特許第5918063号(P5918063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918063
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】共重合芳香族ポリエステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/193 20060101AFI20160428BHJP
   C08G 63/86 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   C08G63/193
   C08G63/86
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-168434(P2012-168434)
(22)【出願日】2012年7月30日
(65)【公開番号】特開2014-25022(P2014-25022A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】友成 安彦
【審査官】 井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−170179(JP,A)
【文献】 特開2004−107559(JP,A)
【文献】 特開2009−242461(JP,A)
【文献】 特開2008−208313(JP,A)
【文献】 特開平05−295239(JP,A)
【文献】 特開平08−100053(JP,A)
【文献】 特開平10−046036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/00−64/42
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、脂肪族ジオールおよび下記式(I)で示される芳香族ジオールを原料として用い、該下記式(I)で示される芳香族ジオールを全ジオール成分に対して55モル%以上共重合させた、ガラス転移温度が135℃以上である共重合芳香族ポリエステルの製造方法において、
【化1】
[上記式において、m、nはそれぞれ独立に1以上の整数である。]
上記式(I)で表される芳香族ジオール中95モル%以上が下記式(II)で表される芳香族ジオールであり、0.1モル%以上2.5モル%以下が下記式(III)で表される芳香族ジオールであって、
【化2】
【化3】
少なくとも下記の工程を含んでなることを特徴とする共重合芳香族ポリエステルの製造方法。
工程1:芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、脂肪族ジオールおよび上記式(I)で示される芳香族ジオールとをエステル交換反応触媒を使用し0.05MPa以上の加圧下でエステル交換反応させる工程
工程2:工程1で製造した反応物をリン化合物とゲルマニウム化合物を使用して重縮合させる工程
【請求項2】
前記工程2の終了後において、該リン化合物に由来するリン元素が該共重合芳香族ポリエステルを構成する全てのジカルボン酸成分に対して10〜150mmol%含有し、該ゲルマニウム化合物に由来するゲルマニウム元素が該共重合芳香族ポリエステルを構成する全ての芳香族ジカルボン酸成分に対して30〜100mmol%含有することを特徴とする請求項1に記載の共重合芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
工程2で得られた共重合芳香族ポリエステルの固有粘度が0.50〜0.65dL/gであることを特徴とする請求項1または2に記載の共重合芳香族ポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエチレンナフタレート樹脂を用いた溶融重合によって耐熱性や成形性、さらには耐沸水性に優れたポリエステル重合体の製造方法に関するものである。本発明で得られた共重合芳香族ポリエチレンナフタレート重合体は食器や食品包装材料に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、食品包装材料や医療用材料などにプラスチックを用いる研究開発が精力的に行われており、食品包装材料や医療用材料においては成形品の耐熱性やガスバリア性、さらには耐沸水性や表面硬度が要求される。医療用材料には非晶性の環状ポリオレフィンが、食品容器材料にはポリカーボネートや芳香族ポリエステルなどが使用されている。しかし、環状ポリオレフィンは耐熱性や透明性に優れるものの、酸素バリア性が低いことに問題がある(例えば、特許文献1、2、3参照。)。芳香族ポリエステルにおいては、酸素バリア性は優れているものの、吸水性、耐熱性、透明性不足であり更には成形時の成形温度が高いためにかなりの分子量低下を引き起こすこと(例えば、特許文献4参照。)、共重合ポリエチレンナフタレートでも耐熱性不足と言った問題がある(例えば、特許文献5、6参照。)。
【0003】
一方で耐熱性や成形時の分子量低下を改良した共重合芳香族ポリエステルは製造されているものの、重縮合触媒にアンチモンといった食品の安全性が懸念される重金属を用いていることや、n−ブチルチタネートといった食品安全性を有する金属を用いていても反応速度が遅くかつ反応率も低い、さらには成形品の分子量低下が大きく色相が悪化するといった問題がある(例えば、特許文献7、8参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−186632号公報
【特許文献2】特開2008−208237号公報
【特許文献3】特開平02−189347号公報
【特許文献4】特開平10−245433号公報
【特許文献5】特開平10−017661号公報
【特許文献6】特開平11−293005号公報
【特許文献7】特許第2555377号公報
