(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
(1)複合樹脂粒子
本発明の複合樹脂粒子は、ポリプロピレン系樹脂とポリスチレン系樹脂とを含む複合樹脂粒子であり、
前記ポリスチレン系樹脂の含有量が、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して100〜400質量部であり、
前記複合樹脂粒子の表面から0.2μmを超え1.0μmまでの表層部は、前記ポリプロピレン系樹脂中に、粒子径0.3μm以下のポリスチレン系樹脂が分散された状態であり、
前記複合樹脂粒子の表面から0.2μmまでの最表層部は、前記ポリプロピレン系樹脂中に、粒子径0.3〜1.5μmのポリスチレン系樹脂が分散された状態であり、
前記複合樹脂粒子の表面の赤外線吸収スペクトルから得られるポリスチレン系樹脂由来の698cm
-1の吸光度(D698)とポリプロピレン系樹脂由来の1376cm
-1の吸光度(D1376)との吸光度比(D698/D1376)が、0.5〜2.5であることを特徴とする。
【0020】
本発明において、「表層部」とは、複合樹脂粒子および発泡成形体の表面からの距離(深さ)が0.2μmを超え1.0μmまでの範囲のことをいう。
また、「最表層部」とは、複合樹脂粒子および発泡成形体の表面からの距離(深さ)が0.2μmまでの範囲のことをいう。
さらに、「内部」とは、複合樹脂粒子を二等分し、さらにその切断面の中心(少なくとも円中心から1/5より内側)をいう。発泡成形体の場合、発泡成形体を二等分し、その切断面を構成している発泡粒子の中心(少なくとも円中心から1/5より内側)をいう。
本発明において、複合樹脂粒子の表層部および最表層部を表す表面からの距離(深さ)ならびにポリスチレン系樹脂の粒子径は、実施例において具体的に説明するように、複合樹脂粒子の断面を、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて、上記の距離や粒子径が計測できる倍率(例えば、1000〜10000倍)に拡大し、その表示装置またはその表示画像から転写された写真で可視化することにより確認することができる。
【0021】
(a)複合樹脂粒子の表層部および最表層部におけるポリスチレン系樹脂の分散状態
複合樹脂粒子の表面から0.2μmを超え1.0μmまでの表層部は、ポリプロピレン系樹脂中に、粒子径0.3μm以下のポリスチレン系樹脂が分散された状態であり、
複合樹脂粒子の表面から0.2μmまでの最表層部は、ポリプロピレン系樹脂中に、粒子径0.3〜1.5μmのポリスチレン系樹脂が分散された状態である。
ここで、「粒子径」とは、複合樹脂粒子に含まれるポリプロピレン系樹脂中に分散しているポリスチレン系樹脂の最長部分の粒子径を意味し、「粒子長径」とは、複合樹脂発泡成形体に含まれる引き伸ばされた状態のポリスチレン系樹脂における最長部分の粒子径を意味する。
上記の「粒子径」が、ポリプロピレン系樹脂中に分散されたポリスチレン系樹脂の粒子径であることから、本明細書では、これを「分散径」ともいう。
また、上記の「粒子長径」が、複合樹脂発泡成形体に含まれる、引き伸ばされた状態の
ポリプロピレン系樹脂中に分散されたポリスチレン系樹脂の粒子径であることから、本明細書では、これを「分散長径」ともいう。
【0022】
表層部のポリスチレン系樹脂の粒子径(分散径)が0.3μmを超えると、発泡粒ライフが短くなる虞がある。その分散径は、例えば、0.1、0.15、0.2、0.25及び0.3μmである。
したがって、好ましい表層部のポリスチレン系樹脂の分散径は、0.1〜0.3μmであり、より好ましくは0.1〜0.2μmである。
【0023】
最表層部のポリスチレン系樹脂の粒子径(分散径)が0.3μm未満では、省エネルギー成形できないことがある。一方、最表層部のポリスチレン系樹脂の分散径が1.5μmを超えると、耐薬品性が低下してしまう虞がある。その分散径は、例えば、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4及び1.5μmである。
したがって、好ましい最表層部のポリスチレン系樹脂の分散径は、0.3〜1.3μmであり、より好ましくは0.3〜1.0μmである。また、分散径は0.3μmを超えることが好ましい。
【0024】
このように本発明の複合樹脂粒子は、その表層部および最表層部に特定の粒子径のポリスチレン系樹脂が分散された状態であり、表層部のポリスチレン系樹脂の分散径は最表層部のポリスチレン系樹脂の分散径よりも小さい。この表層部の分散径と最表層部の分散径との差は、0.2〜1.2μmであり、例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1及び1.2μmであり、好ましくは0.2〜0.8μmである。
