(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における、歯科用のハンドピースに使用する発電機の好適な実施の形態について、
図1から
図8を参照して詳細に説明する。
(1)実施形態の概要
本実施形態の発電機は、歯科治療用の工具を回転させるためのエアーを駆動力として、発電機の回転軸に取り付けた発電用タービンを回転させることで発電する。発電した電力は、歯科治療に必要な機器、例えば照明用のLEDに供給される。
【0012】
本実施形態の歯科ハンドピース用発電機は、歯科用のハンドピースに組み込まれた状態で、高圧蒸気滅菌処理(例えば、135℃、蒸気圧2atm)の対象となる。
この高圧蒸気滅菌処理に対応するため、本実施形態の発電機では、コイル被覆AIW(ポリアミドイミド銅線)を使用することで耐食性の向上を実現し、また、熱可塑性部材で形成する円筒胴部との密着性が高いシリコーン系樹脂を充填して該樹脂と円筒胴部とでコイルを包みこむことで耐食性の向上を実現する。
具体的には、高圧蒸気滅菌処理における滅菌消毒に対し、耐久性及び高特性を維持することができる、コイル材料と構造の発電機として次の構成を採用する。
(a)コイル被覆材質においては、被覆劣化の無いAIW、又は、PIW(ポリイミド銅線)を使用する。
このAIWは、従来から高温に耐えうるモータコイルとして知られているが、他の性能については知られていなかった。
出願人は、高圧蒸気滅菌処理に耐えうる材料として種々の材料を試した結果、AIWが耐高温性だけでなく、耐高圧蒸気性を有するという知見を得た。そこで、本実施形態では、歯科ハンドピース用発電機40のコイルとしてAIW、又はPIWを使用することとした。
(b)コイルの隙間及びステータ、ヨーク材等の部品間に出来る隙間に、シリコーン系樹脂を充填することで、コイル等を高圧蒸気から保護している。シリコーン系樹脂は、密着性が高いことから、コイル等を充分に保護することができる。
(c)効率良く回転させるためにコイルと磁石間に配置される円筒胴部(内ケース)を、絶縁体からなる熱可塑性樹脂、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、LCP(液晶ポリマー)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)材等の耐熱性樹脂(熱変形温度200°C以上)を使用する。
【0013】
(2)実施形態の詳細
図1は第1実施形態における歯科ハンドピース用発電機40の構成図である。
歯科ハンドピース用発電機40の円筒軸中心には、軸46が配設されており、軸46は、ラジアル軸受けとして機能する軸受47,48により回転自在に軸支されている。
軸受48は軸受保持部材54に保持され、軸受47は軸受保持部材53に保持されている。
この軸受48及び軸受47は、永久磁石の磁束の影響を受けないものが好ましい。本実施形態では、例えば銅を主成分とする含油軸受が使用されているが、玉軸受け等を採用するようにしてもよい。
【0014】
軸46の外周面には、軸受48と軸受け47の間に永久磁石45が軸46と共に回転可能に取り付けられている。
本実施形態における永久磁石45は、Sm−Co焼結の異方性磁石で2極の着磁がされている。
但し、永久磁石45はNd−Fe−B磁石を用いてもよい。また、永久磁石45は、焼結磁石ではなく、ボンド磁石を用いてもよい。また、永久磁石45は、等方性磁石を用いてもよい。また、永久磁石45は、2極以上の複数の極で構成されていてもよい。
【0015】
この永久磁石45と所定の間隔(エアーギャップ)を介してコイル装着部材42が、軸46と同心上に配置されている。
コイル装着部材42は、両端が開放した円筒胴部42aと、円筒胴部42aの端部から外方に向けて延びるように一体形成された外延円環部42bとを有している。
コイル装着部材42は、絶縁体からなる熱可塑性樹脂、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、LCP(液晶ポリマー)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)材等の耐熱性樹脂(熱変形温度200°C以上)が使用される。本実施形態のコイル装着部材42は、GF(ガラス繊維)40%入りのPPSが使用されている。
