【実施例1】
【0024】
まず、実施例1に係るフィルタに用いられる圧電薄膜共振子の例について説明する。
図1(a)は、圧電薄膜共振子の上面図の例であり、
図1(b)は、
図1(a)のA−A断面図の例である。
図1(a)及び
図1(b)のように、圧電薄膜共振子10は、FBARタイプであり、主に基板12、下部電極14、圧電膜16、上部電極18、第1端子電極20、第2端子電極22、及び付加膜24を有している。
【0025】
基板12は、例えばシリコン(Si)基板やガラス基板等である。基板12上に、下部電極14と、下部電極14に接続された第1端子電極20と、が設けられている。第1端子電極20は外部との電気的接続に用いられる。下部電極14は楕円形状を有していて、その楕円形状を長軸で二分した一方側に、第1端子電極20が接続されている。
図1(a)においては、下部電極14の輪郭の一部を破線で表している。下部電極14上に、圧電膜16が設けられている。圧電膜16は、下部電極14上から第1端子電極20とは反対側に延在して設けられている。
【0026】
圧電膜16上に、上部電極18と、上部電極18に接続された第2端子電極22と、が設けられている。第2端子電極22は外部との電気的接続に用いられる。上部電極18は楕円形状を有していて、その楕円形状を長軸で二分した一方側に、第2端子電極22が接続されている。圧電膜16と、上部電極18及び第2端子電極22とは、ほぼ同じ形状をしている。下部電極14と上部電極18とは圧電膜16を挟んで対向する部分を有する。この部分は、弾性波が共振する部分(以下、共振領域26と称す)であり、それ以外の部分は弾性波が共振しない部分(以下、非共振領域28と称す)である。下部電極14と上部電極18とが圧電膜16を挟んで重なる部分は楕円形状であるので、共振領域26も楕円形状をしている。なお、共振領域26は、楕円形状以外の他の形状であってもよい。
【0027】
基板12には、共振領域26を含むような開口を有する空隙30が設けられている。空隙30は、基板12の裏面から、例えばフッ素系ガスを用いてドライエッチングを行うことにより形成することができる。
【0028】
下部電極14と第1端子電極20とは、例えば蒸着法及びリフトオフ法を用いて、同時に形成することができる。このため、下部電極14及び第1端子電極20の端部は、基板12の上面に対して傾斜している。同様に、上部電極18と第2端子電極22とについても、例えば蒸着法及びリフトオフ法を用いて、同時に形成することができる。このため、上部電極18及び第2端子電極22の端部も、基板12の上面に対して傾斜している。圧電膜16は、例えば製膜した後にウエットエッチングすることで形成することができる。このため、圧電膜16の端部も、基板12の上面に対して傾斜している。
図1(a)においては、圧電膜16の傾斜部の上端を一点鎖線で表している。
【0029】
第2端子電極22上に、付加膜24が設けられている。付加膜24は、第2端子電極22上から下部電極14の傾斜部15上に位置する上部電極18の傾斜部19を越え、上部電極18の平坦部にまで延在して設けられている。ここで、下部電極14の傾斜部15と上部電極18及び付加膜24とが重なる領域を領域32とし、それよりも共振領域26の内側で下部電極14と上部電極18及び付加膜24とが重なる領域を領域34とする。つまり、共振領域26のうち領域32と領域34とを合わせた部分は、下部電極14、圧電膜16、上部電極18、及び付加膜24が積層された積層膜を有する。共振領域26の他の部分(例えば、共振領域26の中央部等の内側部分)は、下部電極14、圧電膜16、及び上部電極18が積層された積層膜を有する。このように、領域32と領域34とを合わせた部分は、共振領域26の中で他の部分と比べて厚い積層膜を有する部分となる。この部分を厚膜部36と称すこととする。つまり、共振領域26の外周部の一部は、付加膜24が設けられることで、内側部分よりも積層膜が厚い厚膜部36が形成されている。また、この厚膜部36の共振領域26の縁からの長さをLとする。
【0030】
ここで、発明者が行った実験について説明する。発明者は、
図1(a)及び
