特許第5918446号(P5918446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ティルゼ,ライナーの特許一覧

<>
  • 特許5918446-歯根管乾燥用機器 図000002
  • 特許5918446-歯根管乾燥用機器 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918446
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】歯根管乾燥用機器
(51)【国際特許分類】
   A61C 5/02 20060101AFI20160428BHJP
【FI】
   A61C5/02
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-527850(P2015-527850)
(86)(22)【出願日】2013年8月9日
(65)【公表番号】特表2015-525659(P2015-525659A)
(43)【公表日】2015年9月7日
(86)【国際出願番号】EP2013066684
(87)【国際公開番号】WO2014029638
(87)【国際公開日】20140227
【審査請求日】2015年4月3日
(31)【優先権主張番号】102012107589.1
(32)【優先日】2012年8月20日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515047530
【氏名又は名称】ティルゼ,ライナー
(74)【代理人】
【識別番号】100062225
【弁理士】
【氏名又は名称】秋元 輝雄
(74)【代理人】
【識別番号】100186060
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】ティルゼ,ライナー
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−130138(JP,A)
【文献】 特開2007−185269(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0003264(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/02
A61C 17/02 − 17/032
A61C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる歯根管乾燥用機器:
歯根管にガス流を注入するためのカニューレ(4)、
前記カニューレ(4)を保持するためのハンドピース(1)で、カニューレ内のガス圧が所定の閾値レベルを超えるのを防止するための安全弁(5)を有することを特徴とする。
【請求項2】
前記ガス流を加熱するための電気加熱素子(8)によって特徴付けられる、請求項1の機器。
【請求項3】
前記ガス流の温度を設定温度に調整するための制御回路によって特徴付けられる、請求項2の機器。
【請求項4】
前記設定温度を調整するための操作要素を少なくとも有することによって特徴付けられる、請求項3の機器。
【請求項5】
カニューレ(4)がガス放出のための側面の開口部(10)を有することを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の機器。
【請求項6】
前記ハンドピース(1)が前記ガス流を遮断するための遮断弁(7)を有する、請求項1〜5の何れかに記載の機器。
【請求項7】
ガス乾燥装置を特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の機器。
【請求項8】
カニューレ(4)がハンドピース(1)に取外し可能に取付けられたことを特徴とする、請求項1〜7の何れかに記載の機器。
【請求項9】
カニューレ(4)の外側が凹部および/または突出し部(11)を有することを特徴とする、請求項1〜8の何れかに記載の機器。
【請求項10】
カニューレ(4)には、その一端部から所定の距離に付された長さマーキング(13)を備えていることを特徴とする、請求項1の機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯根管乾燥用の歯科用器具に関する。請求項1の序文に定義された特徴を有する機器は、米国特許公開公報2011/0003264 A1から既知である。
