(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5918894
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】ナルフラフィン塩酸塩含有カプセル製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/485 20060101AFI20160428BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20160428BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20160428BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20160428BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20160428BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20160428BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20160428BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
A61K31/485
A61K9/48
A61K47/32
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/22
A61P17/04
A61P43/00 111
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-204877(P2015-204877)
(22)【出願日】2015年10月16日
【審査請求日】2015年10月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-103884(P2015-103884)
(32)【優先日】2015年5月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-162210(P2015-162210)
(32)【優先日】2015年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391010976
【氏名又は名称】富士カプセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100172797
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 昌広
(72)【発明者】
【氏名】秋山 浩司
(72)【発明者】
【氏名】林 勝廣
(72)【発明者】
【氏名】日吉 正巳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健治
(72)【発明者】
【氏名】早川 栄治
(72)【発明者】
【氏名】下川 義之
【審査官】
澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−147819(JP,A)
【文献】
特表2009−543777(JP,A)
【文献】
国際公開第99/002158(WO,A1)
【文献】
PHARM TECH JAPAN,2011年,27(13),p.73-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00−9/72,
A61K31/33−31/80,
A61K47/00−47/48,
A61P1/00−43/00
CAplus (STN),
REGISTRY(STN),
MEDLINE (STN),
EMBASE (STN),
BIOSIS (STN),
JSTPlus (JDreamIII),
JMEDPlus(JDreamIII),
JST7580 (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナルフラフィン塩酸塩と、基剤と、安定化剤とを含有するカプセル内容液を皮膜で被覆したカプセル製剤であって、前記基剤が、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、グリセリンモノカプリル酸エステル、プロピレングリコールモノオレイン酸エステル、プロピレングリコールモノカプリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、前記安定化剤がラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液であるカプセル製剤。
【請求項2】
カプセル内容液が、さらにトコフェロール及び/又はチオ硫酸ナトリウムを含有することを特徴とする請求項1記載のカプセル製剤。
【請求項3】
以下に示す(a)〜(c)の工程を備えたカプセル製剤の製造方法。
(a)ナルフラフィン塩酸塩を緩衝液又は水に溶解してナルフラフィン塩酸塩原液を調製する工程;
(b)前記ナルフラフィン塩酸塩原液と、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、グリセリンモノカプリル酸エステル、プロピレングリコールモノオレイン酸エステル、プロピレングリコールモノカプリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種の基剤と、安定化剤としてのラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液とを混合してカプセル内容液を調製する工程;
