(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のコーティング剤は、固形分換算で、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上を合計で40〜60質量%、フッ化物を35〜55質量%、コロイダルシリカをシリカとして1〜15質量%含むことを特徴とするものである。
【0012】
本発明のコーティング剤は、固形分換算で、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上を合計で40〜60質量%含むものであり、45〜60質量%含むものであることが好ましく、50〜60質量%含むものであることがより好ましい。
本発明のコーティング剤を耐火成形体上に塗布してコーティング層を形成した後、金属溶湯と接触させると、該金属溶湯の酸化膜を生成するが、上記コーティング層は上記酸化膜を付着させ難いものであることから、金属溶湯と繰り返し接触しても酸化膜の積層物を形成することがなく、このために上記コーティング層を設けた耐火成形体において、金属溶湯の流動や凝固収縮に伴う機械的損傷を抑制できると考えられる。
本発明のコーティング剤において、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素は共有結合性が強い材料であり、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上の含有割合が上記範囲内にあることにより、金属溶湯の酸化膜との親和性(濡れ性)を好適に抑制することができる。
【0013】
本発明のコーティング剤は、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上を含有するものであり、これ等のうち1種単独又は2種以上を含有するものであってもよい。
これ等の化合物の中、窒化珪素が、少量でも親和性抑制効果を発揮し易く、コーティング層から抜け難いために、好適に使用することができる。炭化珪素は比較的安価で入手することができる点で好ましいが、その表面に酸化層を有していることが多く、配合量が比較的多くなってしまう。窒化ホウ素は比較的少量で親和性抑制効果を発揮する点で好ましいが、比較的高価であり、コーティング層から剥がれ易い。なお、共有結合性の強い材料としては、ダイアモンドやシリコン等も挙げられるが、それらは極めて高価であったり、高温で安定に存在できなかったりするため、現実的に使用できない。
【0014】
本発明のコーティング剤において、窒化珪素、窒化ホウ素または炭化珪素は、平均粒径が0.1〜150μmであるものが好ましく、0.1〜100μmであるものがより好ましく、0.1〜75μmであるものがさらに好ましい。
上記粒径を有する窒化珪素、窒化ホウ素または炭化珪素を用いることにより、耐火成形体上に形成されるコーティング層の合計比表面積を大きくすることができ、金属溶湯の酸化膜との親和性抑制効果を向上させることができ、より少量の使用量でも目的の効果を得ることができる。
【0015】
本発明のコーティング剤において、窒化珪素、窒化ホウ素または炭化珪素は、純度90%以上のものが好ましく、純度99%以上のものがより好ましい。
なお、本出願書類において、窒化珪素、窒化ホウ素または炭化珪素の純度は、蛍光X線元素分析法により測定することができる。
【0016】
本発明のコーティング剤は、固形分換算で、フッ化物を35〜55質量%含むものであり、40〜55質量%含むものであることが好ましく、45〜55質量%含むものであることがより好ましい。
本発明のコーティング剤において、フッ化物は、イオン結合性の強い材料であり、フッ化物の含有割合が上記範囲内にあることにより、耐火成形体上に形成されるコーティング層と金属溶湯とが接触する界面に金属溶湯の酸化膜を容易に形成することができ、後述する金属溶湯によるコロイダルシリカの浸食を抑制することができる。
一方、フッ化物の配合量が多くなり過ぎると、酸化膜形成の効果が支配的になり、金属溶湯の酸化膜が耐火物表面に固着してしまうばかりか、フッ化物等のようにイオン結合性の強い化合物は、一般的に加熱による体積膨張が大きいため、多量に配合させた場合には、コーティング層が剥がれ易くなり、得られる耐火物の耐熱衝撃特性を低下させてしまう。
【0017】
本発明のコーティング剤において、フッ化物としては、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等から選ばれる一種以上を挙げることができ、本発明のコーティング剤は、これ等フッ化物から選ばれる1種単独又は2種以上を含有することができる。