歯根管の乾燥は歯根管治療において重要なステップである。歯根管の湿気は、細菌に生物圏を提供し、歯根充填ペーストの接着を困難にする。
歯根管の治療において、歯根管は機械的におよび種々の洗浄溶液によって清掃される。そして歯根管は乾燥されねばならない。そうするためには、液体を吸収するために歯根管に紙のチップ(先の尖ったもの)が導入される。これは紙のチップが濡れなくなるまで繰り返される。歯根管は、できる限り乾燥され無菌にしなければならない。
【発明の概要】
【0002】
本発明の目的は、歯根管を乾燥する作業を歯科医のために如何に促進するかを示す。
本目的は、請求項1に規定した特徴を有する機器によって達成される。本発明の有利な改良は、従属項の主題である。
【0003】
本発明の歯根管乾燥用の機器は、歯根管に気流を注入するためのカニューレ、カニューレを保持するハンドピース、およびカニューレ内のガス圧が臨界的閾値を超えて増加するのを防ぐ安全弁を有する。その機器は、歯根管乾燥用に、幾つかの部品、すなわちハンドピースとカニューレが一緒に繋がるため、歯根管乾燥用のシステムとして参照される。
【0004】
気流を注入すれば、歯根管を便利且つ徹底的に乾燥することが可能である。本発明の機器で、歯根管治療が歯科医にとって大いに容易になる。
【0005】
ハンドピースは、ガス流のソース、例えばポンプや圧縮ガス容器にチューブの手段によって接続される。歯科医の治療椅子は、豊富な装置を有し、通常ポンプを含む。そのような装置へ接続するためのハンドピースは、例えばチューブ末端にそれを取付けることによって提供される。しかし乍ら、本発明の機器は分離ポンプを有し、チューブによってそれに接続され得る。
【0006】
当該機器は安全弁も有し、カニューレ内のガス圧が臨界的閾値を超えて増加するのを防ぐ。
高圧において、注入ガスは根尖周囲組織へ歯根を通って浸透できるが、組織を損傷し得る。歯根管に導入されたカニューレは、ある環境下で、ガス流がカニューレの外側に沿ってただ不適当な程度に歯根から逃げる程度に歯根管を閉塞する。これが危険な昇圧に導かないために、本発明の機器は、安全弁を有し、カニューレ内、そして歯根管内の圧を歯科学の観点から安全なレベルに制限する。安全弁は、ガス圧が所定の閾値に達するや否や開放し、ガス流のカニューレによる通過を許容し、例えばこの目的のために備えられたハンドピース内の開口部を通る、好ましくは過剰圧弁である。この安全弁は、好ましくはハンドピースに設置される。しかし乍ら、安全弁は、例えば破裂板の形状でカニューレ内に一体化される。
【0007】
歯根管に挿入するために設けられていないカニューレの外側面のサブエリアは、カニューレ内の圧力が所定の閾値レベルを超えるとすぐに、カニューレがそこで破断するほど薄くなるように設計され得る。カニューレに一体化された安全弁は、このようにカニューレの弱化された壁領域として設計することができる。この壁領域は、歯根管乾燥用に挿入される端部からそのような大きな距離で設けられていてもよく、弱化された壁領域が歯根管の外に残り、この壁領域が破裂した場合に問題なくカニューレからガスが逃げることができる。
【0008】
カニューレは小さなホースまたはチューブとして設計され得る。ホースまたは可撓性チューブ形状のカニューレは、患者の口内の空間状態にフレキシブルな方法で適用され、したがって、歯根管により容易に挿入され得ると言う利点がある。カニューレは金属製の例えばニッケル−チタン合金が好ましいが、しかし例えばプラスチック製でもよい。ニチノールの如き超弾性合金で作られたカニューレは、極めて可撓性のホースとして製造され得る。
【0009】
カニューレは、好ましくはハンドピースに取り換え可能に取付けられる。例えば、ハンドピースはカニューレが挿入され得る開口部を持つ。カニューレは、衛生問題を避けるために有利には各治療の後に交換される。本発明の一つの観点は、したがって本発明による機器の使い捨て可能の部品、および/または本発明によるシステムである。
【0010】
空気、または例えば窒素、酸素の別のガスはガス流に用いられる。酸素は、工業用銘柄純度で安価に入手可能で、歯根においてよく発生する嫌気性微生物を破壊する利点を有する。
空気システムはポンプ手段によって作られ、それは本発明による機器の一部として、或いは本発明の機器が接続される外部機器として設計される。本発明の機器はポンプに接続され、例えば、歯科用治療椅子に設置される。
【0011】
もしガス流が圧縮ガス容器から取られれば、すなわち、窒素が歯根管に射出されると、追加の対策なしに有利に大へん乾燥したガス流をつくることができ、それは湿気を殆ど含まず、継続して歯根管を迅速かつ特によく乾燥することができる。
