(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記偏心軸は、一方が前記回動軸に対してワーク送り方向に偏心し、他方がワーク送り方向と直交する方向に偏心して配置されている請求項1に記載の搬送ワークのヨーイング補正機構。
薄膜太陽電池の基板を前記搬送ワークとしてワーク送り方向に送りながら所定位置にレーザビームでスクライブ線をパターンニング加工する工程の作業中に、前記ヨーイング補正を行って前記搬送ワークのパターンニング加工位置を補正するように構成した請求項4又は5に記載の搬送ワークのヨーイング補正方法。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な板状加工品等の製造工程において、加工対象物が搬送されている。特に、加工対象物を搬送しながら加工する場合には、その加工対象物(以下、「搬送ワーク」という)を正確な姿勢で搬送しなければならない。
【0003】
このような搬送ワークとして、例えば、薄膜シリコンやCIGS太陽電池(この明細書及び特許請求の範囲の書類中では、総称して「薄膜太陽電池」という)の基板がある。この基板は、ガラス基板の片面に金属膜やシリコン膜などの半導体を成膜(「deposition」又は「film formation」)して薄膜層(例えば、数百nm〜数十μm程度)を形成したものである。以下、搬送ワークの一例として、この薄膜太陽電池の基板を例に説明する。
【0004】
上記薄膜太陽電池の基板の製造工程は、例えば、
図12(a) 〜(g) に示すように、ガラス基板100(
図12(a) )の上面に透明電極層101を成膜し(
図12(b) )、その透明電極層101にレーザ加工装置からレーザビーム108を照射することでパターンニング加工がなされ、加工ライン102を形成させる(
図12(c) )。この透明電極層101に加工ライン102が形成された搬送ワーク107は、透明電極層101の上面に光電変換層103が成膜され(
図12(d) )、その光電変換層103にレーザ加工装置で光電変換層加工ライン104が形成される(
図12(e) )。その後、この光電変換層103に加工ライン104が形成された搬送ワーク107は、光電変換層103の上面に裏面電極層105が成膜される(
図12(f) )。そして、この裏面電極層105に、レーザ加工装置によって裏面電極層加工ライン106が形成される(
図12(g) )。このようパターンニング加工された基板100が、モジュール化された太陽電池となる。
【0005】
このように、薄膜太陽電池の場合、搬送ワーク(基板100)の表面に複数回の成膜を行い、それらの成膜した薄膜層に対して正確なパターンニングを行わなければならない。この精度としては、例えば、ミクロン単位での誤差制御が必要となる。そのため、搬送ワークを正確に搬送し、その薄膜層に対して正確にレーザビームを照射するレーザ加工装置が必要とされている。
【0006】
このようなレーザ加工装置として、例えば、本出願人が先に出願したレーザ加工装置がある。
図13に示すように、このレーザ加工装置110は、搬送ワーク107を定速送り装置111で把持してワーク送り方向Xに送りながら、その搬送ワーク107に対してビーム走査ユニット109から走査方向Yにレーザビーム108を照射してパターンニング加工を行うようになっている。上記定速送り装置111には、搬送するワーク107に生じるヨーイング等を補正できるように、平面方向の回動が可能な回動軸(θ軸)が設けられている。さらに、レーザ加工装置110には、搬送ワーク107の加工基準位置(端面等)を検出するカメラ113が設けられている。
【0007】
また、
図14に示すように、上記レーザ加工装置110では、搬送ワーク107をワーク送り方向Xに送りながら1本のレーザビーム108をワーク送り方向Xと交差する走査方向Yに高速(例えば、従来の数倍)照射することで、送り方向Xに対して直角の直線状加工ライン112を搬送ワーク107に形成するパターンニング加工が行えるようになっている。
【0008】
