ましい。水洗したグラファイト−ダイヤモンド粒子は、再度遠心分離し、脱水するのが好ましい。
【0051】
(f)pH及び濃度を調製する工程
グラファイト−ダイヤモンド粒子分散液は、pH4〜10、好ましくはpH5〜8、より好ましくはpH6〜7.5に調節する。グラファイト−ダイヤモンド粒子濃度は0.05〜16%、好ましくは0.1〜12%、より好ましくは1〜5%に調製するのが好ましい。
【0052】
グラファイト相を有するナノダイヤモンド(グラファイト−ダイヤモンド粒子)はさらに酸化処理B〜Dを施すことによりグラファイト層をさらに除去するのが好ましい。もちろんBDに直接酸化処理B〜Dを施しても良い。
【0053】
(ii)酸化処理B
酸化処理Bは、(a)グラファイト相を有するナノダイヤモンドと、酸化性化合物と、水及び/又はアルコールからなる溶媒とからなる混合物A(単に「混合物A」とよぶことがある)を調製し、(b)この混合物Aを、溶媒の臨界点以上の温度及び圧力にした状態でグラファイト相を有するナノダイヤモンドを処理し、(c)得られた精製ダイヤモンド粒子を含む液を遠心分離して溶媒を除去する工程を有する。さらに、脱溶媒した精製ダイヤモンド粒子を(d)水洗及び遠心分離により脱水する工程を設けるのが好ましい。工程(c)と(d)の間に、必要に応じて、脱溶媒した精製ダイヤモンド粒子を(e)塩基性溶液で中和する工程、及び(f)弱酸で処理する工程を設けてもよい。工程(c)又は(d)で得られた精製ダイヤモンド粒子は乾燥して微粉末にする。
【0054】
(a)混合物Aの調製工程
混合物Aは、グラファイト相を有するナノダイヤモンドの粉末に、酸化性化合物、及び水及び/又はアルコールからなる溶媒を混合することにより調製する。又は、前記溶媒にあらかじめグラファイト相を有するナノダイヤモンドを分散した液に、前記酸化性化合物又はその溶液を添加して調製しても良い。混合物Aには、酸化性化合物による酸化反応を促進させるため、塩基性化合物又は酸化性化合物を添加しても良い。
【0055】
酸化性化合物としては、硝酸、過酸化水素、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸リチウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、マンガン酸ナトリウム、マンガン酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、重クロム酸カリウム、クロム酸カリウム等が挙げられ、硝酸及び過酸化水素が好ましい。特に酸化性化合物を単独で使用する場合は、過酸化水素を使用するのが最も好ましい。
【0056】
酸性化合物としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホウ酸、フッ酸、臭化水素酸等の無機酸、及び蟻酸、酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられ、無機酸が好ましく、硝酸がより好ましい。
【0057】
塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、四ホウ酸リチウム、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0058】
酸化性化合物と酸性化合物とを組合せて使用する場合は、過酸化水素と硝酸との組合せが好ましく、酸化性化合物と塩基性化合物とを組合せて使用する場合は、過酸化水素とアンモニアとの組合せが好ましい。
【0059】
溶媒としては、水、アルコール又はこれらの混合液を用いる。アルコールとしては炭素数1〜3の低級アルコールが好ましい。低級アルコールの具体例として、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール及びこれらの混合液が挙げられる。
【0060】
(b)超臨界処理工程
混合物Aを溶媒の臨界点以上の温度及び圧力で処理する。処理温度は溶媒の臨界温度以上、600℃以下であるのが好ましく、550℃以下であるのがより好ましい。処理圧力は溶媒の臨界圧力以上、100MPa以下であるのが好ましく、70MPa以下であるのがより好ましく、50MPa以下であるのが最も好ましい。処理時間は温度及び圧力により適宜設定すればよいが、1〜24時間が好ましい。
