特許第5918455号(P5918455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 帝人株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5918455-セパレータロールの製造方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5918455
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】セパレータロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20160428BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   H01M2/16 L
   H01M2/16 P
   H01M2/16 M
   B32B5/18
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-551300(P2015-551300)
(86)(22)【出願日】2015年6月24日
(86)【国際出願番号】JP2015068234
【審査請求日】2015年10月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-143662(P2014-143662)
(32)【優先日】2014年7月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】大塚 淳弘
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昇
【審査官】 山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/083988(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/021289(WO,A1)
【文献】 特開2013−193375(JP,A)
【文献】 特開2011−073277(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099539(WO,A1)
【文献】 特開2008−189379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14−2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、該多孔質基材の片面又は両面に設けられた多孔質層と、を備えた非水電解質電池用セパレータが巻芯に巻かれたセパレータロールであって、下記の方法(1)で求めた非水電解質電池用セパレータの機械方向の収縮率が0.1%以上1.0%以下であるセパレータロールを製造する方法であって、
樹脂及び無機粒子の少なくともいずれかを含有する塗工液を、多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工層を形成した後、該塗工層を固化させて多孔質層とし、こうして非水電解質電池用セパレータを製造する工程と、
前記非水電解質電池用セパレータを製造後に直接、巻芯に巻き取って一次ロールとしてセパレータロールを得る工程と、
を有し、
前記非水電解質電池用セパレータを製造する工程における前記多孔質基材の送り出し速度に対する、前記巻芯に巻き取る際の前記非水電解質電池用セパレータの巻き取り速度の速度比が100%以上103%以下である、セパレータロールの製造方法。
方法(1):セパレータロールの外端から非水電解質電池用セパレータを5周分取り除いた後、その端部から非水電解質電池用セパレータを機械方向に200mm切り取り、試料とする。該試料を25℃下に24時間、無張力状態で放置し、該放置前後の機械方向の長さを測定し、下記の式によって機械方向の収縮率を算出する。
機械方向の収縮率(%)=(放置前の機械方向の長さ−放置後の機械方向の長さ)÷放置前の機械方向の長さ×100
【請求項2】
多孔質基材と、該多孔質基材の片面又は両面に設けられた多孔質層と、を備えた非水電解質電池用セパレータが巻芯に巻かれたセパレータロールであって、下記の方法(1)で求めた非水電解質電池用セパレータの機械方向の収縮率が0.1%以上1.0%以下であるセパレータロールを製造する方法であって、
樹脂及び無機粒子の少なくともいずれかを含有する塗工液を、多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工層を形成した後、該塗工層を固化させて多孔質層とし、こうして非水電解質電池用セパレータを製造する工程と、
前記非水電解質電池用セパレータを製造後に直接、第一の巻芯に巻き取って一次ロールを得る工程と、
前記一次ロールから前記非水電解質電池用セパレータを第二の巻芯に巻き取って二次ロールとしてセパレータロールを得る工程と、
を有し、
前記非水電解質電池用セパレータを製造する工程における前記多孔質基材の送り出し速度に対する、前記第一の巻芯に巻き取る際の前記非水電解質電池用セパレータの巻き取り速度の速度比が100%以上103%以下である、セパレータロールの製造方法。
方法(1):セパレータロールの外端から非水電解質電池用セパレータを5周分取り除いた後、その端部から非水電解質電池用セパレータを機械方向に200mm切り取り、試料とする。該試料を25℃下に24時間、無張力状態で放置し、該放置前後の機械方向の長さを測定し、下記の式によって機械方向の収縮率を算出する。
機械方向の収縮率(%)=(放置前の機械方向の長さ−放置後の機械方向の長さ)÷放置前の機械方向の長さ×100
【請求項3】
前記多孔質基材が、融点200℃未満の熱可塑性樹脂を含有する、請求項1又は請求項2に記載のセパレータロールの製造方法
【請求項4】
記一次ロール40℃以上110℃以下の雰囲気に12時間以上放置する工程をさらに有する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のセパレータロールの製造方法
【請求項5】
前記セパレータロールは、下記の方法(2)で求めた前記非水電解質電池用セパレータの幅方向の拡大率が0%以上0.6%以下である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のセパレータロールの製造方法
方法(2):セパレータロールの外端から非水電解質電池用セパレータを5周分取り除いた後、その端部から非水電解質電池用セパレータを機械方向に200mm切り取り、試料とする。該試料を25℃下に24時間、無張力状態で放置し、該放置前後の幅方向の長さを測定し、下記の式によって幅方向の拡大率を算出する。
幅方向の拡大率(%)=(放置後の幅方向の長さ−放置前の幅方向の長さ)÷放置前の幅方向の長さ×100
【請求項6】
前記セパレータロールは、下記の方法(3)で求めた前記非水電解質電池用セパレータの機械方向の熱収縮率が3%以上40%以下である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のセパレータロールの製造方法
方法(3):セパレータロールから非水電解質電池用セパレータを切り出し、機械方向の長さ190mmの試料を得る。該試料を135℃下に30分間、無張力状態で放置する熱処理を行い、該熱処理前後の機械方向の長さを測定し、下記の式によって機械方向の熱収縮率を算出する。
機械方向の熱収縮率(%)=(熱処理前の機械方向の長さ−熱処理後の機械方向の長さ)÷熱処理前の機械方向の長さ×100
【請求項7】
前記セパレータロールは、前記方法(1)で求めた前記非水電解質電池用セパレータの機械方向の収縮率が0.1%以上0.5%以下である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のセパレータロールの製造方法
【請求項8】
前記塗工液が、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ビニルニトリルの単独重合体又は共重合体、及びポリエーテルから選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のセパレータロールの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータロール及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池用セパレータに関し、ポリオレフィン微多孔膜等の多孔質基材の表面に機能層を設け、耐熱性や電極との接着性等の機能を付与する技術が知られている(例えば、特許文献1及び2)。上記機能層の作製方法として、塗工液を多孔質基材に塗工して塗工層を形成し、乾燥により塗工層中の溶媒を除去し機能層を作製する方法;塗工液を多孔質基材に塗工して塗工層を形成し、凝固液に浸漬して塗工層中の樹脂を固化させ、水洗と乾燥を経て機能層を作製する方法;等の塗工法が知られている(例えば、特許文献1及び2)。そして、セパレータは一般的に、巻芯に巻かれたロールとして製造される(例えば、特許文献3及び4)。
