(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918591
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 3/00 20060101AFI20160428BHJP
【FI】
B43K3/00 F
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-78515(P2012-78515)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-208712(P2013-208712A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】大川 彰一
【審査官】
青山 玲理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−175041(JP,A)
【文献】
特開2002−096593(JP,A)
【文献】
特開平07−299985(JP,A)
【文献】
特開2002−144783(JP,A)
【文献】
実開平06−055775(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 3/00−3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持部となる軸筒外面に複数の凹部が滑り止めとして形成される筆記具であって、前記各々の凹部が、外周面形状を奇数多角形とし、一つの頂点が軸筒後端側に形成されるとともに、前記頂点と対向する辺がペン先側の軸方向に略垂直に形成され、外周面の奇数多角形面を仮想底面とし、軸心方向に頂部を形成する多角錐形状であることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記奇数多角形が、三角形又は五角形である請求項1記載の筆記具。
【請求項3】
前記凹部が、チップ側の傾斜面の勾配Aと軸筒後端側の傾斜稜線の勾配BにおいてA>Bである請求項1又は2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記凹部が、軸筒外周面の周方向に等間隔に形成される請求項1乃至3のいずれかに記載の筆記具。
【請求項5】
前記凹部が、軸筒外周面の周方向に接触状態で連続して形成される請求項1乃至4のいずれかに記載の筆記具。
【請求項6】
前記凹部が、軸筒外周面の軸方向に等間隔に形成される請求項1乃至5のいずれかに記載の筆記具。
【請求項7】
前記凹部が、軸筒外周面の軸方向に接触状態で連続して形成される請求項1乃至6のいずれかに記載の筆記具。
【請求項8】
前記軸筒の把持部が透明樹脂材料により成形される請求項1乃至7のいずれかに記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具に関する。詳細には、軸筒外面の把持部に滑り止めが形成される筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具軸筒の把持部には、滑り止め効果を付与することを目的に、エラストマー等の弾性部材を被覆する技術や、軸筒や弾性部材表面にディンプル状、ローレット状等の複数の凹部を形成する技術が用いられている(例えば、特許文献1乃至3参照)。更に、前記凹部に装飾性と意匠効果を付与するものとして、インキ保溜部材を内設する軸筒外面に、複数の凸状線や凹状線同士を略等間隔に交差させることで得られる連続状菱形の線図が用いられている(例えば、特許文献4参照)。
【0003】
前記特許文献4に示される連続する菱形の線図においては、汎用のディンプルやローレット形状に比べて意匠効果が高いものであるが、把持部外周面に形成される各菱形の対向する二個の頂点(鋭角部)が軸方向に位置するため、筆記時に指先が、菱形の鋭角方向であるペン先側に滑り易いものである。また、菱形同士が四辺すべてを他の菱形線図と接触するため、筆圧をかけた際に指先がペン先側に動き易い(滑り易い)ものである。更に、線図により形成されるため、軸筒把持部を透明樹脂材料で形成した場合であっても、光の乱反射による光輝感が得られないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−208175号公報
【特許文献2】特開平7−299985号公報
【特許文献3】特開2008−6791号公報
【特許文献4】特開2002−144783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、筆記時においても指先が滑ってペン先側に移動すること無く高い滑り止め効果が得られるとともに、ローレット等の汎用の凹部に比べて高い装飾性と意匠効果が付与でき、特に、透明樹脂材料で形成した場合には光の乱反射による光輝感が得られる把持部を備えた筆記具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、把持部となる軸筒外面に複数の凹部が滑り止めとして形成される筆記具であって、前記各々の凹部が、外周面形状を奇数多角形とし、一つの頂点が軸筒後端側に形成されるとともに、前記頂点と対向する辺がペン先側の軸方向に略垂直に形成され
