特許第5918218号(P5918218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5918218カルコゲン化物系光起電力電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918218
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】カルコゲン化物系光起電力電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0749 20120101AFI20160428BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20160428BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20160428BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   H01L31/06 460
   H01L31/04 420
   H01L21/363
   C23C14/06 D
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-508239(P2013-508239)
(86)(22)【出願日】2011年4月28日
(65)【公表番号】特表2013-531366(P2013-531366A)
(43)【公表日】2013年8月1日
(86)【国際出願番号】US2011034269
(87)【国際公開番号】WO2011137216
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2014年4月1日
(31)【優先権主張番号】61/329,728
(32)【優先日】2010年4月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】トッド アール.ブライデン
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー エル.フェントン,ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】ゲイリー イー.ミッチェル
(72)【発明者】
【氏名】カーク アール.トンプソン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル イー.ミルズ
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ジェイ.パリロ
【審査官】 山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−503708(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0055826(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0253686(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0009228(US,A1)
【文献】 米国特許第05985691(US,A)
【文献】 特開平04−092900(JP,A)
【文献】 特表2005−505938(JP,A)
【文献】 特表2010−531547(JP,A)
【文献】 D. Abou-Ras et al.,Structural and chemical investigations of CBD-and PVD-CdS buffer layers and interfaces in Cu(In,Ga)Se2-based thin film solar cells,THIN SOLID FILMS,2004年12月 8日,Vol.480-481,pp.118-123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上にカルコゲン化物系吸収体層を形成する工程、
不活性雰囲気で0.08〜0.12mbarの作動圧力でスパッタすることによって、吸収体の上にカドミウムおよび硫黄を含むバッファー層を形成する工程
を含む方法。
【請求項2】
