特許第5918595号(P5918595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ HOYA株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5918595-眼鏡用プラスチックレンズの製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918595
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】眼鏡用プラスチックレンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/10 20060101AFI20160428BHJP
   B29C 39/02 20060101ALI20160428BHJP
   B29C 39/44 20060101ALI20160428BHJP
   B29C 39/42 20060101ALI20160428BHJP
   B29L 11/00 20060101ALN20160428BHJP
【FI】
   G02C7/10
   B29C39/02
   B29C39/44
   B29C39/42
   B29L11:00
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-84250(P2012-84250)
(22)【出願日】2012年4月2日
(65)【公開番号】特開2013-213937(P2013-213937A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2015年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】門脇 慎一郎
【審査官】 渡▲辺▼ 純也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−147609(JP,A)
【文献】 特開昭61−144601(JP,A)
【文献】 特開平8−176206(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/039853(WO,A1)
【文献】 特開平8−302336(JP,A)
【文献】 特開2009−019157(JP,A)
【文献】 特開2009−108170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 〜 13/00
B29C 39/00 〜 39/44
B29L 11/00
B29D 11/00
C08F 2/00 〜 2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔をもって対向する2つのモールドと、上記間隔を閉塞することにより形成されたキャビティを有する成形型の、上記キャビティへ加熱により重合する重合性成分を含むプラスチックレンズ原料液を注入すること、
上記プラスチックレンズ原料液の重合反応を行いプラスチックレンズを得ること、および、
得られたプラスチックレンズを成形型から離型すること、
を含む眼鏡用プラスチックレンズの製造方法であって、
前記離型後のプラスチックレンズの表面硬度はRスケールのロックウェル硬度100以下であり、
前記プラスチックレンズ原料液は、10時間半減期温度60℃未満のラジカル重合開始剤と10時間半減期温度60℃以上のラジカル重合開始剤とを含み、
前記重合反応を、前記プラスチックレンズ原料液を注入した成形型を90℃未満の低温域で加熱する低温重合段階と、その後に行われる90℃〜100℃の範囲の高温域で加熱する高温重合段階と、により行い、かつ、
前記高温重合段階を、下記式(1):
F≧−0.4Thigh+42 …(1)
[式(1)中、Thighは高温重合段階における加熱温度(℃)であり、Fは加熱温度Thighにおける保持時間(時間)である。]
を満たすように行うことを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
前記プラスチックレンズ原料液としてフォトクロミック化合物を含むプラスチックレンズ原料液を使用することにより、フォトクロミック性を示すプラスチックレンズを得る請求項1に記載の眼鏡用プラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
10時間半減期温度60℃以上のラジカル重合開始剤の10時間半減期温度は60℃以上80℃以下である請求項1または2に記載の眼鏡用プラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
前記低温重合段階における加熱温度は20℃〜50℃の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼鏡用プラスチックレンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡用プラスチックレンズの製造方法に関するものであり、詳しくは、注型重合により表面欠陥の少ない高品質なプラスチックレンズを提供することができる眼鏡用プラスチックレンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックはガラスと比べて軽量で割れにくいという利点を有するため、眼鏡レンズの素材として広く用いられている。プラスチックをレンズ形状に成形してプラスチックレンズを得る方法としては、成形型内でプラスチックレンズ原料液の重合を行う注型重合法が挙げられる。
