特許第5918651号(P5918651)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5918651リチウム複合酸化物膜,リチウム複合酸化物構造体,リチウム複合酸化物構造体の製造方法,リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918651
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】リチウム複合酸化物膜,リチウム複合酸化物構造体,リチウム複合酸化物構造体の製造方法,リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20160428BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20160428BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20160428BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20160428BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20160428BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20160428BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20160428BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/66 A
   H01M4/1391
   H01M4/485
   H01M10/052
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-177047(P2012-177047)
(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公開番号】特開2014-35909(P2014-35909A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2014年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】我田 元
(72)【発明者】
【氏名】小峰 重樹
(72)【発明者】
【氏名】加美 謙一郎
【審査官】 佐藤 知絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−071113(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/064779(WO,A1)
【文献】 特表2002−522344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/66
H01M 4/1391
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル構造を有し、化学組成を示す一般式がLiMn2−yNi(yは0以上0.6以下)で示され、結晶学的に空間群Fd−3mに属するリチウム複合酸化物からなる膜状のリチウム複合酸化物膜であって、
該リチウム複合酸化物膜中の該リチウム複合酸化物の体積分率が75%以上100%より小さく、
かつ、X線源としてCuKα線を使用して測定モード2θ/θモードとして該リチウム複合酸化物膜の表面にX線を入射するX線回折測定で、回折角2θが、18.7±1°付近に存在する(111)の回折ピーク,36.2±1°付近に存在する(311)の回折ピークおよび64.0±1°付近に存在する(440)の回折ピークが存在し、
該(111)の回折ピークの存在量をX,(311)面の回折ピークの存在量をY,(440)面の回折ピークの存在量をZとしたときに、Y/Xが0.4以上0.6以下,Z/Xが0.5以上2.0以下であることを特徴とするリチウム複合酸化物膜。
【請求項2】
請求項1に記載の前記リチウム複合酸化物膜と、
該リチウム複合酸化物膜をその表面に形成される金属板と、
を有するリチウム複合酸化物構造体であって、
該金属板は、該リチウム複合酸化物膜との当接面が、白金,アルミニウム,ステンレスの少なくとも一種により形成されていることを特徴とするリチウム複合酸化物構造体。
【請求項3】
請求項1に記載の前記リチウム複合酸化物膜と、
該リチウム複合酸化物膜をその表面に形成される金属板と、
を有するリチウム複合酸化物構造体であって、更に、該金属板が、該リチウム複合酸化物膜との当接面が、白金,アルミニウム,ステンレスの少なくとも一種により形成されているリチウム複合酸化物構造体の製造方法であって、
アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を含む硝酸塩,炭酸塩,硫酸塩,フッ化物,塩化物の内、アルカリ金属としてリチウムを含む塩を少なくとも一つは含む混合物よりなるフラックスと、請求項1に記載のLiMn2−yNiの原料となるMnとNiを含む酸化物,炭酸塩,硝酸塩,塩化物,金属,合金の内の少なくとも一つと、を有する混合物を、200℃以上,1000℃以下の熱処理工程を少なくとも一度は施すことで、該金属板上に該リチウム複合酸化物膜を形成するリチウム複合酸化物構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の前記リチウム複合酸化物膜請求項2記載の前記リチウム複合酸化物構造体のうちいずれかを用いてなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項5】
請求項4に記載の前記リチウムイオン二次電池用電極を正極として用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
負極にチタン含有酸化物を用いた請求項5記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池に適用可能な、リチウム複合酸化物膜及びリチウム複合酸化物構造体に関する。また、リチウム複合酸化物構造体の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高エネルギー密度を特徴とするリチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等の小型民生機器に使用されてきた。近年では、定置型蓄電システム、ハイブリッド自動車、電気自動車などの大型機器への使用が検討されており、その中でリチウムイオン二次電池の高容量化は重要な課題である。
【0003】
リチウムイオン二次電池の容量は、リチウムイオンを電気化学的に脱挿入する正極活物質の種類に拠るところが大きい。正極活物質にはLiCoOやLiMn、LiFePOなどの酸化物の無機粉末が用いられる。正極活物質は、容量の他、電池電圧、入出力特性や安全性などが異なることから、電池の用途によって使い分けられているのが現状である。この中で、スピネル構造を有するLiMnと関連する複合酸化物は、電池電圧が高く、かつ安全性も高いことから車載用を含む大型電池への適用が進んでいる。
【0004】
一方で、これら無機粉末である正極活物質を電池電極に適用する際には、金属の集電体上に電極としての構造を維持し、かつ電気伝導性を確保するために、接着能を有するバインダや電気伝導性を有する導電材を添加して用いる必要があった。
【0005】
このようにして得られる電極は、正極活物質以外の添加剤を用いていることから、体積エネルギー密度の低下を招いたり、正極基板と正極活物質との密着性が不十分となるという問題があった。
【0006】
このような問題に対して、たとえば、特許文献1では、Li源とMn源を含む混合水溶液を金属の集電体上に塗布、熱処理を複数回繰り返すことでLiMnを正極活物質とする薄膜を形成し、高容量化することが提案されている。
【0007】
しかしながら、たとえば、5回の繰り返し処理によっても最終的な電極膜厚は1μm程度であり、実用的な電池を構成するには電極を多層化する必要があり、この場合は容量に寄与しない集電体が電池全体に占める体積分率が増加するため容量向上の効果は限定的である。
【0008】
また、塗布による製造方法では、一般的には1回の塗布によって形成できる膜厚が0.1μm〜0.3μm程度であり、緻密膜の形成には塗布と加熱処理を繰り返す必要があることが非特許文献1に示されている。
【0009】
したがって、塗布法では数μmを超える緻密な膜を形成することは困難であり、膜厚が数μmを超えるような場合には膜密度が粗になったり、膜と平行にクラックや界面が生じたりする可能性が高い。膜密度が粗であることは、容量を低下させ、膜と平行に生じた界面は電子の移動、イオンの拡散にとって抵抗となるため電池特性を低下させる懸念もある。
【0010】
一方で、形成した電池電極には一定の空隙(空壁)を設ける必要がある。これは、電極が緻密であると電池反応に寄与する正極活物質の粒子表面と電解液との接触が不十分となり、電池反応が阻害されることを防止するためである。バインダにはポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン(PTFE)といった高分子が用いられ、導電材にはアセチレンブラックやVGCFといった炭素材料が用いられるが、これらは電気容量を持たないため、添加量に伴い電極としての容量密度が低下する問題がある。空隙の導入も同様の理由で容量密度を低下する。
【0011】
以上の問題は、スピネル構造を有するLiMnと関連する複合酸化物を正極活物質とした場合にも例外ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3616694号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】作花済夫著 「ゾル−ゲル法の科学」アグネ承風社、2010年3月25日、P85−93
