【実施例1】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、
図2は、
図1の側面図、
図3(a)は、
図1の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のIII方向から見た矢視図、
図4(a)は、
図3の変形例を示す要部拡大図、(b)は、IV方向から見た矢視図、
図5(a)は、
図3の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、V方向から見た矢視図、
図6(a)は、
図3の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、VI方向から見た矢視図、
図7(a)は、
図6の変形例を示す要部拡大図、(b)は、VII方向から見た矢視図、
図8(a)は、
図6の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、VIII方向から見た矢視図、
図9(a)は、
図6の他の変形例を示す要部拡大図、(b)は、IX方向から見た矢視図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(
図1の左側)、中央寄り側をインナー側(
図1の右側)という。
【0027】
図1、2に示す車輪用軸受装置は第3世代と呼称される従動輪用であって、固定側部材となる内方部材1と、回転側部材となる外方部材2、および両部材1、2間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)3、3とを備えている。内方部材1は、ハブ輪4と、このハブ輪4に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0028】
ハブ輪4は、外周に一方(インナー側)の内側転走面4aと、この内側転走面4aから段部7aを介して軸方向に延びる小径段部4bが形成されている。内輪5は、外周に他方(アウター側)の内側転走面5aが形成され、ハブ輪4の小径段部4bに圧入されて背面合せタイプの複列アンギュラ玉軸受を構成すると共に、小径段部4bの端部を塑性変形させて形成した加締部8によって内輪5が軸方向に固定されている。なお、内輪5および転動体3はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れによって芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0029】
ハブ輪4はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面4aから小径段部4bの外周面に亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。なお、加締部8は鍛造加工後の表面硬さのままとされている。これにより、内輪5の嵌合部となる小径段部4bの耐フレッティング性が向上すると共に、微小なクラック等の発生がなく加締部8の塑性加工をスムーズに行うことができる。
【0030】
外方部材2は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、ハブボルト(図示せず)が螺着されるボルト孔6aが穿設され、このボルト孔6aの周辺は肉厚のリブ6bが形成されている。このリブ6bにより、外方部材2の軽量化と高剛性化を図ることができ、大きな曲げモーメント荷重がこの車輪取付フランジ6に負荷されても充分な強度を確保することができる。
【0031】
また、外方部材2の内周には、内輪5の内側転走面5aに対向するアウター側の外側転走面2aと、この外側転走面2aから段部7bを介してハブ輪4の内側転走面4aに対向するインナー側の外側転走面2bが一体に形成されている。これら両転走面間に複列の転動体3、3が収容され、保持器9、10によって転動自在に保持されている。この外方部材2はS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面2a、2bが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。
【0032】
外方部材2と内方部材1との間に形成される環状空間のインナー側の開口部には後述するシール11が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。また、外方部材2のインナー側の端部にパルサーリング12が装着されている。このパルサーリング12は、芯金13と、この芯金13に加硫接着によって一体に接合される磁気エンコーダ14とからなる。
【0033】
芯金13は、強磁性体の鋼板、例えば、フェライト系のステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、外方部材2の端部外周に圧入される円筒状の嵌合部13aと、この嵌合部13aから径方向内方に延び、外方部材2のインナー側の端面2cに密着して位置決め精度を高める鍔部13bとを備えている。磁気エンコーダ14は、ゴム等のエラストマにフェライト等の磁性体粉が混入されると共に、周方向に交互に磁極N、Sが着磁され、車輪の回転速度検出用のロータリエンコーダを構成している。なお、ここでは、転動体3にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受を例示したが、これに限らず、転動体3に円錐ころを使用した複列円錐ころ軸受であっても良い。
【0034】
シール11は、
図3(a)に拡大して示すように、互いに対向配置されたスリンガ15と環状のシール板16とからなる、所謂パックシールで構成されている。スリンガ15は、防錆能を有する鋼板、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)やフェライト系のステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、ハブ輪4の外径に圧入される円筒部15aと、この円筒部15aから径方向外方に延びる立板部15bとからなる。
【0035】