【特許文献8】特開2003−277491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解決するために検討した結果達成されたものであって、溶融成形時の分子量低下(固有粘度低下)がほとんど見られず、流動性に優れ成形しやすく、成形品に必要な耐熱性や耐加水分解性を有する共重合ポリエステルの効率的な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、溶融成形時の分子量低下が低く成形品に必要な強度や耐熱性、流動性、さらには耐加水分解性に優れた共重合ポリエステルが提供できることを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明は、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、脂肪族ジオールおよび下記式(I)で示される芳香族ジオールを原料として用い、該下記式(I)で示される芳香族ジオールを全ジオール成分に対して55モル%以上共重合させた、ガラス転移温度が135℃以上である共重合芳香族ポリエステルの製造方法において、
【化1】
[上記式において、m、nはそれぞれ独立に1以上の整数である。]
上記式(I)で表される芳香族ジオール中95.0モル%以上が下記式(II)で表される芳香族ジオールであり、0.1モル%以上2.5モル%以下が下記式(III)で表される芳香族ジオールであって、
【化2】
【化3】
少なくとも下記の工程を含んでなることを特徴とする共重合芳香族ポリエステルの製造方法である。
工程1:芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、脂肪族ジオールおよび上記式(I)で示される芳香族ジオールとをエステル交換反応触媒を使用し0.05MPa以上の加圧下でエステル交換反応させる工程
工程2:工程1で製造した反応物をリン化合物とゲルマニウム化合物を使用して重縮合させる工程
【0007】
すなわち、上記式(I)で表されるビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンと、上記式(II)で表される[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−4’−(2−ヒドロキシエトキシエトキシ)ジフェニル]スルホンの所定量の混合物を、好ましくは芳香族ジカルボン酸等として2,6−ナフタレンジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体と、好ましくは脂肪族ジオールとしてエチレングリコールと、さらにカルシウム化合物および/またはマグネシウム化合物を使用して加圧下エステル交換せしめる工程、その次にはそのエステル交換反応生成物をリン化合物とゲルマニウム化合物を使用して重縮合せしめる工程、といった2つの製造工程を経て得られる共重合芳香族ポリエステルの製造方法および共重合芳香族ポリエステルである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法で得られる共重合ポリエチレンナフタレートは押出成形や射出成形時の分子量低下(固有粘度低下)が低く、荷重たわみ温度(HDT)評価等による耐熱性、溶融成形のしやすさの指標となる流動性、耐沸水性等の耐加水分解性に優れている。また、人体に悪影響を及ぼす物質(特に内分泌かく乱作用を表す物質)を使用していないため、食品容器材料(特に給食食器など)や医療用材料に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製造方法において原料として用いられる芳香族ジカルボン酸成分としては、ナフタレンジカルボン酸を用いるが、好ましくは2,6−ナフタレンジカルボン酸または2,7−ナフタレンジカルボン酸を主成分とするか、他の1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸が共重合されていても良い。また、原料としてこれらのナフタレンジカルボン酸を用いる際には、その誘導体として、これらのナフタレンジカルボン酸のエステル形成誘導体を用いても良い。具体的には、ナフタレンジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステルもしくはジヘキシルエステル、ジフェニルエステルまたはナフタレンジカルボン酸ハライドを挙げることができる。より好ましくは、2,6−ナフタレンジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル、ジヘキシルエステル、ジフェニルエステルもしくはジカルボン酸ハライド化合物または2,7−ナフタレンジカルボン酸のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル、ジヘキシルエステル、ジフェニルエステルもしくはジカルボン酸ハライド化合物を挙げることができる。これらの中で2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルまたは2,7−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルを好ましく用いることができる。また他の芳香族ジカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸、ベンゾフェノン−4,4′−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が共重合されていても良い。
【0010】
