特許第5918174号(P5918174)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918174
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】骨セメント様ペースト
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/00 20060101AFI20160428BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20160428BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   A61L27/00 F
   A61L27/00 H
   A61K47/32
   A61K47/02
【請求項の数】22
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-142689(P2013-142689)
(22)【出願日】2013年7月8日
(65)【公開番号】特開2014-50675(P2014-50675A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2013年9月24日
(31)【優先権主張番号】10 2012 014 702.3
(32)【優先日】2012年7月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510340506
【氏名又は名称】ヘレウス メディカル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】フォクト セバスティアン
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−189363(JP,A)
【文献】 特開2009−101159(JP,A)
【文献】 特開2008−264556(JP,A)
【文献】 特開2008−036438(JP,A)
【文献】 特開2012−005829(JP,A)
【文献】 特表2004−528950(JP,A)
【文献】 特開2012−085857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00
A61K 47/02
A61K 47/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペーストAおよびペーストBを含むキットであって、
(a)ペーストAが、
(a1)ラジカル重合用の少なくとも1つのモノマー;
(a2)(a1)に溶解性の少なくとも1つのポリマー;および
(a3)少なくとも1つの重合開始剤;
を含み、
(b)ペーストBが、
(b1)ラジカル重合用の少なくとも1つのモノマー;
(b2)(b1)に溶解性の少なくとも1つのポリマー;および
(b3)少なくとも1つの重合促進剤;
を含み、
ペーストAおよびBのうちの少なくとも1つが、成分(a4)および/または(b4)として、それぞれ、(a1)および/または(b1)のそれぞれに難溶性または不溶性である少なくとも1つの充填剤を含み、前記充填剤が、以下の特性i)、ii)およびiii)を含む粒子状無機カルシウム塩であり、
ペーストAが、充填剤(a4)をペーストAの総重量に対して20〜70重量%含み、およびペーストBが、充填剤(b4)をペーストBの総重量に対して5重量%未満含み、かつ
ペーストAおよびBを混合して製造されるペーストCが0.5〜25.0重量%の範囲の量の充填剤を含むように、ペーストAおよび/またはBが充填剤(a4)および/または(b4)を適切な量含む、キット。
i)少なくとも90重量%の前記粒子状無機カルシウム塩が、ふるい分析手段により決定した63μm未満の粒径を有し、
ii)前記粒子状無機カルシウム塩の20℃での水溶性は、1リットルあたり8.5g未満であり、
iii)前記粒子状無機カルシウム塩が、炭酸カルシウム、苦灰石(ドロマイト)、硫酸カルシウム二水和物、およびこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される。
【請求項2】
溶解性の前記ポリマーが、ポリ(メタクリル酸メチルエステル)、ポリ(メタクリル酸エチルエステル)、ポリ(メチルメタクリル酸プロピルエステル)、ポリ(メタクリル酸イソプロピルエステル)、ポリ(メチルメタクリレート−co−メチルアクリレート)、ポリ(スチレン−co−メチルメタクリレート)および前記ポリマーの少なくとも2つの混合物からなる群から選択される請求項1に記載のキット
【請求項3】
前記充填剤が、以下の特性i)およびii)を含む、請求項1または請求項2に記載のキット
i)少なくとも90重量%の粒子状無機カルシウム塩が、ふるい分析手段により決定した20μm未満の粒径を有し、
ii)粒子状無機カルシウム塩の20℃での水溶性は、1リットルあたり5g未満である。
【請求項4】
前記粒子状無機カルシウム塩が炭酸カルシウムである、請求項1〜のいずれか1項に記載のキット
【請求項5】
ラジカル重合用モノマーが、メタクリル酸エステルである、請求項1〜のいずれか1項に記載のキット
【請求項6】
ラジカル重合用モノマー(a1)および/または(b1)がメタクリル酸エステルである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のキット。
【請求項7】
少なくとも1つの重合開始剤(a3)は、バルビツール酸および過酸化物の群から選択される、請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項8】
少なくとも1つの重合開始剤(a3)が、クメンヒドロペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、およびこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される、請求項に記載のキット。
【請求項9】
ペーストAが、ペーストAの総重量に対して0.01〜10重量%の範囲の量の少なくとも1つの重合開始剤(a3)を含む、請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
少なくとも1つの重合促進剤(b3)が、重金属塩および重金属錯体からなる群から選択される少なくとも1つの重金属化合物である、請求項のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
前記重金属化合物が、水酸化銅(II)、メタクリレート銅(II)、アセチルアセトナト銅(II)、2−エチルヘキサン酸銅(II)、水酸化コバルト(II)、2−エチルヘキサン酸コバルト(II)、ベーシック炭酸銅(II)、2−エチルヘキサン酸鉄(II)、2−エチルヘキサン酸鉄(III)、およびこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
ペーストBが、ペーストBの総重量に対して、0.0005〜0.5重量%の範囲の量の重合促進剤(b3)を含む、請求項10または11に記載のキット。
【請求項13】
