(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918069
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】ベルト取付治具
(51)【国際特許分類】
F16H 7/24 20060101AFI20160428BHJP
【FI】
F16H7/24
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-171753(P2012-171753)
(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-31817(P2014-31817A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 康人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 雄司
【審査官】
小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−008115(JP,A)
【文献】
特開昭54−093756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/00− 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの軸間距離が全て固定された状態の複数のプーリ間にベルトを取り付ける際に使用され、
前記複数のプーリのうちの1つのプーリを最後に残して他のプーリに巻き掛けたベルトに張力を付与して、前記残した最後のプーリを回転させながら、その外周面にベルトを巻き掛けるベルト取付治具において、
前記最後のプーリの一方の側面側に沿わせて設置される本体部と、
前記本体部に設けられ、前記他のプーリに巻き掛けたベルトを巻き掛けて保持し、前記最後のプーリの外周面に導くベルト保持部と、
前記本体部を前記最後のプーリに固定する固定手段とを備え、
前記固定手段を、前記最後のプーリの中心軸が隙間を開けて嵌挿される貫通孔と、前記ベルト保持部に対して、前記最後のプーリの回転方向側または回転方向反対側の位置で、前記最後のプーリの外周面に当接可能とした支点部とを設けて、前記ベルト保持部に保持されるベルトの張力で前記本体部を前記最後のプーリの回転方向と反対側へ傾倒させ、前記貫通孔を前記中心軸に係止するとともに、前記支点部を前記最後のプーリの外周面に当接させるものに構成し、前記最後のプーリの回転方向と反対側へ傾倒する前記本体部がプーリの回転方向にロックされるようにしたことを特徴とするベルト取付治具。
【請求項2】
前記本体部に、前記最後のプーリの外周側へ張り出して周方向へ円弧状に延びる壁部を設け、前記支点部を前記壁部の内周面から突出させるように設けた請求項1に記載のベルト取付治具。
【請求項3】
前記本体部を前記最後のプーリの一方の側面に沿う板状のものとし、前記ベルト保持部を、前記本体部の一方の面から突出するように形成した請求項1または2に記載のベルト取付治具。
【請求項4】
前記ベルト保持部を、前記最後のプーリのプーリ中心側からプーリ外径側へ、前記最後のプーリの回転方向側へ凸状となるように曲面状または多角面状に延び、前記プーリ外径側の端部で前記最後のプーリの外周面の接線方向を向くものとし、
前記他のプーリに巻き掛けたベルトを前記ベルト保持部の中心側の領域に部分的に巻き掛けて保持し、前記最後のプーリの回転に伴って、前記ベルト保持部に部分的に巻き掛けて保持したベルトの保持領域を前記プーリ外径側へ移動させ、前記最後のプーリの外周面の接線方向を向く前記プーリ外径側の端部から、前記ベルト保持部に巻き掛けて保持したベルトを前記最後のプーリの外周面に導くようにした請求項1乃至3のいずれかに記載のベルト取付治具。
【請求項5】
互いの軸間距離が全て固定された状態の複数のプーリ間にベルトを取り付ける際に使用され、
前記複数のプーリのうちの1つのプーリを最後に残して他のプーリに巻き掛けたベルトに張力を付与して、前記残した最後のプーリを回転させながら、その外周面にベルトを巻き掛けるベルト取付治具において、
