(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918847
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】防霜塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20160428BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20160428BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20160428BHJP
C09D 127/12 20060101ALI20160428BHJP
C09D 5/32 20060101ALI20160428BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20160428BHJP
F03D 80/00 20160101ALI20160428BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/12
C09D5/00 Z
C09D127/12
C09D5/32
C09K3/18 102
F03D11/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-505904(P2014-505904)
(86)(22)【出願日】2012年3月22日
(86)【国際出願番号】JP2012057356
(87)【国際公開番号】WO2013140576
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2014年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232542
【氏名又は名称】日本特殊塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108327
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】立花 哲弥
【審査官】
井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】
再公表特許第2004/044062(JP,A1)
【文献】
特開2000−302998(JP,A)
【文献】
特開2009−024145(JP,A)
【文献】
特開2004−084064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
C09K 3/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の表面に付着した霜の剥離性を高める塗料組成物であって、撥水性塗料であるフッ素樹脂系塗料に平均粒径が0.2μm 以下のアンチモンドープ酸化スズまたはインジウムスズ酸化物のいずれかを撥水性塗料に対して0.2〜0.5質量%添加してある塗料組成物。
【請求項2】
請求項1において、物体が風車のブレードである塗料組成物。
【請求項3】
請求項1または2の塗料組成物を風車のブレードに塗布する塗料組成物の使用方法。
【請求項4】
請求項1の塗料組成物が塗布してある風車のブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車のブレード等の物体表面に霜、雪等の水が固体となって付着するのを抑止、または、付着した霜等が剥離除去されやすくする塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電用の風車は、山の尾根や海岸等の湿度が高く寒暖の差が大きな地域に建設されることから、気温が低下した際に霜がブレード表面に付着して成長し、更に霜がブレード表面に付着することによって雪が付着しやすくなってブレードのエッジ付近に雪が付着しブレードの角度を変えてしまい、ブレードが受ける風が有効にブレードの回転に利用されなくなったり、ブレードの回転の抵抗となって発電効率を低下させることがある。
【0003】
風力発電に使用される風車のブレードは繊維強化プラスチック(FRP)製のものが多く、表面処理されないFRP製のブレードには霜が付着しやすい。ブレードに付着して成長した霜は、気温の上昇に伴い溶融し、更に気温の低下によって再凍結して大きくなっていったり、更に雪が付着していく。気温が上昇してブレードへの付着力が弱まったときにブレードが回転すると、付着していた霜が固まりとなって飛散して人的または物的損害を引き起こす可能性がある。
【0004】
物体表面に水が氷となって付着する着氷現象、及び雪が物体に付着する着雪現象についても同様な問題が生じており、着氷及び着雪の抑制、また、着氷を容易に除去できるようにする方法が提案されている。
【0005】
着霜や着氷の問題を改善するために、部材表面を親水化処理することで水の接触角を小さくすると共に、水が部材表面に留まることがないようにする技術が開発されており、合成シリカと水性塗料を併用することが特許文献1(特開昭55−164264号公報)に開示されている。
特許文献2(特開平10−168381号公報)には、シリカに変えてアルミナゾルを用いた高親水性塗料が開示されている。また、有機系の表面処理剤を使用して部材表面に皮膜を形成することも提案されている。
