(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イオントラップのパラメータを測定することが、さらに、電子と特定の圧力のテストガスとの衝突によって形成されるイオンの量を電子源リペラバイアスの関数として測定することを含む請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
前記トラップが、さらに、イオン出口ゲートポテンシャルバイアスを有するイオン出口ゲートを含み、イオントラップの設定を調節することが、さらに、前記イオン初期ポテンシャルエネルギー分布(IPED)と前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間で相互の調節を行うことを含む請求項1に記載の方法。
前記IPEDと前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間で相互の調節を行うことが、IPEDオンセット値に基づいて前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスを設定することを含む請求項10に記載の方法。
前記IPEDオンセット値と前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間で相互の調節を行うことが、さらに、前記IPEDオンセット値に基づいて電子増倍管シールドポテンシャルバイアスを設定することを含む請求項11に記載の方法。
前記IPEDと前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間で相互の調節を行うことが、電子源リペラポテンシャルバイアスおよび電子源フィラメントバイアスを調節して特定のIPEDオンセット値をもたらすことを含む請求項10に記載の方法。
前記イオントラップのパラメータを測定することが、イオン初期ポテンシャルエネルギー分布(IPED)オンセット値を測定することと、テストRF励起設定でのイオン励起ポテンシャルエネルギー分布(EPED)オンセット値を測定することとを含む請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
前記電子源が、前記フィラメントと入口スリットとの間に位置する静電レンズを有する入口スリット組立体を含み、前記静電レンズが、前記フィラメントからの電子ビームを平行にして前記入口スリットを通す請求項22から25のいずれか一項に記載の装置。
前記電子機器が、さらに、電子と特定の圧力のテストガスとの衝突によって形成されるイオンの量を測定し、さらに、電子源の設定を調節して電子源フィラメント電流で形成される前記イオンの量を増大させる請求項22から28のいずれか一項に記載の装置。
前記IPEDと前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間での相互の調節が、IPEDオンセット値に基づく前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスの設定を含む請求項22から31のいずれか一項に記載の装置。
前記IPEDと前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間での相互の調節が、さらに、前記IPEDオンセット値に基づく電子増倍管シールドポテンシャルバイアスの設定を含む請求項32に記載の装置。
前記IPEDと前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間での相互の調節が、IPEDオンセット値の測定と、特定のIPEDオンセット値をもたらす、電子源リペラポテンシャルバイアスおよびフィラメントバイアスの調節とを含む請求項22から33のいずれか一項に記載の装置。
前記イオントラップのパラメータの測定が、イオン初期ポテンシャルエネルギー分布(IPED)オンセット値と、テストRF励起設定でのイオン励起ポテンシャルエネルギー分布(EPED)オンセット値との測定を含む請求項22から37のいずれか一項に記載の装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一例である静電イオントラップ100が、
図1Aに示されている。イオントラップ100は、制御器110、イオン生成組立体113、イオン閉込組立体153および、イオン検出組立体173を含む。制御器110は、専用のハードウェア構成要素であり得、またはそれを、以下に記述されるようにソフトウェア中に構築してPCで操作することも可能である。イオン生成組立体113は、電子115を生成する熱フィラメント120として示される電子源120と、電子115が入口板140のスリット145を通るよう方向付けて、ガスとの電子衝撃によって電離(イオン化)領域149にイオンを生成する電子ビーム148を形成するリペラ130とを備える。以下に記述される同調方法はまた、光電離(光イオン化)によるイオン生成または別のイオン源からの外部イオン生成を用いるイオントラップにも適用可能である。イオン閉込組立体153は、入口圧力板150、入口カップ155、遷移板(transition plate)160、出口カップ165および、出口圧力板170を含む。イオン検出組立体173は、出口板180、電子増倍管シールド板組立体185aおよび185bならびに、電子増倍管の表面に衝突するイオンによって作りだされる電子流を検出する電子増倍管(electron multiplier )190を含む。入口板140、出口板180、入口圧力板150、出口圧力板170、入口カップ155、出口カップ165、遷移板160および、電子増倍管シールド板組立体185aは、すべて、円筒形に対称であり、直径は、約2.5cm(1”,1インチ)である。静電イオントラップ100の全長は、約5cm(2”)である。
図1Aに示されるように、入口板140は、中心が入口カップ155から離れる背面140aにおいて外側に延びる。入口板背面140aと入口カップ155との間の距離は、約0.6cm(0.25”)である。出口カップ165と出口板180との間の距離もまた約0.6cm(0.25”)である。
【0016】
図1Bには、イオン生成組立体113および入口圧力板150の側面が示されており、絶縁体(例えば、セラミック)板125に取り付けられているフィラメント120とリペラ130からなる電子源組立体114が示されており、それは、入口板140に取り付けられている。
【0017】
図1Aに示される静電イオントラップの組み立ておよびテストの間、初期設定を有するトラップが作動してもむらのある作業結果しか生じないということが認められた。装置間のばらつきとしては、振幅、分解能、ダイナミックレンジおよびピーク比さえも、装置ごとに変化があったが、これらは、少なくとも部分的には、組立体の寸法における小さなばらつきや、電子ビーム148の向きに変化を生じさせるフィラメント120およびリペラ130の向きにおける小さなばらつきによるものである。電子源組立体114を取り替えた後も、性能にばらつきが認められた。電子源組立体114は、いくつかのテスト取付具が直ちに利用可能でない現場において取り替えられる消耗品であるので、一貫した作動結果を得るために、静電イオントラップの同調方法は、工場と現場の双方に適するよう工夫する必要がある。以下に記述される同調プロセスには、最小限のユーザー入力しか必要ではなく、訓練された修理技術者を必要としない。
【0018】
静電イオントラップ100を制御するソフトウェアの画面200の一例が、
図2Aに示されており、自動同調ソフトウェアボタン210を含む。制御画面200にはまた、以下に記述される静電イオントラップ設定215および一例の同調スペクトル220が示されている。以下で特に変更を加えていない限り、初期トラップパラメータは、表1に列記される値にしたがって設定される。
【0020】
いったんユーザーがソフトウェアボタン210を押すと、そのユーザーは、
図2Bに示される画面230で、同調手順には幾分時間がかかり、その間、イオントラップの総ガス圧を安定させる必要があると警告される。
図2Cには、静電イオントラップ設定215が最適化され、
図2Aに示されるスペクトルに比べて同調スペクトル220のピーク振幅が高い画面200の一例が示されている。
図2Cにはまた、自動同調手順が完了した後、トラップの作動パラメータに変化が生じ、その結果、
図2Aと
図2Cとの間でスペクトル出力に変化が生じたことが示されている。代わりに、そのソフトウェアは、イオントラップを工場で点検する必要があると指示することもできる。
【0021】
静電イオントラップを使用に適したものと認定するプロセスや、出荷は、機械で検査された部品からイオントラップを注意深く組み立て、かつその機械による組み立てを検証することから始まる。自動同調手順についての開始点が実行可能であるには、機械による組み立てが適切である必要があり、換言すれば、自動同調は、機械の許容誤差仕様に添った適切な製造に代わるものではない。そして、イオントラップは、以下の基準を用いて特徴付けられる必要がある。
1)十分なイオンが作られているか?
2)適切な初期ポテンシャルエネルギーの分布でイオンが作られているか?
3)イオンは印加RF励起で十分なエネルギーを得ているか?
4)イオントラップに十分なイオンが蓄積されているか?
5)印加RF励起の1ボルト当たり十分なイオンが放出されているか?
6)検出器は、放出されたイオンを十分検出するだけ感度が良いか?
【0022】
これらの基準に基づいて、装置間のばらつきを補償するよう静電イオントラップを同調するプロセスが以下に記載される。以下に記載される同調手順は、
図1Aに例示されるトラップについて特に最適化されているが、全体的に同じ原理を当てはめると、電離領域に軸上電子衝撃イオン化源(on-axis electron ionization source)または光電離源が含まれるイオントラップも同調できるということを理解することが重要である。すべての場合において、トラップ作業者は、前述の基準に基づいてトラップを特徴付け、
図3に類似するように仕立てられた同調手順を開発しなければならない。
図3に示されるように、静電イオントラップを同調して性能が最適となるようにトラップを調節するプロセス300には、1)ステップ310で、イオントラップの設定を調節し、現場(EMECET)か工場(FCT)かにおいて電子結合の効率を最大とする(ECE_Max)ことによって、十分なイオンが形成されるものとし、2)ステップ320で、そのECE_Maxで初期ポテンシャルエネルギー分布テスト(IPEDT)を行い、かつIPEDオンセット値を決定することで、形成されたイオンが適切なイオンエネルギー分布を有することを確認し、3)ステップ330で、イオントラップパラメータ(TPATP)を調節するか、またはIPED(FRU・ATP)を調節することによって、イオン初期エネルギー分布(IPED)とイオントラップパラメータとの間に、形成されたすべてのイオンについて適切な関係が成り立っていることを確認し、4)ステップ340で、励起ポテンシャルエネルギー分布テスト(EPEDT)を行い、かつ印加RF励起振幅を調節することで励起ポテンシャルエネルギー分布(EPED)とIPEDとの差(DPED)を調節することによって、イオンを放出するのに適量のRF励起が利用可能であることを確認し、5)ステップ345で、トラップからイオンを放出するのに必要な最小量のRF振幅(RF閾値)を測定し、かつ放出されたイオンの数のグラフの傾き(RF勾配)を印加RF振幅の関数として測定し、6)ステップ350で、電子増倍管電圧テスト(EMVT)を行うことによって、放出されたイオンを検出する検出器で適切な利得が得られていることを確認し、そして、7)ステップ360で、分解能、ダイナミックレンジ(DNR)、ピーク比およびピーク形(B帯域)についてスペクトル品質テストを行うことによって、上質の質量スペクトルが生成されていることを確認する。同調ステップ310〜360は、どのような順序でも行われ得るが、以下に順番に記述する。また、以下に記述されるように、同調ステップ340およびステップ345は、どちらか一方を選ぶか、双方を組み合わせて実施することができる。
【0023】
ステップ310がより詳細に以下に記述され、
図4Aに示されている。ステップ411におけるファラデーカップテスト(FCT)は、トラップ内のイオン形成速度を測定することによって、新しいトラップが、電子衝撃電離で十分なイオンを作ることができていることを確認するよう設計されている。イオン形成の適切な速度は、FRUと入口板が良く整合していることの指標である。換言すれば、イオン形成の速度は、リペラ、フィラメント線および縦スリットが適切に整列してさえいれば、期待に応えることができる。FCTではまた、健全にフィラメントが被覆されていることが確認される。
【0024】
図4Aに示されるステップ411の手順:FCTを行うために、トラップがエキストラクタ電離ゲージとして構成される。チェンバー内のガスは、2.5E−7トルの純N