円筒胴部42aの厚さは、強度が確保でき、かつ薄いことが好ましく、例えば0.3mmの厚さが好ましい。但し、円筒胴部42aの厚さは、上記に限定されず、0.1mm以上0.5mm以下の厚さでもよい。
【0016】
この場合、コイル装着部材42(後述の外装部材50も同じ)は、曲げ弾性率が5000MPa以上の樹脂で成形されることが好ましい。このように樹脂で形成することが漏れ電流を防ぐことができ、曲げ弾性率を5000MPa以上とすることで、加工時の変形が防止されて高精度に、かつ薄肉に加工できるため、回転電機を小型軽量にすることができる。
【0017】
コイル装着部材42の外延円環部42bには、歯科ハンドピース用発電機40による発電電力を出力するための端子ピン49が、外延円環還部42bを貫通して2本配設されている。
端子ピン49の、円筒胴部42a側の一端部には、界磁コイル(本実施形態では円筒型コイル44)の端末線が取り付けられている。
外延円環部42bには、端子ピン49用の貫通孔の他に、後述する樹脂充填用の貫通孔も形成されている。
【0018】
コイル装着部材42の一端側には軸受保持部材54が嵌合され、外延円環部42bが配設された他端側には軸受保持部材53が嵌合されている。
軸受保持部材54の中心には凹部が形成され、この凹部内に軸受48が固定されている。また凹部の中心には軸46の径よりも大径の貫通孔が形成されており、この貫通孔と軸受48を軸46が貫通している。なお、
図1では、軸受48が固定される凹部が、軸受保持部剤54の永久磁石45側に形成されているが、その反対側に形成するようにしてもよい。
軸受け保持部材53の中心には、永久磁石45側に凹部が形成され、この凹部内に軸受け47が固定されている。また凹部の底には更に第2凹部が形成され、この第2凹部にはスラスト軸受けとして機能するセラミック製の軸受け球が配置され、軸46の端部が当接している。
なお、
図1では、軸受48、47がそれぞれ軸受保持部材54、53を介してコイル装着部材42に固定されているが、コイル装着部材42の内周面に直接固定されるようにしてもよい。この場合、軸受48、47の外形をコイル装着部材42の内径に併せて大きくするか、又は、コイル装着部材42の両端側の肉厚を軸受48、47の外形に併せて厚くするようにする。
【0019】
コイル装着部材42の円筒胴部42a外周面には、内周面が永久磁石45と対向する領域に、円筒型コイル44が巻き付けられ、固定されている。円筒型コイル44の端部は端子ピン49に接続されている。
本実施形態の円筒型コイル44は、被覆劣化の無いAIW(ポリアミドイミド銅線)、又は、PIW(ポリイミド銅線)を使用する。
このように、本実施形態では、歯科ハンドピース用発電機40に使用するコイルとして、AIWやPIWを使用することで、高圧蒸気滅菌処理を行っても性能劣化を防止することができる。
【0020】
図2は、本実施形態で使用する円筒型コイル44について表したものである。
円筒型コイル44は、1ターンが多角形状をした巻線を円筒型に配列したコイルであり、大別すると、
図2(a)に示す亀甲巻の円筒型コイル44、
図2(b)に示す菱形巻の円筒型コイル44b、
図2(c)に示すハネカム巻の円筒型コイル44c、の3種類がある。
亀甲巻は、巻線が自己融着線から形成され、加熱等によって巻線の被膜同士が融着、固着されて形成される。亀甲巻は円筒軸上に巻線の一部が揃うので、トルクの発生に寄与する円筒軸方向の直線導体部が円筒の巻線の中央部に存在し、磁極の受ける力が有効に回転トルクに働く。そのため、亀甲巻は3つの巻線方式で一番効率が良いとされている。
一方、菱形巻はトルクに寄与する円筒軸方向の直線導体部がなく、全体が傾斜した導体部となっているので、巻線の利用効率が亀甲巻に比べて悪い。そのため、菱形巻は高効率化に際しては、あまり好ましい巻線工法ではない。
また、ハネカム巻は菱形巻と同様にトルクに寄与する円筒軸方向の直線導体部がなく、亀甲巻に比べて巻線の利用効率が悪い。
以上の理由から本実施形態では、亀甲巻の円筒型コイル44を採用しているが、菱形巻やハネカム巻の円筒型コイルを使用するようにしてもよい。
【0021】
図3は、亀甲巻の円筒型コイル44の作成方法について表したものである。
亀甲巻の円筒型コイル44は、巻回作業、平板状作業、カーリング作業、アニール作業により作成する。