図1(b)に示す構造で、約2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振子を作製した。作製した圧電薄膜共振子は、基板12にSi基板を用い、下部電極14及び第1端子電極20は膜厚330nmのRuで形成した。圧電膜16は膜厚1050nmのAlNで形成し、上部電極18及び第2端子電極22は、圧電膜16側から膜厚320nmのRuと膜厚20nmのクロム(Cr)とを積層させて形成した。付加膜24は、第2端子電極22側から膜厚100nmのチタン(Ti)と膜厚500nmの金(Au)とを積層させて形成した。付加膜24以外の領域に、膜厚50nmの酸化シリコン膜(不図示)を形成した。下部電極14と上部電極18とが対向する共振領域26は、長軸が210μmで短軸が115μmの楕円形状とした。
【0031】
上記の構造を有し、厚膜部36の長さLを変えた複数の圧電薄膜共振子を作製し、厚膜部36の長さLと実効的電気機械結合係数K
2effとの関係を調べた。
図2は、厚膜部36の長さLと実効的電気機械結合係数K
2effとの関係の測定結果である。
図2のように、厚膜部36の長さLが長くなるほど、K
2effは単調に減少する結果が得られた。また、厚膜部36の長さLを変えても共振特性のQ値はほぼ一定であった。
【0032】
厚膜部36の長さLが長くなるほど、K
2effが減少するのは以下の理由によるものと考えられる。即ち、厚膜部36では共振振動が抑制される。この影響を
図3に示す等価回路図を用いて説明する。
図3のように、厚膜部36を有さない場合の圧電薄膜共振子の等価回路は、端子38間に抵抗Rs、インダクタL
1、キャパシタC
1、及び抵抗R
1が直列に接続され、インダクタL
1、キャパシタC
1、及び抵抗R
1に対して並列にキャパシタC
0及び抵抗R
0が接続された構成で表すことができる。厚膜部36を設けると、キャパシタCaがさらに並列に接続されたような構成となる。厚膜部36の長さLの増加に伴い、共振振動が抑制される領域が増加するため、キャパシタCaが増加することになる。キャパシタCaが増加すると、反共振周波数が低下するため、K
2effは減少する。したがって、このような理由から、厚膜部36の長さLの増加に伴い、K
2effは減少するものと考えられる。
【0033】
このように、発明者は、厚膜部36の長さLを変えることで、K
2effを制御できるという新たな知見を見出した。特許文献1では共振領域の積層膜の厚さでK
2effを制御するため、製造工程が複雑となるが、実施例1では厚膜部36の長さLでK
2effを制御するため、製造工程が増えることなく、容易にK
2effを制御することができる。また、厚膜部36の長さLの増加に伴って、K
2effは単調減少するため、K
2effを連続的に細かく制御することができる。これにより、複数の圧電薄膜共振子を備えたフィルタにおいて、圧電薄膜共振子毎に厚膜部36の長さLを調整することで、圧電薄膜共振子毎にK
2effを容易且つ精度良く制御することができる。
【0034】
空隙30は、
図1(b)のように、基板12を貫通する場合の他に、
図4(a)及び
図4(b)に示す場合でもよい。
図4(a)は、第1の変形例に係る圧電薄膜共振子の断面図の例であり、
図4(b)は、第2の変形例に係る圧電薄膜共振子の断面図の例である。
図4(a)及び
図4(b)においては、空隙以外のその他の構成については、
図1(b)と同じである。
図4(a)のように、空隙30aが、基板12の上面と下部電極14との間に設けられる場合でもよい。
図4(b)のように、空隙30bが、下部電極14下の基板12の一部を除去して設けられる場合でもよい。空隙30a及び空隙30bは、犠牲層を利用した製造工程を実施し、最後にこの犠牲層をウエットエッチング等で除去することによって形成することができる。
【0035】
また、圧電薄膜共振子はFBARタイプの場合に限らず、SMRタイプの場合でもよい。
図4(c)は、第3の変形例に係る圧電薄膜共振子の断面図の例である。
図4(c)のように、SMRタイプの圧電薄膜共振子は、空隙30の代わりに、音響インピーダンスが高い膜40と低い膜42とをλ/4(λは弾性波の波長)の膜厚で交互に積層した音響反射膜44が設けられている。その他の構成は
図1(b)と同じである。
【0036】
付加膜24は、第2端子電極22上に設けられていない場合でも良く、例えば
図5(a)から
図6(b)に示す位置に設けられる場合でもよい。
図5(a)は、第4の変形例に係る圧電薄膜共振子の上面図の例であり、
図5(b)は、
図5(a)のA−A断面図の例である。
図6(a)は、第5の変形例に係る圧電薄膜共振子の上面図の例であり、
図6(b)は、