前記最後のプーリの一方の側面側に沿わせて設置される本体部と、
前記本体部に設けられ、前記他のプーリに巻き掛けたベルトを巻き掛けて保持し、前記最後のプーリの外周面に導くベルト保持部と、
前記本体部を前記最後のプーリに固定する固定手段とを備え、
前記固定手段を、前記最後のプーリの中心軸が隙間を開けて嵌挿される貫通孔と、前記ベルト保持部に対して、前記最後のプーリの回転方向側または回転方向反対側の位置で、前記最後のプーリの外周面に当接可能とした支点部とを設けて、前記ベルト保持部に保持されるベルトの張力で前記本体部を前記最後のプーリの回転方向と反対側へ傾倒させ、前記貫通孔を前記中心軸に係止するとともに、前記支点部を前記最後のプーリの外周面に当接させるものとし、
前記本体部を前記最後のプーリの一方の側面に沿う板状のものとし、前記ベルト保持部を、前記本体部の一方の面から突出するように形成したことを特徴とするベルト取付治具。
【請求項6】
前記本体部に、前記最後のプーリの外周側へ張り出して周方向へ円弧状に延びる壁部を設け、前記支点部を前記壁部の内周面から突出させるように設けた請求項5に記載のベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸間距離が固定された状態の複数のプーリ間にベルト(伝動ベルト)を取り付けるためのベルト取付治具に関する。
【背景技術】
【0002】
軸心位置を調整可能なテンションプーリ等がなく、互いの軸間距離が全て固定された状態の複数のプーリ間に、これらのプーリ間の周回長よりも短い周長のベルトを取り付ける際には、1つのプーリを最後に残して他のプーリにベルトを先に巻き掛け、他のプーリに巻き掛けたベルトに張力を付与して、残した最後のプーリを回転させながら、その外周面にベルトを巻き掛けるベルト取付治具が用いられている。
【0003】
この種のベルト取付治具には、外周面にプーリ溝を有する2つのプーリを対象として、最後のプーリに固定する固定手段と、プーリ溝に嵌るまでのベルトの一部を受けて、プーリフランジの近傍かつプーリ軸方向外側に保持する保持面とを設け、保持面に保持したベルトを最後のプーリの外周面に導くようにしたものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
特許文献1に記載されたベルト取付治具60は、
図6(a)に示すように、ベルトの保持面61を設けた表片60aと裏片60bとが半径方向で対向するU字形の断面形状になっている。これをプーリ溝51を形成した外周部52の内周側に凹部53を有する最後のプーリ50に装着したときに、表片60aをプーリ溝51の外周側へ、裏片60bを内周側の凹部53へそれぞれ張り出させる状態になる。そして、
図6(b)に示すように、保持面61に保持されるベルトの張力によって、ベルト取付治具60がプーリ50の軸方向外方へ傾動し、表片60aと裏片60bとで外周部52に挟着されて、プーリ50に固定されるようになっている。
【0005】
特許文献2に記載されたベルト取付治具70は、
図7に示すように、最後のプーリ50のボス部54に外嵌される長穴の取付穴71と、ベルトVの保持面72からプーリフランジ55を跨いでプーリ溝56に嵌るように突出する突出片73とを設けている。取付穴71がボス部54に外嵌された状態で突出片73がプーリフランジ55を跨いだベルト取付治具70を、保持面72に保持されるベルトVの張力によって、プーリ50の中心側へ半径方向に直線移動させ、ボス部54に当接される取付穴71でプーリ軸に直行する方向の移動を規制するとともに、プーリフランジ55を跨ぐ突出片73でプーリ軸方向への抜け出しを阻止して、プーリ50に固定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−300172号公報