(c)前記カプセル内容液を皮膜で被覆する工程;
【請求項4】
ナルフラフィン塩酸塩と、基剤と、安定化剤とを含有するカプセル内容液を含むカプセル製剤において、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、グリセリンモノカプリル酸エステル、プロピレングリコールモノオレイン酸エステル、プロピレングリコールモノカプリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種の基剤の存在下、ナルフラフィン塩酸塩と、安定化剤としてのラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液とを接触させることを特徴とするカプセル製剤中のナルフラフィン塩酸塩の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナルフラフィン塩酸塩を含有するカプセル製剤に関し、より詳しくは、ナルフラフィン塩酸塩と、基剤と、安定化剤とを含有するカプセル内容液を皮膜で被覆したカプセル製剤であって、上記安定化剤が、リドカイン、チオクト酸(α−リポ酸)、メグルミン、グルタチオン、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液及びL−メチオニンからなる群から選ばれる少なくとも一種、特にラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液であるカプセル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、痒みの治療には抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤等の内服剤や、副腎皮質ステロイド、非ステロイド系抗消炎剤等の外用剤が用いられてきた。しかしながら、上記内服剤の場合には、眠気やだるさ、口の渇き、排尿障害等の副作用が生じやすく、外用剤の場合には、皮膚の委縮、毛細血管拡張等の副作用が生じやすいという問題があり、新たな止痒剤の開発が求められていた。
【0003】
近年、痒みにはオピオイド受容体が関与しており、内因性オピオイドが痒みを惹起することが明らかとなってきた(特許文献1、2参照)。かかるオピオイド受容体には、主にμ受容体、κ受容体、δ受容体の3つのサブタイプが存在している。ナルフラフィン塩酸塩は、μ受容体を制御しているκ受容体に選択的に作用し、内因性オピオイドの刺激により生じるμ受容体を介した痒みを抑制することが可能である。現在ナルフラフィン塩酸塩は、レミッチ(登録商標)カプセルとして鳥居薬品社から販売されており、透析療法中に生じるそう痒症の改善剤として用いられている。ナルフラフィン塩酸塩は熱、光、酸素等に対して化学的に不安定である。そこで、ナルフラフィン塩酸塩を含有するカプセル製剤においては、酸化防止剤、シネルギスト、糖類、又は界面活性剤を用いてナルフラフィン塩酸塩を安定化させる方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
一方、リドカイン(塩酸塩)は世界で最も広く使用される局所麻酔薬であり、抗不整脈薬としても知られており、チオクト酸はα−リポ酸とも呼ばれ、補酵素として働くビタミン様物質として知られており、メグルミンはソルビトールから誘導されたアミノ糖であり、調合薬の賦形剤、又は造影剤として用いられており、還元型グルタチオン(GSH)は3つのアミノ酸からなるトリペプチドで、抗酸化物質として知られており、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液は両性界面活性剤であり、ヨード系以外のうがい薬として知られており、L−メチオニンは側鎖にイオウを含んだ疎水性の必須アミノ酸として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第1998/23290号パンフレット
【特許文献2】特開2013−147459号公報
【特許文献3】国際公開第1999/02158号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ナルフラフィン塩酸塩を長期間安定な状態で含有するカプセル製剤や、かかるカプセル製剤の製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、特定の安定化剤を用いることで、ナルフラフィン塩酸塩を長期間安定な状態で含有するカプセル製剤を製造することが可能であることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)ナルフラフィン塩酸塩と、基剤と、安定化剤とを含有するカプセル内容液を皮膜で被覆したカプセル製剤であって、
前記安定化剤が、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液であるカプセル製剤。
(2)基剤が、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、グリセリンモノカプリル酸エステル、プロピレングリコールモノオレイン酸エステル、プロピレングリコールモノカプリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記(1)のカプセル製剤。