【0003】
ところで、角型電池やポリマー電池のような平型の電池を製造する際、巻回装置で電極とともにセパレータを巻き回して電池素子を作製するところ、電池素子の巻きずれが発生したり、電池素子の変形(例えば膨れ)が起こって電池の外観不良が発生したりすることがあった。電池素子の巻きずれや変形に関与する因子としては、巻回装置の仕様や電極の種類など数多くあり、セパレータの関与についてはこれまで十分に検討されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−171495号公報
【特許文献2】特許第5431581号公報
【特許文献3】特開2013−216868号公報
【特許文献4】特開2014−12391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、上記状況のもとになされた。
本発明の実施形態は、電池素子の巻きずれ及び変形を起しにくい非水電解質電池用セパレータを供給するためのセパレータロール、並びに、製造歩留りの高い非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
[1] 多孔質基材と、該多孔質基材の片面又は両面に設けられた多孔質層と、を備えた非水電解質電池用セパレータが巻芯に巻かれたセパレータロールであって、下記の方法(1)で求めた非水電解質電池用セパレータの機械方向の収縮率が0.1%以上1.0%以下であるセパレータロールを製造する方法であって、
樹脂及び無機粒子の少なくともいずれかを含有する塗工液を、多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工層を形成した後、該塗工層を固化させて多孔質層とし、こうして非水電解質電池用セパレータを製造する工程と、
前記非水電解質電池用セパレータを製造後に直接、巻芯に巻き取って一次ロールとしてセパレータロールを得る工程と、
を有し、
前記非水電解質電池用セパレータを製造する工程における前記多孔質基材の送り出し速度に対する、前記巻芯に巻き取る際の前記非水電解質電池用セパレータの巻き取り速度の速度比が100%以上103%以下である、セパレータロールの製造方法。
方法(1):セパレータロールの外端から非水電解質電池用セパレータを5周分取り除いた後、その端部から非水電解質電池用セパレータを機械方向に200mm切り取り、試料とする。該試料を25℃下に24時間、無張力状態で放置し、該放置前後の機械方向の長さを測定し、下記の式によって機械方向の収縮率を算出する。
機械方向の収縮率(%)=(放置前の機械方向の長さ−放置後の機械方向の長さ)÷放置前の機械方向の長さ×100
[2] 多孔質基材と、該多孔質基材の片面又は両面に設けられた多孔質層と、を備えた非水電解質電池用セパレータが巻芯に巻かれたセパレータロールであって、下記の方法(1)で求めた非水電解質電池用セパレータの機械方向の収縮率が0.1%以上1.0%以下であるセパレータロールを製造する方法であって、
樹脂及び無機粒子の少なくともいずれかを含有する塗工液を、多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工層を形成した後、該塗工層を固化させて多孔質層とし、こうして非水電解質電池用セパレータを製造する工程と、
前記非水電解質電池用セパレータを製造後に直接、第一の巻芯に巻き取って一次ロールを得る工程と、
前記一次ロールから前記非水電解質電池用セパレータを第二の巻芯に巻き取って二次ロールとしてセパレータロールを得る工程と、
を有し、
前記非水電解質電池用セパレータを製造する工程における前記多孔質基材の送り出し速度に対する、前記第一の巻芯に巻き取る際の前記非水電解質電池用セパレータの巻き取り速度の速度比が100%以上103%以下である、セパレータロールの製造方法。
方法(1):セパレータロールの外端から非水電解質電池用セパレータを5周分取り除いた後、その端部から非水電解質電池用セパレータを機械方向に200mm切り取り、試料とする。該試料を25℃下に24時間、無張力状態で放置し、該放置前後の機械方向の長さを測定し、下記の式によって機械方向の収縮率を算出する。
機械方向の収縮率(%)=(放置前の機械方向の長さ−放置後の機械方向の長さ)÷放置前の機械方向の長さ×100
] 前記多孔質基材が、融点200℃未満の熱可塑性樹脂を含有する、[1]又は[2]に記載のセパレータロールの製造方法
[4] 記一次ロール40℃以上110℃以下の雰囲気に12時間以上放置する工程をさらに有する、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のセパレータロールの製造方法
[5] 前記セパレータロールは、下記の方法(2)で求めた前記非水電解質電池用セパレータの幅方向の拡大率が0%以上0.6%以下である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載のセパレータロールの製造方法
方法(2):セパレータロールの外端から非水電解質電池用セパレータを5周分取り除いた後、その端部から非水電解質電池用セパレータを機械方向に200mm切り取り、試料とする。該試料を25℃下に24時間、無張力状態で放置し、該放置前後の幅方向の長さを測定し、下記の式によって幅方向の拡大率を算出する。
幅方向の拡大率(%)=(放置後の幅方向の長さ−放置前の幅方向の長さ)÷放置前の幅方向の長さ×100
[6] 前記セパレータロールは、下記の方法(3)で求めた前記非水電解質電池用セパレータの機械方向の熱収縮率が3%以上40%以下である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のセパレータロールの製造方法
方法(3):セパレータロールから非水電解質電池用セパレータを切り出し、機械方向の長さ190mmの試料を得る。該試料を135℃下に30分間、無張力状態で放置する熱処理を行い、該熱処理前後の機械方向の長さを測定し、下記の式によって機械方向の熱収縮率を算出する。
機械方向の熱収縮率(%)=(熱処理前の機械方向の長さ−熱処理後の機械方向の長さ)÷熱処理前の機械方向の長さ×100
[7] 前記セパレータロールは、前記方法(1)で求めた前記非水電解質電池用セパレータの機械方向の収縮率が0.1%以上0.5%以下である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載のセパレータロールの製造方法
[8] 前記塗工液が、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ビニルニトリルの単独重合体又は共重合体、及びポリエーテルから選ばれる少なくとも1種を含有する、[1]〜[7]のいずれか1項に記載のセパレータロールの製造方法
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、電池素子の巻きずれ及び変形を起しにくい非水電解質電池用セパレータを供給するためのセパレータロール、並びに、製造歩留りの高い非水系二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例で行った測定方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について説明する。なお、これらの説明及び実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0010】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0011】
本明細書において、「機械方向」とは、長尺の多孔質基材及びセパレータにおいて長尺方向を意味し、「幅方向」とは、「機械方向」に直交する方向を意味する。本明細書において、「機械方向」を「MD方向」とも称し、「幅方向」を「TD方向」とも称する。
【0012】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
<セパレータロール>
本開示のセパレータロールは、機械方向に連続的に製造された非水電解質電池用セパレータ(以下、単に「セパレータ」とも言う。)が、巻芯に巻かれたセパレータロールである。本開示のセパレータロールにおいてセパレータは、多孔質基材と、該多孔質基材の片面又は両面に設けられた多孔質層と、を備えたセパレータであり、前記多孔質層は、樹脂及び無機粒子の少なくともいずれかを含有する塗工液を塗工して形成された塗工層が固化してなる多孔質層である。
【0014】