【0003】
眼鏡レンズの中でフォトクロミックレンズと呼ばれるものは、光応答性を有する色素(フォトクロミック化合物)を含むことで明るい屋外で発色し室内に移ると高い透過性を回復することができ、これにより屋外において高濃度のカラーレンズと同様な防眩効果を発揮することができる。フォトクロミックレンズの製造方法としては、上記の注型重合法を利用しフォトクロミック化合物を含有するプラスチックレンズ(レンズ基材)を得る方法(特許文献1および2参照)のほかに、レンズ基材を成形した後にコーティング処理などのフォトクロミック性能付与工程を行う方法(特許文献3および4参照)も提案されている。前者の方法は、フォトクロミック性能付与工程を別途行うことなく、フォトクロミック性能を有するプラスチックレンズを得ることができるため、後者の方法と比べて製造上の工数が少なく製造方法として好ましい。また、高い発色濃度を示すフォトクロミックレンズを容易に得ることができる点など、後者の方法にはない様々な利点を有する。なおフォトクロミックレンズの製造方法としては、上記のほかに、注型重合によって、フォトクロミック化合物を含むコーティング膜(フォトクロミック膜)を備えたフォトクロミックレンズを得る方法も提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−34649号公報
【特許文献2】特開平8−169923号公報
【特許文献3】特開昭61−228402号公報
【特許文献4】特開昭62−10604号公報
【特許文献5】WO2008/001578A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献5には、フォトクロミック膜の物体側表面を柔軟にするほど、フォトクロミック化合物が光に応答して動き易くなる結果、フォトクロミックレンズにおいて光に対する応答速度および発色濃度が大きく向上することが示されている。本発明者の検討の結果、この点は上記特許文献1、2に記載の方法によって得られる、プラスチックレンズにフォトクロミック化合物を含むフォトクロミックレンズについても当てはまることであり、レンズ原料の組成や硬化条件の調整によって成形されるプラスチックレンズの表面硬度を下げることにより、光に対して素早く応答し、しかも高濃度で発色するフォトクロミックレンズが得られることが明らかとなった。しかし同時に本発明者の検討により、表面硬度を下げたプラスチックレンズにおいては成形型からの離型後にレンズ表面に微小な点状の凹凸変形(いわゆるオレンジピール)が特に顕著に発生し、眼鏡レンズとして実用に耐え得る外観を有するレンズを得ることは困難であることも判明した。
【0006】
そこで本発明の目的は、オレンジピールの発生が抑制された高品質な眼鏡用プラスチックレンズを得るための手段を提供することにあり、より詳しくは、表面が比較的柔らかいレンズであってもオレンジピールの発生を低減することが可能な眼鏡用プラスチックレンズの製造方法を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0007】
眼鏡用プラスチックレンズを注型重合により成形する際、加熱により重合反応を進行させる場合には、通常、低温域で重合を開始した後に高温域に昇温して重合を終了させる(例えば特許文献2参照)。本発明者は、表面が比較的柔らかいレンズにおけるオレンジピールの発生を抑制するために、ここでの重合条件に着目し鋭意検討を重ねた。その結果、ラジカル重合開始剤として10時間半減期温度(以下、「T10」と記載する。)60℃未満のものと60℃以上のものを併用するとともに、高温域での加熱温度と加熱時間(保持時間)が特定の条件を満たすように重合反応を行うことにより、オレンジピールの発生を防止できることを新たに見出した。この点について、本発明者は以下のように推察している。
重合中にレンズ表層部で不均一な内部歪みが発生すると、離型時や離型後の熱処理等の後工程においてこの内部歪が応力緩和される際、レンズ表層部では変形を引き起こそうとする力が生じる。表面が柔らかいレンズは、この力に抗することができないことが、上記のように、表面硬度を下げたレンズにおけるオレンジピール発生の原因であると本発明者は考えている。この点について更に詳細に説明すると、上記の不均一な内部歪みは微小な異物がプラスチックレンズ原料液中に混入し、レンズ表層部に残ったまま重合した場合などに発生し、熱処理等の後工程によって異物周辺のレンズ表面が凹凸変形することが、オレンジピール発生の一因と考えられる。オレンジピールは核となる異物が数μm以下の極めて微小なものであっても、変形の範囲は300μm程度にも及ぶ場合があり、肉眼でも視認できるほどの欠陥となる。このようなオレンジピールを構成する微小異物周辺部はその周辺よりも変形しやすく、局部的に重合度が低くなっていると推察される。従来の表面硬度が高いレンズを製造するための原料液には、一般にラジカル重合開始剤としてT10が60℃未満のものが好適に用いられるが、表面の柔らかいレンズを得るための原料液組成では、T10が60℃未満のラジカル重合開始剤とともにT10が60℃以上のラジカル重合開始剤を併用することが、オレンジピール発生の抑制に寄与すると、本発明者は考えている。より詳しくは、T10が60℃以上のラジカル重合開始剤が、T10が60℃未満のラジカル重合開始剤では十分な重合度に達しなかった異物周辺部に作用してこの部分の重合度を選択的に高め、その結果、重合度の不均一が解消されてオレンジピールが抑えられるものと推察している。