少なくとも1つの重合促進剤(b3)が、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビスヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化リチウム、サッカリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、および1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド、およびピロメリット酸ジイミドならびにこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの重合促進剤(b3)である、請求項12のいずれか1項に記載のキット。
【請求項14】
ペーストBが、ペーストBの総重量に対して、0.1〜10重量%の範囲の量の重合促進剤(b3)を含む、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
ペーストBが、重合促進剤(b3)として、重金属塩とN,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビスヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化リチウム、サッカリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、および1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド、およびピロメリット酸ジイミドからなる群の少なくとも1つの混合物である、請求項14のいずれか1項に記載のキット。
【請求項16】
ペーストAが、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビスヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン、およびこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの重合共促進剤(a5)を含む、請求項15のいずれか1項に記載のキット。
【請求項17】
ペーストAが、ペーストAの総重量に対して、0.1〜10重量%の範囲の量の少なくとも1つの重合共促進剤(a5)を含む、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
ペーストAおよびペーストBが、各ペーストAおよび/またはペーストBのそれぞれの総重量に対して、15〜85重量%の範囲の量のラジカル重合用の少なくとも1つのモノマー(a1)および/または(b1)を含む、請求項17のいずれか1項に記載のキット。
【請求項19】
(a1)および/または(b1)に溶解性のポリマー(a3)および/または(b3)が、それぞれポリ(メタクリル酸メチルエステル)、ポリ(メタクリル酸エチルエステル)、ポリ(メチルメタクリル酸プロピルエステル)、ポリ(メタクリル酸イソプロピルエステル)、ポリ(メチルメタクリレート−co−メチルアクリレート)、ポリ(スチレン−co−メチルメタクリレート)、および前記ポリマーの少なくとも2つの混合物からなる群から選択される、請求項18のいずれか1項に記載のキット。
【請求項20】
ペーストAが、ペーストAの総重量に対して、1〜25重量%の範囲の量で(a1)に溶解性のポリマー(a2)を含み、およびペーストBが、ペーストBの総重量に対して、25〜85重量%の範囲の量で(b1)に溶解性のポリマー(b2)を含む、請求項1〜19のいずれか1項に記載のキット。
【請求項21】
関節の内部人工器官の機械的固定用、頭蓋骨欠陥の被覆用、骨空洞の充填用、大腿骨形成術用、椎体形成術用、椎骨形成術用、スペーサ製造用または局所的抗生物質治療用の担体材料の製造のための請求項20のいずれか1項に記載のキットから製造されるペーストの使用。
【請求項22】
求項20のいずれか1項に定義されるキットから製造されるペーストの重合により得られ得る形成体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節の内部人工器官の機械的固定のための、頭蓋骨欠陥の被覆のための、骨空洞を充填するための、大腿骨形成術(femuroplasty)のための、椎体形成術のための、椎骨形成術のための、スペーサの製造のための、または局所的な抗生物質療法のための担体材料の製造のためのペーストを製造するためのペースト、キット、ペーストの使用、キットから製造されたペーストの使用、
および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のポリメチルメタクリレート骨セメント(PMMA骨セメント)は数十年にわたって知られており、Charnley卿の基礎研究(非特許文献1)を基礎としている。そのPMMA骨セメントの基本構造は、そのとき以来同じままである。PMMA骨セメントは、液体モノマー成分および粉末成分からなる。このモノマー成分は、一般に、(i)モノマーであるメチルメタクリレート、および(ii)このモノマーに溶解された活性化剤(例えばN,N−ジメチル−p−トルイジン)を含有する。上記粉末成分は、(i)メチルメタクリレートおよびコモノマー(スチレン、メタクリル酸エステルまたは類似のモノマーなど)に基づいて、重合、好ましくは懸濁重合により製造される1以上のポリマー、(ii)放射線不透過性物質、および(iii)開始剤(例えばジベンゾイルペルオキシド)を含む。この粉末成分が上記モノマー成分と混合されると、メチルメタクリレートの中でのこの粉末成分のポリマーの膨潤に起因して、塑性変形できる生地が製造される。同時に、活性化剤であるN,N−ジメチル−p−トルイジンはこのジベンゾイルペルオキシドと反応し、このジベンゾイルペルオキシドは、このプロセスで、ラジカルの形成を伴って分解する。形成されたラジカルはメチルメタクリレートのラジカル重合を開始する。このメチルメタクリレートの重合の進行に伴って、当該セメント生地の粘度は、このセメント生地が固化しそして硬化するまで、上昇する。
【0003】
医療関係の使用者にとってのこれまでのPMMA骨セメントの著しい不都合は、使用者は、その液体モノマー成分を、そのセメントの施用の直前に混合システムの中またはるつぼの中で粉末成分と混合しなければならないということにある。このプロセスにおいて、混合のエラーが容易に起こる可能性があり、これが起こるとそのセメントの品質に悪影響を及ぼしかねない。さらに、これらの成分は迅速に混合される必要がある。この場合、セメント粉末全体が集塊の形成なしに当該モノマー成分と混合されること、およびその混合プロセスの間に気泡の入り込みが回避されることが重要である。真空混合システムを用いると、手による混合とは対照的に、セメント生地の中での気泡の形成はほぼ防止される。混合システムの例は、特許文献1、特許文献2、および特許文献3に開示されている。しかしながら、真空混合システムは付加的な真空ポンプが必要となり、それゆえ相対的に費用がかかる。さらには、そのモノマー成分を粉末成分と混合した後、関与するセメントの種類によっては、そのセメント生地が不粘着性であり施用することができるようになるまで、ある程度の待ち時間が必要とされる。従来のPMMA骨セメントの混合の際に非常に様々なエラーが起こり得るため、この目的のために適切に訓練された人材も必要とされる。この対応する訓練には、かなりのコストが伴う。さらには、上記液体モノマー成分と上記粉末成分との混合は、モノマー蒸気、および粉末状セメントから放出される粒子に使用者が曝露されることにつながる。