本開示のセパレータロールは、下記の方法(1)で求めたセパレータのMD方向の収縮率が1.0%以下である。
【0015】
方法(1):セパレータロールの外端からセパレータを5周分取り除いた後、その端部からセパレータを機械方向に200mm切り取り、試料とする。該試料を25℃下に24時間、無張力状態で放置し、該放置前後のMD方向の長さを測定し、下記の式によってMD方向の収縮率を算出する。
【0016】
MD方向の収縮率(%)=(放置前のMD方向の長さ−放置後のMD方向の長さ)÷放置前のMD方向の長さ×100
【0017】
本開示において、方法(1)によって測定される、セパレータのMD方向の収縮率を「25℃下MD方向収縮率」と言う。
【0018】
本開示のセパレータロールから供給されるセパレータは、電池素子の製造の際に電池素子の巻きずれを起しにくい。また、本開示のセパレータロールから供給されるセパレータは、電池素子の変形を起しにくい。
【0019】
本発明者が検討したところ、多孔質基材上に塗工法で設けられた多孔質層を有するセパレータが室温下でMD方向に収縮することが、電池素子の巻きずれや変形の発生に関与していることが分かった。多孔質基材上に塗工法で多孔質層を設ける場合、塗工液を多孔質基材の表面に均一に塗工するために多孔質基材に張力をかける必要がある。そして、皺を発生させずに多孔質基材を搬送するには、多孔質基材にある程度強い張力をかける必要がある。塗工液を多孔質基材上に塗工する際に多孔質基材に強い張力をかける結果、多孔質基材がMD方向に伸ばされてしまい、作製されたセパレータは、高温に曝さずともMD方向に収縮する性質を有することになる。
【0020】
本開示のセパレータロールにおいては、セパレータの25℃下MD方向収縮率が1.0%以下であるので、本開示のセパレータロールから供給されるセパレータで電池素子を作製した場合、電池素子の巻きずれ及び変形の発生が抑制される。本開示のセパレータロールにおいて、セパレータの25℃下MD方向収縮率は、上記の観点で、より好ましくは0.5%以下であり、低いほど好ましい。一方、セパレータの柔軟性がある程度あった方が電池素子を良好に製造できるという観点では、25℃下MD方向収縮率の下限値としては、0.1%以上が好ましく、0.15%以上がより好ましい。
【0021】
従来、多孔質基材を固定して熱を加え多孔質基材の残留応力を除去する技術や、多孔質層の無機フィラーの含有量を増やすことによって高温下(例えば150℃付近)でのセパレータの収縮を抑制する技術は知られているが、いずれも、室温で発生するセパレータの収縮を抑制する技術ではない。これまで、室温で発生するセパレータの収縮を抑制する技術は知られていない。本発明者が検討したところ、セパレータの25℃下MD方向収縮率は、セパレータの製造工程における工夫によって制御し得ることが分かった。詳細は後述する。
【0022】
多孔質基材上に塗工法で設けられた多孔質層を有するセパレータはまた、室温下においてMD方向に収縮するに伴いTD方向には伸びる性質を有する。セパレータのTD方向の伸張は、電池の短絡を抑える観点で好ましい。ただし、TD方向の伸張はMD方向の収縮とトレードオフの関係であるから、セパレータは室温下においてTD方向に伸びすぎないことが好ましい。したがって、本開示のセパレータロールにおいては、下記の方法(2)で求めたセパレータのTD方向の拡大率が0%以上0.6%以下であることが好ましく、0%超0.6%以下であることがより好ましい。
【0023】
方法(2):セパレータロールの外端からセパレータを5周分取り除いた後、その端部からセパレータを機械方向に200mm切り取り、試料とする。該試料を25℃下に24時間、無張力状態で放置し、該放置前後のTD方向の長さを測定し、下記の式によってTD方向の拡大率を算出する。
【0024】
TD方向の拡大率(%)=(放置後のTD方向の長さ−放置前のTD方向の長さ)÷放置前のTD方向の長さ×100
【0025】
本開示において、方法(2)によって測定される、セパレータのTD方向の拡大率を「25℃下TD方向拡大率」と言う。
【0026】
本開示において、25℃下MD方向収縮率(%)は、詳細には下記の方法で求める。同時に25℃下TD方向拡大率(%)も求められるので、併せて説明する。
【0027】
セパレータロールの外端からセパレータを5周分取り除いた後、その端部からセパレータをMD方向に200mm切り取り、切り出された長さ200mmのセパレータを試料とする。試料の一端をクリップで把持し、温度25℃、相対湿度50±10%の恒温槽の中にMD方向が重力方向となるように試料をつるし、無張力状態で24時間放置する。24時間放置の前と後に、MD方向及びTD方向について試料の長さを測定し、前記2つの式によって、MD方向の収縮率(%)とTD方向の拡大率(%)を算出する。測定の際、セパレータロールの外端からセパレータを出しはじめてから試料を恒温槽につるすまで(つまり、24時間放置を開始するまで)の時間は10分間以内とし、恒温槽から試料を出した後はただちに24時間放置後の長さ測定を行う。セパレータロールから試料を調製する際、セパレータに張力をかけないように留意する。測定方法の詳細は、実施例に記載するとおりである。
【0028】
さらに、本開示のセパレータロールに巻かれているセパレータは、下記の方法(3)で求めたMD方向の熱収縮率が3%〜40%であることが好ましい。
【0029】
方法(3):セパレータロールからセパレータを切り出し、MD方向の長さ190mmの試料を得る。試料の一端をクリップで把持し、庫内温度を135℃に保ったオーブンの中に、MD方向が重力方向となるように試料をつるし、無張力状態で30分間放置する熱処理を行う。該熱処理の前と後に、MD方向について試料の長さを測定し、以下の式によって、MD方向の熱収縮率(%)を算出する。方法(3)の詳細は、実施例に記載するとおりである。
【0030】
MD方向の熱収縮率(%)=(熱処理前のMD方向の長さ−熱処理後のMD方向の長さ)÷熱処理前のMD方向の長さ×100
【0031】
本開示において、方法(3)によって測定される、セパレータのMD方向の熱収縮率を「135℃下MD方向熱収縮率」と言う。
【0032】
135℃下MD方向熱収縮率が3%以上ということは、多孔質基材が伸縮性を有することの反映である。多孔質基材が伸縮性を有すると、セパレータ製造の諸工程(特に、多孔質基材に張力をかけながら塗工液を塗工する工程、及び、熱を付与して溶媒又は水を除去する乾燥工程)において多孔質基材および複合膜(多孔質基材の片面又は両面に多孔質層を有するシート)が柔軟に伸縮するので、セパレータのロールに皺や筋が生じにくく、結果、電池素子および電池の外観不良を引き起こしにくい。一方、電池の安全性に関するセパレータの熱的寸法安定性の観点で、135℃下MD方向熱収縮率は40%以下が好ましい。
【0033】
上記の観点で、135℃下MD方向熱収縮率の下限は、3%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上が更に好ましく、135℃下MD方向熱収縮率の上限は、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、25%以下が更に好ましい。
【0034】
以下、本開示のセパレータロールに巻かれているセパレータが有する多孔質基材及び多孔質層の詳細を説明する。
【0035】
[多孔質基材]
本開示において多孔質基材とは、内部に空孔ないし空隙を有する基材を意味する。このような基材としては、微多孔膜;繊維状物からなる、不織布、紙等の多孔性シート;微多孔膜又は多孔性シートに多孔性の層を1層以上積層させた複合多孔質シート;などが挙げられる。多孔質基材としては、セパレータの薄膜化及び強度の観点で、微多孔膜が好ましい。微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜を意味する。
【0036】
多孔質基材には、電気絶縁性を有する、有機材料及び/又は無機材料が含まれる。
【0037】
多孔質基材は、多孔質基材にシャットダウン機能を付与する観点から、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。シャットダウン機能とは、電池温度が高まった場合に、材料が溶解して多孔質基材の孔を閉塞することによりイオンの移動を遮断し、電池の熱暴走を防止する機能をいう。
【0038】
多孔質基材に含まれる熱可塑性樹脂の一例は、融点200℃未満の熱可塑性樹脂である。融点200℃未満の熱可塑性樹脂を含む多孔質基材は、該樹脂を含まない多孔質基材に比べて、張力によってMD方向に引き伸ばされやすい。したがって従来、融点200℃未満の熱可塑性樹脂を含む多孔質基材を用いて作製されたセパレータは、室温下においてMD方向に収縮しやすかった。本開示の技術によれば、融点200℃未満の熱可塑性樹脂を含む多孔質基材を用いた場合でも、電池素子の巻きずれ及び変形を起しにくいセパレータ及びセパレータロールを提供できる。