また、本発明の製造方法で得られる共重合芳香族ポリエステルの特性を損なわない範囲で他の脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸等を併用することができる。例えば、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカヒドロナフタレンジカルボン酸(デカリンジカルボン酸)、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。また上述したようなこれらのジカルボン酸の誘導体を用いることもできる。本発明の製造方法で得られる共重合芳香族ポリエステルの特性を損なわない範囲とは、共重合芳香族ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。本発明の製造方法で得られる共重合芳香族ポリエステルにおいては、上述のような観点から2,6−ナフタレンジカルボン酸または2,7−ナフタレンジカルボン酸が全ジカルボン酸成分の好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上で構成されていることが好ましい。また、少量のトリメリット酸のような三官能性以上のカルボン酸成分を用いてもよく、無水トリメリット酸のような酸無水物を少量用いてもよい。また、乳酸、グリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル等の上述した誘導体を少量用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0011】
また本発明の製造方法においては、下記式(I)で表される芳香族ジオールが、共重合芳香族ポリエステルを構成する全ジオール成分に対して55モル%以上99.9モル%以下共重合されていることを特徴とする。より好ましくは57〜99モル%、更に好ましくは58〜90モル%共重合されていることである。
【0012】
【化4】
[上記式において、m、nはそれぞれ独立に1以上の整数である。]
【0013】
m、nはそれぞれ独立に1以上の整数であるが、またそれぞれ1種類の整数に限定されるものではない。好ましくは、m、nはそれぞれ独立に1以上5以下の整数であることである。故に、上記式(I)で表される芳香族ジオールはm、nの数が異なる混合物であっても良い。好ましくは、(m、n)の組み合わせが(1,1)、(2,1)、(1,2)の場合の芳香族ジオールである。本発明においては、上記式(I)で表される芳香族ジオールの全モル数中、95.0モル%以上99.9モル%以下が下記式(II)で表される芳香族ジオール[(m、n)=(1,1)]であり、0.1モル%以上2.5モル%以下が下記式(III)で表される芳香族ジオール[(m、n)=(2,1)または(1,2)]であることが必要である。より好ましくは、95.5モル%以上99.5モル%以下が下記式(II)で表される芳香族ジオーであり、0.5モル%以上2.4モル%以下が下記式(III)で表される芳香族ジオールであることである。
【0014】
【化5】
【0015】
【化6】
【0016】
上記式(I)〜(III)で表される芳香族ジオールを上記の所定の共重合率で共重合させることで、耐熱性が高く、耐加水分解性が良好で、溶融時の分子量低下の小さい共重合芳香族ポリエステルを得ることができる。
【0017】
本発明の製造方法に用いられる上記式(I)で表される芳香族ジオール以外には脂肪族ジオールを用いる。好ましくはグリコールを用いることである。そのグリコール成分としてはエチレングリコールを主成分とするが、本発明の製造方法で得られる共重合芳香族ポリエステルの特性を損なわない範囲で他のグリコール成分を併用することができる。例えば、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール(トリメチレングリコール)、ブタンジオール、テトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール(1,6−ヘキサンジオール)、1,9−ノナンジオール、デカメチレングリコール、2−メチル−1,3プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチルオクタンジオールなどの直鎖または分岐鎖のある脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、2−メチル−1,1−シクロヘキサンジオール、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−2,2−プロパン、2,2−ノルボルナンジメタノール、3−メチル−2,2−ノルボルナンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、2,6−ノルボルナンジメタノール、パーヒドロ−1,4:5,8−ジメタノナフタレン−2,3−ジメタノール、アダマンタンジメタノール、1,3−ジメチル−5,7−アダマンタンジメタノール、1,3−アダマンタンジオール、1,3−ジメチル−5,7−アダマンタンジオールなどの脂環式ジオール;ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシフェナンスロリン、キシリレンジオール[ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン]、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物(2,2−ビス(4−β−ヒドキシエトキシフェニル)プロパン)またはプロピレンオキシド付加物(2,2−ビス(4−γ−ヒドキシプロポキシフェニル)プロパン)などの芳香族ジオール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリ(オキシ)エチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリメチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのエーテル酸素を有するグリコールなどが挙げられる。上記ジオール成分は1種または2種以上混合して目的によって任意に使用できる。上記式(I)で表される芳香族ジオールの共重合率からこれらの脂肪族ジオールは0.1モル%以上45モル%以下共重合されていることが好ましい。より好ましくは1〜43モル%、更に好ましくは10〜42モル%である。
