(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
短絡状態からアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出し、このくびれを検出すると短絡負荷に通電する溶接電流を減少させた後にアークを再発生させるくびれ検出制御を行い、前記溶接電流の平滑値を検出し、この溶接電流平滑値と予め定めた電流設定値とが等しくなるように溶接ワイヤの送給速度をフィードバック制御して溶接する消耗電極アーク溶接制御方法において、
前記短絡ごとに前記くびれの検出時点から前記アークの再発生時点までのくびれ検出期間を検出し、このくびれ検出期間の時間長さが所定範囲外となる回数を所定周期ごとに計数し、この回数が基準回数以上となったときは、前記フィードバック制御の過渡応答時間を長くする、
ことを特徴とする消耗電極アーク溶接制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したくびれ検出制御を行うと共に、上述した送給速度の可変制御を行いながら溶接した場合、送給速度可変制御によって送給速度が急峻に変化すると、それに伴って溶滴のくびれの形成状態が変動するために、くびれ検出制御が誤動作して溶接状態が不安定になるという問題が生じる。このために、従来技術では、送給速度の可変制御を行うときには、くびれ検出制御の動作を禁止していた。しかし、このようにすると、スパッタ発生量が増大するという問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明では、くびれ検出制御及び送給速度可変制御を共に動作させて溶接しても、溶接状態を安定に保つことができる消耗電極アーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、短絡状態からアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出し、このくびれを検出すると短絡負荷に通電する溶接電流を減少させた後にアークを再発生させるくびれ検出制御を行い、前記溶接電流の平滑値を検出し、この溶接電流平滑値と予め定めた電流設定値とが等しくなるように溶接ワイヤの送給速度をフィードバック制御して溶接する消耗電極アーク溶接制御方法において、
前記短絡ごとに前記くびれの検出時点から前記アークの再発生時点までのくびれ検出期間を検出し、このくびれ検出期間の時間長さが所定範囲外となる回数を所定周期ごとに計数し、この回数が基準回数以上となったときは、前記フィードバック制御の過渡応答時間を長くする、
ことを特徴とする消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0008】
請求項2の発明は、前記過渡応答時間を、前記フィードバック制御のゲインを変化させることによって設定する、
ことを特徴とする請求項1記載の消耗電極アーク溶接制御方法である。
【0009】
請求項3の発明は、前記過渡応答時間を、前記溶接電流平滑値の時定数を変化させることによって設定する、
ことを特徴とする請求項1記載の消耗電極アーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、くびれ検出制御及び送給速度可変制御を共に動作させて溶接し、溶接開始時は送給速度可変制御の過渡応答時間を高速(短く)に設定している。溶接中に、くびれ検出制御の誤動作が基準の頻度以上で生じたときは、送給速度可変制御の過渡応答時間を低速(長く)に設定することによって誤動作を防止している。これにより、くびれ検出制御の誤動作が生じていないときは、送給速度可変制御の過渡応答時間は高速になるので、くびれ検出制御の効果及び送給速度可変制御の効果を最大限発揮させることができる。また、くびれ検出制御の誤動作が生じる場合には、送給速度可変制御の過渡応答時間を低速にすることによって、送給速度可変制御の効果を落とすことにはなるが、溶接状態が不安定になり不良な溶接品質になることを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0014】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル、上記の誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行う変調回路、パルス幅変調制御信号を入力としてインバータ回路のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動回路を備えている。
【0015】
減流抵抗器Rは、上記の電源主回路PMと溶接トーチ4との間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01〜0.03Ω程度)の10倍以上大きな値(0.5〜3Ω程度)に設定される。このために、くびれ検出制御によって減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、溶接電源内の直流リアクトル及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。トランジスタTRは、減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0016】
溶接ワイヤ1は、送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接ワイヤ1と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、アーク3中を溶接電流Iwが通電する。