2からなる。トラップパラメータは、以下のものを除いて初期値(default values)に設定される:出口板は70Vに設定され、電子増倍管シールド板が、入力を仮想の接地としたピコ電流計に接続され、それによって、その板がファラデーカップとして作動することを可能としている。トラップの内側に形成されるすべてのイオンは、制限なくトラップを出ることが可能であり、その結果、EM_Shield(ファラデーカップ)に集められるイオン電流がリペラ電圧の関数として測定される。リペラ電圧が可能な範囲全体でスキャンされると、ピコ電流計を備えるEM_Shield板で測定されるイオン電流が、リペラ電圧の関数として記録される。ここで重要な二つの数字は、1.ファラデーカップで最大のイオン電流を与え、ステップ412で設定されるリペラ電圧V_Repel_Maxおよび、2.ステップ413で測定されるファラデーカップ電流の最大値FC_Maxである。双方の値について予期されることであるが、1.テスト条件のもと、かつ他のトラップパラメータが初期設定であるとき、V_Repel_Maxは、−10Vと−55Vとの間でなければならず、FC_Maxは、15pAと28pAの間でなければならない。ファラデーカップテストは、EM_Shieldをピコアンペアレベルの増幅器の仮想接地入力に接続することによって、イオントラップ制御器を変更して行うことができる。
【0025】
電子増倍管利得テスト(EMGT)は、前述のFCTが完了した後、次に行うことができるが、それは、そのテストの間に集められる(V_Repel_MaxおよびFC_Max)値が必要であるからであり、または、代わりに、EMGTを、
図3に示されるようにステップ350で行うこともできる。EMGTの目的は、電子増倍管利得を1000倍に調整するのに必要なEMバイアス電圧を測定するためである。EM電流の測定値に基づいて、トラップから放出されるイオンの数を知るために、増倍管の利得を知ることは重要である。
図4Eのステップ451〜455に示されるEMGTの手順:
標準イオントラップ制御器を用いてEM利得テストが行われる。
リペラがV_Repel_Maxに設定される(FCTから測定される)。
出口板が70Vに設定される。
EM_Shieldが60Vに設定される。
EMの外で測定される電流がEM_Current=FC_Max*1000となるまでEM_Bias電圧が調節される。
【0026】
一般に、現在利用可能な電子増倍装置(例えば、マサチューセッツ州パルマーのディテクターテクノロジーが製造するもの)は、典型的には、約−875VのEM_Bias電圧が必要である。電子増倍管の利得を知ることまたは、知り得たEM利得でイオントラップを操作することは、イオン放出の効率を量的に測定する上で重要である。例えば、さまざまなトラップについてRF_Threshold勾配を比較するために、RF_Threshold曲線を同一のEM利得で得る必要がある。同様に、トラップ間でダイナミックレンジを比較するためには、同じEM利得条件のもとで、検討中のトラップを操作する必要がある。
【0027】
図4E中にステップ452として示されるFCTに代わるものとして、ステップ453での電子結合効率テスト(ECET)が、リペラ電圧の設定を最適化し、可能な最大電子流が電離容量に入っていることを確認するよう設計される。それは、FCTに非常に類似するが、トラップ内で作られるイオンの数を測定しない。その代わりに、それは、電子の、トラップの電離領域への最適な結合をもたらすリペラ電圧の測定のみを行う。
図4Eにおいてステップ453として示されるECETのための手順:
1.チャンバーを圧力が2.5E−7トルの窒素で満たす。
2.以下に記されるさまざまな設定を除く初期値(default values)にトラップを設定する。
3.出口板を70Vに設定する。
4.EMシールド板を60Vに設定する。
5.電子増倍管をおよそ1000の利得に設定する。
6.リペラ電圧が−10Vから−55Vまでスキャンされ、基準線(基線、baseline)オフセット振幅がリペラ電圧の関数として記録される。
7.最大の基準線オフセットをもたらすリペラ電圧を最適のリペラ電圧とみなし、トラップを作動させるのに用いる(V_Repel=ECE_Max)。
【0028】
ステップ320およびステップ330をより詳細に以下に記述し、
図4Bに示す。フィラメントから電離領域への電子の結合を最も有効とするようにいったん、リペラが設定されると、十分なイオンを作ることは、重要ではあるが、イオン形成に関係する唯一の重要なパラメータではないということを理解するのが重要である。イオンは、適切な(すなわち、再生可能な)速度で作らなければならないが、それらはまた、ポテンシャルエネルギー曲線内の適正なエネルギーで作らなければならない。イオントラップは、初期エネルギーの広い範囲に渡って生成されるイオンを放出することが可能である。しかしながら、平均エネルギーとエネルギー分布の広がりは、装置ごとの性能が一貫するように幾分制御しなければならない。初期ポテンシャルエネルギー分布テスト(IPEDT)は、トラップ内で形成されるイオンの初期ポテンシャルエネルギー、すなわち、イオンが捕獲ポテンシャル内で形成されるときのそれらのポテンシャルエネルギーを測定するよう設計されている。このポテンシャルエネルギー分布を知ることは重要であるが、それは、出口板格子に到達するために各イオンが獲得する必要があって、そのイオンの放出を可能とするだけのポテンシャルエネルギーの量を、それによって感知できるようになるからである。
【0029】
IPEDは重要であるが、それは、それらが、トラップ内で形成されるイオンが出口板に到達して放出されるために獲得する必要のあるエネルギーの量の指標であるからである。イオンが低いエネルギーで作られるなら、それらがトラップを出るのに十分なエネルギーを獲得するのに多大な時間がかかってしまい、一回の高速周波数掃引の間にイオンはゲートまで到達できないかもしれず、これによって感度が低いものになってしまう。イオンのエネルギーが高過ぎると、それらが出始めるのが早過ぎて、有用なスペクトルを有するには分解能が低過ぎるかもしれない。
【0030】
いったん電子源フィラメントがオンになって電子が電離領域に入ると、イオンが形成され始める。すべてのイオンが蓄積されるわけではないが、蓄積されたイオンは、おそらく初期エネルギーを保つ。トラップ内に形成されるイオンのIPEDを見ると、平均エネルギーとイオンエネルギー分布の形、すなわち、予期される最高エネルギーIPED_Onsetとエネルギーの広がりであるIPEDの半値全幅(FWHM)の双方が重要である。一般には、出来る限り多くのイオンを作ることに関心がもたれ、またIPEDは、リペラ電圧の設定に影響されるので、典型的には、ECE_MaxまたはFC_Maxに設定されるリペラ電圧でIPEDTが行われる。
図4Bでステップ320として示されるIPEDTについての手順:
1.純窒素の圧力を2.5E−7トルに設定。
2.下記の断りがなければイオントラップを初期設定とする。
3.V_Repel=ECE_MaxまたはFC_Maxに設定。
4.出口板を132Vに設定。
5.EM_Shieldを60Vに設定。
6.EM利得を1000倍に設定。
7.出口板電圧V_Exitを少なくとも1Vずつ132Vと70Vとの間でスキャンし、電子増倍管からイオン電流をV_Exitの関数として集める。こうして集められたデータは、集積電荷(IC)図にプロットされる。これは、直流測定値であり、すなわち、スペクトルのピークが関与していないことに注意する。
8.次に、IC曲線を微分する(すなわち、その微分係数を計算する)ことによって、IPED図を生成する。その結果得られるIPED曲線によって、V_Exitの1ボルト当たりのイオン数の測定値が得られるが、それは、ポテンシャルエネルギーの1ボルト当たりの電子衝撃によって生成されるイオンの数を直接表すものである。
9.次に、典型的なIPED分布を用いて、最高エネルギーオンセット値(highest energy onset)を計算し、それは、トラップにおいてイオンが形成され、続いて蓄積されるときにそれが有する最大エネルギーを表す。最高エネルギーオンセット値は、IPED_Onsetとして知られ、それは、各ゲージについて測定しなければならない重要な数字である。
図8は、典型的なECE_Maxを示し、
図10は、典型的なIPED曲線を示す。ECETによって、IPEDTに必要なリペラ設定(
図8で約−35Vとして示される)が行われる。IPED_Onsetは、トラップにおいて非常に重要な数字であり、それは、それによって、捕獲ポテンシャル井戸内でいかに深くイオンが形成されるかが表されるからである。IPED_Onsetの正確な値は、リペラ、フィラメントおよびスリットの配列に依存する。一般に、IPED_Onsetは、約109Vと約115Vとの間の範囲にあることが予期される。
【0031】
FCTは、いくつのイオンがトラップ内で作られているかの測定値であるが、IPEDTは、トラップ内で形成されるイオンのエネルギーの測定値である。これは、閉じ込められていないイオンについてのエネルギーであることに注意する。しかしながら、それはまた、蓄積されたイオンについてのエネルギーの分布を表すことも予想される。FCTおよびIPEDによって提供されるデータは、トラップ内でのイオン形成の効率やイオンエネルギー特性を特徴付けるのに必要とされる。イオン形成の速度が適切でなくまた、イオンが適切なエネルギーを有さなければ、トラップは適切に機能しない。イオン形成速度とイオンエネルギー特性を制御することが装置ごとの再現性にとって重大である。
【0032】
次に、
図4Bにおいてステップ431で示されるように、IPED_Onsetを用いて、放出されるためにイオンが獲得する必要のあるエネルギーの固定量をそれが有するよう、出口板電圧を調節することができる。一般に、出口板電圧は、IPED_Onsetよりも+10V上に調節される。換言すれば、すべてのイオンは、出口板壁に到達してトラップを出るためにRFから10Vのエネルギーを集める必要がある。IPED_Onsetの測定およびV_Exit=IPED_Onset+10Vの設定は、各トラップにおいて、フィラメント、リペラおよびスリットの不整列の結果生じる、電子ビーム位置の小さなばらつきに対してトラップを調節する一つの方法である。換言すれば、出口板電圧をIPED_Onsetに対して調節することで、装置間の機械的なばらつきを電気的に補償している。現在、IPEDTは、工場でおよび現場においてゲージ性能を最適化するのに用いられる自動同調手順の一部である。
【0033】
イオンが形成されるエネルギーを知ることに加え、トラップ内に蓄積されるこれら同じイオンが、励起の間に(すなわち、一回の周波数掃引の間に)RF場から獲得できるエネルギーの量を知ることもまた重要である。所定質量(amu)のイオンのグループがRFと位相を固定するたびに、これらのイオンについてエネルギーの帯域がより高いレベルに励起される。その帯域のイオンの中には、出口板電圧に到達してトラップから放出されるものもある。より詳細に以下に記述され、
図4Cに示される励起ポテンシャルエネルギー分布テスト(EPEDT)は、トラップに蓄積されるイオンが一回のRF周波数掃引の間に獲得できるエネルギーの量を測定するよう設計されたものである。出口板電圧は、典型的には、IPEDT_Onsetよりも+10V上に設定されるので、一回のRF掃引の間に獲得されるエネルギーの量は、出口板格子を通ってイオンがトラップから出るためには10eVを超えなければならない。
【0034】
図4Cにおいてステップ441〜444として示されるEPEDTテストは、IPEDTテストに非常に類似する。唯一の違いは、IPEDTでは、トラップ内に作り出されるときイオンの初期エネルギー分布が提供されるが、EPEDTでは、一回の掃引の間にイオンが獲得するエネルギーの量の測定値が提供される。IPEDTは、DC電流を測定するが、EPEDTは、ピーク振幅を測定する。EPEDはまた、選択されるRF振幅の関数でもあることに注意する。予期される通りイオンによって獲得されるエネルギーの量は、印加RF振幅が増大すると増加する。EPEDTによって提供される測定値の一つは、トラップの外にイオンを排出するのに十分なRF振幅が利用可能であることを確認するものである。
図4Cにおいてステップ441〜ステップ444として示されるEPEDTについての手順:
1.純窒素の真空圧を2.5E−7に設定。
2.下記の断りがなければイオントラップを初期設定とする。
3.V_Repel=ECE_MaxまたはFC_Maxに設定。
4.V_Exitを132Vに設定。
5.EM_Shieldを60Vに設定。
6.EM利得を1000倍に設定。
7.RF振幅を所望の値(典型的には、V
RF=0.5V
p−p)に設定。
8.出口板電圧を少なくとも1Vずつ132Vと70Vとの間でスキャンし、メインピークでの(または選択された質量での)ピーク振幅(集積ピーク電荷)をV_Exitの関数として集める。こうして集められたデータは、ピーク電荷対V_Exitとしてプロットされる。