なお、この種の先行技術として、例えば、ガラス基板などと、その基板上に予め定められた処理を施す基板処理手段とを相対的に移動させながら処理を施す基板処理装置において、基板の走査中に生じるヨーイング等の誤差を第1方向とこの第1方向に対して垂直な第2方向とで測定し、第1方向の誤差は搬送を制御する補正手段で補正し、第2方向の誤差は測定した距離に基づいて基板処理手段で基板の所定位置に精度よく処理を施すことができるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、他の先行技術として、液晶ディスプレイ等の表示用パネル基板へ光ビームを照射して基板にパターンを描画するパネル基板の製造方法において、基板を保持して移動するステージの走行誤差を検出し、その結果に基づき描画データの座標を補正し、その描画データを光ビーム照射装置の駆動回路へ供給するようにしたものもある(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記特許文献1,2に記載されているように、搬送ワークは搬送中に水平面内で回転するヨーイング(この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「ヨーイング」は、「水平面内での回転、前後動」等の「誤差」を生じる動作をいう)を生じる場合がある。そのため、このヨーイングを生じた場合には、補正しなければ上記パターンニング加工などの品質が低下する。例えば、数十μmピッチのパターンニングを行う場合に、数μmのヨーイングを生じても隣接するパターンとの距離が変化し、製品の性能に影響する。
【0012】
しかしながら、上記特許文献1では、
図15(a) に示すように、基板120の両側方に設けたレール121に沿って搬送する基板120のX方向の誤差やヨーイング等をカメラを用いて検出し、その検出データから誤差を算出して基板処理手段の処理位置を補正しているが、この場合、基板処理手段の処理位置を精度よく補正するには時間を要する。しかも、このようにカメラを用いてヨーイング等を計測して基板処理手段の処理位置を補正する構成では、上記レーザ加工装置110のように高速でレーザビームを照射してパターンニング加工を行う装置では、その処理速度に対応できない。
【0013】
また、特許文献2では、
図15(b) に示すように、基板130を保持して移動するステージ131の走行誤差をX方向とY方向とで計測し、その計測結果に基づいて補正した描画データによって、光ビーム照射装置でパターンを描画するようにしているが、この場合、ステージの走行誤差に基づいて光ビーム照射装置によるパターンの描画を補正しているため、精度よく処理を施すには時間を要する。しかも、上記したようなレーザ加工装置110のように高速でレーザビームを照射してパターンニング加工を行う装置では、その処理速度に対応できない。
【0014】
このように、いずれの先行技術も、基板のヨーイング等に対する補正をレーザビームの照射位置等によって補正しているため、上記
図13に示す本出願人が先に出願したレーザ加工装置110により、
図14に示すように、搬送ワーク107をワーク送り方向Xに送りながらレーザビームを非常に高速で走査方向Yに照射してパターンニング加工を行う装置においては、レーザビームの位置補正を行うことができない。つまり、レーザビームを高速で照射するレーザ加工装置110の場合、搬送ワーク107のヨーイングを検出し、その補正をレーザビームの照射位置で補正する構成では対応することができない。
【0015】
また、上記レーザ加工装置110以外であっても、例えば、液晶ディスプレイ等に用いるフラットパネルやガラス基板を加工・検査する装置におけるワークの搬送のように、搬送ワークにヨーイング等が生じた場合に、その誤差をレーザビームではなく搬送ワークの位置制御で補正をしたい装置もある。
【0016】
そこで、本発明は、搬送ワークの搬送中に生じるヨーイングを搬送しながら補正できるヨーイング補正機構と、そのヨーイング補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明に係る搬送ワークのヨーイング補正機構は、