【0004】
ラジカル重合用のメタクリレートモノマーを含むペースト様ポリメチルメタクリレート骨セメント、当該メタクリレートモノマーに溶解性のポリマーおよび当該メタクリレートモノマーに不溶性の微粒子ポリマーが、従来の粉末−液体ポリメチルメタクリレート骨セメントに代わるものとして、未審査の独国特許出願の特許文献4、特許文献5、および特許文献6に記載されている。この種のペースト様ポリメチルメタクリレート骨セメントは、一成分系(この場合、このペーストは、硬化のために必要とされるすべての成分、特に活性化可能なラジカル開始剤、例えば光開始剤または光開始剤系を含有する)として、または二成分系(この場合、この系は、保存時に安定である2つの予め混合されたペーストを含み、これらのペーストのうちの1つはラジカル重合開始剤を含有し、一方で、他方のペーストは重合活性化剤を含む)として存在することができる。二成分系に言及する際、「対称系」(この場合、両方のペーストが、メタクリレートモノマーに不溶性である微粒子ポリマーを含有する)と「非対称系」(この場合、2つのペーストのうちの一方のみが、メタクリレートモノマーに不溶性である微粒子ポリマーを含有する)との間で区別がなされる。
【0005】
選択された組成物の結果として、上記ペーストから製造される骨セメントは、骨セメントが十分に硬化するまで出血からの圧力に耐えるために、十分に高い粘度および凝集を有する。進行する重合のため、メタクリレートモノマーが消費されるあいだ、このペーストは硬化する。
【0006】
ラジカル重合用の少なくとも1つのモノマーおよびそこに溶解される少なくとも1つのポリマーとは別に、ペースト様ポリメチルメタクリレート骨セメントは、上記モノマーに不溶性のポリマー粒子を含む特許文献4、特許文献5、および特許文献6に開示されている。上記不溶性のポリマー粒子は、充填剤である。上記充填剤は、セメントペーストの粒度でかなり影響する。ポリマー粒子は、セメントペーストが成形工程の塗布相の間でほとんど修復形態にないことを示すことを確保する固有の性質に必須である。このことは、セメントペーストが、例えば、ポリマー粉末および液体モノマーを混合することに基づく従来のポリメチルメタクリレート骨セメントとして一般に公知のプロセス相を形成する間の任意の形状に成形されることを可能とする。
【0007】
メタクリレートモノマー中で不溶性である架橋ポリマー粒子の製品は、比較的多くの時間と労力を要し、かつ、そのために高価である。このため、メタクリレートモノマー混合物後、そこにポリマーが溶解され、ほとんど架橋ポリマー粒子のように成形した後に最小の弾性復元力のみを示すペーストを生成する代替可能で、安価な微粒子材料を特定するのが好ましい。
【0008】
しかしながら、1つの問題は、これまでのところ使用された架橋ポリマー粒子も硬化したペースト様セメントの機械的安定性に寄与することである。それゆえ、ペーストが必要なプロセス特性を有することを確保するだけでなく、ISO5833の機械的な安定性の必要性が満たされるような硬化セメントの機械的パラメータに悪影響を及ぼさない代替充填剤を特定するのが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,015,945号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0 674 888(A)号明細書
【特許文献3】特開2003−181270号公報
【特許文献4】独国特許出願公開第10 2007 052 116(A)号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第10 2007 050 762(A)号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第10 2007 050 763(A)号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Charnley,J.:“Anchorage of the femoral head prosthesis of the shaft of the femur”;J.Bone Joint Surg.1960年、42巻、p28−30.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、先行技術のペーストに基づく骨セメントシステム、特に上記の2成分系に関する欠点を克服する目的に基づいた。
【0012】
特に、本発明は、骨セメントペースト、特に、先行技術に係るペーストとして同じプロセス特性を特徴とするが、先行技術の公知の骨セメントペーストより安価な出発物質から製造される得る2成分系に基づく骨セメントペーストを提供する目的に基づいた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的をは、ラジカル重合用の少なくとも1つのモノマー、当該ラジカル重合用のモノマーに溶解する少なくとも1つのポリマー、および当該ラジカル重合用の少なくとも1つのモノマーに難溶性または不溶性である少なくとも1つの充填剤を含むペーストであって、上記充填剤は、以下の特性i)およびii)を含む粒子状無機カルシウム塩であるペーストにより生成される:
i)少なくとも90重量%、特に好ましくは少なくとも95重量%、および最も好ましくは100重量%の粒子状無機カルシウム塩は、ふるい分析手段により決定した63μm未満の粒径、特に好ましくは20μm未満の粒径、最も好ましくは10μm未満の粒径を有し;
ii)粒子状無機カルシウム塩の20℃での水溶性は、1リットルあたり8.5g未満、特に好ましくは1リットルあたり5g未満、最も好ましくは1リットルあたり3g未満である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、形成されおよび成形され得る骨セメントペーストが、(DIN66165−1/−2に従って)63μmより小さいふるい分級物から粒子状無機カルシウム塩の使用して十分に製造され得るという知見に基づき、このことは、以前から知られているペースト様ポリメチルメタクリレート骨セメントをのことを考えれば驚きである。メタクリレートモノマー中に不溶性であるこれまで慣用的な架橋ポリマー粒子は、完全にまたは部分的に粒子状無機カルシウム塩で置換され得ることは驚きである。無機カルシウム塩は、架橋ポリマー粒子より著しく安価であり、それゆえペースト様ポリメチルメタクリレート骨セメントの製造で使用され経済的に有利である。驚くべきことに、特に63μmより小さいふるい分級物由来の炭酸カルシウムは、特に充填剤として十分に適していることがわかった。
【0015】
