特許第5918334号(P5918334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918334
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】医療用高吸収性凍結乾燥ヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/00 20060101AFI20160428BHJP
【FI】
   A61L27/00 U
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-216662(P2014-216662)
(22)【出願日】2014年10月23日
(62)【分割の表示】特願2009-503139(P2009-503139)の分割
【原出願日】2007年3月15日
(65)【公開番号】特開2015-61606(P2015-61606A)
(43)【公開日】2015年4月2日
【審査請求日】2014年11月19日
(31)【優先権主張番号】60/743,944
(32)【優先日】2006年3月29日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】11/465,791
(32)【優先日】2006年8月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509221607
【氏名又は名称】インセプト エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】アマルプレエト エス.サウフネイ
(72)【発明者】
【氏名】ステベン エル.ベンネトト
(72)【発明者】
【氏名】スレシュ エス.パイ
(72)【発明者】
【氏名】スコトト アール.セルスヘン
(72)【発明者】
【氏名】フレド エイチ.コ
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−502082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
A61F 2/00
A61F 13/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高吸収性ヒドロゲルの製造方法であって:
前駆体成分を組合せて混合物を形成し、該前駆体成分の共有結合架橋を開始させること;
該組合せた前駆体成分を冷却した皿又は容器上に載せること;
該共有結合架橋が完了する前に該混合物を冷凍すること;及び
該冷凍された混合物を凍結乾燥させて、該ヒドロゲルを形成することを含み、
該前駆体成分は、求電子性官能基を含む第1の求電子性前駆体と、アミノ及びチオールからなる群から選択される求核性官能基を含む第2の求核性前駆体とを含み、該求電子性官能基と該求核性官能基とが互いに化学的に反応して、共有結合を形成し、該前駆体成分を架橋する、前記製造方法。
【請求項2】
凍結乾燥の後、前記ヒドロゲルを調整することを更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ヒドロゲルが調整されるときに、該ヒドロゲルが架橋を完了する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ヒドロゲルが調整された後は、該ヒドロゲルは未反応の反応性エステル末端基を有さない、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記混合物を前記皿又は容器上で冷凍する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記凍結乾燥したヒドロゲルを1以上の構造体に形成することを更に含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記前駆体成分の架橋が水相で開始される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記混合物が凍結乾燥されるとき、前記ヒドロゲルは共有結合架橋を完了する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記前駆体成分が高度に分岐された活性PEGを含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記求核性前駆体は2以上のリジン基を有するオリゴペプチドを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
ヒドロゲルの製造方法であって:
前駆体成分を組み合せて、該前駆体成分の共有結合架橋を開始させ、ヒドロゲルを形成すること;
該ヒドロゲルを、該組合せた前駆体成分の凝固点以下に冷却した皿又は容器上に載せること;
架橋が完了する前に、該ヒドロゲルを冷凍すること;
該冷凍したヒドロゲルを凍結乾燥すること;及び
該凍結乾燥したヒドロゲルを調整し、該前駆体成分の共有結合架橋を完了することを含み、
該前駆体成分は、求電子性官能基を含む第1の求電子性前駆体と、アミノ及びチオールからなる群から選択される求核性官能基を含む第2の求核性前駆体とを含み、該求電子性官能基と該求核性官能基とが互いに化学的に反応して、共有結合を形成し、該前駆体成分を架橋
該ヒドロゲルの調整が:
該ヒドロゲルを、管理された湿度環境に曝露すること;
該ヒドロゲルを、熱により更に乾燥すること;
該ヒドロゲルを、管理されたガス環境に曝露すること;
該ヒドロゲルを、エアロゾル化緩衝溶液に曝露すること;及び
該ヒドロゲルを、完全乾燥すること;を含む群から選択され1以上の調整ステップを含む、
前記製造方法。
【請求項12】
前記ヒドロゲルを凍結乾燥するステップが:
該ヒドロゲルを凍結乾燥温度及び真空状態に曝露することを含む第1ステージ;及び
該凍結乾燥温度を上昇させること及び該真空状態を低減させることのうちの少なくとも1つを含む第2ステージを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記第2ステージは、第2ステージの期間、前記真空状態を低減させることを含み、かつ前記凍結乾燥温度を該第2ステージの期間少なくとも断続的に上昇させる、請求項12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は一般的にはヒドロゲル材料および当該材料を製造する方法に関し、特に凍結乾
燥したヒドロゲル材料、当該材料を製造する方法、当該材料を医療用の装置又は構造体に