ワーク送り方向に搬送する搬送ワークのヨーイングを補正するヨーイング補正機構であって、前記搬送ワークの側部を保持する保持装置と、前記保持装置を支持し、レールに沿って前記保持装置をワーク送り方向に搬送する走行装置と、前記保持装置を前記走行装置のワーク送り方向前部及び後部で支持する支持機構と、を備え、前記支持機構は、前記保持装置又は走行装置のいずれかに設けた回動軸と、前記回動軸の軸線に対して所定の偏心量で前部又は後部の一方がワーク送り方向に偏心した位置で、他方がワーク送り方向と交差する方向に偏心した位置で前記回動軸と平行の軸線を具備する前記保持装置又は走行装置の他方に設けた偏心軸とを有し、前記搬送ワークのヨーイングを、前記偏心軸の軸線を前記回動軸の軸線を中心に回動させることで前記保持装置を前記走行装置に対して相対移動させて補正するように構成されている。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「軸線」は、「軸心」である。
【0018】
この構成により、走行装置のヨーイングや走行軸の直線精度の影響により保持装置で保持した搬送ワークに生じる回動・前後動等のヨーイングを、保持装置を前部と後部とで支持する支持機構における、回動軸の軸線に対して所定の偏心量でワーク送り方向に偏心した偏心軸と、所定の偏心量でワーク送り方向と交差する方向に偏心した偏心軸とを回動させることで、走行装置に対する保持装置の位置を相対移動させて補正し、搬送ワークのヨーイングを抑えた搬送ができる。
【0019】
また、前記偏心軸は、一方が前記回動軸に対してワーク送り方向に偏心し、他方がワーク送り方向と直交する方向に偏心して配置されていてもよい。
【0020】
このように構成すれば、搬送ワークに生じるヨーイングを、ワーク送り方向における誤差修正と、ワーク送り方向に対して直交する方向における誤差修正とに分けて安定したヨーイング補正を行うことができる。
【0021】
また、前記走行装置は、前記回動軸を回動させる駆動機を有し、前記保持装置は、前記偏心軸と係合する係合部を有し、前記駆動機は、予め測定した前記走行装置とレールとの間のワーク送り方向と直交する方向の偏心量に基づいて前記回動軸を回動させることで、前記偏心軸によって前記保持装置を前記走行装置に対して相対移動させて搬送ワークのヨーイングを補正するように構成されていてもよい。
【0022】
このように構成すれば、走行装置とレールとの間の誤差等によって走行装置にヨーイングを生じたとしても、搬送ワークは走行装置との相対位置調整によってヨーイングの影響を受けることなく、正確に搬送することができる。
【0023】
一方、本発明に係る搬送ワークのヨーイング補正方法は、ワーク送り方向に搬送する搬送ワークのヨーイングを補正するヨーイング補正方法であって、前記搬送ワークの搬送開始地点から搬送終了地点までのヨーイング量を求め、前記搬送ワークのヨーイング量に基づいて、前記搬送ワークを保持する保持装置又は前記保持装置をワーク送り方向に搬送する走行装置のいずれかに設けた回動軸に対して所定の偏心量でワーク送り方向に偏心して他方に設けた偏心軸を、前記回動軸を中心に回動させて行う搬送ワークのワーク送り方向と交差する方向の補正と、前記保持装置と走行装置とのいずれかに設けた回動軸に対して所定の偏心量でワーク送り方向と交差する方向に偏心して他方に設けた偏心軸を、前記回動軸の軸線を中心に回動させて行う搬送ワークのワーク送り方向の補正とで前記保持装置を前記走行装置に対して相対移動させて補正する。
【0024】
この構成により、搬送ワークを搬送開始地点から搬送終了地点まで送る間に生じるヨーイング量の変化を予め求めておき、そのヨーイング量の変化に基づいて搬送開始地点から搬送終了地点まで送る搬送ワークに対し、ワーク送り方向と交差する方向の補正と、ワーク送り方向の補正とを行って走行装置に対する保持装置の位置を相対移動させてヨーイングを補正するので、微少なヨーイング補正も正確に行うことができる。
【0025】
また、前記ワーク送り方向に偏心した偏心軸の軸線を前記回動軸の軸線に対して回動させてワーク送り方向と交差する方向の補正を行った後、前記ワーク送り方向と交差する方向に偏心した偏心軸の軸線を前記回動軸の軸線に対して回転させてワーク送り方向の補正を行うように構成してもよい。
【0026】