無機カルシウム塩(例えば、炭酸カルシウムなど)の硬度は、比較的低い。従って、炭酸カルシウム(カルサイト)は、Mohsによると2の硬度であると特徴付けられる。硬度が低いせいで、ポリメチルメタクリル酸ペーストに粒子状無機カルシウム塩を組み込むとISO5833に必要な4点曲げ強度、曲げ弾性率、および圧縮強度を満たすことができない硬いペーストのままとなるだろう。驚くべきことに、架橋ポリマー粒子の変わりの粒子状無機カルシウム塩の使用にも関らず、硬化後のISO5833の機械的要求を満たすセメントペーストを製造することが可能となった。
【0016】
それゆえ、架橋ポリマー粒子の替わりに粒子状無機カルシウム塩を使用したにも関らず、硬化後、ISO5833の機械的要求を満たすセメントペーストを製造することができるのは全くの驚きであった。
【0017】
原則の問題として、本発明に係るペーストは、上記の種の一成分系であり得、または上記の種の二成分系の2つのペーストを混合することにより得られ得る。
【0018】
本発明に係るペーストは、一成分として、ラジカル重合用の少なくとも1つのモノマーを含み、これが、好ましくはメタクリレートモノマーであり、特に25℃の温度かつ1,013hPaの圧力で液体であるメタクリレートモノマーである。
【0019】
好ましくは、ラジカル重合用モノマーは、ビスフェノールA由来のメタクリル酸エステルではない。
【0020】
好ましくは、メタクリレートモノマーは、メタクリル酸エステルである。好ましくは、メタクリル酸エステルは一置換メタクリル酸エステルである。好ましくは、上記物質は、疎水性である。疎水性の一官能性のメタクリル酸エステルの使用は、水の吸収により骨セメントの体積が後に膨張し、従って骨を損傷することが、防止されるようになる。好ましい実施形態によれば、一官能性のメタクリル酸エステルは、エステル基とは別にさらなる極性基を含有しない場合に疎水性である。この一官能性の疎水性メタクリル酸エステルは、好ましくは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミド基、スルホン酸基、スルフェート基、ホスフェート基またはホスホネート基を含まない。
【0021】
本発明のエステルは、好ましくは、アルキルエステルである。本発明によれば、シクロアルキルエステルも、アルキルエステルに包含される。好ましい実施形態によれば、このアルキルエステルは、メタクリル酸とアルコールとのエステルであり、当該アルコールは1〜20個の炭素原子、より好ましくは1〜10個の炭素原子、さらにより好ましくは1〜6個の炭素原子、特に好ましくは1〜4個の炭素原子を含む。このアルコールは、置換されていてもよいしまたは非置換であってもよいが、好ましくは非置換である。さらに、このアルコールは、飽和であってもよいし、または不飽和であってもよいが、好ましくは飽和である。
【0022】
本発明において使用されるラジカル重合用モノマーは、好ましくは1,000g/mol未満のモル質量を有する。これは、モノマー混合物の成分であるラジカル重合用モノマーも含み、この場合、そのモノマー混合物のラジカル重合用モノマーのうちの少なくとも1つは、1,000g/mol未満のモル質量をもつ明確な構造を有する。
【0023】
ラジカル重合用モノマーは、好ましくは、ラジカル重合用モノマーの水溶液が、pH5〜9の範囲、好ましくは5.5〜8.5の範囲、さらにより好ましくは6〜8の範囲、特に好ましくは6.5〜7.5の範囲であることを特徴とする。
【0024】
特に好ましい実施形態によれば、メタクリレートモノマーは、メタクリル酸メチルエステル、メタクリル酸エチルエステルまたは上記2つのモノマー混合物である。
【0025】
好ましくは、本発明に係るペーストは、ぞれぞれ本発明に係るペーストの総重量に対し、15〜85重量%、より好ましくは20〜70重量%、さらにより好ましくは25〜60重量%、および特に好ましくは25〜50重量%の範囲のラジカル重合用モノマーを含む。
【0026】
本発明に係るペーストは、さらなる成分として、上記ラジカル重合用の少なくとも1つのモノマーに溶解性の少なくとも1つのポリマーを含む。本発明において、少なくとも10g/L、好ましくは少なくとも25g/L、より好ましくは少なくとも50g/L、および特に好ましくは少なくとも100g/Lのポリマーが上記重合性モノマーに溶解する場合、ポリマーは重合性モノマーに溶解し得る。上記重合性モノマーに溶解性のポリマーはホモポリマーまたはコポリマーであり得る。上記溶解性のポリマー、好ましくは、少なくとも150,000g/molの(重量による)平均モル質量を有するポリマーである。溶解性のポリマーは、例えば、メタクリル酸エステルのポリマーまたはコポリマーでありうる。特に好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの溶解性のポリマーは、ポリメタクリル酸メチルエステル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチルエステル(PMAE)、ポリメタクリル酸プロピルエステル(PMAP)、ポリメタクリル酸イソプロピルエステル、ポリ(メチルメタクリレート−co−メチルアクリレート)、ポリ(スチレン−co−メチルメタクリレート)、および上記ポリマーの少なくとも2つの混合物からなる群から選択される。
【0027】
上記ペースト中に存在するラジカル重合用の上記モノマーに溶解性のポリマーは、普通、本発明のペーストの総重量に対して、1〜85重量%の範囲にある。
【0028】
さらに、本発明に係るペーストは、ラジカル重合用の少なくとも1つのモノマーに難溶性または不溶性である少なくとも粒子状無機カルシウム塩を含み、かつ上記で充填剤として記載された特性i)およびii)を有する。
【0029】
本発明に係るペーストの好ましい改良において、粒子状無機カルシウム塩は、炭酸カルシウム、苦灰石(ドロマイト)、硫酸カルシウム二水和物、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト、オクタリン酸カルシウム、非晶リン酸カルシウム、フルオロアパタイト、クロロアパタイト、炭酸アパタイト、およびこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択され、これらの特に好ましい粒子状無機カルシウム塩は、炭酸カルシウム、苦灰石(ドロマイト)、硫酸カルシウム二水和物、β−リン酸三カルシウム、ヒドロキシアパタイト、およびこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択され、炭酸カルシウムが粒子状無機カルシウム塩として最も好ましい。
【0030】
本発明に係るペースト中に存在する粒子状無機カルシウム塩の量は、それぞれペーストの総重量に対して、通常、0.5〜25重量%の範囲にあり、特に好ましくは1〜20重量%、および最も好ましくは5〜15重量%の範囲にある。上記の粒子状無機カルシウム塩とは別に、本発明に係るペーストは、別の充填剤を適用できる場合、例えば、先行技術に係る公知である架橋ポリマー粒子を含み得、架橋ポリマー粒子に対する粒子状無機カルシウム塩の重量比は、この場合、好ましくは少なくとも1:15(すなわち、充填剤の全量に対し、少なくとも約6重量%粒子状無機カルシウム塩)、特に好ましくは、少なくとも1:1(すなわち、充填剤の全量に対し、少なくとも50重量%粒子状無機カルシウム塩)である。
【0031】
好ましくは、本発明に係るペーストは、製造後15分間以上は、ISO5833に従って不粘着である。