まず巻回作業では、
図3(a)に示すように、六角形の巻枠61に整列した巻線62を巻回し、巻枠61に巻回した状態で、巻崩れ防止のためにテープ63で仮固定する。その状態で、その六角形の巻枠61から抜き取る。
平板状作業では、
図3(b)に示すように、巻枠61から抜き取った巻線62の六角形の一対の対向面を巻枠軸方向に倒して、平板状にする。
カーリング作業では、
図3(c)に示すように、平板状にした巻線をカーリング棒64に巻き付ける。その際カーリング成形した外周にテープを巻き付ける。
アニール作業では、
図3(d)に示すように、カーリング棒64を取り外した円筒型コイル65を加熱し、円筒成形治具66で円筒型コイル65をプレスして円筒度が良くなるように整形する。巻線は自己融着線を使用しているので、加熱することで巻線同士が融着して巻崩れしない。
以上の工程によって亀甲巻の円筒型コイル44が作成され、この円筒型コイル44はコイル装着部材42の円筒胴部42aに挿入される。
【0022】
なお、本実施形態の円筒型コイル44では、上記カーリング作業とアニール作業を廃止して、巻回作業で多角形状の巻枠に巻回した巻線を、平板状作業で巻枠軸方向に倒して平板状にした後、直接コイル装着部材42の円筒胴部42a外周面に巻き付けて円筒形状を形成するようにしてもよい。
これにより、カーリング作業、アニール作業により、あらかじめ円筒形状に形成した円筒型コイル44をコイル装着部材42の円筒胴部42aに挿入する場合に比べて、円筒胴部42aと円筒型コイル44とをより密着させることができ、隙間を小さくできる。さらに、円筒胴部42aの円筒形状に倣ってコイルを成形するため、コイルの円筒形状を高精度に形成することができ、円筒胴部42aの外周面と、後述するヨーク43との隙間を小さく設定することができる。
これにより、永久磁石45とヨーク43との隙間を小さくでき、回転電機のエネルギー効率を高くすることができる。また、多くの手間が掛かって作業性が悪かった円筒型コイル44の加工の手間を一部省略することができる。
【0023】
図1に戻り、円筒型コイル44の外周と対向した位置には、円筒型コイル44の外周全体を囲うようにヨーク43が配設されている。
ヨーク43は、永久磁石45の磁極同士を磁気的に接続するもので、電磁鋼鈑、珪素鋼板などの磁性薄板を円環形状(ドーナツ型)に形成し、これを複数枚(例えば、34枚)積層して構成されている。なお、ヨーク43は、例えば単一鋼塊の磁性材料で形成されてもよい。
【0024】
ヨーク43の外周側には外装部材50(外ケース)が、軸46と同心上に配置されている。
外装部材50は、両端が開放した円筒胴部50aと、円筒胴部50aの端部(コイル装着部材42の外延円環部42bの配置側と反対側の端部)には、円筒胴部50aから内方に向けて延びるように一体形成された内延円環部50bとを有している。
なお、
図1に示した外装部材50の円筒胴部50aの直径は、ヨーク43が配設されている部分の直径よりも、ヨーク43が配設されていない内延円環部50b側の領域部分の直径が小さく形成されているが、全長に渡って同じ径に形成することもできる。
【0025】
外装部材50とコイル装着部材42とは、その両側端部同士が接着剤などにより接合されることで、両部材間に円筒状の収容部が形成されている。この円筒状収容部には、コイル接着部材42の外周に巻かれた円筒型コイル44、外延円環部42bを貫通した端子ピン49の一部、外装部材50の内周面に接着剤などで固定されたヨーク43が収容されている。
更に円筒状収容部内全体には、外延円環部42bに形成されている樹脂充填用の貫通孔から充填された、樹脂が充填されている。この樹脂により、円筒状収容部内における円筒径コイル44、ヨーク等の各部品間にできる隙間が充填される。
【0026】
外装部材50とコイル装着部材42間に充填される樹脂としては、PPS等で形成されるコイル装着部材42との密着性が高い樹脂として、シリコーン系樹脂を使用する。
これにより、コイル装着部材42とシリコーン系樹脂とが強力に密着して円筒型コイル44を包み込むことで、高圧蒸気滅菌処理における高圧蒸気がコイルに直接接触する状態を回避し、耐食性を向上している。
【0027】
さらに、
図1で円内に示した前方接合部41a、後方接合部41bのように、外装部材50とコイル装着部材42の両接合面が、共に径方向となるように接合されている。
