特許第5918531号(P5918531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5918531コンドーム用潤滑剤、及びこれを塗布したコンドーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918531
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】コンドーム用潤滑剤、及びこれを塗布したコンドーム
(51)【国際特許分類】
   A61F 6/04 20060101AFI20160428BHJP
   C10M 107/34 20060101ALI20160428BHJP
   C10M 159/02 20060101ALI20160428BHJP
   C10M 173/02 20060101ALI20160428BHJP
   A61K 9/06 20060101ALN20160428BHJP
   A61K 47/10 20060101ALN20160428BHJP
   A61K 47/38 20060101ALN20160428BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20160428BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20160428BHJP
【FI】
   A61F6/04
   C10M107/34
   C10M159/02
   C10M173/02
   !A61K9/06
   !A61K47/10
   !A61K47/38
   C10N30:00 A
   C10N40:00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-290400(P2011-290400)
(22)【出願日】2011年12月29日
(65)【公開番号】特開2013-138754(P2013-138754A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】392025939
【氏名又は名称】中島化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】中島 俊之
(72)【発明者】
【氏名】田中 寿生
(72)【発明者】
【氏名】柳井 佑樹
【審査官】 今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−093283(JP,A)
【文献】 特開2002−102267(JP,A)
【文献】 特開平07−145063(JP,A)
【文献】 特表2008−531497(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0012132(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 6/04
C10M 107/34
C10M 159/02
C10M 173/02
A61K 9/06
A61K 47/10
A61K 47/38
C10N 30/00
C10N 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤である親水性潤滑剤としてのプロピレングリコールと、助剤であるぬめり付与剤としてのヒドロキシプロピルセルロースとの2成分のみで構成され、質量比でプロピレングリコール:ヒドロキシプロピルセルロース=99.99:0.01〜99.80:0.20であり、水を含まないことを特徴とするコンドーム用潤滑剤。
【請求項2】
請求項1に記載のコンドーム用潤滑剤を塗布したことを特徴とするコンドーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンドーム用潤滑剤、及び該コンドーム用潤滑剤を塗布したコンドームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンドーム用潤滑剤としてはシリコーンオイルが一般に用いられてきた。シリコーンオイルは表面張力が低いため、巻き上げられた状態のコンドームへ滴下した際、コンドームの根元まで侵入でき、つまり侵入性に優れている。このため、ゴム同士の防着効果が高いという利点がある。さらに単一成分で完全な無水系であるため、刺激等の人体に悪影響を及ぼす原因となり得る防腐剤や界面活性剤の添加が不要であると共に、コンドームの劣化(白化)のおそれがなく、また製造工程が簡素化できるため、その工程管理および品質管理が極めて容易であるという利点もある。
【0003】
しかしながら、一方でシリコーンオイルは、ぬめり性を持たないため膣挿入時の潤滑性能に劣るという大きな問題点を抱えている。また、シリコーンオイルは撥水性であり、肌や衣服に付着した際、水によって洗い流すことが困難であり、つまり洗浄性が劣るという欠点もある。このため、シリコーンオイルからなるコンドーム用潤滑剤の欠点を解決しようとする構成がいくつか提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
特許文献1には、上記したシリコーンオイルで構成されるコンドーム用潤滑剤の欠点を解決すべく、シリコーンオイルと、界面活性剤とにより構成される乳化物を水性ゲル内に保持した潤滑剤が開示されている。かかる構成は、水溶性であるため、水による洗い流しが容易であり、適度なぬめり性も併せ持っている。
【0005】