【特許文献2】特開2009−8115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に記載されたベルト取付治具の固定手段は、保持面に保持されるベルトの張力によって、ベルト取付治具をプーリの軸方向に傾動させるか、プーリの半径方向に直線移動させて、最後のプーリに固定するようにしているので、プーリの回転方向への移動に対する拘束は、ベルト張力によるプーリへの押圧力に起因するプーリとの摩擦力に依存している。このため、2つのプーリ間にベルトを取り付ける場合は、各プーリへのベルト巻き付き角度が大きくなり、ベルト張力によるプーリへの押圧力も大きくなって、プーリとの摩擦力を大きく確保できるが、3つのプーリ間にベルトを取り付ける場合は、各プーリへのベルト巻き付き角度が小さくなり、ベルト張力によるプーリへの押圧力も小さくなって、プーリとの摩擦力を十分に確保できず、プーリを回転させたときに、ベルト取付治具がプーリと一体に回転せずにプーリが空転して、ベルトを最後のプーリの外周面に導くことができない恐れがある。
【0008】
さらに、特許文献1に記載されたベルト取付治具は、プーリに固定するときにプーリの軸方向外方へ傾動するので、表片に設けられた保持面も同じ軸方向外方へ傾斜し、保持面に保持されるベルトがプーリの回転に伴って脱落する恐れもある。また、特許文献2に記載されたベルト取付治具は、突出片がプーリフランジを跨いだベルト取付治具をプーリの中心側へ半径方向に直線移動させて突出片をプーリ溝の外周面に当接させるときに、突出片の内径面と取付穴の突出片側の内径面間の寸法が、プーリ溝の外周面とプーリのボス部間の寸法と精度よく合致していないと、プーリのボス部が取付穴にうまく当接されず、がたつきが生じる恐れもある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、3つのプーリ間にベルトを取り付ける場合でもプーリと一体回転するように固定でき、かつ、ベルトを最後のプーリに安定して巻き掛けることができるベルト取付治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、互いの軸間距離が全て固定された状態の複数のプーリ間にベルトを取り付ける際に使用され、前記複数のプーリのうちの1つのプーリを最後に残して他のプーリに巻き掛けたベルトに張力を付与して、前記残した最後のプーリを回転させながら、その外周面にベルトを巻き掛けるベルト取付治具において、前記最後のプーリの一方の側面側に沿わせて設置される本体部と、前記本体部に設けられ、前記他のプーリに巻き掛けたベルトを巻き掛けて保持し、前記最後のプーリの外周面に導くベルト保持部と、前記本体部を前記最後のプーリに固定する固定手段とを備え、前記固定手段を、前記最後のプーリの中心軸が隙間を開けて嵌挿される貫通孔と、前記ベルト保持部に対して、前記最後のプーリの回転方向側または回転方向反対側の位置で、前記最後のプーリの外周面に当接可能とした支点部とを設けて、前記ベルト保持部に保持されるベルトの張力で前記本体部を前記最後のプーリの回転方向と反対側へ傾倒させ、前記貫通孔を前記中心軸に係止するとともに、前記支点部を前記最後のプーリの外周面に当接させるものとした構成を採用した。
【0011】
すなわち、前記本体部を最後のプーリに固定する固定手段は、最後のプーリの中心軸が隙間を開けて嵌挿される貫通孔と、ベルト保持部に対して、最後のプーリの回転方向側または回転方向反対側の位置で、最後のプーリの外周面に当接可能とした支点部とで構成されている。この固定手段をベルト保持部に保持されるベルトの張力で本体部を最後のプーリの回転方向と反対側へ傾倒させ、貫通孔を中心軸に係止するとともに、支点部を最後のプーリの外周面に当接させるものとすることにより、ベルトの張力でプーリの回転方向と反対側へ傾倒する本体部が、プーリの回転方向にロックされる。これにより、とりわけベルト張力によるプーリへの押圧力が小さくなる3つのプーリ間にベルトを取り付ける場合でも、ベルト取付治具をプーリと一体回転するように固定できるようにするとともに、ベルト保持部がプーリの軸方向に傾斜したり、がたついたりしないようにして、ベルトを最後のプーリに安定して巻き掛けることができるようにした。
【0012】
前記本体部に、前記最後のプーリの外周側へ張り出して周方向へ円弧状に延びる壁部を設け、前記支点部を前記壁部の内周面から突出させるように設けることにより、支点部を簡単に設けることができる。
【0013】