9.EPEDT曲線は、典型的には、IPEDT曲線の隣に並べてプロットされ、次に、双方のエネルギー帯域についてオンセット値(onset )が比較される。双方のオンセット値の差は、DPED=EPED_Onset−IPED_Onsetである。
図16Aには、IPEDTとEPEDTを並べた結果の例が、対応するオンセット値の計算とともに示されている。EPED_OnsetとIPED_Onsetとのエネルギーの差は、イオントラップ内のRF振幅に依存する。
図16Aに示される例において、0.5 VのRF振幅について、IPED_Onset=105V、EPED_Onset=121VかつDPED=16Vである。
【0035】
図16Aには、IPED帯域におけるイオンの励起の結果、全エネルギー帯域が約16Vだけ電圧を印加されることが示されている。出口板電圧がIPED_Onsetよりも+10V上に設定されると、その結果、イオンは、出口板電圧を+6Vだけ超過して有しトラップを出ることができるものとなる。換言すると、これらの条件下でトラップを出ることのできるイオンの6V帯域がある。
図18に示されるように、DPEDは、典型的には、RF振幅が増大すると最大約16V(±3V)に到達することが実験的に測定されている。RF振幅が増大し、DPEDが頭打ちになると、RF振幅がさらに増大してもDPEDのさらなる利得とはならない。結論としては、イオンがRF場から獲得するエネルギーの量は最大値に制限されており、それは、(1)電極構造体の間でRFがどのように分配されるかと、RF掃引の速度とに関係すると考えられており、換言すると、RFスキャンの速度を緩めて、または同相のRFをカップおよび遷移板に印加することで、より高いDPED値を達成することが可能である。EPEDTは、以下に記述され
図4Dに示されるRF_Thresholdテストと組み合わせて用いることまたはそれで置き換えることができる。
【0036】
RF_Thresholdにより、選択された質量ピークについてのRF振幅の関数として、放出されるイオンの数の測定値が提供される。x軸切片(放出に対する閾値)は、トラップからイオンを放出するのに必要なRF_Amplitudeの最小量を定義する非常に重要なパラメータである。RF_Threshold値が繰り返し用いられて、イオントラップを評価したり、捕獲容積の中に適正な数のイオンが蓄積されていることを確認したりする。RF_Threshold値における大きな偏差は、イオン蓄積能力が乏しいかまたはトラップへのRF送付(RF delivery )が乏しいことを指示する。
図4Dにおいてステップ445〜450aとして示されるRF_ThresholdおよびRF勾配テストについての手順:
1.純N
2のチャンバー圧を2.5E−7トルに設定。
2.V_Repel=ECE_MaxまたはFC_Maxに設定。
3.V_Exit=IPED_Onset+10Vに設定。
4.EMの利得を1000倍に設定。
5.RF振幅を0.1Vから1Vまで少しずつスキャンして28amuピークの振幅をステップ445でRF振幅の関数として測定する。
6.ステップ446で、RF_Thresholdを、x軸切片として、すなわち、イオンを放出するのに必要とされる印加RFの最小量として計算する。ステップ447で、RF_Thresholdが約0.350Vと約0.450Vとの間の範囲になければ、ステップ448で、電子放出電流を調節し、RF_Thresholdを再計算する。また、ステップ449で、勾配を計算して1ボルト当たり十分なイオンが放出されていることを確認し、イオン放出の効率を測定する。典型的なイオントラップにおいて、ステップ447で、RF_Thresholdは0.350Vと0.450Vとの間の範囲にあり、ステップ450で、勾配は0.75よりも大きい。
各トラップについてRF_Threshold切片と勾配を知っておくべきである。閾値が低いと、一般にそれは、トラップに十分なイオンが蓄積されていないことを指示する。トラップが十分なイオンを蓄積していないならば、それは十分なイオンを放出せず、検出の限界が低下し、かつダイナミックレンジも制限されて製品に必要とされる仕様を満たさなくなる。トラップがあまりにも多くのイオンを蓄積してしまうと、それによって、以下に記述されるように、トラップ内のRF場がより大きく損なわれ、イオントラップが、規格試験をパスすることもない。より多くのイオンによって、より大きなRF_Thresholdやより急な勾配が生み出される。しかしながら、トラップは、特定の値の範囲内に収まるRF_ThresholdとRF勾配を有さなければならない。
【0037】
RF_Threshold測定を行う間考慮すべき一つの重要なことは、RFを制御器からトラップに移送するのに良いケーブルが用いられていることを前もって確認することであり、それは、そのケーブルがRFネットワークの不可欠な部分であるからである。RF送付が一貫していることを確認するためにすべてのケーブルを点検して(必要ならば)同調することが重要である。制御器からイオントラップへのRF送付には、ケーブルの相互接続が必要である。長さが異なるいくつかのケーブルとケーブル配置図が利用できる。ケーブル自体に複雑な設計がされており、(1)DCバイアス電極に用いられるいくつかの異なる配線、ならびに(2)回路基板であって、それは、RFの(a)高電圧にバイアスされた遷移板への変圧器結合、およびそれと同時に(b)DCバイアスされた入口カップおよび出口カップへの容量結合を可能とするよう設計されている。各ケーブルは、制御器内に位置するRF源に対して50オームの負荷インピータンスを示し、それによって制御器のRF源からケーブルへの最適な電力移送が確実となる。残念なことに、正確なケーブル配置図によると、遷移板とケーブル内のカップのDCバイアス配線が寄生容量を呈し、それがRFドライバーへの負荷となって、センサー電極に送付されるRFの振幅と相がケーブルごとに違ってしまい得る。ケーブル内の寄生容量の最も目立った作用は、ケーブルが使用に先立って工場で同調されない限り、ケーブルによってのRF_Thresholdの違いに気付いてしまうという事実にある。
【0038】
ケーブル間のばらつきを最小限とするために、すべてのイオントラップについて工場ケーブル同調手順(CTP)が用いられる。CTPを完了するために、各ケーブルを参照ケーブルと比較して、イオントラップ性能がその参照ケーブルと比較して同一となるように同調する。CTPは、異なるケーブル間での位相と振幅におけるわずかなばらつきを補償する包括的な同調手順である。典型的な同調ステップに含まれるのは:
1.特性が良好なイオントラップを、参照ケーブルを用いて、校正された制御器に接続する。
2.制御器のRF振幅を0.45Vに調節し、2.3E−7トルの純窒素ガスのもとシステムの仕様を測定する。14amuおよび28amuでの質量ピークについて、分解能、ピーク高さおよびピーク比を測定し書き留める。
3.参照ケーブルをテストされるケーブルと置き換えて、同一条件のもと測定を繰り返す。
4.双方のケーブルでのシステムの仕様を比較し、ケーブルの回路基板における負荷抵抗を調節して双方の仕様を密に整合させる。好ましい方法論は、負荷抵抗をトリミング電位差計と置き換えて、整合が得られるまでその電位差計を調節するというものである。いったん整合が得られると、電位差計を基板から取り外してその抵抗を測定する。次に、その測定した抵抗値を用いて、ケーブル基板に取り付けるべき同調負荷抵抗値を選択する。
5.次に、その選択された負荷抵抗値を備える同調ケーブルをもう一度テストして、システム性能が参照ケーブルのそれと整合することを確認する。適切な整合が得られるなら、その同調ケーブルをその特定のイオントラップで用いる。
【0039】
前述の正確な手順は、単に参照するためだけのものであり、ケーブルの同調を達成できる多くの異なる方法の一つを示している。例えば、テストケーブルのRF_Thresholdを参照ケーブルのそれと整合することによって、ケーブルを同調することもまた可能である。CTPについて選択された正確な方法論にかかわらず、追加のステップで、製造プロセスでのケーブル間のばらつきが削減されて、より一貫した製品が提供される。
【0040】
蓄積されたイオンがエネルギーを得るために、トラップに送付されるRFの振幅および位相の双方を、掃引全体を通して制御して、すべてのイオンが放出されるようにしなければならず、換言すれば、すべてのイオンの質量や密度に依存せずにそれらに電力が効率的に送付されるためには、RF掃引生成器(源)とトラップ(負荷)との間に適切なインピータンスの関係が成り立たなければならない。残念なことに、トラップの複素インピータンスはトラップ内にあるイオンの数に関係している。例えば、純窒素については、イオンのほとんどが28amuで形成され、14amuで形成されるイオンは少ししかないが、28amuでのイオンによって、14amuでのイオンによるよりもずっと多くのRF吸収があり、かつトラップがRF源に提示する複素インピータンスは、双方のイオンのグループについて異なっているということが予測される。イオンがRF場で位相固定すると、電子機器に組み込まれるRF源は、イオンが放出されるように適切な振幅および位相をトラップに与えることに寄与する。しかしながら、(1)RF生成器の源インピータンスが有限かつ固定であるため、かつ(2)量の異なるイオンがRFと位相固定するときにトラップインピータンスに変化が起こるため、固定振幅RF源の放出効率は、蓄積されるイオンの数に依存する。一般に、特定のイオン質量について、放出効率は、そのグループのイオンの数が増すにつれて減少し、また、より高いイオン濃度を放出するには、より高いRF振幅が常に必要とされる。この現象の電気的な例えは、トラップにおけるイオンの数が増すと、トラップの複素インピータンスが変化し、RF源からトラップ(すなわち、負荷)への電力移送が引き起こされて不整合となり、低減される電力移送を埋め合わせるためにさらなるRF振幅が必要になるというものである。この現象の直接の帰結は、RF周波数掃引のイオンを放出する能力が、トラップに蓄積されるこれらのイオンの数に依存するというものである。この現象を最も簡単に明示すると、イオンを放出するためにRF源によってトラップに送付される必要がある振幅は、トラップ内に蓄積されるイオンの数に比例して増加する。ここにおける要点は、制御器からトラップに「印加される」RF振幅は、スキャン全体を通して一定であるけれども、イオンに利用できるRF電力は、印加RFとトラップに蓄積されるイオンの数との双方に依存するということである。その結果、さまざまな化学種(species )がトラップから放出され始めるRF振幅は、トラップに蓄積されるイオンの数に比例する。
図16B−1に、この現象が、あるトラップにおいて例示されており、それには、純窒素の電離からの14amuイオンおよび28amuイオンが含まれている。28amuでのイオンは、14amuでのイオンよりもおよそ10倍量が豊富である。その結果、28amuでのイオンが放出されるには、14amuでのイオンよりも大きなRF振幅を必要とする。
図16B−1に示されるように、2.5E−7トルのN
2と初期設定のトラップとで、0.3VのRFで、イオントラップが典型的に14amuでイオンを放出し始め、一方、28amuのイオンは、典型的には、0.4Vの印加電圧を必要とする。
図16B−2に示される、RF振幅の関数としての28/14比のグラフには、14amuおよび28amuでのピーク振幅の変化がRF振幅の関数として例示される。次に説明されるように、14amuイオンと28amuイオンとのピーク比を、RF振幅に依存するものとするのは、これらのイオン間のRF閾値の差である。
【0041】
より量が豊富な28amuでのイオンは、より量が少ない14amuイオンよりも放出されるのにより多くの印加RFを必要とするので、表面的な観察をする人には、濃度がより高いイオンが、見掛け上の損失を埋め合わせるためにより多くのRF振幅を必要とするトラップ内で何らかの形でRF場を枯渇させているように見える。その結果、高イオン濃度がRF_Thresholdに対して有する作用を表わすのに、「RF枯渇(RF Depletion)」という用語がしばしば用いられる。しかしながら、イオン濃度を持つRF_Thresholdにおける変化の、本当の根本の原因は、イオン濃度がトラップインピーダンスに対して有する作用であり、いかにしてそれがRF源(すなわち、固定インピーダンス源)からの電力移送に影響するかであるということを理解しなければならない。
【0042】
RF_Thresholdは、一般のトラップ内のイオン濃度に高く依存するので、RF_Thresholdは、1.ガス圧が増大するとき、2.放出電流が増大するときに、増大が予期できる。こういう理由で、RF_Thresholdは、装置ごとの性能を比較するため、常に十分に確立され再現性の高い条件のもとで測定しなければならない。