このように構成すれば、搬送ワークに生じるヨーイングによる角度の誤差を先に補正し、その角度の補正後のワーク送り方向の誤差を後で補正するので、搬送ワークのヨーイング補正を簡単な計算式で補正することができる。
【0027】
また、薄膜太陽電池の基板を前記搬送ワークとしてワーク送り方向に送りながら所定位置にレーザビームでスクライブ線をパターンニング加工する工程の作業中に、前記ヨーイング補正を行って前記搬送ワークのパターンニング加工位置を補正するように構成してもよい。
【0028】
このように構成すれば、薄膜太陽電池の基板を搬送ワークとしてレーザビームでスクライブ線をパターンニング加工するレーザ加工装置において、搬送ワークの搬送中に生じるヨーイングを正確に補正して、スクライブ線を正確に加工することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、搬送ワークの搬送中に生じる回動や前後動等のヨーイングを搬送中に補正できるヨーイング補正機構を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、搬送ワーク5として薄膜太陽電池などの基板を例にして説明する。また、ワーク送り方向Xに対し、このワーク送り方向Xと直交する方向をY方向として説明する。
【0032】
図1,2に示すように、この実施形態のヨーイング補正機構50を備えた搬送装置1は、2本のレール6に沿ってワーク送り方向Xに移動するように構成されている。搬送装置1には、上記レール6に沿って走行する走行装置2と、この走行装置2の上部に支持され、搬送ワーク5を保持して走行装置2と一体で移動する保持装置3とが設けられている。
【0033】
走行装置2には、下部の4個所に上記レール6に沿って摺動する走行ガイド11が下部に設けられた下部板10を有している。走行ガイド11は、前後各2個所で上記レール6に係合している。この実施形態の搬送装置1は、レール6と走行装置2との間に設けられたリニアステッピングモータ12によってワーク送り方向Xに正確に移動するように構成されている。
【0034】
保持装置3には、上記走行装置2の下部板10の上方に設けられた上部板20を有している。この上部板20には、保持部材21が設けられている。この例では3本の保持部材21が設けられ、これらの保持部材21の先端把持部22に搬送ワーク5が保持されている。
【0035】
また、保持装置3は、上記走行装置2の下部板10の上面に設けられた制限部材13によって水平方向の移動量が所定の移動範囲に制限された状態で走行装置2の上部に設けられている。制限部材13は、走行装置2の上面に固定された円柱状の部材であり、この例では4個所に設けられている。保持装置3の上部板20には、上記制限部材13を囲うようにスラストベアリング23が設けられている。これにより、保持装置3は、このスラストベアリング23と制限部材13との隙間sの範囲で水平方向の移動が可能となっている。さらに、保持装置3をスラストベアリング23を介して走行装置2の上部に支持することにより、保持装置3を非常に小さい摩擦抵抗で水平方向の移動が可能なように支持している。
【0036】
そして、上記走行装置2の上部で保持装置3を支持する支持機構30が、走行装置2の下部板10と保持装置3の上部板20との間に設けられている。支持機構30は、ワーク送り方向Xに後部支持機構31と前部支持機構32とが設けられている。これらの支持機構31,32は、走行装置2の下部板10に設けられた駆動モータ(サーボモータ)33と、保持装置3の上部板20に設けられた支持軸受34と、これらの間に設けられた偏心軸部材35とを有している。後部支持機構31及び前部支持機構32に設けられた偏心軸部材35は、以下に説明するように、それぞれの駆動モータ33の駆動軸(回動軸)36,37の軸線(軸心)O
1 ,O
2 で回動可能となっている。
【0037】
図3に基づいて、上記後部支持機構31を例に説明する。図示するように、上記駆動モータ33は、下部板10に設けられた駆動機取付板15から下向きに後部駆動軸36が突出するように設けられている。後部駆動軸36は回動軸であり、この後部駆動軸36に上記偏心軸部材35が設けられている。偏心軸部材35は、上記駆動機取付板15に設けられた軸受16によって支持されており、後部駆動軸36の軸線O
1 で回動自在となっている。