【0061】
(c)脱溶媒工程
酸化処理Aと同様にして行う。
【0062】
(d)水洗工程
酸化処理Aと同様にして行う。
【0063】
(e)中和工程
工程(c)で脱溶媒した精製ダイヤモンド粒子を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基で中和してもよい。塩基性溶液の濃度は0.01〜0.5mol/Lが好ましい。脱溶媒した精製ダイヤモンド粒子に塩基性溶液を添加し、超音波処理するのが好ましい。
【0064】
(f)弱酸処理工程
工程(e)で中和した精製ダイヤモンド粒子を弱酸溶液で洗浄するのが好ましい。弱酸溶液の例として、0.01〜0.5mol/Lの塩酸が挙げられる。中和した精製ダイヤモンド粒子に弱酸溶液を添加し、超音波処理するのが好ましい。
【0065】
(iii)酸化処理C
酸化処理Cは、(a)グラファイト相を有するナノダイヤモンドと、水及び/又はアルコールからなる溶媒とからなる混合物Bを調製し、(b)この混合物Bに酸素を共存させた状態で、処理溶媒の標準沸点以上の温度及び0.1MPa(ゲージ圧)以上の圧力でグラファイト相を有するナノダイヤモンドを処理し、(c)得られた精製ダイヤモンド粒子を含む液を遠心分離して溶媒を除去する工程を有する。さらに、脱処理溶媒した精製ダイヤモンド粒子を(d)水洗及び遠心分離により脱水する工程を設けるのが好ましい。工程(c)又は(d)で得られた精製ダイヤモンド粒子は乾燥して微粉末にする。
【0066】
(a)混合物Bの調製工程
混合物Bは、グラファイト相を有するナノダイヤモンドと、水及び/又はアルコールからなる溶媒とを混合することにより調製する。混合物B中のグラファイト相を有するナノダイヤモンドの濃度は、0.05〜16質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、0.5〜5質量%が最も好ましい。この濃度が16質量%を超えると、精製が不十分となる恐れがある。一方0.05質量%未満であると、回収時のロスの割合が多くなり生産性が悪化する。
【0067】
溶媒としては、前記混合物Aの調製で用いることのできるものと同じものが使用できる。
【0068】
(b)精製処理工程
混合物Bをオートクレーブに入れ、酸素を導入する。酸素の導入量は、グラファイト相を有するナノダイヤモンド中のグラファイト1gに対して、0.1モル以上が好ましく、0.15モル以上がより好ましく、0.2モル以上が最も好ましい。この導入量の上限は特に制限されない。
【0069】
処理溶媒の標準沸点Tb以上及び0.1MPa(ゲージ圧)以上となるように、オートクレーブ内の温度及び圧力を調整する。処理溶媒のTb以上及び0.1MPa(ゲージ圧)以上にする限り、処理溶媒を亜臨界状態[Tb以上の温度及び0.1MPa(ゲージ圧)以上の圧力で、かつ臨界温度Tc未満及び/又は臨界圧力Pc未満の状態]にしてもよいし、超臨界状態にしてもよい。亜臨界又は超臨界状態の酸素及び処理溶媒により、グラファイト相を効率的に選択酸化することができる。
【0070】
処理温度の下限は(処理溶媒の臨界温度Tc−150℃)が好ましく、(Tc−100℃)がより好ましい。処理温度の上限は800℃が好ましく、600℃がより好ましい。処理圧力の下限は、処理溶媒の臨界圧力Pcの30%が好ましく、Pcの50%がより好ましく、Pcの70%が最も好ましい。処理圧力の上限は70MPaが好ましく、50MPaがより好ましい。処理時間は温度及び圧力により適宜設定すればよいが、0.1〜24時間が好ましい。
【0071】
(c)脱溶媒工程
酸化処理Aと同様にして行う。
【0072】
(d)水洗工程
酸化処理Aと同様にして行う。
【0073】
(iv)酸化処理D
酸化処理Dは、前記グラファイト相を有するナノダイヤモンドを反応管に入れ、常圧下で酸素を含む気体を流しながら375〜630℃に加熱する工程を有する。加熱温度は380〜450℃であるのが好ましく、400〜430℃が最も好ましい。酸素を含む気体は、酸素ガス、空気等を使用できるが、簡便さから空気が好ましい。
【0074】
(3)メディア分散処理
酸化処理を効率よく行い、着色の少ない精製ダイヤモンド粒子を得るために、酸化処理B〜Dの前にBD又はグラファイト−ダイヤモンド粒子をビーズミル等の公知のメディア分散法により粉砕するのが好ましい。ビーズミルによる分散は、ジルコニアビーズを使用するのが好ましい。BD又はグラファイト−ダイヤモンド粒子をメディア分散することにより、メジアン径を100nm以下にするのが好ましく、50nm以下にするのがより好ましく、30nm以下にするのが最も好ましい。