図6(a)のA−A断面図の例である。
図5(a)から
図6(b)においては、付加膜以外のその他の構成については、
図1(a)及び
図1(b)と同じである。
図5(a)及び
図5(b)のように、付加膜24aが、上部電極18の傾斜部19にのみ設けられている場合でもよい。
図6(a)及び
図6(b)のように、付加膜24bが、上部電極18の傾斜部19とその内側の平坦部とに設けられている場合でもよい。このように、付加膜は、共振領域26の外周部に設けられている場合であればよい。
【0037】
図1(a)及び
図1(b)並びに
図5(a)から
図6(b)では、圧電膜16は共振領域26から第2端子電極22下にのみ延在して設けられ、第1端子電極20側等では上部電極18が庇のごとく突出した形状となっている。つまり、
図1(a)及び
図1(b)のように、範囲W2においては、圧電膜16の端部は下部電極14と上部電極18との間に位置し、上部電極18が庇のように突出している。これにより、範囲W2において、弾性波が共振領域26から非共振領域28に漏洩することを抑制できる。また、このような場合に、範囲W1で、共振領域26の外周部に厚膜部36を形成することにより、範囲W1において、弾性波が共振領域26から非共振領域28に漏洩することを抑制できる。これにより、共振特性のQ値を向上させることができる。
【0038】
なお、圧電膜16は、上部電極18が庇のごとく突出するように設けられている場合に限られず、第2端子電極22下以外の領域にも共振領域26から外側に延在して設けられている場合でもよい。また、付加膜は、共振領域26の外周部の一部に設けられている場合に限られず、外周部の全周に渡って設けられている場合でもよい。
【0039】
図7(a)は、第6の変形例に係る圧電薄膜共振子の上面図の例であり、
図7(b)は、
図7(a)のA−A断面図の例である。
図7(a)及び
図7(b)のように、圧電膜16aは、共振領域26から第1端子電極20上及び第2端子電極22下に延在して設けられている。付加膜24cは、上部電極18上を共振領域26の外周部の全周に渡って設けられている。空隙30bは、下部電極14下の基板12の一部を除去して設けられている。その他の構成については、
図1(a)及び
図1(b)と同じである。
【0040】
付加膜24cによって厚膜部36が共振領域26の外周部の全周に渡って形成されている場合でも、厚膜部36の長さLを変えることで、K
2effを制御することができる。また、圧電膜16aが共振領域26の全周に渡って共振領域26から外側に延在して設けられている場合は、弾性波が共振領域26から非共振領域28に漏洩することを抑制して共振特性のQ値を向上させるために、共振領域26の外周部の全周に渡って厚膜部36が形成される場合が好ましい。このように、厚膜部36は、共振領域26の外周部のうち、圧電膜16が共振領域26から共振領域26の外側に引き出される領域に設けられている場合が好ましい。これにより、弾性波が共振領域26から非共振領域28に漏洩することを抑制でき、共振特性のQ値を向上させることができる。
【0041】
したがって、
図1(a)及び
図1(b)並びに
図5(a)から
図7(b)のように、厚膜部36を共振領域26の外周部の少なくとも一部に設けることで、共振特性のQ値を向上させることが可能となる。
【0042】
なお、付加膜は、上部電極18上に設けられる場合に限られず、上部電極18と圧電膜16との間、下部電極14と圧電膜16との間、及び下部電極14下のいずれかに設けられている場合でもよい。また、付加膜を設ける代わりに、下部電極14、圧電膜16、及び上部電極18の少なくとも一つを、共振領域26の外周部で内側部分よりも厚くすることで、共振領域26の外周部に厚膜部36を形成するようにしてもよい。
【0043】
ここで、上部電極18を厚くすることで、共振領域26の外周部に厚膜部36を形成する場合の例を説明する。
図8は、第7の変形例に係る圧電薄膜共振子の断面図の例である。
図8のように、上部電極18aは、共振領域26の外周部で内側部分よりも厚くなっている。このように、共振領域26の外周部の上部電極18aを厚くすることで、共振領域26の外周部に厚膜部36を形成する場合でも、厚膜部36の長さLを変えることで、K
2effを制御することができる。
【0044】
図1(a)及び