【0039】
本開示において、多孔質基材に含まれる融点200℃未満の熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィンが好ましい。
【0040】
多孔質基材としては、ポリオレフィンを含む微多孔膜(「ポリオレフィン微多孔膜」という。)が好ましい。ポリオレフィン微多孔膜としては、従来の電池セパレータに適用されているポリオレフィン微多孔膜が挙げられ、この中から十分な力学特性とイオン透過性を有するものを選択することが好ましい。
【0041】
ポリオレフィン微多孔膜は、シャットダウン機能を発現する観点から、ポリエチレンを含むことが好ましく、ポリエチレンの含有量としては95質量%以上が好ましい。
【0042】
ポリオレフィン微多孔膜は、高温に曝されたときに容易に破膜しない程度の耐熱性を付与するという観点では、ポリエチレンとポリプロピレンとを含むポリオレフィン微多孔膜が好ましい。このようなポリオレフィン微多孔膜としては、ポリエチレンとポリプロピレンが1つの層において混在している微多孔膜が挙げられる。該微多孔膜においては、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点から、95質量%以上のポリエチレンと5質量%以下のポリプロピレンとを含むことが好ましい。また、シャットダウン機能と耐熱性の両立という観点では、ポリオレフィン微多孔膜が2層以上の積層構造を備え、少なくとも1層はポリエチレンを含み、少なくとも1層はポリプロピレンを含む、ポリオレフィン微多孔膜も好ましい。
【0043】
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンとしては、重量平均分子量が10万〜500万のポリオレフィンが好ましい。重量平均分子量が10万以上であると、十分な力学特性を確保できる。一方、重量平均分子量が500万以下であると、シャットダウン特性が良好であるし、膜の成形がしやすい。
【0044】
ポリオレフィン微多孔膜は、例えば以下の方法で製造可能である。すなわち、溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出してシート化し、これを結晶化処理した後延伸し、その後、熱処理をして微多孔膜とする方法である。または、流動パラフィンなどの可塑剤と一緒に溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出し、これを冷却してシート化し、延伸した後、可塑剤を抽出し熱処理をして微多孔膜とする方法である。
【0045】
繊維状物からなる多孔性シートとしては、各種の樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド等の耐熱性樹脂)の繊維状物からなる不織布、紙などが挙げられる。耐熱性樹脂とは、融点が200℃以上の樹脂、又は、融点を有さず分解温度が200℃以上の樹脂を言う。
【0046】
複合多孔質シートとしては、微多孔膜又は繊維状物からなる多孔性シートに、機能層を積層したシートが挙げられる。このような複合多孔質シートは、機能層によってさらなる機能付加が可能となる点で好ましい。機能層としては、例えば耐熱性を付与するという観点では、耐熱性樹脂を含む多孔性の層や、耐熱性樹脂及び無機フィラーを含む多孔性の層が好ましい。耐熱性樹脂としては、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン及びポリエーテルイミドから選ばれる1種又は2種以上の樹脂が挙げられる。無機フィラーとしては、アルミナ等の金属酸化物、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物などが挙げられる。複合多孔質シートの製造方法としては、微多孔膜又は多孔性シートに機能層を塗工する方法、微多孔膜又は多孔性シートと機能層とを接着剤で接合する方法、微多孔膜又は多孔性シートと機能層とを熱圧着する方法などが挙げられる。
【0047】
多孔質基材の厚さは、良好な力学特性と内部抵抗を得る観点から、5μm〜30μmが好ましい。
【0048】
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117(2009))は、電池の短絡防止とイオン透過性を得る観点から、50秒/100cc〜800秒/100ccが好ましい。
【0049】
多孔質基材の空孔率は、適切な膜抵抗やシャットダウン機能を得る観点から、20%〜60%が好ましい。
【0050】
多孔質基材の突刺強度は、製造歩留まりを向上させる観点から、300g以上が好ましい。
【0051】
[多孔質層]
本開示において多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層である。本開示において多孔質層は、多孔質基材の片面又は両面にセパレータの最外層として設けられる。
【0052】
多孔質層は、電極と接着する接着性多孔質層であることが好ましい。接着性多孔質層は、多孔質基材の片面のみにあるよりも両面にある方が、電池のサイクル特性が優れる観点から好ましい。接着性多孔質層が多孔質基材の両面にあると、セパレータの両面が接着性多孔質層を介して両電極とよく接着するからである。
【0053】
多孔質層の空孔率は、イオン透過性と力学的強度の観点から、30%〜80%が好ましく、50%〜80%がより好ましい。
【0054】
多孔質層の塗工量は、電極との接着性及びイオン透過性の観点から、多孔質基材の片面において0.5g/m〜3.0g/mが好ましい。多孔質層が多孔質基材の両面に設けられている場合、多孔質層の塗工量は、両面の合計として1.0g/m〜6.0g/mが好ましい。
【0055】
多孔質層の平均厚は、電極との接着性と高エネルギー密度を確保する観点から、多孔質基材の片面において0.5μm〜5μmが好ましい。
【0056】
多孔質層は、樹脂及び無機粒子の少なくともいずれかを含有する塗工液を多孔質基材上に塗工して形成された塗工層が、固化してなる層である。したがって、多孔質層は、樹脂及び無機粒子の少なくともいずれかを含有する。以下、塗工液及び多孔質層に含有される樹脂及び無機粒子の詳細を説明する。
【0057】
[樹脂]
多孔質層に含まれる樹脂は、電解液に安定であり、電気化学的に安定であり、無機粒子を連結する機能を有し、電極と接着し得るものが好ましい。多孔質層は、樹脂を1種のみ含んでもよく、樹脂を2種以上含んでもよい。
【0058】
多孔質層に含まれる樹脂は、電極との接着性の観点で、接着性樹脂が好ましい。接着性樹脂を含有する多孔質層を介してセパレータと電極とが密着するので、電池素子の巻きずれ及び変形はより発生しにくくなる。
【0059】
接着性樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のビニルニトリルの単独重合体又は共重合体、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリエーテルが挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン共重合体(これらを「ポリフッ化ビニリデン系樹脂」と称する。)が特に好ましい。
【0060】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体(即ちポリフッ化ビニリデン);フッ化ビニリデンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体(ポリフッ化ビニリデン共重合体);これらの混合物;が挙げられる。
フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、テトラフロロエチレン、ヘキサフロロプロピレン、トリフロロエチレン、トリクロロエチレン、フッ化ビニル等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、乳化重合または懸濁重合により製造できる。
【0061】
多孔質層に含まれる樹脂は、耐熱性の観点で、耐熱性樹脂(融点が200℃以上の樹脂、又は、融点を有さず分解温度が200℃以上の樹脂)が好ましい。耐熱性樹脂としては、例えば、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、セルロース、及びこれらの混合物が挙げられる。中でも、多孔構造の形成のしやすさ、無機粒子との結着性、耐酸化性などの観点で、全芳香族ポリアミドが好ましい。全芳香族ポリアミドの中でも、多孔質層の成形が容易という観点で、メタ型全芳香族ポリアミドが好ましく、特にポリメタフェニレンイソフタルアミドが好適である。
【0062】
[無機粒子]
無機粒子は、電解液に安定であり、且つ、電気化学的に安定なものが好ましい。無機粒子は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0063】