形成、及び/又は当該装置又は構造体を体内に導入する方法、及び、例えば、刺し穴、体
腔、又はこの他の体内の管路を裏打ち及び/又は密封するために当該材料を体内に送達す
る装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
ヒドロゲルは溶剤(例えば水)を吸収し、認識できる分解なしに急激に膨張し、かつ可逆
変形性の3次元ネットワークを維持する材料である。ヒドロゲルは非架橋状態又は架橋状
態でよい。非架橋状態のヒドロゲルは吸水可能であるが、疎水部及び親水部の存在により
非溶解である。
【発明の概要】
【0003】
(発明の要旨)
本発明はヒドロゲル材料および当該材料を製造する方法に関する。特に本発明は高吸収
性及び/又は凍結乾燥したヒドロゲル材料の製造方法、及び当該材料を体内に導入するた
めの装置又は構造体として形成することに関する。更に、本発明は、例えば、刺し穴、体
腔、又はこの他の体内の管路を裏打ち及び/又は密封するための当該材料を体内に送達す
る装置及び方法に関する。
【0004】
一実施態様によれば、前駆体成分を架橋することにより形成し得る高吸収生体分解性ヒ
ドロゲルが提供される。該ヒドロゲルは架橋が完了する前に該ヒドロゲルを凍結乾燥、す
なわち「リオフィライズ」(lyophilizing)することを含むプロセスにより形成すること
ができる。該ヒドロゲルは水相で、例えば共有結合で、架橋することができる。典型的な
実施態様では、該使用される重合機構は、求電子−求核的又は遊離基による開始にするこ
とができる。該ヒドロゲルが体内の組織又は他に移植されたときは、該ヒドロゲルは、例
えば、加水分解により分解可能である、又は実質的に非分解性とすることができる。一実
施態様では、該ヒドロゲルは少なくとも1つの巨大分子種及び/又は重合性分子種、例え
ば、1以上のポリエチレン・グリコール(PEG)分子、蛋白質、又は多糖類を含む。例えば、
該ヒドロゲルを形成するために、高度に分岐した活性PEG前駆体を2以上のリジン基、例え
ば、ジ-、トリ-、又はテトラ-リジンを有するオリゴペプチドと混合することができる。
【0005】
更に他の実施態様では、前駆体成分を組合せて、該前駆体成分の架橋を開始させて、ヒ
ドロゲルを形成させ、完全な架橋が所望の割合で完了したら、該ヒドロゲルを冷凍し、所
望する量の水分が該ヒドロゲルから除去されるまで、該ヒドロゲルを凍結乾燥し、該ヒド
ロゲルを1以上の構造体として形成することを含む、凍結乾燥ヒドロゲルの製造方法を提
供する。一実施態様では、冷凍前に、該ヒドロゲルを部分的に架橋させることができ、凍
結乾燥の後、例えば1以上の調整ステップ又はプロセスにより、架橋を完了させてもよい
。他の実施態様では、冷凍前に、該ヒドロゲルを部分的に架橋させてもよく、凍結乾燥時
に架橋を完了させてもよい。更に他の実施態様では、凍結乾燥及び/又は調整の後、架橋
を完了させてもよい。
【0006】
更に他の実施態様によれば、前駆体成分を組合せ、混合物を形成し、該前駆体成分の架
橋を開始させてヒドロゲルを形成することを含む該ヒドロゲルの製造方法が提供される。
該組合せ前駆体成分、混合物、及び/又はヒドロゲルを所定の冷却温度、例えば、組合せ
前駆体成分の凝固点以下に、冷却した皿又は他の容器上に載せてもよい。該組合せ前駆体
成分又は混合物を該容器上に載せる前、及び/又はその後に架橋させてもよい。
【0007】
該ヒドロゲルは該容器内で冷凍することができ、例えば、該ヒドロゲル及び/又は容器
を、所定の冷凍持続時間、組合せた前駆体成分の該凝固点以下の冷凍温度に曝露して、該
容器内で冷凍することができる。完全な架橋が所定の割合で達成されたら、例えば100%未
満の完了度で、該ヒドロゲルを冷凍することができる。本明細書中で用いる、「完全な架
橋」は十分な時間が経過し、該ヒドロゲルに更に架橋が可能な未反応な反応性エステル末
端基が実質的に存在しない状態として定義される。
【0008】
次いで、該ヒドロゲルから所望量の水分が除去されるまで、該冷凍ヒドロゲルを凍結乾
燥することができる。凍結乾燥は、例えば、異なる及び/又は変化する凍結乾燥温度及び
/又は真空圧力を含む、1つ又は複数の連続ステージで完了させることができる。凍結乾
燥後、該ヒドロゲルを1以上の構造体として形成することができる。例えば、該ヒドロゲ
ルを圧延、折り込み、圧縮、くり抜き、及び/又は機械加工し、1以上の構造体に形成す
ることができる。
【0009】
任意に、その意図する医療的使用の前に、凍結乾燥後、例えば、1以上の構造体として
形成する前又は後に、該ヒドロゲルを調整してもよい。該ヒドロゲルの調整では、該ヒド
ロゲルを所定期間、管理した温度及び/又は湿度環境に曝露し、熱により該ヒドロゲルを
乾燥し、所定期間、該ヒドロゲルを管理したガス環境に曝露し、所定期間、該ヒドロゲル
をエアロゾル化した緩衝剤溶液に曝露し、及び/又は該ヒドロゲルを完全乾燥する、1以
上のステージを含むことができる。該ヒドロゲルは、例えば該最終構造体の1以上の要求
性能特性を達成するために、1ステージで又は複数の連続ステージで調整することができ
る。一実施態様では、例えば、該ヒドロゲルが更なる架橋に使用される相当量の未反応エ
ステル末端基を有していない場合は、該最終ヒドロゲルが完全に架橋されるように、1以
上の調整ステージで該架橋を完了させることができる。
【0010】
冷凍時にヒドロゲルの架橋の程度を変化させることにより、該組成物を処理する時に凍
結乾燥後に形成されるマクロ多孔性ネットワークの全体の形態を調整することができる。
従って、凍結乾燥前にヒドロゲルを部分的に架橋することにより様々な利点が得られる。
例えば、部分的に架橋されたヒドロゲルを凍結乾燥した後に形成されるポリマー・ネット
ワークの細孔の寸法、細孔の数、細孔の分布、密度、及び/又は物理構造は、具体的要求
又は用途に応じて最適化できるパラメータである。冷凍前にヒドロゲルを部分的に架橋す
ることによる、これらパラメータの操作で、性能又は機能的に要求される材料の特性が制
御ができる。これらの特性として引張強度、圧縮率、剪断強度、クリープ抵抗、応力緩和
、ヒドロゲル膨張率、及び/又はヒドロゲルの膨張量を含むが、これらに限定されない。
一実施態様では、該ヒドロゲルの冷凍時に、架橋量が低から中程度の場合に、該ヒドロゲ
ルを水性環境に曝露すると、速く、大きく膨張することが可能である、低から中程度の密
度を有し、柔らかく、柔軟性のあるマクロ多孔性ネットワークが形成される。他の実施態
様では、該ヒドロゲルの冷凍時に架橋が中から高程度であれば、該ヒドロゲルを水性環境