【0018】
これ等のフッ化物のうち、フッ化カルシウムが最もイオン結合性が強いため、好適に使用することができる。
フッ化カルシウム等のフッ化物は、金属溶湯の酸化物、例えば、酸化アルミニウムと同等若しくはそれよりも強いイオン結合性を有し、上述したように、耐火成形体上に形成されるコーティング層と金属溶湯との界面において金属溶湯の酸化膜形成を促進するが、上記フッ化物のイオン結合性が強いほど上記酸化膜形成効果も大きくなり、コーティング剤中の含有量がより少量であっても、充分な効果を発現することができる。
【0019】
本発明のコーティング剤において、フッ化物の平均粒径は、0.1〜150μmであることが好ましく、0.1〜100μmであることがより好ましく、0.1〜75μmであることがさらに好ましい。
上記粒径を有するフッ化物を用いることにより、耐火成形体上に形成されるコーティング層の合計比表面積を大きくすることができ、適度な剥離性を有する金属溶湯の酸化膜を容易に形成することができ、より少量の使用量でも目的の効果を得ることができる。
【0020】
本発明のコーティング剤において、フッ化物は、純度90%以上のものが好ましく、純度99%以上のものがより好ましい。
なお、本出願書類において、フッ化物の純度は、蛍光X線元素分析法により測定することができる。
【0021】
本発明のコーティング剤は、固形分換算したときに、コロイダルシリカをシリカとして1〜15質量%含むものであり、3〜15質量%含むものであることが好ましく、5〜10質量%含むものであることがより好ましい。
コロイダルシリカは、シリカ粒子またはその水和物が水中に分散したコロイド状物であるが、本出願書類において、上記コロイダルシリカの含有割合は、スラリーの水分を除いた固形分全体に占めるシリカ換算した質量割合を意味する。
【0022】
本発明のコーティング剤において、コロイダルシリカは、バインダーとして機能し、コロイダルシリカの含有割合が上記範囲内にあることにより、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上とフッ化物とを強固に結着させて、耐食性の高いコーティング層を形成することができる。
一方、コロイダルシリカの含有割合が多くなり過ぎると、フッ化物の含有割合が低下して、得られるコーティング層が金属溶湯に侵食され易くなる。
【0023】
本発明のコーティング剤において、コロイダルシリカは、平均粒径が0.004〜0.1μmであるものが好ましく、0.01〜0.05μmであるものがより好ましく、0.02〜0.03μmであるものがさらに好ましい。
【0024】
上述したように、コロイダルシリカは、コーティング層の形成時に十分な耐食性を付与するものであり、シリカバインダーとして窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上とフッ化物とを結着させる機能を発揮するとともに、金属溶湯への酸素供給源として、金属溶湯と接触する界面において、金属溶湯の酸化膜形成機能を発揮する。
コロイダルシリカの平均粒径が0.1μmを超えると、酸化膜が迅速に形成し難くなり、コーティング層の表面に金属が貼り付き易くなる。
【0025】
本発明のコーティング剤は、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上と、フッ化物と、シリカ換算したコロイダルシリカとの、固形分としての合計含有量100質量部に対し、さらに増粘剤を0.1〜1質量部含むものであることが好ましく、0.3〜1質量部含むものであることがより好ましく、0.5〜0.8質量部含むものであることがさらに好ましい。
【0026】
本発明のコーティング剤は、増粘剤を上記割合で含有することにより、適度な粘性を保持し、耐火成形体上に塗布したときに容易にコーティング膜を形成することができる。
【0027】
本発明のコーティング剤において、増粘剤としては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、アクリル酸ナトリウム重合物、セルロースエーテル等から選らばれる一種以上を挙げることができる。
【0028】
また、本発明のコーティング剤は、pH調整剤、分散剤、防腐剤等の添加物を含んでもよい。
【0029】
pH調整剤としては、pH4標準溶液であるフタール酸塩標準溶液(セーレンセン緩衝液)、pH7標準溶液である中性リン酸塩標準溶液等の緩衝溶液を挙げることができ、酸としては、酢酸、蟻酸等を挙げることができる。緩衝溶液や酸の含有量は、本発明のコーティング剤のpHを4〜8.5にする量であることが好ましい。