【0012】
本発明のもう1つの有利な改善点は、当該機器がガス流を暖める電気加熱要素を有することである。加熱されたガス流は、湿気をよく取り除き、したがって歯根管を早く乾燥できる。加熱要素はハンドピースの一部か、例えば、ガス流が通ってハンドピースに供給されるチューブを加熱し得る。チューブは、加熱ワイヤ、特にコイル状の加熱ワイヤで効率的に加熱される。
【0013】
本発明の機器は、ガス流の温度を理想の値に調整するための制御回路を有する。ガス流の過熱は、歯根管または根尖周囲組織を損傷に導き得るので、制御回路で防止せねばならない。制御回路は、例えば温度センサ、測定抵抗器、および例えばマイクロプロセッサの形状のレギュレータによって構成され得る。
【0014】
理想的なガス流温度は、例えば42℃で製造者によって固定的に予備設定し得る。理想的温度はまた、ユーザーによって調整できる。操作要素は、例えば回転ノブまたは押しボタンの形体で、この目的のために備えられる。操作要素は、好ましくはハンドピースの一部品である。
【0015】
37℃〜42℃、特に40℃〜42℃の範囲の理想的温度値は、殊に有利である。何故ならば、高温は微生物数の減少を引き起こすからである。ガス流の温度が42℃であることが特に有利である。と言うのは、この温度では組織の損傷は危惧されないけれども、微生物数の明らかな減少が歯根管中で達成されるからである。
【0016】
本発明の別の有利な改良は、カニューレは、ガスを逃がすために側面に開口部を有することを提供する。カニューレは、側面に開口部を有する、例えば、チューブまたはホースである。カニューレは、単一の出口開口部を、すなわちその端部に有している場合には、この開口部は、歯根管にブロックされ、その後、それ以上気体が逃げることができないことが起こり得る。しかしながら、カニューレがガス出口開口を複数有する場合には、ガス排出口が塞がれる可能性は非常に低い。
【0017】
本発明の別の有利な改良は、カニューレの外側は、凹部及び/または突起部を有することを提供する。この方策は、もはやカニューレの外側に沿って歯根管から注入されたガスが逃げることができない程度に、その中に挿入されたカニューレに邪魔される、歯根管のリスクを減少させる。突出部は、例えば、突起または凹部、例えば溝は、カニューレが全方向で、歯根管の内側に密着していないことを確かにすることができる。
【0018】
本発明の別の有利な改良は、カニューレは、長さのマーキング、例えば、その長手方向に走るラインを有することを提供する。長さのマーキングは、乾燥中に歯根管内に挿入されるカニューレの端部から所定の間隔であり得る。これらの長さのマーキングは、歯科医がカニューレは現時点では歯根管にどこまで挿入されたかを認識するのを容易にする。このような長さのマーキングは、通常、歯根管を洗浄するための機器に設けられ、それらは器具の端部からの距離をマークするため、時には距離マーキングと呼ばれる。
【0019】
本発明の別の有利な改良は、ガス乾燥装置を提供する。例えば、噴射される空気流は、カニューレ内に導入される前に、乾燥剤が充填された室を通過させることができる。注入されたガス流中に含まれる水分量が少ないほど、歯根管の乾燥は良好である。
【0020】
本発明の付加的詳細および利点は、添付した図面を参照して、実施態様に基づき以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、歯根管乾燥用の機器の略式図を示し、
図2図2は、長手方向区分の本機器のカニューレを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示す装置では、ガス流を注入することによって、歯根管を乾燥させることが可能である。この装置は、従って、例えば、ポンプ3またはガス流のとある別のソース、例えば圧縮ガス容器へチューブ2によって接続することができる、ハンドピース1を有している。ハンドピース1は、歯根管に挿入できるカニューレ4を持っている。カニューレ4は、例えば、ハンドピース1に挿入され得、それはクランプすることによりそこに保持され、容易に交換できる。
【0023】