(3)カプセル内容液が、さらにトコフェロール及び/又はチオ硫酸ナトリウムを含有することを特徴とする上記(1)又は(2)のカプセル製剤。
(4)以下に示す(a)〜(c)の工程を備えたカプセル製剤の製造方法。
(a)ナルフラフィン塩酸塩を緩衝液又は水に溶解してナルフラフィン塩酸塩原液を調製する工程;
(b)前記ナルフラフィン塩酸塩原液と、基剤と、安定化剤としてのラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液とを混合してカプセル内容液を調製する工程;
(c)前記カプセル内容液を皮膜で被覆する工程;
(5)基剤の存在下、ナルフラフィン塩酸塩と、安定化剤としてのラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液とを接触させることを特徴とするカプセル製剤中のナルフラフィン塩酸塩の安定化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ナルフラフィン塩酸塩を長期間安定な状態で含有するカプセル製剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】安定化剤として還元型グルタチオンを用いたときの主薬(ナルフラフィン塩酸塩)の残存率(上)と、主分解物(N-Oxide)含量(下)の結果を示す図である。
【
図2】安定化剤としてメグルミンを用いたときの主薬の残存率(上)と、主分解物含量(下)の結果を示す図である。
【
図3】安定化剤としてチオクト酸を用いたときの主薬の残存率(上)と、主分解物含量(下)の結果を示す図である。
【
図4】安定化剤としてリドカインを用いたときの主薬の残存率(上)と、主分解物含量(下)の結果を示す図である。
【
図5】安定化剤としてラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液を用いたときの主薬の残存率(上)と、主分解物含量(下)の結果を示す図である。
【
図6】安定化剤としてメチオニンを用いたときの主薬の残存率(上)と、主分解物含量(下)の結果を示す図である。
【
図7】安定化剤としてメグルミン及び/又はラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液を用いたときの主薬の残存率(上)と、主分解物含量(下)の結果を示す図である。
【
図8】安定化剤としてメグルミンを用いたときの主薬の残存率(上)と、主分解物含量(下)の結果を示す図である。
【
図9】安定化剤としてメグルミン及び/又はラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液を用いたときの主薬の残存率(上)と、主分解物含量(下)の結果を示す図である。
【
図10】安定化剤としてメグルミン及び/又はラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液を用いたときの主薬の残存率(上)と、主分解物含量(下)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のカプセル製剤としては、ナルフラフィン塩酸塩と、基剤と、安定化剤とを含有するカプセル内容液を皮膜で被覆したカプセル製剤であって、前記安定化剤がラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液であるカプセル製剤であれば特に制限されず、また、本発明のカプセル製剤中のナルフラフィン塩酸塩の安定化方法としては、基剤の存在下、ナルフラフィン塩酸塩と、安定化剤としてのラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液とを接触させる方法であれば特に制限されないが、上記安定化剤としてラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液に加えてメグルミンを併用することができる。ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液の使用濃度としては、0.05〜0.5%を例示できる。また、上記カプセル製剤としてはソフトカプセル製剤であることが好ましい。
【0012】
本発明におけるナルフラフィン塩酸塩((2E)−N−[(5R,6R)−17−(シクロプロピルメチル)−4,5−エポキシ−3,14−ジヒドロキシモルフィナン−6−イル]−3−(フラン−3−イル)−N−メチル−2−プロペンアミド・塩酸塩;(2E)-N-[(5R,6R)-17-(Cyclopropylmethyl)-4, 5-epoxy-3, 14-dihydroxymorphinan-6-yl]-3-(furan-3-yl)-N-methyl-2-propenamide monohydrochloride)は、市販品を購入することにより入手することが可能である。
【0013】
カプセル内容液中のナルフラフィン塩酸塩の含有量は特に制限されないが、1カプセル相当のカプセル内容液中に0.01〜10000μg、好ましくは0.1〜1000μgとすることができる。
【0014】
本発明における基剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール、エタノール、グリセリンモノカプリル酸エステル、プロピレングリコールモノオレイン酸エステル、プロピレングリコールモノカプリル酸エステル等を挙げることができる。
【0015】