【0075】
[2]ケイ素化処理
前記爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンド、又は前記酸化処理して得られたナノダイヤモンドに、シリル化剤、アルコキシシラン、シランカップリング剤等を反応させることによりナノダイヤモンドの表面にある水酸基等の親水性基を、ケイ素を含む有機基に置換することができる。ケイ素化処理は、シリル化剤を用いるのが好ましい。
【0076】
好ましいシリル化剤としては、トリエチルクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、アセトキシトリメチルシラン、アセトキシシラン、ジアセトキシジメチルシラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、2−トリメチルシロキシペント−2−エン−4−オン、n−(トリメチルシリル)アセトアミド、2−(トリメチルシリル)酢酸、n−(トリメチルシリル)イミダゾール、トリメチルシリルプロピオレート、ノナメチルトリシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリフェニルシラノール、t−ブチルジメチルシラノール、ジフェニルシランジオール等が挙げられる。本発明に用いられるシリル化剤は、これらの化合物に限定されない。
【0077】
シリル化剤溶液の溶媒はヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン等の炭化水素類、アセトン、メチルイソプチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン等の芳香族化合物が好ましい。
【0078】
シリル化剤の種類や濃度にもよるが、シリル化反応は10〜40℃で十分攪拌しながら進行させるのが好ましい。10℃未満では反応が進行しにくく、40℃超ではナノダイヤモンド表面に均一にシリル化されなくなる。例えば、トリエチルクロロシランのヘキサン溶液をシリル化剤として使用した場合、10〜40℃で10〜40時間程度攪拌しながら反応させると、ナノダイヤモンド表面の水酸基が十分にシリル修飾される。
【0079】
[3]フッ素化処理
前記爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンド、又は前記酸化処理により得られたナノダイヤモンドは、フルオロアルキル基含有オリゴマーを使用した方法、フッ素ガスと直接反応させる方法、フッ素プラズマによる方法等により、その表面をフッ素又はフッ素を有する基で修飾することができる。
【0080】
(1)フルオロアルキル基含有オリゴマーを使用した方法
高分子主鎖の両末端にフルオロアルキル基が直接炭素−炭素結合により導入された高分子界面活性剤(含フッ素オリゴマー)は、水溶液中又は有機溶媒中において自己組織化したナノレベルの分子集合体を形成することが知られている。このフルオロアルキル基が末端に導入された含フッ素オリゴマーを用いることにより、フルオロアルキル基で修飾したナノダイヤモンドを形成することができる。
【0081】
フルオロアルキル基で修飾したナノダイヤモンドは、爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンド、又は前記酸化処理により得られたナノダイヤモンドを、一般式(1)で表される含フッ素オリゴマーで処理することによって得ることができる。
【0082】
【化1】
【0083】
ここで、Rはフルオロアルキル基であり、具体的には、−CF(CF)OC、−CF(CF)OCFCF(CF)OC等の基が好ましい。Rは置換基であり、−N(CH、−OH、−NHC(CHCHC(=O)CH、−Si(OCH、−COOH等の基が好ましい。nは5〜2000であるのが好ましい。
【0084】
ナノダイヤモンドと一般式(1)で表される含フッ素オリゴマーとをメタノール、エタノール等のアルコール溶媒中で混合し、室温〜80℃で2〜48時間撹拌することによりナノダイヤモンド表面にフルオロアルキル基(R)が修飾された複合粒子を高い収率で得ることができる。反応を促進させるために、アンモニア等の塩基を使用してもよい。