【0017】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流平滑回路IAVは、この電流検出信号Idを入力として平滑し、溶接電流平滑信号Iavを出力する。この平滑は、抵抗とコンデンサから成る平滑回路、ローパスフィルタ等を使用して行われる。ローパスフィルタを使用する場合には、平滑の時定数は、カットオフ周波数を設定することによって行うことができる。電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。
【0018】
短絡/アーク判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、その値が予め定めた短絡/アーク判別値未満であるときは短絡状態にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク発生状態にあると判別してLowレベルになる短絡/アーク判別信号Sdを出力する。くびれ基準値設定回路VTNは、後述する送給速度設定信号Frを入力として、予め定めた関数によってくびれ検出基準値信号Vtnを出力する。この関数は、送給速度設定信号Frの値とそれに適したくびれ検出基準値との関係を定義しており、実験によって算出される。この回路は、送給速度が変化するとくびれ検出基準値の適正値が変化することに対応している。また、溶接法、溶接ワイヤ1の材質、直径等が変化しても、くびれ検出基準値の適正値は変化するので、この回路で溶接条件に応じてくびれ検出基準値を適正化している。くびれ検出回路NDは、このくびれ検出基準値信号Vtn、上記の電圧検出信号Vd、上記の電流検出信号Id及び上記の短絡/アーク判別信号Sdを入力として、短絡/アーク判別信号SdがHighレベル(短絡期間)のときの電圧検出信号Vdの変化がくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれが形成されたと判別してHighレベルとなり、短絡/アーク判別信号SdがLowレベル(アーク再発生)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応したくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応するくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0019】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。電流比較回路CMは、この低レベル電流設定信号Ilr及び上記の電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。駆動回路DRは、この電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。
【0020】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡/アーク判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡/アーク判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から予め定めた初期期間中は、予め定めた初期電流設定値を電流制御設定信号Icrとして出力する。
2)その後は、電流制御設定信号Icrの値を、上記の初期電流設定値から予め定めた短絡時傾斜で予め定めたピーク設定値まで上昇させ、その値を維持する。
3)くびれ検出信号NdがHighレベル(くびれ検出)に変化すると、電流制御設定信号Icrの値を低レベル電流設定信号Ilrの値に切り換えて維持する。
4)短絡/アーク判別信号SdがLowレベル(アーク)に変化すると、電流制御設定信号Icrを、予め定めたアーク時傾斜で予め定めた高レベル電流設定値まで上昇させ、その値を維持する。
【0021】
オフディレイ回路TDSは、上記の短絡/アーク判別信号Sdを入力として、この信号がHighレベルからLowレベルに変化する時点を予め定めた遅延時間だけオフディレイさせて遅延信号Tdsを出力する。したがって、この遅延信号Tdsは、短絡期間になるとHighレベルとなり、アークが再発生してから遅延時間だけオフディレイしてLowレベルになる信号である。電圧設定回路VRは、アーク期間中の溶接電圧Vwを設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr(+)と上記の電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vr(+)と上記の電圧検出信号Vd(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。制御切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の遅延信号Tdsを入力として、遅延信号TdsがHighレベル(短絡開始からアークが再発生して遅延時間が経過するまでの期間)のときは電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、Lowレベル(アーク)のときは電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。この回路により、短絡期間+遅延期間中は定電流制御となり、それ以外のアーク期間中は定電圧制御となる。
【0022】
回数
計数回路NCは、上記のくびれ検出信号Ndを入力として、このくびれ検出信号NdがHighレベルである時間長さが所定範囲外となった回数を所定周期ごとに