【0018】
さらに本発明の製造方法で得られる共重合ポリエチレンナフタレートの特性を損なわない範囲において、少量のグリセリン、ペンタエリスリトールのような多価アルコール成分を用いてもよい。また少量のエポキシ化合物を用いてもよい。本発明の製造方法で得られる共重合ポリエチレンナフタレートの特性を損なわない範囲とは、全グリコール成分に対して30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。本発明の共重合ポリエステルの製造時における、上記の各々のジオールを含む全ジオール成分の使用量は、前記ジカルボン酸もしくはジカルボン酸のエステル形成性誘導体1モルに対して1.5モル倍以上2.2モル倍以下であることが好ましい。グリコール成分の使用量が1.5モル倍に満たない場合にはエステル化あるいはエステル交換反応が十分に進行せず好ましくない。また、2.2モル倍以上を超える場合にも、理由は定かではないが反応速度が遅くなり、過剰のグリコール成分からの副生成物(たとえばエチレングリコールを過剰にしたときに発生するジエチレングリコール)の量が大となり好ましくない。通常のポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを製造する際には、ジカルボン酸もしくはジカルボン酸のエステル形成性誘導体1モルに対して、1.01〜1.4モル倍といった比較的等モルに近い使用量の比率で用いられる。しかし、本発明の製造方法においては、意外なことに1.4モル倍以下の量ではエステル交換反応が十分進行せず、高い固有粘度を有する共重合ポリエステルを製造することが困難であった。我々は検討の結果、この使用量の比率を1.5モル倍以上2.2モル倍以下とすることによって十分な固有粘度を有する共重合芳香族ポリエステルを製造することができることを見出した。
【0019】
エステル交換反応をさせるためにエステル交換反応触媒を用いるが、該エステル交換反応触媒は、反応性の観点から、マンガン化合物、チタン化合物、カルシウム化合物またはマグネシウム化合物が好ましく、整色剤としても有効なコバルト化合物が好ましいが、食品安全性を考慮した場合、カルシウム化合物やマグネシウム化合物を用いるのが特に好ましい。これらのエステル交換反応触媒を用いる場合には、それぞれ単独で用いても良いし、併用しても良い。また安価で入手しやすく、取扱いも容易であることからこれらの金属化合物においてはこれらの金属の酢酸塩を用いることが好ましい。具体的には酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸コバルトである。これらのエステル交換触媒は共重合ポリエステルを構成する全てのジカルボン酸成分に対して8〜120mmol%の範囲で用いることが好ましい。より好ましくは25〜80mmol%である。
【0020】
エステル交換反応後にエステル交換反応槽内に添加する安定剤はリン化合物が好ましく、正リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、トリメチルホスフェートその他のリン酸トリエステル化合物、リン酸ジエステル化合物もしくはリン酸モノエステル化合物、フェニルホスホン酸その他のホスホン酸化合物、ホスホン酸エステル化合物、ホスフィン酸化合物、ホスフィン酸エステル化合物などの各種の有機、無機リン化合物が挙げられるが、エステル交換反応触媒の失活効果や成形品の着色を抑える点では、トリメチルホスフェート、ホスホノ酢酸トリエチル(トリエチルホスホノアセテート)を用いることが好ましい。これらのリン化合物はエステル交換反応触媒を失活させ、重縮合反応中における副反応を抑制し、且つ重縮合反応を阻害しないことが好ましい。
【0021】
上述のリン化合物は、該リン化合物に由来するリン元素が共重合ポリエステルを構成する全てのジカルボン酸成分に対して10〜150mmol%含有するように用いられることが好ましい。より好ましくは20〜120mmol%、更に好ましくは30〜100mmol%含有することである。該リン化合物の含有量が下限値未満であると共重合芳香族ポリエステルの色調が低下しやすくなり、また含有量が上限値を超えると重縮合反応が進行しにくくなるため好ましくない。
【0022】
本発明の製造方法において用いられる重縮合触媒としては、アンチモン化合物、チタン化合物またはゲルマニウム化合物等を挙げることができるが、食品安全性や反応性の観点からゲルマニウム化合物を用いることが好ましい。より好ましくは非晶性二酸化ゲルマニウムを用いることである。これらのゲルマニウム化合物の使用量は、該ゲルマニウム化合物に由来するゲルマニウム元素が共重合芳香族ポリエステルを構成する全てのジカルボン酸成分に対して30〜100mmol%含有するよう用に用いられることが好ましい。より好ましくは40〜90mmol%、更に好ましくは50〜80mmol%含有することである。
【0023】
本発明における上記組成の共重合芳香族ポリエステルの製造方法において、少なくとも下記の工程を含んでなることが必要である。
工程1:芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、脂肪族ジオールおよび下記式(I)で示される芳香族ジオールとをエステル交換反応触媒を使用し0.05MPa以上の加圧下でエステル交換反応させる工程
工程2:工程1で製造した反応物にリン化合物とゲルマニウム化合物を使用して重縮合させる工程
本発明の製造方法における工程1では、上記の芳香族ジカルボン酸またはその誘導体、脂肪族ジオールおよび下記式(I)で示される芳香族ジオールを上記のエステル交換反応触媒の存在下で加圧反応せしめることにより製造される。エステル交換反応の反応温度は150℃以上とし、反応の進行とともに昇温するのが好ましい。この場合の上限は250℃、すなわち250℃以下であり、より好ましくは240℃以下である。この加圧反応の際には、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下とすることが好ましい。なお、この工程1における反応槽は縦型反応槽、横型反応槽のいずれであっても構わず、その他通常のポリエステルの製造工程で用いられる製造設備を使用することができる。