無機粒子としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化セリウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素等の金属水酸化物;シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化マグネシウム等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;ケイ酸カルシウム、タルク等の粘土鉱物;などが挙げられる。中でも、難燃性付与や除電効果の観点で、金属水酸化物及び金属酸化物が好ましい。無機粒子は、シランカップリング剤等により表面修飾されたものでもよい。
【0064】
無機粒子の粒子形状は任意であり、球形、楕円形、板状、棒状、不定形のいずれでもよい。電池の短絡防止の観点からは、板状の粒子や、凝集していない一次粒子であることが好ましい。無機粒子は一次粒子の体積平均粒径が、電極との良好な接着性、イオン透過性、すべり性、及び多孔質層の成形性の観点で、0.01μm〜10μmが好ましく、0.1μm〜10μmがより好ましい。
【0065】
多孔質層は、電極との接着性の観点で少なくとも樹脂を含有することが好ましく、耐熱性の観点でさらに無機粒子を含有することが好ましい。多孔質層が樹脂及び無機粒子を含有する場合、樹脂と無機粒子の合計量に占める無機粒子の割合は、例えば30体積%〜90体積%である。
【0066】
多孔質層は、有機フィラーやその他の成分を含有していてもよい。有機フィラーとしては、例えば、架橋ポリ(メタ)アクリル酸、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル、架橋ポリシリコーン、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物等の架橋高分子からなる粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミド等の耐熱性樹脂からなる粒子;などが挙げられる。
【0067】
[セパレータの諸物性]
本開示においてセパレータのガーレ値(JIS P8117(2009))は、機械強度と膜抵抗のバランスがよい点で、50秒/100cc〜800秒/100ccが好ましい。
【0068】
本開示においてセパレータは、イオン透過性の観点から、多孔質基材上に多孔質層を設けたセパレータのガーレ値から、多孔質基材のガーレ値を減算した値が、300秒/100cc以下が好ましく、150秒/100cc以下がより好ましく、100秒/100cc以下が更に好ましい。
【0069】
本開示においてセパレータの膜厚は、機械強度および電池としたときのエネルギー密度の観点から、5μm〜40μmが好ましく、5μm〜35μmがより好ましく、10μm〜20μmが更に好ましい。
【0070】
[セパレータロールの製造方法]
本開示のセパレータロールには、セパレータを製造後に直接巻芯に巻き取った一次ロール、及び、一次ロールからセパレータを巻芯に巻き取った二次ロールが含まれる。二次ロールには、一次ロールからセパレータをそのまま巻き取ったロール、及び、一次ロールから送り出されたセパレータを所望の幅にスリットしながら巻き取ったロールが含まれる。
【0071】
一次ロールの巻芯と、二次ロールの巻芯とは、同じでもよく異なっていてもよい。両巻芯としては、特に制限はなく、長尺のシートを巻く公知の巻芯が挙げられる。
【0072】
巻芯の材質としては、樹脂、紙、金属などが挙げられる。巻芯の一実施形態として、外周面に、溝及び/又はスリットを有する巻芯が挙げられる。巻芯の一実施形態として、外周面に、巻き取られるシートの損傷を抑制するための弾性層(例えばゴム層)を有する巻芯が挙げられる。
【0073】
巻芯の軸方向の長さは、巻き取られるシートの幅以上であれば特に制限されないが、巻き取られるシートの幅に対して+0cm〜+50cmの長さであることが好ましい。巻芯の外径は、7cm〜30cmが好ましい。
【0074】
本開示において、セパレータは、多孔質基材の片面又は両面に多孔質層を設けたセパレータである。多孔質層は、多孔質基材の片面又は両面に塗工液を塗工して形成された塗工層が固化してなる層である。塗工液は、樹脂及び無機粒子の少なくともいずれかを含有する。
【0075】
多孔質基材上に多孔質層を設ける方法としては、塗工液を多孔質基材に塗工して塗工層を形成した後、乾燥により塗工層を固化させ多孔質層を設ける乾式製法;塗工液を多孔質基材に塗工して塗工層を形成した後、塗工層を凝固液に接触させて塗工層を固化させ多孔質層を設ける湿式製法;等が挙げられる。乾式製法は湿式製法に比べて多孔質層が緻密になりやすいので、良好な多孔構造を得られる点で湿式製法の方が好ましい。
【0076】
湿式製法は、樹脂を含有する塗工液を調製する塗工液調製工程、塗工液を多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工層を形成する塗工工程、塗工層を凝固液に接触させて塗工層に含まれる樹脂を凝固させて複合膜(多孔質基材の片面又は両面に多孔質層を有するシート)を得る凝固工程、複合膜を水洗する水洗工程、及び、複合膜を乾燥する乾燥工程、を有することが好ましい。塗工液には、さらに無機粒子を分散させてもよい。
【0077】
乾式製法は、樹脂を含有する塗工液を調製する塗工液調製工程、塗工液を多孔質基材の片面又は両面に塗工して塗工層を形成する塗工工程、塗工層に含まれる溶媒を除去して塗工層に含まれる樹脂を凝固させて複合膜(多孔質基材の片面又は両面に多孔質層を有するシート)を得る凝固工程、を有することが好ましい。塗工液には、さらに無機粒子を分散させてもよい。
【0078】
湿式製法および乾式製法の各工程の詳細は、以下のとおりである。
【0079】
−塗工液調製工程−
塗工液調製工程は、樹脂を含有する塗工液を調製する工程である。塗工液は、例えば、樹脂を溶媒に溶かし、必要に応じてさらに無機粒子を分散させて調製する。
【0080】
塗工液の調製に用いる、樹脂を溶解する溶媒(以下、「良溶媒」とも称する。)としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の極性アミド溶媒が好適に用いられる。
良好な多孔構造を有する多孔質層を形成する観点で、相分離を誘発させる相分離剤を良溶媒に混合することが好ましい。相分離剤としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。相分離剤は、塗工に適切な粘度が確保できる範囲の量で良溶媒と混合することが好ましい。
【0081】
塗工液の調製に用いる溶媒としては、良好な多孔構造を形成する観点から、良溶媒を60質量%以上、相分離剤を10質量%〜40質量%含む混合溶媒が好ましい。
【0082】
塗工液は、良好な多孔構造を形成する観点から、樹脂を塗工液の全質量に対して3質量%〜10質量%の濃度で含むことが好ましい。
【0083】
−塗工工程−
塗工工程は、多孔質基材の片面又は両面に、樹脂を含有する塗工液を塗工して塗工層を形成する工程である。多孔質基材への塗工液の塗工手段としては、マイヤーバー、ダイコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター等が挙げられる。多孔質層を多孔質基材の両面に形成する場合、塗工液を両面同時に基材へ塗工することが生産性の観点から好ましい。
【0084】
−凝固工程−
湿式製法の場合、凝固工程は、塗工層を凝固液に接触させて塗工層に含まれる樹脂を凝固させ複合膜を得る工程である。塗工層を凝固液に接触させる方法としては、塗工層を有する多孔質基材を、凝固液に浸漬させることが好ましく、具体的には、凝固液が入った槽(凝固槽)を通過させることが好ましい。
【0085】
凝固液は、塗工液の調製に用いた良溶媒及び相分離剤と、水とを含むことが一般的である。良溶媒と相分離剤の混合比は、塗工液の調製に用いた混合溶媒の混合比に合わせるのが生産上好ましい。凝固液中の水の含有量は40質量%〜80質量%であることが、多孔構造の形成および生産性の観点から好ましい。凝固液の温度は、例えば20℃〜50℃である。
【0086】
乾式製法の場合、凝固工程は、乾燥により塗工層に含まれる溶媒を除去して塗工層に含まれる樹脂を凝固させ複合膜を得る工程である。乾式製法において、複合膜から溶媒を除去する方法は、限定はなく、例えば、複合膜を発熱部材に接触させる方法;温度及び湿度を調整したチャンバー内に複合膜を搬送する方法;などが挙げられる。
【0087】
−水洗工程−
水洗工程は、湿式製法において、複合膜に含まれている溶媒(塗工液に含まれる溶媒、及び、凝固液に含まれる溶媒)を除去する目的で、複合膜を水洗する工程である。水洗工程は、具体的には、水が入った槽(水洗槽)の中を、複合膜を搬送することによって行うことが好ましい。水洗用の水の温度は、例えば20℃〜50℃である。