【非特許文献2】Journal of Power Sources 153 (2006) 174−176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述の様に、従来の電極は、電池の容量向上が出来ない問題があった。
本発明は、上記実状に鑑みてなされたものであり、電池の容量を向上できる、高容量密度の電極および電池を提供することを課題とする。また、これらに用いられるリチウム複合酸化物膜,リチウム複合酸化物構造体,リチウム複合酸化物構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明者等は、スピネル構造を有するLiMnと関連する複合酸化物について検討を重ねた結果、この複合酸化物で添加剤を含まない緻密な膜を形成し、形成された緻密な複合酸化物膜から電極及び電池を構成することで課題を解決できることを見出した。
【0016】
すなわち、請求項1に記載の本発明のリチウム複合酸化物膜は、スピネル構造を有し、化学組成を示す一般式がLiMn2−yNi(yは0以上0.6以下)で示され、結晶学的に空間群Fd−3mに属するリチウム複合酸化物からなる膜状のリチウム複合酸化物膜であって、リチウム複合酸化物膜中のリチウム複合酸化物の体積分率が75%以上100%より小さく、かつ、X線源としてCuKα線を使用して測定モード2θ/θモードとしてリチウム複合酸化物膜の表面にX線を入射するX線回折測定で、回折角2θが、18.7±1°付近に存在する(111)の回折ピーク,36.2±1°付近に存在する(311)の回折ピークおよび64.0±1°付近に存在する(440)の回折ピークが存在し、(111)の回折ピークの存在量をX,(311)面の回折ピークの存在量をY,(440)面の回折ピークの存在量をZとしたときに、Y/Xが0.4以上0.6以下,Z/Xが0.5以上2.0以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明のリチウム複合酸化物膜は、スピネル構造を有し、化学組成を示す一般式がLiMn2−yNi(yは0以上0.6以下)で示され、結晶学的に空間群Fd−3mに属するリチウム複合酸化物からなる。本発明のリチウム複合酸化物膜を構成するリチウム複合酸化物が、この構造を有することで、リチウムイオン二次電池の正極に用いたときに、リチウムイオンが電気化学的に脱挿入することが容易に行われるようになる。
【0018】
本発明のリチウム複合酸化物膜は、特定の構造を有するリチウム複合酸化物からなるものであるが、特定の構造を有するリチウム複合酸化物からなるものだけではなく、特定の構造を有するリチウム複合酸化物を主成分としてなるものであってもよい。ここで、主成分としてなるものとは、結晶構造を解析したときに、特定の構造を最も多く含む状態である。
【0019】
そして、本発明のリチウム複合酸化物膜は、リチウム複合酸化物膜中のリチウム複合酸化物の体積分率が75%以上100%より小さい。体積分率がこの範囲になることで、本発明のリチウム複合酸化物膜が空隙の少ない緻密なものとなる。つまり、リチウムイオン二次電池の正極に用いたときに、電極反応を生じる活物質が緻密なものとなり、電極の体積当たりの容量密度が理論容量の75%以上を発現でき、電池特性が優れたリチウムイオン二次電池を得られる。
【0020】
ここで、体積分率とは、リチウム複合酸化物膜に占めるリチウム複合酸化物の体積比である。なお、体積分率を求めるに当たって、スピネル構造のLiMn2−yNi(yは0以上0.6以下)の理論密度は、yの値により変化するが、その変化が無視できる程度であるため、公知の値(4.2g/cm)を用いることができる。
【0021】
本発明のリチウム複合酸化物膜は、X線源としてCuKα線を使用して測定モード2θ/θモードとしてリチウム複合酸化物膜の表面にX線を入射するX線回折測定で、回折角2θが、18.7±1°付近に存在する(111)の回折ピーク,36.2±1°付近に存在する(311)の回折ピークおよび64.0±1°付近に存在する(440)の回折ピークが存在し、(111)の回折ピークの存在量をX,(311)面の回折ピークの存在量をY,(440)面の回折ピークの存在量をZとしたときに、Y/Xが0.4以上0.6以下,Z/Xが0.5以上2.0以下である。
【0022】
本発明にかかるリチウム複合酸化物膜は、X線回折の測定結果がこの特性を示す表面を有する複合酸化物よりなることで、リチウムイオン二次電池の正極として用いたときに、リチウムイオンの挿入脱離が容易になり、電池容量の低下が抑えられたものとなる。
【0023】
具体的には、空間群Fd−3mに属し、スピネル構造を有するLiMnにおいて、リチウムイオンが8aサイトと16cサイトを交互にホッピングする可能性が、Nobuo Ishizawaら、Journal of the Ceramic Society of Japan 117 6−14(2009)に示されている。
【0024】