【0032】
さらに、本発明に係るペーストは、少なくとも1つの重合開始剤(好ましくは、ラジカル重合用モノマーに溶解し得る)、少なくとも1つの重合促進剤(好ましくは、ラジカル重合用モノマーに溶解し得る)、少なくとも1つの重合共促進剤、適用できる場合、または少なくとも1つの重合開始剤、少なくとも1つの重合促進剤、および、適用できる場合、少なくとも1つの重合共促進剤を含み得る。
【0033】
一成分系の場合に、重合開始剤は、好ましくは活性化可能な重合開始剤(例えば、ペーストに溶解または懸濁される光開始剤またはペーストに溶解または懸濁される光開示剤系)である。1以上の開始剤を提供するのは、適当に実行可能であり、1以上の開始剤は、例えば、コンテナの部品、投与装置または輸送カニューレ内で、一時的にペーストと接触する。さらに、一成分系で、本発明に係るペーストは、活性化可能な重合開始剤とは別に電気伝導性の放射線不透過性物質も含み得る。本明細書において、コバルト、鉄、NdFeB、SmCo、コバルト−クロムスチール、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、チタン−アルミニウム−ケイ素合金、および0.5−500μmの粒径を有するチタン−ニオブ合金から構成される粒子は、特に適している。放射線不透過性物質を加熱する原因となるものは、500Hz〜50kHzの範囲の周波数を有する交番磁界を通して上記電気伝導性の放射線不透過性物質中で渦電流を誘導するのに適している。伝熱のせいで、開始剤はさらに加熱され、熱分解が誘導される。
【0034】
二成分系の2つのペーストを混合することにより得られる本発明に係るペーストの場合、当該ペーストは好ましくは、少なくとも1つの重合開始剤(二成分系の1つのペースト中に含まれた)および少なくとも1つの重合促進剤(二成分系の他のペースト中に含まれた)を含む。
【0035】
重合開始剤として考えられ得るものは、特に過酸化物およびバルビツール酸誘導体であり、過酸化物およびバルビツール酸誘導体の好ましくは少なくとも1g/L、より好ましくは少なくとも3g/L、さらにより好ましくは少なくとも5g/L、および特に好ましくは少なくとも10g/Lが、25℃の温度で重合性モノマーに溶解し得る。
【0036】
本発明に係る過酸化物は、少なくとも1つのペルオキソ基(−O−O−)を含む化合物を意味すると理解される。過酸化物は、好ましくは、遊離酸基を含まない。過酸化物は、例えば、毒物学的に許容できるヒドロペルオキシドのような無機過酸化物または有機過酸化物であり得る。特に好ましい実施形態によれば、過酸化物は、クメンヒドロペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、およびこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される。
【0037】
バルビツール酸誘導体は、好ましくは、1−一置換バルビツール酸、5−一置換バルビツール酸、1,5−二置換バルビツール酸、および1,3,5−三置換バルビツール酸からなる群から選択されるバルビツール酸の誘導体である。本発明に係るペーストの特定の改良したものにおいて、バルビツール酸誘導体は、1,5−二置換バルビツール酸および1,3,5−三置換バルビツール酸からなる群から選択される。
【0038】
バルビツール酸の置換基の種類は限定されない。その置換基は、例えば、脂肪族または芳香族の置換基であり得る。本明細書において、アルキル、シクロアルキル、アリルまたはアリール置換基が好ましい。置換基は、ヘテロ原子も含有し得る。特に、置換基は、チオールの置換基であり得る。従って、1,5−二置換チオバルビツール酸または1,3,5−三置換チオバルビツール酸が好ましい。好ましい実施形態によれば、置換基は、それぞれ、1〜10個の範囲の炭素原子の長さ、より好ましくは1〜8個の範囲の炭素原子の長さ、特に好ましくは2〜7個の範囲の炭素原子の長さを有する。本発明に係る、バルビツール酸は、1位と5位または1位、3位、および5位にそれぞれ1つの置換基を有するのが好ましい。別の好ましい実施形態によれば、バルビツール酸誘導体は、1,5−二置換バルビツール酸または1,3,5−二置換バルビツール酸である。特に好ましい実施形態によれば、バルビツール酸誘導体は、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−フェニル−5−エチルバルビツール酸、および1,3,5−トリメチルバルビツール酸からなる群から選択される。
【0039】
重金属塩および重金属錯体からなる群から選択される重金属化合物は、重合促進剤として好ましい。
【0040】
本発明で好ましい重金属化合物は、水酸化銅(II)、メタクリレート銅(II)、アセチルアセトナト銅(II)、2−エチルヘキサン酸銅(II)、水酸化コバルト(II)、2−エチルヘキサン酸コバルト(II)、ベーシック炭酸銅(II)、2−エチルヘキサン酸鉄(II)、2−エチルヘキサン酸鉄(III)、およびこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される。
【0041】
本発明に係るペーストの別の改良で、重合促進剤は、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビスヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化リチウム、サッカリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、および1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド、およびピロメリット酸ジイミド、ならびにこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される。
【0042】
本発明の別の有利な改良は、重合促進剤として、重金属塩とN,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビスヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化リチウム、サッカリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、および1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド、およびピロメリット酸ジイミドからなる群の少なくとも1つとの混合物の使用からなる。
【0043】
本発明の有利な改良は、適用できる場合、少なくとも1つの重合共促進剤を含む本発明に係るペーストからなり、重合共促進剤として、第三級アミンおよびアミジンが好ましく、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビスヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、および1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エンが共促進剤として特に好ましい。
【0044】