【0024】
本発明の工程1の製造方法において、反応槽の内圧は0.05MPa以上、更には0.05MPa以上1.50MPa以下が好ましい。より好ましくは、0.06〜1.00MPa、更に好ましくは0.07〜0.80MPaである。内圧が0.05MPaを下回ると、下記式(I)の芳香族ジオールを55モル%以上反応させる場合に反応速度が遅くなるばかりか、エステル交換率が80%を下回ってしまい、結果として工程2での重縮合反応が進行しないことがある。反応内圧が1.50MPa以上だと反応の際に副生したメタノールを反応槽外へ効率よく排出できず、結果として反応温度が低くなることによって反応時間も長くなってしまい生産効率が下がってしまう。
【0025】
【化7】
[上記式において、m、nはそれぞれ独立に1以上の整数である。]
【0026】
本発明の工程1の製造方法において、エステル交換反応率は80%以上が好ましい。反応率が80%を下回ると、工程2での反応の際、未反応の芳香族ジカルボン酸またはその誘導体が昇華してしまい、重縮合反応槽内の減圧度に悪影響を及ぼすとともに、重縮合反応が進行しないことがある。そこで我々は上述したようにエステル交換反応を常圧ではなく窒素を用いた加圧反応を行うことによって、短時間でかつエステル交換反応率が高い共重合芳香族ポリエステルを製造する方法を見出すに至った。加圧下でのエステル交換反応が終了した後は、すぐに重縮合反応に移るのではなく、重縮合反応時へ移行を穏やかに行うために、常圧下でエステル交換反応を1分〜1時間ほど実施することも好ましい。エステル交換反応における未反応原料等を低減し、重縮合反応時の昇華物の生成を抑制できる場合がある。
【0027】
上記の特許文献7および特許文献8等で開示されている従来技術においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールおよび芳香族ジオールとを常圧反応により製造しているが、本発明の製造方法においては、工程1で所定圧力以上の加圧反応下で反応させたエステル交換反応率の高いモノマーを用いて共重合芳香族ポリエステルの分子量を効率的に増大させることが大きな特徴となっている。該態様により、従来技術で得られていた共重合芳香族ポリエステルの抱えていた特性が大幅に改善され高品質な共重合芳香族ポリエステルを経済的に、かつ効率的に安定して製造できるようになった。
【0028】
本発明の製造方法により得られる工程2終了後の共重合芳香族ポリエステルの固有粘度は機械的強度、成形性の点から0.50〜0.65dL/gが好ましい。固有粘度が0.50dL/g未満では機械的強度に劣り、0.65dL/gを超える場合には流動性が低下して成形加工性に劣るので好ましくない。固有粘度をこの数値範囲とするには、上述の工程1の段階で未反応の原料がなくなるようにエステル交換反応率を十分上げておき、工程2の重縮合反応の段階で、十分に高真空下かつ十分な時間溶融重縮合反応を行うことが一例として挙げられる。溶融重縮合を行うのが困難な場合には、固相重合を行っても良い。
【0029】
本発明の製造方法により得られる共重合芳香族ポリエステルのガラス転移温度は135℃以上が好ましく、136℃以上がより好ましい。ガラス転移温度が135℃未満では成形品の耐熱性に劣り好ましくないことがある。なおガラス転移温度をこの値の範囲にするためには、下記式(I)で示される芳香族ジオールを共重合芳香族ポリエステルを構成する全ジオール成分に対して55モル%以上共重合させ、下記式(I)で表される芳香族ジオール中95.0モル%以上が下記式(II)で表される芳香族ジオールであり、0.1モル%以上2.5モル%以下が下記式(III)で表される芳香族ジオールであるようにすることである。
【0030】
【化8】
[上記式において、m、nはそれぞれ独立に1以上の整数である。]
【化9】
【化10】
【0031】
本発明の製造方法により得られる共重合芳香族ポリエステルの末端カルボキシル濃度は25eq(等量)/T(1T=10kg)以下が好ましく、20eq/T以下がより好ましい。末端カルボキシル濃度が25eq/Tを超えると成形品の耐加水分解性に劣り好ましくない。なお末端カルボキシル濃度をこの値の範囲にするためには、上記工程1のエステル交換反応率と工程2の重縮合反応時間を調整することによってこの末端カルボキシル濃度の値の範囲を達成することができる。
【0032】
本発明の製造方法により得られる共重合芳香族ポリエステルの成形流動性は50cm/10min以上が好ましく、より好ましくは52cm/10min以上である。成形流動性が50cm/10min未満であれば、成形サイクルを上げることができないばかりか、溶融成形時の滞留時間が長くなり成形品の分子量低下を引き起こし好ましくない。なお成形流動性をこの値の範囲にするためには、共重合芳香族ポリエステルを製造する際に上記式(I)で表される化合物の共重合率を55モル%以上にし、かつ固有粘度を0.50〜0.65L/gの間に調整することによってこの成形流動性の値の範囲を達成することができる。
【0033】
本発明の製造方法により得られる共重合ポリエステルの荷重1.80MPaにおける荷重たわみ温度は、成形品の物性の点から100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。荷重たわみ温度が100℃以下であれば、成形品の耐熱性に劣り好ましくない。なお荷重たわみ温度をこの値の範囲にするためには、共重合芳香族ポリエステルを製造する際に、上記式(I)で表される芳香族ジオールを55モル%以上共重合させ、その芳香族ジオール中、上記式(II)および(III)で表される化合物の含有量をそれぞれ95.0モル%以上、0.1モル%以上2.5%以下にし、かつ固有粘度を0.50〜0.65dL/gの間に調整することで、この荷重たわみ温度の値の範囲を達成することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、得られた共重合ポリエチレンナフタレートの諸物性の測定は以下の方法により実施した。