前記本体部を前記最後のプーリの一方の側面に沿う板状のものとし、前記ベルト保持部を、前記本体部の一方の面から突出するように形成することにより、ベルト取付治具を板状の素材から容易に成形することができる。
【0014】
前記ベルト保持部を、前記最後のプーリのプーリ中心側からプーリ外径側へ、前記最後のプーリの回転方向側へ凸状となるように曲面状または多角面状に延び、前記プーリ外径側の端部で前記最後のプーリの外周面の接線方向を向くものとし、前記他のプーリに巻き掛けたベルトを前記ベルト保持部のプーリ中心側の領域に部分的に巻き掛けて保持し、前記最後のプーリの回転に伴って、前記ベルト保持部に部分的に巻き掛けて保持したベルトの保持領域を前記プーリ外径側へ移動させ、前記最後のプーリの外周面の接線方向を向く前記プーリ外径側の端部から、前記ベルト保持部に巻き掛けて保持したベルトを前記最後のプーリの外周面に導くことにより、ベルトをベルト取付治具に巻き掛ける際の初期伸張長さを短くして、この巻き掛け初期に必要なベルトの伸張力を小さくし、ベルト取付治具へのベルトの初期巻き掛け作業を容易にすることができるとともに、巻き掛け過程の各段階でベルト張力の合力と釣り合う力の方向があまり変化しないようにして、3つのプーリ間にベルトを取り付ける場合でも、ベルトを伸張させる力の作用効率を高めて、ベルトを伸張させる力を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るベルト取付治具は、前記本体部を最後のプーリに固定する固定手段を、最後のプーリの中心軸が隙間を開けて嵌挿される貫通孔と、ベルト保持部に対して、最後のプーリの回転方向側または回転方向反対側の位置で、最後のプーリの外周面に当接可能とした支点部とを設けて、ベルト保持部に保持されるベルトの張力で本体部を最後のプーリの回転方向と反対側へ傾倒させ、貫通孔を中心軸に係止するとともに、支点部を最後のプーリの外周面に当接させるものとし、ベルトの張力で最後のプーリの回転方向と反対側へ傾倒する本体部が、最後のプーリの回転方向にロックされるようになっている。このため、3つのプーリ間にベルトを取り付ける場合でも、ベルト取付治具をプーリと一体回転するように固定できるとともに、ベルトを最後のプーリに安定して巻き掛けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は第1の実施形態のベルト取付治具の正面図、(b)は(a)のIb−Ib線に沿った断面図
【
図2】(a)は
図1のベルト取付治具を3つのプーリの最後のプーリに装着した状態を示す正面図、(b)は(a)のベルト取付治具のベルト保持部にベルトを最初に巻き掛けた状態を示す正面図
【
図3】(a)〜(e)は、
図2の最後のプーリにベルトを巻き掛ける各過程を示す正面図
【
図4】(a)は第2の実施形態のベルト取付治具の正面図、(b)は(a)のIVb−IVb線に沿った断面図
【
図5】(a)は
図4のベルト取付治具を3つのプーリの最後のプーリに装着した状態を示す正面図、(b)は(a)のベルト取付治具のベルト保持部にベルトを最初に巻き掛けた状態を示す正面図
【
図6】(a)、(b)は、従来のベルト取付治具のプーリへの固定手段を説明する断面図
【
図7】他の従来のベルト取付治具のプーリへの固定手段を説明する断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。
図1乃至
図3は、第1の実施形態を示す。このベルト取付治具1は、
図1(a)、(b)に示すように、略扇形の板状の本体部2が、後述する最後のプーリP
1の一方の側面側に設置される。板状の本体部2の中心部には、プーリP
1の中心軸となるセンターボルト3が隙間を開けて嵌挿される円形の貫通孔4が設けられ、プーリP
1に固定する固定手段の一部を形成している。センターボルト3と貫通孔4の隙間Lは、ベルト取付治具1の過剰ながたつきをなくすために、5mm以下とすることが好ましい。
【0018】
前記本体部1には、その前面から突出するように、プーリP
1中心側からプーリP
1外径側へ延び、
図1(a)に矢印で示すプーリP
1の回転方向側へ凸状となるベルト保持部5が設けられている。このベルト保持部5は、本体部2の中心部に近いプーリP