計数して、回数信号Ncとして出力する。短絡は、溶接電流平均値に応じて20〜100回/秒程度発生する。ここで、溶接電流平均値が230Aの場合とすると、短絡は30回/秒程度発生する。くびれ検出信号Ndは、1回の短絡ごとにくびれが検出された時点からアークが再発生する時点までのくびれ検出期間の間Highレベルとなる。このくびれ検出期間の時間長さをTn(秒)として表記することにする。そして、所定周期を1秒に設定すると、所定周期ごとに、Tn(1),…,Tn(30)のくびれ検出期間を検出することになる。この30個のくびれ検出期間の中で、所定範囲外となるくびれ検出期間の回数(個数)を計数して出力する。この計数は、所定周期ごとに行われる。30回の短絡回数は、30±5回程度は1秒ごとに変動する。所定周期は、0.5〜3秒程度に設定される。所定範囲は、例えば0.1〜1msに設定される。すなわち、くびれ検出期間の時間長さが、0.1〜1msの範囲外にあるときの回数を計数する。くびれ検出期間の時間長さが所定範囲外にあるときとは、くびれを誤検出した場合である。誤検出の大きな要因としては、送給速度可変制御によって送給速度が急峻に変化することによって溶滴のくびれの形成状態が変動することである。所定周期ごとに計数しているのは、送給速度が一定であっても、くびれの誤検出は低い頻度で生じている。くびれの誤検出が低い頻度であれば溶接状態への悪影響は少ない。くびれの誤検出があるレベル以上の頻度で生じると、溶接状態に悪影響を与えることになる。このあるレベル以上の頻度を判別するために、所定周期ごとに計数するようにしている。
【0023】
回数比較回路CNは、上記の回数信号Ncを入力として、上記の所定周期ごとに変化する回数信号Ncの値が予め定めた基準回数以上のときは短時間Highレベルに変化する回数比較信号Cnを出力する。基準回数は、所定周期が1秒のときは3〜10回程度に設定される。例えば、基準回数を5回とすると、1秒間にくびれの誤検出が5回以上生じたときは、回数比較信号Cnは短時間Highレベルになる。
【0024】
ゲイン設定回路GRは、上記の回数比較信号Cnを入力として、回数比較信号CnがLowレベルのときは予め定めた高ゲイン設定値となり、Highレベルに変化した時点で予め定めた低ゲイン設定値となり溶接終了までそのまま保持されるゲイン設定信号Grを出力する。低ゲイン設定値<高ゲイン設定値である。このゲイン設定信号Grは、送給速度可変制御における、フィードバック制御系のゲインを決める信号である。したがって、ゲインが小さくなると送給速度可変制御の過渡応答時間は長くなり、大きくなると短くなる。すなわち、溶接開始から回数比較信号CnがLowレベルである期間中は送給速度可変制御の過渡応答は高速(短い)の状態にあり、回数比較信号CnがHighレベルに変化すると送給速度可変制御の過渡応答は定速(長く)になり、溶接終了までその状態を維持する。この過渡応答時間(時定数)が低ゲイン設定値のときは高ゲイン設定値のときよりも少なくとも2倍以上になるように、各ゲインを設定する。例えば、高ゲイン設定値のときの過渡応答時間は100msであり、低ゲイン設定値のときの過渡応答時間は500msである。
【0025】
電流設定回路IRは、送給速度可変制御における目標電流値となる予め定めた電流設定信号Irを出力する。送給誤差増幅回路EFは、上記のゲイン設定信号Grを入力として、上記の電流設定信号Irと上記の溶接電流平滑信号Iavとの誤差をゲイン設定信号Grによって定まるゲインで増幅して、送給誤差増幅信号Efを出力する。この送給誤差増幅回路EFには、P制御、PI制御又はPID制御を適用することができる。ここでゲインとは、比例(P)ゲインである。送給速度設定回路FRは、この送給誤差増幅信号Efを積分して、送給速度設定信号Frを出力する。積分は溶接中行われて、Fr=Fr0+∫Ef・dtとなる。ここで、Fr0は初期値である。この初期値Fr0は、6〜10m/min程度の範囲で適正値に設定される。上記の電流設定信号Irの値、溶接ワイヤの材質、直径、及び溶接開始時の給電チップ・母材間距離が定まると送給速度がきまるので、この送給速度を初期値Fr0としても良い。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度で溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0026】
図2は、くびれ検出制御の動作を示す
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示し、同図(D)は駆動信号Drの時間変化を示し、同図(E)は遅延信号Tdsの時間変化を示し、同図(F)は電流制御設定信号Icrの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0027】
(1)時刻t1の短絡発生から時刻t2のくびれ検出時点までの動作
時刻t1において溶接ワイヤが母材と接触すると短絡状態になり、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数V程度の短絡電圧値に急減する。この溶接電圧Vwが短絡/アーク判別値Vta未満になったことを判別して、同図(E)に示すように、遅延信号TdsはLowレベルからHighレベルに変化する。これに応動して、同図(F)に示すように、電流制御設定信号Icrは時刻t1において予め定めた高レベル電流設定値から小さな値である予め定めた初期電流設定値に変化する。時刻t1〜t11の予め定めた初期期間中は上記の初期電流設定値となり、時刻t11〜t12の期間中は予め定めた短絡時傾斜で上昇し、時刻t12〜t2の期間中は予め定めたピーク設定値となる。短絡期間中は上述したように定電流制御されているので溶接電流Iwは電流制御設定信号Icrに相当する値に制御される。