すなわち、前方接合部41aでは、内延円環部50bの軸46側端部の内側(外延円環部42b側)面と、コイル装着部材42の円筒胴部42aの外延円環部42bが形成されていない側の端部の端面とが接合されている。
また、後方接合部41bでは、外延円環部42bの径方向外側端部の内側(内延円環部50b側)面と、外装部材50の円筒胴部50aの内延円環部50bが形成されていない側の端部の端面とが接続されている。
このように外装部材50とコイル装着部材42の接合面を、軸方向ではなく、径方向とすることで、高圧蒸気滅菌処理における高圧蒸気が円筒状収容部内に進入しにくくしている。
【0028】
また、外装部材50の材質として、コイル装着部材42と同じPPS、LCP、PEEK等の耐熱性樹脂を使用することで、内部に充填されるシリコーン系樹脂との高い密着性により、更に高圧蒸気の進入がしにくくなっている。
【0029】
以上の通り構成された歯科ハンドピース用発電機40は、軸46の軸受保持部材54から突き出た部分に、発電用タービン羽根が配設される。
そして、歯科ハンドピースの治療工具を回転させるためのエアの供給通路の途中に発電用タービン羽根が配置されるように歯科ハンドピース用発電機40を配置する。
これにより、エアが発電用タービン羽根40と軸46を回転し、軸46の外周面に備えられた永久磁石45は、軸46と一体となって回転し、円筒型コイル44に誘起電圧を発生させ、端子ピン49から出力される。
【0030】
図4は、歯科ハンドピース用発電機40の変形例を表した断面図である。
この変形例にかかる歯科ハンドピース用発電機40は、発電用タービン羽根を組み込んだもので、そのまま歯科ハンドピースへの設置が容易になる。
なお、この変形例における歯科ハンドピース用発電機40において、
図1で説明した歯科ハンドピース用発電機40と同様の部分については同一の符号を付して適宜その説明を省略することとする。
【0031】
この変形例では、
図4に示すように、軸受48bが軸46の途中ではなく、軸46の端部に配設されている。この軸受48bと永久磁石45との間の軸46に発電用タービン羽根37が固定されている。
また、歯科ハンドピース用発電機40は、後段ハウジング38と、この後段ハウジング38の一端側内周面と嵌合する前段ハウジング39を備えている。
後段ハウジング38内周面には外装部材50の円筒胴部50a外周面が密着した状態で、永久磁石45、円筒型コイル44、ヨーク43等から構成される発電部分が収容される。
前段ハウジング39の内側には、所定間隔を置いて発電用タービン羽根37が収容されている。
【0032】
前段ハウジング39には、エアが導入される貫通孔が貫通している。
この前段ハウジング39の内側には、軸受48bを保持する軸受保持部材54bが嵌合している。
軸受保持部材54bは、発電用タービン羽根37の羽根の部分が収容される凹部を有すると共に、この凹部の側面には、前段ハウジング39に形成された貫通孔と連続して貫通する貫通孔が形成され、両貫通孔によりエア導入孔90が形成される。複数のエア導入孔90は、発電用タービン羽根37が回転する方向に向けて貫通、形成されている。
軸受保持部材54bに形成された発電用タービン羽根37を収容する凹部の底部には、更に軸受48bが収容される凹部が形成されている。そして、軸受48b用の凹部の外側には、発電用タービン羽根37を回転させた後のエア通路となるエア通路孔91が形成されている。このエア通路孔91を通過したエアは、後述する工具用タービン21の回転に使用される。
【0033】
図5は、歯科ハンドピース用発電機40を組み込んだ歯科ハンドピース1の断面を表したものである。
この歯科ハンドピース1には、
図4で説明した、発電用タービン羽根37が予め組み込まれた歯科ハンドピース用発電機40が使用されている。
図5に示すように、歯科ハンドピース1は、治療用工具22を軸線L回りに回転駆動する工具用タービン21と、該工具用タービン21を回転自在に保持するヘッド部2と、操作者によって把持される把持部3とを備えている。
【0034】
把持部3は、後端部に給気管56および給水管57が前方に延びている。
把持部3は、給気管56から供給されるエアの通路となると共に、歯科ハンドピース用発電機40が収容される収容部80を備えている。
【0035】