【0038】
また、偏心軸部材35は、上記駆動モータ33の後部駆動軸36の軸線(軸心)O
1 に対し、所定の偏心量eの軸線(軸心)O
3 を有する偏心軸38が下方に突設されている。そして、この偏心軸38が、上記保持装置3の上部板20に設けられた支持軸受34に挿入されている。
【0039】
従って、駆動モータ33を駆動して後部駆動軸36で偏心軸部材35を回動させることにより、偏心軸38は、上記軸線O
1 を中心に所定の偏心量eで偏心した位置で上部板20をワーク送り方向Xと交差する方向Yに移動させる。この移動は、上記前部支持機構32の駆動軸(回動軸)37の軸線O
2 を中心にした揺動である。これにより、走行装置2に対して保持装置3の後部を所定の偏心量eの分でワーク送り方向Xと交差する方向Yに相対移動させることができる。
【0040】
また、上記上部板20の後部を走行装置2に対して変位しない前部支持機構32の駆動軸(回動軸)37の軸線O
2 を中心に揺動させると、後部支持機構31の後部駆動軸36をワーク送り方向Xに僅かに移動させなければならない。そこで、
図4に示すように、上記偏心軸部材35の偏心軸38と、この偏心軸38を支持している支持軸受34とを支持するスライド部材40を上部板20の上面でワーク送り方向Xにスライド可能に設け、このスライド部材40を上部板20のスライドガイド41に沿ってワーク送り方向Xに移動自在とするスライド機構42を備えさせている。このスライド機構42により、偏心軸部材35によってワーク送り方向Xと直交する方向に上部板20が揺動させられた時に、上部板20の後部がワーク送り方向Xに移動してワーク送り方向Xの変位を吸収することができる。
【0041】
一方、
図5(a),(b) に示すように、上記偏心軸部材35の偏心軸38は、後部支持機構31と前部支持機構32とで、異なった方向に偏心している。
図5(b) が上記
図3と同じ後部支持機構31における偏心軸38であり、駆動モータ33の軸線O
1 (後部駆動軸36の軸線)に対し偏心軸38の軸線O
3 が、ワーク送り方向Xと平行に所定の偏心量eで偏心している。一方、
図5(a) は前部支持機構32における偏心軸38であり、駆動モータ33の軸線O
2 (前部駆動軸37の軸線)に対し偏心軸38の軸線O
3 が、ワーク送り方向Xに対して交差(直交)する方向Yに所定の偏心量eで偏心している。これらの偏心軸部材35における偏心量eとしては、例えば、1mm程度とすることで、微少なヨーイングを補正できるようにしている。この偏心量eは、ヨーイング量などに応じて設定すればよい。
【0042】
以下、
図6〜10を参照して、搬送ワーク5のヨーイング補正方法を説明する。搬送ワーク5に生じるヨーイングとしては、レール6(
図1)の敷設誤差や、各部の製作誤差などに起因して生じ、レール6に沿って走行する搬送装置1がヨーイングした場合に、その搬送装置1の保持装置3によって把持して搬送する搬送ワーク5のヨーイングを補正する例である。なお、以下の説明において、上記
図1〜5に示す構成には、同一の符号を付して説明する。また、ヨーイングによる数μm〜数百μmの誤差を、図では誇張して示す。
【0043】
図6に示すように、上記搬送装置1と搬送ワーク5との位置関係としては、
L
1 :搬送装置1の回動軸軸心位置から搬送ワーク5の第1誤差計測点までの距離、
L
2 :搬送装置1の回動軸軸心位置から搬送ワーク5の第2誤差計測点までの距離、
L
3 :搬送装置1の前部回動軸軸心と後部回動軸軸心との間の距離、
とする。
【0044】
そして、
図7,8に示すように、レール6に沿ってワーク送り方向Xに走行する搬送装置1は、レール6の敷設誤差等により搬送ワーク5にヨーイングを生じさせてしまう。例えば、このヨーイング(
図7では、反搬送装置1側がワーク送り方向Xに対して角度ずれをおこした状態を示している)としては、レール6の敷設誤差や、各部の製作誤差などに起因するもので、例えば、数μm〜数十μm程度の場合がある。
図8に示す各記号は、
ΔX
1 :第1誤差計測点でのワーク搬送誤差、
ΔX
2 :第2誤差計測点でのワーク搬送誤差、
α
0 :搬送装置1の角度、
e:偏心軸38の偏心量、
θ
1 :偏心軸38の回動角度、