図16B−1には、2.5E−7トルの純窒素に対応する14amuピークと28amuピークについてRF_Threshold曲線が示されている。実線および点線は、それぞれ、RFの関数として14amuと28amuで排出されるイオンの数を指示する。14amuが28amuよりも低量であるので、その放出閾値(すなわち、イオンを放出し始めるのに必要な印加RF振幅)は、28amuについてのものよりも低い。加えて、28amuでは、イオンがより多いので、点線の勾配もまた、14amu線の勾配よりも急峻である。予期される通り、分解能もまた、RFが増大すると減少する。いずれかの特定の理論に縛られることを望まなければ、イオントラップ内のRF枯渇によって、異なるRF閾値では異なるイオン質量が放出されるようになり、それによって、異なるイオン質量間のピーク比を印加RF振幅に依存させることができると思われる。換言すると、RF枯渇が因子でなければ、すべてのイオンが、イオントラップ内のそれらの密度に依存せずに同じRF閾値で放出され、その結果、ピーク振幅の比は、印加RF振幅に依存しないものとなるであろう。
【0043】
表2には、RF_Thresholdと勾配との相関関係が例示される。すべての場合において、V_Exit=IPED_Onset+10Vで、かつ増倍管の利得が1000倍に設定されると、ゲージは、ECE_Maxで作動する。
【0045】
予想される通り、表2の第二列は、ECE_Maxの標準的な広がり(standard spread )があることを指示する。第三列は、20pA/V利得でSR570電流増幅器が示す値である。5つのイオントラップはすべて、リペラがECE_Maxに設定されるときトラップ内に同数のイオンを作る。第四列は、すべてのトラップには、受入可能なIPED_Onset値があることを指示する。第五列は、利得を1000倍にするには、電子増倍管がおよそ−865Vという電圧に設定されなければならないことを指示する。最後の二列は、RF_Thresholdが増大すると勾配もそうなることを示唆する。実際、両者の間には、かなり線形な相関がある。これは、トラップがいくつのイオンを蓄積することができるのかを診断するのに用いることのできる非常に重要な情報である。実際、最適化されたイオントラップについてのRF_Thresholdの値は、典型的には、トラップにいくつのイオンが蓄積されるのかを診断し、かつ製品を出荷することができるかどうかを判断するのに用いられる。トラップに蓄積されるイオンの数を知り、かつすべてのトラップが同数のイオンを蓄積して、印加RFの1ボルト当たり同数のイオンを放出するのを確認することは、イオントラップの重要な性能パラメータであり、この基準において一つのイオントラップと次のものとのばらつきが非常に低いことが望ましいことに注意する。
【0046】
イオントラップにおいて、RF_Thresholdに影響を及ぼし得る別の因子は、出口板電圧とIPED_Onsetとの差である(V_Exit−IPED_Onset)。出口板電圧がIPED_Onsetから遠ざかるに連れ、イオンは、同じ時間でトラップを出るために、より多くのRF振幅を必要とし、それは、RF_Thresholdを増大させる。また、エネルギーが増大すると、より少ない数のイオンしか出てこないことも予期でき、それで、曲線の勾配が低減することが予期される。表3には、RF_ThresholdのV_Exitに対する依存性が例示される。
【0048】
出口板電圧がIPED_Onset値に近づくと、RF_Thresholdが低減して勾配が増大するが、それは、登るべきエネルギーの山(lower energy hill to climb)がより低いイオンを放出するほうが簡単であるからである。V_Exitについて選択される+10Vの値は、勾配が1.2に留まり(すなわち、受入可能な数のイオンが放出されて)、閾値が28amuピークについて約0.4Vに留まるのに良好な歩み寄りである。V_Exitのわずかな低下によって、ずっと良好な勾配値が提供されるように思えるが、より高い圧力では、より大きな基準線が問題となる。予期される通り、RF_Thresholdの増大に続いて、勾配が低下し、イオンを放出するのが難しくなると相対的に少ない数だけトラップから放出されることが示されている。
【0049】
RF_Thresholdはまた、電子放出電流に依存する。電子放出電流が増大してより多くのイオンがトラップ内で形成されると、RF_Thresholdと勾配が増大することが予期される。いったんトラップがイオンで満たされると、放出電流がさらに増大しても、RF_Thresholdに対してより低い作用しか及ぼさなくなる。表4には、28amuおよび2.5E−7トル圧でのN
2についてその関係が示されている。
【0051】
表4によって、放出電流が増大するとRF_Thresholdが急速に増大することが示唆される。しかしながら、0.07mAの初期設定の放出電流値にいったん到達すると、勾配がほとんど最大になり、これは、放出され得るほとんどすべてのイオンが実際に放出されていることを意味する。放出電流のさらなる増大によって、RF_Thresholdの増大が引き起こされるが、勾配においてはさらなる増大はなく、追加のイオンが放出されることはない。
【0052】
RF_Thresholdはまた、圧力(すなわち、ガス濃度)に依存する。トラップにおける圧力が増大すると、より多くのイオンが形成されて、トラップを満たしてスキャニングの間に放出されるイオンを置き換えるのにより多くのイオンが利用可能である。圧力が増大すると、トラップに蓄積されるイオンの数が、トラップが充満するまで増大する。その時点で、圧力のさらなる増大は、RF_Thresholdには最小の影響しか及ぼさないが、放出されるイオンの数(すなわち、勾配)には、大きな影響を及ぼす。表5によって、これらの予測が確認される。
【0054】
表5には、RF_Thresholdが約2.5E−7という圧力で、最大に到達することが示されており、それは、放出電流が0.07mAのとき、その圧力でトラップが充満するということと矛盾しない。さらに圧力が増大しても、RF_Thresholdには、最小限の影響しかなく、それは、蓄積されるイオンの数が2.5E−7を超えて増加しないことを意味する。しかしながら、勾配もまた約2.5E−7トルで最大に到達するが、圧力が増大し続けると、放出される1ボルト当たりのイオンの数が低減し、それは、イオン中性散乱衝突(ion neutral scattering collisions )が、イオンがトラップから出て行くのを困難にしているからである。このデータにより、窒素圧が約2.5E−7トルのとき、イオントラップはイオンで完全に満たされることが示されている。さらに圧力が増大しても、トラップに蓄積されるイオンの数(それゆえ、定数RF_Threshold)に影響は及ぼされず、イオンを放出する能力に影響が及ぼされ始める。表2〜表5に示されるデータにより、RF_Thresholdがトラップに蓄積されるイオンの数を追跡し、勾配がイオン放出効率を追跡するということが指示される。圧力が増大すると、閉じ込められていないイオンの数もまた増加し、それによって基準線の増大ももたらされるが、ピーク振幅は、対応して増大するものではなく、それは、ピーク振幅は、トラップ内に蓄積されるイオンの数に関係していて、いったんトラップが充満すると最大に到達するからである。
【0055】
圧力が増大すると、イオン形成の速度も上昇し続けるが、閉じ込められるイオンの数は、最大値に到達する。基準線オフセット電流は、閉じ込められていないイオンの数に関係するので、基準線の線形の増大が、圧力の関数として認められる。明らかに、いったんトラップが能力一杯まで満たされると(すなわち、窒素では2.5E−7トル)、電子放出電流は、一定の低い基準線を保つように低減されなければならない。基準線によって、イオン形成の速度が直接測定される。基準線を圧力に依存せずに一定値に保つのは、イオン形成の速度を約2.5E−7トルよりも高い圧力で一定に保つための優れた方法である。加えて、圧力が増大するに連れ、イオンがトラップを出るために得なければならないエネルギーの量を低減することによって、V_Exitを低減してピーク比を改善しなければならない。V_Exitを低減すると、励起の間、イオンにとって坂の登りが少なくなり、それらが散乱衝突で失われる機会が最小となる。RF振幅を増大させるのもまた、できるだけ速くイオンがエネルギーを得て、衝突せずにトラップを出て行くことを確実とする良好な方法である。
【0056】
前述の同調プロセス300の別の実施形態は、
図5Aに示される工場同調プロセス500であり、
図1Aおよび
図1Bに示される静電イオントラップ100の構成要素を参照してそれを説明する。前述のように、同調プロセス500には、ステップ510およびステップ515を含む、最大電子結合効率(ECE_Max)を測定するステップ310が含まれる。工場では、ECE_Maxは、静電イオントラップ100の電離領域149への電子結合効率(ECE)を測定するファラデーカップテスト(FCT)によって測定される。FCTを行うために、静電イオントラップを電気的に設定し直し、イオンエキストラクタ電離ゲージとして作動させる。この作動モードにおいて、電子ビーム148は、電子衝突電離(EII)によって電離領域149内にイオンを生成し、そのイオンは、トラップから抽出されて電子増倍管シールド(EMS)板組立体185aおよび185bで回収される。トラップから放出されたイオン電流は、(a)電離領域149に結合する電子電流および(b)トラップ内のガス圧に厳密に比例し、それゆえ、電離領域への電子流が直接測定されるものとなる。FCTは、純窒素の2.5E−7トルという固定合計圧力で、電子源リペラ130におけるバイアスV
Repellerの関数として、抽出されたイオン電流(EIC)を測定して記録する。
【0057】
トラップをイオンエキストラクタゲージとして構成するためには、(1)出口板180におけるV_Exitを70Vに設定し、(2)EMS板組立体185aおよび185bを感度の高いピコ電流計を通じて接地電位に接続し、かつ(3)電子増倍管190をオフにすることで、トラップ内に形成される全イオンを放出してEMS板組立体185aおよび185bで回収する。V_Exitを70Vに設定することで、トラップ内に形成される全イオンが直ちにトラップから放出される。EMSは、高精度のピコ電流計を通して接地され、イオン電流を測定するファラデーカップとして効果的に使用される。
【0058】
リペラ電圧(V
Repeller)は、−10Vと−60Vとの間で(すなわち、静電イオントラップ制御器110の調節範囲に渡って)変化し、EICがpAの単位で表示される。典型的なイオントラップにより、純窒素の合計圧が2.5E−7のとき、−10Vと−60Vとの間のあるV
Repellerについて15pAと25pAとの間の最大抽出イオン電流が提供される。
図6に示されるように最大EICを提供するV
Repellerは、FC
maxと呼ばれる。
図6に示されるグラフには、抽出イオン電流(信号、pA、Y軸)対V
Repeller(Repeller、V、X軸)が示されている。最大抽出イオン電流は、おおよそ17pA(すなわち、15pAと25pAの間)であり、FC
max=−25Vに対応する。
図6に示されるFCTグラフには、最大ECEは、FC
max=−25Vで生じ、これらの条件のもとトラップに結合される電子の数が受け入れ可能、すなわち、2.5E−7トルの純N
2に対して15pAと25pAとの間であることが指示されている。
【0059】
リペラ/フィラメント/入口スリットの配列の詳細によって、FC
max最大値は変化する。
図7には、FC
max=−45Vであるシステムの例が示されており、ここで、合計圧は、わずかに約2.5E−7トルよりも上でEICが25pAを超えていた。静電イオントラップは、典型的には、
図6および
図7に類似のFCT曲線を示し、すなわち、典型的には、V
Repeller値は−15Vと−55Vとの間にあって、そのとき、最大EICは18pAと25pAとの間にあり、それは、
図5Aに示されるステップ115で測定される。
【0060】
FCTは、新しい静電イオントラップを認定するのに非常に有用であり、というのは、それによって、電子電流のV
Repellerに対する依存性を確実に測定でき、それゆえ、それを、作動可能なV
Repellerの設定に用いることができるからである。EICは、ガス圧(すなわち、固定量)および電離容量149に結合する電子電流に依存する。電離容量149に結合する電子電流は、リペラ130による焦点合わせに関係しており、それゆえV
Repellerに依存している。リペラ130/フィラメント120/入口スリット145組立体が受け入れ可能であるために、それによって、V
Repeller値が、−15Vと−55Vとの間に提供され、そこで、抽出イオン電流が最大であり、かつその最大値が18pAと25pAとの間になければならない。
【0061】