、外周面の奇数多角形面を仮想底面とし、軸心方向に頂部を形成する多角錐形状であることを要件とする。
更に、前記奇数多角形が、三角形又は五角形であること、前記凹部が、チップ側の傾斜面の勾配Aと軸筒後端側の傾斜稜線の勾配BにおいてA>Bであることを要件とする。
更に、前記凹部が、軸筒外周面の周方向に等間隔に形成されること、前記凹部が、軸筒外周面の周方向に接触状態で連続して形成されること、前記凹部が、軸筒外周面の軸方向に等間隔に形成されること、前記凹部が、軸筒外周面の軸方向に接触状態で連続して形成されることを要件とする。
更には、前記軸筒の把持部が透明樹脂材料により成形されることを要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、筆記時に指先が滑ってペン先側に移動することを抑制して高い滑り止め効果が得られるとともに、汎用の凹部に比べて高い装飾性と意匠効果を付与できる。特に、軸筒の把持部を透明樹脂材料で形成した場合には、光の乱反射による輝度の高い光輝感が得られる筆記具となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の筆記具1の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1乃至3に示す筆記具1は、軸筒2外面の把持部3となる箇所に複数の凹部4が滑り止めとして形成されるキャップ式筆記具の筆記具本体であり、前記各々の凹部4が、外周面形状(外側から視認される輪郭形状)を奇数多角形(本実施形態においては三角形)とし、その一つの頂点41が軸筒後端側に形成されるとともに、前記頂点41と対向する辺42がペン先6側の軸方向に略垂直に形成されている。
【0010】
図1の筆記具1は、水性ゲルインキを内蔵するボールペンレフィルを軸筒2内に収容しており、前記軸筒2は、後端に尾栓23が嵌合される筒状の本体軸21と金属製の口金22とを螺合することで形成される。
前記本体軸21は、透明なAS樹脂からなる円筒状成形物であり、把持部3となる前方箇所の外面には、略三角錐形状の凹部4が周方向に等間隔に設けられるとともに、軸方向にも四列に亘って等間隔に形成されている。
尚、前記凹部4は本体軸21を射出成形する時に一体に形成されるものであるが、エラストマー等からなる別体のグリップ部材に前記凹部4を形成し、硬質の軸体の把持部に取り付ける構成(二色成形を含む)であってもよい。また、本体軸21は樹脂製のものに限らず、金属や木材、セラミック等、汎用の筆記具外装として適用される硬質材料を用いることもでき、円筒状に限らず多角形筒状とすることもできる。
【0011】
前記各凹部4は、軸筒外周面の三角形面(輪郭部分)を仮想底面とし、軸心方向に頂部43を形成する三角錐形状であり、特に、仮想底面となる三角形の一辺42が軸方向と垂直に形成される(即ち、径方向に略並行に形成される)とともに、該一辺42(垂直辺)に対向する頂点41が辺42の略中心から垂直な位置に形成され二等辺三角形を構成している(
図2参照)。
前記構成とすることで、筆記時に指先が動いてペン先側に移動した場合に、頂点41側から広角方向の辺42側に向かって稜線45方向へ直線的に移動し、軸方向と垂直に形成される辺42(面44)で確実に停止する。そのため、筆記時に筆圧がかかった際にも前記停止位置で指先を保持され、複数の微小凹部によって高い滑り止め効果が得られる。
尚、仮想底面となる三角形の一辺42が軸方向と垂直に形成されていれば、該一辺42に対向する頂点41は、辺42の略中心から垂直な位置(即ち、二等辺三角形を形成する位置)でなくても滑り止め効果が得られるため、この限りではないが、
図2のような二等辺三角形(正三角形を含む)とすることがより高い滑り止め効果を発現するため最も有用である。
また、本実施形態においては軸筒2が円筒状であるため、仮想底面となる三角形の各辺(輪郭線)が湾曲した状態で形成されているがこの限りでなく、直線状であってもよい。
【0012】
前記三角錐形状の凹部4においては、頂部43を形成する三つの三角形面を同形状で構成することもできるが、指先係止面となる垂直辺42を有する面44のみを異なる形状とすることもできる。その場合、外側から仮想底面を視認した状態で、頂部43が頂点41よりも辺42に近くなる位置に設けることが好ましい。前記位置関係における凹部4の窪みについて
図3により説明する。
【0013】
図3は、一つの凹部4の軸方向断面の拡大図であるが、軸筒2(本体軸21)表面から垂直な位置に形成される頂部43が、ペン先側斜面44の距離を短く、尾栓側稜線45の距離を長く設定する位置に配置されることで、チップ側傾斜面の勾配Aと軸筒後端側の傾斜稜線の勾配BにおいてA>Bとなっている。これにより、指先が稜線45部分を移動する速度が緩やかになるとともに斜面44での指先保持力が高まるため、把持した際の触感が良くグリップ力の高いものとなる。
【0014】