に曝露すると、緩やかで膨張量を少なくすることが可能である、中から高密度で、強固で
多孔又はマイクロ多孔質のポリマー・ネットワークが形成される。これらの材料は様々な
医療用途における使用で望ましく、かつ有益である。さらに、冷凍時の架橋の程度を調整
又は変化させることにより、所望の材料の特性を備え、かつ個別の医療用途の所望の性能
要求を満たすように、適合又は調整された固有の性能を備える組成物の製造及び/又は処
理が容易になる。
本発明のその他の態様および特徴は、添付の図面と共に、以下の詳細な説明から明確と
なる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(詳細な説明)
図面において、図1-3は凍結乾燥ヒドロゲルを製造する、及び/又は体内に導入し得る
、凍結乾燥ヒドロゲルの材料から1以上の構造体を形成する、例示的な方法を示す。一般
に該ヒドロゲルは、本明細書中の他で説明されている1以上のプロセスを用いて形成され
る高吸収及び/又は生体分解性ヒドロゲルである。本明細書中に他で更に説明されるよう
に、該ヒドロゲルは体液又は他の水性環境に曝露するように、患者の体内、例えば組織、
体腔、又は他の位置に移植又は送達し得る。本明細書で用いられる、「高吸収体」は、水
性環境に曝露したとき、急速に液体を吸収するヒドロゲルを定義する。例えば、全血に曝
露してから約5から60秒以内で液体吸収により約500から3000パーセント(%)まで質量が
増加する(湿重量獲得量対乾燥重量)。
【0012】
本明細書記載の方法を使用して製造する該ヒドロゲルは、1立方センチメートル当り約0
.05から0.30グラムの密度(g/cc)を有することができる。該前駆体成分及び/又は他の
プロセスのパラメータと共に、密度は該ヒドロゲル材料の1以上の特性、例えば、膨張速
度、膨張量、圧縮率等に影響を与え得る。例えば、該ヒドロゲルを水性環境に曝露すると
急速に膨張し、例えば、約5から60秒以内に初期質量の約500から3000パーセント(%)(
「膨張速度」)まで膨張することができる。これに加え、又は代替として、該ヒドロゲル
を脱水状態から完全な水和状態にした後、体積は約5から50倍(「膨張量」)に膨張するこ
とができる。水和状態になると、該ヒドロゲルは時間の経過により、例えば約1から90日
又は約5から60日で、体内に吸収、あるいは分解され得る。代わりに、該ヒドロゲルは実
質的に非分解性にすることができる。すなわち、生理的環境では1又は2年以内は実質的に
分解されない。
【0013】
本明細書に記載された材料及び方法により形成された該ヒドロゲルは、マクロ多孔性ネ
ットワーク、マイクロ多孔性ネットワーク、又は「フォーム」、すなわち、該ヒドロゲル
を介して、実質的に連続した固体格子材料を含む2相の固体−ガス系を構成することがで
きる。該ガス相(例えば、空気)を窪み又は「細孔」における該格子を介して実質的に均等
に分散され得る。該フォームは「オープン・セル」とすることができる。すなわち、該細
孔はこれらを規定する格子を介して1つの細孔から他の細孔への液体の流通を可能にする
開口部を備えることができる。
【0014】
図1に示すように、本明細書中に記載されるもののような、高吸収性で生物分解可能な
ヒドロゲルを製造する方法は一般に、2以上の前駆体材料を組合せて、ヒドロゲル材料の
製造を開始するステップ(ステップ110)、該ヒドロゲル材料を凍結乾燥するステップ(ス
テップ120)、及び該ヒドロゲルを1以上の構造体に形成(ステップ130)するステップを含
む。以下にさらに記載されているように、この結果得られる構造体は患者の体内、例えば
、組織を介して、刺し穴、体腔、又は他の管路に導入することができる。該例示的な方法
のステップ又はサブステップは特定の順序で行うように本明細書中に記載されているが、
該ステップは前述と異なる順序で行うことも可能である。
【0015】
図2では、例えば図1の方法のステップ110途中に前駆体材料を組合せる例示的な方法を
示す。最初にステップ112で、ポリマー成分が例えば、供給者により予め製造され、粉末
の状態で提供される。例示的な実施態様では、該ポリマー成分は反応性末端基、ポリペプ
チド等を備えたポリエチレングリコール(PEG)に基づく分子を含んでいてもよい。該反応
性末端基はアミン及び/又はエステル末端基のような特定の環境条件下で化学結合を形成
できる化学基のセット、例えば、アミン及び/又はエステル末端基を含むことができる。
複数種の基本ポリマー(分子量が異なる直鎖PEG、原子の数及び分子量が異なる星形PEG等)
が使用することができる。
【0016】
一の例示的実施態様では、該粉末成分は2つの部分から成るシステムとすることができ
る。当該システムの一例では単一のPEG求核剤および単一のPEG求電子剤を含むことができ
る。該システムは、本明細書に明確に開示されたものと矛盾しない範囲で、引用により明
示的に本明細書中に組み込まれている、米国特許第6,566,406号又は同7,009,034号で開示
された製剤を含んでいてもよい。適切なシステムの例として、分岐求電子性PEG及びアミ
ンの官能基である1以上のジ-、トリ-、又はテトラ-リジンの組合わせを含むことができる
【0017】
例えば、該システムは第1の求電子性前駆体及び第2の求核性前駆体を含むことができ、
該2つの前駆体を互いに反応させて、架橋したヒドロゲルを形成することができる。例え
ば、前駆体は求電子性又は求核性官能基を有する多アーム型(例えば、2から12のアームを
有する)PEGである。前駆体の重量は意図する特性、例えば、約5から100キロダルトンの
アームに、有意に依存し得る。求電子性官能基の例として、スクシンイミジルグルタレー
ト(SG)、カルボキシルメチル-ヒドロキシブチレート-N-ヒドロキシスクシニミジル(CM
-HBA-NS)、N-ヒドロキシスクシンイミド、マレイミド、及びスクシニミジルエステルが
ある。求核性官能基の例としてアミンとチオールがある。
【0018】
該前駆体は水溶液に曝露したとき加水分解により及び/又はヒドロゲル適用部位に関係
する酵素により分解されるアミノ酸配列を組み込むことにより、標的酵素の分解により生
体分解性を有する基、例えばコラーゲナーゼを含むように選択することができる。加水分
解により分解可能な基の例としてエステルがある。
【0019】
それに代えて、該粉末成分はより複雑な構成とすることができる。すなわち、2以上の
粉末成分、例えば、PEGアミン、ポリペプチド、低分子量のPEGエステル、及び高分子量の
PEGエステルを含む4部のシステムが可能である。ヒドロゲルを形成可能なポリマー成分の