一方、シール板16は、外方部材2のインナー側の端部に内嵌される芯金17と、この芯金17に加硫接着により一体に接合されたシール部材18とからなる。芯金17は、オーステナイト系ステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成されている。
【0036】
シール部材18はNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなり、径方向外方に傾斜して延び、スリンガ15の立板部15bのアウター側の側面に所定の軸方向シメシロを介して摺接するサイドリップ18aと、この内径側で二股状に傾斜して延び、スリンガ15の円筒部15aに所定の径方向シメシロを介して摺接するダストリップ18bとグリースリップ18cを有している。なお、シール部材18の材質としては、例示したNBR以外にも、例えば、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)等をはじめ、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等を例示することができる。
【0037】
本実施形態では、
図1に示すように、アウター側の転動体3のピッチ円直径PCDoがインナー側の転動体3のピッチ円直径PCDiよりも小径に設定されている(PCDo<PCDi)。そして、複列の転動体3、3のサイズは同じであるが、このピッチ円直径PCDo、PCDiの違いにより、インナー側の転動体3の個数がアウター側の転動体3の個数よりも多く設定されている。
【0038】
ハブ輪4の外郭形状は、内側転走面4aの溝底部からカウンタ部19と、このカウンタ部19から傾斜して形成された段部7a、および内輪5が突き合わされる肩部4cを介して小径段部4bに続いている。一方、外方部材2において、ピッチ円直径PCDo、PCDiの違いに伴い、アウター側の外側転走面2aがインナー側の外側転走面2bよりも縮径して形成され、アウター側の外側転走面2aから傾斜した段部7bを介してインナー側の外側転走面2bが形成されている。この段部7bの傾斜角は、ハブ輪4の段部7aの傾斜角と略同一角度になるように設定されている。
【0039】
こうした構成の車輪用軸受装置では、アウター側の転動体3のピッチ円直径PCDoをインナー側の転動体3のピッチ円直径PCDiよりも小径に設定され、その分、転動体3の個数もインナー側の個数がアウター側の個数よりも多く設定されているため、有効に軸受スペースを活用してアウター側に比べインナー側部分の軸受剛性を増大させることができ、軸受の長寿命化を図ることができる。さらに、ハブ輪4の段部7aと外方部材2の段部7bの傾斜が略同一角度に設定されているので、装置の軽量・コンパクト化と高剛性化という、相反する課題を解決することができる。
【0040】
ここで、ハブ輪4のインナー側の端部にはすり鉢状の凹所20を有する取付部21が形成されている。この凹所20の深さは肩部4c付近までとされ、ハブ輪4の取付部21が略均一な肉厚となっている。これにより、ハブ輪4の強度を保ちつつ軽量化を図ることができる。本実施形態では、この取付部21にボルト孔22が複数個形成され、これらボルト孔22に締結される固定ボルト(図示せず)によって懸架装置を構成するナックル(図示せず)に取り付けられる(
図2参照)。
【0041】
本実施形態では、ハブ輪4の取付部21の外径に遮蔽板(位置決め部材)23が装着され、この遮蔽板23に位置決め手段24が設けられている。遮蔽板23は、
図3(a)に示すように、防錆能を有する鋼板、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部23aと、この円筒部23aから径方向外方に延びる立板部23bとからなる。この立板部23bは、前述したパルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されると共に、スリンガ15の立板部15bと僅かな軸方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25’が形成されている。これにより、シール11に直接泥水が浸入するのを防止することができ、密封性を向上させることができる。
【0042】
位置決め手段24は、遮蔽板23の円筒部23aの外周の一部をカットして形成された平面部で構成されている(
図3(b)参照)。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの平面部が形成され、これら平面部同士を嵌合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図った車輪用軸受装置を提供することができる。
【0043】
図4に前述した位置決め手段24の変形例を示す。(a)に示すように、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材である遮蔽板26が装着され、この遮蔽板26に位置決め手段27が設けられている。遮蔽板26は、オーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部26aと、この円筒部26aから径方向外方に延びる立板部26bとを備えている。この立板部26bは、前述したパルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されている。これにより、シール11に直接泥水が浸入するのを防止することができ、密封性を向上させることができる。
【0044】
位置決め手段27は円筒部26aのインナー側の端部から径方向外方に折曲された係止片で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこの係止片に係合する凹部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0045】
図5に前述した位置決め手段24の他の変形例を示す。(a)に示すように、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材である遮蔽板28が装着され、この遮蔽板28に位置決め手段29が設けられている。遮蔽板28は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面が略L字状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部28aと、この円筒部28aから径方向外方に延びる立板部28bとからなる。この立板部28bは、前述したパルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されている。これにより、シール11に直接泥水が浸入するのを防止することができ、密封性を向上させることができる。
