(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無機塩は、炭酸カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムのうちから選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
前記ポリクロロプレンラテックスが、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンを30質量%以下含有する原料単量体を25℃以上で重合したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリクロロプレンラテックス組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(第1の実施形態)
<ポリクロロプレンラテックス組成物>
まず、本発明の第1の実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物について説明する。本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物は、ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部と、無機塩及び酸化亜鉛を含む複合亜鉛華0.01〜10質量部と、を少なくとも含有する。また、本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物では、複合亜鉛華は、個数平均粒径が0.05〜0.35μmであり、粒径が0.01〜1.0μmであり、比表面積が10〜35m
2/gであり、蛍光X線分析により定量される元素が亜鉛20〜98質量%、カルシウム1〜30質量%およびマグネシウム0.01〜30質量%である。
【0013】
[ポリクロロプレンラテックス]
本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物に用いられるポリクロロプレンラテックスは、2−クロロ−1,3−ブタジエン(以下クロロプレンと記す)の単独重合体、クロロプレンと2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンとの共重合体、又はクロロプレンと、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンと、これらの単量体と共重合可能な単量体との共重合体である。
【0014】
クロロプレン及び2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸のエステル類やメタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル類や、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ(メタ)アクリレート類や、1−クロロブタジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレン、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0015】
ポリクロロプレンラテックスは、耐結晶性を改良し、柔軟性などの特性を向上させるため、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンを30質量%以下含有する原料単量体を重合することにより得られることが好ましい。2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンが30質量%を超える場合には、ポリクロロプレンラテックスの結晶化が進みすぎて柔軟性が低下する場合がある。また、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン及びこれらの単量体と共重合可能な単量体を用いる場合は、該単量体の量を2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンと合わせて、全単量体100質量%中30質量%以下とすることが好ましい。
【0016】
(ポリクロロプレンラテックスの製造方法)
次に、ポリクロロプレンラテックスの製造方法について説明する。ポリクロロプレンラテックスは、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエンを30質量%以下含有する原料単量体を25℃以上で重合することにより得られる。
【0017】
単量体の重合方法としては、乳化重合、溶液重合、懸濁重合及び塊状重合などを適用することができるが、ポリクロロプレンラテックスの製造には、特に乳化重合法が好適である。また、原料単量体を乳化重合する際の乳化・分散剤としては、通常のロジン酸のアルカリ金属塩を用いることができる。
【0018】
また、乳化・分散剤には、前述したロジン酸のアルカリ金属塩と、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型の乳化・分散剤を併用してもよい。これら併用可能な乳化・分散剤のうち、カルボン酸型の乳化・分散剤としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、n−アシルサルコシン塩、n−アシルグルタミン酸塩などが挙げられる。
【0019】