任意の組合わせを初期のポリマー成分として供給可能である。
【0020】
ステップ112では、該粉末成分を個別に什量し、(該粉末が再構築され、一緒に混合さ
れた後)最終のヒドロゲルに所望の割合の固体高分子材料を与えるのに対して該粉末成分
のそれぞれが計測される。例えば、貯蔵容器の該粉末成分が測定され、各ボトル又は他の
容器に収容することができる。代替として、該粉末成分は該製造者が提供した各容器に要
求された質量となるように事前に測定して供給することも可能である。
【0021】
ステップ114では、1以上の緩衝剤溶液も提供し得る。例えば、特定の緩衝剤溶液を調製
して、先に記載したような個々のポリマー成分それぞれの使用を容易にすることができる
。例示的実施態様において、該緩衝剤溶液には、ホウ酸塩緩衝剤(例えば、アミンポリマ
ー粉末成分)及び/又は燐酸塩緩衝剤(例えば、エステルポリマーの粉末成分)を含まれ
得る。
【0022】
該緩衝剤溶液を1以上のバルク容器から測るか、又は個別容器で、例えば、各緩衝剤溶
液に対応する粉末成分の量に対して所定の割合の量で供給してもよい。緩衝剤溶液の緩衝
剤、モル濃度、およびpHが調整することで、再構成したポリマー溶液を組合せる場合、所
望のゲル化時間(すなわち、完全架橋時間)を達成することができる。
【0023】
ステップ116では、該粉末成分を該緩衝剤溶液で再構成させて、前駆体溶液を製造する
ことができる。特に、該粉末成分をそれぞれの緩衝剤溶液で再構成させ、個別容器に保存
することができる。例えば、各緩衝剤溶液を、対応する粉末成分を収容した各容器に流し
込むことができる。次に、該容器を振るか、又は該粉末成分が該緩衝剤溶液に実質的に溶
けるように混合してもよい。前駆体溶液の成分およびこれらの製造方法についての追加情
報は、引用により明示的に本明細書に組み込まれている、米国特許第6,152,943号及び同
第6,606,294号で知ることができる。
【0024】
該粉末成分および緩衝剤溶液に使用する該化合物により、該プロセスが安定する前、又
は該プロセスの完了の直前に、該再構成を完了することができる。例えば、該粉末成分が
再構成された後、長時間に渡り、ある種の前駆体溶液は実質的に安定させることができる
。従って、該ヒドロゲルのプロセスが完了する前、例えば数時間前又は数日前でさえ、当
該前駆体溶液を準備することができる。逆に、PEGエステルの加水分解性のため、他の前
駆体溶液、例えばPEGエステルを含むものはその使用の直前に、例えば該ヒドロゲルのプ
ロセスが完了する約1分前に再構成を行う必要があり得る。
【0025】
ステップ118では、各該前駆体溶液が再構成された後、1つの容器内で組合せることがで
きる。前駆体溶液が組合されるとき、又は組合された後、前駆体溶液は完全に混合し、架
橋反応を開始させ、かつヒドロゲル材料の製造を開始させることができる。使用するポリ
マーの種類及び/又は使用する前駆体溶液の容積の合計により混合方法を選択することが
できる。例えば、比較的容積の少ない非発泡性材料は遠心分離機又は該溶液を振動撹拌に
より混合を行う遠心機又は渦発生器により混合可能である。代わりに、容積の大きい前駆
体溶液は撹拌板又は他種の非撹拌混合法により混合してもよい。所定の混合時間、例えば
約10から60秒間、能動混合を続けることで該組合せ前駆体溶液が十分混合されるようにす
ることができる。
次に、ステップ119では、例えば、該組合せた前駆体溶液を所定の架橋持続時間、放置
して、該組合せた前駆体溶液を少なくとも部分的に架橋させることができる。
【0026】
例示的な実施態様において、全架橋時間が約4から8分である、ポリマー溶液に対し、所
定の架橋持続時間は約0.5から2.5分である。本ステップは該凍結乾燥プロセスの開始前に
該組合せた前駆体溶液を完全架橋の所望の割合、例えば完全な架橋の約1から15パーセン
ト(%)まで、約5から20パーセント(%)まで、約10から30パーセント(%)まで、約15から40パ
ーセント(%)まで、約20から60パーセント(%)まで、約40から80パーセント(%)まで、約50
から90パーセント(%)まで、および約60から99パーセント(%)を含む、約1から99パーセン
ト(%)まで架橋させることができる。
【0027】
一実施態様では、上述のように、該前駆体溶液を冷却した皿又は他の容器に流し込み、
かつ実質的に室温で放置しておくことができる。代わりに、例えば、該凍結乾燥機又は該
所定の冷却温度(しかし、実質的に周囲気圧に維持されている)に設定したプレートに、
該組合せた前駆体材料を有する皿を載せることにより、該皿を該所定の冷却温度に維持す
ることができる。該組合せ前駆体溶液が冷めるに伴い、該架橋速度が低下及び/又は完全
な架橋が起こる前に、所望の割合で完了する。
【0028】
更なる代替として、該皿は最初に室温で供給することができ、かつ該組合せた前駆体溶
液は該所定の架橋持続時間中、実質的に室温で放置することができ、又は凍結乾燥機内で
、又は所望の温度に設定したプレート上に載せることができる。他の更なる代替として、
該組合せた前駆体溶液を該皿(上述のように、冷却しても、冷却しなくともよい。)に流
し込む前に該所定の架橋持続時間、架橋を行うことができる。
【0029】
図1に戻り、該前駆体溶液が適切に混合され、及び/又は少なくとも部分的に架橋が行
われると、ステップ120で、例えば、凍結乾燥機内で、該得られたヒドロゲル材料を凍結
乾燥することができる。該凍結乾燥機は1以上の所望の温度及び/又は真空圧力を1以上の
所望の時間、維持可能なチャンバを有する装置であってよい。該凍結乾燥プロセスは複数
の連続ステージを有し、すなわち各ステージは所定の温度、圧力、及び/又は持続時間を
有し、これらは手動で制御又は該凍結乾燥機にプログラムされる。
【0030】
図3で示す、例示的な方法は、該組合せた前駆体溶液及び/又はヒドロゲル材料を凍結
乾燥する方法を示す。最初に、ステップ122で、所定の冷却温度で冷凍した皿が供給され
る。該組合せた前駆体溶液を所望の冷却速度で冷却するために、該所定の冷却温度を、例
えば、約摂氏マイナス20度(℃)から摂氏マイナス70度(℃)で選択することができる。一の
例示的実施態様では、該皿は初期の凍結乾燥温度に実質的に等しい温度、例えば、約摂氏
マイナス40度(℃)より暖かくない温度に冷却することができる。例えば、該皿を該凍結乾
燥機の該凍結乾燥温度が得られるように、該皿を単に凍結乾燥機の棚に載せることにより
、該皿を選択した所定の温度に冷却することができる。代わりに、該皿は冷凍庫、冷蔵庫
、温度調整皿上、又は他の装置により予め冷却することができる。