【0085】
(2)フッ素ガスと直接反応させる方法
フッ素ガスと直接反応させる方法は、ナノダイヤモンドを入れた反応管(ニッケル製等)に、フッ素ガスとアルゴン等の不活性ガスとの混合ガスを300〜500℃で10〜500時間流すことにより行う。
【0086】
フッ素化ダイヤモンド微粒子のフッ素含有量は0.1〜20wt%であるのが好ましく、0.2〜15wt%であるのが好ましい。フッ素含有量が0.1wt%未満であると、フッ素含有の高分子樹脂を用いたとき、樹脂との相溶性が低下する。フッ素含有量が20wt%以上であると、非フッ素系の溶剤や添加剤との相溶性が低下する。
【実施例】
【0087】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0088】
実施例1
(1)ナノダイヤモンドの作製
TNT(トリニトロトルエン)とRDX(シクロトリメチレントリニトロアミン)を60/40の比で含む0.65kgの爆発物を3mの爆発チャンバー内で爆発させて生成するBDを保存するための雰囲気を形成した後、同様の条件で2回目の爆発を起こしBDを合成した。爆発生成物が膨張し熱平衡に達した後、15mmの断面を有する超音速ラバルノズルを通して35秒間ガス混合物をチャンバーより流出させた。チャンバー壁との熱交換及びガスにより行われた仕事(断熱膨張及び気化)のため、生成物の冷却速度は280℃/分であった。サイクロンで捕獲した生成物(黒色の粉末、BD)の比重は2.55g/cm、メジアン径(動的光散乱法)は220nmであった。このBDは比重から計算して、76体積%のグラファイト系炭素と24体積%のダイヤモンドからなっていると推定された。
【0089】
このBDを60質量%硝酸水溶液と混合し、160℃、14気圧、20分の条件で酸化性分解処理を行った後、130℃、13気圧、1時間で酸化性エッチング処理を行った。酸化性エッチング処理により、BDからグラファイトが一部除去された粒子が得られた。この粒子を、アンモニアを用いて、210℃、20気圧、20分還流し中和処理した後、自然沈降させデカンテーションにより35質量%硝酸での洗浄を行い、さらにデカンテーションにより3回水洗し、遠心分離により脱水し、120℃で加熱乾燥し、グラファイト相を有するナノダイヤモンドの粉末を得た。このナノダイヤモンドの粉末の比重は3.38g/cmであり、メジアン径は5.5μm(動的光散乱法)であった。比重から計算して、90体積%のダイヤモンドと10体積%のグラファイト系炭素からなっていると推定された。
【0090】
(2)ケイ素化処理
得られたナノダイヤモンドの粉末をメチルイソブチルケトンに3質量%の濃度で分散させ、トリメチルクロロシランのメチルイソブチルケトン溶液(濃度7.5質量%)を1:1の容量で加え、48時間撹拌してナノダイヤモンドをトリメチルシランで修飾した。得られた分散物をメチルイソブチルケトンで洗浄後、乾燥し、トリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末を得た。
【0091】
(3)摺動性樹脂部材の作製
樹脂部材として、ポリエチレンテレフタレート(PET、KBセーレン社製、固有粘度0.64)に得られたトリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末10質量部を良く混練し、マスターチップを作製し、その後更にPETで希釈して、トリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末を1質量部含有のPET固有粘度0.61の名刺入れ(タテ×ヨコ×深さ;9.5cm×6cm×0.5cm)を得た。
【0092】
(4)評価結果
添加剤の入っていない名刺入れ用PETの作製は、10回程度で成型加工機に付着し、離型性は悪かったが、本発明の樹脂は何回押出し成型しても、成型加工機への付着がなく、離型性が良好で、問題なく成型加工可能であった。摺動性を測る目安として、JIS K7125に規定の方法で、静及び動摩擦係数を測定した。試料は、厚さ100μのポリエチレンテレフタレート(PET)未延伸フイルム(A)と、トリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末を1質量部含有の厚さ100μのポリエチレンテレフタレート(PET)未延伸(B)を作製し、A/A、A/B,B/B それぞれの静、動摩擦係数を測定した結果を表1に示す。