とする。
【0045】
以上のような条件とすれば、搬送装置1の角度α
0 は、偏心軸38の偏心量e(例えば、約1mm)が前部駆動軸37と後部駆動軸36の間の距離L
3 に(例えば、約数百mm〜千数百mm)比べて非常に小さい。そのため、偏心量eは、e<<L
3 と考えることができ、搬送装置1の傾き角度α
0 におけるワーク送り方向の変位量は、以下の数式1となる。
【0046】
【数1】
そして、搬送ワーク5の角度αは、以下の数式2で求めることができる。
【0047】
【数2】
この数式2におけるθ
1 は微小であるため、上記e<<L
3 の関係から、搬送ワーク5の変位量tanαは、以下の数式3又は数式4と考えることができる。
【0049】
【数4】
この搬送ワーク5の変位量から、搬送ワーク5の第1誤差計測点までの距離L
1 でのワーク搬送誤差ΔX
1 は、以下の数式5で求めることができる。
【0050】
【数5】
また、第2誤差計測点までの距離L
2 でのワーク搬送誤差ΔX
2 は、以下の数式6で求めることができる。
【0051】
【数6】
そして、これらの誤差ΔX
1 ,ΔX
2 から、以下の数式7により、偏心軸部材35の位置における補正角度θ
1 を求めることができる。
【0052】
【数7】
このような補正を、搬送ワーク5の搬送距離(搬送装置1の移動距離)を複数に分割し、各分割ピッチの位置において上記誤差ΔX
1 ,ΔX
2 を予め計測し、上記数式7により、各分割ピッチの位置において補正する角度θ
1 を算出しておくことができる。各分割ピッチ位置における誤差ΔX
1 ,ΔX
2 の計測としては、搬送装置1によって搬送ワーク5を搬送し、その搬送距離の各分割ピッチ位置においてレーザ測長機(例えば、
図13:変位センサ等)で搬送ワーク5の変位を測定して誤差ΔX
1 ,ΔX
2 を計測することによって可能である。また、予めレーザ測長機によって誤差を測定することにより、レール6の間隔、走行ガイド11の位置、後部駆動軸(回動軸)36の軸線(軸心)O
1 位置、前部駆動軸(回動軸)37の軸線(軸心)O
2 位置等によって決まる補正角度θ
1 を、その搬送装置1の条件に応じて算出しておくことができる。
【0053】
従って、各分割ピッチ位置において角度θ
1 を補正することで、搬送ワーク5に生じるヨーイングの角度分を保持装置3と一体として補正することができる。具体的な補正は、後部支持機構31の駆動モータ33によって偏心軸部材35を回動させることで、偏心軸38を後部駆動軸(後部回動軸)36を中心に角度θ
1 で回動させる。これにより、保持装置3の上部板20が後部支持機構31の位置でワーク送り方向Xに対して直交する方向Yに所定量移動させられて、
図8に示すようにワーク送り方向Xにおける搬送ワーク5の傾き誤差を補正することができる。この時、後部支持機構31の後部駆動軸36の軸線(軸心)O
1 は、前部支持機構32の前部駆動軸37の軸線(軸心)O
2 に対して角度変化する分で距離L
3 が変化するが、スライド部材40がスライドガイド41に沿ってワーク送り方向Xにスライドして変位を吸収する。
【0054】
以上のような補正により、搬送ワーク5の傾きを補正することができる。しかし、搬送ワーク5には、
図9に示すように、ワーク送り方向(前後方向)Xに誤差が残る。この例では、
ΔX:第1誤差計測点及び第2誤差計測点でのワーク搬送誤差、
とする。他の記号は、上記記号と同一である。
【0055】
上記したように、偏心軸部材35の偏心量eが前部支持機構32の駆動軸(回動軸)36と後部支持機構31の駆動軸(回動軸)37の間の距離L
3 に比べて非常に小さい。そのため、偏心量eは、e<<L
3 と考えることができ、搬送装置1の傾き角度α
0 におけるワーク送り方向の変位量は、上述した数式1となる。
【0056】
そして、搬送装置1の前部支持機構32の前部駆動軸37の位置における補正角度θ
2 は、上記数式1より下記数式8で求めることができる。
【0057】
【数8】
また、この補正は、上記搬送ワーク5の搬送距離(搬送装置1の移動距離)を複数に分割した各分割ピッチ位置における誤差ΔX
1 ,ΔX