また、特許文献2には、プロピレングリコールおよびグリセリンの混合物と、非イオン界面活性剤と、増粘剤と、防腐剤とを含む増粘展延性昇温潤滑剤が開示されている。ここで、かかる構成は水溶性であるため、水による洗い流しが容易である。また、粘度調整剤としてカーボポール971を使用して、増粘を実現しているものの、この増粘により、コンドームの巻き上げ部への侵入性が低下するため、界面活性剤を配合してこれを解決しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3930240号公報
【特許文献2】特表2008−531497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の、シリコーンオイルと、界面活性剤とにより構成される乳化物を水性ゲル内に保持した潤滑剤は、水および界面活性剤を混合した後シリコーンオイルを加えることで乳化を行ない、これとは別にゲル化剤に水を加えてゲルを調製し、該ゲルと該乳化物とを混合する、という非常に手間のかかる方法で製造されるものである。更に該乳化物を該ゲル中に均一に分散させなければならず、製造に係わる工程管理が複雑化し、また多くの成分からなるため、その品質管理が煩雑化するという問題点がある。さらに、成分中に水を含むため、防腐剤の添加が必須となり、上記のように安全性の面で好ましくない。このように、ぬめり性に劣り、水で洗い流しにくいというシリコーンオイルの欠点を解決しようとしているものの、上記したシリコーンオイルからなる潤滑剤の利点、すなわち工程管理、品質管理の容易性、及び安全性が犠牲となってしまっている。
【0008】
また、特許文献2の、多価アルコールおよびグリセリンの混合物と、非イオン界面活性剤と、増粘剤と、防腐剤とを含む増粘展延性昇温潤滑剤においては、多成分配合となるため、特許文献1と同様、工程管理の複雑化および品質管理の煩雑化に問題がある。また、界面活性剤および防腐剤が含まれるため、それらによる刺激等の懸念があり、安全性の面で好ましくない。このように、かかる構成も、水で洗い流しにくいというシリコーンオイルの欠点を解決しようとしているものの、上記と同様に、シリコーンオイルからなる潤滑剤の利点、すなわち工程管理、品質管理の容易性、及び安全性が犠牲となってしまっている。
【0009】
そこで、本発明は、シリコーンオイルの利点である侵入性、安全性に優れ、かつ、製造に係わる工程管理、及び品質管理が容易であり、加えて、ぬめり性が付与され、洗浄性に優れるといったシリコーンオイルの欠点までも解決できるコンドーム用潤滑剤、及びこれを塗布したコンドームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、主剤である親水性潤滑剤としてのプロピレングリコールと、助剤であるぬめり付与剤としてのヒドロキシプロピルセルロースとの2成分のみで構成され、質量比でプロピレングリコール:ヒドロキシプロピルセルロース=99.99:0.01〜99.80:0.20であり、水を含まないことを特徴とするコンドーム用潤滑剤である。
【0011】
前記コンドーム用潤滑剤は、親水性潤滑剤を主剤とするため、水による洗浄が容易である。また、該コンドーム用潤滑剤は水を含まない無水系であるため、人体に悪影響を及ぼす防腐剤の添加が不要であり、安全性の面で好ましく、コンドームの劣化(白化)の問題も招かない。更に、ぬめり付与剤が添加されることにより、膣挿入時の潤滑性に優れたものとなる。該コンドーム用潤滑剤は、全体として2成分のみで構成されているため、製造に係わる工程管理が簡素となると共に、品質管理も極めて容易となる。
【0012】
また、前記親水性潤滑剤はプロピレングリコールである
【0013】
プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)は医薬品や化粧品にもごく一般的に用いられている化合物であり、入手も容易である。これを主剤とすることによって簡便にコンドーム用潤滑剤が得られる。また、表面張力が低いためコンドームの巻き上げ部への侵入性に優れ、これに伴い防着効果が高く、水による洗い流しが容易であると共に、防腐剤や界面活性剤を別途添加する必要がないため、それらによる刺激等の問題も発生しない。
【0014】
前記ぬめり付与剤は、ヒドロキシプロピルセルロースである
【0015】
本発明者は、プロピレングリコールを無水系においてぬめり性を付与することができる成分として、ヒドロキシプロピルセルロースを見出した。加えて、ヒドロキシプロピルセルロースを選定することにより、適度な粘度を付与することもできる。したがって、ヒドロキシプロピルセルロースの添加量を調整することにより、巻き上げ部への侵入性を損なうことなく、かつ、適度なぬめり性と粘性とを合わせ持った良好な潤滑剤を得ることができる。また、ヒドロキシプロピルセルロースも、医薬品や食品の添加剤としてごく一般に用いられている化合物であり、入手容易である。更に、界面活性剤、または防腐剤を含まないため、それらによる刺激等の懸念も解決される。
要は、プロピレングリコールとヒドロキシプロピルセルロースとからなる2成分系とすることにより、シリコーンオイルで構成されたコンドーム用潤滑剤の上記利点を確保しつつ、上記欠点を全て解決することが可能となる。
【0016】
更に本発明は、前記コンドーム用潤滑剤を塗布したことを特徴とするコンドームである。
【0017】