【0031】
ステップ224では、該組合せた前駆体溶液及び/又はヒドロゲル材料を該皿上に流し込
むことができる。該皿は、該1以上の構造体として形成するヒドロゲル材料の最終形状と
して選択した任意の所望の形状を有することができる。該皿は例えば、円形、長方形、正
方形、又は他の幾何形状を有する平坦な皿とすることができる。該組合せた前駆体溶液を
該皿に流し込んだ場合、該皿の底から実質的に均一な厚み、例えば、約1から25ミリメー
トルの厚みを得ることができる。代わりに、該組合せた前駆体溶液及び/又は最終のヒド
ロゲル材料の所定の変化する厚さ、又は3次元構造を形成するために、該皿は1以上の窪み
を有することができる。更なる代わりとして、実質的に分離された該皿に複数の構造体を
形成する為に、該皿は該組合せた前駆体溶液を流し込むことができる複数の窪み有してい
てもよい。
【0032】
任意に、例えば、下記のように、1以上の構造体として形成する前又は後で、該皿から
該ヒドロゲル材料を容易に外せるように、該皿は1以上の表面被膜を有することもできる
。例えば、この目的のため、テフロン、シリコーン、パリレーン等の疎水性の表面被膜を
使用することが可能である。
【0033】
更に、所望のプロセス・パラメータ及び製造容易性実現の為に該皿の材料(例えば、ス
チール、アルミ、プラスチック、硝子、等)を選択してもよい。例えば、アルミ製の皿は
速く冷却することができ、高い熱伝導率を有するが、一方、テフロン製の皿は急激な温度
変化の影響を相対的に受難くすることができる。該皿の設計には該溶液の熱を該冷環境に
放散させるためのフランジ、フィン状の放熱器、又はヒート・シンクとして作用する当該
特徴(図示せず)を含めることができる。従って、該組合せた前駆体溶液の冷却を遅らせ
たり速めたりするように、該材料及び/又は皿の設計を選択することができる。他の実施
態様において、該組合せた前駆体溶液を該皿に流し込むとき、予め該皿は冷却せずに、該
皿を実質的に室温で提供することができる。この代替では、冷却した皿を使用する場合と
比較して初期の架橋を速めることができる。また該混合物溶液を氷結温度以上で皿に流し
込むことにより、自然に平坦となり、厚みがより均一になる。
【0034】
ステップ126では、該組合せた前駆体溶液(及び/又は少なくとも部分的に架橋したヒ
ドロゲル材料)を凍結温度に、すなわち、該組合せた前駆体溶液の凝固点以下に冷却する
ことで、該組合せた前駆体溶液及び/又はヒドロゲル材料を冷凍することができる。例え
ば、該皿は管理した冷環境、例えば、低温室又は低温チャンバー、又は温度を制御した皿
又はこの他の表面に配置し、これにより該組合せた前駆体溶液を冷凍するのに十分な所定
の時間、該皿を該凝固温度に維持できる。
【0035】
それに代わり、該皿を該組合せ溶液を比較的速く冷凍できる液体窒素のような寒剤、又
は所定の時間、ドライアイス又はアセトン溶液のような寒剤に曝露してもよい。例えば、
該組合せ溶液は「スナップ冷凍」、すなわち、該寒剤に曝露する時に該組合せ溶液の温度
を凝結温度以下に降下させるのに十分低い凝結温度に曝露させてもよい。スナップ冷凍は
急速に実質的に更なる架橋を停止させ、これに対して、遅い凝固ステージは実質的に更な
る架橋を停止する前に長時間、緩やかに架橋を行うものである。スナップ冷凍を使用する
場合は、例えば、氷が形成されるとき発生する割れや他の欠陥がヒドロゲル材料に生じな
いように注意が必要である。このステップで、該皿及びヒドロゲル材料は実質的に常圧で
維持することができる。
任意に、所望であれば、ステップ127で、凍結乾燥を行う前に、しばらくの間、例えば
数日間、該冷凍ヒドロゲルを保持してもよい。これにより、非常に遅い速度であるが、更
なる架橋が生じ、調整後に、より弾力性のある構造体を形成することができる。
【0036】
ステップ128で、一旦、該ヒドロゲル材料が実質的に完全に凍ると、該皿は凍結乾燥機
に送られ、該凍結乾燥プロセスが開始される。該プロセスは、該凍結乾燥機内の圧力を所
定の凍結乾燥真空状態(すなわち、常圧以下のゲージ圧)し、及び/又は1以上の期間、
所定の凍結乾燥温度に該凍結乾燥機内の温度を維持することを含んでいてもよい。該ヒド
ロゲル材料から所望量の水分が一旦除去されると、該凍結乾燥プロセスを停止する。該凍
結乾燥ステップは、該凍結乾燥機に単一の圧力及び/又は温度の設定により完了すること
ができる。
【0037】
それに代わり、所望のレベルの水分を除去する、すなわち該ヒドロゲル材料の凍結乾燥
を行うのに、望ましい様式で、該圧力及び/又は温度を調節する複数のステージで、該凍
結乾燥ステップを完了することができる。例えば、最初のステージで、該皿は該組合せ前
駆体材料の凝固点より十分に低い凍結乾燥温度に、例えば、約摂氏マイナス40度(℃)より
高くない温度で、かつ適切な真空圧力で、例えば、約50ミリトル(mTorr)の真空状態を約
10分間維持してもよい。任意に、該皿の内容物の凍結乾燥をさらに管理するためのステー
ジを使用することができる。例えば、第2ステージで、該皿を長時間、該組合せた前駆体
溶液の凝固点より僅かに低い温度に維持してもよい。その後、第3ステージで、該真空状
態を約50ミリトル(mTorr)に維持し、該温度を例えば、約150分で約摂氏10度(℃)の速度
で、該組合せた前駆体溶液の凝固点以上にゆるやかに上昇させてもよい。
【0038】
任意に、該皿の内容物のさらに凍結乾燥するために、更なるステージを使用することも
できる。例えば、第3ステージでは、該皿を約摂氏マイナス25度(℃)を超えない凍結乾燥
温度で、少なくとも約50ミリトル(mTorr)の真空状態で、少なくとも約1,440分維持しても
よい。第4ステージでは、該温度を、例えば50ミリトル(mTorr)の真空状態で、約1時間毎
摂氏10度(℃/hr)で、約300分(min)間上昇させてもよい。最後に、第5ステージで、例えば
約摂氏25度(℃)を超えない温度で、少なくとも約50ミリトル(mTorr)の真空状態を少なく
とも約240分間維持している間、該皿を該組合せた前駆体溶液の融解温度より高い温度に
長時間維持してもよい。
【0039】
次に、図3で続いては参照するステップ129で、凍結乾燥サイクルが完了すると、該凍結
乾燥したヒドロゲル材料に更に環境的調整を行ってもよい。調整パラメータ、特に、温度
は、厚み、密度、多孔性、及び/又は表面組織に関して該最終材料に影響を与え得る。例
えば、該ヒドロゲル材料には管理した温度及び湿度環境への曝露、熱供給による乾燥、エ
アゾール緩衝剤溶液への曝露、真空状態による乾燥、及び/又は管理したガス(アルゴン