分散剤としては、カルボン酸類、多価アルコール、アミン類等を挙げることができ、防腐剤としては、窒素原子又は硫黄原子を有する無機化合物または有機化合物を挙げることができる。
【0030】
本発明のコーティング剤は、常温(20℃)下において、ペースト状の不定形状を採る。
本発明のコーティング剤の粘度は、耐火成形体表面に塗布したときに、コーティング層を形成し得る程度であることが好ましい。
【0031】
本発明のコーティング剤は、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上と、フッ化物と、シリカ換算したコロイダルシリカとの、固形分としての合計含有量100質量部に対し、水性媒体を5〜90質量部含むものであることが好ましく、10〜80質量部含むものであることがより好ましく、20〜60質量部含むものであることがさらに好ましい。
【0032】
本発明のコーティング剤において、水性媒体の含有割合が上記範囲内にあることにより、適度な粘性を保持し、耐火成形体上に塗布したときに容易にコーティング膜を形成することができる。
【0033】
本発明のコーティング剤において、水性媒体としては、水や、水を主成分としてエタノールやエーテル類を含むものが挙げられる。
【0034】
本発明の耐火成形体用コーティング剤は、固形分換算で、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上が40〜60質量%、フッ化物が35〜55質量%、コロイダルシリカがシリカとして1〜15質量%含まれるように、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素と、フッ化物とコロイダルシリカとを、水性媒体中で混合することにより作製することができる。
【0035】
この場合、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素や、フッ化物や、コロイダルシリカの具体例は、上述したとおりである。
【0036】
本発明の耐火成形体用コーティング剤を製造する場合、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上は、固形分換算したときの合計量で40〜60質量%となるように混合し、45〜60質量%となるように混合することが好ましく、50〜60質量%となるように混合することがより好ましい。
【0037】
本発明の耐火成形体用コーティング剤を製造する場合、フッ化物は、固形分換算で、35〜55質量%となるように混合し、40〜55質量%となるように混合することが好ましく、45〜55質量%となるように混合することがより好ましい。
【0038】
本発明の耐火成形体用コーティング剤を製造する場合、コロイダルシリカは、固形分換算で、シリカとして、1〜15質量%となるように混合し、0.3〜1質量%となるように混合することが好ましく、0.5〜0.8質量%となるように混合することがより好ましい。
【0039】
本発明の耐火成形体用コーティング剤を製造する場合、さらに増粘材、pH調整剤、分散剤、防腐剤等の添加物を混合してもよく、これ等の具体例は、上述したとおりである。
【0040】
本発明の耐火成形体用コーティング剤を製造する場合、増粘剤は、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上と、フッ化物と、シリカ換算したコロイダルシリカとの、固形分としての合計含有量100質量部に対し、0.1〜1質量部となるように混合することが好ましく、0.3〜1質量部となるように混合することがより好ましく、0.5〜0.8質量部となるように混合することがさらに好ましい。
【0041】
本発明の耐火成形体用コーティング剤を製造する場合、水性媒体の具体例は上述したとおりであり、水性媒体は、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上と、フッ化物と、シリカ換算したコロイダルシリカとの、固形分としての合計含有量100質量部に対し、5〜90質量部となるように混合することが好ましく、10〜80質量部となるように混合することがより好ましく、20〜60質量部となるように混合することがさらに好ましい。
なお、コロイダルシリカは、通常、水性媒体を含むものであることから、本出願書類において、上記水性媒体の量は、コロイダルシリカを構成する水性媒体とコーティング剤の調製時に新たに添加する水性媒体の合計量を意味するものとする。
【0042】
上記各成分を混合する方法としては、ディスパー等の混練装置で混練する方法を挙げることができる。混練時間は0.1〜1.0時間とすることが好ましく、混練温度は5〜40℃とすることが好ましい。