静電イオントラップ制御器110が、電位計とEMS板組立体185aおよび185bとの間に接続を含まなければ、何の装置も加えることなく(すなわち、現場で)実施できるFCTに代わるものは、電子増倍管(EM)190でのイオン電流の測定である。電子増倍管190でイオン電流を測定することによって、制御器110に組み込まれた電位計を用いて非常に素早く増幅されたイオン電流を測定することが可能となる。しかしながら、この場合において、増幅されたイオン電流振幅は、電子放出を絶対的に表すものではなく、それは、電子増倍管190の利得が一般に知られておらず、それゆえ、電子増倍管電子結合効率テスト(EMECET)によって絶対的な値ではなく傾向を示しつつ、電離容量149に結合される原子電流が最大に到達するV
Repellerを測定するという主要な目標が達成されるからである。予期されるのは、−15Vと−55Vとの間のV
Repellerで、すなわち、静電イオントラップ制御器についてリペラの作動制限内で、増幅されたEICが最大値、EMECET
maxを取るというものである。
【0062】
電子増倍管190を用いて、ステップ510でEMECETを行うためには、V_Exitを70Vに設定し、EMS板組立体185aおよび185bの電圧を60Vに設定し、RF励起振幅(RF_Amp)を0Vに設定し、および、V
Repellerを−10Vと−60Vとの間で電圧をわずかずつ上げて(例えば、約1V〜2Vのステップで)スキャンし、一方、電子増倍管190の出力を測定し、平均し、記録する。テストの終わりに、増幅されたEIC対V
Repellerの曲線を分析して、EMECET
max、すなわち、イオン電流が最大となるV
Repellerを測定する。出口板電圧の関数としての電子増倍管(EM)計数のグラフの一例が、
図8のグラフ810に示されており、ここで、EMECET
maxは、約−35Vに等しい。作動するゲージについては、ECE
maxの値は、ステップ415で−15Vと−55Vとの間でなければならない。FCTにおいてのように、このテストは、純窒素ガスの2.5E−7トルで実施する。電離器に汚染が蓄積するのを避けるため、典型的には、曲線における最大電流の75%よりも良いイオン電流が提供されるV
Repellerで、イオントラップを作動することが必要である。このテストは、電子増倍管190を、約100倍と約1000倍との間の範囲にある利得に設定し、一方、電子増幅器190の出力が飽和されてしまわないように注意を払いながら実施される。
【0063】
図5Aにもまた示されるように、次のステップ320は、上で測定された最大電子結合効率を提供するV
Repellerでイオン初期エネルギー分布(IPED)を測定し、かつIPEDオンセット値を決定することである。IPEDテストは、
図1Aおよび
図1Bに示される軸外電離源を備え、何のRF励起もない静電イオントラップ内で形成されるイオンについて初期ポテンシャルエネルギーの分布を測定するよう設計されている。トラップ内で形成されるイオンの初期ポテンシャルエネルギー分布は、(1)リペラ130/フィラメント120/入口スリット145の配列と、(2)電子エネルギー(すなわち、V
Fil BiasとV
Entry Plateとの電圧の差)と、(3)電子ビームの焦点合わせ(V
Repeller設定により測定される)とに依存する。IPED曲線の形と位置によって、静電イオントラップの作動パラメータが定義される。IPEDテスト(IPEDT)は、純窒素ガスの2.5E−7トルで実施される。テストは、典型的には、上で測定されたようにV
RepellerをECE
Maxに設定して実施するが、選択されるいずれのV
Repeller値で(すなわち、例えば、IPEDのV
Repellerに対する依存性を測定しながら)でも実施できる。電子衝突電離によって、かついかなるRF励起もなく、イオントラップ内で形成されるすべてのイオンについてのポテンシャルエネルギーの分布が、IPEDTによって直接測定される。
【0064】
IPEDTを実施するために、トラップは、以下に記されるいくつかの変更を除いてほとんど初期パラメータ設定で構成される。
(1)典型的には、V
RepellerをV
Repeller=ECE
Max(その前のテストから測定される)に設定し、電子結合効率を最適とするV
Repellerでエネルギー分布を測定する。
(2)典型的には、RF_Ampを0.5Vに設定する。RF励起レベルを以下に示されるものとして、IPEDTの結果に完全に何の影響もないようにする。
(3)EMS板組立体185aおよび185bを60Vに設定して、スキャンの間用いられるV
Exit_Plateと関係なく、イオンが電子増倍管(EM)190に到達できるようにする。
【0065】
IPEDTの間、V_Exitを少しずつ(すなわち、1V〜5Vずつ)下げて、V_Entry_Plateよりも上の電圧から始まって(すなわち、典型的には、V_Exit=132Vで始まって)入口圧力板150でのバイアス電圧を超えるところに到達する(すなわち、典型的には、V_Exit=75Vで終わる)。各電圧ステップについて、EM190からの基準線信号が、V_Exitに対して測定され、平均され、記録される。2.5E−7トルという合計圧力を維持するために窒素ガス流を用いながら標準スキャンの間、1.2amuと1.7amuとの間で(すなわち、トラップにイオンがないいずれかの質量範囲において)集められるすべてのデータポイントを平均することによって、基準線イオン電流オフセット(BICO)を測定する。例えば、21amuと25amuとの間のような、スペクトルにおいて質量ピークが事実上ないところならどこでも基準線を測定できる。その結果得られる基準線電流対V_Exitの曲線は、集積電荷(IC)曲線であり、V_Exitが低下するときの放出イオン電流の増加を追跡する。典型的なIC曲線が
図9に示されている。
【0066】
V_Exitが低下し始めると(すなわち、
図9のX軸において左に動くと)、出口板180は、トラップ内に蓄積されるイオンの初期ポテンシャルエネルギーに近づき始める。V_Exitが約115Vに到達すると、出口板180のポテンシャルバイアスが、蓄積されたイオンの上部ポテンシャルエネルギーに到達し、V_Exitがさらに少しでも低下すると、その結果、出口板180の透明な網目を通ってトラップにイオンが存在することになり、すなわち、初期ポテンシャルエネルギーがV_Exit未満のイオンのみがトラップに蓄積され得る。V_Exitがさらに低下するたびに、追加のイオンがトラップから放出され、すなわち、蓄積されるエネルギーの範囲はより小さく、基準線電流はより大きくなる。V_Exitが低下するたびに起こる基準線オフセット信号の増大は、電圧ステップが生じるときにトラップから放出される追加のイオンの数の測定値であって、またポテンシャルのステップだけ広がりのある二つのポテンシャルエネルギーの間のトラップに蓄積されるイオンの数に比例する。予期される通り、V_Exitが低下し続けると基準線は増大し続け、より数の少ないイオンしかトラップに蓄積できなくなる。IC曲線におけるどの所定の出口板電圧でも、基準線イオン信号(すなわち、放出イオン電流)は、V_Exitよりも上の初期ポテンシャルエネルギーを備えるトラップ内に蓄積されるイオンの数の積分に比例する。
図9において、トラップ内に蓄積されるイオンについて上部ポテンシャルエネルギーは約115Vであり、初期V_Exitが125Vであるとすると、すなわち、最も高い初期ポテンシャルエネルギー(IPED_Onset=115V)よりも10V高いとすると、電子ビーム148によって形成されるすべてのイオンをトラップ内に蓄積できることが指示されている。
図9に示されるように、IC曲線は、V
Exit_Plateにおいて72Vまでイオンチャージを積分し続ける。IC曲線は、IPEDTスキャンの間イオントラップに送付されるRF信号に依存していない。
図9に示されるように、IC曲線は、イオントラップに送付されるRF信号の0mV、10mV、20mV、30mVおよび40mVに対応する印加RF振幅(ピークからピークの)(RF
_AMPP−P)で繰り返されたもので、曲線間に見分けの付く違いは認められず、RF励起が基準線イオン電流に影響を及ぼさないことが示された。
【0067】
換言すると、IC曲線は、ICをポテンシャルエネルギーの関数として表すのに優れた方法である。例えば、92Vの信号は、初期のポテンシャルエネルギーが115Vと92Vとの間にある通常の動作の間、トラップ内に蓄積されるICに比例する。いったんIC曲線が生成されると、IC曲線のオンセット値(onset )を測定することによって、トラップについてのIPED_Onset値が測定される。
図9において、基準線イオン電流オフセットのオンセット値は、約115Vであり、その値は、トラップ内に蓄積されるイオンについてのIPED_Onsetに対応する。IPED_Onsetの測定は、多くの方法で行うことができる。イオン母集団の実際の分布をポテンシャルエネルギーの関数として目視化する一つのアプローチは、
図10に示されるように、IC曲線の導関数を計算することであり、それは、初期ポテンシャルエネルギー分布(IPED)曲線として定義される。
図10には、典型的な静電イオントラップについてIC曲線およびIPED曲線の双方が示されている。IPED曲線を用いて、さまざまなIPE値でのイオン母集団の分布を直接目視化できる。IPED曲線は、トラップについてのIPED_Onsetが約115Vであり、イオンの最高濃度が約110Vのポテンシャルエネルギーを有するということを指示する。IPED曲線は、IC曲線よりも、トラップに蓄積されるイオンについてIPED_Onsetを測定するのによりはっきりしたオンセット値とより信頼できる方法を提供する。IPED曲線のオンセット値(すなわち、IPED_Onset)を測定する一つのアプローチは、
図10に示されるように、IPED曲線の高電圧側の最大振幅の10%および90%にそれぞれ等しい二つのポイントAおよびBの間で直線にフィッティングできるところを用いるものである。
【0068】
いったんIPED_Onsetが前述のように測定されると、IPED_Onset値とイオントラップ設定との間で、
図4Bに示されるようにステップ330で相対的な調節が行われ、それは、ステップ440でのイオントラップ設定の調節であって、
図5Aに詳細が示されるものか、ステップ450でのIPEDオンセット値の調節であって、
図5Bに詳細が示されるものかによる。
図5Aおよび
図5Bは、それぞれ、全工場同調プロセス500を示し、
図5Aと
図5Bとの唯一の違いは、ステップ330の詳細であって、それは、それぞれの図に示されていて、以下に記述されている。イオントラップ設定の調節は、現在、工場において好ましい同調プロセスである。
【0069】
図5Aに戻ると、ステップ515で、V
Repeller=ECE
Maxは、約−55Vと約−15Vとの間の範囲になければならない。ステップ320で、IPED_Onset値を、前述の通り先に測定したECE_Maxで測定し、ステップ525で、IPED_Onsetが約109Vと約115Vとの間の範囲にあるなら、ステップ530で、出口板ポテンシャルバイアスV_Exitが、V_Exit=IPED_Onset+10Vに設定され、かつ、電子増倍管シールド板ポテンシャルバイアスV
EMSが、V
EMS=IPED_Onset+12Vに設定される。
【0070】
代わりに、前述のように、IPED_Onsetを
図5Bに示されるように変更することもできる。前述と同じステップ310およびステップ320の後、ステップ520で、IPED_Onsetが特定のIPED_Onset(例えば、約115V)に等しいかどうか測定を行う。もしそうでなければ、ステップ522で、電子エネルギー調節と、V
Repellerおよびフィラメント120におけるフィラメントバイアス(V
Fil_Bias)の調節による電子ビームの焦点合わせとの組み合わせによって、いくつの電子がトラップに入り、どこで電子がポテンシャルエネルギー曲線を横切ってイオンを形成するか調節できなければならず、それは、ステップ523で再帰的に測定され、ステップ524で特定のIPED_Onsetと比較される、IPEDT_Onsetを生成するためのものである。
【0071】
電離領域149を通るイオンの軌道は、(1)リペラ130/フィラメント120/入口スリット145の配列、(2)電子ビーム148を電離領域149に最も効率的に結合するのに必要とされる焦点合わせの場、および(3)電子が電離領域149に入るときのそれらの運動エネルギーの組み合わせによって決定される。電子が入口スリットに効率的に結合するには、前述のFCTまたはEMECET方法論によってECE
maxを測定することが必要である。V
Fil_Biasを変えるなら(すなわち、電子エネルギーを変えるためには)、差(V
Fil_Bias−V
Repeller)を保つことによってECE
Maxを復元する。電子が電離領域149に入るときの運動エネルギーは、電圧差:電子エネルギーEE=V
Entry Plate−V
Fil_Biasとして定義される。典型的な静電イオントラップについて、電子の初期運動エネルギーは、100eV(EE=130V−30V)である。
図11、
図12、
図13A、
図13B−1および
図13B−2には、トラップに入る電子のエネルギー状態を概略図で表している。
図11に示されるように、電子の方向転換ポイントは、電子の初期運動エネルギー(IKE)および電子ビームの角度αの双方に依存し、IKE=V