、窒素、等)環境への曝露のいずれか1つ以上が行われる。また、該ヒドロゲル材料は更
に1回以上、異なる加湿及び乾燥フェーズの環境調整を直すことができる。例えば、湿度
は凍結乾燥で停止していた該材料の先の反応を促進することができる。
【0040】
該凍結乾燥したヒドロゲルは更に最初の期間、周囲温度、圧力、及び/又は湿度条件に
曝露させることができる(すなわち、例えば約20から25℃の周囲温度、周囲気圧、及び/
又は例えば約30から50パーセント(%)の相対湿度(「RH」)の周囲湿度を第1調整期間、例
えば、少なくとも約24時間)。この後、該温度、圧力、及び/又は湿度を上昇させること
ができる(例えば、少なくとも約摂氏35度(℃)及び少なくとも約90パーセントの相対湿度
(%RH)、第2調整期間、例えば、少なくとも約2時間)。任意に、所望の特性及び形態のヒ
ドロゲル材料を製造する為に、該ヒドロゲルを更なる調整ステージで所定の温度及び/又
は湿度で所定の期間、曝露させることができる。例えば、第3ステージで、該ヒドロゲル
を約摂氏30度(℃)及び約20から30パーセントの相対湿度(%RH)で約2時間曝露させ、第4ス
テージで、該ヒドロゲルを周囲条件(約20から25℃)及び湿度約30から50%RH、少なくと
も約120時間曝露させることができる。
【0041】
該1以上の調整ステージにおいて、該ヒドロゲルは医療に使用する前に更なる架橋を完
了することができる。一実施態様では、例えば、調整完了時に、該ヒドロゲルが更なる架
橋で使用される未反応のエステル末端基を相当量有しない場合は、該ヒドロゲル材料は実
質的に架橋を完了する。
【0042】
望ましい場合、サンプルで実質的な架橋が行われていることを確認するために1以上の
テストを行うことができる。例えば、サンプル内に未反応である反応性エステル末端基が
残存しているか否かを検出するために蛍光染料、例えばフルオレセイン(該サンプル内の
任意の未反応のエステル基で反応する可能性のある3つ主要アミン基を有する)を使用す
ることができる。該染料を該サンプルに塗布した後、該サンプルの反応に十分な時間を与
えてもよい。次に、余分な染料を除去するために該サンプルを洗浄し、該サンプルを紫外
線に曝露することができる。該サンプルが実質的に未反応の反応性エステル末端基を含む
ときは、曝露することで、該染料は蛍光を発する。従って、該サンプルが実質的に完全に
架橋されると、すなわち、実質的に未反応の反応性エステル末端基を含まない場合、該染
料を紫外線に曝露したとき、該染料は実質的に蛍光を発しない。
【0043】
また、それに代わり、凍結乾燥ステージで架橋を実質的に完了することが可能である。
例えば、高度分岐活性PEGをトリライシンと混合させ、例えば、本明細書で説明してある1
以上のステップにより凍結乾燥できる。従って、高吸収性ゲルは単に凍結乾燥を行うこと
により製造可能である。
【0044】
図1に戻ると、ステップ130で、該凍結乾燥したヒドロゲル材料を最終形態に機械加工又
は他のやり方で形成できる。例えば、該ヒドロゲル材料を該皿から取り外し、切断、芯抜
き、機械加工、又は他のやり方で複数の構造体、例えば、1以上の板、棒、管、等に分割
する。これに加え、又は代わりに、該ヒドロゲル材料を所望の構造又は形状に圧延、圧縮
、及び/又は折り曲げることができる。例えば、該ヒドロゲル材料の分割された部材を、
送達装置に積載可能な構造又は下記のように患者の体内に導入できる寸法に圧延、圧縮、
及び/又は折り曲げることができる。
【実施例】
【0045】
(該プロセスの例外的実施態様)
本実施例では、2ポリマー・システムを選択する。該システムは、アミン端末PEG及びエ
ステル端末PEGを含む。該ポリマーの特性を次に示す。
アミン塩基ポリマー: 8腕星形PEGポリマー、全分子量20キロダルトン
エステル塩基ポリマー: 4腕星形PEGポリマー、全分子量10キロダルトン
該粉末成分は固体ポリマーの材料として存在する最終ヒドロゲルの質量の5パーセント(%)
となる質量になるよう秤量する。
【0046】
次に、該アミンポリマーを再構成するためにホウ酸塩緩衝剤を選択し、該エステルポリ
マーを再構成するために燐酸塩緩衝剤を選択する。再構成の後、該材料の反応条件および
処理時間を最適化するために、例えば、下記の特性に基づき、これらの緩衝剤溶液のモル
濃度及びpHを選択する。
ホウ酸塩緩衝剤: 注射用蒸留水中のホウ酸ナトリウム
モル濃度=0.05M
pH=7.63±0.05
燐酸塩緩衝剤: 注射用蒸留水中の燐酸ナトリウム
モル濃度=0.01M
pH=4.0±0.05
【0047】
次に、該PEGアミンは該ホウ酸塩緩衝剤で再構成し、該PEGエステルを該燐酸塩緩衝剤で
再構成する。次いで該前駆体溶液は、例えば、遠心管内で組合せ、かつ、例えば、渦発生
器を使用して、約15秒間激しく混合させる。
次に、所望の形状/寸法及び、例えばPTFE被膜を含む1以上の表面被膜を有する1以上の
皿又は容器を選択し得る。所定の凝固温度に設定可能な該凍結乾燥機の棚上の皿を事前に
冷却することにより、該1以上の皿で該ヒドロゲル前駆体溶液を受けることができる。例
示の方法では、該皿は約5センチメートル(cm)x5センチメートル(cm)の面積を有すること
ができる。該皿を該凍結乾燥機の棚上で熱平衡させることにより、使用前に、約摂氏マイ
ナス40度(℃)に冷却する。
【0048】
該所望の架橋量に達したら、所定量の該混合前駆体溶液を組合せ、該所望の架橋を達成
させる。例えば、該皿が該凍結乾燥機の棚上にあるとき、約8ミリリットル(ml)が該冷却
した皿に流し込んだ場合、6分の溶液で25パーセント(%)の架橋を達成するために90秒かか
る。
該前駆体溶液を該皿に流し込んだ直後に、該凍結乾燥機の扉を密封する。該溶液は、最
低2分間この温度に維持される。このとき、該凍結乾燥サイクルが始動する。該ポリマー
材料が実質的にメルトバックせずに該遊離水および結合水を除去できるように、当該分野
で周知の代表的な凍結乾燥パラメータを使用することができる。次に、凍結乾燥パラメー
タを以下に挙げる。
【表1】
【0049】
該凍結乾燥サイクルの完了時に、該架橋した材料を更に環境調整する。例示的調整パラ
メータを以下に挙げる。
【表2】
【0050】
例えば、本明細書で説明された、水和反応速度、体積膨張率、及び製造後保管寿命に関
する該最終凍結乾燥材料の生産品性能を変更するために、該ヒドロゲルを曝露する該環境
パラメータ(温度、圧力、及び/又は湿度)を調節することができる。一般に、これらの
調節ステップ完了時に、該ヒドロゲルが更なる架橋で使用可能な相当量の未反応のエステ