本発明に係るペーストは、本発明に係るペーストの総重量に対し、最大10重量%の(全)量の重合開始剤、重合促進剤、重合共促進剤または重合促進剤と重合共促進剤を含み得る。
【0045】
本発明に係るペーストは、上記の特定の成分とは別にさらなる成分を含み得る。
【0046】
本発明に係るペーストの好ましい実施形態によれば、上記ペーストは、少なくとも1つの放射線不透過性物質を含み得る。この放射線不透過性物質は、この分野の一般の放射線不透過性物質であることができる。好適な放射線不透過性物質は、ラジカル重合用モノマーに溶解性、または不溶性であり得る。この放射線不透過性物質は、好ましくは、金属酸化物(例えば、酸化ジルコニウムなど)、硫酸バリウム、毒物学的に許容できる重金属粒子(例えば、タンタルなど)、フェライト、磁鉄鉱(適用できる場合、超常磁性磁鉄鉱も)、および生体適合性カルシウム塩からなる群から選択される。この放射線不透過性物質は、好ましくは、10nm〜500μmの範囲の平均粒径を有する。さらに、想定できる放射線不透過性物質としては、3,5−ビス(アセトアミド)−2,4,6−トリヨード安息香酸のエステル、ガドリニウム化合物(例えば、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸(DOTA)のエステルが関与するガドリニウムキレート)も含有する。放射線不透過性物質の濃度、特に本発明のペースト内に存在する二酸化ジルコニウムの濃度は、例えば3〜30重量%の範囲内にあり得る。
【0047】
さらに好ましい実施形態によれば、本発明に係るペーストは、少なくとも1つの着色料を含み得る。この着色料は、この分野の一般の着色料であってよく、好ましくは食品着色料であり得る。さらに、この着色料は、ラジカル重合用モノマーに溶解性、または不溶性であり得る。特に好ましい実施形態によれば、この着色料は、E101、E104、E132、E141(クロロフィリン)、E142、リボフラビン、およびリサミングリーンからなる群から選択される。本発明の用語「着色料」は、色ワニス(例えば、色ワニスグリーンなど)、E104およびE132の混合物のアルミニウム塩も包含するものとする。さらに好ましい実施形態によれば、本発明に係るペーストは、少なくとも1つの医薬品を含み得る。この少なくとも1つの医薬品は、溶解した形態または懸濁した形態で、本発明に係るペーストに存在し得る。この医薬品は、好ましくは、抗生物質、消炎薬、ステロイド、ホルモン、増殖因子、ビスホスホネート類、細胞分裂抑制剤、および遺伝子ベクターからなる群から選択されてもよい。特に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つの医薬品は抗生物質である。好ましくは、当該少なくとも1つの抗生物質は、アミノグリコシド抗生物質、糖ペプチド抗生物質、リンコサミド抗生物質、ジャイレース阻害剤、カルバペネム、環状リポペプチド、グリシルサイクリン、オキサゾリドン類、およびポリペプチド抗生物質からなる群から選択される。特に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つの抗生物質は、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、バンコマイシン、テイコプラニン、ダルババンシン、リンコマイシン、クリンダマイシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、ドリペネム、メロペネム、チゲサイクリン、リネゾリド、エペレゾリド(eperezolid)、ラモプラニン、メトロニダゾール、チニダゾール、オミダゾール(omidazol)、およびコリスチン、ならびにこれらの塩ならびにエステルからなる群から選択される抗生物質である。従って、この少なくとも1つの抗生物質は、硫酸ゲンタマイシン、塩酸ゲンタマイシン、硫酸アミカシン、塩酸アミカシン、硫酸トブラマイシン、塩酸トブラマイシン、塩酸クリンダマイシン、塩酸リンコマイシン、およびモキシフロキサシンからなる群から選択されてもよい。 当該少なくとも1つの消炎薬は、好ましくは、非ステロイド系消炎薬およびグルココルチコイド類からなる群から選択される。特に好ましい実施形態によれば、この少なくとも1つの消炎薬は、アセチルサリチル酸、イブプロフェン、ジクロフェナク、ケトプロフェン、デキサメサゾン、プレドニゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、およびフルチカゾンからなる群から選択される。当該少なくとも1つのホルモンは、好ましくは、セロトニン、ソマトトロピン、テストステロン、およびエストロゲンからなる群から選択される。好ましくは、当該少なくとも1つの増殖因子は、線維芽細胞増殖因子(FGF)、形質転換成長因子(TGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、表皮成長因子(EGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様成長因子(IGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、骨形成タンパク質(BMP)、インターロイキン−1B、インターロイキン8、および神経成長因子からなる群から選択される。当該少なくとも1つの細胞分裂抑制剤は、好ましくは、アルキル化剤、白金類似体、挿入剤、有糸分裂阻害剤、タキサン類、トポイソメラーゼ阻害剤、および代謝拮抗物質からなる群から選択される。当該少なくとも1つのビスホスホネートは、好ましくは、ゾレドロン酸およびアレンドロン酸からなる群から選択される。
【0048】
さらに好ましい実施形態によれば、本発明に係るペーストは、少なくとも1つの生体適合性エラストマーを含み得る。好ましくは、生体適合性エラストマーは微粒子である。好ましくは、この生体適合性エラストマーは、少なくとも1つのラジカル重合用モノマーに溶解性である。生体適合性エラストマーとしてのブタジエンの使用は特に好適であるということが判明した。
【0049】
さらに好ましい実施形態によれば、本発明に係るペーストは、吸着基を有する少なくとも1つのモノマーを含む。吸着基は、例えば、アミド基であり得る。従って、吸着基を有するモノマーは、例えば、メタクリル酸アミドであり得る。吸着基を有する少なくとも1つのモノマーを使用することで、関節の内部人工器官への当該骨セメントの結合が狙った態様で行われるようになるであろう。
【0050】
さらに好ましい実施形態によれば、本発明に係るペーストは、少なくとも1つの安定剤を含み得る。この安定剤は、ペースト中に含まれるラジカル重合用モノマーの自発的重合を防止するために好適あるべきである。さらに、この安定剤は、本発明に係るペーストの中に含まれる他の成分と干渉性の相互作用を起こさないものであるべきである。当該種の安定剤は公知である。好ましい実施形態によれば、安定剤は2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールおよび/または2,6−ジ−tert−ブチルフェノールである。
【0051】
ペーストAおよびペーストBを含有するキットは、上記の目的を満たす解放にも寄与し、ここで、(a)ペーストAは、
(a1)ラジカル重合用の少なくとも1つのモノマー;