以上の知見は、本発明者が従来のものと比べて表面硬度を下げたプラスチックレンズを作製したことで初めて見出されたものである。
本発明者は、以上の知見に基づき更に鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]所定の間隔をもって対向する2つのモールドと、上記間隔を閉塞することにより形成されたキャビティを有する成形型の、上記キャビティへ加熱により重合する重合性成分を含むプラスチックレンズ原料液を注入すること、
上記プラスチックレンズ原料液の重合反応を行いプラスチックレンズを得ること、および、
得られたプラスチックレンズを成形型から離型すること、
を含む眼鏡用プラスチックレンズの製造方法であって、
前記離型後のプラスチックレンズの表面硬度はRスケールのロックウェル硬度100以下であり、
前記プラスチックレンズ原料液は、10時間半減期温度60℃未満のラジカル重合開始剤と10時間半減期温度60℃以上のラジカル重合開始剤とを含み、
前記重合反応を、前記プラスチックレンズ原料液を注入した成形型を90℃未満の低温域で加熱する低温重合段階と、その後に行われる90℃〜100℃の範囲の高温域で加熱する高温重合段階と、により行い、かつ、
前記高温重合段階を、下記式(1):
F≧−0.4Thigh+42 …(1)
[式(1)中、Thighは高温重合段階における加熱温度(℃)であり、Fは加熱温度Thighにおける保持時間(時間)である。]
を満たすように行うことを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズの製造方法。
[2]前記プラスチックレンズ原料液としてフォトクロミック化合物を含むプラスチックレンズ原料液を使用することにより、フォトクロミック性を示すプラスチックレンズを得る[1]に記載の眼鏡用プラスチックレンズの製造方法。
[3]10時間半減期温度60℃以上のラジカル重合開始剤の10時間半減期温度は60℃以上80℃以下である[1]または[2]に記載の眼鏡用プラスチックレンズの製造方法。
[4]前記低温重合段階における加熱温度は20℃〜50℃の範囲である[1]〜[3]のいずれかに記載の眼鏡用プラスチックレンズの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、注型重合法を用いる製造方法により得られる眼鏡用プラスチックレンズにおけるオレンジピールの発生を防ぐことができ、特に、高いフォトクロミック性能を得るために表面硬度を低く設定したフォトクロミックレンズにおいて、品質低下の原因となるオレンジピールの発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例において得られた式(1)導出のためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、所定の間隔をもって対向する2つのモールドと、上記間隔を閉塞することにより形成されたキャビティを有する成形型の、上記キャビティへ加熱により重合する重合性成分を含むプラスチックレンズ原料液を注入すること、上記プラスチックレンズ原料液の重合反応を行いプラスチックレンズを得ること、および、得られたプラスチックレンズを成形型から離型すること、を含む眼鏡用プラスチックレンズの製造方法であって、前記離型後のプラスチックレンズの表面硬度はRスケールのロックウェル硬度100以下であり、前記プラスチックレンズ原料液は、10時間半減期温度60℃未満のラジカル重合開始剤と10時間半減期温度60℃以上のラジカル重合開始剤とを含み、前記重合反応を、前記プラスチックレンズ原料液を注入した成形型を90℃未満の低温域で加熱する低温重合段階と、その後に行われる90℃〜100℃の範囲の高温域で加熱する高温重合段階と、により行い、かつ、
前記高温重合段階を、下記式(1):
F≧−0.4Thigh+42 …(1)
[式(1)中、Thighは高温重合段階における加熱温度(℃)であり、Fは加熱温度Thighにおける保持時間(時間)である。]
を満たすように行うことを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズの製造方法に関する。
【0012】
本発明の製造方法は、表面硬度が低い眼鏡用プラスチックレンズを注型重合により製造する際には、上記条件を満たすように重合反応を行うことにより表面欠陥(オレンジピール)の発生を抑制できるとの、先に説明した本発明者による新たな知見に基づき見出されたものであって、当該製造方法により、表面硬度が低いもののオレンジピールの発生が抑制された高品質な眼鏡用プラスチックレンズを提供することができる。
以下、本発明の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0013】
注型重合によるプラスチックレンズの成形
本発明の製造方法では、所定の間隔をもって対向する2つのモールドと、上記間隔を閉塞することにより形成されたキャビティを有する成形型の、上記キャビティへ加熱により重合する重合性成分を含むプラスチックレンズ原料液を注入し、上記キャビティ内でプラスチックレンズ原料液の重合反応を行いプラスチックレンズを得る。上記工程は、通常の注型重合法と同様に実施することができる。使用する成形型の詳細については、特開2009−262480号公報段落[0012]〜[0014]および同公報の図1を参照できる。