【0025】
複合樹脂粒子の表層部および最表層部におけるポリスチレン系樹脂の分散状態は、例えば、表層部および最表層部のTEM写真を各粒子の面積がほぼ同一になるようにトレースして、粒子径を1つずつ測定することで確認することができる。
具体的には、実施例において詳述する。
【0026】
(b)複合樹脂粒子の表面の吸光度比
本発明の複合樹脂粒子は、例えば、実施例1において詳述するように、複合樹脂粒子の表面(表層部および最表層部)にはポリプロピレン系樹脂がリッチに存在し、その粒子内部に行くにつれてポリスチレン系樹脂がリッチに存在する構造である。
本発明の複合樹脂粒子は、このような傾斜構造を有し、表面のポリプロピレン系樹脂中に特定の粒子径を有するポリスチレン系樹脂が分散することにより、本発明の効果を発現できるものと考えられる。
【0027】
すなわち、複合樹脂粒子は、その表面の赤外線吸収スペクトルから得られるポリスチレン系樹脂由来の698cm
-1の吸光度(D698)とポリプロピレン系樹脂由来の1376cm
-1の吸光度(D1376)との吸光度比(D698/D1376)が、0.5〜2.5である。
例えば、ポリスチレン系樹脂と、ポリプロピレン系樹脂で構成された複合樹脂粒子である場合に、吸光度比0.5は、ポリスチレン系樹脂の存在率が約10%であることを、吸光度比2.5は、ポリスチレン系樹脂の存在率が約42%であることを意味する。
【0028】
上記の吸光度比(D698/D1376)は、例えば、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4及び2.5である。
なお、吸光度D698およびD1376は、赤外吸収スペクトルから得られるもので、複合樹脂粒子に含まれる各樹脂成分の振動に由来するピークの高さを意味する。
具体的には、実施例において詳述する。
【0029】
(c)ポリプロピレン系樹脂
本発明の複合樹脂粒子に含まれるポリプロピレン系樹脂は、特に限定されず、公知の重合方法で得られた樹脂を使用できるが、例えば、ポリプロピレン樹脂以外にもプロピレン−エチレン共重合体が用いられる。このプロピレン−エチレン共重合体は、エチレンとプロピレンの共重合体を主成分とするものであるが、エチレンまたはプロピレンと共重合し得る他の単量体を分子内に含有するものであってもよい。そのような単量体としては、α−オレフィン、環状オレフィン、ジエン系単量体から選択された1種または2種以上のものが挙げられる。
【0030】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂としては、120〜145℃の範囲の融点を有するものが好ましい。ポリプロピレン系樹脂の融点が120℃未満では、耐熱性が乏しく、ポリプロピレン系樹脂粒子を用いて製造されるポリプロピレン系樹脂を含む発泡成形体の耐熱性が低くなることがある。また、融点が145℃を超えると、重合温度が高くなり、良好な重合ができなくなることがある。その融点は、例えば、120、125、130、135、140及び145℃である。
【0031】
(d)ポリスチレン系樹脂
ポリスチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレンなどのスチレン系単量体の単独重合体またはこれらの共重合体が挙げられる。
【0032】
また、ポリスチレン系樹脂としては、上記のスチレン系単量体と、このスチレン系単量体と共重合可能なビニル系単量体との共重合体であってもよい。このようなビニル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートなどの単官能単量体、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレートなどの二官能単量体などが挙げられる。本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル、メタクリル又はそれらの組み合わせを意味する。
【0033】
ポリスチレン系樹脂の含有量は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して100〜400質量部である。このような複合樹脂にすることにより、ポリプロピレン系樹脂とポリスチレン系樹脂との優れた特性を併せ持つ発泡成形体を得ることができる。
ポリスチレン系樹脂の含有量が100質量部未満では、ポリスチレン系樹脂が不足し所望の発泡性を得ることができないことがあり、予備発泡粒子を二次発泡させて得られる発泡成形体の剛性が低下することがある。一方、ポリスチレン系樹脂の含有量が400質量部を超えると、予備発泡粒子を二次発泡させて得られる発泡成形体の耐薬品性および耐熱性が低下することがある。ポリプロピレン系樹脂100質量部に対するポリスチレン系樹脂の含有量は、例えば、100、150、200、250、300、350及び400質量部である。