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t1においてアーク期間の溶接電流から急減し、時刻t1〜t11の初期期間中は初期電流値となり、時刻t11〜t12の期間中は短絡時傾斜で上昇し、時刻t12〜t2の期間中はピーク値となる。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwがピーク値となる時刻t12あたりから急上昇する。これは、溶滴にくびれが発生したためである。同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、後述する時刻t2〜t3の期間はHighレベルとなり、それ以外の期間はLowレベルとなる。同図(D)に示すように、駆動信号Drは、後述する時刻t2〜t21の期間はLowレベルとなり、それ以外の期間はHighレベルとなる。したがって、同図において時刻t2以前の期間中は、駆動信号DrはHighレベルとなり、
図1のトランジスタTRがオン状態となるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の消耗電極アーク溶接電源と同一の状態となる。上記の初期期間は1ms程度に設定され、初期電流値は50A程度に設定され、短絡時傾斜は100〜300A/ms程度に設定され、ピーク値は300〜400A程度に設定される。
【0028】
(2)時刻t2のくびれ検出時点から時刻t3のアーク再発生時点までの動作
時刻t2において、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwが急上昇して初期期間中の電圧値からの電圧上昇値ΔVが予め定めたくびれ検出基準値Vtnと等しくなったことによってくびれを検出すると、同図(C)に示すように、くびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。これに応動して、同図(D)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、
図1のトランジスタTRはオフ状態となり減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、同図(F)に示すように、電流制御設定信号Icrは低レベル電流設定信号Ilrの値へと小さくなる。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwはピーク値から低レベル電流値Ilへと急減する。そして、時刻t21において溶接電流Iwが低レベル電流値Ilまで減少すると、同図(D)に示すように、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、
図1のトランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、電流設定信号Irが低レベル電流設定信号Ilrのままであるので、時刻t3のアーク再発生までは低レベル電流値Ilを維持する。したがって、トランジスタTRは、時刻t2にくびれが検出されてから時刻t21に溶接電流Iwが低レベル電流値Ilに減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t2から一旦減少した後に急上昇する。上記の低レベル電流値Ilは30A程度に設定される。
【0029】
(3)時刻t3のアーク再発生時点から時刻t4の遅延期間Tdの終了時点までの動作
時刻t3においてアークが再発生すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwの値は短絡/アーク判別値Vta以上となる。これに応動して、同図(F)に示すように、電流制御設定信号Icrの値は、低レベル電流設定信号Ilrの値から予め定めたアーク時傾斜で上昇し、上記の高レベル電流設定値に達するとその値を維持する。同図(E)に示すように、遅延信号Tdsは、時刻t3にアークが再発生してから予め定めた遅延期間Tdだけ経過する時刻t4までHighレベルのままである。したがって、溶接電源は時刻t4まで定電流制御されているので、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t3からアーク時傾斜で上昇し、高レベル電流値に達するとその値を時刻t4まで維持する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t3〜t4の遅延期間Td中は高レベル電圧値の状態にある。遅延期間Tdは2ms程度に設定される。同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、時刻t3にアークが再発生するので、Lowレベルに変化する。このくびれ検出信号NdがHighレベルである時刻t2〜t3の時間長さを計測し、この時間長さが上記の所定範囲外にあるかを判別して、所定範囲外にあるときは上記の所定周期ごとに計数する。
【0030】
(4)時刻t4の遅延期間Td終了時点から時刻t5の次の短絡発生までのアーク期間の動作
同図(E)に示すように、遅延信号TdsがLowレベルに変化する。この結果、溶接電源は定電流制御から定電圧制御へと切り換えられる。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは高レベル電流値からアーク負荷に応じて次第に減少する。同様に、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは高レベル電圧値からアーク長が短くなるのに対応して次第に減少する。
【0031】