Entry_Plate−V
Fil_Biasであって、すなわち、電子のエネルギーは、入口プレート140とフィラメント120との電圧の差に依存する。
図10に示される電子ビーム角度αは、リペラ130/フィラメント120/入口スリット145の配列および、最も効率的なECE(すなわち、ECE
Max)をもたらすV
Fil_BiasとV
Repellerとの電圧の差によって定義される。αの典型的な値は、約25°(±10°)である。
図13Aに示されるように、トラップについての最終的なIPEDをもたらすよう角度αが分布する電離領域149に電子が入る。
【0072】
100eVのIKE(すなわち、典型的な静電イオントラップについての初期IKE)かつα=25°でトラップに入る電子について、軸に沿っての、トラップのポテンシャルエネルギー曲線において、電子が42Vに上昇するとき、方向転換ポイントに到達する。トラップのポテンシャル内で方向転換ポイントの深さを増すために、ユーザーは、IKEを増大させるか角度αを変えるかすることができる。IKEの増大は、一般に、V
Fil_Biasを低下させ、V
Repellerを変化させて結合効率を保つことによって行われる。
図13Aに示されるように、イオンビーム中の電子は、α角度(
図13Aにおけるα1−α2)の分布するトラップに入り、IPEDの帯域へ導かれる。その帯域の形と位置は、前述のような調節によって制御される。
図14には、リペラ130とフィラメント120とを保持する現場交換可能ユニット(FRU)114内で、フィラメント120を上下に動かすことの作用が示される。フィラメント120がスリット145(+変位)に対して高い位置に置かれると、電子ビーム148は、さらにトラップ内に押し込まれ、IPED_Onsetを低下させ、かつIPED帯域をより低いエネルギーにシフトさせる。この結果、イオンについての放出効率が低くなり、放出閾値が増大するときピーク比に影響して分解能を上げるRF_Thresholdが増大する。フィラメント120が、スリット145(−変位)に対して低く配置されるなら、電子ビーム148は、入口板140に向けて変位され、イオンについての放出閾値は低下する。放出閾値が低下した結果、ピーク振幅がより高くなり、分解能が低減され、基準線オフセットレベルが上昇する。この種の不整合によって、所望のガウスピーク形に比べて、ピーク形の悪いピークが生成される。理想的なIPE分布曲線は、約109Vと約115Vとの間の範囲に最大のエネルギーオンセット値を有する。分解能を最大とし、ダイナミックレンジを最高にするためには、エネルギー分布の幅は、できる限り狭くなければならない。上述のようにECE
Maxに設定されるV
Repellerを用いてイオントラップを作動させると、典型的には、その結果、イオンのエネルギー分布が狭まる。出口板電圧を超えない高IPED_Onsetによって、基準線オフセットが低い、高信号レベルが確実になる。狭いエネルギー分布によって、高い分解能およびダイナミックレンジが確実となる。
図10に示されるように、静電イオントラップにおいて認められるIPED曲線の典型的な例は、約100Vと約120Vとの間の範囲に最大値を有し、約70Vと約85Vとの間の範囲に最小のエネルギーを有する。
【0073】
図13B−1および
図13B−2には、X軸よりも上のRF_Threshold曲線の挟み取られた部分で作動するトラップにおける典型的なエネルギーポンピングプロセスであると考えられているものが例示されている。A帯域は、形成され、蓄積されるイオンについてエネルギーの広がりを表す。B帯域は、同じ帯域であるが、16Vでイオンを励起するある量(すなわち、典型的には、代表的なイオントラップにおける最大値)のRFによって励起されている。
図13B−1には、110VのIPED_Onsetが示されており、一方、EPED_Onsetは、126Vである。全帯域が、16Vだけ持ち上げられてポンピングされる。このイオントラップにおいて、出口板電圧は、IPED_Onset+10V=120Vに設定され、一方、励起の後、イオンは126Vに到達することができる。その結果、
図13B−2には、出口板電圧が120Vに設定されると、+6Vの範囲をカバーするイオンのC帯域がこのトラップから放出されることが示されている。それゆえ、トラップ内に蓄積されるすべてのイオンが、実際にトラップから放出されるわけではないということが明らかであり、すなわち、典型的なIPED曲線は、20VのFWHMを有していて、それは、大部分のイオンが、20Vのエネルギースペクトルに渡って広がっているということを意味する。イオンの20V帯域の内、6Vの破片のみがトラップから放出される。これが示唆するのは、各RF掃引において、少なくともイオンの2/3がトラップに残されたままであるということである。ダイナミックレンジを向上させるために示唆される一つの方法は、トラップに蓄積されるイオンのエネルギー分布を引き締めて、より多くのイオンが各掃引の間に放出されるようにすることである。以下に記述されるように、エネルギー分布を引き締めることには、トラップから放出されるイオンの数を増やし(すなわち、ダイナミックレンジを増大させ)、および、分解能を向上するという二重の効果がある。EPED_Onsetと出口板電圧との差によって、トラップから放出することができるイオンエネルギーの帯域が定義され、そしてそうすることで、感度(すなわち、いくつのイオンが放出されて検出されるか)のみならず、分解能(すなわち、これらのイオンを放出するのにどれだけ長く時間がかかるか)も定義されるものと考えられている。
【0074】
静電イオントラップから排出されるパルスの幅は、印加RFの関数として変化する。RFがRF_Thresholdから増大し始めると、分解能は最大から低下し始めて最低値に到達する。RFがさらに増大しても、もうその分解能を変化させることはない。
図13Cには、この作用が例示されている。Aトレース(trace )は、28amuの純N
2について28amuピークに対する分解能(M/ΔM)を表す。現在までテストされているあらゆるイオントラップにおいて、分解能は、RF振幅に対して正確に同じ反応を示す。分解能は、RF_Thresholdに対応するRF振幅で最大となり、RF振幅が増大すると単調に低下する。一般に、分解能は、典型的に60と80との間で最低値に到達し、印加RFがさらに増大しても分解能に影響を及ぼさない。
図13CのAトレースは、この現象を例示している。トラップから放出されるイオンの数は、印加RFが増大すると単調に増大する。結果的に、ピーク振幅(すなわち、放出されるイオンの数に比例する時間の積分面積)もまた最大に到達する。現在まで構築されているイオントラップのほとんどで、分解能がRF振幅に非常に一貫して依存することが示されていることに注意する。実際、RF振幅とともにいかに速く分解能が低下するかについていく分かばらつきが予期されてはいるけれども、一般に多くのイオントラップは、RF設定が大きいと同じ分解能に到達する。多くの場合、低い方の限界の分解能は、60倍と80倍との間のいずれかである。高いRF設定での動作が、おそらくは、トラップを作動させて、1)一貫した分解能、2)装置間のばらつきが小さいこと、および3)ピーク振幅についての比が最も正確であることを得るのに最善の方法である。
【0075】
特定の理論に縛られることを望まないとすると、パルスの幅は、EPED_OnsetとV
exitバイアスとのエネルギーの差に密接に関係していると考えられている。RFが非常に小さいとき、イオンは穏やかにしか励起されず、DPEDが+10Vに到達するまで放出は起こり得ない。RFが増大し続けると、DPEDが+10Vよりも大きくなって、イオンエネルギーのグループがトラップから放出され得るものとなる。例えば、12VのDPEDについて、EPED曲線における2Vの広がりに対応するイオンのグループを放出することができる。通常の能力に到達するまでに、典型的にはDPED=16VとなるようにEPED_Onsetを得て、6Vのエネルギー帯域に対応するイオンのグループを放出することができる。放出されるピークの幅は、6Vのエネルギー帯域を超えるイオンを放出して、それらすべてを取り出すことが必要であるという事実に直接関係している。6Vの励起には時間がかかり、それは、各RF振動でRFを少しずつ増やしてでしか成し得ないからである。その結果、さらなるRFで励起されるパルスによって、より広範なエネルギーで励起されるより多くのイオンが放出され、それが出現するのにより長くかかる。実際、
図13Dに例示されるように、パルス幅と、トラップから放出できるエネルギーの帯域との間に優れた一致がある。
【0076】
図13Dには、イオンについての励起プロセスが例示されている。イオンは、A帯域で表されるエネルギー分布を備えるトラップ内で形成される。イオンは、エネルギーに依存して振動するその帯域内で前後に振動する。イオントラップにおける窒素イオンについて、振動の周波数は約500kHzであり、それは、28amuのイオンが振動する上で完全に往復するのにおおよそ2マイクロ秒かかるということを意味している。RFスキャンの間、イオンはRFによって励起され、16Vものエネルギーを得ることができる。しかしながら、出口板はIPED_Onsetよりも+10V上に設定されていて、6Vのエネルギーの広がりを有するイオンのグループが、励起プロセスの間にトラップを出るようになっている。これが実際に意味することは、6VのグループがRFによって励起される間にイオンがトラップを出るということである。RFがイオンの6V帯域を励起するためには、一回が50mVで、RFは120回ポンピングを行う必要がある。RFは、NOFの2倍でポンピングを行うので、これは、実際には、RF場の60回の振動を意味し、それは、120マイクロ秒に対応する。換言すると、6Vの範囲をカバーするイオンのグループがトラップから出てくるのに120秒かかる。これは、トラップから出てくる28amuのN
2イオンについて測定されるパルス幅と正確に一致する。
図13Eには、107マイクロ秒のパルス幅のN
2ピークが示されている。トラップ内で形成されるイオンが出口板に到達するのに約200マイクロ秒かかり、そして出口板格子から6V帯域のイオンを放出するのにさらに120マイクロ秒かかる。700kHzにより近い周波数で振動する14amuのイオンについて同じ計算が繰り返されるなら、イオンが出てくるのにより短い時間しかかからないという結果になる。実際、6V帯域のエネルギーを放出するには、RFが60振動を超えて再度イオンを放出することが必要であるが、このときそれはおおよそ80マイクロ秒に対応する。これはやはり、
図13Fに示されるように、14amuのイオンについて測定されるパルス幅と一致しており、それには、パルス幅が73マイクロ秒の14amuピークが示されている。
【0077】
軸外イオン源で作動する静電イオントラップの性能(すなわち、分解能、ピーク比および信号レベル)は、トラップ内に形成されるイオンのエネルギー分布に依存する。静電イオントラップについての幾何学上の設計と作動パラメータがいったん選択されると、イオンエネルギー分布が、軸上のポテンシャル井戸内のイオンの起点(point of origin )によって定義される。エネルギー板140の近くで形成されるイオンは、さらにトラップ容積の内側で(すなわち、入口圧力板150のより近くで)形成されるイオンよりも高い初期ポテンシャルエネルギー(IPE)を有する。一般に、トラップ内で形成されるイオンは、ある範囲のIPEを有することが予期される。あるイオンのIPEは、そのイオンが作られる等電位線の電圧として定義される。軸上ポテンシャル井戸内のIPE分布の質量の幅および中心によって、静電イオントラップの仕様が決まる。リペラ130/フィラメント120/入口スリット145組立体の正確な配列および位置決めによって、
図15に示されるように、大きなレバーアームが現れる結果として、IPE帯域の位置に最も大きな影響が及ぼされる。RFスキャンの間、高いIPE(すなわち、入口板の裏面140aのより近く)で形成されるイオンは、トラップ内のより深くに形成されるイオンよりもトラップから早く放出される。エネルギーの広がりによってピークが広がって、イオンがエネルギーにおいて均一に分布されない場合に形の悪いピークとなる。イオンエネルギー分布がより低いIPE値にシフトすると、イオンについての放出効率が下がり、その結果、(1)信号レベルが低下し、(2)分解能が増大し、かつ(3)ピーク比が不正確に表されてしまう。一般に、RF信号振幅を増大させることによって、性能を幾分か回復させることが可能である。イオンエネルギー分布がより高いIPE値にシフトすると、イオンの放出効率が上がり、その結果、(1)信号が高まり、(2)分解能が低下し、かつ(3)ピーク比がより良好に表される。一般に、RF信号振幅を低減することによって、性能を幾分か回復させることが可能である。
【0078】
図5Aに戻り、いったんIPEDオンセット値とトラップパラメータが前述のように相互に対して調節されると、ステップ340において、RF励起レベルが調節されるが、それは、ステップ540において、印加テストRF励起振幅(例えば、RF