ハンドピース1は安全弁5を持ち、ハンドピース1のガス流の圧力が臨界しきい値レベルに達するや否や、安全弁5が開く。安全弁5が開いているときに、ガスがこの目的のために設けられたハンドピース1の開口部を通って逃げることができる。このようにして、安全弁5は、ハンドピース1内および/またはカニューレ4内の、したがって、歯根管におけるガス圧が、所定の閾値レベルを超えて上昇するのを防止する。これは、タイトな歯根管へのカニューレ4を挿入するに際し、その中に注入されたガス流が、もはやカニューレ4の外側に沿って通過することによって、歯根管から逃げることができないおそれがあるため、重要である。高圧で、注入されたガスは、根尖組織内に歯根チップを通って浸透することができる。このリスクは安全弁5によって打ち消される。安全弁5は、バネ仕掛けであってもよい。
【0024】
ハンドピース1は、さらに、ガス流が流れることを可能にするか、スイッチの設定に応じてそれを阻止する、遮断弁7を含む。遮断弁7は作動素子7aによってユーザによって操作され得る。遮断弁7は、安全弁5から下流方向に配置される。遮断弁7はバネを含み、バネは操作要素7a、例えばプッシュボタンが操作されていないか、および/または、(もはや)押されていないときに、閉位置にそれをリセットする。
【0025】
ここに示された例示的な実施形態では、ハンドピース1は、例えば、ガス流を加熱するための電気加熱素子8、例えば臨界温度における電気抵抗の急激な増加を有するPTC素子を含む。しかし、加熱素子はまた、例えば、ポンプ3に統合され、または、ハンドピース1にポンプ3を接続するチューブ2上に取付けられ得る。
【0026】
最も簡単な場合には、空気流とすることができるガス流は、制御回路によって設定温度に調節される。ガス温度を測定する温度センサは、ハンドピース1、チューブ2又はポンプ3に配置され得る。
【0027】
設定温度は、固定的に製造者によって予め定められていてもよいし、例えば、ハンドピース1の操作要素で、ユーザーが調整可能であってもよい。37°C 〜42°の範囲内、特に42°Cのセット温度が有利である。歯根管における微生物集団の減少は、温度の影響を受けた組織への損害または損傷のリスクなしでこのような温度のガス流を用いて達成することができる。
【0028】
ガス流の乾燥効果を高めるために、ガス乾燥装置を提供することができる。単純なガス乾燥は、例えば、シリカゲルまたは他の吸湿性の化学物質の如き乾燥剤にガス流を曝露することによって達成することができる。例えば、ポンプ3またはハンドピース1は、乾燥剤を収容するためのガス流が通過するチャンバを有していてもよい。ガス乾燥装置はまた複雑で、例えば、空気流は、最初にそこに含まれる水分を凝縮するために冷却され、その後にのみ、ポンプ3によりハンドピース1へ搬送される。
【0029】
図2は、ハンドピース1に挿入されるカニューレ4の例示的な実施形態を示している。カニューレ4は、例えば、超弾性合金製のチューブ、ニチノールから作られたチューブである。超弾性合金は、多くの場合、形状記憶合金のような文献で言及されている。
【0030】
カニューレ4は、横方向ガス出口開口部10を有している。噴射されたガス流は、したがってカニューレ4の端部だけでなく、その側面において、ジャケット表面から脱出することができる。カニューレ4の外側に、突起状に、例えば、突出部11を複数有している。カニューレ4は、それが歯根管内に挿入されたとき、突起部11は、スペーサーとして作用し、噴射ガス流は根管から脱出できるような隙間がカニューレの外側と歯根管の内側の間に残存することを確実にする。同じ効果は、例えば、カニューレ4の外側の凹部、例えば溝を用いて達成することができる。
【0031】
カニューレ4は、一方の端部にハンドピース1内のカニューレ4を固定するための接続部12を有している。接続部12は、好ましくは、アンダーカットを有する。接続部は、例えば、差し込み(バヨネット)閉鎖のために設計することができる。
【0032】
カニューレ4は、カニューレの自由端から所定の間隔で取り付けられている、例えば周辺リングの形態で、長さマーキング13を有している。治療中、歯科医は、カニューレが歯根管にどのくらい挿入されたか、これらの長さマーキングで読み取ることができる。さらに、カニューレは、例えば、カニューレの厚さを示すマーク、例えばカラーマークを有していてもよい。異なる厚さのカニューレが、異なるサイズの歯根管に使用され、そこに提供される場合、マークは、種々のカニューレの単純な差別化を可能にする。
【0033】
カニューレ4は、その自由端に向かって先細りにすることができる。歯根管もテーパにできるのでこれも利点である。
【符号の説明】
【0034】
1:ハンドピース
2:チューブ
3:ポンプ
4:カニューレ
5:安全弁
6:安全弁
7:遮断弁
8:電気加熱素子
10:開口部
11:突出し部
12:接続部
13:長さマーキング
図1
図2