本発明における基剤において、二種以上組み合わせてもよく、例えばポリエチレングリコール(PEG)とグリセリンモノカプリル酸エステルや、ポリエチレングリコール(PEG)とプロピレングリコールモノオレイン酸エステルや、ポリエチレングリコール(PEG)とプロピレングリコールモノカプリル酸エステルや、ポリエチレングリコール(PEG)とプロピレングリコールや、ポリエチレングリコール(PEG)とエタノールや、グリセリンモノカプリル酸エステルとプロピレングリコールモノオレイン酸エステルや、グリセリンモノカプリル酸エステルとプロピレングリコールモノカプリル酸エステルや、グリセリンモノカプリル酸エステルとプロピレングリコールや、グリセリンモノカプリル酸エステルとエタノールや、プロピレングリコールモノオレイン酸エステルとプロピレングリコールモノカプリル酸エステルや、プロピレングリコールモノオレイン酸エステルとプロピレングリコールや、プロピレングリコールモノオレイン酸エステルとエタノールや、プロピレングリコールモノカプリル酸エステルとプロピレングリコールや、プロピレングリコールモノカプリル酸エステルとエタノールの組み合わせを挙げることができる。
【0016】
本発明において、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液に加えて、リドカイン、チオクト酸、メグルミン、還元型グルタチオン、及びL−メチオニンからなる群から選ばれる少なくとも一種の他の安定化剤を併用することができる外、チオ硫酸ナトリウム、没食子酸n−プロピル、亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、トコフェロール、L−アスコルビン酸ステアレート等をカプセル内容液に添加することができるが、特にトコフェロールやチオ硫酸ナトリウムを好適に例示することができる。ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液に加えて、トコフェロール及び/又はチオ硫酸ナトリウムを併用する場合、トコフェロールの使用濃度としては0.05〜0.2%、好ましくは0.075〜0.15%を、チオ硫酸ナトリウムの使用濃度としては0.01〜0.04%、好ましくは0.03〜0.04%を好適に例示できる。
【0017】
本発明におけるカプセル内容液には、ナルフラフィン塩酸塩と、基剤と、安定化剤とが含まれているが、ナルフラフィン塩酸塩と、基剤と、安定化剤以外に油脂、界面活性剤、緩衝液、水、ゲル化剤、pH調整剤、多孔性微粒子粉末、甘味料等の呈味剤、香料、溶解助剤、粘度調整剤等の他の物質を含有していてもよい。緩衝液としては酢酸緩衝液を好適に挙げることができる。
【0018】
本発明におけるカプセル内容液のpHとしては、好ましくは5.0〜8.6、より好ましくは7.0〜8.2、さらに好ましくは7.1〜7.6を挙げることができる。pHの調整は、用いる基剤又は安定化剤の種類若しくは量によって調整する方法や、緩衝液を用いて調整する方法を挙げることができる。カプセル内容液、若しくは各段階における調製途中の溶液のpHを中性〜弱酸性に調整しつつ溶液を調製することにより、ナルフラフィン塩酸塩の安定性をより向上させることが可能となる。
【0019】
本発明において、皮膜としては特に制限されず、疎水性皮膜でも親水性皮膜でもよいが、親水性皮膜であることが好ましい。
【0020】
親水性皮膜の材料としては、ゼラチン、コハク化ゼラチン等の修飾ゼラチン、カラギーナン、寒天、アルギン酸ナトリウム、プルラン、グルコマンナン、アラビアゴム、ファーセレラン、ユーケマ藻類、ジェランガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デンプン類等の親水性高分子の一種又は二種以上の組合せを挙げることができ、ゼラチン、又は修飾ゼラチンを好適に挙げることができる。
【0021】
皮膜を製造する際には、皮膜材料にグリセリン等の可塑剤、二酸化チタン等の遮光剤、リン酸ナトリウム等のpH調整剤、クエン酸三ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤、乳酸カルシウム、塩化カリウム等のゲル化促進剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の界面活性剤、呈味剤、香料、防腐剤、着色剤、溶解助剤等を添加してもよい。
【0022】
本発明のカプセル製剤の製造方法は、次の(a)〜(c)の工程を備えていれば特に制限されず、ナルフラフィン塩酸塩を緩衝液又は水、好ましくは緩衝液、より好ましくは酢酸緩衝液に溶解したうえで基剤や安定化剤と混合することにより、ナルフラフィン塩酸塩の安定性をより向上させることが可能となる。
(a)ナルフラフィン塩酸塩を緩衝液又は水に溶解してナルフラフィン塩酸塩原液を調製する工程;
(b)前記ナルフラフィン塩酸塩原液と、基剤と、安定化剤としてのラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液、あるいはメグルミン及びラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液とを混合してカプセル内容液を調製する工程;
(c)前記カプセル内容液を皮膜で被覆する工程;
【0023】
本発明のカプセル製剤の製造方法の別の態様としては、次の(d)〜(f)の工程を備えた方法を挙げることができる。