1中心側の領域は円弧曲線の曲面で形成され、プーリP
1外径側の領域はインボリュート曲線の曲面で形成されており、プーリP
1外径側の端部でプーリP
1の外周面の接線方向を向いている。
【0019】
また、本体部2の扇形の外周円弧部には、背面側のプーリP
1の外周側へ張り出す円弧状の壁部6が設けられ、この壁部6の内周面から突出する支点部7が、ベルト保持部5に対してプーリP
1の回転方向側の位置に設けられ、プーリP
1への固定手段の一部を形成している。この支点部7とプーリP
1の外周面との隙間Mは、前記センターボルト3と貫通孔4の隙間Lよりも小さくする必要がある。これは、後述するようにベルト張力でベルト取付治具1が傾倒するときに、小さい傾倒角度で支点部7をプーリP
1の外周面に当接させるためである。
【0020】
図2(a)は、前記ベルト取付治具1を、互いの軸間距離が全て固定された3つのプーリP
1、P
2、P
3のうちの、ベルトVを巻き掛ける最後のプーリP
1に装着した状態を示す。この状態では、プーリP
1のセンターボルト3が貫通孔4に隙間を開けて嵌挿され、プーリP
1の外周に沿って円弧状に延びる壁部6の内周面に設けられた支点部7が、ベルト保持部5に対してプーリP
1の回転方向側の位置で、プーリP
1の外周面に向かって突出している。
【0021】
前記各プーリP
1、P
2、P
3は外周面にプーリ溝を有し、ベルトVはこれらのプーリ溝に巻き掛けられるVリブドベルトとされており、ベルトVは先に他の2つのプーリP
2、P
3に巻き掛けられている。この実施形態では、各プーリP
1、P
2、P
3の外径が、例えば、それぞれ120mmφ、100mmφ、50mmφとされ、プーリP
1、P
2間、プーリP
2、P
3間およびプーリP
3、P
1間の軸間距離が全て固定されている。
【0022】
図2(b)は、前記2つのプーリP
2、P
3に巻き掛けたベルトVに張力を付与して、プーリP
1に装着したベルト取付治具1のベルト保持部5に巻き掛けたときの状態を示す。この状態では、ベルト保持部5に巻き掛けたベルトVの張力によって、ベルト取付治具1がプーリP
1の回転方向と反対方向へ自然に傾倒し、固定手段となる貫通孔4がセンターボルト3に係止されるとともに、固定手段となる支点部7がプーリP
1の外周面にベルト保持部5に対してプーリP
1の回転方向側の位置で当接されて、傾倒した本体部2がプーリP
1の回転方向にロックされるように固定される。したがって、プーリP
1を回転させたときに、ベルト取付治具1はプーリP
1と一体に回転し、プーリP
1が空転することはない。
【0023】
図3(a)〜(e)は、上述したベルト取付治具1を用いて、他の2つのプーリP
2、P
3に巻き掛けたベルトVを最後のプーリP
1に巻き掛ける手順を示す。
図3(a)は、上述したベルト取付治具1をプーリP
1に固定した直後の状態であり、ベルトVはベルト保持部5のプーリP
1中心側の領域に部分的に巻き掛けられて保持されている。したがって、巻き掛け初期に必要なベルトVの伸張力を小さくして、ベルト取付治具1へのベルトの初期巻き掛け作業を容易にすることができる。
【0024】
こののち、図中に矢印で示すように、プーリP
1が時計回りに回転すると、
図3(b)、(c)に示すように、ベルト保持部5に部分的に巻き掛けられたベルトVの保持領域は、プーリP
1外径側へ移動する。このとき、ベルト保持部5に作用するベルト張力Tの合力と釣り合う力Fの方向は、
図3(a)の状態から変化せず、同じ方向を向くように保たれる。これは、プーリP
1外径側のインボリュート曲線のベルト保持部5では、ベルト張力Tの合力と釣り合う力Fの方向はインボリュート曲線の法線方向となり、ベルト取付治具1がプーリP
1と一緒に回転しても、常に同じ方向を向くからである。したがって、3つのプーリP
1、P
2、P
3間にベルトVを取り付ける場合でも、ベルト巻き掛け過程の各段階でベルトVを伸張する力の方向を前記釣り合う力Fの方向と一致させて、ベルトVを伸張する力の作用効率を高め、ベルトを伸張させる力を小さくすることができる。
【0025】
こののち、プーリP
1がさらに回転すると、
図3(d)に示すように、ベルト保持部5に巻き掛けられて保持されたベルトVが、プーリP