したがって、好ましいポリスチレン系樹脂の含有量は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して100〜300質量部、より好ましくは100〜250質量部である。
【0034】
(e)添加剤
本発明の複合樹脂粒子は、本発明の効果を阻害しない範囲で、難燃剤、難燃助剤、発泡助剤、可塑剤、滑剤、結合防止剤、融着促進剤、帯電防止剤、展着剤、気泡調整剤、架橋剤、充填材、着色剤などの公知の添加剤が含まれていてもよい。
【0035】
難燃剤としては、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、ビス[3,5−ジブロモ−4−(2,3−ジブロモプロポキシ)フェニル]スルホン、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、トリスジブロモプロピルホスフェート、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)などが挙げられる。
難燃助剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、ジクミルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。
【0036】
発泡助剤としては、スチレン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなどの芳香族有機化合物、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの環式脂肪族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの1気圧下における沸点が200℃以下の溶剤が挙げられる。
可塑剤としては、フタル酸エステル、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリントリステアレート、ジアセチル化グリセリンモノステアレートなどのグリセリン脂肪酸エステル、ジイソブチルアジペートのようなアジピン酸エステルなどが挙げられる。
【0037】
滑剤としては、パラフィンワックス、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。
結合防止剤としては、炭酸カルシウム、シリカ、ステアリン酸亜鉛、水酸化アルミニウム、エチレンビスステアリン酸アミド、第三リン酸カルシウム、ジメチルシリコンなどが挙げられる。
融着促進剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸トリグリセリド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸ソルビタンエステル、ポリエチレンワックスなどが挙げられる。
【0038】
帯電防止剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ステアリン酸モノグリセリドなどが挙げられる。
展着剤としては、ポリブテン、ポリエチレングリコール、シリコンオイルなどが挙げられる。
気泡調整剤としては、エチレンビスステアリン酸アミド、ポリエチレンワックスなどが挙げられる。
【0039】
架橋剤としては、2,2−ジ−t−ブチルパーオキシブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサンなどの有機過酸化物などが挙げられる。
充填材としては、合成または天然に産出される二酸化ケイ素などが挙げられる。
【0040】
着色剤としては、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、黒鉛、炭素繊維などのカーボンブラック、黄鉛、亜鉛黄、バリウム黄などのクロム酸塩、紺青などのフェロシアン化物、カドミウムイエロー、カドミウムレッドなどの硫化物、鉄黒、紅殻などの酸化物、群青のようなケイ酸塩、酸化チタンなどの無機系の顔料、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、アゾレーキ、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などのアゾ顔料、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、チオインジゴ系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの多環式顔料などの有機系の顔料が挙げられる。
【0041】