【0088】
−乾燥工程−
乾燥工程は、水洗工程の後、水洗後の複合膜から水を除去する目的で行われる工程である。乾燥方法は、制限されず、例えば、複合膜を発熱部材に接触させる方法;温度及び湿度を調整したチャンバー内に複合膜を搬送する方法;複合膜に熱風をあてる方法;などが挙げられる。複合膜に熱を付与する場合、その温度は、例えば50℃〜80℃である。
【0089】
一次ロールは、上記の各工程を順次行って製造されたセパレータを直接巻芯に巻き取ることで製造される。二次ロールは、一次ロールからセパレータをさらに巻き取ることで製造される。一次ロールを製造する際において、セパレータの巻き取り速度は、例えば10m/min〜100m/minであり、生産性を考慮すると40m/min〜100m/minがより好ましい。一方、二次ロールを製造する際において、セパレータの巻き取り速度は、例えば10m/min〜200m/minであり、生産性を考慮すると50m/min〜200m/minがより好ましい。
【0090】
湿式製法又は乾式製法の各工程において、25℃下MD方向収縮率を1.0%以下に制御しつつ、皺の少ない外観の良好なセパレータを製造する観点で、以下の(a)〜(g)を適用することが好ましい。
【0091】
(a)セパレータの製造に、内部応力の小さい多孔質基材を使用する。したがって、本開示においては、熱固定をしっかり実施された多孔質基材が好ましい。
【0092】
(b)多孔質基材に塗工液を塗工する際の延伸比(塗工開始点の搬送速度に対する、塗工終了点の搬送速度の比)をできる限り下げる。
【0093】
(c)凝固槽及び水洗槽の通過時は、搬送物に対する搬送抵抗が大きいので、多孔質基材が伸ばされやすく、結果、セパレータに皺が発生することがある。これを抑制するため、凝固液及び水洗槽の水の温度をできる限り下げる。凝固液及び水洗槽の水の温度は、40℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましく、25℃程度が更に好ましい。
【0094】
(d)乾燥工程において複合膜に熱を付与する場合、熱収縮による複合膜の寸法変化を抑制するため、ロール部材等に複合膜を接触させる弛緩工程をさらに設ける。
【0095】
(e)各工程の延伸比(工程開始点の搬送速度に対する、該工程終了点の搬送速度の比)の低下と搬送物における皺の発生とはトレードオフの関係であるので、各工程の延伸比を単に下げると多孔質基材及びセパレータに皺が入りやすい。搬送上の工夫として、搬送ロールをすべて駆動ロールにする;搬送ロール間の距離を短くする;皺を伸ばすエクスパンダーやピンチロールを設置する;等を施す。多孔質基材に塗工液を塗工する際に多孔質基材に最も張力がかかるので、特に、塗工の直前にピンチロールを設置する。
【0096】
(f)多孔質基材の送り出し速度に対するセパレータの巻き取り速度の速度比(%)(セパレータの巻き取り速度÷多孔質基材の送り出し速度×100)(本開示において「トータル延伸比」と言う。)をできる限り下げる。トータル延伸比は、103%以下が好ましく、102%以下がより好ましく、ただし100%以上が好ましい。
【0097】
(g)セパレータを巻芯に巻き取る際にセパレータにかける張力をできる限り下げる。ただし、この張力を下げ過ぎるとセパレータに皺が入るので、(e)と同様の搬送上の工夫を採用することが望ましい。
【0098】
さらに、セパレータを巻芯に巻き取った後、以下の(h)〜(k)によって、25℃下MD方向収縮率を1.0%以下に制御し得る。
【0099】
(h)一次ロールに対して、熱環境に放置する熱処理(アニール)を施す。アニール温度(熱環境の温度)は、40℃〜110℃が好ましく、より好ましくは50℃〜90℃である。ただし、アニール温度が90℃を超えると、多孔質基材に含まれる樹脂が部分的に溶融したり、セパレータどうしが接着するブロッキング現象が発生したりすることに留意する。処理時間(熱環境下の放置時間)は長い程好ましく、例えば12時間以上である。
【0100】
(i)一次ロールから送り出されたセパレータをスリットしながら巻芯に巻き取って二次ロールを製造する場合、一次ロールからセパレータを送り出す際にセパレータにかける張力、及び、セパレータを巻芯に巻き取る際にセパレータにかける張力をできる限り下げる。ただし、スリット端の外観が良好なセパレータを得るためには、両張力はある程度かける必要がある。
【0101】
(j)二次ロールを製造する場合、セパレータに皺を生じさせることなく巻芯に巻き取るために、巻き取り直前においてセパレータにロール部材(つまり、コンタクトロール)で接圧をかけることが好ましく、その場合、ロール部材の接圧をできる限り下げる。
【0102】
(k)二次ロールに対して、熱環境に放置する熱処理(アニール)を施す。ただし、熱処理は、セパレータの幅方向両端のたるみを引き起こすことがあるので、熱処理の温度および処理時間に留意する。温度は40℃〜70℃が好ましく、より好ましくは40℃〜60℃である。処理時間は例えば1時間〜48時間である。
【0103】
本開示のセパレータロールを製造する製造方法として、下記の実施形態が好ましい例として挙げられる。
【0104】
セパレータロールの製造方法の一実施形態は、多孔質基材の片面又は両面に湿式製法で多孔質層を設ける製造方法であり、凝固液の温度が40℃以下(好ましくは35℃以下、より好ましくは25℃程度)である。
【0105】
セパレータロールの製造方法の一実施形態は、多孔質基材の送り出し速度に対し速度比103%以下(好ましくは100%〜103%、より好ましくは100%〜102%)の巻き取り速度でセパレータを巻芯に巻き取ること、を含む。この実施形態によれば、皺が少なく巻き姿の良い一次ロールを作製しやすく、2次ロールに加工した後の収縮率も低く抑えやすい。
【0106】
セパレータロールの製造方法の一実施形態は、セパレータを製造後に直接巻芯に巻き取ったロールを40℃〜110℃の雰囲気に12時間以上(例えば24時間)放置すること、を含む。この実施形態によれば、多孔性基材及び塗工層の多孔構造の閉塞を抑制することができる。特に、塗工層が接着性樹脂を含む塗工層の場合、ブロッキング現象(セパレータロールにおいて互いに重なり合うセパレータ同士が接着してしまう現象)、及び塗工層の多孔構造の閉塞を抑制できる。セパレータロールの製造方法の一実施形態は、前記ロールを、50℃〜80℃の雰囲気に12時間以上(例えば24時間)放置することがより好ましい。
【0107】
本開示のセパレータロールとして、下記の実施形態が好ましい例として挙げられる。
【0108】
セパレータロールの一実施形態において、セパレータが備える多孔質層は、多孔質基材の片面又は両面に湿式製法で設けられた多孔質層であって、温度40℃以下(好ましくは35℃以下、より好ましくは25℃程度)の凝固液に接触することによって塗工層中の樹脂が固化してなる多孔質層である。
【0109】
セパレータロールの一実施形態は、セパレータを製造後に直接巻芯に巻き取った一次ロール、又は、一次ロールからセパレータを巻芯に巻き取った二次ロールであって、一次ロールは、トータル延伸比103%以下(好ましくは100%〜103%、より好ましくは100%〜102%)でセパレータを巻芯に巻き取ったロールである。この実施形態によれば、多孔性基材及び塗工層の多孔構造の閉塞を抑制することができる。特に、塗工層が接着性樹脂を含む塗工層の場合、ブロッキング現象及び塗工層の多孔構造の閉塞を抑制できる。
【0110】
セパレータロールの一実施形態は、セパレータを製造後に直接巻芯に巻き取った一次ロール、又は、一次ロールからセパレータを巻芯に巻き取った二次ロールであって、一次ロールは、40℃〜110℃(好ましくは50℃〜80℃)の雰囲気に12時間以上(例えば24時間)放置することを施されたロールである。この実施形態によれば、多孔性基材及び塗工層の多孔構造の閉塞を抑制することができる。特に、塗工層が接着性樹脂を含む塗工層の場合、ブロッキング現象及び塗工層の多孔構造の閉塞を抑制できる。
【0111】
一次ロールの一実施形態は、例えば幅200mm〜2000mmのセパレータを、少なくとも100m以上、多くとも3000m以下、巻き取ったロールである。
二次ロールの一実施形態は、例えば幅15mm〜500mmのセパレータを、少なくとも100m以上、多くとも2500m以下、巻き取ったロールである。
【0112】
セパレータロールの一実施形態において、セパレータロールの直径は、例えば15cm〜30cmである。
【0113】
本開示のセパレータロールは、一次電池および二次電池の製造に用いることができる。以下に、本開示のセパレータロールに巻かれているセパレータを二次電池に適用した実施形態例を説明する。
【0114】
<非水系二次電池>