吸収体層とバッファー層の間に厚さ10nm未満の界面が形成され、前記界面は、一方の側では、電池の断面をエネルギー分散型X線分光法走査においてカドミウムの原子分率が0.05を超える点によって境界が定められ、第二の側では、インジウムおよびセレンの原子分率が0.05未満になる点によって境界が定められ、さらに第二の側で0.10未満の銅の原子分率によって境界が定められる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バッファー層の上に透明伝導層を形成する工程、所望により透明伝導層とバッファー層の間に窓層を形成する工程、および透明伝導層の上に電気的接続グリッドを形成する工程をさらに含み、透明伝導層の上にバリヤー層を設ける工程を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
透明伝導層および/またはグリッドの上にバリヤー層を設ける工程を含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
裏面電極、裏面電極に接するカルコゲン化物系吸収体、吸収体の上にカドミウムおよび硫黄を含むバッファー層、吸収体層と反対側のバッファー層の面に位置する透明伝導層、透明伝導層の上の集電体を含む光起電力電池であって、該電池が吸収体とバッファー層の間に界面を有し、該界面は、一方の側では、電池の断面をエネルギー分散型分光法走査においてカドミウムの原子分率が0.05を超える点によって境界が定められ、第二の側では、インジウムとセレンの原子分率が0.05未満になる点によって境界が定められ、そして該界面は10nm未満の厚さを有する、電池。
【請求項6】
バッファーが本質的にカドミウム硫黄、銅および酸素からなり、カドミウムおよび硫黄の原子分率が少なくとも0.30である、請求項に記載の電池。
【請求項7】
バッファー層の厚さが30nm未満である、請求項またはに記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルコゲン化物系光起電力電池の製造方法、および特に当該電池中のバッファー層を形成する方法、およびこの方法によって作られた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
光起電力電池は、入射光または放射線を電気エネルギーに変換する吸収体層としてp型カルコゲン化物系物質を用いて作ることができる。これらのp型カルコゲン化物は、典型的には、次の金属すなわちCu、In、Ga、Alの少なくとも1種、より典型的には少なくとも2種または3種のセレン化物、硫化物または硫化セレン化物(本明細書において、用いられる元素の組合わせに依存して、CIS、CISS、CIAS、CIASS、CIGS、CIGSSまたはCIAGSSと呼ぶ。)である。p型カルコゲン化物の近くまたは隣にCdS系バッファー層を用いることも知られている。
【0003】
CdS層は化学浴析出、物理蒸着またはスパッタによって様々な基板の上に形成することができることが知られている。たとえば、アボウ・ラス(Abou-Ras)ら(薄い固体膜(Thin Solid Films)、2005年、第480−481巻、p.118−123)および米国特許第5,500,055号明細書参照。アボウ・ラスは、特に、CBD析出をPVD析出と比較して、析出方法の影響を調べ、CdSのCBD析出が、PVDで作られた電池と比較して、より効率的な電池を生み出すことを観察した。アボウ・ラスは、PVDで析出した電池の場合にCIGS−CdS界面における相互拡散の欠如または減少がそれらの減少した効率の理由であることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5500055号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】アボウ・ラス(Abou-Ras)ら、薄い固体膜(Thin Solid Films)、2005年、第480−481巻、p.118−123
【発明の概要】
【0006】
出願人は、驚くべきことに、実質的に不活性な雰囲気において比較的高い圧力でp型カルコゲン化物の上にCdSをスパッタすると、従来の低圧スパッタリング条件でスパッタするよりも下層のカルコゲン化物吸収体との相互拡散がより少なくなることを見いだしたが、また従来の低圧スパッタリングよりも高い電池効率につながることも見いだした。これは、アボウ・ラスの教示からすると特に予想外のことである。
【0007】
したがって、1つの実施態様によれば、本発明は、
基板の上にカルコゲン化物系吸収体層を形成する工程、
0.08〜0.12mbar(0.06〜0.09トールまたは8〜12Pa)の作動圧力で不活性雰囲気でスパッタすることによって、吸収体の上にカドミウムおよび硫黄を含むバッファー層を形成する工程
を含む方法である。