本発明の複合樹脂粒子は、上記の添加剤の中でも、着色剤としてカーボンブラックを含有するのが好ましい。これにより、成形された発泡成形体に意匠性を付与することができる。
カーボンブラックの添加量は、上記の樹脂成分に対して、1.0〜2.5質量%程度である。そのカーボンブラックの添加量は、例えば、1.0、1.5、2.0及び2.5質量%である。
【0042】
(f)複合樹脂粒子の製造方法
複合樹脂粒子の製造方法としては、特に限定されず、例えば、シード重合法が挙げられる。
シード重合法は、一般に、種粒子に単量体混合物を吸収させ、吸収させた後または吸収させつつ単量体混合物の重合を行うことにより複合樹脂粒子を得ることができる。また、重合させた後または重合させつつ複合樹脂粒子に後述する発泡剤を含浸させて発泡性樹脂粒子を得ることができる。
なお、樹脂粒子中に難燃剤や難燃助剤を含有させる場合には、単量体混合物の重合時にそれらを添加してもよいし、重合完了後の複合樹脂粒子に含浸させてもよい。
【0043】
シード重合法による複合樹脂粒子の製造方法は、例えば、まず、水性媒体中で、種粒子としてのポリプロピレン系樹脂粒子に、スチレン系単量体を含む単量体混合物を吸収させ、吸収させた後または吸収させつつ単量体混合物の重合を行うことで複合樹脂粒子を得る。
単量体混合物は、これを構成する単量体を全て同時に水性媒体中に供給する必要はなく、単量体の全部あるいは一部を別々のタイミングで水性媒体中に供給してもよい。複合樹脂粒子中に難燃剤や難燃助剤を含有させる場合には、難燃剤や難燃助剤を単量体混合物や水性媒体中に添加しても、あるいは、種粒子中に含有させてもよい。
【0044】
種粒子としてのポリプロピレン系樹脂粒子は、前記のポリプロピレン系樹脂の粒子であり、その平均粒子径は、作製する発泡性複合樹脂粒子の平均粒子径などに応じて適宜調整できる。
種粒子の好ましい粒子径は、0.5〜1.5mmの範囲であり、より好ましくは、0.6〜1.0mmの範囲であり、その平均質量は30〜90mg/100粒程度である。
また、その形状は、真球状、楕円球状(卵状)、円柱状、角柱状などが挙げられる。
【0045】
種粒子の製造方法は、特に限定されず、公知の方法により製造できる。例えば、原料樹脂を押出機で溶融し、ストランドカット、水中カット、ホットカットなどにより造粒ペレット化する方法、粉砕機にて直接樹脂粒子を粉砕しペレット化する方法により得られる。
また、前記の方法により得られた粒子は、適宜篩い分けすることで、所望の平均粒子径の粒子に分級してもよい。分級した種粒子を使用することで、粒径分布が狭く所望粒子径を有する発泡性複合樹脂粒子を得ることができる。
【0046】
水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒(例えば、メチルアルコールやエチルアルコールなどの低級アルコール)との混合媒体が挙げられる。
水性媒体には、単量体混合物の液滴および種粒子の分散性を安定させるために分散剤を用いてもよい。このような分散剤としては、例えば、部分けん化ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの有機系分散剤;ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウムなどの無機系分散剤が挙げられる。これらの中でも、より安定な分散状態を維持可能であるため、無機系分散剤が好ましい。
無機系分散剤を用いる場合には、界面活性剤を併用することが好ましい。このような界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0047】
ポリプロピレン系樹脂粒子、スチレン系モノマー及び、必要に応じて他の分散物及び溶解物を含めた水性媒体1m
3を攪拌させるのに要する撹拌所要動力(Pv)が、0.06〜0.8kw/m
3となるように調整された攪拌条件が好ましい。撹拌所要動力は、0.1〜0.5kw/m
3であることが好ましい。この撹拌所要動力は、反応容器内の内容物が攪拌により受けた、正味の単位体積当たりのエネルギーに対応する。
【0048】
ここで、撹拌所要動力は下記要領で測定したものをいう。
すなわち、ポリプロピレン系樹脂粒子、スチレン系モノマー及び必要に応じて他の分散物並びに溶解物を含有する水性媒体を重合装置の重合容器内に供給し、攪拌翼を所定の回転数で回転させて水性媒体を攪拌する。このとき、攪拌翼を回転させるのに必要な回転駆動負荷を電流値A
1(アンペア)として計測する。この電流値A
1に実効電圧(ボルト)を乗じた値をP
1(ワット)とする。
【0049】
そして、重合装置の攪拌翼を重合容器内が空の状態で、上記と同一回転数で回転させ、攪拌翼を回転させるのに必要な回転駆動負荷を電流値A
2(アンペア)として計測する。
この電流値A
2に実効電圧(ボルト)を乗じた値をP
2(ワット)とし、下記式によって撹拌所要動力を算出できる。なお、V(m