【0035】
(1)固有粘度(IV)測定
常法に従って、溶媒であるオルトクロロフェノール中、35℃で測定した。
【0036】
(2)ガラス転移温度(Tg)測定
25℃で24時間減圧乾燥した共重合芳香族ポリエステルを示差走査型熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で昇温しながら測定した。測定試料はアルミニウム製パン(TA Instruments社製)に約10mg計量し、窒素雰囲気下で測定した。
【0037】
(3)共重合率算出
本発明の製造方法により得られた共重合芳香族ポリエステル中の共重合率は、日本電子製JEOLA−600を用いて600MHzのH−NMRスペクトルを測定し、上記式(I)の芳香族ジオールに帰属するメチレン基を構成する水素原子(1分子あたり4(m+n)個=4p個とする。)のピーク面積をA、エチレングリコール中のメチレン基を構成する水素原子(1分子あたり4個)のピーク面積をB、ジエチレングリコール中のメチレン基を構成する水素原子(1分子あたり8個)のピーク面積をCとすると、
上記式(I)芳香族ジオールの共重合率は、
[A/4p]/([A/4p]+[B/4]+[C/8])=2A/(2A+2pB+pC)
で算出できる。同様にエチレングリコールの共重合率は、
2pB/(2A+2pB+pC)×100
で算出し、残りのジオール成分であると考えられるジエチレングリコールの共重合率は、100%からそれらの成分の共重合率を差し引いて算出した。
【0038】
(4)末端カルボキシル濃度(末端COOH)測定
共重合芳香族ポリエステルをベンジルアルコールに溶解して、0.1N−NaOHにて滴定した値であり、1×10g当たりのカルボキシル当量である。
【0039】
(5)流動性
共重合芳香族ポリエステルの流動性の指標としてメルトボリュームレート(MVR)を測定した。得られたペレットをISO 1133の規格に従い測定を行った。MVRの値が大きいほど流動性が良好で成形しやすく、逆にMVRの値が小さいほど流動性が悪く成形しにくいことを示す。
【0040】
(6)荷重たわみ温度測定
本発明により得られた共重合芳香族ポリエステルをISO 75の方法に従い測定を行った。
【0041】
(7)耐加水分解性
プレッシャークッカー槽と呼ばれる試験槽を使用して、成形品をその試験槽の中にて110℃×100時間処理し、その前後のIVを測定し、その保持率を算出した。
IV保持率(%)=(処理後のIV)/(処理前のIV)×100
IV保持率が95%以上のものを耐加水分解性良好と判断し○、90%以上95%未満のものを耐加水分解性がやや良好と判断し△、90%未満のものを耐加水分解性不良と判断し×とした。
【0042】
(8)溶融成形時の固有粘度の低下(ΔIV)測定
実施例1〜6、比較例1〜5で得られた共重合芳香族ポリエステルはシリンダ温度265℃、金型温度70℃に設定し、比較例6〜7で得られたポリエチレンナフタレートはシリンダ温度300℃、金型温度80℃で射出成形した。本条件で成形した成形品のIVを測定し下記式を用いてΔIVを算出した。
ΔIV=(チップのIV)−(成形品のIV)
【0043】
(9)含有元素濃度(P,Ge)
共重合ポリエステルの成形品から蛍光X線(理学製、Rataflex RU200)で定法により測定した。
【0044】
[実施例1]
2価ジカルボン酸として、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルを60重量部、2価ジオールとしてエチレングリコールを22重量部、さらには共重合成分として、ビスフェノールSエチレンオキサイド2分子付加体(上記式(II)で表される芳香族ジオール、以下同じ。)の含有量が99.1モル%、かつ3分子付加体(上記式(III)で表される芳香族ジオール、以下同じ。)の含有量が0.6モル%であるビスフェノールS誘導体(上記式(I)で表される芳香族ジオール、以下同じ。)を50重量部、エステル交換反応触媒として酢酸カルシウム一水塩を2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として20ミリモル%、酢酸マグネシウム四水塩を2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として50ミリモル%加え、0.08MPaの加圧下で反応温度が245℃となるように昇温しながらエステル交換反応を行った。反応温度が245℃になった時点で10分かけて系内を常圧に戻しさらに40分間反応を保持した。40分後に非晶性二酸化ゲルマニウムを2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として60ミリモル%加え、さらに15分後にトリメチルホスフェートを2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として70ミリモル%加えて反応させた。反応温度が250℃に到達した時点で反応生成物を重縮合反応槽移して重縮合反応を開始した。
【0045】
重縮合反応は常圧から0.133kPa(1Torr)まで50分掛けて徐々に減圧し、同時に所定の反応温度295℃まで昇温し、以降は所定の重合温度、0.133kPa(1Torr)の状態を維持して30分間重縮合反応を行った。
重縮合反応開始から180分間が経過した時点で重縮合反応を終了して共重合ポリエチレンナフタレートを抜き出し、固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基濃度、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、さらには流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度を測定し、その結果を表1に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ61ミリモル%、68ミリモル%であった。