このように、くびれ検出制御では、時刻t2にくびれを検出すると通電路に減流抵抗器を挿入することによって溶接電流Iwを急減させて、時刻t3にアークが再発生した時点における電流値を小さな値に制御することができる。このために、スパッタ発生量を大幅に低減することができる。
【0032】
図3は、送給速度可変制御の動作を示す
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は給電チップ・母材間距離Lwの時間変化を示し、同図(B)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電流平滑信号Iavの時間変化を示す。同図は、溶接中に給電チップ・母材間距離Lwが、時刻t1においてL1(mm)からL2(mm)へと長くなった場合の送給速度Fw及び溶接電流平滑信号Iavの過渡応答を示している。以下、同図を参照して説明する。
【0033】
溶接中の時刻t1において溶接トーチと母材との距離を長くすると、同図(A)に示すように、給電チップ・母材間距離LwはL1からL2へと長くなる。このために、同図(C)に示すように、溶接電流平滑信号Iavの値は、時刻t1から傾斜を有して減少する。これに応動して送給速度可変制御によって溶接電流平滑信号Iavの値を一定値に維持しようとして、同図(B)に示すように、送給速度Fwが時刻t1から傾斜を有して速くなる。溶接電流平滑信号Iavの値は、同図(C)に示すように、時刻t1から減少し、時刻t2において減少から増加へと反転し、時刻t3において時刻t1以前の値に復帰する。送給速度Fwは、時刻t1から速くなり、時刻t2においても速くなり続け、時刻t3において時刻t1以前よりも高速な値に収束する。時刻t1〜t3の時間が、過渡応答時間T1(秒)となる。この過渡応答時間T1は、上述したゲイン設定信号Grの値によって設定されることになる。例えば、ゲイン設定信号Grの値が高ゲイン設定値であるときはT1=100msとなり、低ゲイン設定値であるときはT1=500msとなる。
【0034】
図2で上述した時刻t1〜t3の短絡期間は4ms程度であり、時刻t3〜t5のアーク期間は21ms程度である。
図3の過渡応答時間T1は100〜500ms程度であるので、この期間中には短絡とアークとを4〜20回繰り返すことになる。
【0035】
送給速度可変制御は、給電チップ・母材間距離が変化しても溶接電流平滑値を一定に維持することによって溶け込み深さを均一化するものである。
【0036】
くびれ検出制御及び送給速度可変制御を共に動作させて溶接を行ったときに、溶接状態が不安定になる場合が生じるのは、以下のような原因からである。溶接中に給電チップ・母材間距離Lwが急峻にかつ大幅に変化すると、送給速度可変制御によって送給速度が急峻に変化することになる。それに伴って溶滴のくびれの形成状態が変動するために、くびれ検出制御が誤動作して溶接状態が不安定になるからである。くびれ検出制御の誤動作とは、くびれ検出期間の時間長さが所定範囲外になり、スパッタ低減効果がほとんどなくなり、かつ、溶滴移行状態も不安定な状態になることである。くびれ検出制御の誤動作が生じるかは、給電チップ・母材間距離Lwの変化の様子、溶接電流平均値、溶接速度等の種々な溶接条件によって異なる。くびれ検出制御の誤動作が生じた場合には、送給速度可変制御の過渡応答時間を低速(長く)すると、送給速度の変化が緩やかになるので、誤動作を防止することができる。しかし、送給速度可変制御の効果を大きくするためには、過渡応答時間は高速(短い)であることが望ましいことは言うまでもない。したがって、本実施の形態によれば、くびれ検出制御及び送給速度可変制御を共に動作させて溶接し、溶接開始時は送給速度可変制御の過渡応答時間を高速に設定している。溶接中に、くびれ検出制御の誤動作が基準の頻度以上で生じたときは、送給速度可変制御の過渡応答時間を低速に設定することによって誤動作を防止している。これにより、くびれ検出制御の誤動作が生じていないときは、送給速度可変制御の過渡応答時間は高速になるので、くびれ検出制御の効果及び送給速度可変制御の効果を最大限発揮させることができる。また、くびれ検出制御の誤動作が生じる場合には、送給速度可変制御の過渡応答時間を低速にすることによって、送給速度可変制御の効果を落とすことにはなるが、溶接状態が不安定になり不良な溶接品質になることを防止することができる。
【0037】
上述した実施の形態では、送給速度可変制御の過渡応答時間の高速又は低速の切り換えを、送給速度可変制御のフィードバック制御系のゲインを切り換えることで実現している。これ以外にも、送給速度可変制御の過渡応答時間の高速又は低速の切り換えを、溶接電流平滑値の
時定数を切り換えることによって行うようにしても良い。この場合には、
図1の電流平滑回路IAVの動作を以下のように変更する。
電流平滑回路IAVは、電流検出信号Id及び回数比較信号Cnを入力として、回数比較信号CnがLowレベルのときは平滑の時定数を予め定めた第1時定数に設定し、Highレベルに変化した時点で平滑の時定数を上記の第1時定数よりも大きな値に予め定めた第2時定数に設定し溶接終了までそのまま保持し、電流検出信号Idを設定された時定数で平滑して溶接電流平滑信号Iavを出力する。
【0038】
上述した実施の形態では、回数比較信号CnがHighレベルに変化すると、送給速度可変制御の過渡応答時間を
高速から低速へと切り換えている。このときに、回数比較信号CnがHighレベルに変化するごとに高速から所定値だけ低速になるように変化させても良い。例えば、回数比較信号Cn=Lowレベルのときの過渡応答時間を100msに設定し、回数比較信号CnがHighレベルに変化するごとに100+100=200ms、200+100=300msと100msずつ長くするようにしても良い。