そして、本発明にかかるリチウム複合酸化物膜は、電解液と接する膜表面の大部分が<110>方向に垂直な(hh0)と<110>方向と比較的垂直に近い(hkk)で覆われているという結晶学的特徴を備えている。このことは、X線源としてCuKα線を使用し、測定モード2θ/θモードとして膜表面にX線を入射するX線回折測定で回折角2θが18.7±1°付近に存在する(111)の回折ピーク、36.2±1°付近に存在する(311)の回折ピークおよび64.0±1°付近に存在する(440)の回折ピークが存在し、膜表面における各結晶面の存在量をX、Y、Zとしたとき、その存在割合Y/Xが0.4以上、Z/Xが0.5以上であることから確認できる。
【0025】
上記したように、空間群Fd−3mに属し、スピネル構造を有するLiMn2−yNiのy=0に相当するLiMnではリチウムイオンが8aサイトと16cサイトを交互にホッピングすることが指摘されている。これは、<110>方向にリチウムイオンが拡散していることと同義と考えられる。したがって、本発明にかかるリチウム複合酸化物膜においても、<110>方向に垂直、もしくは垂直に近い特定の結晶面を膜表面に有したものとなっていることから、リチウムイオン二次電池の電極に用いられたときに、優先的に電解液と接触させることでリチウムイオンの挿入脱離が容易になると考えられる。
【0026】
請求項2に記載の本発明のリチウム複合酸化物構造体は、請求項1に記載のリチウム複合酸化物膜と、リチウム複合酸化物膜をその表面に形成される金属板と、を有するリチウム複合酸化物構造体であって、金属板は、リチウム複合酸化物膜との当接面が、白金,アルミニウム,ステンレスの少なくとも一種により形成されていることを特徴とする。
【0027】
すなわち、本発明のリチウム複合酸化物構造体は、本発明にかかるリチウム複合酸化物膜を、リチウム複合酸化物膜との当接面が、白金,アルミニウム,ステンレスの少なくとも一種により形成されている金属板に形成している。また、リチウム複合酸化物膜との当接面が、これらの元素より選択されることで、リチウム複合酸化物膜を金属板の表面に一体に形成できる。なお、金属板の表面の元素の選択は、リチウムイオン二次電池の電極に用いられたときに、電池電圧の制約によって限定される。
【0028】
また、本発明のリチウム複合酸化物構造体の金属板は、当接面以外の材質は限定されるものではなく、当接面を形成する材質と同じ材質であっても、異なる導電性の金属であっても、いずれでもよい。
【0029】
請求項3に記載の本発明のリチウム複合酸化物構造体の製造方法は、請求項1に記載のリチウム複合酸化物膜と、リチウム複合酸化物膜をその表面に形成される金属板と、を有するリチウム複合酸化物構造体であって、金属板は、リチウム複合酸化物膜との当接面が、白金,アルミニウム,ステンレスの少なくとも一種により形成されているリチウム複合酸化物構造体の製造方法であって、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を含む硝酸塩,炭酸塩,硫酸塩,フッ化物,塩化物の内、アルカリ金属としてリチウムを含む塩を少なくとも一つは含む混合物よりなるフラックスと、請求項1に記載のLiMn2−yNiの原料となるMnとNiを含む酸化物,炭酸塩,硝酸塩,塩化物,金属,合金の内の少なくとも一つと、を有する混合物を、200℃以上,1000℃以下の熱処理工程を少なくとも一度は施すことで金属板上に形成される。
【0030】
すなわち、本発明の製造方法によると、リチウム複合酸化物構造体のリチウム複合酸化物膜は、LiMn2−yNiの原料となるMnとNiを含む原料をフラックスとともに熱処理することで、緻密なLiMn2−yNi(yは0以上0.6以下)よりなる膜を形成することができる。
【0031】
本発明の製造方法によると、リチウム複合酸化物構造体は、フラックスとともにMnとNiを含む原料を溶融した溶融物を、金属板の表面に接触させることで、金属板の表面にリチウム複合酸化物膜を、一体に形成することができる。
【0032】
請求項4に記載の本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、請求項1に記載のリチウム複合酸化物膜請求項2に記載のリチウム複合酸化物構造体のうちいずれかを用いてなることを特徴とする。
【0033】
上記のように、本発明のリチウム複合酸化物膜及びリチウム複合酸化物構造体は、リチウムイオン二次電池の電極として用いたときに、上記の優れた効果を発揮する。すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池は、上記の優れた効果を発揮することができる。
請求項5に記載の本発明のリチウムイオン二次電池は、請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用電極を正極として用いたことを特徴とする。
【0034】
上記のように、本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、上記の優れた効果を発揮する。すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池は、上記の優れた効果を発揮することができる。