また、前記凹部4を複数備えた把持部3が直接形成される本体軸21は、透明樹脂材料(即ち、無色透明、着色透明、乳白色透明等の光透過性を有する材料であり、本実施形態ではAS樹脂中に着色材を添加した着色透明材料を適用)により成形されているため、前記把持部3は、各凹部4の乱反射に伴う輝度の高い光輝感を発現するものとなり、意匠性の高いものとなっている。
【0015】
尚、凹部4の外周面形状(輪郭部分)が奇数多角形である本発明の一例として三角形であるものを説明したが、五角形、七角形、九角形等であってもよく、いずれの形状においても各多角形の一辺(
図2の垂直辺42に対応する辺)が軸方向と垂直に形成されることで滑り止め効果を得ることができる。特に、輪郭部分の一辺が長く、保持状態の指先との接触部分が広くなることで保持力が高い点から三角形と五角形が好適である。
また、凹部4の内面形状(窪み面)としても、外周面形状を仮想底面とする多角錐の他、軸心方向に頂部43を有さない角錐台等の多面体形状や球面部を備えた形状であってもよい。
【0016】
本実施形態では、ペン先(チップ)を覆うキャップを備えたキャップ式形態の筆記具としたが、ノック式、回転式、スライド式等の出没機構を有し、軸筒内にペン先を収容可能な出没式形態であってもよい。尚、出没式形態とする場合、レフィルを一本収容するタイプだけでなく、二本以上収容して所望のレフィルを選択的に出没できる複式タイプとすることもできる。
また、相異なる形態のペン先を装着させたり、相異なる色相のインキを導出させるペン先を装着させた両頭式形態であってもよい。
更にペン先の形態としてもボールペンチップに限らず、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ、金属加工チップ等のマーキングペン用ペン先を用いたマーキングペン、更には万年筆やシャープペンシル等、汎用形態の筆記具とすることもできる。
その際、本実施形態で説明したレフィル式筆記具だけでなく、インキ保溜部材を用いた直液式筆記具や、インキ吸蔵体を用いた中詰式筆記具であってもよい。
【0017】
図4に第二実施形態の筆記具の把持部拡大図を示す。
本形態の筆記具1は把持部3のみを異形とした以外は、前述の第一実施形態と同様の構成からなる。
前記本体軸21は、透明なAS樹脂からなる筒状成形物であり、把持部3となる前方箇所の外面には、前述の略三角錐形状の凹部4が、周方向に等間隔に複数設けられるとともに、軸方向に接触状態で連続して形成されている。尚、前記凹部4は本体軸21を射出成形する時に一体に形成されている。
各凹部4は、仮想底面(即ち、三角形の輪郭)の軸方向垂直辺42と、軸方向に隣り合う仮想底面の頂点41が隣接した状態で軸方向に連続形成されているため、筆記時に指先が動いてペン先側に移動した際、頂点41側から広角方向の辺42側に向かって直線的(稜線45方向)に移動し、軸方向と垂直に形成される辺42(面44)で停止する状態が短距離間で連続して生じる。そのため、筆記時に筆圧がかかった際にもすぐに前記停止位置(辺42や面44)で指先が保持されることから、滑り難い把持位置の調整が容易なものとなる。
尚、前記形態においては、仮想底面となる三角形の一辺42が軸方向と垂直に形成されるとともに、該一辺42に対向する頂点41が辺42の略中心から垂直な位置に形成される(即ち、仮想底面が二等辺三角形となる)ことが好ましい。
【0018】
また、乱反射面となる各凹部4が軸方向に近接しているため、連続した光輝性が得られ易く、より高い意匠効果を発現するものとなる。
【0019】
図5に第三実施形態の筆記具の把持部拡大図を示す。
本形態の筆記具1は軸筒の材質をポリカーボネート樹脂とし、後端ノック式形態の筆記具に使用する外装とした以外は前述の第一実施形態と同様の構成からなり、
図5には把持部3の拡大図のみを示す。
前記本体軸21は、着色透明ポリカーボネート樹脂からなる円筒状成形物であり、把持部3となる箇所の外面には、前述の略三角錐形状の凹部4が、軸筒外周面の周方向に接触状態で連続して複数設けられるとともに、軸方向に三列に亘って等間隔に形成されている。尚、前記凹部4は本体軸21を射出成形する時に一体に形成されている。
各凹部4は、仮想底面(即ち、三角形の輪郭)の軸方向垂直辺42の両端が、外周方向に隣り合う仮想底面の垂直辺42と隣接して外周を一周するように連続形成されているため、筆記時に指先が滑ってペン先側に移動する際、頂点41側から広角方向の辺42側に向かって直線的(稜線45方向)に移動し、軸方向と垂直に形成される辺42(面44)で停止する状態が円周に亘って維持できる。そのため、筆記具を円周方向に回して握り直した際にも前記停止位置(辺42や面44)で指先が保持されることから、滑り難い把持位置の調整が容易なものとなる。従って、円筒状の軸筒において特に有用なものとなる。
【0020】
また、乱反射面となる各凹部4が外周方向に近接するため、連続した光輝性が得られ易く、より高い意匠効果を発現するものとなる。
【符号の説明】
【0021】
1 筆記具(ボールペン)
2 軸筒
21 本体軸
22 口金
23 尾栓
3 把持部
4 凹部
41 頂点
42 辺(垂直辺)
43 頂部
44 傾斜面
45 稜線
5 ペン先