【0043】
本発明の耐火成形体用コーティング剤を製造する好ましい方法としては、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上と、フッ化物と、コロイダルシリカとが、それぞれ所望量含まれるように、施工直前に混合して調製する方法が挙げられる。
【0044】
上記方法は、特に窒化珪素を用いて耐火成形体用コーティング剤を製造する場合に好適に採用することができる。
本発明の耐火成形体用コーティング剤が窒化珪素を含むものである場合、本発明の耐火成形体用コーティング剤を製造する好ましい方法としては、窒化珪素を必須成分として含むとともに窒化ホウ素または炭化珪素を任意成分として含み、固形分換算で、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素を合計で40〜60質量%、フッ化物を35〜55質量%、コロイダルシリカをシリカとして1〜15質量%含むように、粉末状の窒化珪素と窒化珪素以外の成分とを施工直前に混合して耐火成形体用コーティング剤を調製する方法(以下、製造方法aという)が挙げられる。
【0045】
上記製造方法aにおいて、窒化珪素の混合割合は、固形分換算で、0.1〜60質量%であることが適当であり、1〜60質量%であることがより適当であり、40〜60質量%であることがさらに適当である。
【0046】
製造方法aにおいて、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上の好適な合計混合割合や、フッ化物の好適な混合割合や、コロイダルシリカの好適な混合割合は、上述したとおりである。
また、上記製造方法aにおいては、さらに増粘材、pH調整剤、分散剤、防腐剤等の添加物を混合してもよく、これ等の具体例も、上述したとおりである。
【0047】
製造方法aにおいて、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素のうち窒化珪素のみを混合する場合(窒化ホウ素および炭化ケイ素を混合しない場合)には、フッ化物およびコロイダルシリカを含む分散液と粉末状の窒化珪素とを施工直前に混合して耐火成形体用コーティング剤を調製することが好ましい。
製造方法aにおいて、窒化珪素とともに窒化ホウ素や炭化珪素を混合する場合、窒化珪素や炭化珪素は、粉末状物として混合してもよいし、分散液中に分散させた状態で混合してもよい。
例えば、フッ化物およびコロイダルシリカを含む分散液と、窒化珪素粉末と、窒化ホウ素粉末および炭化珪素粉末から選ばれる一種以上とを施工直前に混合して耐火成形体用コーティング剤を調製してもよいし、フッ化物およびコロイダルシリカを含むとともに窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上を含む分散液と、窒化珪素粉末とを施工直前に混合して耐火成形体用コーティング剤を調製してもよい。
上記分散液の分散媒体としては、上記水性媒体を挙げることができる。
【0048】
本発明者等の検討によれば、窒化珪素は、水性媒体中に分散すると、時間の経過とともに徐々に水素ガスを発生することが判明した。このため、窒化珪素と、フッ化物およびコロイダルシリカとを予め水性媒体中で混合して耐火成形体用コーティング剤を製造した場合、保管時に水素ガスを発生するが、この水素ガスは爆発性ガスであるとともに、コーティング剤の収容容器を膨張させる等、保管時の取り扱いを非常に困難なものにしてしまう。
このため、窒化珪素については予め水性媒体中に分散させずに、施工直前に粉末状のものを混合して耐火成形体用コーティング剤を調製することにより、水素ガスの発生を抑制し、容易かつ簡便な取り扱いを可能ならしめることが好ましい。
【0049】
なお、本出願書類において、施工直前とは、施工3日前から施工時までを意味するものとする。
【0050】
上記製造方法aにおいて、粉末状の窒化珪素と窒化珪素以外の成分とは、施工1日前から施工時までに混合することが好ましい。
【0051】
本発明の耐火成形体用コーティング剤は、上述した方法により調製された後、施工される。
【0052】
本発明の耐火成形体用コーティング剤が窒化珪素を含むものである場合は、上記水素の発生を抑制するという観点から、上述した方法、すなわち、窒化珪素を必須成分として含むとともに窒化ホウ素または炭化珪素を任意成分として含み、固形分換算で、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素を合計で40〜60質量%、フッ化物を35〜55質量%、コロイダルシリカをシリカとして1〜15質量%含むように、粉末状の窒化珪素と窒化珪素以外の成分とを施工直前に混合して耐火成形体用コーティング剤を調製した後、施工することが好ましい。