(d)ナルフラフィン塩酸塩をポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール、グリセリンモノカプリル酸エステル、プロピレングリコールモノオレイン酸エステル、プロピレングリコールモノカプリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種の基剤に溶解してナルフラフィン塩酸塩原液を調製する工程;
(e)上記ナルフラフィン塩酸塩原液と、安定化剤としてのラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液、あるいはメグルミン及びラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液とを混合してカプセル内容液を調製する工程;(f)前記カプセル内容液を皮膜で被覆する工程;
【0024】
本発明のカプセル製剤の製造方法において緩衝液を用いる場合には、かかる緩衝液のpHとしては、4.5〜5.5、好ましくは4.8〜5.2を挙げることができる。
【0025】
本発明のカプセル製剤や、本発明のカプセル製剤の製造方法において、カプセル内容液を皮膜で被覆する方法としては、平板法、ロータリーダイ法、シームレス法等の公知の方法を用いることができる。
【実施例1】
【0026】
(供試材料と略号)
カプセル内容液における主薬としてナルフラフィン塩酸塩を、主薬の安定化剤として還元型グルタチオン(Gl)、メグルミン(Mg)、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液(An;日油株式会社製「ニッサンアノン[登録商標]LG−R)、チオクト酸(SA)、リドカイン(Ld)、及びL−メチオニン(Mt)を、抗酸化剤としてチオ硫酸ナトリウム(St)及びトコフェロール(VE)を、基剤としてポリエチレングリコール400(PEG400)を用いた。また、カプセル皮膜として、コハク化ゼラチン、濃グリセリン、及び二酸化チタンを用いた。図中において、主分解物はN-Oxideを表し、NN;未添加、X.XX%;カプセル内容液中に含まれる添加剤濃度(w/w)、+;コハク化ゼラチン皮膜浸漬あり、−;コハク化ゼラチン皮膜浸漬なし、をそれぞれ示す。
【0027】
(カプセル内容液の調製)
脂溶性固体添加物であるチオクト酸及びリドカイン、並びに脂溶性液体添加物であるトコフェロールは秤量後にPEG400と混和・溶解し、水溶性固体添加物であるチオ硫酸ナトリウム、還元型グルタチオン、L−メチオニンは秤量後に水と混和・溶解し、水溶性液体添加物であるラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液は秤量後にプロピレングリコールと混和・溶解した。これら添加物の溶解物をPEG400に混和・溶解させ、これら混和・溶解液それぞれに、ナルフラフィン塩酸塩水溶液を混合し、(+)検体は各混合物2gにコハク化ゼラチン皮膜片1gを浸漬した状態でガラスバイアルに密閉し、また(−)検体は各混合物をそのままガラスバイアルに密閉して各カプセル内容液とした。各カプセル内容液はそれぞれの保存期間につきバイアルを1本ずつ用意した。
【0028】
(カプセル内容液の保存及び安定化分析)
保存期間0週間(保存開始時)のサンプルとして4℃の冷蔵庫でバイアル1本ずつ保存し、残りのカプセル内容液の入ったバイアルは、50℃の恒温槽に入れて保存した。保存期間は1週間乃至8週間とし、50℃での保存期間が終了したら、バイアルを恒温槽から取り出した。(+)検体は浸漬した皮膜を取り出してから、(−)検体はそのまま4℃で分析日まで保管した。また、主薬であるナルフラフィン塩酸塩の残存率を求めるため、採取したカプセル内容液のうち約200mgを水で約5倍に希釈し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行った。HPLC分析はHorikiriらの文献(Horikiri H. et al., Chem. Pharm. Bull. 52(6):664-669(2004))に従い、以下に示す条件により行った。また、ナルフラフィン主薬の保持時間を1としたときの相対保持時間1.13のピークを主分解物(N-Oxide)として解析した。
【0029】
分析カラム;YMC-Pack ODS-AM 5μm
カラム温度;40℃
流速;1.0mL/min
注入量;50μL
検出波長;280nm
移動相A液 50mMリン酸二水素ナトリウム溶液/アセトニトリル=95/5(V/
V)
移動相B液 50mMリン酸二水素ナトリウム溶液/アセトニトリル=60/40(V/V)
【0030】
また、グラジエント条件は以下の[表1]に示す条件により行った。
【0031】
【表1】
【0032】
(還元型グルタチオン;Glによる安定化)
各カプセル内容液の処方を[表2]に、4週間後までの安定化試験の結果を
図1に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
(メグルミン;Mgによる安定化)
各カプセル内容液の処方を[表3]に、8週間後までの安定化試験の結果を
図2に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
(チオクト酸;SAによる安定化)
各カプセル内容液の処方を[表4]に、8週間後までの安定化試験の結果を
図3に示す。
【0037】
【表4】
【0038】
(リドカイン;Ldによる安定化)
各カプセル内容液の処方を[表5]に、8週間後までの安定化試験の結果を
図4に示す。
【0039】
【表5】
【0040】
(ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液;Anによる安定化)