スルホン酸型の乳化・分散剤としては、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル(分岐型)ベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、n−メチル−n−アシルタウリン塩などが挙げられる。硫酸エステル型の乳化・分散剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルコールエトキシサルフェート、油脂硫酸エステル塩などが挙げられる。リン酸エステル型の乳化・分散剤としては、例えば、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩などが挙げられる。
【0020】
更に、その他使用可能な乳化・分散剤としては、アルキルアリルスルホン酸、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0021】
連鎖移動剤としては、特に限定されるものではなく、通常のクロロプレンの乳化重合に使用される連鎖移動剤を使用できる。具体的には、n−ドデシルメルカプタンやtert−ドデシルメルカプタンなどの長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィドなどのジアルキルキサントゲンジスルフィド類、ヨードホルムなどの公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0022】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素又は過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物類を用いることができる。
【0023】
ポリクロロプレンラテックスの重合体の柔軟性の経時的安定性を保持するため、25℃以上の温度範囲で重合を行うことが好ましく、25〜55℃の温度範囲で重合を行うことがより好ましく、さらに好ましくは30〜50℃の範囲である。重合温度を25℃以上に設定することによって、ポリクロロプレンラテックスの結晶化を抑え、ポリクロロプレンラテックスを用いた手袋等の浸漬成形品の柔軟性を向上させることができる。
【0024】
また、原料単量体の重合転化率は、80〜95%であることが好ましく、より好ましくは85〜95%である。この重合転化率が80%未満である場合は、重合体ラテックスの固形分が低下し、生産性が低下する場合がある。また、重合転化率が95%より大きい場合は、重合時間が長くなって生産性が低下したり、浸漬成形品とした際の機械的強度が低下したり、脆くなる場合がある。
【0025】
原料単量体の重合転化率が100%に達する前に重合を停止する際に添加する重合停止剤は、例えば、チオジフェニルアミン、4−tert−ブチルカテコール、2,2−メチレンビス−4−メチル−6−tert−ブチルフェノール、ジエチルヒドロキシルアミンなどを用いることができる。
【0026】
[複合亜鉛華]
本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物には、ポリクロロプレンラテックスの製膜性を向上させるとともに、得られるポリクロロプレンラテックスフィルムの引張強度を向上させる目的で無機塩及び酸化亜鉛を含む複合亜鉛華が配合されている。
【0027】
複合亜鉛華は、ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して、0.01〜10質量部配合する。ポリクロロプレンラテックス中、複合亜鉛華の配合量が0.01質量部未満であると、加硫速度が遅くなり、浸漬成形品の機械的強度が低下する。一方、ポリクロロプレンラテックス中、複合亜鉛華の配合量が10質量部を超えると、複合亜鉛華の粒子をラテックス中に均一分散させることが困難になる。
【0028】
本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物に含まれる複合亜鉛華の個数平均粒径は、0.05〜0.35μmとする。複合亜鉛華の個数平均粒径が0.35μmを超えてしまうと、単位体積あたりの複合亜鉛華の表面積が小さくなり、ポリクロロプレンラテックスとの反応効率が低下するため、得られるフィルムの引張強度を向上させるという目的を達成できない。一方、複合亜鉛華の個数平均粒径が0.05μmに満たないと、工業的な生産性が低下するだけでなく、ポリクロロプレンラテックスに添加する際に、複合亜鉛華同士が凝集するなど、取り扱い性が低下する。なお、複合亜鉛華の個数平均粒径は、SEM観察によりJIS Z8901に準拠した方法で測定することができる。
【0029】
また、本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物に含まれる複合亜鉛華の粒径は、0.01〜1.0μmとする。複合亜鉛華の粒径が0.01μmに満たないと複合亜鉛華同士が凝集し、ポリクロロプレンラテックスとの反応効率が低下する。一方、複合亜鉛華の粒径が1.0μmを越える複合亜鉛華を用いると単位体積あたりの複合亜鉛華の表面積が小さくなり、ポリクロロプレンラテックスとの反応効率が低下する。
【0030】
複合亜鉛華の比表面積は、10〜35m
2/gとする。複合亜鉛華の比表面積が10m
2/gに満たないと、ポリクロロプレンラテックスとの反応効率が低下し、得られるフィルムの引張強度を向上させるという目的を達成できない。複合亜鉛華の比表面積が35m
2/gを超えると、ポリクロロプレンラテックス組成物の工業的な生産性が低下したり、吸湿により品質が劣化したりする。なお、複合亜鉛華の比表面積は、JIS Z8830に準拠した方法で測定することができる。
【0031】