耐火成形体用コーティング剤の調製方法の詳細は、上記製造方法aの説明で述べたとおりである。
【0053】
コーティング剤の施工対象となる耐火成形体としては、公知のものを挙げることができ、例えば、アルミナセメントを含む耐火キャスタブルやその焼成物等からなる、セラミック材料製のものを挙げることができる。
具体的には、アルミニウム、マグネシウム等の非鉄金属の鋳造装置において、これ等非鉄金属からなる金属溶湯の移送や給湯、保持等を行う注湯ボックスや樋、保持炉、フロートやスパウト、ホット・トップリング、トランジションプレート等を構成するセラミック材料製の部材を挙げることができる。
上記耐火成形体を構成するセラミック材料としては、気孔率が5〜70%、嵩密度が1.0〜4.0g/cm
3であるものが好適である。
なお、本出願書類において、セラミック材料の気孔率は、JIS R 2614に規定される方法より測定した値を意味するものとする。
【0054】
コーティング剤の施工方法としても、公知の塗布方法を採用することができ、具体的には、刷毛塗り、スプレー噴霧、浸漬等の方法を挙げることができる。
【0055】
コーティング剤の塗布量は、100〜1000g/m
3であることが好ましく、100〜800g/m
3であることがより好ましく、100〜500g/m
3であることがさらに好ましい。
コーティング剤の塗布量が上記範囲内にあることにより、耐火成形体に高い耐食性を容易に付与することができる。
【0056】
得られるコーティング層の厚さは、0.1〜0.7mmであることが好ましく、0.1〜0.5mmであることがより好ましく、0.1〜0.3mmであることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、コーティング層の厚さは、シックネスゲージ等により測定した値を意味する。
【0057】
本発明によれば、耐火成形体の表面に塗布することにより、浸食作用が高い金属溶湯に対して耐久性に優れたコーティング層を形成し得る耐火成形体用コーティング剤を提供することができるとともに、耐火成形体用コーティング剤の製造方法および耐火成形体用コーティング剤の施工方法を提供することができる。
【0058】
次に、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0059】
(実施例1)
固形分換算で、粉末状の窒化珪素(平均粒径が5μm、純度が95%であるもの)が41.2質量%、フッ化カルシウム(平均粒径が30μm、純度が95%であるもの)が52.9質量%、コロイダルシリカ(平均粒径が0.025μmであるもの)がシリカとして5.9質量%になるように各成分を混合した。
このとき、窒化珪素と、フッ化物と、シリカ換算したコロイダルシリカとの、固形分としての合計含有量100質量部に対し、さらに増粘剤(信越化学工業(株)製hiメトローズ90SH−30000)0.7質量部と、防腐剤(三愛石油(株)製サンアイバック300K)0.3質量部とをそれぞれ混合し、窒化珪素と、フッ化物と、シリカ換算したコロイダルシリカとの、固形分としての合計含有量100質量部に対し、合計水分量が38質量部になるように蒸留水を添加して、混練装置(浅田鉄工(株)製DESPA MH−800)を用いて、20℃の温度条件下、5分間混練することにより、目的とするコーティング剤を調製した。
【0060】
上記コーティング剤を調製した直後、耐火成形体であるニチアス社製ルミサルLD(気孔率30%、嵩密度1.4g/cm
3)上に、刷毛により、塗布量が200g/m
3となるように塗布することにより、厚さ0.2mmのコーティング層を形成した。このコーティング層は、表面が平滑で良好な状態にあるものであった。
【0061】
(耐食性評価)
上記コーティング層を形成した耐火成形体を700℃のアルミニウム溶湯に24時間浸漬することにより浸食試験を行い、上記浸漬後における耐火成形体の外観観察を行って、以下の基準により耐食性を評価した。結果を表1に示す。
○:コーティング層が剥離せず耐火成形体も浸食されていない。
△:コーティング層は剥離したが耐火成形体は浸食されていない。
×:コーティング層が剥離し、耐火成形体も浸食されている。
【0062】
(実施例2〜実施例6)
窒化珪素と、フッ化カルシウムと、コロイダルシリカの配合量を表1に記載したとおり変更した以外は、実施例1と同様にしてそれぞれコーティング剤を作製した。
上記コーティング剤を調製した直後、実施例1と同様に、耐火成形体であるニチアス社製ルミサルLD上に、刷毛により塗布量が200g/m