コンドームに前記コンドーム用潤滑剤を塗布することによって、製造に係わる工程管理が簡便で品質管理が容易なコンドームを得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコンドーム用潤滑剤は水を含まないために防腐剤の添加が不要となるので、安全性に優れ、かつコンドームの劣化による白化現象も生じない。また、水のみで容易に洗い流せる利点がある。更に、全体として2成分のみの単純構成であるため、簡便に製造できることから、製造に係わる工程管理が簡素となり、品質管理が行いやすい。したがって、該コンドーム用潤滑剤を塗布したコンドームの安全管理や品質管理も容易となる。特に本発明のコンドーム用潤滑剤がプロピレングリコールとヒドロキシプロピルセルロースとの2成分からなる場合、ぬめり性や侵入性、洗浄性等の性能を十分に確保しつつ、それを実際に製造する際に必要な管理についても容易とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に用いられる主剤としての親水性潤滑剤、及び助剤としてのぬめり付与剤について説明する。
〔親水性潤滑剤〕
本発明における親水性潤滑剤とは、有機、無機潤滑剤のうち親水性を有するものであり、人体に悪影響を及ぼさないものが選択される。好ましい親水性潤滑剤としては、有機性の水溶性多価アルコールが例示される。特に好ましい親水性潤滑剤としては、コンドームの潤滑剤として好適な潤滑性をもち、表面張力が低いことによる高い侵入性が得られ、また使用後の水洗浄の容易さに優れたプロピレングリコールが挙げられる。該親水性潤滑剤をコンドームに塗布することによって好適な使用感が得られると共に、単に水洗するのみで該親水性潤滑剤を皮膚表面から容易に洗い流すことができる。
【0020】
〔ぬめり付与剤〕
本発明のコンドーム用潤滑剤においては、該潤滑剤のぬめり性の調整のために、ぬめり付与剤が添加される。該ぬめり付与剤としては、医薬品や食品の添加剤としてごく一般に用いられている有機化合物のヒドロキシプロピルセルロースが望ましい。ヒドロキシプロピルセルロースを添加する場合、質量比でプロピレングリコール:ヒドロキシプロピルセルロース=99.99:0.01〜99.80:0.20の範囲であることが望ましい。これよりヒドロキシプロピルセルロースが過剰に添加されていると、潤滑剤の粘度が高くなりすぎて侵入性が悪化し、これによって該潤滑剤を塗布した際に該コンドームの根元まで潤滑剤が侵入できなくなる。一方、ヒドロキシプロピルセルロースの添加量が上記範囲未満であると、ヒドロキシプロピルセルロースのぬめり性が潤滑剤において十分発揮されない。
【0021】
このように、本発明は、コンドームとして従来品(例えばシリコーンオイル)に相当する侵入性等を確保しつつ、親水性のプロピレングリコールに対して適切なぬめり付与剤としてのヒドロキシプロピルセルロースを新たに見出したことを大きな特徴としている。
【0022】
以下、本発明のコンドーム用潤滑剤を具体化した実施例を詳細に説明する。
なお、本発明は、下記に示す実施例に限定されることはなく、適宜設計変更が可能である。
【0023】
〔実施例1〜6〕
プロピレングリコール(PG 旭硝子株式会社製)とヒドロキシプロピルセルロース(HPC KLUCEL Hercules Incorporated,Aqualon Division製)とを下記の表1に記載の割合で混合攪拌し、コンドーム用潤滑剤を作製した。前記コンドーム用潤滑剤0.5mlを、巻き上げられたコンドームに滴下式塗布によって塗布し、該コンドーム用潤滑剤のコンドームへの侵入性、塗布状況や該コンドーム用潤滑剤のぬめり性、水洗浄の容易さを調べた。
【0024】
なお、コンドームへの侵入性とは、巻き上げられたコンドームに滴下した該潤滑剤がコンドームの先端から根元に向かって、どれくらいまで侵入したかを長さ単位(cm単位)によって測定した。
【0025】
〔比較例〕
シリコーンオイルのみをコンドーム用潤滑剤として用い、上記実施例と同様に該コンドーム用潤滑剤のコンドームへの侵入性、塗布状況や該コンドーム用潤滑剤のぬめり性、水洗浄の容易さを調べた。
【0026】
〔参考例〕
参考例として、プロピレングリコールのみで構成されるコンドーム用潤滑剤を挙げた。
【0027】
上記実施例、比較例、及び参考例によって得られたコンドーム用潤滑剤のコンドームへの侵入状況を表1に、ぬめり性、水洗浄の容易さを表2に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
*1 潤滑剤を指に付けた際の触感を比較した。
◎:十分なぬめり性を有している
○:良好なぬめり性を有している
×:ぬめり性を有していない
*2 指についた潤滑剤を水洗した際の洗浄の容易さを比較した。
◎:簡単に水で洗い流すことができる
×:水のみで洗い流すことが困難である
【0031】
表1に示すように、プロピレングリコール:ヒドロキシプロピルセルロース=99.98:0.02〜99.80:0.20質量比の実施例1〜6においては、コンドームの巻き上げられた内部にも比較例と同等に前記コンドーム用潤滑剤が十分に侵入した。しかし、プロピレングリコール:ヒドロキシプロピルセルロース=99.80:0.20質量比の実施例6においては、他の実施例に比べて粘度が高いために幾分侵入に遅れが見られた。
【0032】
また実施例1〜6のコンドーム用潤滑剤については、膣挿入時に必要な適度なぬめり性が感じられ、また、水洗によって容易に洗い流すことができた。
【0033】
シリコーンオイルのみを用いた比較例においては、巻き上げ部への侵入は良好であったが、指に付けたコンドーム用潤滑剤を水のみで洗い流すことが困難であった。
【0034】
プロピレングリコールのみを用いた参考例においては、巻き上げ部への侵入は良好であった。一方、侵入性がよい反面、ぬめり性に劣るため、膣挿入時の潤滑性に劣ってしまう。
【0035】
本発明のコンドーム用潤滑剤をコンドームに塗布する方法は、滴下式塗布に限らず、例えば塗布した後にコンドームを巻き上げる方法等、公知の方法であっても構わない。