【0014】
キャビティへ注入されるプラスチックレンズ原料液は、製造すべき眼鏡用プラスチックレンズに求められる光学特性に応じて適切なものを選択して使用すればよい。一例として、本発明によりフォトクロミック化合物を含むプラスチックレンズを得るために好適なプラスチックレンズ原料液について説明する。
【0015】
プラスチックレンズ原料液に含まれる重合性成分としては、ラジカル重合性を有し、透明な重合物を与えるものを用いることが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、α−ナフチル(メタ)アクリレート、β−ナフチル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリル酸エステル類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル)プロパン等の多官能(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、p−クロルメチルスチレン等の核置換スチレンや1ービニルナフタレン、2ービニルナフタレン、4ービニルビフェニル、ビニルフェニルサルファイド等のビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、N−置換マレイミド、さらに、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ジアリルフタレート等のアリル化合物等が挙げられる。これらの重合性成分は一種または二種以上を混合して使用することができる。成形されるプラスチックレンズの表面硬度は、重合性成分の種類、混合比等により制御することができる。
【0016】
フォトクロミック化合物としては、フォトクロミック性能を発揮するものであれば特に制限はなく、フォトクロミックレンズに使用し得る公知の化合物の中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。例えばスピロピラン系化合物、クロメン系化合物、スピロオキサジン系化合物およびフルギド系化合物などのフォトクロミック化合物の中から所望の着色に応じて一種または二種以上を混合して用いることができる。
【0017】
上記スピロピラン系化合物の例としては、インドリノスピロベンゾピランのインドール環およびベンゼン環のハロゲン、メチル、エチル、メチレン、エチレン、水酸基などの各置換体、インドリノスピロナフトピランのインドール環およびナフタリン環のハロゲン、メチル、エチル、メチレン、エチレン、水酸基などの各置換体、インドリノスピロキノリノピランのインドール環のハロゲン、メチル、エチル、メチレン、エチレン、水酸基などの各置換体、インドリノスピロピリドピランのインドール環のハロゲン、メチル、エチル、メチレン、エチレン、水酸基などの各置換体などが挙げられる。
【0018】
クロメン系化合物の例としては、スピロ〔ノルボルナン−2,2'−〔2H〕ベンゾ〔h〕クロメン〕、スピロ〔ビシクロ〔3.3.1〕ノナン−9,2'〔2H〕ベンゾ〔h〕クロメン〕、7'−メトキシスピロ〔ビシクロ〔3.3.1〕ノナン−9,2'−〔2H〕ベンゾ〔h〕クロメン〕、7'−メトキシスピ〔ノルボルナン−2,2'−〔2H〕ベンゾ〔f〕クロメン〕、2,2−ジメチル−7−オクトキシ〔2H〕ベンゾ〔h〕クロメン、スピロ〔2−ビシクロ〔3.3.1〕ノネン−9,2'−〔2H〕ベンゾ〔h〕クロメン〕、スピロ〔2−ビシクロ〔3.3.1〕ノネン−9,2'−〔2H〕ベンゾ〔f〕クロメン〕、6−モルホリノ−3,3−ビス(3−フルオロ−4−メトキシフェニル)−3H−ベンゾ(f)クロメン、5−イソプロピル−2,2−ジフェニル−2H−ベンゾ(h)クロメンなどが挙げられる。
【0019】
スピロオキサジン系化合物の例としては、インドリノスピロベンゾオキサジンのインドール環およびベンゼン環のハロゲン、メチル、エチル、メチレン、エチレン、水酸基などの各置換体、インドリノスピロナフトオキサジンのインドール環およびナフタリン環のハロゲン、メチル、エチル、メチレン、エチレン、水酸基などの各置換体、インドリノスピロフェナントロオキサジンのインドール環のハロゲン、メチル、エチル、メチレン、エチレン、水酸基などの各置換体、インドリノスピロキノリノオキサジンのインドール環のハロゲン、メチル、エチル、メチレン、エチレン、水酸基などの各置換体、ピペリジノスピロナフトオキサジンのピペリジン環およびナフタリン環のハロゲン、メチル、エチル、メチレン、エチレン、水酸基などの各置換体などが挙げられる。
【0020】
フルギド系化合物の例としては、N−シアノメチル−6,7−ジヒドロ−4−メチル−2−フェニルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2'−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン〕、N−シアノメチル−6,7−ジヒドロ−2−(p−メトキシフェニル)−4−メチルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2'−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、6,7−ジヒドロ−N−メトキシカルボニルメチル−4−メチル−2−フェニルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2'−