3)は、ポリプロピレン系樹脂粒子、スチレン系モノマー及び必要に応じて他の分散物並びに溶解物を含めた水性媒体全体の体積である。
撹拌所要動力(Pv)=(P
1−P
2)/V
【0050】
重合容器の形状及び構造としては、従来からスチレン系モノマーの重合に用いられているものであれば、特に限定されない。
また、攪拌翼は、撹拌所要動力を所定の範囲に設定可能であれば、特に限定されない。
具体的には、V型パドル翼、傾斜パドル翼、平パドル翼、ファードラー翼、
ブルマージン翼等のパドル翼、タービン翼、ファンタービン翼等のタービン翼、マリンプロペラ翼のようなプロペラ翼等が挙げられる。これら攪拌翼の内、パドル翼が好ましく、V型パドル翼、傾斜パドル翼、平パドル翼、ファードラー翼、
ブルマージン翼がより好ましい。攪拌翼は、単段翼であっても多段翼であってもよい。
また、攪拌翼の大きさについても、撹拌所要動力を所定の範囲に設定可能であれば、特に限定されない。
更に、重合容器に邪魔板(バッフル)を設けてもよい。
【0051】
単量体混合物の重合は、例えば、60〜150℃で、2〜40時間加熱することにより行うことができる。重合は、単量体混合物を種粒子中に吸収させた後、または単量体混合物を種粒子に吸収させながら行うことができる。なお、単量体と樹脂の量はほぼ同一である。
単量体混合物は、通常重合開始剤の存在下で重合する。重合開始剤は、通常単量体混合物と同時に種粒子に含浸させる。
【0052】
重合開始剤としては、従来からスチレン系単量体の重合に用いられているものであれば、特に限定されない。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−t−ブチルパーオキシブタン、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。これら重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合開始剤の使用量は、単量体混合物100質量部に対して、例えば0.1〜5質量部の範囲である。
【0053】
重合開始剤を種粒子または種粒子から成長途上の粒子に均一に吸収させるために、重合開始剤を水性媒体中に添加するにあたって、重合開始剤を水性媒体中に予め懸濁または乳化分散させた上で分散液中に添加するか、あるいは重合開始剤を単量体混合物または単量体混合物のいずれかの単量体に予め溶解させた上で水性媒体中に添加することが好ましい。
本発明の複合樹脂粒子は、少なくとも2段階でスチレン系単量体を重合させ、その際の重合条件を適宜設定することにより得ることができる。具体的には、重合開始剤が分解しない温度で、スチレン系単量体を添加し、重合開始剤の10時間半減期温度(T1)T1〜T1+15℃の範囲で保持し、さらにポリプロピレン系樹脂の融点(T2)T2−5℃〜T2+10℃の範囲で第1の重合を行い、次に第2の重合を行う。
【0054】
(2)発泡性複合樹脂粒子
本発明の発泡性複合樹脂粒子は、本発明の複合樹脂粒子と発泡剤とを含む。
具体的には、本発明の発泡性複合樹脂粒子は、本発明の複合樹脂粒子に発泡剤を含浸させることにより得られる。発泡剤の含浸は、公知の方法により、樹脂の単量体を重合させつつ行ってもよく、重合させた後に行ってもよい。
例えば、重合中での含浸は、重合反応を密閉容器中で行い、容器中に発泡剤を圧入することにより行うことができる。また重合終了後の含浸は、密閉容器中で、発泡剤を圧入することにより行うことができる。
【0055】
含浸時の条件は、複合樹脂粒子や発泡剤の種類、得ようとする発泡性複合樹脂粒子の物性などにより適宜設定すればよい。
例えば、含浸時の温度が低いと、複合樹脂粒子に発泡剤を含浸させるのに要する時間が長くなり、生産効率が低下することがある。一方、含浸時の温度が高いと、複合樹脂粒子同士が合着して結合粒が発生することがある。したがって、含浸時の温度は、50〜80℃の範囲であるのが好ましく、60〜70℃の範囲であるのがより好ましい。
【0056】
発泡剤としては、特に限定されず、公知のものをいずれも使用でき、沸点がポリスチレン系樹脂の軟化点以下であり、常圧でガス状または液状の有機化合物が特に適している。
例えば、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、シクロペンタジエン、n−ヘキサン、石油エーテルなどの炭化水素、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテルなどの低沸点のエーテル化合物、炭酸ガス、窒素、アンモニアなどの無機ガスなどが挙げられる。これらの発泡剤は、単独でまたは2種以上を組み合せて用いてもよい。
これらの中でも、空気と速く置換して発泡成形体の経時変化を抑制する観点で、炭化水素が好ましく、−45〜40℃の沸点を有する炭化水素がより好ましく、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタンなどが特に好ましい。