_AMP=0.5V)で、励起されたポテンシャルエネルギー分布(EPED)とIPEDとの差を測定することによるものである。励起ポテンシャルエネルギー分布テスト(EPEDT)の間、V_Exitを、前述のIPEDTにおけるのと同じ方法でスキャンするが、各電圧ステップにおいて、窒素ピークの面積を測定して蓄積する。分析ソフトウェアは、V_Exitが変化するときの窒素ピークの下の位置と領域のシフトを追跡するが、それは、V_Exitが質量軸校正係数に直接影響を及ぼすからである。このテストは、典型的には、先のテストと同じく、2.5E−7トルの純窒素において実施され、28amuのピーク領域を用いて、イオン母集団をV_Exitの関数として定量化する。テストピーク質量が異なるなら、他のテストガスも用いることができる。そのテストの結果得られるのは、EPEDT曲線であり、それは、IPEDTテスト曲線に非常に類似しているが、RF励起によってより高いV
Exit_Plate値にシフトしていた。
図16Aには、静電イオントラップで得られるIPEDTとEPEDTとを組み合わせたグラフが示されている。イオンエネルギーのテストが、
図8に示されるECETプロット810から決定されるECE
Max値で行われた。前述の直線にフィッティングできるところ(10%〜90%規則)から測定されるEPED曲線およびIPED曲線について計算されたオンセット値から、RF
_AMP=0Vのとき典型的にトラップに送付される22.5mVというRF信号励起によって、質量分析スキャンの間に5.15Vだけ上にイオンがシフトされていることが分かる。
図17に示されるように、RF
_AMPが0.0Vから0.4Vに増大されると、EPED曲線のオンセット値がより高いポテンシャルへ動く。
図8に示されるように、DPEDは、約0.4Vという印加RF Amp P−Pに対して約16Vまで増大する。
図19に示されるように、制御器が印加するRF
_AMPとイオントラップに送付されるRF信号励起との間に線形の関係がある。RF
_AMPとRF信号との関係は、いくつかの要因に依存するが、それには、異なるケーブル間のRF伝達のばらつきが含まれる。
図19に示され、上で記述されたように、制御器がゼロに設定されているときでさえ、イオントラップに送付されるRF信号にはある量の残留(約22mV)がある。
【0079】
図5Aに戻ると、ステップ540において、印加RF
_AMPが0.5Vに設定され、かつEPEDオンセット値が前述のように測定され、そして、励起されたオンセット値と初期のオンセット値との差(DPED=EPED−IPED)が得られる。ステップ545において、DPEDが特定のDPED(例えば、16V)よりも大きいならば、ステップ550において、印加RF
_AMPが少量(例えば、0.010V)だけ低減され、DPEDが特定のDPED未満かそれに等しくなるまでDPEDは、ステップ560およびステップ565において、繰り返し測定される。
【0080】
いったんRF励起信号が以上のように設定されると、ステップ350には、ステップ570において、電子増倍管電圧テスト(EMVT)を行うことが含まれる。EMVTを行うことができるのは、上述のファラデーカップテスト(例えば、工場において)を用いて、25pAという典型的なイオン電流に対して約25nAという電子増倍管出力電流を与える電子増倍管バイアス(EM_Bias)設定を決定し、それによって1000という電子増倍管利得を設定するか、または約25nA(例えば、現場において)という基準線イオン電流オフセット(BICO)についてのEM_Bias設定を決定することによるものである。そして、ステップ575におけるEM_Bias設定が、特定のEM_Bias(例えば、1050V)未満であるなら、作動を可能とするV_Exit、V
_EM_Shield、RF
_AMPおよびEM_Biasの設定が、ステップ580において保存される。
【0081】
図5Cに示されるスペクトル品質テストには、ステップ50においてテストスペクトルの生成が含まれており、それは、ステップ595において、静電イオントラップが特定の分解能、ダイナミックレンジ(DNR)、ピーク比およびスペクトルB帯域ピーク形を有するかどうか測定するためである。半値全幅(FWHM)の分解能(M/ΔM)は、特定の分解能(例えば、150)よりも大きいかそれに等しくなければならない。単独で電離したN
2分子に対応する28amuピークで分解能を測定することができる。その測定された分解能は、28amuでの質量分析計の実際の分解能であり、それは、FWHMでのピーク幅によって割られた質量の比として定義される。ステップ591において、分解能が特定の分解能未満であると認められるならば、ステップ592において、静電イオントラップが解体され、部品が、特に出口板網目が検査される。
【0082】
1.2amuと1.7amuとの間(またはピークがないスペクトルにおける他のいずれかの質量範囲)で測定される基準線ノイズの二乗平均(RMS)で割られた、28amuでのバックグラウンドが引かれたピーク振幅の比としてダイナミックレンジ(DNR)を定義できる。ダイナミックレンジは、検出可能な最小のピーク振幅の優れた測定値である。一般に、ピークは、その振幅が基準線におけるノイズのRMSを超えると検出できる。100平均についてのDNRは、特定のDNR(例えば、28amuで500)に等しいかそれを超えなければならない。ステップ593において、DNRが特定のDNR未満であると認められるならば、ステップ594において、静電イオントラップが解体され、部品が、特に電子増倍管(EM)が、検査される。
【0083】
前述のように、ピーク比は、RF送付の測定値であり、測定される化学種のRF閾値に依存する。14amuおよび28amuでのピーク振幅の比が計算されるが、約0.12と約0.18との間の範囲にあることが予測される。ステップ596において、そのピーク比がこの範囲外にあると認められるならば、ステップ597において、印加RF
_AMFをわずかに(例えば、約0.01Vずつ)低下させてピーク比を再度測定する。印加RF
_AMFは、約0.3V未満の値にまで低下すべきではない。印加RF
_AMFを低下させ過ぎると、28amuイオンを効率的に放出することができない。その結果、28amuピークの振幅が低下し、14/28の比が増大する。印加RF
_AMFが低下すると14amuでのイオンの数がずっと少なくなるので、28amuピークが、14amuピークの前にRF枯渇の影響を受け始める。ピーク比の測定を用いて、トラップが提供するスペクトルで、ピーク比が確実に一貫したものとなるようにする。典型的には、特定のピーク比は、標準偏差が0.02で約0.16であり得る。
【0084】
最後のスペクトル品質テストは、スペクトルピーク形またはB帯域テストである。B帯域ピークは、メインピークの右(すなわち、高質量)側に現れる。B帯域ピークは、スペクトルのいずれかのピークの0.3amu内に現れる衛星ピークとして定義でき、メインピークの少なくとも10%の振幅を有する。ステップ598において、B帯域が認められるならば、ステップ597において、B帯域の出現を最小限にしようという取り組みで、印加RF
_AMFを低減できる。
【0085】
B帯域イオンは、メインピークイオンよりも高いRF_Thresholdを有し、その結果、RF振幅を低下させると最初にB帯域が消失する。いったんB帯域ピークが閾値未満で最小限とされると、典型的には、上述のように、ステップ593およびステップ596において、それぞれDNRおよびピーク比テストを繰り返す必要がある。
【0086】
前述のように、リペラ130/フィラメント120/入口スリット145の配列の正確な詳細が、装置間の性能のばらつきに貢献している。さらにこのばらつきを小さくするために、
図23Aに示される一つの実施形態において、リペラ130には、フィラメント120と入口板140との間に位置する延長部130aが含まれており、リペラ130が入口板ポテンシャルからフィラメント120をシールドするものとなっており、それによってフィラメント120と入口スリット145との間で電界の向きの線がより均一に平行とされている。その結果、
図23Bにおける電子ビーム148を
図12に示される電子ビーム148と比較することによって示されるように、入口スリット145を通る電子ビーム148の焦点合わせが向上している。
図12において、電子ビーム148の一部が、入口スリット145を通って出現する代わりに入口板140の裏に当たっていることに注意する。電子ビーム148の大部分を、入口板スリット145を通して電離領域に結合をすることによって、リペラ電圧V
Repellerへの依存がより少ない電子結合効率ECE_Maxが生じていて、V
Repellerを変えることによってIPED_Onsetの同調を可能とし、その一方で、電離領域に導入される電子の数に与える影響の度合いが以前の電子源設計よりも少なくなるようにしている。
図24Aに示されるように、延長されたリペラ電子源は、−60Vから−20Vの範囲のV
Repellerに渡って約10%だけECE_Maxが変動していたが、それは、
図1Bに示される電子源設計で典型的に得られる、V
Repellerの同じ範囲に渡ってのECE_Maxの40%〜60%の変動よりもずっと小さく、一方、同じ範囲のV
Repellerに渡って約113Vから約96VだけIPED_Onsetに変動が生じている。
図23Aに戻ると、リペラ130の延長部130aは、半円であり得、または入口板スリット145に平行な所望の電界の向きの線を与える他のいかなる形でもあり得る。
【0087】
図1Bに示される電子源かまたは
図23Aに示される延長された電子源かのいずれかについて、入口板スリット145を通して電子ビーム148の焦点合わせに別の改良を加えたものが、
図25Aおよび
図25Bに示されており、電子源に、フィラメント120と入口板スリット145との間に位置する静電レンズ145aが含まれており、その静電レンズ145aは、電離領域に入るまでの途上で電子ビーム148を平行にしている。静電レンズ145aは、入口板スリット145よりもわずかに大きいスリットを備える平らな板であり得る。静電レンズ145aは、フィラメント引張ばね組立体と一体になった部分であって、フィラメント120と同じ電圧(典型的には、約+30V)にバイアスされ得、または、選択的に、静電レンズ145aは、約+15Vと約+30Vとの間の範囲にバイアスされ得る。リペラ電圧の代わりにまたは、それに加えてフィラメントバイアス電圧を調節することによって、静電レンズでイオントラップ内の電離領域の位置を同調することが可能となる。
【0088】
再現可能な電子ビームの軌道を生成して、前述の問題を最小化する別のアプローチは、
図22に一体化されて示されており、
図21Aに入口スリット組立体114として分離して示されている、一体型(unified )現場交換可能ユニット(FRU)電子源および入口スリット組立体を提供することであり、ここで入口スリット145はFRU組立体114の一部であって、FRUが取り替えられるたびに取り替えられる。入口スリット145には、前述の静電レンズ145aが含まれ得る。取替え可能スリット145によって、FRUを2、3回取り替えた後は、トラップのメンテナンスを行う必要がなくなる。
図21Bに示されるように、入口板140は、FRUが設置されるときに入口スリット板145aを収容する開口140bを有する。いったんFRUが設置されると、入口スリット板145aと入口板140とが電気的に接続される。
図22に示されるように、入口スリット板145aは、入口板140上で側面の開口140bを覆い、リペラ130/フィラメント120/入口スリット145の配列をテスト設備に対して適切に保つ。
図21A、
図21Bおよび
図22に示される設計の利点に含まれるのは、
1.FRUが取り替えられるたびにスリット145が取り替えられる。これによって、数回FRUを取り替えた後、入口スリット145上を清潔に保つ必要がなくなり、すなわち、必要なメンテナンスが少なくなる。
2.テスト設備において確立されているリペラ130/フィラメント120/入口スリット145の配列が、FRUを特定のイオントラップに設置した後も保たれるような装置として、FRU組立体がテストされる。特定のイオントラップとテスト設備との間における構成部品の不整合の危険はない。
3.リペラ130/フィラメント120および入口スリット板145aの積み重ねにおける寸法公差が必要とされず、それゆえ、いずれのFRU114をいずれのトラップ100に組み合わせても作動することになる。
4.電子流レベルと電子ビーム軌道は双方とも、工場で、前述のテストを用いる比較的簡単なテスト設備において完全にテストすることができる。テストによって、FRU組立体がいかなるトラップでも作動するかどうかが直ちに明らかになり、これには、特定のFRU組立体114が特定の静電イオントラップ100と整合することが必要ではない。
【0089】