請求項7に記載の本発明のリチウムイオン二次電池は、負極にチタン含有酸化物を用いたことが好ましい。
【0035】
請求項6に記載の本発明のリチウムイオン二次電池は、負極にチタン含有酸化物を用いたことが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明のリチウム複合酸化物膜,リチウム複合酸化物構造体,リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池は、正極表面を形成するリチウム複合酸化物膜が、空隙の少ない緻密なリチウム複合酸化物よりなり、電極の体積当たりの容量密度が理論容量の75%以上を発現でき、電池特性が優れたリチウムイオン二次電池を得られる効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施例1のコイン型電池の構成を示す縦断面図である。
図2】本発明の実施例1の白金箔上に形成されたリチウム複合酸化物構造体の断面のSEM画像である。
図3】本発明の実施例1のリチウム複合酸化物構造体のX線回折図形である。
図4】本発明の実施例2のリチウム複合酸化物構造体のX線回折図形である。
図5】本発明の比較例1の電極のX線回折図形である。
図6】本発明の比較例2の正極活物質粉末の粉末X線回折図形である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(リチウム複合酸化物膜)
本発明のリチウム複合酸化物膜は、上記した構成以外は限定されるものではない。
本発明のリチウム複合酸化物膜は、膜厚方向に垂直な方向及び垂直に近い方向に沿ってのびる界面を有さないことが好ましい。すなわち、本発明のリチウム複合酸化物膜は、膜厚方向に沿った方向で調べたときに、当該方向が界面を横切らない(界面と交差しない)構成であることが好ましい。
【0039】
Tsuneaki Matsudairaら、 Journal of Materials Science (2011)、46、4407−4412には、酸化物イオン、アルミニウムイオンが界面に沿って、優先的に拡散することが示されている。これは、イオン種ではなく界面という状態に依存する現象であることから、リチウムイオンについても、界面に沿った高速拡散が期待できることを示す。
【0040】
これに対し、界面は抵抗であり、その界面を横切るような拡散は困難であるとする理解は一般に妥当である。このため、本発明のリチウム複合酸化物膜は、膜厚方向に沿った方向で調べたときに、当該方向が界面を横切らない(界面と交差しない)構成となることで、内部をイオン(リチウムイオン)が移動するときの抵抗が抑えられ、リチウムイオン二次電池の電極を形成した時に内部抵抗の上昇が抑えられる。
【0041】
本発明のリチウム複合酸化物膜は、膜厚方向に沿ってのびる界面を有することが好ましい。上記したように、イオンが界面に沿って優先的に拡散するものであることから、膜厚方向に沿ってのびる界面を有することで、この界面に沿ってイオンが素早く拡散でき、リチウムイオン二次電池の電極を形成した時に内部抵抗の上昇が抑えられる。
なお、上記の界面とは、リチウム複合酸化物膜の表面だけでなく、リチウム複合酸化物膜を形成する複合酸化物の結晶構造が異なる界面を含む。
【0042】
本発明のリチウム複合酸化物膜は、リチウム複合酸化物膜よりなる複数の小片が、膜の広がる方向に緻密に配された構成であることが好ましい。この構成によると、小片間の空隙が膜厚方向に沿ってのびる界面に該当し、この空隙からもイオンが素早く拡散でき、リチウムイオン二次電池の電極を形成した時に内部抵抗の上昇が抑えられる。
【0043】
本発明のリチウム複合酸化物膜は、その膜厚が限定されるものではないが、厚い方が好ましい。膜厚が厚くなるほど、リチウムイオン二次電池の電極の容量の増加の効果を発揮できる。好ましい膜厚は1μm以上であり、より好ましい膜厚は3μm以上であり、更に好ましい膜厚は5μm以上である。
【0044】
本発明のリチウム複合酸化物膜は、その製造方法が限定されるものではないが、後述のリチウム複合酸化物膜構造体におけるリチウム複合酸化物膜の形成と同様の方法を適用することができる。
【0045】
なお、本発明のリチウム複合酸化物膜は、後述のリチウム複合酸化物膜構造体の金属板以外の部材の表面に付着させること以外でも製造することができる。この金属板以外の部材は限定されるものではなく、リチウム複合酸化物と反応が抑えられた材質よりなる部材をあげることができ、たとえば、ガラス,フッ素樹脂シート等の部材をあげることができる。
【0046】
(リチウム複合酸化物膜構造体)
本発明のリチウム複合酸化物構造体は、上記した構成以外は限定されるものではない。
その表面に、上記の本発明にかかるリチウム複合酸化物膜を形成する、リチウム複合酸化物膜との当接面が、白金,アルミニウム,ステンレスの少なくとも一種により形成されている金属板は、その表面の材質以外は、限定されるものではない。
【0047】