図1(b)のように、厚膜部36は上部電極18上に設けた付加膜24により形成され、付加膜24は第2端子電極22上に延在して設けられている場合が好ましい。これにより、付加膜24をフリップチップ実装のためのバンプ形成用の下地に用いることが可能となる。この場合、付加膜24は、TiとAuとの積層膜である場合が好ましい。
【0045】
実施例1に係るフィルタを構成する圧電薄膜共振子として、
図1(a)、
図1(b)及び
図4(a)から
図8で説明した圧電薄膜共振子の少なくとも1つを用いることができる。
【0046】
図9は、実施例1に係るフィルタを送信用フィルタに用いたデュプレクサの回路図の例である。
図9のように、デュプレクサ50は、アンテナ端子Antと送信端子Txとの間に送信用フィルタ52が接続され、アンテナ端子Antと受信端子Rxとの間に受信用フィルタ54が接続されている。アンテナ端子Antとグランドとの間にはインダクタL
2が接続されている。送信用フィルタ52は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号としてアンテナ端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信用フィルタ54は、アンテナ端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。インダクタL
2は整合用に用いられ、送信用フィルタ52を通過した送信信号が、受信用フィルタ54側に漏れずアンテナ端子Antから出力するようにインピーダンスを整合させる。
【0047】
デュプレクサ50は、例えばW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)方式におけるBand25(送信帯域:1850〜1915MHz、受信帯域:1930〜1995MHz)用である。送信用フィルタ52及び受信用フィルタ54は共に、複数の圧電薄膜共振子が直列共振子及び並列共振子としてラダー型に接続されたラダー型フィルタである。以下においては、送信用フィルタ52について説明する。
【0048】
送信用フィルタ52は、直列共振子S1〜S4と並列共振子P1〜P3とを備えている。並列共振子P1〜P3のグランドは共通化されていて、並列共振子P1〜P3とグランドとの間にインダクタL
3が接続されている。直列共振子S1〜S4と並列共振子P1〜P3とは、
図4(b)に示した構造を有する圧電薄膜共振子である。
【0049】
図10(a)は、送信用フィルタ52の上面図の例であり、
図10(b)は、
図10(a)のA−A断面図の例である。
図10(a)及び
図10(b)のように、直列共振子S1〜S4と並列共振子P1〜P3とは、同じ基板12上に形成されている。基板12は、Si基板である。
【0050】
直列共振子S1〜S4は、基板12上に、基板12側から膜厚100nmのCrと膜厚230nmのRuとが積層された下部電極14と第1端子電極20とが設けられている。下部電極14上に、膜厚1300nmのAlNからなる圧電膜16が設けられている。圧電膜16上に、圧電膜16側から膜厚230nmのRuと膜厚30nmのCrとが積層された上部電極18と第2端子電極22とが設けられている。
【0051】
並列共振子P1〜P3は、基板12上に、基板12側から膜厚100nmのCrと膜厚230nmのRuとが積層された下部電極14と第1端子電極20とが設けられている。下部電極14上に、膜厚1300nmのAlNからなる圧電膜16が設けられている。圧電膜16上に、圧電膜16側から膜厚230nmのRuと膜厚135nmのTiと膜厚30nmのCrとが積層された上部電極18と第2端子電極22とが設けられている。
【0052】
直列共振子S1〜S4と並列共振子P1〜P3とに共通して、下部電極14と上部電極18とが圧電膜16を挟んで対向する共振領域26下に、基板12が一部除去された空隙30bが設けられている。第2端子電極22上には、共振領域26の外周部まで延在して付加膜24が設けられている。付加膜24は、第2端子電極22側から膜厚100nmのTiと膜厚500nmのAuとが積層された膜である。このような付加膜24が設けられることで、共振領域26の外周部の一部には厚膜部36が形成されている。また、膜厚50nmの酸化シリコン膜(不図示)が付加膜24以外の部分に設けられている。直列共振子S1〜S4と並列共振子P1〜P3とにおける厚膜部36の長さLは、表1の通りである。
【表1】
【0053】
ここで、送信用フィルタ52の通過特性について説明する。