【0046】
[実施例2]
リン化合物をホスホノ酢酸トリエチルに変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエチレンナフタレートを得た。得られた共重合ポリエチレンナフタレートの固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基濃度、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、さらには流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表1に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ60ミリモル%、70ミリモル%であった。
【0047】
[実施例3]
ビスフェノールSエチレンオキサイド2分子付加体の含有量を95.8モル%、3分子付加体の含有量を2.1モル%に変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエチレンナフタレートを得た。得られた共重合ポリエチレンナフタレートの固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基濃度、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、さらには流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表1に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ59ミリモル%、71ミリモル%であった。
【0048】
[実施例4]
リン化合物をホスホノ酢酸トリエチルに変更した以外は実施例3と同様にして共重合ポリエチレンナフタレートを得た。得られた共重合ポリエチレンナフタレートの固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基濃度、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、さらには流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表1に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン濃度はカルボン酸に対してそれぞれ58ミリモル%、67ミリモル%であった。
【0049】
[比較例1]
ビスフェノールSエチレンオキサイド2分子付加体の含有量を97.0モル%、3分子付加体の含有量を3.0モル%に変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエチレンナフタレートを得た。得られた共重合ポリエチレンナフタレートの固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基濃度、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、さらには流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表1に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ61ミリモル%、69ミリモル%であった。
【0050】
[比較例2]
リン化合物をホスホノ酢酸トリエチルに変更した以外は比較例1と同様にして共重合ポリエチレンナフタレートを得た。得られた共重合ポリエチレンナフタレートの固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、更には流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表1に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ59ミリモル%、70ミリモル%であった。
【0051】
[比較例3]
ビスフェノールSエチレンオキサイド2分子付加体の含有量を88.0モル%、3分子付加体の含有量を9.8モル%に変更した以外は比較例1と同様にして共重合ポリエチレンナフタレートを得た。得られた共重合ポリエチレンナフタレートの固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基濃度、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、さらには流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表1に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ62ミリモル%、68ミリモル%であった。
【0052】
【表1】
【0053】
[比較例4]
リン化合物をホスホノ酢酸トリエチルに変更した以外は比較例3と同様にして共重合ポリエチレンナフタレートを得た。得られた共重合ポリエチレンナフタレートの固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、更には流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表2に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ60ミリモル%、71ミリモル%であった。
【0054】
[比較例5]