【0008】
本発明は、また、先の方法によって作られた光起電力電池である。この方法によって作られた電池は、CdSおよび吸収体層との間の相互拡散によって特徴づけられる。相互拡散界面領域は、吸収体領域では電池の断面のエネルギー分散X線分光法(EDS)走査においてカドミウムの原子分率が0.05を超える点によって境界が定められ、緩衝領域ではインジウムおよびセレンの原子分率が0.05未満、好ましくは銅の原子分率が0.10未満である点によって境界が定められる。原子分率は、銅、インジウム、ガリウム、セレン、カドミウム、硫黄および酸素の原子の量の合計を基準とする。硫化カドミウム粒の粒径は、好ましくは50nm未満、より好ましくは30nm未満、そして最も好ましくは20nm未満である。したがって、1つの実施態様によれば、本発明は、裏面電極(ここでは裏面電気接点とも呼ばれる。)、裏面電極に接するカルコゲン化物系吸収体、吸収体の上の硫化カドミウム系バッファー層、吸収体層とは反対側のバッファー層の面に位置する透明伝導層、透明伝導層の上の集電体を含む光起電力電池であって、該電池は、吸収体とバッファーとの間に10nm未満の厚さの界面を有し、バッファーは好ましくは50nm未満の平均粒径を有する、電池である。
【0009】
驚くべきことに、硫化カドミウムは好ましくは不活性な環境においてスパッタされるが、本発明によって作られた電池のバッファー層はかなりの量の酸素を有する。したがって、別の実施態様によれば、本発明は裏面電極、裏面電極に接するカルコゲン化物系吸収体、吸収体の上の硫化カドミウム系バッファー層、吸収体層とは反対側のバッファー層の面に位置する透明伝導層、透明伝導層の上の集電体を含む光起電力電池であって、硫化カドミウム系バッファー層中の酸素の原子分率が少なくとも0.20である、電池である。
【0010】
また、驚くべきことに、バッファー層の厚さは非常に薄くすることができ、それでもなお効果的な電池をもたらし、かつ電池からの低いカドミウム浸出物という追加の利点をも提供する。したがって、さらに別の実施態様によれば、本発明は、裏面電極、裏面電極に接するカルコゲン化物系吸収体、吸収体の上の硫化カドミウム系バッファー層、吸収体層とは反対側のバッファー層の面に位置する透明伝導層、透明伝導層の上の集電体を含む光起電力電池であって、バッファー層の厚さが30nm以下、好ましくは20nm以下、最も好ましくは15nm以下である、電池である。USEPA毒性指標浸出法試験1311(1992)により測定した物品から浸出するカドミウムの量は、1mg/L以下(すなわち試験計画書に指定されるように浸出溶液1リットル当たりカドミウム1mg)、好ましくは0.8mg/L以下、最も好ましくは0.7mg/L以下である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の代表的な電池の断面の模式図である。
図2図2は、エネルギー分散X線分光法に基づく原子分率のプロットを示す。
図3図3は、0.002ミリバールでスパッタすることによって作られた比較の電池の原子分率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法は、基板の上に(関連する波長で電磁放射線を吸収し、電気エネルギーに変換する)カルコゲン化物系吸収体層を形成し、その後、その吸収体の上に硫化カドミウムバッファー層を形成することを含む。その方法が光起電力装置を形成するために用いられるときは、光起電力技術分野に既知の追加の層もまた典型的には加えられるであろう。たとえば、基板は典型的には裏面電気接点を含むかまたは支持するであろう。透明伝導層はバッファーの上に見いだされ、そして集電体系(たとえばグリッド)が典型的には透明伝導層の上に位置するであろう。所望により窓層が用いられてもよく、そして保護層が透明伝導層および/または集電体の上に適用されてもよい。硫化カドミウム系バッファー層を例外として、これらの追加の層は当技術分野において知られたいかなる方法によって形成されてもよい。
【0013】
図1は、本発明の方法によって作ることができる光起電力物品10の1つの実施態様を示す。この物品10は、支持体22を含む基板、裏面電気接点24、およびカルコゲン化物吸収体20を含む。その物品10は、さらに、本発明のn型カルコゲン化物組成物を含むバッファー領域28、所望により前面電気接点窓領域26、透明伝導領域30、集電グリッド40、および所望により周囲物品10を保護し隔離するのを助けるバリヤー領域34を含む。図1には、これらの構成要素の各々は単一の層を含むように示されているが、所望によりこれらのいずれも独立に複数の副層から形成することができる。現在既知のまたは今後開発されるような光起電力電池において慣例的に用いられる追加の層(図示せず)もまた設けることができる。本明細書において時々用いられるように、電池の上面12は入射光16を受ける面であると見なされる。吸収体の上に硫化カドミウム系層を形成する方法も、各々異なる波長で放射線を吸収する吸収体を有する互いの上に2つの電池が形成される直列電池構造において用いることができる。