1の外周面の接線方向を向くプーリP
1外径側の端部から順次プーリP
1の外周面に導かれ、
図3(e)に示すように、ベルト保持部5に保持されたベルトVが全てプーリP
1の外周面に巻き掛けられて、ベルト取付作業が終了する。
【0026】
図4および
図5は、第2の実施形態を示す。このベルト取付治具1は、基本的な構成は第1の実施形態のものと同じであり、
図4(a)、(b)に示すように、前記壁部6の内周面から突出する支点部7が、ベルト保持部5に対してプーリP
1の回転方向反対側の位置に設けられている点と、ベルト保持部5の形状とが異なる。このベルト保持部5は、プーリP
1中心側の領域が直線の平面で形成され、プーリP
1外径側の領域は、第1の実施形態のものと同様に、インボリュート曲線の曲面で形成されて、プーリP
1外径側の端部でプーリP
1の外周面の接線方向を向いている。
【0027】
図5(a)は、前記ベルト取付治具1を、第1の実施形態のものと同様の3つのプーリP
1、P
2、P
3のうちの、ベルトVを巻き掛ける最後のプーリP
1に装着した状態を示す。この状態では、プーリP
1のセンターボルト3が貫通孔4に隙間を開けて嵌挿され、プーリP
1の外周に沿って円弧状に延びる壁部6に設けられた支点部7が、ベルト保持部5に対してプーリP
1の回転方向反対側の位置でプーリP
1の外周面に向かって突出している。
【0028】
図5(b)は、他の2つのプーリP
2、P
3に巻き掛けたベルトVに張力を付与して、プーリP
1に装着したベルト取付治具1のベルト保持部5に巻き掛けたときの状態を示す。この状態では、ベルト保持部5に巻き掛けたベルトVの張力によって、ベルト取付治具1が、第1の実施形態のものと同様に、プーリP
1の回転方向と反対方向へ自然に傾倒し、貫通孔4がセンターボルト3に係止されるとともに、支点部7がプーリP
1の外周面にベルト保持部5に対してプーリP
1の回転方向反対側の位置で当接されて、傾倒した本体部2がプーリP
1の回転方向にロックされるように固定される。
【0029】
図示は省略するが、第2の実施形態のベルト取付治具1を用いて、他の2つのプーリP
2、P
3に巻き掛けたベルトVを最後のプーリP
1に巻き掛ける手順は、
図3(a)〜(e)に示した第1の実施形態のものと同じである。
【0030】
上述した各実施形態では、扇形の本体部の外周円弧部に、最後のプーリの外周側へ張り出す円弧状の壁部を設け、プーリの外周面に当接される支点部を壁部の内周面から突出させるようにしたが、支点部はベルト保持部に対してプーリの回転方向側または回転方向反対側の位置でプーリの外周面に当接可能なものであればよく、例えば、本体部の外周部から、ベルト保持部に対してプーリの回転方向側または回転方向反対側の位置で、プーリの外周側へアーム状に張り出すものとすることもできる。
【0031】
上述した各実施形態では、ベルト保持部の一部の領域であるプーリ外径側の領域を、インボリュート曲線の曲面で形成したが、全領域をインボリュート曲線の曲面で形成することもできる。また、ベルト保持部は最後のプーリの回転方向側へ凸状となるように中心側から外径側へ延びるものであればよく、楕円等の他の曲面や多角面で形成することもできる。
【0032】
上述した各実施形態では、固定手段となる貫通孔を円形としたが、貫通孔はセンターボルトが隙間を開けて嵌挿されるものであればよく、多角形や長円形等としてもよい。また、センターボルトに延長用の筒状等の補助工具を取り付け、この補助工具を貫通孔に隙間を開けて嵌挿するようにしてもよい。
【0033】
上述した各実施形態では、ベルト取付治具を外周面にプーリ溝を有する3つのプーリ間にベルトを取り付けるのに用いたが、本発明に係るベルト取付治具は、2つのプーリ間や4つ以上のプーリ間にベルトを取り付けるのに用いることもできる。また、本発明に係るベルト取付治具は、プーリ溝のない外周面が平坦なプーリにベルトを取り付ける際にも用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 ベルト取付治具
2 本体部
3 センターボルト
4 貫通孔(固定手段)
5 ベルト保持部
6 壁部
7 支点部(固定手段)