2価ジカルボン酸として、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルを60重量部、2価ジオールとしてエチレングリコールを22重量部、さらには共重合成分として、ビスフェノールSエチレンオキサイド2分子付加体の含有量が99.1モル%、かつ3分子付加体の含有量が0.6モル%であるビスフェノールS誘導体を50重量部、エステル交換反応触媒として酢酸カルシウムと酢酸マグネシウムを2価ジカルボン酸のモル数に対して総量としてそれぞれ20、70ミリモル%加え、反応温度が220℃となるように昇温しながら常圧にてエステル交換反応を行った。反応温度が220℃になった時点から40分間反応を保持し、40分後に二酸化ゲルマニウムを2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として60ミリモル%加え、さらに15分後にトリメチルホスフェートを2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として70ミリモル%加えて反応させた。反応温度が240℃に到達した時点で反応生成物を重縮合反応槽移して重縮合反応を開始した。
【0055】
重縮合反応は常圧から0.133kPa(1Torr)まで50分掛けて徐々に減圧し、同時に所定の反応温度295まで昇温し、以降は所定の重合温度、0.133kPa(1Torr)の状態を維持して30分間重縮合反応を行った。
重縮合反応開始から180分間が経過した時点で重縮合反応を終了して共重合ポリエチレンナフタレートを抜き出し、固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基濃度、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、さらには流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表2に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ61ミリモル%、69ミリモル%であった。
【0056】
[比較例6]
リン化合物をホスホノ酢酸トリエチルに変更した以外は比較例5と同様にして共重合ポリエチレンナフタレートを得た。得られた共重合ポリエチレンナフタレートの固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、更には流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表2に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ58ミリモル%、72ミリモル%であった。
【0057】
[比較例7]
ビスフェノールSエチレンオキサイド2分子付加体の含有量を97.0モル%、3分子付加体の含有量を3.0モル%に変更した以外は比較例5と同様にして共重合ポリエチレンナフタレートを得た。得られた共重合ポリエチレンナフタレートの固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基濃度、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、さらには流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表2に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ59ミリモル%、68ミリモル%であった。
【0058】
[比較例8]
リン化合物をホスホノ酢酸トリエチルに変更した以外は比較例7と同様にして共重合ポリエチレンナフタレートを得た。得られた共重合ポリエチレンナフタレートの固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、更には流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表2に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ61ミリモル%、70ミリモル%であった。
【0059】
[比較例9]
ビスフェノールSエチレンオキサイド2分子付加体の含有量を88.0モル%、3分子付加体の含有量を9.8モル%に変更した以外は比較例5と同様にして共重合ポリエチレンナフタレートを得た。得られた共重合ポリエチレンナフタレートの固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基濃度、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、さらには流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表2に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ58ミリモル%、69ミリモル%であった。
【0060】
[比較例10]
リン化合物をホスホノ酢酸トリエチルに変更した以外は比較例9と同様にして共重合ポリエチレンナフタレートを得た。得られた共重合ポリエチレンナフタレートの固有粘度、ガラス転移温度、末端カルボキシル基、共重合率、含有されているリン元素濃度・ゲルマニウム元素濃度を測定し、更には流動性、成形品の固有粘度、荷重たわみ温度、耐加水分解性を評価し、その結果を表2に示した。なお測定の結果、共重合ポリエチレンナフタレート中のゲルマニウム元素濃度、リン元素濃度はカルボン酸に対してそれぞれ60ミリモル%、69ミリモル%であった。
【0061】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により得られる共重合ポリエチレンナフタレートは押出成形や射出成形時の分子量低下が低く、荷重たわみ温度(HDT)評価等による耐熱性、溶融成形のしやすさの指標となる流動性、耐沸水性等の耐加水分解性に優れている。また、人体に悪影響を及ぼす物質(特に内分泌かく乱作用を表す物質)を使用していないため、食品容器材料(特に給食食器など)や医療用材料に好適に用いることができ、その工業上の意義は大きい。