【0057】
発泡剤の含有量は、特に限定されないが、7〜15質量%の範囲であるのが好ましい。その発泡剤の含有量は、例えば、7、8、9、10、11、12、13、14及び15質量%であり、7〜12質量%の範囲がより好ましい。
発泡剤の含有量が7質量%未満では、発泡性複合樹脂粒子から所望の密度の予備発泡粒子を得られないことがあり、また型内発泡成形時の二次発泡力を高める効果が小さくなるために、発泡成形体の外観が良好とならないことがある。一方、発泡剤の含有量が15質量%を超えると、発泡成形体の製造工程における冷却工程に要する時間が長くなり、生産性が低下することがある。
【0058】
本発明の効果を阻害しない範囲で、発泡剤は公知の発泡助剤や可塑剤と併用してもよい。このような発泡助剤や可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジイソブチル、トルエン、シクロヘキサン、エチルベンゼンなどが挙げられる。
【0059】
(3)予備発泡粒子
本発明の予備発泡粒子(単に「発泡粒子」ともいう)は、本発明の発泡性複合樹脂粒子を発泡させて得られる。
具体的には、本発明の発泡粒子は、加熱水蒸気などを用いて所望の嵩密度に発泡性複合樹脂粒子を発泡させることで得られる。
発泡粒子は、クッションの充填材などの用途ではそのまま使用でき、また型内発泡させるための発泡成形体の原料として使用できる。発泡成形体の原料として用いられる場合、通常、発泡粒子を「予備発泡粒子」と称し、それを得るための発泡を「予備発泡」と称する。
【0060】
発泡粒子の嵩密度は、0.018〜0.050g/cm
3の範囲であるのが好ましい。
発泡粒子の嵩密度が0.018g/cm
3未満では、得られる発泡成形体に収縮が発生して外観が良好とならないことがあり、また発泡成形体の断熱性能および機械的強度が低下することがある。一方、発泡粒子の嵩密度が0.050g/cm
3を超えると、発泡成形体の軽量性が低下することがある。その発泡粒子の嵩密度は、例えば、0.018、0.020、0.025、0.030、0.035、0.040、0.045及び0.050g/cm
3である。
なお、発泡前に、発泡性複合樹脂粒子の表面に、ステアリン酸亜鉛のような粉末状金属石鹸類を塗布してもよい。この塗布により、発泡工程における発泡性複合樹脂粒子同士の結合を減少させることができる。
【0061】
(4)発泡成形体
本発明の発泡成形体は、本発明の予備発泡粒子を発泡成形させて得られ、
発泡成形体の表面から0.2μmを超え1.0μmまでの表層部は、ポリプロピレン系樹脂中に、粒子長径0.5μm以下のポリスチレン系樹脂が分散された状態であり、
発泡成形体の表面から0.2μmまでの最表層部は、ポリプロピレン系樹脂中に、粒子長径0.5〜2.5μmのポリスチレン系樹脂が分散された状態であることを特徴とする。粒子長径は0.5μmを超えることが好ましい。
【0062】
発泡成形体の表層部および最表層部におけるポリスチレン系樹脂の分散状態は、粒子径を粒子長径にすること以外は、本発明の複合樹脂粒子の表層部および最表層部におけるポリスチレン系樹脂の分散状態と同様に確認することができる。
具体的には、実施例において詳述する。
【実施例】
【0063】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の例示にすぎず、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
実施例および比較例においては、得られた複合樹脂粒子および発泡成形体を次のようにして評価した。
【0064】
<複合樹脂粒子の表面の吸光度比(ポリプロピレン系樹脂の場合)>
複合樹脂粒子の表面の吸光度比(D698/D1376)を次の要領で測定する。
なお、赤外吸収スペクトルから得られる各吸光度は、複合樹脂粒子に含まれる各樹脂成分の振動に由来するピークの高さをいう。
無作為に選択した10個の粒子について、赤外分光分析ATR測定法により表層分析を行って赤外吸収スペクトルを得る。この分析では、試料表面から数μm(約2μm)までの深さの範囲の赤外吸収スペクトルが得られる。
各赤外吸収スペクトルから個別吸光度比(D698/D1376)をそれぞれ算出し、表層について算出した個別吸光度比の相加平均を吸光度比とする。
ポリスチレン系樹脂比率(質量%)は、後述の検量線に基づいて、吸光度比(D698/D1376)から算出する。
吸光度D698およびD1376は、Nicolet社製の測定装置;商品名「フーリエ変換赤外分光分析計 MAGNA560」と、ATRアクセサリーとしてSpectra−Tech社製「サンダードーム」を用いて次の条件で測定する。
【0065】
(測定条件)