給気管56から供給されてきたエア流は、後段ハウジング38と把持部3との間を通り、更に、前段ハウジング39と軸受保持部材54に設けられたエア導入孔90において絞られて発電用タービン羽根37に導入され、軸46を回転させる。軸46の外周面に備えられた永久磁石45は、軸46と一体となって回転し、円筒型コイル44に誘起電圧を発生させる。
円筒型コイル44に発生した電極は、端子ピン49を介して電線32を通ってLED31に供給される。LED31は、治療用工具22に向けてその周辺に配置されており、歯科ハンドピース用発電機40から供給される電力により、歯科ハンドピース1による治療箇所周辺を照明することができる。
【0036】
一方、発電用タービン羽根37を回転させた後のエアは、軸受保持部材54に形成されたエア通路孔91を通り、歯科ハンドピース用発電機40から排出され、更に、エア通路33を通って工具用タービン21に導入されて、治療用工具22を回転させる。
【0037】
次に歯科ハンドピース用発電機40における第2実施形態について
図6、
図7を参照して説明する。
この第2実施形態では、
図6に示すように、第1実施形態で説明した円筒型コイル44に変えて、積層した珪素鋼板に内向きに突出形成された2個のティースに、コイル44aとコイル44bが巻かれている。
なお、第2実施形態における歯科ハンドピース用発電機40において、
図1、
図4で説明した歯科ハンドピース用発電機40と同様の部分については同一の符号を付して適宜その説明を省略することとする。
【0038】
図7は、第2実施形態における、コイル44a、44bを巻いたヨーク43pをコイル装着部材42に配置した状態の斜視図である。
図7に示すように、第2実施形態のヨーク43pは10枚の珪素鋼板の積層により形成されている。ヨーク43pは、中央部がH型に打ち抜かれた円板部43paと、円板部43paから中心方向に向けて対向して形成された2個のティース43pbを備えている。
ヨーク43pの円板部43paは、ティース43pbを除いた部分が矩形に形成され、矩形の対向する2辺から中心に向けた内方に2個のティース43pbが形成される。両ティース43pb、43pbには、コイル44a、44bが巻かれており、コイルの端部は図示しない端子ピン49に接続されている。
このコイル44a、44bが巻かれた両ティース43pbの間には、コイル装着部材42の円筒胴部42aが配設されている。
【0039】
なお、両ティース43pbは、円板部43paと一体形成されているが、別々に形成して結合するようにしてもよい。
また、
図7に示したティース43pbの中心側端部は平面状に形成されているが、円筒胴部42aに全体が密着するように円筒胴部42aの外周面と同じ曲率に湾曲するように形成してもよい。
さらに、説明した実施形態では、
図4で説明した歯科ハンドピース用発電機40と同様に、予め発電用タービン羽根37を組み込んだ歯科ハンドピース用発電機40を例に説明したが、
図1で説明した歯科ハンドピース用発電機40と同様に、発電用タービン羽根37を備えない歯科ハンドピース用発電機40として構成してもよい。この場合、軸受保持部材54、軸受48、軸46は
図1と同様に構成する。
【0040】
次に、このように形成した歯科ハンドピース用発電機40における、性能テストの結果について説明する。
この性能テストでは、第1実施形態及び第2実施形態の歯科ハンドピース用発電機40を使用した実施例1、実施例2、及び比較例1〜4の歯科ハンドピース用発電機40に対して、高圧蒸気滅菌処理(連続高圧蒸気滅菌135℃、蒸気圧2atm)を行った場合の、コイルの抵抗値の変化を測定した。
【0041】
(a)実施例1
実施例1では、
図1、
図4に示した第1実施形態の歯科ハンドピース用発電機40を対象とした。
コイル装着部材42(内ケース)をGF(ガラス繊維)40%入りのPPSで内径φ5.5に形成し、φ0.1のAIWで作製した亀甲巻の円筒型コイル44を巻き付け、絶縁テープにて固定させた。また、亀甲巻の円筒型コイル44の外周にφ9×φ7×t0.3の珪素鋼板34枚で構成したヨーク43を設置し、シリコーン系樹脂を注入後、外装部材50(外ケース)で完全密閉した。また、軸46(シャフト)に、φ4×φ1×t10の2−17系SmCo(サマリウム、コバルト)焼結磁石で構成した永久磁石45を取り付け、コイル装着部材42の内側に軸受47、48で軸支した。なお径φの単位はmmである(以下同じ)。