【0046】
位置決め手段29は、遮蔽板28の円筒部28aの外周の一部をカットして形成された凹部で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルに少なくとも一つの凸部が形成され、これら凹凸を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0047】
図6に前述した位置決め手段24の他の変形例を示す。(a)に示すように、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材である遮蔽板30が装着され、この遮蔽板30に位置決め手段31が設けられている。遮蔽板30は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面がクランク状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部30aと、この円筒部30aから径方向外方に延びる立板部30bと、円筒部30aから径方向内方に延び、取付部21の端面21aに密着する鍔部30cとを備え、立板部30bは、パルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されている。
【0048】
位置決め手段31は、遮蔽板30の鍔部30cから折曲された係止片で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこの係止片に係合する凹部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0049】
また、遮蔽板30の鍔部30cにより、位置決め手段31の位置決めを精度良く行うことができると共に、遮蔽板30と取付部21の嵌合面への雨水等の浸入によるもらい錆の発生を防止することができる。
【0050】
図7に前述した位置決め手段31の変形例を示す。(a)に示すように、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材である遮蔽板32が装着され、この遮蔽板32に位置決め手段33が設けられている。遮蔽板32は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面がクランク状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部30aと、この円筒部30aから径方向外方に延びる立板部30bと、円筒部30aから径方向内方に延び、取付部21の端面21aに密着する鍔部32aとを備え、立板部30bは、パルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されている。
【0051】
位置決め手段33は、遮蔽板32の鍔部32aの周方向一箇所に穿設された係合孔で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこの係合孔に係合する凸部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0052】
図8に前述した位置決め手段31の変形例を示す。(a)に示すように、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材である遮蔽板34が装着され、この遮蔽板34に位置決め手段35が設けられている。遮蔽板34は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面がクランク状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部30aと、この円筒部30aから径方向外方に延びる立板部30bと、円筒部30aから径方向内方に延び、取付部21の端面21aに密着する鍔部34aとを備え、立板部30bは、パルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されている。
【0053】
位置決め手段35は、遮蔽板34の鍔部34aの周方向一箇所に形成されたスリットで構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこのスリットに係合する凸部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【0054】
図9に前述した位置決め手段31の変形例を示す。(a)に示すように、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材である遮蔽板36が装着され、この遮蔽板36に位置決め手段37が設けられている。遮蔽板36は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて断面がコの字状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部36aと、この円筒部36aから径方向外方に延びる立板部30bとを備え、この立板部30bは、パルサーリング12に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されている。
【0055】
位置決め手段37は、遮蔽板36の円筒部36aのインナー側の端部から折曲された係止片で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこの係止片に係合する凹部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。
【実施例3】
【0061】
図13は、本発明に係る車輪用軸受装置の第3の実施形態を示す縦断面図、
図14は、
図13の側面図、
図15(a)は、