ル末端基を有さない程、該ヒドロゲル材料は完全に架橋される。
【0051】
次に、該凍結乾燥ヒドロゲルを所望の寸法及び/又は質量に切断する。例えば、該ヒド
ロゲルは長さが約15ミリメートル(mm)で、幅が約6から8ミリメートル(mm)で、厚さが約1
から1.5ミリメートル(mm)の寸法(15mm×6〜10mm×1.0〜1.5mm)で、目標質量を約20ミリ
グラム(20mg±6mg)で形成可能である。次に、該材料は所望の医療用途の為に更に処理す
ることができる。
【0052】
得られた材料は体内に導入及び/又は移植の為の1以上の構造体として形成することが
できる。該構造体は、例えば、既存の経路(例えば、血管又は他の体腔)又は手術により
生体表面等に形成した経路(例えば、穿刺、又は組織を介した他の経路)を介して、単独又
は他の様々な用途の装置の一部として体内に導入することができる。例えば、動静脈奇形
、動脈瘤、腫瘍患部等の閉鎖又は孤立化を行うために、該構造体は処置部位の閉鎖や血栓
処置に使用できる。例えば、ステント、神経血管コイル、薬剤供給インプラント、又はこ
の他の埋込装置を被覆する為に、該構造体は他の装置に組み込むことができる。また、該
構造体は体の表面に貼り付け可能な止血パッチ又は他の装置に組み込むことも可能である
。該装置は恒久的又はこのヒドロゲル及び/又は該装置の他の成分が時間の経過とともに
、該体により吸収され得るような生体吸収性とすることができる。本明細書で説明された
方法及び材料が組み込まれる装置及び用途は、引用によりその全体の記載が明示的に本明
細書に組み込まれている、米国特許第6,605,294号に開示されている。
【0053】
図4は、凍結乾燥したヒドロゲル材料、例えば、上述の該方法から得られたものから形
成できる例示的な装置又は構造体4を示す。例えば、該構造体4は、該体腔を実質的に封止
するために刺し穴又は他の体腔に送達し得るプラグ又は他の止血装置とすることができる

該構造体4を形成するために、大きな部材から切り出されたヒドロゲル材料のシート又
は他の部材を第1及び第2端6、8を有する円筒形に圧延することができる。該構造体4が該
第1及び第2端6、8間に延びる中心管腔10を有するように該シートを圧延することができる
。例えば、図示するように、該シートはこの長手方向の側端12、14が互いに重なり合うよ
うに圧延することができる。それに代わり、側端12、14を互いに密着又は接続することが
できる。
【0054】
さらにその代わりに、該部材は中実のロッド又はバーの形状に圧延、機械加工、又は他
の方法で形成することができる。所望であれば、中心管腔は当該ロッド又はバーを例えば
、穴あけ、芯抜き、等を行うことにより形成することができる。これに加え、又はそれに
代えて、所望の直径又は他の断面を得る為に、ヒドロゲルの該部材(圧延されているか否
かにかかわらず)を圧縮することができる。例示的な実施態様として、得られる構造体4は
約1.5から2.4ミリメートル(mm)の直径及び/又は約13から17ミリメートル(mm)の長さを有
することができる。該管腔10は約0.5から0.9ミリメートル(mm)の直径を有することができ
る。
【0055】
任意に、該構造体4の周囲に接着層を形成するために該構造体4は1以上の成分、例えば1
以上の接着層前駆体を含むことができる。これに加え、又はそれに代えて、該接着層前駆
体は実質的に該構造体4全体に浸透、あるいは混合させることができる。当該接着層につ
いての追加情報は、引用によりその全体の記載を明示的に本明細書に組み込まれている、
2004年11月5日に出願された出願第10/982,387号及び2004年11月5日に出願された同10/982
,384号で知ることができる。
【0056】
これに加え、又はそれに代えて、該構造体4はコラーゲン、フィブリン、トロンビン、
カーボキシルメチルセルロース、酸化セルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、又は他の蛋
白質材料及び/又はポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリビニル・アルコール等
の合成材料などの1以上の生物学的止血促進剤を含有する止血促進物質を含むことができ
る。任意に、例えば特別な疾患の治療、治癒の促進、感染及び/又は他の有害医療事象の
防止等の為に該構造体4は治療薬及び/又は医薬品を含むことができる。1以上の被膜又は
層として形成及び/又は積層させて、当該薬剤を該構造体4の材料に組み込むことができ
る。また、これら薬剤はヒドロゲル製造プロセスで、例えば、再構成前に該粉末に、混合
時に該前駆体溶液に、調整時に該ヒドロゲルケーキに、又は医療に使用する前いつでも導
入することができる。
【0057】
任意に、例えば、該細孔の表面張力の減少及び/又は密封効力を高めるために、該構造
体4では溶液の吸収率を向上させる薬剤を凍結乾燥したヒドロゲルに含めることができる
。当該薬剤は1以上の被膜又は層として形成及び/又は積層した後、該構造体4の材料に組
み込むことができる。これら薬剤はヒドロゲル製造プロセスで再構成前に該粉末に、混合
時に該前駆体溶液に、調整時に該ヒドロゲルケーキに、又は医療に使用する前いつでも導
入することができる。
【0058】
任意に、X線又は通常使用する蛍光透視装置で該ヒドロゲル材料を視覚化する為の放射
線不透過性物質を構造体4に含ませることができる。当該物質は1以上の被膜又は層として
形成及び/又は積層させた後、該構造体4の材料に組み込むことができる。これら物質は
ヒドロゲル製造プロセスで再構成前に該粉末に、混合時に該前駆体溶液に、調整時に該ヒ
ドロゲルケーキに、又は医療に使用する前いつでも導入することができる。
【0059】
他の代替として、該構造体4は2層以上のヒドロゲル材料(図示せず)を含む複合又は積層
構造体により形成することができる。例えば、ヒドロゲル材料の各層は上述のように形成
した後、これらを積層、型締め、又は他の方法で形成できる。それに代わり、本明細書で
記述した方法のように、第1層のヒドロゲル材料は皿又は他の容器に流し込み又は送達す
ることができる。該ヒドロゲル材料が該皿の形状に適合又は少なくとも一部を満たすよう
に該ヒドロゲル材料は液体又は流体状態で該皿に流し込むことができる。該ヒドロゲル材
料の架橋が完了する前に、該第1層上に第2層を形成させるために該第1層上に該第2のヒド
ロゲル材料を流し込むことができる。該2層の接着を強化又は積層するために、該第2層は
該第1ヒドロゲル層に僅かに浸透させることができる。
【0060】