【0014】
支持体22は堅い基板であってもよいし可撓性の基板であってもよい。支持体22は広範囲の物質から形成することができる。それらの物質としては、ガラス、石英、他のセラミック物質、ポリマー、金属、合金、金属間化合物組成物、紙、織布または不織布、これらの組合わせなどが挙げられる。ステンレス鋼が好ましい。可撓性基板は薄膜吸収体および他の層の可撓性を最大限に利用することを可能にするために好ましい。
【0015】
裏面電気接点24は、電気的に外部の電気回路に物品10を連結するための好都合な方法を提供する。接点24は広範囲の電気伝導性物質から形成することができ、電気伝導性物質としては、Cu、Mo、Ag、Al、Cr、Ni、Ti、Ta、Nb、W、それらの組合わせなどの1種以上が挙げられる。Moを含む伝導性組成物が好ましい。裏面電気接点24は、支持体成分が吸収体20へ移行するのを最小限にするために支持体22から吸収体20を隔離するのを助けることもできる。たとえば、裏面電気接点24は、ステンレス鋼支持体22のFeおよびNi成分の吸収体20への移行を妨げるのに役立つことができる。裏面電気接点24はまた、Seが吸収体20の形成において用いられるならば、たとえばSeに対して保護することによって、支持体22を保護することができる。
【0016】
カルコゲン化物の吸収体20は、好ましくは、銅、インジウムおよび/またはガリウムの少なくとも1種を含む16族セレン化物、硫化物およびセレン化硫化物のような少なくとも1種のp型16族カルコゲン化物を含む。多くの実施態様において、これらの物質は多結晶の形態で存在する。好都合に、これらの物質は、吸収体20が非常に薄くかつ可撓性であることを可能にする光吸収のための優れた断面を示す。実例となる実施態様において、典型的な吸収体領域20は、約300nm〜約3000nm、好ましくは約1000nm〜約2000nmの範囲内の厚さを有することができる。
【0017】
そのようなp型カルコゲン化物吸収体の代表的な具体例は、銅、インジウム、アルミニウムおよび/またはガリウムの少なくとも1種を含むセレン化物、硫化物、テルル化物および/またはこれらの組合わせである。より典型的には、Cu、In、GaおよびAlの少なくとも2種または少なくとも3種さえ存在する。硫化物および/またはセレン化物が好ましい。いくつかの実施態様は、銅およびインジウムの硫化物またはセレン化物を含む。追加の実施態様は、銅、インジウムおよびガリウムのセレン化物または硫化物を含む。アルミニウムは、典型的にはガリウムのいくつかまたはすべてを置き換える、追加のまたは代替の金属として用いられることができる。具体的な例としては、限定するものではないが、セレン化銅インジウム、セレン化銅インジウムガリウム、セレン化銅ガリウム、硫化銅インジウム、硫化銅インジウムガリウム、硫化銅ガリウム、硫化セレン化銅インジウム、硫化セレン化銅ガリウム、硫化銅インジウムアルミニウム、セレン化銅インジウムアルミニウム、硫化セレン化銅インジウムアルミニウム、硫化銅インジウムアルミニウムガリウム、セレン化銅インジウムアルミニウムガリウム、硫化セレン化銅インジウムアルミニウムガリウム、および硫化セレン化銅インジウムガリウムが挙げられる。吸収体物質は、また、性能を向上するために、Na、Liなどのような他の物質でドープされてもよい。さらに、多くのカルコゲン物質は、電子的性質に有意の有害な影響のない程度の少量の不純物として少なくともいくらかの酸素を含んでもよい。
【0018】
CIGS物質の1つの好ましい類は次式によって表わすことができる。
CuInGaAlSeTeNa (A)
式中、「a」が1と定義されるならば、
「(b+c+d)/a」=1.0〜2.5、好ましくは1.0〜1.65であり、
「b」は0〜2、好ましくは0.8〜1.3であり、
「c」は0〜0.5、好ましくは0.05〜0.35であり、
「d」は0〜0.5、好ましくは0.05〜0.35であり、好ましくはd=0であり、
「(w+x+y)」は2〜3、好ましくは2〜2.8であり、
「w」は0以上、好ましくは少なくとも1、そしてより好ましくは少なくとも2〜3であり、
「x」は0〜3、好ましくは0〜0.5であり、
「y」は0〜3、好ましくは0〜0.5であり、