本開示の非水系二次電池は、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池であって、正極と、負極と、本開示のセパレータロールから供給されたセパレータとを備える。非水系二次電池は、負極と正極とがセパレータを介して対向した構造体に電解液が含浸された電池要素が、外装材内に封入された構造を有する。ドープとは、吸蔵、担持、吸着、又は挿入を意味し、正極等の電極の活物質にリチウムイオンが入る現象を意味する。
【0115】
本開示の非水系二次電池は、非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池に好適である。
【0116】
本開示の非水系二次電池は、本開示のセパレータロールから供給されるセパレータを用いて製造されることにより、電池素子の製造の際に巻きずれを起しにくい。また、本開示の非水系二次電池は、本開示のセパレータロールから供給されたセパレータを備えることにより、電池素子が変形を起しにくい。したがって、本開示の非水系二次電池は、電池の製造歩留りが高い。
【0117】
本開示の非水系二次電池において、正極の実施態様例としては、正極活物質及びバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造が挙げられる。活物質層は、さらに導電助剤を含んでもよい。正極活物質としては、例えばリチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられ、具体的にはLiCoO、LiNiO、LiMn1/2Ni1/2、LiCo1/3Mn1/3Ni1/3、LiMn、LiFePO、LiCo1/2Ni1/2、LiAl1/4Ni3/4等が挙げられる。バインダー樹脂としては、例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂などが挙げられる。導電助剤としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末などの炭素材料が挙げられる。集電体としては、例えば厚さ5μm〜20μmの、アルミ箔、チタン箔、ステンレス箔等が挙げられる。
【0118】
本開示の非水系二次電池において、負極の実施態様例としては、負極活物質及びバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造が挙げられる。活物質層は、さらに導電助剤を含んでもよい。負極活物質としては、リチウムを電気化学的に吸蔵し得る材料が挙げられ、具体的には例えば、炭素材料;ケイ素、スズ、アルミニウム等とリチウムとの合金;などが挙げられる。バインダー樹脂としては、例えばポリフッ化ビニリデン系樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどが挙げられる。導電助剤としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛粉末などの炭素材料が挙げられる。集電体としては、例えば厚さ5μm〜20μmの、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等が挙げられる。上記の負極に代えて、金属リチウム箔を負極として用いてもよい。
【0119】
本開示の非水系二次電池において電解液は、例えば、リチウム塩を非水系溶媒に溶解した溶液である。リチウム塩としては、例えばLiPF、LiBF、LiClO等が挙げられる。非水系溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フロロエチレンカーボネート、ジフロロエチレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びそのフッ素置換体等の鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル;などが挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。電解液としては、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを質量比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)20:80〜40:60で混合し、リチウム塩を0.5M〜1.5M溶解した電解液が好ましい。
【0120】
本開示の非水系二次電池の外装材としては、金属缶、アルミラミネートフィルム製パック等が挙げられる。本開示の非水系二次電池の形状は、角型、平型、円筒型、コイン型等のいずれでもよい。本開示におけるセパレータは、これらのいずれの形状にも好適である。
【0121】
本開示の非水系二次電池の製造方法は、特に制限されるものではない。本開示の非水系二次電池の電池素子は、例えば、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に重ね、長さ方向に巻き回す方式で製造される。
【0122】
本開示の非水系二次電池の実施形態例として、接着性樹脂を含有する多孔質層を有するセパレータを用いた電池が挙げられる。この非水系二次電池においては、接着性樹脂を含有する多孔質層を介してセパレータと電極とが密着するので、電池素子の巻きずれ及び変形がより発生しにくくなり、その結果、電池の製造歩留りがより高くなる。
【実施例】
【0123】
以下に実施例を挙げて、本開示のセパレータロール及び非水系二次電池をさらに具体的に説明する。ただし、本開示のセパレータロール及び非水系二次電池は、以下の実施例に限定されるものではない。本例における膜厚およびガーレ値の測定方法は、以下のとおりである。
【0124】
[膜厚]
多孔質基材および複合膜の膜厚(μm)は、接触式の厚み計(ミツトヨ社製LITEMATIC)にて、10cm×30cm内の任意の20点を測定し、これを平均することで求めた。直径5mmの円柱状の測定端子を用い、荷重7gの条件で測定を行った。
【0125】
[ガーレ値]
多孔質基材のガーレ値(秒/100cc)は、JIS P8117(2009)に従い、ガーレ式デンソメータ(東洋精機社製G−B2C)を用いて測定した。
【0126】
<実施例1>
ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF系樹脂)として、クレハ社製のKFポリマー#9300とARKEMA社製のKYNAR2801とを質量比50:50で混合した樹脂を、溶媒(ジメチルアセトアミド:トリプロピレングリコール=質量比70:30)に溶解し、PVDF系樹脂の濃度が5質量%の塗工液を作製した。該塗工液を、多孔質基材(ポリエチレン微多孔膜、SK社製TN0901、膜厚9μm、ガーレ値150秒/100cc)の両面に等量塗工し、多孔質基材の両面に塗工層を形成した。塗工層形成後の多孔質基材を、凝固液(水:ジメチルアセトアミド:トリプロピレングリコール=質量比62.5:30:7.5、温度35℃)に浸漬して塗工層を固化させ、ポリエチレン微多孔膜の両面に多孔質層を備えた複合膜を得た。続いて、複合膜を水洗し乾燥して、巻芯(紙製、内径15cm、外径18cm)に500m巻き取り、このロールに75℃の雰囲気に24時間放置する熱処理を施して、一次ロールを得た。一次ロール製造の際のトータル延伸比を102.0%とした。
【0127】
次いで、一次ロールを室温に放置して冷却した後、一次ロールから送り出されたセパレータを100mm幅にスリットしながら、巻芯(合成樹脂製、内径7.6cm、外径20cm)に400m巻き取り、100mm×400m巻きの二次ロールを得た。
【0128】
<実施例2>
一次ロールに施す熱処理の条件を50℃且つ24時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、一次ロール及び二次ロールを得た。
【0129】
<実施例3>
一次ロールに施す熱処理の条件を50℃且つ24時間に変更し、一次ロール製造の際のトータル延伸比を103.0%に変更した以外は、実施例1と同様にして、一次ロール及び二次ロールを得た。
【0130】
<実施例4>
ポリメタフェニレンイソフタルアミド(PMIA)(帝人テクノプロダクツ社製コーネックス)を溶媒(ジメチルアセトアミド:トリプロピレングリコール=質量比70:30)に溶解し、PMIA濃度が5質量%の溶液を作製した。この溶液に、無機粒子としてα−アルミナ(岩谷化学工業社製SA−1、平均粒子径0.8μm)をα−アルミナ:PMIA=質量比50:50となるように分散させ、塗工液を作製した。該塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして、一次ロール及び二次ロールを得た。
【0131】
<実施例5>
一次ロール製造の際のトータル延伸比を103.0%に変更した以外は、実施例4と同様にして、一次ロール及び二次ロールを得た。
【0132】
<実施例6>