該第2層の材料は該第1層を形成する材料と異っていてもよい。任意に、第3又は追加の
層を該第2層上に塗布することができる。この点から、積層体構造を形成するために複数
の独立したヒドロゲル層を形成することができる。
該第2及び/又は追加の層の架橋が完了する前に、本明細書で記述の方法と同様に、該
皿を冷凍し、その後凍結乾燥することができる。また、本明細書で説明されたように、次
に該積層体は該皿から取り外し、所望の形状に形成することができる。
【0061】
他の更なる代替として、実質的に該ヒドロゲルが膨張することを制限又は防止する遮断
剤で該ヒドロゲルを改質させることができる。恒久的な移植及び/又は送達装置からの取
り外しを行う前に、再配置又は回収を要求する医療用途で必要となる場合がある、一貫し
、かつ遅延した膨張を可能とする拡散又は流体により除去されるように該遮断剤は一過性
を有するものであってもよい。
【0062】
図5では、例えば、刺し穴又は他の体腔を封止するために、図4の該構造体4(又は、構造
体4に関する他の構成)を送達するために、送達カートリッジ、カテーテル、又は他の装置
30を提供してもよい。一般に、該装置30は送達外装又は他の円筒状部材40、プランジャ又
は他の押し込み部材50、及び任意に位置決め部材60を含むことができる。
【0063】
該送達外装40は実質的に硬性、半硬性、又は柔軟性の部材であり、近位末端42、組織を
介して体腔又は他の管路に導入可能な寸法を有する遠位末端44、及び該構造体4を内部に
受け入れ又は他に運搬する管腔46を備えることができる。組織の管路を介して前進させる
為に、該遠位末端44は先細に形成、及び/又は実質的に非侵襲の先端部を含めることがで
きる。該送達外装40は管腔42上にハンドル(図示せず)及び/又は1以上のシール、例えば
、止血シール(図示せず)を備えることができる。該構造体4は管腔46内、例えば、該遠位
末端44に隣接させて配置することができる。下記のように、該管腔42は該構造体4が送達
中に該管腔内で滑動可能な、例えば該送達外装から遠位で移動できる寸法を有する。
【0064】
該押し込み部材50は例えばプランジャ、カテーテル等の細長部材であり、近位末端52、
及び該送達外装40の管腔42に滑動させて挿入可能な寸法を有する遠位末端54を含めること
ができる。任意に、該押し込み部材50の近位末端52は該押し込み部材50の遠位末端54を注
射器に係合させるコネクタ(図示せず)、又は1以上の流体を該装置30へ又はこれを介して
送達する他の送達装置70(図示せず)を含むことができる。他の構成要素、代替装置、及
びこれらの使用方法についての追加情報は、引用により明示的に本明細書に組み込まれて
いる、2004年3月22日に出願された同時継続出願第10/806,952号及び2004年11月5日に出願
された第10/982,384号で知ることができる。
【0065】
さらに参照する図5では、下記のように、該送達外装40及び/又は管路内に該構造体4を
接触、詰め込み、押し込み、及び/又は「把持」できるように該押し込み部材50の遠位末
端54を実質的に鈍角に形成することができる。該押し込み部材50を固定することなく該構
造体4に相対する該送達外装40を移動できるように、該押し込み部材50は十分な管強度を
備え、実質的に硬性、半硬性、又は実質的に柔軟性を有することができる。一実施態様に
おいて、該押し込み部材50は該構造体4を詰めるのに十分な管強度を有しているが、該構
造体4が事故により血管又は他の体腔94に進入することを防止するために該近位末端52に
柔軟性又は「可撓性 」を持たせてある。例えば、該位置決め部材60及び/又はガイドワ
イア(図示せず)を収容するために、該押し込み部材50は該近位末端52から該遠位末端54の
間に延在する管腔56を有することができる。
【0066】
任意に、図5で示す実施態様のように、該位置決め部材60は中実又は中空の細長い本体
を有し、近位末端62、遠位末端64、及び該遠位末端64上に位置決めエレメント66を備えて
いる。該位置決めエレメント66は上記で引用により本明細書に組み込まれている、出願第
10/982,384号で開示されているものように、風船、ワイヤメッシュ構造体、膨張フレーム
等のような膨張性エレメントとすることができる。例えば、膨張媒体、プルワイア、及び
/又は他のアクチュエータ(図示せず)を使用して、該位置決めエレメント66は該位置決め
部材60の近位末端62から膨張又は動作させることができる。例えば、注射器又はこの他の
膨張媒体源を該位置決め部材60を介して膨張位置決めエレメントに延在している管腔(図
示せず)に結合することができる。位置決め部材60に組み込み得る膨張構造体についての
追加情報は米国特許第6,238,412号及び同6,635,068号、US2003/0078616A1として刊行され
た同時継続出願第10/143,514号、2003年6月4日に出願された出願第10/454,362号、2004年
3月22日に出願された同第10/806,927号、2004年8月27日に出願された同第10/928,744号、
並びに2005年4月22日に出願された同第11/112,971号で知ることができる。これらの開示
全体は引用により明示的に本明細書に組み込まれている。
【0067】
本発明は様々な改良が可能であり、かつ代替の形態あり、これらの具体例が図面で示さ
れており、かつ本明細書で詳細に説明されている。しかし、本発明は開示された特定の形
態又は方法に限定されることなく、本発明は添付の特許請求の範囲内にある全ての改良、
同等物、及び代替物を含むことを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
(図面の簡単な説明)
図1】凍結乾燥したヒドロゲルを製造する典型的な方法を示す流れ図である。
図2】凍結乾燥したヒドロゲルを製造する典型的な方法を示す流れ図である。
図3】凍結乾燥したヒドロゲルを製造する典型的な方法を示す流れ図である。
図4】凍結乾燥したヒドロゲルから形成し得る典型的な構造体の斜視図である。
図5図4で示される様な構造体を患者の体内に送達する為の典型的な送達装置の斜視図である。
図6A図5の送達装置の典型的な使用方法を示す図である。
図6B図5の送達装置の典型的な使用方法を示す図である。
図6C図5の送達装置の典型的な使用方法を示す図である。
図6D図5の送達装置の典型的な使用方法を示す図である。
図6E図5の送達装置の典型的な使用方法を示す図である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E