ここに引用されるすべての特許、公開出願および参考資料の関係する教示は、援用することで、その全体がここに組み込まれる。
本発明は、その実施形態を参照して特別に示され記述されているが、当業者であるならば、そこに、添付される特許請求の範囲で定められる発明の範囲から逸脱することなく、形状や詳細における様々な変更を加えても良いことが理解される。例えば、ここに記述される同調に受入可能なパラメータの範囲は、
図1Aに例示される特定のイオントラップ設計にのみ適用されている。したがって、異なるトラップの設計や異なる作動パラメータについては、新しいパラメータ範囲が必要となる。
なお、本発明は、実施の態様として以下の内容を含む。
[態様1]
静電イオントラップの同調方法であって、自動電子制御のもと、
i)前記イオントラップのパラメータを測定すること、および
ii)その測定したパラメータに基づいてイオントラップの設定を調節すること
を備える方法。
[態様2]
前記イオントラップの設定を用いて、特定の圧力のテストガスからテストスペクトルを生成することをさらに含む態様1に記載の方法。
[態様3]
前記トラップがイオン源を含む態様1または2に記載の方法。
[態様4]
前記イオン源が電子源を含む態様3に記載の方法。
[態様5]
イオントラップの設定を調節することが、電子源の設定を調節することを含む態様4に記載の方法。
[態様6]
前記イオントラップのパラメータを測定することが、さらに、電子と特定の圧力のテストガスとの衝突によって形成されるイオンの量を電子源リペラバイアスの関数として測定することを含む態様1から5のいずれか一態様に記載の方法。
[態様7]
イオントラップの設定を調節することが、さらに、電子源フィラメント電流で形成される前記イオンの量を増大させることを含む態様6に記載の方法。
[態様8]
前記電子源リペラポテンシャルバイアスを、電子源フィラメント電流で最大の基準線イオン電流をもたらす設定にすることをさらに備える態様6に記載の方法。
[態様9]
形成される前記イオンの量を増大させることが、電子源フィラメント電流で形成される前記イオンの量を最大限まで増大させることを含む態様6に記載の方法。
[態様10]
前記イオントラップのパラメータを測定することが、特定の圧力のテストガスについて前記トラップ内のイオン初期ポテンシャルエネルギー分布(IPED)を測定することを含む態様1から9のいずれか一態様に記載の方法。
[態様11]
前記IPEDを測定することが、IPEDオンセット値を測定することを含む態様10に記載の方法。
[態様12]
前記トラップが、さらに、イオン出口ゲートポテンシャルバイアスを有するイオン出口ゲートを含み、イオントラップの設定を調節することが、さらに、前記イオン初期ポテンシャルエネルギー分布(IPED)と前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間で相互の調節を行うことを含む態様10に記載の方法。
[態様13]
前記IPEDと前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間で相互の調節を行うことが、IPEDオンセット値に基づいて前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスを設定することを含む態様12に記載の方法。
[態様14]
前記IPEDオンセット値と前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間で相互の調節を行うことが、さらに、前記IPEDオンセット値に基づいて電子増倍管シールドポテンシャルバイアスを設定することを含む態様13に記載の方法。
[態様15]
前記IPEDと前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間で相互の調節を行うことが、電子源リペラポテンシャルバイアスおよび電子源フィラメントバイアスを調節して特定のIPEDオンセット値をもたらすことを含む態様12に記載の方法。
[態様16]
前記イオントラップのパラメータを測定することが、特定のイオン質量のイオン信号を検出するのに必要な印加RF励起の最小量を測定することを含む態様1から15のいずれか一態様に記載の方法。
[態様17]
前記RF励起を、特定のピーク比をもたらす作動RF励起設定にすることをさらに備える態様16に記載の方法。
[態様18]
前記イオントラップのパラメータを測定することが、さらに、前記イオン信号を印加RF励起の関数として測定することを備える態様16に記載の方法。
[態様19]
前記イオントラップのパラメータを測定することが、イオン初期ポテンシャルエネルギー分布(IPED)オンセット値を測定することと、テストRF励起設定でのイオン励起ポテンシャルエネルギー分布(EPED)オンセット値を測定することとを含む態様1から18のいずれか一態様に記載の方法。
[態様20]
前記テストRF励起設定を、前記EPEDオンセット値と前記IPEDオンセット値との間に特定の差をもたらす作動RF励起設定にすることをさらに含む態様19に記載の方法。
[態様21]
前記テストRF励起設定を、特定のスペクトル分解能をもたらす作動RF励起設定にすることをさらに含む態様19に記載の方法。
[態様22]
前記テストRF励起設定を、特定のダイナミックレンジをもたらす作動RF励起設定にすることをさらに含む態様19に記載の方法。
[態様23]
前記テストRF励起設定を、テストスペクトルにおける特定のピークによる特定のピーク比をもたらす作動RF励起設定にすることをさらに含む態様19に記載の方法。
[態様24]
i)静電イオントラップ、および
ii)前記イオントラップのパラメータを測定し、その測定したパラメータに基づいてイオントラップの設定を調節する電子機器
を備える装置。
[態様25]
前記電子機器が、さらに、前記イオントラップの設定を用いて、特定の圧力のテストガスからテストスペクトルを生成する態様24に記載の装置。
[態様26]
前記トラップが、さらにイオン源を含む態様24または25に記載の装置。
[態様27]
前記イオン源が、さらに電子源を含む態様26に記載の装置。
[態様28]
前記電子源が、
入口板ポテンシャルバイアスを有する入口板を含む入口スリット組立体と、
フィラメントと、
そのフィラメントから電子のビームを形成し、その電子が前記入口スリットを通るように導くリペラであって、前記フィラメントと前記入口板との間に位置する延長部を有し、前記フィラメントを前記入口板ポテンシャルからシールドするリペラと
を含む態様27に記載の装置。
[態様29]
前記電子源が、前記フィラメントと入口スリットとの間に位置する静電レンズを有する入口スリット組立体を含み、前記静電レンズが、前記フィラメントからの電子ビームを平行にして前記入口スリットを通す態様27または28に記載の装置。
[態様30]
前記電子源が、電子源と入口スリット組立体を統合して含む態様27から29のいずれか一態様に記載の装置。
[態様31]
イオントラップの設定の調節が、電子源の設定の調節を含む態様27から30のいずれか一態様に記載の装置。
[態様32]
前記電子機器が、さらに、電子と特定の圧力のテストガスとの衝突によって形成されるイオンの量を測定し、さらに、電子源の設定を調節して電子源フィラメント電流で形成される前記イオンの量を増大させる態様27から31のいずれか一態様に記載の装置。
[態様33]
形成される前記イオンの量の増大が、電子源フィラメント電流で形成される前記イオンの量の最大限への増大を含む態様32に記載の装置。
[態様34]
前記電子機器が、さらに、電子源リペラポテンシャルバイアスを、電子源フィラメント電流で最大の基準線イオン電流をもたらす設定にする態様32に記載の装置。
[態様35]
前記トラップが、さらに、イオン出口ゲートポテンシャルバイアスを有するイオン出口ゲートを含み、前記電子機器が、さらに、イオン初期ポテンシャルエネルギー分布(IPED)と前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間で相互の調節を行う態様24から34のいずれか一態様に記載の装置。
[態様36]
前記IPEDと前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間での相互の調節が、IPEDオンセット値に基づく前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスの設定を含む態様35に記載の装置。
[態様37]
前記IPEDと前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間での相互の調節が、さらに、前記IPEDオンセット値に基づく電子増倍管シールドポテンシャルバイアスの設定を含む態様36に記載の装置。
[態様38]
前記IPEDと前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間での相互の調節が、IPEDオンセット値の測定と、特定のIPEDオンセット値をもたらす、電子源リペラポテンシャルバイアスおよびフィラメントバイアスの調節とを含む態様35に記載の装置。
[態様39]
前記電子機器が、さらに、特定のイオン質量のイオン信号を検出するのに必要な印加RF励起の最小量を測定する態様24から38のいずれか一態様に記載の装置。
[態様40]
前記電子機器が、さらに、前記RF励起を、特定のピーク比をもたらす作動RF励起設定にする態様39に記載の装置。
[態様41]
前記電子機器が、さらに、前記イオン信号を、印加RF励起の関数として測定する態様39に記載の装置。
[態様42]
前記イオントラップのパラメータの測定が、イオン初期ポテンシャルエネルギー分布(IPED)オンセット値と、テストRF励起設定でのイオン励起ポテンシャルエネルギー分布(EPED)オンセット値との測定を含む態様24から41のいずれか一態様に記載の装置。
[態様43]
前記電子機器が、さらに、前記テストRF励起設定を、前記EPEDオンセット値と前記IPEDオンセット値との間に特定の差をもたらす作動RF励起設定にする態様42に記載の装置。
[態様44]
前記電子機器が、さらに、前記テストRF励起設定を、特定のスペクトル分解能をもたらす作動RF励起設定にする態様42に記載の装置。
[態様45]
前記電子機器が、さらに、前記テストRF励起設定を、特定のダイナミックレンジをもたらす作動RF励起設定にする態様42に記載の装置。
[態様46]
前記電子機器が、さらに、前記テストRF励起設定を、テストスペクトルにおける特定のピークによる特定のピーク比をもたらす作動RF励起設定にする態様42に記載の装置。
[態様47]
静電イオントラップの同調方法であって、電子と特定の圧力のテストガスとの衝突によって形成されるイオンの量を電子源リペラバイアスの関数として測定することを含む、前記イオントラップのパラメータを測定することと、その測定したパラメータに基づいてイオントラップの設定を調節することとを備える方法。
[態様48]
静電イオントラップの同調方法であって、特定の圧力のテストガスについて前記トラップ内のイオン初期ポテンシャルエネルギー分布(IPED)を測定することを含む、前記イオントラップのパラメータを測定することと、その測定したパラメータに基づいてイオントラップの設定を調節することとを備える方法。
[態様49]
前記トラップが、さらに、イオン出口ゲートポテンシャルバイアスを有するイオン出口ゲートを含み、前記イオントラップの設定を調節することが、さらに、前記イオン初期ポテンシャルエネルギー分布(IPED)と前記イオン出口ゲートポテンシャルバイアスとの間で相互の調節を行うことを含む態様48に記載の方法。
[態様50]
静電イオントラップの同調方法であって、特定のイオン質量のイオン信号を検出するのに必要な印加RF励起の最小量を測定することを含む、前記イオントラップのパラメータを測定することと、その測定したパラメータに基づいてイオントラップの設定を調節することとを備える方法。
[態様51]
i)A)入口板ポテンシャルバイアスを有する入口板を含む入口スリット組立体と、
B)フィラメントと、
C)そのフィラメントからの電子のビームを形成し、その電子が前記入口スリットを通るように導くリペラであって、前記フィラメントと前記入口板との間に位置する延長部を有し、前記フィラメントを前記入口板ポテンシャルからシールドするリペラと
を備える電子源を有するイオン源を含む静電イオントラップ、および
ii)前記イオントラップのパラメータを測定し、その測定したパラメータに基づいてイオントラップの設定を調節する電子機器
を備える装置。
[態様52]
i)電子源を有するイオン源を含む静電イオントラップであって、前記電子源が、フィラメントと入口スリットとの間に位置する静電レンズを有する入口スリット組立体を含み、前記静電レンズが、前記フィラメントからの電子ビームを平行にして前記入口スリットを通す静電イオントラップ、および
ii)前記イオントラップのパラメータを測定し、その測定したパラメータに基づいてイオントラップの設定を調節する電子機器
を備える装置。