(a2)(a1)に溶解性の少なくとも1つのポリマー;および
(a3)少なくとも1つの重合開始剤;を含み、
(b)ペーストBは、
(b1)ラジカル重合用の少なくとも1つのモノマー;
(b2)(b1)に溶解性の少なくとも1つのポリマー;および
(b3)少なくとも1つの重合促進剤;を含み、
ペーストAおよびBのうちの少なくとも1つは、それぞれ(a1)または(b1)に難溶性または不溶性である少なくとも1つの充填剤の成分(a4)または(b4)を含み、その充填剤は、以下の特性i)およびii)を含む粒子状無機カルシウム塩である:
i)少なくとも90重量%、特に好ましくは少なくとも95重量%、および最も好ましくは100重量%の粒子状無機カルシウム塩は、ふるい分析手段により決定した63μm未満の粒径、特に好ましくは20μm未満の粒径、最も好ましくは10μm未満の粒径を有し;
ii)粒子状無機カルシウム塩の20℃での水溶性は、1リットルあたり8.5g未満、特に好ましくは1リットルあたり5g未満、最も好ましくは1リットルあたり3g未満である。
【0052】
本発明に係るキットは、少なくとも2つの成分を構成するシステムであると理解されるものとする。2つの成分(すなわち、ペーストAおよびペーストB)の例が以下でされているが、キットは、2成分超を含むのが適当であり得、必要に応じて、例えば、3、4、5または5成分超含み得る。好ましくは、個々の成分は、好ましくは、1つのキットの成分の成分が他のキットの成分に接触しないように互いに包装されて分離されている。従って、キット成分を互いから分離するように個々のキットを包装し、それらを一緒に貯留容器に貯蔵することができる。
【0053】
好ましくは、キットは、第1コンテナおよび第1コンテナを包含する骨セメントの製造用キットとしてデザインされ、その第1コンテナは、ペーストAを包含し、第1コンテナはペーストBを包含し、このコンテナのうちの少なくとも1つは、開封され、ペーストAおよびペーストBが開封後に混ざり、そしてペーストAおよびペーストBを混合するための混合ユニットとなり得る。
【0054】
好ましいラジカル重合用モノマーとして、上記のモノマーに溶解性のポリマーとして、重合開始剤として、重合促進剤として、および粒子状無機カルシウム塩としての本発明に係るペーストとの関連で、上記の成分は、それぞれ、ラジカル重合用のモノマー(a1)および/または(b1)として、モノマー(a1)および/または(b1)に溶解性のポリマーとして、重合開始剤(a3)として、重合促進剤(b3)として、および粒子状無機カルシウム塩(a4)および/または(b4)として好ましい。
【0055】
好ましくは、ペーストAおよびペーストBは、それぞれペーストAおよび/またはペーストBの総重量に対して、ラジカル重合用の少なくとも1つのモノマー(a1)および/または(b1)を15〜85重量%、より好ましくは20〜70重量%、さらにより好ましくは25〜60重量%、および特に好ましくは25〜50重量%の範囲の量で含む。
【0056】
好ましくは、ペーストAは、それぞれペーストAの総重量に対して、0.01〜10重量%の範囲、より好ましくは0.01〜8重量%の範囲、さらにより好ましくは0.01〜5重量%の範囲の量の重合開始剤(a3)を含む。
【0057】
重合促進剤(b3)が、重金属塩および重金属錯体からなる群から選択される重金属化合物である場合、特に水酸化銅(II)、メタクリレート銅(II)、アセチルアセトナト銅(II)、2−エチルヘキサン酸銅(II)、水酸化コバルト(II)、2−エチルヘキサン酸コバルト(II)、ベーシック炭酸銅(II)、2−エチルヘキサン酸鉄(II)、2−エチルヘキサン酸鉄(III)、およびこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される重金属化合物である場合、ペーストBは、ペーストBの総重量に対して、好ましくは、0.0005〜0.5重量%の範囲の量の上記重合促進剤(b3)を含む。
【0058】
重合促進剤(b3)が、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビスヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化リチウム、サッカリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン、フタルイミド、マレイミド、スクシンイミド、ピロメリット酸ジイミド、およびこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される化合物である場合、ペーストBは、ペーストBの総重量に対して、好ましくは、0.1〜10重量%の範囲の量の上記重合促進剤(b3)を含む。
【0059】
特に、ペーストAは、さらに、重合共促進剤である成分(a5)として、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビスヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン、およびこれらの物質の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される化合物を含み得る。本明細書において、ペーストAは、ペーストAの総重量に対して、0.1〜10重量%の範囲の量の少なくとも1つの重合共促進剤(a5)を含むのが好ましい。
【0060】
上記キットは「非対称的」と呼ばれる。対照的に、いわゆる「対称的」なキットは、双方のペースト中に難溶性または不溶性の充填剤のほぼ比較可能な量を有する。
【0061】
さらに、ペーストAおよび/またはBは、上記の成分(例えば、放射線不透過性物質、着色料、医薬品、生体適合性エラストマー、接着基を有するモノマーまたは安定剤)とは別の添加剤を含み得、本発明に係るペーストとの関連で、放射線不透過性物質、着色料、医薬品、生体適合性エラストマー、接着基を有するモノマー、および安定剤の上記の成分が十分好ましい。
【0062】
本発明に係るキットの第1の特定の改良によれば、キットは「非対称的」キットである。これに関して、ペーストAは、いずれもペーストAの総重量に対して、20〜70重量%、特に好ましくは25〜60重量%、さらにより好ましくは30〜55重量%、最も好ましくは34〜47重量%の、(a1)に不溶性である充填剤(a4)を含み、ペーストBは、いずれもペーストBの総重量に対して、5重量%未満、特に好ましくは1重量%未満、さらにより好ましくは0.1重量%未満、なおより好ましくは0.01重量%未満の、(b1)に不溶性である充填剤(b4)を含むのが好ましく、この場合、ペーストBは、(b1)に不溶性である充填剤(b4)をまったく含まないことが最も好ましい。
【0063】
さらに、本発明に係るキットの上記第1の特定の改良との関連で、ペーストAは、いずれもペーストAの総重量に対して、1〜25重量%の範囲、特に好ましくは2〜20重量%の範囲、さらにより好ましくは2〜18重量%の範囲、最も好ましくは3〜16重量%の範囲の量の、(a1)に溶解性のポリマー(a2)を含み、ペーストBは、いずれもペーストBの総重量に対して、25〜85重量%の範囲、特に好ましくは35〜85重量%の範囲、さらにより好ましくは35〜80重量%の範囲、最も好ましくは35〜75重量%の範囲の量の、(b1)に溶解性のポリマー(b2)を含むことが好ましい。