図11は、送信用フィルタ52の通過帯域の高周波側での通過特性を示す図である。また、
図11において、比較のために、比較例1に係るフィルタの通過特性についても示している。比較例1に係るフィルタは、付加膜24が共振領域26上にまで延びておらず、付加膜24の端部は共振領域26の端から第2端子電極22側に5μm離れて設けられている。その他の構成については、送信用フィルタ52と同じである。
図11のように、−1.5dB〜−48dBの遷移幅について、送信用フィルタ52は11.0MHzであったのに対し、比較例1は12.3MHzであった。このように、送信用フィルタ52は、比較例1に比べて、1.3MHzほどスカート特性が改善している。
【0054】
ラダー型フィルタでは、直列共振子は通過帯域の高周波側のスカート特性に寄与し、並列共振子は低周波側のスカート特性に寄与する。つまり、直列共振子のK
2effを小さくすることで、高周波側のスカート特性を急峻にすることができ、並列共振子のK
2effを小さくすることで、低周波側のスカート特性を急峻にすることができる。送信用フィルタ52では、表1のように、直列共振子の厚膜部36の長さLを長くして、直列共振子のK
2effを小さくしている。これにより、
図11のように、通過帯域の高周波側のスカート特性が急峻になっている。
【0055】
表1のように、送信用フィルタ52は、複数の圧電薄膜共振子(直列共振子S1〜S4及び並列共振子P1〜P3)のうち少なくとも2つの圧電薄膜共振子間で、厚膜部36の長さLが異なる。これにより、
図2で説明したように、圧電薄膜共振子毎にK
2effを容易且つ精度良く制御することができる。このように、圧電薄膜共振子毎にK
2effを制御できるため、圧電薄膜共振子毎のK
2effを適切することで、
図11で説明したように、フィルタのスカート特性を急峻にすることができる。
【0056】
また、上述したように、ラダー型フィルタでは、直列共振子の厚膜部36の長さLを長くすることで、通過帯域の高周波側のスカート特性を急峻にすることができ、並列共振子の厚膜部36の長さLを長くすることで、低周波側のスカート特性を急峻にすることができる。つまり、通過帯域の高周波側及び低周波側の少なくとも一方のスカート特性を急峻にするためには、直列共振子及び並列共振子の少なくとも一方の厚膜部36の長さLを長くすることになり、直列共振子と並列共振子とで厚膜部36の長さLが異なることになる。なお、直列共振子と並列共振子とで厚膜部36の長さLが異なるとは、厚膜部36の長さLの平均値が異なる場合や最大値が異なる場合等のことをいう。
【0057】
特に、通過帯域の高周波側のスカート特性をより改善するには、複数の直列共振子の中で厚膜部36の長さLを異ならせて、直列共振子毎にK
2effを制御する場合が好ましい。低周波側のスカート特性をより改善するには、複数の並列共振子の中で厚膜部36の長さLを異ならせて、並列共振子毎にK
2effを制御する場合が好ましい。したがって、複数設けられた直列共振子及び並列共振子の少なくとも一方の中で、厚膜部36の長さLを異ならせることで、通過帯域の高周波側及び低周波側の少なくとも一方のスカート特性をより急峻にすることができる。また、このように直列共振子の中及び並列共振子の中で厚膜部36の長さLを異ならせることで、通過帯域の広帯域化を図ることもできる。
【0058】
なお、直列共振子同士では厚膜部36の長さLを同じにし、並列共振子同士では厚膜部36の長さLを同じにしつつ、直列共振子の厚膜部36の長さLと並列共振子の厚膜部36の長さLとを調整して、直列共振子及び並列共振子のK
2effを制御する場合でもよい。この場合でも、通過帯域の高周波側及び低周波側の少なくとも一方のスカート特性を改善することができる。
【0059】
直列共振子と並列共振子とのK
2effを共に小さくすることで、高周波側のスカート特性も低周波側のスカート特性も急峻にできるが、この場合、通過帯域が狭くなってしまう。つまり、スカート特性の急峻化と通過帯域の広帯域化とはトレードオフの関係にある。この点は、通過帯域が狭帯域である場合には都合がよい。しかしながら、例えばW−CDMA方式におけるバンド25(送信帯域:1850〜1915MHz、受信帯域:1930〜1995MHz)やバンド3(送信帯域:1710〜1785MHz、受信帯域:1805〜1880MHz)は、送信帯域及び受信帯域が比較的広帯域である。このため、直列共振子と並列共振子とのK