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、6,7−ジヒドロ−4−メチル−2−(p−メチルフェニル)−N−ニトロメチルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2'−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、N−シアノメチル−6,7−ジヒドロ−4−シクロプロピル−3−メチルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2'−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、N−シアノメチル−6,7−ジヒドロ−4−シクロプロピルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2'−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)、N−シアノメチル−6,7−ジヒドロ−2−(p−メトキシフェニル)−4−シクロプロピルスピロ(5,6−ベンゾ〔b〕チオフェンジカルボキシイミド−7,2'−トリシクロ〔3.3.1.13,7〕デカン)などが挙げられる。
【0021】
フォトクロミック化合物は近年種々のものが市販されており、市販化合物の場合、分子構造が明らかにされないことも多いが、本発明ではそれらを用いることもできる。
【0022】
プラスチックレンズ原料液中のフォトクロミック化合物量は、用いるフォトクロミック化合物の種類に応じて適宜設定すればよいが、良好なフォトクロミック性能を得る観点からは、プラスチックレンズ原料液100質量部に対し、通常0.001〜3.0質量部、好ましくは0.01〜1.0質量部の範囲で設定される。
【0023】
本発明において使用されるプラスチックレンズ原料液には、前記重合性成分、およびフォトクロミックレンズを得る際にはフォトクロミック化合物とともに、T10が60℃未満のラジカル重合開始剤(以下、「低T10開始剤」ともいう。)およびT10が60℃以上のラジカル重合剤(以下、「高T10開始剤」ともいう。)が更に含まれる。10時間半減期温度T10とは、当該重合開始剤の活性酸素量が10時間で半減する温度のことを指し、文献公知の値であり、または公知の方法により測定することができる。後述の実施例に示すように、本発明者は、重合工程の条件と表面欠陥(オレンジピール)発生率との関係について詳細な検証を行った結果、上記2つのタイプのラジカル重合開始剤を併用するとともに、高温域での加熱条件が満たすべき条件として前記した式(1)を見出すに至ったものである。
【0024】
10時間半減期温度が60℃以上の高T10開始剤としては1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート(T10=65℃)、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(T10=70℃)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(T10=72℃)等の過酸化物や、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(T10=65℃)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(T10=66℃)等のアゾ化合物が挙げられる。高T10開始剤は、低T10開始剤に対して少量添加することで、表面欠陥発生率を顕著に低減する作用を示すことができる。
【0025】
一方、低T10開始剤は、一般にラジカル重合性モノマー組成物の注型重合によってレンズを製造する場合、主として用いられる重合開始剤であり、具体例としては、クミルパーオキシネオデカネート(T10=37℃)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカネート(T10=41℃)、t−ヘキシルパーオキシネオデカネート(T10=45℃)、t−ブチルパーオキシネオデカネート(T10=47℃)、t−ヘキシルパーオキシピバレート(T10=53℃)、t−ブチルパーオキシピバレート(T10=55℃)等の過酸化物や、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメトキシバレロニトリル)(T10=30℃)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(T10=51℃)等のアゾ化合物が挙げられる。低T10開始剤は、プラスチックレンズ原料液全量100質量%に対して、通常0.01〜3.0質量%、好ましくは0.05〜1.5質量%の範囲で用いることができる。上記範囲で低T10開始剤を用いることで、重合反応を良好に進行させ均質なレンズを得ることができる。上記の低T10開始剤と併用する高T10開始剤は、低T10開始剤よりも少量用いることで、表面欠陥発生を抑制する効果を発揮することができる。高T10開始剤の好ましい添加量は、プラスチックレンズ原料液全量100質量%に対して0.01質量%以上である。なお高T10開始剤の添加量が多くなるほどフォトクロミック性能、特に光に対する応答速度が低下する傾向が見られる。良好なフォトクロミック性能を示すプラスチックレンズを得るためには、高T10開始剤の添加量は、プラスチックレンズ原料液全量100質量%に対して0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0026】