高屈折率結晶種:Ge(ゲルマニウム)
入射角:45°±1°
測定領域:4000cm
-1〜675cm
-1
測定深度の端数依存性:補正せず
反射回数:1回
検出器:DTGS KBr
分解能:4cm
-1
積算回数:32回
その他:試料と接触させずに赤外線吸収スペクトルを上記の条件で測定し、測定された赤外線吸収スペクトルをバックグラウンドとする。試料の測定時には、バックグラウンドが測定スペクトルに関与しないように、測定データを処理する。ATR法では、試料と高屈折率結晶の密着度合によって、赤外吸収スペクトルの強度が変化する。そのため、ATRアクセサリーの「サンダードーム」で掛けられる最大荷重を掛けて密着度合をほぼ均一にして測定を行う。
【0066】
以上の条件で得られた赤外線吸収スペクトルについて、次のようにピーク処理をしてそれぞれの吸光度を求める。
赤外吸収スペクトルから得られる698cm
-1での吸光度D698は、ポリスチレン系樹脂に含まれるベンゼン環の面外変角振動に由来する吸収スペクトルに対応する吸光度である。この吸光度の測定では、698cm
-1で他の吸収スペクトルが重なっている場合でもピーク分離を実施しない。吸光度D698は、1280cm
-1と860cm
-1を結ぶ直線をベースラインとして、710cm
-1と685cm
-1間の最大吸光度を意味する。
また、赤外吸収スペクトルから得られる1376cm
-1での吸光度D1376は、ポリプロピレン系樹脂に含まれる−C−CH
3炭化水素のCH
3の対称変角振動に由来する吸収スペクトルに対応する吸光度である。この吸光度の測定では、1376cm
-1で他の吸収スペクトルが重なっている場合でもピーク分離を実施しない。吸光度D1376は、1414cm
-1と1340cm
-1を結ぶ直線をベースラインとして、1400cm
-1と1350cm
-1間の最大吸光度を意味する。
【0067】
吸光度比からポリスチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の組成割合を求める方法としては、ポリスチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂とを所定の組成割合に均一に混合してなる複数種類の標準試料を作製し、各標準試料についてATR法赤外分光分析により粒子表面分析を行なって赤外線吸収スペクトルを得る。得られた赤外吸収スペクトルのそれぞれから吸光度比を算出する。そして、縦軸に組成割合(標準試料中のポリスチレン系樹脂比率(質量%))を、横軸に吸光度比(D698/D1376)をとることで、検量線を描く。この検量線に基づいて、本発明の複合樹脂粒子の吸光度比から、本発明の複合樹脂粒子におけるポリスチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂の組成割合を求める。
なお、前記検量線は、下記の式に近似される。
・D698/D1376<2.35の場合、
Y=−2.5119X
12+22.966X
1
・10.0>(D698/D1376)>2.35の場合、
Y=27.591Ln(X
1)+16.225
X
1=(D698/D1376)、Y=ポリスチレン系樹脂量(%)
【0068】
<複合樹脂粒子の表面の吸光度比(ポリエチレン系樹脂の場合)>
複合樹脂粒子の表面の吸光度比(D698/D2850)を測定する以外は、ポリプロピレン系樹脂と同様に行う。
得られた赤外線吸収スペクトルについて、次のようにピーク処理をしてそれぞれの吸光度を求める。
赤外吸収スペクトルから得られる698cm
-1での吸光度D698は、スチレン系樹脂に含まれるベンゼン環の面外変角振動に由来する吸収スペクトルに対応する吸光度である。この吸光度の測定では、698cm
-1で他の吸収スペクトルが重なっている場合でもピーク分離を実施しない。吸光度D698は、2000cm
-1と870cm
-1を結ぶ直線をベースラインとして、710cm
-1と685cm
-1間の最大吸光度を意味する。
また、赤外吸収スペクトルから得られる2850cm
-1での吸光度D2850は、ポリエチレン系樹脂に含まれる−C−CH
2炭化水素のCH
2の対称変角振動に由来する吸収スペクトルに対応する吸光度である。この吸光度の測定では、2850cm
-1で他の吸収スペクトルが重なっている場合でもピーク分離を実施しない。吸光度D2850は、3125cm
-1と2720cm
-1を結ぶ直線をベースラインとして、2875cm
-1と2800cm
-1間の最大吸光度を意味する。
【0069】