また、本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物に含まれる複合亜鉛華には、亜鉛が20〜98質量%、カルシウムが1〜30質量%、マグネシウムが0.01〜10質量%の元素が含まれている。複合亜鉛華中の元素として、亜鉛、カルシウム、及びマグネシウムは蛍光X線分析により定量する。複合亜鉛華中、亜鉛、カルシウム、及びマグネシウムの夫々が上記の範囲を外れると、加硫速度が遅くなるために機械的強度が低下したり、加硫速度が速過ぎるためにスコーチを起こしたりする。なお、蛍光X線分析は、例えば、JIS K 0119に記載された蛍光X線分析法に準拠して行うことができる。なお、複合亜鉛華には、ケイ素、硫黄、鉄、アルミニウム、ジルコニウム又はリンなどの元素が不純物として含まれていてもよい。
【0032】
本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物に含まれる複合亜鉛華の構造は、特に限定されないが、無機塩を核として、その表層として酸化亜鉛を積層、被覆させた複合構造であることが好ましい。複合亜鉛華を、このような複合構造にすることによって、複合亜鉛華粒子に含有される亜鉛分を効率よくポリクロロプレンラテックスと反応させることができる。なお、複合亜鉛華の複合構造については、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)又はエネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray Spectrometer、EDS)で観察することにより分析することができる。
【0033】
複合亜鉛華の核に用いる無機塩としては、炭酸カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムのうちから選ばれる少なくとも一種の化合物を使用することができる。複合亜鉛華に、無機塩として、炭酸カルシウム、次亜塩素酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムのうちから選ばれる少なくとも一種の化合物を含有させることによって、複合亜鉛華自身の比重を調製することができ、ポリクロロプレンラテックスに添加した際の複合亜鉛華の分散性を向上させることができる。
【0034】
本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物は、乳化剤を使用して複合亜鉛華を水中に分散させ、複合亜鉛華をポリクロロプレンラテックスに添加することにより得られる。
【0035】
複合亜鉛華を水中に分散させるための乳化剤としては、一般的なアニオン系乳化剤を用いればよく、例えば、R.T.Verderbilt Company製のDarvan No.1(商品名)などの市販品が挙げられる。
【0036】
前述したポリクロロプレンラテックス組成物は、そのままでも浸漬成形品の材料をして用いることができるが、各種添加剤を添加することもできる。この各種添加剤としては、具体的には、金属酸化物、硫黄、酸化防止剤及び界面活性剤などが挙げられる。
【0037】
[金属酸化物:ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して0.1〜10質量部]
本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物では、金属酸化物は、特に限定されるものではなく、例えば酸化亜鉛、酸化鉛及び四酸化三鉛などを配合することができる。これらは単独で使用してもよいが、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0038】
金属酸化物配合量は、特に限定するものではないが、ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲にすることで、成形品の触感を維持しつつ、成形品の引張り強度及びモジュラスの基本特性をより向上させることができる。
【0039】
[硫黄:ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して0.1〜3質量部]
本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物では、硫黄は、ポリクロロプレンの加硫を促進させるために配合する。硫黄の配合量は、特に限定するものではないが、ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して0.1〜3質量部の範囲にすることで、加硫後の耐熱性の低下や製品表面へのブリードを防止しつつ加硫促進効果を得ることができる。
【0040】
[酸化防止剤:ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して0.1〜5質量部]
本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物では、酸化防止剤は、得られる成形品の耐熱性や耐オゾン性を向上させるために配合する。耐熱性付与目的の酸化防止剤としては、耐熱性だけでなく、耐汚染性(変色などの移行)も少ないことから、オクチル化ジフェニルアミン、p−(p−トルエン−スルホニルアミド)ジフェニルアミンや4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンなどのジフェニルアミン系が好適である。
【0041】
また、耐オゾン性付与目的の酸化防止剤としては、N,N’−ジフェニル−p−フェニレジアミン(DPPD)やN−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(IPPD)が好適である。ただし、通常、使い捨て手袋などのように、外観、特に色調や衛生性を重視される場合には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好適である。これら耐熱性付与目的の酸化防止剤と耐オゾン性付与目的の酸化防止剤とは、併用することが好ましい。