プラスチックレンズ原料液には、更に必要に応じ、各種添加成分、例えば熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、帯電防止剤、その他染料などを含有させることができる。
【0027】
上記のプラスチックレンズ原料液は、注型重合法において通常行われるように、成形型側面に設けた注入口から成形型キャビティに注入することができる。注入後、プラスチックレンズ原料液を加熱により重合させることで、プラスチックレンズ原料液が硬化(ラジカル重合)し、キャビティの内部形状が転写された成形体を得ることができる。
以下、上記重合時の条件について説明する。
【0028】
本発明における重合時の温度プログラムは、プラスチックレンズ原料液を注入した成形型を90℃未満の低温域で加熱する低温重合段階と、その後に行われる90℃〜100℃の範囲の高温域で加熱する高温重合段階とを含む。なお本発明において加熱に関する温度は、当該加熱を行う雰囲気温度(例えば加熱炉の炉内温度)をいうものとする。
低温重合段階は、90℃未満の低温域で行われ、通常のプラスチックレンズの重合条件と同様、20℃〜50℃の温度域で行うことが好ましい。通常、同温度域で保持した後、徐々に温度を上げつつ高温重合段階に移行する。上記低温域での加熱時間(保持時間)は、例えば5時間〜40時間程度とすることができる。また、低温域から高温域への昇温速度は特に限定されるものではないが、例えば5〜40℃/時間程度とすることができる。
【0029】
低温重合段階および低温重合段階から高温重合段階への移行(昇温)については上記の通りであり、一方、本発明では90℃〜100℃の温度域で行われる高温重合段階を、下記式(1)を満たすように行う。
F≧−0.4Thigh+42 …(1)
[式(1)中、Thighは高温重合段階における加熱温度(℃)であり、Fは加熱温度Thighにおける保持時間(時間)である。]
後述の実施例で詳述するように、表面欠陥発生率と高温重合段階の重合条件には明らかな相関が見られた。具体的には、後述するRスケールのロックウェル硬度で規定される表面硬度が100以下のレンズであれば、プラスチックレンズ原料液の組成が異なり、または得られるレンズの表面硬度が異なるとしても、加熱温度90℃では6時間以上、95℃では4時間以上、100℃では2時間以上加熱することで、表面欠陥発生率の顕著な低減が確認された。上記の加熱温度と最短加熱時間との関係をプロットして線形近似により導き出された関係式が上記式(1)であり、図1に示すように相関係数Rの二乗R2が1のきわめて良好な相関関係が成立していることから、式(1)の妥当性は実証されている。高温重合段階の加熱時間の下限値は上記式(1)により規定されるが、上限値は特に限定されるものではない。長時間にするほど工程が長期化するため、工程短縮の観点からは、Fの上限値は10時間以下とすることが好ましい。
【0030】
重合反応終了後、キャビティ内部の成形体(プラスチックレンズ)を成形型から離型する。注型重合法において通常行われているように、キャビティを形成している上下モールドとガスケット等の封止部材を任意の順序で取り外すことにより、プラスチックレンズを成形型から離型することができる。
【0031】
本発明では、注型重合により成形され離型されたレンズの表面硬度の指標として、Rスケールのロックウェル硬度(以下「HR」と記載する。)を用いる。後述の実施例で示すように、成形されるレンズがHR100超であれば、重合条件を上記のように規定することなく、オレンジピールのないプラスチックレンズを得ることができる。他方、離型されたプラスチックレンズがHR100以下では、注型重合時の重合条件を上記のように規定しなければ、オレンジピールの発生を抑制することは困難である。そこで本発明の製造方法では、HR100以下の表面の柔らかいプラスチックレンズにおけるオレンジピールの発生を抑制するために、先に説明したように重合を行う。
本発明により得られる眼鏡用プラスチックレンズは、フォトクロミック化合物を含有するプラスチックレンズ(フォトクロミックレンズ)に限られるものではないが、フォトクロミック化合物を含むプラスチックレンズについては、使用時に物体側となる表面(上記メニスカス形状のレンズにおいては凸面)の表面硬度がHR100以下で比較的柔らかいものは、フォトクロミック化合物がレンズ内で動きやすいため、光応答速度が速く、しかも高濃度で発色することができる。フォトクロミックレンズの使用時に眼球側となる表面の表面硬度も、同様にHR100以下であることができる。HRの下限値は特に限定されるものではないが、使用時の変形を防ぐ観点からは、HR70以上、更には80以上であることが好ましい。なお本発明においてRスケールのロックウェル硬度HRとは、JIS K7202−2に従い23℃で測定される値をいうものとする。
【0032】
成形型から離型されたプラスチックレンズは、通常、アニーリング、丸め工程等の研削工程、研磨工程、耐衝撃性を向上させるためのプライマーコート層、表面硬度を上げるためのハードコート層等のコート層形成工程等の後工程に付される。アニーリングは、例えば炉内温度100〜150℃程度の加熱炉内に1〜5時間程度、レンズを放置することにより行うことができる。
【0033】