すなわち、金属板は、従来の非水電解液二次電池の電極板に用いることができる材質であれば、限定されるものではない。金属板を構成する金属としては、白金,アルミニウム,ステンレス,ニッケル等の材質をあげることができる。
【0048】
また、金属板の形状についても限定されるものではない。すなわち、従来の非水電解液二次電池の電極板のように、箔状,シート状のようにそれ自体が剛性を持たない部材であっても、それ自体が剛性を有する部材であってもよい。さらに、リチウムイオン二次電池に適用する場合には、電池容器の一部を形成する部材であっても良い。
【0049】
また、本発明のリチウム複合酸化物構造体は、LiMn2−yNiの原料となるMnとNiを含む原料(金属原料)をフラックスとともに熱処理する工程を施すことで、緻密なLiMn2−yNi(yは0以上0.6以下)よりなる膜を金属板表面に一体に形成することができる。
【0050】
好ましくは、金属原料をフラックスとともに熱処理して金属原料を溶融する工程と、溶融した金属原料を金属板の表面に付着させる工程と、金属原料が金属板の表面に付着した状態で冷却する工程と、を施してなることが好ましい。
【0051】
金属原料をフラックスとともに熱処理して金属原料を溶解する工程を施すことで、高い融点の金属原料の溶解が促進され、比較的簡単に金属原料の溶解物を生じさせることができる。そして、溶解した金属原料を金属板の表面に付着させる工程を施すことで、溶解した金属原料が金属板の表面に付着し、その後の工程で冷却することで、本発明のリチウム複合酸化物膜構造体を得ることができる。
金属材料及びフラックスについては、所望のリチウム複合酸化物の構造や金属板の構成等から、適宜選択することができる。
【0052】
溶解した金属原料を金属板の表面に付着させる方法は、限定されるものではなく、溶解した金属原料等の蒸気を付着させる方法,溶解した金属原料等を金属板に塗布する方法.金属板の表面上で金属原料等の溶解を生じさせる方法等の方法をあげることができる。
【0053】
(リチウムイオン二次電池用電極)
本発明のリチウム二次電池用電極は、上記した構成以外は限定されるものではない。
本発明のリチウム二次電池用電極が、上記した本発明のリチウム複合酸化物構造体を用いてなるときに、金属板を正極集電体に一体に形成することも可能であるが、金属板が正極集電体であることが好ましい。
【0054】
さらに、本発明のリチウム二次電池用電極が、上記した本発明のリチウム複合酸化物構造体を用いてなるときに、金属板(集電板)の両面に、リチウム複合酸化物膜(正極活物質)を形成することが好ましい。
【0055】
(リチウムイオン二次電池)
本発明のリチウム二次電池は、上記した構成以外は限定されるものではない。
すなわち、本発明のリチウム二次電池は、上記したリチウム二次電池用電極よりなる正極以外は、従来公知のリチウム二次電池と同様の構成とすることができる。本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液、その他必要な部材を有する構成とすることができる。
【0056】
負極の活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出できる化合物を単独乃至は組み合わせて用いることができる。リチウムイオンを吸蔵及び放出できる化合物の一例としては、リチウム等の金属材料、チタン、ケイ素、スズ等を含有する合金材料、グラファイト、コークス、有機高分子化合物焼成体又は非晶質炭素等の炭素材料が挙げられる。これらの活物質は単独で用いるだけでなく、これらを複数種類混合して用いることもできる。これらの物質のうち、負極活物質として、チタン含有酸化物(たとえば、ブロンズ構造の酸化チタンであるTiO(B)、チタン酸リチウムであるLiTi12)を用いることが好ましい。
例えば、負極活物質としてリチウム金属箔を用いる場合、銅等の金属からなる集電体の表面にリチウム箔を圧着することで形成できる。
【0057】
また、負極活物質として合金材料、炭素材料を用いる場合は、負極活物質と結着材、導電助剤等を水、NMP等の溶媒中で混合した後、銅等の金属からなる集電体上に塗布され形成することができる。上記結着材としては、高分子材料から形成されることが望ましく、リチウムイオン二次電池内の雰囲気において化学的・物理的に安定な材料であることが望ましい。
【0058】
例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、フッ素ゴム等が挙げられる。また導電助剤としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、非晶質炭素等などが例示できる。また、導電性高分子ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセンなどが例示できる。
【0059】
電解液は、正極及び負極の間のイオンなどの荷電担体の輸送を行う媒体であり、特に限定しないが、リチウムイオン二次電池が使用される雰囲気下で物理的、化学的、電気的に安定なものが望ましい。