「z」は0〜0.5、好ましくは0.005〜0.02である。
【0019】
吸収体20は、蒸着、スパッタ、電着、噴霧および焼結のような様々な1種以上の手法を用いる任意の適切な方法によって形成することができる。1つの好ましい方法は、1つ以上の適切なターゲットからの構成元素の共蒸着であり、この方法では、吸収体20を形成するために、個々の構成元素が、同時に、逐次的に、またはこれらの組合わせで、同時発生的に熱い表面の上に熱により蒸着させられる。析出後、析出した物質は、吸収体物性を仕上げるために1つ以上のさらなる処理に供されることができる。
【0020】
裏面電気接点24と支持体22との間の、および/または裏面電気接点24と吸収体領域20との間の接着を高めるのを助けるために、現在知られているまたは今後開発される慣行的実務に従って、随意的な層(図示せず)が基板の上に用いられてもよい。さらに、周囲から装置10を隔離するのを助けるために、および/または電気的に装置10を隔離するために、1つ以上のバリヤー層(図示せず)もまた支持体22の裏面の上に設けてもよい。
【0021】
バッファー領域28は、少なくとも0.08ミリバール(0.06トール、8Pa)、より好ましくは少なくとも0.09ミリバール(0.067トール、9Pa)、最も好ましくは少なくとも約0.1ミリバール(0.075トール、10Pa)、そして0.12ミリバール(0.09トール、12Pa)以下、より好ましくは0.11ミリバール(0.083トール、11Pa)以下の圧力でスパッタすることによって、吸収体20の上に析出させた硫化カドミウム系物質である。好ましくは雰囲気は不活性または硫黄含有気体であるが、最も好ましくは不活性である。
【0022】
そのような析出工程中は、基板は、典型的には、たとえば把持部品などによって、チャンバー内のホルダーに固定されるか、または他の方法でホルダーの上に支持される。しかし、基板は、所望により、種々様々の手段によって、正しい方向に置かれて張り付けられてもよい。基板は、処理の間、不動のおよび/または可動の状態で、チャンバー内に提供されることができる。いくつかの実施態様において、たとえば、基板が析出の間、回転するように、基板は回転可能なチャックの上に支持されることができる。
【0023】
1つ以上のターゲットが、析出系内に操作しやすく提供される。ターゲットは要望される硫化カドミウム組成物を形成するのに組成的に適切である。たとえば、n型硫化カドミウムを形成するために、適切なターゲットは、カドミウムおよび硫黄を含有する化合物を含む組成を有し、好ましくは99%の純度のカドミウムおよび硫黄である。代わりに、カドミウムターゲットを硫黄含有気体の存在下で用いることもできる。生じる薄膜は、好ましくは少なくとも10ナノメートル(nm)、より好ましくは少なくとも15nmであり、好ましくは約200nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下、最も好ましくは15nm以下である。そのバッファーはこれらのより好ましい、さらに好ましい、最も好ましい非常に薄い層で効果的に機能するので、電池の中のカドミウムの量は先行技術の電池と比較して相対的に少ない。これらの電池は、低いカドミウム浸出量の追加的利点を有する。
【0024】
本発明の方法によって作られた電池において少量の相互拡散は起こるかもしれないが、それはスパッタリングのための雰囲気がより低い圧力であるときに見いだされるよりも著しく少ない。相互拡散界面領域は、吸収体領域では、電池の断面のエネルギー分散型X線分光法走査においてカドミウムの原子分率が0.05を超える点によって境界が定められ、そしてバッファー領域では、インジウムおよびセレンの原子分率が0.05未満でありかつ好ましくは銅の原子分率が0.10未満である点によって境界が定められる。原子分率は、銅、インジウム、ガリウム、セレン、カドミウム、硫黄および酸素の原子の量の合計を基準とする。硫化カドミウム粒の粒径は、好ましくは50nm未満、より好ましくは30nm未満、そして最も好ましくは20nm未満である。この実施態様によれば、界面領域は厚さが10nm未満、好ましくは8nm未満である。
【0025】