以上の、歯科ハンドピース用発電機40を、5万rpmにて回転させ、発電電力(ワット数)を測定後、連続高圧蒸気滅菌135℃、蒸気圧2atmに投入(高圧蒸気滅菌処理)し、コイルの抵抗値を測定した。
【0042】
(b)実施例2
実施例2では、
図6、7に示した第2実施形態の歯科ハンドピース用発電機40を対象とした。
φ9×φ5.5×t0.74珪素鋼板10枚で形成したヨーク43pのティース43pbに、φ1.0のPIWを巻き付けコイル44a、44bを製作した。これを、GF(ガラス繊維)40%入りのPPSで形成したコイル装着部材42の円筒胴部42aに挿入した後、シリコーン系樹脂を注入し、外装部材50で完全密閉した。また、軸46に、φ7×φ1×t10のNd(ネオジウム)系焼結磁石で構成した永久磁石45を取り付け、コイル装着部材42の内側に軸受47、48で軸支した。
以上の、歯科ハンドピース用発電機40を、3万rpmにて回転させ、発電電力(ワット数)を測定後、連続高圧蒸気滅菌135℃蒸気圧2atmに投入(高圧蒸気滅菌処理)し、コイルの抵抗値を測定した。
【0043】
(c)比較例1
比較例1では、実施例1のコイル装着部材42の材質を、PPSからアルミに変更した以外は同等に製作した。
(d)比較例2
比較例2では、実施例1の円筒型コイル44を、AIWからUEWに変更した以外は同等に製作した。
(e)比較例3
比較例3では、実施例1の注入樹脂を、シリコーン系樹脂からエポキシ系樹脂に変更した以外は同等に製作した。
(f)比較例4
比較例4では、実施例2のコイル44a、44bを、AIWからPEWに変更した以外は同等に製作した。
【0044】
図8は、上記実施例1、2、比較例1〜4に対する測定結果を表したものである。
図8(a)は、各実施例、比較例について連続高圧蒸気滅菌を行う前における出力電力(ワット数)の測定値を表したものである。
また
図8(b)は、連続高圧蒸気滅菌を行うことにより、各実施例、比較例におけるコイルの抵抗値の時間変化を表したものである。
高圧蒸気滅菌処理は繰り返し行われることが通常であることから、一定時間以上の連続高圧蒸気滅菌に対しても歯科ハンドピース用発電機40の性能が劣化しないこと、すなわち、コイルの抵抗値が低下しないことが必要である。本実施形態では、連続高圧蒸気滅菌に対して要求性能を維持していると判断される基準時間Tとしては250時間を想定している。
【0045】
図8(b)に示されるように、コイルをAIWにし、シリコーン系樹脂を充填した実施例1、2の場合には2000時間以上経過しても、抵抗の低下はなく、250時間を大きく超える充分な結果が得られた。
これに対し、コイルはAIWを使用するが、シリコーン系樹脂ではなくエポキシ系樹脂を充填した比較例3の場合には、AIWの効果によって、基準時間である250時間を超え、約300時間までは抵抗値の低下が見られなかった。ただし、それ以降は抵抗が大きく低下し、錆び膨れ問題の為、後に断線している。
【0046】
一方、コイルに従来のUEWやPEWを使用し、シ
リコーン系樹脂を充填した比較例2、比較例4の場合には、基準時間の250時間をクリアすることはできず、50時間程度で抵抗が大きく低下し、いずれも200時間程度で断線しており、基準時間をクリアすることはできなかった。
【0047】
以上から、コイルをAIWとすることで、コイルの抵抗の劣化開始を300時間程度まで延ばすことが可能になる。
そして、コイルをAIWとするこ
とに加え、更にシ
リコーン系樹脂を充填することにより、2000時間を超えて抵抗の劣化を防止することが可能になる。
【0048】
なお、比較例1では、コイルにAIWを使用し、シ
リコーン系樹脂を充填しているため、抵抗値の劣化自体は起こっていない。
しかし、コイル装着部材42の材質にアルミを使用しているので渦電流が発生し、ロスが出でることから、
図8(a)に示されるように、発電電力が0.2ワットであり1個のLEDに必要な電力(0.5W)を得ることはできなかった。
【0049】
以上説明したように本実施形態の歯科ハンドピース用発電機40によれば、コイル44、44a、44bにAIW、又はPIWを使用することで、耐高温性能だけでなく、高圧蒸気滅菌処理においても、基準時間Tを超えて充分に性能を維持することができる。