2 の計測結果に基づいて算出することが可能である。そのため、各分割ピッチ位置において誤差ΔXを予め求め、上記数式8により、各分割ピッチ位置において補正する角度θ
2 を算出しておくことができる。
【0058】
従って、各分割ピッチ位置において角度θ
2 で補正することで、搬送ワーク5に生じるヨーイングの前後動分を保持装置3と一体として補正することができる。具体的な補正は、前部支持機構32の駆動モータ33によって偏心軸部材35を回動させることで、偏心軸38を前部駆動軸(前部回動軸)37を中心に角度θ
2 で回動させる。これにより、保持装置3の上部板20が前部支持機構32の位置でワーク送り方向Xに所定量移動させられて、
図10に示すようにワーク送り方向Xにおける搬送ワーク5の前後方向誤差を補正することができる。この時、後部支持機構31は、スライド部材40がスライドガイド41に沿ってワーク送り方向Xにスライドして変位を吸収する。
【0059】
しかも、上記保持装置3を、後部駆動軸(回動軸)36の軸線(軸心)O
1 を中心に偏心軸38を回動させる補正と、前部駆動軸(回動軸)37の軸線(軸心)O
2 を中心に偏心軸38を回動させる補正とを連続的に行うことで、搬送距離内において搬送ワーク5に生じるヨーイングを迅速に補正することができる。
【0060】
また、上記角度θ
1 及び角度θ
2 の補正としては、上記搬送装置1の前部回動軸軸心と後部回動軸軸心との間の距離L
3 や、偏心軸38の偏心量e、搬送ワーク5の大きさ等によって、例えば、0.01°程度の微小角度の補正でも大きな効果を得ることができる。
【0061】
なお、上記実施形態では、角度θ
1 を補正した後、角度θ
2 を補正しているが、先に角度θ
2 を補正した後、角度θ
1 の補正を行うようにしてもよい。
【0062】
図11に示すように、上記補正を行った場合、第1誤差計測点までの距離L
1 においては、補正を行わなかった場合の太い二点鎖線に対して、補正を行った場合には細い二点鎖線となり、搬送ワーク5のヨーイングを安定して低減できることが分る。
【0063】
また、第2誤差計測点までの距離L
2 においては、補正を行わなかった場合の太い実線に対して、補正を行った場合には細い実線となり、例えば、数百μmの誤差を数μm程度に抑えることができ、搬送ワーク5のヨーイングを大幅に低減できることが分る。
【0064】
以上のように、上記ヨーイング補正機構50を備えた搬送装置1によれば、搬送ワーク5に生じるヨーイングを、搬送ワーク5の角度補正と、搬送ワーク5の前後方向補正とを行うことで補正し、搬送ワーク5に生じる微少なヨーイングを抑制して搬送することが可能となる。
【0065】
しかも、高速で搬送する搬送ワーク5に対して正確な加工を要する場合でも、ヨーイングを連続的に補正して安定した搬送ができるので、搬送ワーク5に対する種々の加工をより正確に行うことが可能となる。
【0066】
そのため、搬送ワーク5が上述した薄膜太陽電池の基板のような加工対象物に対し、レーザビームによって正確なパターンニング加工を高速で行うような装置の場合でも、そのパターンニング加工の精度を向上させることが可能となる。しかも、上述した
図16に示すように、何層ものパターンニング加工を行う場合でも、精度良くパターンニング加工を行うことができるので、加工対象物の品質向上を計ることができる。
【0067】
なお、上記実施形態では、薄膜太陽電池の基板を搬送ワーク5の一例として説明したが、金属製薄板、パネル等の板状の搬送ワーク5であれば同様にヨーイングの補正を行うことができ、搬送ワーク5は上記実施形態に限定されるものではない。
【0068】
また、上記実施形態では、搬送装置1の後部でワーク送り方向Xと交差する方向Yの補正を行い、前部でワーク送り方向Xの補正を行っているが、搬送装置1の前部及び後部で上記実施形態とは反対の補正を行うようにしてもよく、上記実施形態に限定されるものではない。
【0069】
さらに、上記実施形態における搬送装置1の走行装置2と保持装置3との位置関係なども、上記実施形態に限定されるものではなく、保持装置3が下方に位置するように構成してもよい。
【0070】
また、上述した実施形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。