図13の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXV方向から見た矢視図である。なお、この第3の実施形態は、前述した第1の実施形態(
図1)と基本的には位置決め手段が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0062】
図13、14に示す車輪用軸受装置は、内方部材1と外方部材2、および両部材1、2間に転動自在に収容された複列の転動体3、3とを備えている。内方部材1は、ハブ輪4と、このハブ輪4に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0063】
外方部材2と内方部材1との間に形成される環状空間のインナー側の開口部にはシール11が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0064】
本実施形態では、ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材41が装着され、この位置決め部材41に位置決め手段42が設けられている。位置決め部材41は、
図15(a)に示すように、GF(グラス繊維)等の繊維状強化材が10〜50wt%充填されたPA(ポリアミド)66等の熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって断面が略L字状に、全体として円環状に形成されている。なお、GFの充填量が10wt%未満ではその補強効果が発揮されず、また、50wt%を超えて充填されると、成形品内の繊維が異方性を引き起こして密度が大きくなって寸法安定性が低下すると共に、靭性が低下し、組立時の弾性変形によって割損する恐れがあるため好ましくない。なお、繊維状強化材としては、GFに限らず、これ以外に、CF(炭素繊維)やアラミド繊維、ホウ素繊維等を例示することができる。
【0065】
なお、位置決め部材41の材質として、前述したPA66以外に、PPA(ポリフタルアミド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の所謂エンジニアリングプラスチックと呼称される熱可塑性の合成樹脂やポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)等の所謂スーパーエンジニアリングプラスチックと呼称される熱可塑性の合成樹脂、あるいは、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、ポリイミド樹脂(PI)等の熱硬化性の合成樹脂であっても良い。また、環境負荷を軽減する生分解性の合成樹脂であっても良い。この生分解性の合成樹脂の成分としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、変性ポリビニルアルコール、カゼイン等を例示することができる。
【0066】
位置決め手段42は、位置決め部材41の外周の一部をカットして形成された平面部で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの平面部が形成され、これら平面部同士を嵌合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図った車輪用軸受装置を提供することができる。ここで、位置決め部材41の端部にテーパ状の案内部41aが形成されている。これにより、車両組立時の位置決めを容易にでき、組立工数を削減することができる。なお、この案内部41aはテーパ状に限らず、例えば、円弧面からなるR面であっても良い。
【0067】
図16に前述した位置決め手段42の変形例を示す。ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材43が装着され、この位置決め部材43の外周に位置決め手段44が設けられている。位置決め部材43は、
図16(a)に示すように、GF等の繊維状強化材が10〜50wt%充填されたPA66等の熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって円筒状に形成されている。
【0068】
位置決め手段44は、円筒状の位置決め部材43のインナー側の端部に径方向に突出して形成された係止片で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこの係止片に係合する凹部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。ここで、位置決め手段44の端部にテーパ状の案内部44aが形成されている。これにより、車両組立時の位置決めを容易にでき、組立工数を削減することができる。なお、位置決め手段44として、図示はしないが、
図5で記載したように遮蔽板28の円筒部(位置決め部材)28aの外周の一部をカットして形成された凹部で構成してもよい。
【0069】
図17に前述した位置決め手段44の変形例を示す。ハブ輪4の取付部21の外径に位置決め部材45が装着され、この位置決め部材45に位置決め手段46が設けられている。位置決め部材45は、
図17(a)に示すように、GF等の繊維状強化材が10〜50wt%充填されたPA66等の熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって断面が略L字状に形成され、取付部21の外径に圧入される円筒部45aと、この円筒部45aのインナー側の端部から径方向内方に延び、ハブ輪4の取付部21の端面21aに密着する鍔部45bを備えている。
【0070】
位置決め手段46は、位置決め部材45の鍔部45bの側面から一部突出して形成された係止片で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルにこの係止片に係合する凹部が形成され、これら凹凸部を係合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。ここで、位置決め手段46は断面が円形で、その先端部が尖塔状に形成されている。これにより、車両組立時の位置決めを容易にでき、組立工数を削減することができる。なお、位置決め手段46として、図示はしないが、