これにより、歯科ハンドピース用発電機40の高圧蒸気滅菌処理を繰り返して使用できる回数を増やすことができる。
【0050】
更に、本実施形態では、コイル装着部材42と外装部材50とで形成される円筒状収容部内をシリコーン系の樹脂で充填することで、コイル装着部材42との密着性が向上し、コイル44、44a、44bを隙間無く包みこむことができる。
これにより、AIW又はPIWでコイル44、44a、44bを形成すると共に、充填材としてシリコーン樹脂を使用することで、コイルの永続的な劣化防止をすることができ、繰り返し高圧蒸気滅菌処理を行いながら歯科ハンドピース用発電機40を使用することが可能になる。
【0051】
以上、本発明の歯科ハンドピース用発電機40における各実施形態について説明したが、本発明は説明した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲において各種の変形を行うことが可能である。
例えば、説明した実施形態では、コイル44、44a、44bにAIW又はPIWを使用すると共に、充填材としてシリコーン樹脂を使用する場合について説明したが、何れか一方だけを採用するようにしてもよい。なお、シリコーン樹脂を充填しない場合には、エポキシ系樹脂等の他の耐熱性樹脂を充填することが好ましい。
【0052】
また、説明した実施形態では、インナーロータ型の歯科ハンドピース用発電機40について説明したが、アウターロータ型の歯科ハンドピース用発電機40としてもよい。この場合にもコイルとしてAIW又はPIWの使用、及び、シリコーン樹脂の充填の何れか一方、又は双方を採用する。シリコーン樹脂を充填しない場合には、エポキシ系樹脂等の耐熱性樹脂を充填することが好ましい。
なお、アウターロータ型の場合には、コイルと永久磁石間に、コイル又はコイルとヨークを収容する外筒を配置し、この外筒の内周面にコイルを密着又は近接配置する。そして、外筒内に樹脂を充填することで、樹脂と外筒によりコイルを包み込む。
【0053】
また第1実施形態で説明した円筒型コイル44を製作する場合の巻枠は、六角形に限定されるものではなく、多角形であれば良い。
更に、説明した第1実施形態では円筒型コイル44を使用する場合について説明したが、第2実施形態で説明した他の形式のコイルを使用するようにしてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、回転電機のうち歯科ハンドピース用発電機40について説明したが、歯科ハンドピースに限定されず、高圧蒸気滅菌処理の対象となる発電機に使用することも可能である。
【0055】
さらに発電機に限定されず、高圧蒸気滅菌処理の対象となるモータに使用することも可能である。この場合、例えば3相のコイルにAIW又はPIWを使用し、このコイルに交番電流を順次切り替えるように供給して、永久磁石を回転させるモータとして利用することも可能である。
モータは、インナーロータ型、アウターロータ型の何れも可能であるが、樹脂を充填する場合にはシリコーン系樹脂が好ましいが他の樹脂でもよい。
また、モータとする場合には、
図4、
図6で説明した発電用タービン羽根37、前段ハウジング39等は不要であり、
図1に示した軸受48、軸受保持部材54、軸46を採用する。
【0056】
また説明した実施形態では、2極の場合について説明したが、ステータ、ロータの極数はこれに限らず任意の極数とすることが可能である。
【0057】
また、説明した実施形態では、収容部内にシリコーン系樹脂を充填する場合について説明したが、コイルの材料としてAIWやPIWを使用していれば、充填すうる樹脂はシリコーン系樹脂ではなく、エポキシ系樹脂等の他の耐熱性樹脂を使用するようにしてもよい。
【0058】
また、説明した実施形態では、コイル装着部材42と外装部材50とで形成される円筒状の収容部全体にシリコーン系樹脂を充填する場合について説明したが、収容部内の全体ではなく、少なくともコイル装着部材42に固定されたコイルとその周縁を覆う範囲に樹脂を充填するようにしてもよい。この場合の樹脂としては、シリコーン系樹脂が好ましいが、エポキシ系樹脂であってもよい。
このように収容部内の全体に樹脂を充填しない場合、樹脂でコイルを覆うと共に、コイル装着部材42と外装部材50との接合部分を樹脂で覆うように充填することが好ましい。