【0042】
これら酸化防止剤の添加量は、特に限定するものではないが、ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して、0.1〜5質量部の範囲にすることで、ポリクロロプレンの加硫阻害や、色調の低下を防止しつつ、十分な酸化防止効果を得ることができる。
【0043】
[界面活性剤:ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して0.1〜10質量部]
本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物では、界面活性剤は、ポリクロロプレンラテックスのコロイド安定化のために配合する。界面活性剤としては、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物のナトリウム塩やロジン酸石鹸、脂肪酸石鹸などを使用することができる。これら界面活性剤の添加量は、特に限定するものではないが、ポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲にすることで、成形品の発泡やピンホールなどの欠陥が発生することを防止しつつ、十分なコロイドの安定化を行うことができる。
【0044】
なお、前述した各成分のうち、水に不溶であったり、ポリクロロプレンラテックスのコロイド状態を不安定化させたりする成分は、予め水系分散体を調製してからポリクロロプレンラテックスに添加することが好ましい。
【0045】
更に、本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物には、必要に応じて、前述した各成分に加えて、加硫促進剤、pH調整剤、充填剤、可塑剤、顔料、着色剤、湿潤剤及び消泡剤などの各種添加剤を配合することができる。
【0046】
以上詳述したように、本実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物は、特定量の複合亜鉛華を含有し、当該複合亜鉛華の個数平均粒径、粒径及び比表面積を特定の範囲に規定し、蛍光X線分析により定量される元素が特定の範囲にあるため、ポリクロロプレンラテックスが本来有する基本特性を維持しつつ、浸漬成形した際の引張り強度や柔軟性等の機械的強度を向上することができる。これにより、ポリクロロプレンラテックス組成物を用いてフィルムを成形した際に、フィルム厚を薄くすることができる。更にポリクロロプレンラテックス組成物は、手袋などの浸漬成形品に使用することができる。
【0047】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態の浸漬成形品について説明する。本実施形態の浸漬成形品は、前述した第1の実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物を浸漬成形して得られ、例えば手袋である。
【0048】
本実施形態の浸漬成形品の製造方法は、特に限定されるものではなく、通常の方法で浸漬成形し、加硫すればよい。具体的には、凝集剤をコーティングした成形型を、ポリクロロプレンラテックス組成物に浸漬し、その表面にポリクロロプレンラテックス組成物を凝固させて未加硫のゴム皮膜を作製する。そして、浸出により水溶性不純物を除去し、乾燥させた後、加硫して、得られたゴム皮膜を離型する。これにより、フィルム状の浸漬成形品が得られる。
【0049】
本実施形態の浸漬成形品の厚さは、ポリクロロプレンラテックス組成物に、成形型を浸漬する時間、又は、ポリクロロプレンラテックス組成物の固形分濃度によって調整することができる。即ち、浸漬成形品の厚さを薄くしたい場合は、浸漬時間を短縮したり、ポリクロロプレンラテックス組成物の固形分濃度を低く調整すればよい。
【0050】
以上詳述したように、本実施形態の浸漬成形品は、前述した第1の実施形態のポリクロロプレンラテックス組成物を使用しているため、機械的強度が改良され、薄肉成形性に優れる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
<ポリクロロプレンラテックス組成物>
ポリクロロプレンラテックスLM−61(電気化学工業株式会社製、固形分60質量%)166.67質量部(固形分で100質量部)と、複合亜鉛華A(META−Z Latex(井上石灰工業株式会社製、固形分50質量%)10質量部(固形分で5質量部)と、加硫促進剤A(ノクセラーTP:大内新興化学株式会社製、50質量%水溶液)2質量部(固形分で1質量部)と、水分散液20質量部とを混合し、水を加えて配合物全体の固形分濃度を50%に調節して、ポリクロロプレンラテックス組成物を作製した。水分散液については、老化防止剤(ノクラック200:大内新興化学株式会社製、粉体)2質量部、加硫促進剤B(ノクセラーTET:大内新興化学株式会社製、粉体)1質量部、界面活性剤A(Darvan SMO:R.T.Verderbilt Company製、33.3質量%水溶液)9質量部(固形分で3質量部)、界面活性剤B(Darvan WAQ:R.T.Verderbilt Company製、25質量%水溶液)4質量部(固形分で1質量部)、水4質量部を、陶器製ボールミルを用いて、20℃で16時間混合し、調製した。
【0053】
(未加硫フィルム)