原子分率は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた透過型電子顕微鏡(TEM)ライン走査から決定することができる。TEM分析のための試料は、オムニプローブ・リフトアウト・ツール(Omniprobe lift-out tool)を装備したFEIストラタ・ジュアル・ビームFIB粉砕機(FEI Strata Dual Beam FIB mill)を用いた集束イオンビーム(FIB)粉砕によって調製することができる。TEM分析は、たとえば、フィシオーネ高角環状暗視野(Fischione high angle annular dark field)(HAADF)スキャニングTEM(scanning TEM)(STEM)検出器およびED AX EDS検出器を装備したFEIテクナイ(Tecnai)TF−20XT FEGTEMで行なうことができる。TEMの操作電圧はその装置にとって適切なレベルにすることができ、上記の装置ではたとえば約200keVの電圧が有用である。
【0026】
空間分解EDSライン走査は、STEMモードにおいてHAADF画像から得ることができる。長さ100nmのライン走査から、2nmのスポット・ツー・スポット分解能(spot-to-spot resolution)および約1nmのSTEMプローブ寸法を用いて、50本のスペクトルを得ることができる。ピーク強度(バックグラウンドを除去した後の積分ピークカウント数)は、特定の元素の濃度(質量%)に正比例するので、フル・スケール・スペクトル(0〜20keV)は元素分布プロフィールに変換することができる。その後、質量%は元素のモル質量に基づいて原子濃度に変換される。当業者は理解するように、ピーク強度は検出器レスポンスおよび他の試料に依存する要因に対して補正されることに留意されたい。典型的には、製造者のEDS装置または他の適切な標準品のためのパラメーターに基づいて、これらの調節はされる。粒径はTEM明および暗視野像の標準分析によって決定することができる。
【0027】
硫化カドミウム層は少量の不純物を含有していてもよい。硫化カドミウム層は、好ましくは、カドミウム、硫黄、酸素および銅から本質的になる。好ましくは、カドミウムおよび硫黄の原子分率は少なくとも0.3であり、酸素の原子分率は少なくとも0.2であり、そして銅の原子分率は0.15未満、より好ましくは0.10未満である。
【0028】
スパッタのための雰囲気は、好ましくはアルゴン、ヘリウムまたはネオンのような不活性気体である。基板はターゲットからのあらかじめ決められた距離でそしてターゲットに対しあらかじめ決められた方向で配置されることができる。いくつかの実施の形態において、この距離は所望により析出の間に変えることができる。典型的には、その距離は約50ミリメートル(mm)〜約100mmの範囲にある。好ましくは、その距離は約60mm〜約80mmにある。析出を始める前に、チャンバーは、典型的には、適切な基底圧に排気される。多くの実施態様において、基底圧は約1×10−8トール〜約1×10−6トールの範囲にある。
【0029】
好都合なことに、多くの実施の形態が約20℃〜約30℃の範囲内の温度で行なわれることができる。好都合なことに、多くの実施の形態が外界温度条件下で行なわれることができる。もちろん、析出速度、析出品質などを制御するのを助けるために、より冷たいまたはより暖かい温度が用いられてもよい。析出は、所望の厚さ、均一性を有するn型物質の層を提供するのに十分に長い時間、行なうことができる。
【0030】
単層であってもよいし複数の副層から形成されていてもよい随意的な窓領域2526は、分路に対して保護するのを助けることができる。窓領域26は、また、そのすぐ後のTC領域30の蒸着の間にバッファー領域28を保護することもできる。窓領域26は広範囲の物質から形成することができ、多くの場合、Zn、In、Cd、Sn、これらの組合わせなどの酸化物のような抵抗性の透明な酸化物から形成される。典型的な窓物質は本質的なZnOである。典型的な窓領域26は、約1nm〜約200nm、好ましくは約10nm〜約150nm、より好ましくは約80〜約120nmの範囲内の厚さを有することができる。
【0031】
物品10のための上部の伝導性の電極を提供するために、単層であってもよいし複数の副層から形成されていてもよいTCO領域30が、バッファー領域28に電気的に連結される。多くの適切な実施態様において、TCO領域30は、約10nm〜約1500nm、好ましくは約150nm〜約200nmの範囲内の厚さを有する。図示されているように、TCO領域30は、窓領域26と直接接触しているが、所望により1つ以上の介在層が、接着を促進するため、電気性能を高めるためなどような様々な理由で介在させられてもよい。
【0032】