また、本発明の製造方法では、注型重合法により成形したプラスチックレンズ(レンズ基材)の表面がHR100以下と従来のレンズと比べて柔らかいため、ハードコート層を形成することが、耐傷性を高めるために好ましい。これらのコート層を形成するには、コーティング組成物をディッピング法、スピンコート法、ロールコート法、スプレー法などにより、レンズ基材上に塗布する方法が通常用いられる。塗布されたコーティング組成物の硬化は一般に加熱処理することによって行われる。コーティング組成物の組成にもよるが、一般に加熱温度は40〜150℃が好ましく、特に好ましくは80〜130℃であり、加熱時間は1〜4時間が好ましい。
【0034】
上記のようにして得られた硬化被膜の表面上には、眼鏡用プラスチックレンズに反射防止効果を付与するため、反射防止膜を形成することもできる。反射防止膜は、真空蒸着法、イオンスパッタリング法、イオンプレーティング法などにより、SiO、SiO2、Si34、TiO2、ZrO2、Al23、MgF2等の誘電体よりなる単層または多層の薄膜を積層することにより形成することができ、大気との界面の反射を低く抑えることができる。反射防止膜は、単層からなる場合、その光学的膜厚は、λ0/4(λ0=450〜650nm)であることが好ましい。また光学的膜厚がλ0/4−λ0/4の屈折率の異なる二層膜、光学的膜厚がλ0/4−λ0/2−λ0/4またはλ0/4−λ0/4−λ0/4の屈折率の異なる三層膜よりなる多層反射防止膜、あるいは一部等価膜で置き換えた多層コートによる反射防止膜からなるものが有用である。
【実施例】
【0035】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。なお、実施例において、フォトクロミック性能の評価に用いた方法および使用した装置は以下のとおりである。
(a)発色時光線透過率(T%max):キセノンランプ(300W)光源装置を用いて、温度23℃、積算光量計で測定した紫外線強度1.2mW/cm2の条件でレンズを5分間発色させたときの分光を瞬間マルチ測光システムで測定し、そのときの極大吸収波長(λmax)での光線透過率と定義する。この光線透過率が低いほど発色濃度が高いことになる。
(b)退色半減期(F1/2): 前記5分間の発色後、光線照射を止めてからレンズのλmaxにおける吸光度が1/2まで低下するのに要する時間と定義する。この時間が短いほど退色速度が速いことになる。
・光源:ウシオ電気(株)製キセノンランプ(300W)装置「UIT−501C」
・積算光量計:ウシオ電気(株)製積算光量計「UIT−102(受光器UVD365PD)」
・瞬間マルチ測光システム:大塚電子(株)製「MCPD−3000」
【0036】
実施例、比較例において作製した表面硬度測定用のレンズについて、JIS K7202−2に従い23℃でRスケールのロックウェル硬度を測定したところ、以下の表1に示す値であった。
なお、実施例、比較例では、後述するように高温重合段階における加熱条件を変更してレンズを作製したが、同一の実施例、比較例の中では、いずれの加熱条件においても離型後のレンズの表面硬度は同じ値であること、および、離型後のアニーリング前後で表面硬度変化がないことを確認した。
【0037】
【表1】
【0038】
[実施例1]
2,2'−ビス〔4−(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕プロパン((下記構造式(1):
【化1】
において、m+n=2.6、R1はメチル基、R2は水素原子)50質量%、テトラエチレングリコールジメタクリレート30質量%、ポリエチレングリコールジメタクリレート(下記式:
【化2】
において、Bはエチレン基、pは平均で9の数を示す。)10質量%、α−メチルスチレン8質量%、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン2質量%の混合溶液100質量部にフォトクロミック化合物としてChromtech社製Photochromic Dyes PH−4115を0.02質量部溶解し、10時間半減期温度が60℃未満の重合開始剤としてt−ブチルパーオキシネオデカネート1.0質量部、10時間半減期温度が60℃以上の重合開始剤として1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート0.05質量部を加え混合溶解した。この調合液をそれぞれ2枚のガラスモールドとプラスチック製のガスケットからなる成形型に注入し、型を熱風循環式加熱炉に入れて40℃で12時間加熱し、その後4時間かけて、表2に示す高温重合段階における加熱温度まで昇温し、当該温度にて表2に示す時間、保持し重合を行った。その後、離型して得られたレンズを、表面を洗浄した後、炉内温度120℃の加熱炉内で2時間加熱してアニーリングを行った。
以上により、厚さ6.0mm(表面硬度測定用)または厚さ2.0mm、外径75mmの透明性の高い平面レンズを得た。
【0039】
[実施例2]
10時間半減期温度が60℃以上の重合開始剤1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサネートの添加量を0.10質量部に変えた以外は実施例1と同様の方法で、厚さ6.0mm(表面硬度測定用)または厚さ2.0mm、外径75mmの透明性の高い平面レンズを得た。
【0040】
[比較例1]
10時間半減期温度が60℃以上の重合開始剤を添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で、厚さ6.0mm(表面硬度測定用)または厚さ2.0mm、外径75mmの透明性の高い平面レンズを得た。