ポリクロロプレンラテックス組成物を、下記表1に記載の一次凝集剤及び二次凝集剤を用いて浸漬フィルムを作製した。なお、一次凝集剤は、成膜した浸漬成形液の凝固を促進させる。その際、浸漬フィルムは次に示す方法で作製した。外径40mm、長さ320mmの試験管を、口部が上になるようにして深さ150mmまで一次凝集剤に10秒間浸漬し、一次凝集剤から取り出して3分間風乾した後、ポリクロロプレンラテックス組成物に1分間浸漬させて、試験管の表面に浸漬フィルムを作製した。得られた浸漬フィルムを流水で1分間リーチング(浸出)して水溶性成分を除去した。次いで二次凝集剤に1分間浸漬した後、流水で浸漬フィルム表面の二次凝集剤を除去した。更に70℃、2時間乾燥して未加硫フィルムを作製した。
【0054】
【表1】
【0055】
(加硫フィルム物性)
未加硫フィルムを110℃、25分あるいは141℃、30分で加硫して加硫フィルムとし、JIS−K6251に記載の方法でダンベル状3号形に打ち抜いて試験片とし、株式会社上島製作所製の引張り試験機(ユニコーンII)を用いて300%伸長時のモジュラス、破断伸び、及び破断破断強度の測定を行った。
【0056】
(複合亜鉛華の個数平均粒径及び粒径)
SEM観察装置(FE−SEM SU6600:株式会社日立ハイテクノロジーズ)にて複合亜鉛華の粒径を測定し、得られた値から複合亜鉛華の個数平均粒径を算出した。なお、亜鉛華の個数平均粒径及び粒径は、複合亜鉛華を水希釈し、超音波分散した後に自然乾燥し、粉末状にして測定した。
【0057】
(複合亜鉛華の比表面積)
比表面積測定装置(モノソーブ:ユアサアオオニクス株式会社)にて複合亜鉛華の比表面積を定量した。なお、複合亜鉛華の比表面積は、複合亜鉛華を水希釈し、超音波分散した後に自然乾燥し、粉末状にして測定した。
【0058】
(複合亜鉛華の成分分析)
複合亜鉛華を乾燥機にて70℃で12時間乾燥させた試料を粉砕した後、複合亜鉛華の含有元素を蛍光X線分析装置(ZSX100e:株式会社リガク)にて定量した。
【0059】
(複合亜鉛華の含有鉱物)
X線回折装置(RINT 2500V:株式会社リガク)にて複合亜鉛華の含有鉱物を同定した。
【0060】
(実施例2)
ポリクロロプレンラテックスLM−61(電気化学工業株式会社製、固形分60質量%)166.67質量部(固形分で100質量部)と、加硫促進剤A(ノクセラーTP:大内新興化学株式会社製、50質量%水溶液)2質量部(固形分で1質量部)と、水分散液20質量部(wet)とを混合し、水を加えて配合物全体の固形分濃度を50%に調節して、ポリクロロプレンラテックス組成物を作製した。水分散液については、老化防止剤(ノクラック200:大内新興化学株式会社製、粉体)を2質量部、加硫促進剤B(ノクセラーTET:大内新興化学株式会社製、粉体)を1質量部、界面活性剤A(Darvan SMO:R.T.Verderbilt Company製、33.3質量%水溶液)を9質量部(固形分で3質量部)、界面活性剤B(Darvan WAQ:R.T.Verderbilt Company製、25質量%水溶液)を4質量部(固形分で1質量部)、複合亜鉛華B(META−Z 102(井上石灰工業株式会社製、粉体)5質量部、水13質量部を、陶器製ボールミルを用いて、20℃で16時間混合し、調製した。フィルムサンプル作製については実施例1と同様に行い、実施例1と同様に評価と分析を行った。
【0061】
(実施例3)
複合亜鉛華A(META−Z Latex(井上石灰工業株式会社製、固形分50質量%)の添加量を、20質量部(固形分で10質量部)に変更したこと以外は、すべて実施例1と同じ手順で、ポリクロロプレンラテックス組成物及びフィルムサンプルを作製し、実施例1と同様に評価と分析を行った。
【0062】
(比較例1)
複合亜鉛華A(META−Z Latex(井上石灰工業株式会社製、固形分50質量%))の添加量を、30質量部(固形分で15質量部)に変更したこと以外は、すべて実施例1と同じ手順で、ポリクロロプレンラテックス組成物およびフィルムサンプルを作製し、実施例1と同様に評価と分析を行った。
【0063】
(比較例2)
実施例2において、複合亜鉛華Bを、亜鉛華C(AZO−B:正同化学工業株式会社製、粉体)5質量部に変更したこと以外は、すべて実施例2と同じ手順で、ポリクロロプレンラテックス組成物及びフィルムサンプルを作製し、実施例2と同様に評価と分析を行った。
【0064】
(比較例3)
実施例2において、複合亜鉛華Bを、亜鉛華D(亜鉛華2種:堺化学工業株式会社製、粉体)5質量部に変更したこと以外は、すべて実施例2と同じ手順で、ポリクロロプレンラテックス組成物及びフィルムサンプルを作製し、実施例2と同様に評価と分析を行った。
【0065】
以上の評価結果と測定結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
上記表2に示すように、比較例1のポリクロロプレンラテックス組成物は、複合亜鉛華の含有量が10質量部を超えており、複合亜鉛華粒子が凝集しやすくなり、フィルム中で微分散しなかったため、加硫フィルムの破断強度が低かった。比較例2のポリクロロプレンラテックス組成物は、亜鉛華に蛍光X線分析により定量された元素にカルシウム及びマグネシウムが含まれておらず、実施例1〜3に比べて、加硫速度が遅かったため、加硫フィルムの破断強度が低かった。更に、比較例3のポリクロロプレンラテックス組成物も、亜鉛華に蛍光X線分析により定量された元素にカルシウム及びマグネシウムが含まれておらず、実施例1〜3に比べて、加硫速度が遅かったため、加硫フィルムの破断強度が低かった。
【0068】
これに対して、表2に示すように、本発明の範囲内で作製した実施例1〜3のポリクロロプレンラテックス組成物は、いずれの項目においても優れた特性を示した。また、実施例1〜3のポリクロロプレンラテックス組成物を用いて、常法の浸漬成形法により手袋を作成した。得られた手袋は、肌触りがよく、破断強度に優れていた。これらの結果より、本発明によれば、浸漬成形品を成形した際に機械的強度が優れるポリクロロプレンラテックス組成物を実現できることが確認された。