【0060】
例えば、電解液としては、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)の中から選ばれた1種以上を支持電解質とし、これを有機溶媒に溶解させた電解液が好ましい。
【0061】
有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等及びこれらの混合物が例示できる。中でもカーボネート系溶媒を含む電解液は、高温での安定性が高いことから好ましい。また、ポリエチレンオキサイドなどの固体高分子に上記の電解質を含んだ固体高分子電解質やリチウムイオン伝導性を有するセラミック、ガラス等の固体電解質も使用可能である。
【0062】
正極と負極との間には、電気的な絶縁作用とイオン伝導作用とを両立する部材であるセパレータを介装することが望ましい。電解質が液状である場合にはセパレータは、液状の電解質を保持する役割をも果たす。セパレータとしては、多孔質合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)やガラス繊維からなる多孔質膜、不織布が例示できる。更に、セパレータは、正極及び負極の間の絶縁を担保する目的で、正極及び負極よりも更に大きい形態を採用することが好ましい。
【0063】
正極、負極、電解質、セパレータなどは何らかのケース内に収納することが一般的である。ケースは、特に限定されるものではなく、公知の材料、形態で作成することができる。すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池は、その形状には特に制限を受けず、コイン型、円筒型、角型等、種々の形状の電池として使用できる。また、本発明のリチウムイオン二次電池のケースについても限定されるものではなく、金属製あるいは樹脂製のその外形を保持できるケース、ラミネートパック等の軟質のケース等、種々の形態の電池として使用できる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明をリチウムイオン二次電池に適用した実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。
【0065】
(実施例1)
本実施例では、リチウム複合酸化物のMn原料として硝酸マンガンを、フラックスとして塩化リチウムと塩化カリウムの混合物を、Mn:Li:Kのモル比が1:20:14となるように準備した。これらをアルミナ製のるつぼに投入し、その上に、白金箔を配置した。
【0066】
白金箔を配置したるつぼを電気炉内に入れ、加熱速度:15℃/分,保持時間:10時間,保持温度:900℃,冷却速度:200℃/時間,停止温度:500℃の条件で加熱処理を施した。
加熱処理後、白金箔を取り外し、温水に浸漬してフラックスを除去した。
これにより、本実施例のリチウム複合酸化膜を有するリチウム複合酸化物構造体が製造できた。
【0067】
(コイン型電池の組み立て)
本実施例のリチウム複合酸化物構造体を、リチウムイオン二次電池の正極として用いたコイン型のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0068】
図1は、作成したコイン型電池10の断面図である。正極1として上記で作製した構造体を用いた。正極1は、リチウム複合酸化膜よりなる正極活物質1bが白金箔よりなる集電体1aの表面に一体に形成されている。負極2は、リチウム金属よりなる負極活物質2bが負極集電体2aの表面に一体に形成されている。電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを質量比で7:3になるように混合した有機溶媒に、LiPFを1.0mol/Lの濃度となるように添加した非水溶媒電解液3を用いた。
【0069】
正負極間にセパレータ7(ポリエチレン製の多孔質膜)を挟持した発電要素を上述の非水電解液と共にステンレス製のケース(正極ケース4と負極ケース5から構成されている)中に収納した。正極ケース4と負極ケース5とは正極端子と負極端子とを兼ねている。正極ケース4と負極ケース5との間にはポリプロピレン製のガスケット6を介装することで密閉性と正極ケース4と負極ケース5との間の絶縁性とを担保した。
以上により、本実施例のコイン型のリチウムイオン二次電池が製造された。
【0070】
(評価)
【0071】
(SEM)
製造された本実施例のリチウム複合酸化物構造体の断面をSEMで観察した。撮影されたSEM写真を図2に示す。
【0072】
図2に示されたように、本実施例のリチウム複合酸化物構造体は、膜厚が5μm以上のリチウム複合酸化物膜が、白金箔の表面上に形成されていることが確認出来る。
【0073】
また、リチウム複合酸化物膜中に、膜の広がる方向と平行な方向(膜厚方向に対して交差する方向)に粒界などの界面が見られず、膜の広がる方向と垂直な方向には粒界が存在することが確認できる。
【0074】
(X線回折)
製造された本実施例のリチウム複合酸化物構造体の表面のリチウム複合酸化物膜にX線回折を施した。