【0041】
[実施例3]
フォトクロミック重合性組成物のモノマー混合溶液組成を、実施例1で使用した2,2'−ビス〔4−(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕プロパン50質量%、テトラエチレングリコールジメタクリレート20質量%、ポリエチレングリコールジメタクリレート20質量%、α−メチルスチレン8質量%、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン2質量%に変更した以外は実施例1と同様の方法で、厚さ6.0mm(表面硬度測定用)または厚さ2.0mm、外径75mmの透明性の高い平面レンズを得た。
【0042】
[実施例4]
10時間半減期温度が60℃以上の重合開始剤1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサネートの添加量を0.10質量部に変えた以外は実施例1と同様の方法で、厚さ6.0mm(表面硬度測定用)または厚さ2.0mm、外径75mmの透明性の高い平面レンズを得た。
【0043】
[比較例2]
10時間半減期温度が60℃以上の重合開始剤を添加しなかった以外は実施例3と同様の方法で、厚さ6.0mm(表面硬度測定用)または厚さ2.0mm、外径75mmの透明性の高い平面レンズを得た。
【0044】
[比較例3]
フォトクロミック重合性組成物のモノマー混合溶液組成を、実施例1で使用した2,2'−ビス〔4−(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕プロパン50質量%、トリエチレングリコールジメタクリレート43質量%、α−メチルスチレン6質量%、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン1質量%に変更した以外は実施例1と同様の方法で、厚さ6.0mm(表面硬度測定用)または厚さ2.0mm、外径75mmの透明性の高い平面レンズを得た。
【0045】
表面欠陥有無の評価
上記のアニーリング後、高圧水銀灯照射し、透過光を約1メートル先の白色スクリーンに結像させて表面欠陥の有無を観察した。具体的には、照度200ルックスのテーブル上に高圧水銀灯と同ランプから1メートルの距離に白色スクリーンを置き、スクリーンの照度が1000ルックスになるように調整した。被検査レンズをランプとスクリーンの間でゆっくりと動かし、このときのレンズ透過光をスクリーンに結像させて表面欠陥の有無を観察した。レンズ表面の微小な凹凸変形(オレンジピール)に起因する局部的な照度の濃淡ムラが目視で発見できたものをオレンジピールあり、発見できなかったものをオレンジピールなしとして評価した。各加熱条件について、作製した24枚のレンズ中、オレンジピールありと評価されたレンズ枚数を、下記表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示すように、表面硬度HR100超のレンズを成形した比較例3では、高温重合段階における加熱条件にかかわらず、オレンジピールの発生はほとんど観察されなかった。
一方、10時間半減期温度60℃以上のラジカル重合開始剤を使用せず表面硬度HRが100以下のレンズを作製した比較例1、2では、高温重合段階の加熱条件の変更によってもオレンジピールの発生を防ぐことはできなかった。
これに対し、表2に示す結果から、表面硬度HRが100以下のレンズについては、高温重合段階における加熱条件とオレンジピール発生率との間には相関が見られた。即ち、高温重合段階での加熱温度90℃では、当該温度での保持時間が6時間以上でオレンジピール発生率は0%となり、95℃では4時間以上、100℃では2時間以上でオレンジピール発生率は0%となった。そこで、この相関関係を更に確認するために、加熱温度に対してオレンジピール発生率が0%となった最短保持時間をプロットしたグラフを作成した。作成されたグラフを、図1に示す。図1に示すグラフを最小二乗法により線形近似したところ、図1に示す一次関数が得られた。
前記した式(1)は、この一次関数により定められた関係式である。図1に示す一次関数は、相関係数の二乗R2が1であることから、オレンジピール発生率0%となる加熱温度と保持時間との間にはきわめて良好な相関関係が成立すること、したがって式(1)により高温重合段階における加熱条件を決定することで、表面硬度HRが100以下のレンズにおけるオレンジピールの発生を防ぐことができることが確認できる。
【0048】
フォトクロミック性能の評価
実施例、比較例のレンズの中で、高温重合段階の加熱温度95℃、保持時間5時間で作製したレンズについて、前述の方法でフォトクロミック性能を評価した。先に示したロックウェル硬度とともに、結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
表3に示す結果から、表面硬度を下げることによりフォトクロミック化合物を含有するプラスチックレンズの発色濃度および光応答速度を向上できることが確認できる。
このように表面を柔らかくすることによってフォトクロミック性能を高めたプラスチックレンズはオレンジピールが顕著に発生する傾向があるが、本発明によれば、先に説明したように注型重合を行うことで、オレンジピールの発生を防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、眼鏡レンズの製造分野に有用である。
図1