塗膜に用いる塗料組成物として、バインダー樹脂と撥水性微粒子とを混合した塗料組成物が提案されている。この塗料組成物のバインダー用樹脂は、溶剤可溶型フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリルシリコーン樹脂であり、撥水性微粒子は、フッ素樹脂粉末(ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)、シリコーンレジン系粉末、撥水性シリカ粉末、フッ化グラファイト、フッ化ピッチなどである。
【0006】
塗料組成物を用いて寒冷地域における構造物表面を難着霜性、あるいは易霜除去性とするには、物体表面に撥水性に優れる塗膜を形成することによって物体表面の表面自由エネルギーを小さくし、水との親和性を低下させることにより物体表面を撥水性に改質することによって霜等の付着を抑制するものである。
霜、雪、及び氷は、水が気体から固体、また、液体から固体に変態する際の環境条件に応じて異なる名称を付しているものであり、物体表面への固体となった水の付着という観点からは同じとみなせるので、以下それらを霜で代表させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−164264号公報
【特許文献2】特開平10−168381号公報
【特許文献3】特開2011−219653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
物体表面に対しての着霜を撥水性塗料の膜を物体表面に形成することで防止することが提案されているが、塗料の撥水性を高めることにのみ注目されていたが、表面に塗布した塗料の種類を変えても霜の付着は気温に左右され、付着自体はほぼ同じであることが恒温室内を−30〜−25℃に維持し、水分を霧吹き供給して複数の塗料を塗布した羽根へのに実験結果から認められたので、撥水性を高めて霜の付着を防止するのではなく、撥水性塗料塗膜が形成された部材表面に付着した霜が剥離されやすくすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
物体表面に霜が付着しにくくする撥水性を有するフッ素樹脂系塗料に平均粒径が0.2μm以下のアンチモンドープ酸化スズ、または、インジウムスズ酸化物のいずれかをフッ素樹脂系塗料に対して0.2〜0.5質量%の混合割合とすることによって、付着した霜が剥離しやすくした塗料組成物である。
【発明の効果】
【0010】
0.2μm以下のアンチモンドープ酸化スズ、または、インジウムスズ酸化物のいずれかをフッ素樹脂系塗料に対して0.2〜0.5質量%の混合割合で添加したことによって、アンチモンドープ酸化スズ、または、インジウムスズ酸化物が熱線である赤外線を吸収するので塗膜の温度が上昇し、塗膜の撥水性の効果とあいまって塗膜の表面から霜が剥離しやすくなるので、溶融再凍結の繰り返しによって霜が大きく成長する前に剥離させることができるので、成長した霜が物体表面に形成されることがない。また、塗膜の色調や透明性を変えることがないものである。
風車のブレードの表面に本発明の塗料組成物を適用した場合、ブレード表面で成長した霜による風の動力への変換効率の低下が防止でき、ブレードの回転の抵抗となる成長した霜の形成を阻止できるので霜による発電効率の低下を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
アンチモンドープ酸化スズ(ATO)は、少量の酸化アンチモンを含有する酸化スズであり、インジウムスズ酸化物(ITO)は、インジウムとスズの複合酸化物である。これらの赤外線吸収剤は、共に導電性を有する酸化物半導体であり、CVDやスパッタリングによって成膜したATOまたはITO膜は透明導電膜として、また、粉末は導電性粉末として利用されてきた。例えば、プラスチック、ゴム、塗料などの基材に帯電防止性または導電性を付与するために粉末を配合することが行われており、粉末の平均粒径が0.2μm(200nm) 以下で、添加量が少量であれば、基材の色調または透明性を損なうことがないものである。
また、赤外線を吸収することから、赤外線遮断材としても使用されている。
【0012】
撥水性塗料としてフッ素樹脂系塗料、ポリウレタン樹脂系塗料、アクリルウレタン樹脂系塗料のホワイト色塗料に、それぞれ、ATO(ITO)粉末を塗料に対して0〜0.8質量%の割合で添加したものを金属製及び樹脂製の回転羽根に塗布し、恒温室において室温を−25℃として、水分を空中に噴霧して霜を羽根の全面に付着したのを確認し、恒温室の温度を5℃として赤外線を2分照射して羽根の表面の霜の状態を観察した。各塗料の配合割合を表1に示す。
【0014】
試験結果を表2〜表7に示す。
数値は赤外線照射後の羽根面に残留している霜の割合であり、0は、羽根面に霜の残留がないことを示し、100は、霜が全て羽根面に残留していることを示す。
また、色相を目視で確認し、白色として判断できるレベルを確認した。
【0021】
試験の結果
赤外線吸収剤がを塗料に対して0.2質量%以上添加することで霜が剥離しやすく、色相を考慮すると0.2〜0.5質量%とすることによって、付着した霜が剥離しやすいことが判明した。
フッ素樹脂系塗料としては、航空機用として使用されているフッ素ポリオールを主剤とし、顔料として酸化チタン、及び添加剤と硬化剤としての非黄変イソシアネート及び溶剤からなる塗料組成物が好ましい。
赤外線を吸収するアンチモンドープ酸化スズ粉末の平均粒径は、霜の剥離性については大きな影響がなく、平均粒径を0.2μm以下として塗料の色相に影響を与えにくくするのが好ましい。
【0022】
ポリウレタン樹脂系塗料は、ポリエステルポリオールを主剤とし、顔料として酸化チタン、及び添加剤と硬化剤として非黄変イソシアネート及び溶剤からなる塗料組成物が好ましい。
アクリルウレタン樹脂系塗料は、アクリルポリオールを主剤とし、顔料として酸化チタン、及び添加剤と硬化剤として、非黄変イソシアネート及び溶剤からなる塗料組成物が好ましい。