3となるように塗布することにより、厚さ0.2mmのコーティング層を形成した。このコーティング層は、いずれも表面が平滑で良好な状態にあるものであった。
上記コーティング層を形成した耐火成形体を、実施例1と同様の方法で浸食試験に供して耐食性を評価した。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1〜比較例6)
窒化珪素と、フッ化カルシウムと、コロイダルシリカの配合量を表2に記載したとおり変更した以外は、実施例1と同様にしてそれぞれ比較コーティング剤を作製した。
上記比較コーティング剤を調製した直後、実施例1と同様に、耐火成形体であるニチアス社製ルミサルLD上に、刷毛により塗布量が200g/m
3となるように塗布することにより、厚さ0.2mmのコーティング層を形成し、このコーティング層を形成した耐火成形体を、実施例1と同様の方法で浸食試験に供して耐食性を評価した。結果を表2に示す。
【0066】
(実施例7〜実施例8)
粉末状の窒化珪素に代えて、粉末状の窒化ホウ素(平均粒径が5μm、純度が95%であるもの)を用いるか(実施例7)、粉末状の窒化珪素(に代えて、粉末状の炭化珪素(平均粒径が5μm、純度が95%であるもの)を用い(実施例8)、各成分の配合量を表3に記載したとおり変更した以外は、実施例1と同様にして目的とするコーティング剤を調製した。
上記コーティング剤を調製した直後、実施例1と同様に、耐火成形体であるニチアス社製ルミサルLD上に、刷毛により塗布量が200g/m
3となるように塗布することにより、厚さ0.2mmのコーティング層を形成した。このコーティング層は、いずれも表面が平滑で良好な状態にあるものであった。
上記コーティング層を形成した耐火成形体を、実施例1と同様の方法で浸食試験に供して耐食性を評価した。結果を表3に示す。なお、表3においては、比較のために実施例4の内容も併記した。
【0067】
(比較例7)
粉末状の窒化珪素に代えて、粉末状の窒化ホウ素(平均粒径が10μm、純度が98.6%であるもの)を用い、固形分換算で、粉末状の窒化ホウ素(平均粒70質量%と、フッ化カルシウム(和光純薬工業(株)製試薬、フッ素分48質量%であるもの)5質量%と、コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製試薬「スノーテックスCM」)がシリカとして25質量%になるように各成分を混合した。このとき、窒化ホウ素と、フッ化物と、シリカ換算したコロイダルシリカとの、固形分としての合計含有量100質量部に対し、安定剤として乳酸(和光純薬工業(株)製試薬)1.0質量部、分散剤としてイソプロピルアルコール2.0質量部をさらに加え、窒化ホウ素と、フッ化物と、シリカ換算したコロイダルシリカとの、固形分としての合計含有量100質量部に対し、合計水分量が100質量部になるように蒸留水を添加し、各成分が十分に分散するまで攪拌することにより、目的とする比較コーティング剤を調製した。
【0068】
上記比較コーティング剤を調製した直後、ニチアス(株)製「ルミボード LH−200S」(JIS R 2614に準じて測定した気孔率が71%であるもの)に秤量200g/m
3となるように塗布した後、105℃で24時間乾燥することによりコーティング層を形成した。このコーティング層は、いずれも表面に微小クラックが多数発生し、平滑な表面を形成することができないものであった。
【0070】
(実施例9〜実施例11)
窒化珪素と、フッ化物と、シリカ換算したコロイダルシリカとの、固形分としての合計含有量100質量部に対する水の添加量が、表4に記載した量になるようにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして目的とするコーティング剤を調製した。
上記コーティング剤を調製した直後、実施例1と同様に、耐火成形体であるニチアス社製ルミサルLD上に、刷毛により塗布量が200g/m
3となるように塗布することにより、厚さ0.2mmのコーティング層を形成した。このコーティング層は、いずれも表面が平滑で良好な状態にあるものであった。
上記コーティング層を形成した耐火成形体を、実施例1と同様の方法で浸食試験に供して耐食性を評価した。結果を表4に示す。なお、表4においては、比較のために実施例4の内容も併記した。
【0072】
(実施例12)
水144mlに対し、フッ化カルシウム(平均粒径が30μm、純度が95%であるもの)を529g、コロイダルシリカ(平均粒径が0.025μm、固形分濃度が20質量%であるもの)を295g、増粘剤(信越化学工業(株)製hiメトローズ90SH−30000)を70g、防腐剤(三愛石油(株)製サンアイバック300K)を30g混合することにより、固形分濃度が64.4質量%である予備分散液を作製し、1日間保存した。