【0064】
さらに、本発明に係るキットの上記第1の特定の改良との関連で、(b1)に溶解性の少なくとも1つのポリマー(b2)に対する(b1)に不溶性である充填剤(b4)の重量比は、0.2以下、より好ましくは0.15以下、さらにより好ましくは0.1以下、なおより好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.02以下であり、さらにより特に好ましくは0に等しいのが好ましい。
【0065】
本発明に係るキットの第2の特定の改良によれば、当該キットは「対称的」キットである。これに関して、ペーストAは、いずれもペーストAの総重量に対して、15〜85重量%、特に好ましくは15〜80重量%、さらにより好ましくは20〜75重量%の、(a1)に不溶性である充填剤(a4)を含み、ペーストBは、いずれもペーストBの総重量に対して、15〜85重量%、特に好ましくは15〜80重量%、さらにより好ましくは20〜75重量%の、(b1)に不溶性である充填剤(b4)を含むことが好ましい。
【0066】
さらに、本発明に係るキットの上記第2の特定の改良との関連で、ペーストAは、いずれもペーストAの総重量に対して、5〜50重量%の範囲、特に好ましくは10〜40重量%の範囲、さらにより好ましくは20〜30重量%の範囲の量の、(a1)に溶解性のポリマー(a2)を含有し、かつ/またはペーストBは、いずれもペーストBの総重量に対して、5〜50重量%の範囲、特に好ましくは10〜40重量%の範囲、さらにより好ましくは20〜30重量%の範囲の量の、(b1)に溶解性のポリマー(b2)を含有することが好ましい。
【0067】
本発明によれば、少なくともペーストAおよびBを含有するペーストおよび/またはキットの目的は、骨セメントの製造である。
【0068】
この目的のために、別のペーストである少なくとも2つのペーストAおよびBは互いに混合され、ペーストCが得られる。その混合比は、好ましくは、0.5〜1.5重量部のペーストAおよび0.5〜1.5重量部のペーストBである。特に好ましい実施形態によれば、いずれもペーストAおよびBの総重量に対して、それぞれ、ペーストAの割合は30〜70重量%であり、ペーストBの割合は30〜70重量%である。一般的な混合装置(例えば、スタティックミキサーまたはダイナミックミキサー)を用いて混合することが効果的である。
【0069】
上記キットのペーストを混合した後、(上記で特定される本発明に係るペーストと関連して)最終的に得られるペーストCは、ISO5833標準に従って、15分以内不粘着性である。
【0070】
硬化によってペーストCから生成される骨セメントは、キットに含まれるペーストを混合したおよそ6〜8分後に、高強度を達成する。
【0071】
好ましい実施形態によれば、本発明に係るペーストCおよび/またはキットは、関節の内部人工器官の機械的固定用、頭蓋骨欠陥の被覆用、骨空洞の充填用、大腿骨形成術用、椎体形成術用、椎骨形成術用、スペーサ製造用、および局所的な抗生物質療法用の担体材料の製造用に使用することができる。
【0072】
これに関して、用語「スペーサ」は、腐敗性の再置換(septic revision)手術における人工器官の二期的交換の範囲で一時的にスペーサーとして使用することができるインプラントを意味すると理解されるものとする。
【0073】
局所的な抗生物質療法のための担体材料は、球もしくは球様の物体としてまたは梁形状の物体として提供され得る。加えて、本発明に係るキットから作製される骨セメントを含有する棒(ロッド)形状または円板形状の担体材料を製造することも可能である。さらに、この担体材料は、ビーズの様な様式で吸収性または非吸収性の縫合糸材料を通されてもよい。
【0074】
上記の骨セメントの本発明に係る使用は、文献から公知であり、その中に多くの事例についてすでに文献に記載されている。
【0075】
上記の目的を満たす寄与は、本発明に係る重合性組成物の重合によって、または、本発明に係るキットのペーストAおよびペーストBを混合することで得られるペーストの重合によって得られる成形体によってなされる。本発明の範囲の成形体は、任意の3次元物体であり得、特に上記の「スペーサ」であり得る。
【0076】
本発明は、以下に記載される実施例を通して説明されるものとするが、それらの実施例は本発明の範囲を限定しない。
【実施例】
【0077】
実施例A1〜A8のペーストAを、下記成分を単純に混合して製造した。そして、このように形成された当該ペーストを、室温で一晩保存した。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例B1〜B8のペーストBも、下記成分を単純に混合して製造した。そして、このように形成された当該ペーストを、室温で一晩保存した。
【0080】
【表2】
【0081】
実施例A1〜8およびB1〜8のペーストAおよびBを互いに重量比1:1で混合した。これにより、直ぐに不粘着であり、従来の高い粘度を有するポリメチルメタクリレート骨セメントと同様のプロセス相を有していた。これらのプロセス相は4〜6分間続いた。
【0082】
実施例1〜8のペーストAおよびBから製造された混合ペーストC(ペーストAとペーストBの重量比1:1)を使用して、曲げ強度および曲げ弾性率の評価のための寸法を有する帯状試験体(75mm×10mm×3.3mm)と圧縮強度の評価のために使用するシリンダー形試験体(直径6mm、高さ12mm)を製造した。その後、それらの試験体を23℃±1℃で空気中で24時間保存した。そして、それらの試験体の4点曲げ強度、曲げ弾性率および圧縮強度をズウィック・ユニバーサル試験装置(Zwick universal testing device)を使用して決定した。
【0083】
【表3】
【0084】
ISO5833は、以下のパラメータを定義する:少なくとも50MPaの4点曲げ強度、少なくとも1,800MPaの曲げ弾性率、および少なくとも70MPaの圧縮強度。硬化したペーストC1〜8の4点曲げ強度、曲げ弾性率、および圧縮強度試験の結果は、ISO5833の機械的安定性の要求が満たされていることを示す。
【0085】
さらに、二酸化ジルコニウムの代わりに硫酸バリウムを使用してペーストを作製した。上記ペーストは、ペーストA1〜8とB1〜8から製造されたペーストC1〜8と同様の硬化挙動を有した。
【0086】
さらに、追加のペーストBを、それぞれ1.0gの塩酸バンコマイシン、塩酸クリンダマイシン、ダプトマイシン、およびオクテニジン二塩酸塩が添加されたことを除いてペーストB8と同様に製造した。これらのペーストBをペーストA1と重量比1:1で混合した後、当該混合ペーストCは、ペーストA8とペーストB8との重量比1:1の混合物と同様の硬化挙動を示した。
【0087】
さらに、ペーストAを、クメンヒドロペルオキシドの代わりにt−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、およびジクミルペルオキシドを使用して、実施例A1と同様に製造した。これらのペーストAをペーストB1と重量比1:1で混合した後に、当該混合ペーストはペーストA1とペーストB1との混合物と同様の挙動を示した。