図7で記載したように位置決め部材45の鍔部45bの周方向一箇所に穿設された係合孔にて構成しても良いし、
図8で記載したようにスリットにより構成しても良い。また、位置決め手段46として、
図9で記載したようなインナー側の端部から折曲された係止片で構成しても良い。
【実施例4】
【0071】
図18は、本発明に係る車輪用軸受装置の第4の実施形態を示す縦断面図、
図19は、
図18の側面図、
図20(a)は、
図18の位置決め手段を示す要部拡大図、(b)は、(a)のXX方向から見た矢視図である。なお、この第4の実施形態は、前述した第3の実施形態(
図13)と基本的にはシールの構成と位置決め手段が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0072】
図18、19に示す車輪用軸受装置は、内方部材1と外方部材2、および両部材1、2間に転動自在に収容された複列の転動体3、3とを備えている。内方部材1は、ハブ輪4と、このハブ輪4に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。
【0073】
外方部材2と内方部材1との間に形成される環状空間のインナー側の開口部にはシール47が装着され、軸受内部に封入されたグリースの外部への漏洩と、外部から雨水やダスト等が軸受内部に侵入するのを防止している。
【0074】
シール47は、
図20(a)に拡大して示すように、互いに対向配置されたスリンガ48と環状のシール板16とからなるパックシールで構成されている。スリンガ48は、防錆能を有するオーステナイト系ステンレス鋼板やフェライト系のステンレス鋼板、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板からプレス加工にて形成され、ハブ輪4の取付部21の外径に圧入される円筒部48aと、この円筒部48aから径方向外方に延びる立板部48bを備えている。
【0075】
本実施形態では、スリンガ48に位置決め部材49が射出成形によって一体に接合され、この位置決め部材49に位置決め手段50が設けられている。位置決め部材49は、GF等の繊維状強化材が10〜50wt%充填されたPA66等の熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって断面が略L字状に、全体として円環状に形成されている。
【0076】
位置決め部材49は、スリンガ48の立板部48bの先端部からインナー側の側面に亙って接合される立板部49aと、この立板部49aの内径部からインナー側に延び、取付部21の外径に圧入される円筒部49bを備えている。
【0077】
位置決め手段50は、位置決め部材49の円筒部49bの外周の一部をカットして形成された平面部で構成されている((b)参照)。そして、相手側のナックルの内周にも少なくとも一つの平面部が形成され、これら平面部同士を嵌合させることにより、ハブ輪4とナックルとの周方向の位置決めを容易に行うことができ、車両への組立工数の削減を図ることができる。ここで、位置決め部材49の円筒部49bの端部にテーパ状の案内部50aが形成されている。これにより、車両組立時の位置決めを容易にでき、組立工数を削減することができる。
【0078】
図21に前述した位置決め部材49の変形例を示す。この実施形態は、前述した位置決め部材49の一部形状が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。この位置決め部材51は、(a)に示すように、シール47’を構成するスリンガ48に射出成形によって一体に接合されている。
【0079】
本実施形態では、位置決め部材51は、GF等の繊維状強化材が10〜50wt%充填されたPA66等の熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって断面が略L字状に、全体として円環状に形成されている。そして、スリンガ48の立板部48bの先端部からインナー側の側面に亙って接合される立板部49aと、この立板部49aの内径部からインナー側に延び、取付部21の外径に圧入される円筒部49bと、立板部49aの外径部から径方向に突出して形成される帯状部51aを備えている。位置決め手段50は、位置決め部材51の円筒部49bの外周の一部をカットして形成された平面部で構成されている((b)参照)。
【0080】
位置決め部材51の帯状部51aは、外方部材2の端部に装着されたパルサーリング12の磁気エンコーダ14に僅かな径方向すきまを介して対向し、ラビリンスシール25が形成されると共に、シール47’を構成するシール板16にL字状の環状すきまを介して対向し、ラビリンスシール52が形成されている。これにより、シール47’に直接泥水が浸入するのを防止することができ、密封性を一層向上させることができる。
【0081】
図22に前述した位置決め部材49の変形例を示す。この実施形態は、前述した位置決め部材49の一部形状が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。この位置決め部材53は、(a)に示すように、シール47”を構成するスリンガ48に射出成形によって一体に接合されている。
【0082】
位置決め部材53は、GF等の繊維状強化材が10〜50wt%充填されたPA66等の熱可塑性の合成樹脂からなり、射出成形によって断面が略クランク状に形成されている。そして、スリンガ48の立板部48bの先端部からインナー側の側面に亙って接合される立板部49aと、この立板部49aの内径部からインナー側に延び、取付部21の外径に圧入される円筒部49bと、この円筒部49bから径方向内方に延び、取付部21の端面21aに密着する鍔部53aを備えている。位置決め手段50は、位置決め部材53の円筒部49bの外周の一部をカットして形成された平面部で構成されている((b)参照)。
【0083】
本実施形態では、位置決め部材53がスリンガ48に一体に接合され、この鍔部53aが取付部21の端面21aに密着されているので、スリンガ48の位置決め精度を向上させると共に、車両への組立時にスリンガ48の位置が変動しないため、シール47”のシメシロを精度良く管理することができる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。