各カプセル内容液の処方を[表6]に、8週間後までの安定化試験の結果を
図5に示す。
【0041】
【表6】
【0042】
(メチオニン;Mtによる安定化)
各カプセル内容液の処方を[表7]に、1週間後での安定化試験の結果を
図6に示す。
図6中、EMtはVE+Mtを、EMtMはVE+Mt+Mgを、EMtAはVE+Mt+Anを、EMMAはVE+Mt+Mg+Anを、それぞれ示す。
【0043】
【表7】
【0044】
(カプセル製剤の調製)
以下の[表8]に記載の皮膜処方とカプセル内容液処方にしたがって、安定化剤を異にする5種類のカプセル製剤を調製した。具体的には、グルタチオン、メグルミン、ナルフラフィン塩酸塩はそれぞれ水に溶解させ、ポリエチレングリコール400に投入した。トコフェロール、チオクト酸、リドカインはそれぞれ小分けにしたポリエチレングリコール400で溶解させ、元のポリエチレングリコール400に投入した。ニッサンアノンLG−Rはプロピレングリコールに溶解させ、ポリエチレングリコール400に投入した。撹拌により、均一混合し、各カプセル内容液を得た。調製したカプセル内容液はロータリーダイ法によりコハク化ゼラチン、グリセリン、二酸化チタンからなる皮膜に充填し、Oval3型の軟カプセル製剤を得た。
【0045】
【表8】
【実施例2】
【0046】
(メグルミン及び/又はラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液による安定化)
メグルミン及び/又はラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液によるナルフラフィン塩酸塩の安定化試験を行った。各カプセル内容液の処方を[表9]〜[表12]に示す。[表9]〜[表12]において(+)はコハク化ゼラチン皮膜浸漬あり、(+g)はゼラチン皮膜浸漬ありを示す。[表9]〜[表11]の各処方については、4週間後までの安定化試験の結果をそれぞれ
図7〜
図9に示す。また、[表12]の処方については、8週間後までの安定化試験の結果を
図10に示す。これらカプセル内容液の調製や、カプセル内容液の安定化分析は、保存温度を60℃に変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0047】
【表9】
【0048】
【表10】
【0049】
【表11】
【0050】
【表12】
【実施例3】
【0051】
以下[表13]に示されるナルフラフィン塩酸塩軟カプセル製剤処方に基づき、4種類のナルフラフィン塩酸塩軟カプセル製剤をロータリーダイ法によりコハク化ゼラチン、グリセリン、二酸化チタンからなる皮膜に充填し、Oval3型の軟カプセル製剤を得た。
【0052】
【表13】
【0053】
前記の特許文献1(特許第3743449号公報)に示されているように、ナルフラフィン塩酸塩を含有するカプセル製剤における安定剤としてチオ硫酸ナトリウム0.05%〜1%が添加されている。そこで、チオ硫酸ナトリウム0.15%添加品をポジティブコントロールとして採用した。
図5(サンプル「An0.05%(+)」及び「An0.1%(+)」)より、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液0.05%以上の添加にて、ポジティブコントロールと同等以上の主薬残存率を示しており、一定の安定性効果が認められた。さらに、トコフェロールと組み合わせることで(サンプル「VE0.1%+An0.01%(+)」〜「VE0.1%+An0.1%(+)」)より、主薬残存率はより高く、かつ、主分解物含量がより低く抑えられ、極めて安定性に優れていることがわかった。また、
図9より、チオ硫酸ナトリウム、トコフェロール及び/又はメグルミンとラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液の組合せ(サンプル「SE’M”A”」〜「SE’A’」)で、主薬残存率と主分解物含量ともに、好ましい結果が得られており、ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液のナルフラフィン塩酸塩に対する安定化効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のカプセル製剤は、医薬、医薬部外品等の分野において、ナルフラフィン塩酸塩を長期間安定な状態で保持できるカプセル製剤として利用可能である。
【要約】
【課題】ナルフラフィン塩酸塩を安定な状態で含有するカプセル製剤や、かかるカプセル製剤の製造方法を提供すること。
【解決手段】ナルフラフィン塩酸塩と、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の基剤と、安定化剤とを含有するカプセル内容液を皮膜で被覆したカプセル製剤を製造する。上記安定化剤としては、局所麻酔薬であるリドカイン、補酵素として働くビタミン様物質であるチオクト酸(α−リポ酸)、ソルビトールから誘導されたアミノ糖であるメグルミン、トリペプチドで抗酸化物質として知られている還元型グルタチオン、両性界面活性剤であるラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液、及び側鎖にイオウを含んだ疎水性アミノ酸であるL−メチオニンからなる群から選ばれる少なくとも一種、特にラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液を挙げることができる。また、上記安定化剤は、トコフェロールと併用することができる。
【選択図】なし