2effを共に小さくすると、送信帯域及び受信帯域を確保するのが難しくなる。
【0060】
デュプレクサを構成する送信用フィルタ及び受信用フィルタにおいては、ガードバンド側のスカート特性を急峻にすることが望まれている。したがって、急峻性が求められるガードバンド側のスカート特性に寄与する直列共振子又は並列共振子をK
2effの比較的小さな共振子で形成し、ガードバンドと反対側のスカート特性に寄与する直列共振子又は並列共振子を、通過帯域の広帯域化のために、K
2effを比較的大きな共振子で形成することが好ましい。このため、送信用フィルタ52では、ガードバンド側である高周波側のスカート特性を急峻にするため、直列共振子の厚膜部36の長さLを長くして、直列共振子のK
2effを比較的小さくしている。一方、並列共振子は、通過帯域の広帯域化のために、厚膜部36の長さLを余り長くせずに、並列共振子のK
2effを比較的大きくしている。
【0061】
図9から
図11では、実施例1に係るフィルタを送信用フィルタ52に用いた場合を説明したが、送信用フィルタ52及び受信用フィルタ54の少なくとも一方に用いることができる。受信用フィルタ54ではガードバンド側である低周波側のスカート特性を急峻にすることが望まれる。このため、受信用フィルタ54に用いた場合、並列共振子の厚膜部36の長さLを長くして、低周波側のスカート特性を急峻にし、直列共振子の厚膜部36の長さLは余り長くせずに、通過帯域の広帯域化を図ることが望ましい。
【0062】
このように、デュプレクサにおいては、直列共振子及び並列共振子のうちガードバンド側のスカート特性に寄与する一方の共振子の厚膜部36の長さLを、他方の共振子よりも長くする場合が好ましい。これにより、通過帯域の広帯域化と、ガードバンド側のスカート特性の急峻化と、を図ることができる。なお、一方の共振子の厚膜部36の長さLが他方の共振子より長いとは、厚膜部36の長さLの平均値が長い場合や最大値が長い場合等のことをいう。
【0063】
また、複数設けられた直列共振子及び並列共振子のうちガードバンド側のスカート特性に寄与する共振子の中で、厚膜部36の長さLを異ならせることがより好ましい。これにより、通過帯域の更なる広帯域化と、ガードバンド側のスカート特性の更なる急峻化と、を図ることができる。
【0064】
下部電極、第1端子電極、上部電極、及び第2端子電極は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、及びイリジウム(Ir)等を含む金属膜やそれらの積層膜を用いることができる。また、付加膜は、Ti、Auの積層膜以外にも、他の材料による単層膜又は積層膜を用いることができる。
【0065】
圧電膜としては、例えばAlNを用いることで、高Q値の圧電膜を安定して形成することができる。また、K
2effを大きくするために、例えばスカンジウム(Sc)等の元素をAlNに添加し、圧電膜の圧電定数を増加させてもよい。これにより、通過帯域の広帯域化を図ることができる。この場合、圧電膜は、AlNが主成分となることが望ましい。ここで、「主成分」とは、AlNが圧電薄膜共振子の圧電膜として機能する程度に元素を含むことであり、例えばAlNに元素Mが添加されてM
XAl
1−XNとなる場合において、X<0.5である場合をいう。なお、圧電膜としては、他にも酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO
3)等の圧電材を用いることができる。
【0066】
実施例1では、下部電極、圧電膜、上部電極の端部が傾斜している場合を例に説明したが、傾斜せずに、垂直になっている場合でもよい。また、実施例1に係るフィルタはデュプレクサに用いられる場合に限らず、その他の用途に用いられる場合でもよい。
【0067】
また、実施例1では、直列共振子及び並列共振子が共に複数設けられたラダー型フィルタの場合を説明したが、直列共振子及び並列共振子の少なくとも一方が複数設けられている場合でもよい。さらに、実施例1に係るフィルタは、ラダー型フィルタの場合の他にも、例えばラティス型フィルタ等、複数の圧電薄膜共振子を備えるフィルタの場合であればよい。また、ディプレクサは、W−CDMA方式におけるBand25用以外の場合でもよい。
【0068】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。