上記予備分散液に対し、粉末状の窒化珪素(平均粒径が5μm、純度が99.5%であるもの)を412g添加し、混練装置(浅田鉄工(株)製DESPA MH−800)を用いて、20℃の温度条件下、5分間混練することにより、固形分換算で、窒化珪素を41.2質量%、フッ化カルシウムを52.9質量%、コロイダルシリカをシリカとして5.9質量%含むコーティング剤を調製した。
上記コーティング剤を調製した直後におけるコーティング剤からの水素ガス発生濃度は0質量%であった。
【0073】
上記コーティング剤を調製した直後、耐火成形体であるニチアス社製ルミサルLD(気孔率30%、嵩密度1.4g/cm
3)上に、刷毛により、塗布量が200g/m
3となるように塗布することにより、厚さ0.2mmのコーティング層を形成した。このコーティング層は、表面が平滑で良好な状態にあるものであった。
上記コーティング層を形成した耐火成形体を、実施例1と同様の方法で浸食試験に供して耐食性を評価した。結果を表5に示す。
【0074】
(実施例13)
実施例12において、上記コーティング剤を調製してから30分間経過後におけるコーティング剤からの水素ガス発生濃度は0質量%であった。
このコーティング剤(調製から30分間経過後のコーティング剤)を、耐火成形体であるニチアス社製ルミサルLD(気孔率30%、嵩密度1.4g/cm
3)上に、刷毛により、塗布量が200g/m
3となるように塗布することにより、厚さ0.2mmのコーティング層を形成した。このコーティング層は、表面が平滑で良好な状態にあるものであった。
上記コーティング層を形成した耐火成形体を、実施例1と同様の方法で浸食試験に供して耐食性を評価した。結果を表5に示す。
【0075】
(参考例1)
実施例1において、コーティング剤を調製して、密封した缶内に1カ月保管した。上記缶内における水素ガス濃度を測定したところ、0.6質量%の水素ガスが発生していることを確認することができた。
【0076】
(実施例14)
水144mlに対し、フッ化カルシウム(平均粒径が30μm、純度が95%であるもの)を529g、コロイダルシリカ(平均粒径が0.025μm、固形分濃度が20質量%であるもの)を295g、増粘剤(信越化学工業(株)製hiメトローズ90SH−30000)を70g、防腐剤(三愛石油(株)製サンアイバック300K)を30g混合することにより、固形分濃度が64.4質量%である予備分散液を作製して、1日間保存した。
上記予備分散液に対し、粉末状の窒化珪素(平均粒径が5μm、純度が99.5%であるもの)を206g、炭化珪素(平均粒径が5μm、純度が99.5%であるもの)を206g添加し、混練装置(浅田鉄工(株)製DESPA MH−800)を用いて、20℃の温度条件下、5分間混練することにより、固形分換算で、窒化珪素を20.6質量%、炭化珪素を20.6質量%、フッ化カルシウムを52.9質量%、コロイダルシリカをシリカとして5.9質量%含むコーティング剤を調製した。
上記コーティング剤を調製した直後におけるコーティング剤からの水素ガス発生濃度は0質量%であった。
【0077】
上記コーティング剤を調製した直後、耐火成形体であるニチアス社製ルミサルLD(気孔率30%、嵩密度1.4g/cm
3)上に、刷毛により、塗布量が200g/m
3となるように塗布することにより、厚さ0.2mmのコーティング層を形成した。このコーティング層は、表面が平滑で良好な状態にあるものであった。
上記コーティング層を形成した耐火成形体を、実施例1と同様の方法で浸食試験に供して耐食性を評価した。結果を表5に示す。
【0079】
表1、表3、表4、表5より、実施例1〜実施例14で得られたコーティング剤は、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上と、フッ化物と、コロイダルシリカをそれぞれ特定量含有するものであることから、耐火成形体の表面に塗布したときに、得られるコーティング層の表面状態が良好で、浸食試験においても良好な耐食性を示すものであることが分かる。
これに対して、表2および表3より、比較例1〜比較例7で得られた比較コーティング剤は、窒化珪素、窒化ホウ素および炭化珪素から選ばれる一種以上と、フッ化物と、コロイダルシリカをそれぞれ特定量含有するものでないことから、耐火成形体の表面に塗布したときに、得られるコーティング層の表面に微小クラックを生じたり(比較例7)、浸食試験においても耐食性に劣る(比較例1〜比較例6)ものであることが分かる。