特開2013−139652号公報に開示されているアラミド繊維不織布の製造方法に準じて、膜厚30μmのアラミド繊維不織布を作製した。これを多孔質基材として用い、トータル延伸比を100.2%に変更した以外は、実施例4と同様にして、一次ロール及び二次ロールを得た。
【0133】
<実施例7>
多孔質基材として、膜厚30μmのポリエチレンテレフタラート(PET)繊維不織布を用いた。ポリフッ化ビニリデン系樹脂(PVDF系樹脂)として、クレハ社製のKFポリマー#9300とARKEMA社製のKYNAR2801とを質量比50:50で混合した樹脂を用いた。このPVDF系樹脂を溶媒(ジメチルアセトアミド:トリプロピレングリコール=質量比70:30)に溶解し、樹脂濃度が5質量%の溶液を作製した。この溶液に、無機粒子としてα−アルミナ(岩谷化学工業社製SA−1、平均粒子径0.8μm)をα−アルミナ:PVDF系樹脂=質量比50:50となるように分散させ、塗工液を作製した。該多孔質基材と該塗工液を用い、トータル延伸比を100.2%に変更した以外は、実施例1と同様にして、一次ロール及び二次ロールを得た。
【0134】
<比較例1>
一次ロールに施す熱処理の条件を35℃且つ24時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、一次ロール及び二次ロールを得た。
【0135】
<比較例2>
塗工層を固化させるための凝固液の温度を50℃に変更し、トータル延伸比を103.5%に変更し、一次ロールに熱処理を施さなかった以外は、実施例1と同様にして、一次ロール及び二次ロールを得た。
【0136】
<評価>
実施例1〜7及び比較例1〜2について、セパレータロールの評価を下記のとおりに行った。結果を表1に示す。
【0137】
[一次ロールの外観]
一次ロールを目視で観察し、皺の有無を判定した。観察の際、ライトを当てると皺が見えやすいので、ライトを当てて観察した。
−評価基準−
A:皺が認められない。
B:皺があるが、実用に差支えない程度。
C:皺が多量にある。
【0138】
[セパレータの25℃下MD方向収縮率および25℃下TD方向拡大率]
一次ロール又は二次ロールの最表層を取り除く目的で、一次ロール又は二次ロールの外端からセパレータを5周分出して切除した。この切除端からセパレータを長さ200mm切り取り、これを試験片(MD方向200mm×TD方向100mm)とした。
【0139】
試験片の片面に、図1に示す位置A、A、B、B、C、C、C、D、D及びDに印を付けた。試験片の一端をクリップで把持し、温度25℃、相対湿度50±10%の恒温槽の中に、MD方向が重力方向となるように試験片をつるし、無張力状態で24時間放置した。
【0140】
24時間放置の前と後に、A間、A間、C間、C間及びC間の長さを測定し、以下の式によって、MD方向の収縮率(%)とTD方向の拡大率(%)を算出した。
【0141】
25℃下MD方向収縮率(%)={[(放置前のA間の長さ−放置後のA間の長さ)÷放置前のA間の長さ]+[(放置前のA間の長さ−放置後のA間の長さ)÷放置前のA間の長さ]}÷2×100
即ち、A間の収縮率とA間の収縮率の平均を、25℃下MD方向収縮率とした。
【0142】
25℃下TD方向拡大率(%)={[(放置後のC間の長さ−放置前のC間の長さ)÷放置前のC間の長さ]+[(放置後のC間の長さ−放置前のC間の長さ)÷放置前のC間の長さ]+[(放置後のC間の長さ−放置前のC間の長さ)÷放置前のC間の長さ]}÷3×100
即ち、C間の拡大率とC間の拡大率とC間の拡大率の平均を、25℃下TD方向拡大率とした。
【0143】
本例では試験片のTD方向長さを100mmとしたが、25℃下MD方向収縮率および25℃下TD方向拡大率を求める上では、TD方向長さはこれに限定されるものでない。
【0144】
本例では、一次ロール又は二次ロールの外端からセパレータを出しはじめてから試験片を恒温槽につるすまで(つまり、24時間放置を開始するまで)の時間を10分間以内とし、恒温槽から試験片を出した後ただちに24時間放置後の長さ測定を行った。試験片の長さ、A等の印の位置、及び、A間等の長さは、大山光学製ガラススケールを用いて測定し、50倍の拡大鏡で目盛を0.00mmまで読み取った。
【0145】
[135℃におけるセパレータの熱収縮率]
一次ロール又は二次ロールから、セパレータをMD方向190mm×TD方向60mmに切り出し、これを試験片とした。TD方向を2等分する線上で、且つ、MD方向の一方の端から20mm及び170mmの2点(点A及び点Bと言う。)に印をつけた。点Aから最も近い端と点Aとの間をクリップで把持し、135℃のオーブンの中にMD方向が重力方向となるように試験片をつるし、無張力状態で30分間熱処理を行った。熱処理前後のAB間の長さを測定し、以下の式によって、熱収縮率(%)を算出した。
【0146】
MD方向の熱収縮率(%)=(熱処理前のAB間の長さ−熱処理後のAB間の長さ)÷熱処理前のAB間の長さ×100
【0147】
本例では試験片のTD方向長さを60mmとしたが、135℃熱収縮率を求める上では、TD方向長さはこれに限定されるものでない。
【0148】
[電池素子の巻きずれ]
二次ロールからセパレータを供給し、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に重ね、巻回装置を用いて長さ方向に巻き回し、電池素子を作製した。巻き回す際、正極、負極にはそれぞれ300gの張力をかけ、セパレータには100gの張力をかけた。電池素子の作製後、2枚のセパレータの巻きずれ(mm)を測定した。セパレータの巻きずれが0.2mm以上の場合は「巻きずれの発生有り」、0.2mm未満の場合は「巻きずれの発生なし」と判定した。本試験に使用する負極および正極は、以下のようにして作製した。
【0149】
−負極の作製−
負極活物質である人造黒鉛300質量部、バインダーであるスチレン−ブタジエン共重合体の変性体を40質量%含む水溶性分散液7.5質量部、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース3質量部、及び適量の水を双腕式混合機にて攪拌し、負極用スラリーを作製した。この負極用スラリーを負極集電体である厚さ10μmの銅箔に両面塗布し、乾燥後プレスして、負極活物質層を有する負極を得た。
【0150】
−正極の作製−
正極活物質であるコバルト酸リチウム粉末89.5質量部、導電助剤であるアセチレンブラック4.5質量部、及びバインダーであるポリフッ化ビニリデン6質量部を、ポリフッ化ビニリデンの濃度が6質量%となるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、双腕式混合機にて攪拌し、正極用スラリーを作製した。この正極用スラリーを正極集電体である厚さ20μmのアルミ箔に両面塗布し、乾燥後プレスして、正極活物質層を有する正極を得た。
【0151】
[電池素子の外観]
温度25±3℃、相対湿度50±10%の雰囲気で、上記と同じ工程で電池素子を作製し、同じ雰囲気に電池素子を1時間放置した。1時間放置の前後に電池素子の最大径(mm)を測定し、以下の式によって膨れ率(%)を算出した。膨れ率が大きいほど、電池素子が膨れたことを意味し、電池素子の外観不良を意味する。
【0152】
膨れ率(%)=(放置後の最大径−放置前の最大径)÷放置前の最大径×100
【0153】
−評価基準−
A:膨れ率が5%未満である。
B:膨れ率が5%以上10%未満である。
C:膨れ率が10%以上である。
【0154】
[電池素子の合格率]
温度25±3℃、相対湿度50±10%の雰囲気で、上記と同じ工程で電池素子を20個作製し、それぞれに熱プレス(圧力1MPa、温度95℃)を実施した。熱プレス後の各電池素子を分解し、電極及びセパレータを観察し、電極に亀裂がなく且つセパレータに皺や折れが観察されない場合を合格品と判断し、20個の合格率(合格品の個数÷20×100)を算出した。
【0155】
【表1】
【0156】
2014年7月11日に出願された日本国出願番号第2014−143662号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
【0157】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【要約】
多孔質基材と、前記多孔質基材の片面又は両面に、樹脂及び無機粒子の少なくともいずれかを含有する塗工液を塗工して形成された塗工層が固化してなる多孔質層と、を備えたセパレータが、巻芯に巻かれたセパレータロールであって、下記の方法で求めた前記セパレータの機械方向の収縮率が1.0%以下である、セパレータロール。
方法:セパレータロールの外端からセパレータを5周分取り除いた後、その端部からセパレータを機械方向に200mm切り取り、試料とする。該試料を25℃下に24時間、無張力状態で放置し、放置前後の機械方向の長さを測定し、機械方向の収縮率を算出する。
図1