種々様々の透明伝導性酸化物、非常に薄い伝導性透明金属薄膜、またはこれらの組合わせが、透明伝導性領域30の形成に用いられて含まれることができる。透明伝導性酸化物が好ましい。そのようなTCOの具体例としては、フッ素をドープした酸化スズ、酸化スズ、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物(ITO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)、酸化亜鉛、これらの組合わせなどが挙げられる。1つの実例となる実施態様において、TCO領域30は、バッファーに近接した第1の副層が酸化亜鉛を含み、第二の副層がITOおよび/またはAZOを含む、2層構造を有する。TCO層は、好都合なことに、スパッタまたは他の適切な析出手法によって形成される。
【0033】
TCO領域30の上に、この層のシート抵抗を減少させるために、所望により、集電グリッド構造体40を析出させてもよい。グリッド構造体40は、好ましくはAg、Al、Cu、Cr、Ni、Ti、Ta、TiN、TaNおよびそれらの組合わせの1種以上を含む。好ましくは、グリッドはAgで作られる。TCO領域30へのグリッド構造体の接着を高めるために、所望により、Niの薄膜(図示せず)を用いることができる。この構造体は種々様々の方法で形成することができ、たとえば、ワイヤーメッシュまたは類似したワイヤー構造体で作られてもよいし、スクリーン印刷、インクジェット方式の印刷、電気めっき、写真平版および適切なマスクによって任意の適切な析出手法を用いて金属化することによって形成されることができる。
【0034】
カルコゲン化物系光起電力電池は、光起電力物品10の上面12への適切なバリヤー保護層34の直接の低温適用によって水分に関連する劣化を受けにくくさせることができる。バリヤー保護層は単層であってもよいし複数の副層であってもよい。図示されるように、バリヤーは電気グリッド構造体を覆っていないが、そのようなグリッドを覆ったバリヤーが代わりにまたは図示されたバリヤーに加えて用いられてもよい。
【実施例】
【0035】
実施例1
光起電力電池を以下のように作製する。ステンレス鋼基板を用意する。基板の上にスパッタによってニオブおよびモリブデンの裏面電気接点を形成する。約550℃に保持されたステンレス鋼基板の上にエフュージョン源から銅、インジウム、ガリウムおよびセレンを同時に80分間蒸発させる1段蒸発法によってセレン化銅インジウムガリウム吸収体を形成する。この方法は、ほぼCu(In0.8Ga0.2)Seの化学量論の吸収体を生じる。
硫化カドミウム層は、表1に示されるように圧力を変えて、アルゴンの存在下、160ワットでCdSターゲット(純度99.9%以上)から高周波(rf)スパッタされる。基板の温度は35℃以下に維持され、ターゲットから基板までの距離は約90mmである。この層のおよその厚さは、表1に記載したとおりである。
硫化カドミウム層の上に、i−ZnOおよびAlドープZnOを高周波スパッタによって析出させた。AlドープZnOの上に集電グリッドを析出させる。
本質的に上記の手順によって作られた電池を、照明下で電流電圧特性の測定によって効率について試験する。表に示されるように、効率は約0.1ミリバール(10Pa)でピークに達した。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例2
本質的に実施例1の方法によって作製された光起電力電池の断面は、上記の明細書の中に記述されるような集束イオンビームによって調製される。上記参照。
図2は、セレン化銅インジウムガリウム系吸収体の上に、上記のようにアルゴン雰囲気中で99.9%の純度の硫化カドミウムターゲットから硫化カドミウムをスパッタして作られた電池のEDSによる原子分率を示す。図2a)は、0.1ミリバールでスパッタすることによって本発明の方法で作られた電池の原子分率を示す。図2b)は、0.002ミリバールでスパッタすることによって作られた比較の電池の原子分率を示す。これは、より高い圧力で形成された試料においては相互拡散が約10nmの範囲に限定されることを示す。
【0038】
実施例3
銅、インジウムおよびガリウム元素を含むスパッタされた層の(セレン元素を使用した)セレン化によって、そして表2に示されるようにCdSスパッタリング中に圧力を変えて作られた吸収体を使用して、実施例1を繰り返す。吸収体形成プロセスは以下のように進行する。ニオブおよびモリブデンをあらかじめ析出させたステンレス鋼基板の上に、銅、インジウムおよびガリウムを、各元素のターゲットまたは銅、インジウムおよびガリウムの合金から作られたターゲットのいずれかからスパッタすることによって析出させる。100℃以下に基板温度を維持しながら、被覆された基板の上にセレン元素を蒸着させる。その後、この被覆された基板を加熱し、銅、インジウム、ガリウム前駆体をセレン化させる。
【0039】
【表2】
図1
図2
図3