【表1】
以上の結果から、Bフイルムの摩擦係数、摩擦力が非常に小さく、摺動性に優れることが理解できる。
【0093】
実施例2
(1)フッ素化処理
実施例1で作製したナノダイヤモンドの粉末を3質量%の濃度でメタノールに分散させ、下記式:
【0094】
【化2】
【0095】
(Rは−CF(CF)OC基、Rは−OH基、nは約800である。)表される含フッ素オリゴマー、及び28質量%アンモニア水を、ナノダイヤモンド分散物100質量部に対してそれぞれ50質量部及び10質量部加え、80℃で20時間撹拌して反応させた。得られた分散物を中和、洗浄及び乾燥し、ナノダイヤモンド表面がフルオロアルキル基で修飾された複合粒子を得た。
【0096】
(2)摺動性樹脂部材の作製
トリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末の代わりに、フルオロアルキル基修飾ナノダイヤモンド粉末を使用した以外実施例1と同様にして、フルオロアルキル基修飾ナノダイヤモンド1質量部含有の径10mmの小型のPET歯車を作製した。
【0097】
(3)評価結果
添加剤の入っていない歯車の作製は、成型加工機に数回程度で成型加工機に付着し、離型性は悪かったが、本発明の樹脂は何回押出し成型しても、歯車の成型加工機への付着がなく、離型性が良好で、問題なく成型加工可能であった。実施例1と同様に、試料は、厚さ100μのPET未延伸フイルム(A)と、フルオロアルキル基修飾ナノダイヤモンド粉末を1質量部含有の厚さ100μのPET未延伸(B)を作製し、A/A、A/B,B/B それぞれの静、動摩擦係数を測定した結果を表2に示す。
【表2】
以上の結果から、Bフイルムの摩擦係数、摩擦力が非常に小さく、摺動性に優れることが理解できる。
【0098】
実施例3
(1)摺動性樹脂部材の作製
実施例1で作製したトリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末、及び実施例2で作製したフルオロアルキル基修飾ナノダイヤモンド粉末を6:4の質量比となるよう混合した粉末を使用した以外実施例2と同様(1質量部)にして、径10mmの小型のPET歯車を作製した。
【0099】
(2)評価結果
添加剤の入っていない歯車の作製は、成型加工機に10回程度で成型加工機に付着し、離型性は悪かったが、本発明の樹脂は何回押出し成型しても、歯車の成型加工機への付着がなく、離型性が良好で、問題なく成型加工可能であった。、実施例1と同様に、試料は、厚さ100μのPET未延伸フイルム(A)と、実施例3の修飾ナノダイヤモンド粉末含有の厚さ100μのPET未延伸(B)を作製し、A/A、A/B,B/B それぞれの静、動摩擦係数を測定した結果を表3に示す。
【表3】
以上の結果から、Bフイルムの摩擦係数、摩擦力が非常に小さく、摺動性に優れることが理解できる。
【0100】
実施例4
(1)ケイ素化及びフッ素化
実施例1で作製したトリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド分散物を用いて、実施例2と同様にして、ナノダイヤモンド表面をフルオロアルキル基で修飾し、ナノダイヤモンド表面がトリメチルシラン及びフルオロアルキル基で修飾された複合粒子を得た。
【0101】
(2)摺動性樹脂部材の作製
トリメチルシラン修飾ナノダイヤモンド粉末の代わりに、トリメチルシラン及びフルオロアルキル基修飾ナノダイヤモンド粉末を使用した以外実施例2と同様(1質量部)にして、径10mmの小型のPET歯車を作製した。
【0102】
(3)評価結果
添加剤の入っていない歯車の作製は、成型加工機に10回程度で成型加工機に付着し、離型性は悪かったが、本発明の樹脂は何回押出し成型しても、歯車の成型加工機への付着がなく、離型性が良好で、問題なく成型加工可能であった。実施例1と同様に、試料は、厚さ100μのPET未延伸フイルム(A)と、実施例4の修飾ナノダイヤモンド粉末含有の厚さ100μのPET未延伸(B)を作製し、A/A、A/B,B/B それぞれの静、動摩擦係数を測定した結果を表4に示す。
【表4】
以上の結果から、Bフイルムの摩擦係数、摩擦力が非常に小さく、摺動性に優れることが理解できる。