X線回折は、X線源にCu−Kα線を用い、10〜70°の範囲で測定を行った。測定結果を図3に示した。
【0075】
図3の測定結果を、結晶構造データベースであるICDD PDF35−0782と比較したところ、リチウム複合酸化物膜が空間群Fd−3mに属し、スピネル構造を有するLiMnの構造を有していることが分かる。
【0076】
図3中の18.7±1°付近に存在する(111)の回折ピーク、36.2±1°付近に存在する(311)の回折ピークおよび64.0±1°付近に存在する(440)の回折ピークのピークトップの強度をそれぞれX、Y、Zとしてピーク強度比Y/X、及びZ/Xを求めた。Y/Xは0.547であり、Z/Xは1.951であった。求められた強度比を表1に示した。
【0077】
また、スピネルの理論密度を4.2g/cmとして、リチウム複合酸化物膜に占めるリチウム複合酸化物の体積分率を求めたところ90%であった。体積分率を表1に併せて示した。
【0078】
【表1】

(電池容量)
【0079】
本実施例のコイン型電池に対して、3.0Vから4.2Vの電圧範囲,電流密度を0.1mAh/cmとした条件での充放電を5サイクル繰り返した。そして、5サイクル目の放電容量を評価したところ、リチウム複合酸化物(リチウム複合酸化物膜)の体積あたりの容量、すなわち電極の容量密度が0.38Ah/cmであることが求められた。得られた電極の容量密度を表1に併せて示した。
【0080】
(実施例2)
本実施例では、リチウム複合酸化物のMn原料として硝酸マンガンを、リチウム複合酸化物のNi原料として硝酸ニッケルを、フラックスとして塩化リチウムと塩化カリウムの混合物を、Mn:Ni:Li:Kのモル比が3:1:60:42となるように準備した。これらをアルミナ製のるつぼに投入し、以後、実施例1と同様の処理を施した。
これにより、本実施例のリチウム複合酸化膜を有するリチウム複合酸化物構造体が製造できた。
【0081】
本実施例の評価として、X線回折,体積分率及びコイン型電池の容量を、充放電の電圧範囲を3.0Vから4.8Vとしたこと以外は実施例1の時と同様にして評価を行った。
【0082】
X線回折の測定結果を示した図4と、ICDD PDF80−2162との比較から、本実施例のリチウム複合酸化物膜が空間群Fd−3mに属し、スピネル構造を有するLiMn1.5Ni0.5の構造を有していることが分かった。
【0083】
また、強度比Y/Xは0.482,Z/Xは0.567,体積分率は99%,電極の容量密度が0.41Ah/cmであった。なお、本実施例の評価は、表1に合わせて示した。
【0084】
(比較例1)
上記の非特許文献2と同条件で、炭酸リチウム、二酸化マンガン、酸化ニッケルを出発原料とし、固相法でLiMn1.5Ni0.5粉末を製造した。
【0085】
製造されたLiMn1.5Ni0.5粉末を正極活物質とし、バインダとしてポリフッ化ビニリデンを、導電材としてアセチレンブラックを、それぞれの質量比で80:10:10となるようにN−メチルピロリドン中で混合し、スラリーを調製した。
【0086】
得られたスラリーを固形分重量が1.1mg/cmとなるようにドクターブレードを用いてアルミ箔に塗布した後、80℃の乾燥でN−メチルピロリドンを除去し、φ14mmに打ち抜き、さらに塗布部の空隙が体積分率で35%となるようにプレスを行うことで電極を得た。
本比較例の評価として、X線回折,体積分率及びコイン型電池の容量を、実施例2の時と同様にして評価を行った。
【0087】
X線回折の測定結果を示した図5と、ICDD PDF80−2162との比較から、本比較例のリチウム複合酸化物膜が空間群Fd−3mに属し、スピネル構造を有するLiMn1.5Ni0.5の構造を有していることが分かった。
【0088】
また、強度比Y/Xは0.375,Z/Xは0.166,体積分率は42%,電極の容量密度が0.18Ah/cmであった。なお、本比較例の評価は、表1に合わせて示した。
【0089】
(比較例2)
本比較例として、比較例1で作製したLiMn1.5Ni0.5粉末の結晶学的特徴について実施例1と同様の方法で評価した。X線回折の測定結果を示した図6と、ICDD PDF80−2162と比較することで、電極が空間群Fd−3mに属し、スピネル構造を有するLiMn1.5Ni0.5の構造を有していることが分かった。
【0090】
以上に詳述したように、空間群Fd−3mに属し、スピネル構造を有するLiMn1.5Ni0.5の構造を有し、かつ体積分率が75%以上の実施例1〜2のコイン型電池では、体積分率が42%の比較例1のコイン型電池と比較して、高い電極の容量密度を有していることが確認出来た。すなわち、各実施例のコイン型電池は、電池の容量を向上できる、高容量密度の電極および電池であることが確認出来た。
【符号の説明】
【0091】
1:正極 1a:正極集電体 1b:正極活物質
2:負極 2a:負極集電体 2b:負極活物質
3:電解液
4:正極ケース
5:負極ケース
6:ガスケット
7:セパレータ
10:コイン型電池
図1
図3
図4
図5
図6
図2