吸光度比からポリスチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂の組成割合を求める方法としては、ポリスチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂とを所定の組成割合に均一に混合してなる複数種類の標準試料を作製し、各標準試料についてATR法赤外分光分析により粒子表面分析を行なって赤外線吸収スペクトルを得る。得られた赤外吸収スペクトルのそれぞれから吸光度比を算出する。そして、縦軸に組成割合(標準試料中のポリスチレン系樹脂比率(質量%))を、横軸に吸光度比(D698/D2850)をとることで、検量線を描く。この検量線に基づいて、本発明の複合樹脂粒子の吸光度比から、本発明の複合樹脂粒子におけるポリスチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂の組成割合を求める。
なお、前記検量線は、下記の式に近似される。
・D698/D2850<1.42の場合、
Y=21.112X
2
・1.42<(D698/D2850)<8.24の場合、
Y=28.415Ln(X
2)+20.072
X
2=(D698/D2850)、Y=ポリスチレン系樹脂量(%)
【0070】
<複合樹脂粒子および発泡成形体の表層部および最表層部におけるポリスチレン系樹脂の分散状態>
複合樹脂粒子および発泡成形体から切片を切り出し、その切片をエポキシ樹脂中に包埋後、ウルトラミクロトーム(ライカマイクロシステムズ社製、商品名:LEICA ULTRACUT UCT)を用いて超薄切片(厚み70nm)を作成する。
次いで、超薄切片を透過型電子顕微鏡(TEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型式:H−7600)にて倍率5000倍で写真撮影を行い、複合樹脂粒子および発泡成形体の表面から0.2μmを超え1.0μmまでの範囲の表層部および表面から0.2μmまでの範囲の最表層部の構造を観察する。染色剤は四酸化ルテニウムを用いる。
観察において、複合樹脂粒子および発泡成形体中に分散されたポリスチレン系樹脂の分散径および分散長径は、次の方法により確認した。すなわち、例えば、
図1(a)を粒子の面積がほぼ同一になるようにトレースして、分散径を1つずつ測定することで、複合樹脂粒子の表層部の粒子径(分散径)が0.3μm以下、最表層部の粒子径(分散径)の範囲が0.3〜1.5μmであること、ならびに発泡成形体の表層部の粒子長径(分散長径)が0.5μm以下、最表層部の粒子長径(分散長径)の範囲が0.5〜2.5μmであることを確認した。
【0071】
<加熱寸法変化率>
JIS K 6767:1999「発泡プラスチック−ポリエチレン−試験方法」に記載のB法にて加熱寸法変化率を測定する。
得られた密度0.025g/cm
3の発泡成形体を温度50℃で1日間乾燥した後、この発泡成形体から試験片150×150×30mm(厚さ)を切り出し、その中央部に縦および横方向にそれぞれ互いに平行に3本の直線を50mm間隔になるよう記入し、80℃の熱風循環式乾燥機の中に168時間置いた後に取り出し、23℃±2℃、湿度50%±5%の場所に1時間放置後、縦および横線の寸法を下記式により加熱寸法変化率S(%)を算出する。
S=(L1−L0)/L0×100
式中、Sは加熱寸法変化率(%)、L1は加熱後の平均寸法(mm)、L0は初めの平均寸法(mm)をそれぞれ表す。
加熱寸法変化率S(収縮率)が1.0%以下であれば良好とする。
【0072】
<対金型寸法変化率>
予備発泡後7日目および30日目に同条件で成形する。金型の所定部分の寸法を測定し、その所定部分に対応する発泡成形体の寸法を測定し、次式(1)(2)によりそれぞれの寸法変化率を求める。
予備発泡後7日目の対金型寸法変化率C
7(%)
=(金型寸法−成形体寸法)÷金型寸法×100 (1)
予備発泡後30日目の対金型寸法変化率C
30(%)
=(金型寸法−成形体寸法)÷金型寸法×100 (2)
得られた対金型寸法変化率の差C
30−C
7を、下記の基準に基づいて評価する。
○:C
30−C
7が0.3%未満
×:C
30−C
7が0.3%以上
【0073】
<耐薬品性>
発泡成形体から縦100mm×横100mm×厚み20mmの平面長方形状の板状試験片を3枚切り出し、23±2℃、湿度50±5%の条件で24時間放置する。なお、試験片の上面全面が発泡成形体の表面から形成されるように試験片を発泡成形体から切り出す。
次に、3枚の試験片の上面毎に別々の薬品(ガソリン、灯油、ジブチルフタレート(DBP))1gを均一に塗布し、23±2℃、湿度50±5%の条件で60分放置する。その後、試験片の上面から薬品を拭き取り、試験片の上面を目視観察し、下記の基準に基づいて評価する。
○:良好 変化なし
△:やや悪い 表面軟化
×:悪い 表面陥没(収縮)
【0074】
<融着率>
発泡成形体から縦400mm×横300mm×厚み30mmの平板形状の板状試験片を切り出し、その表面に、一対の長辺の中心同士を結ぶ直線に沿ってカッターナイフで深さ約5mmの切り込み線を入れた後、この切り込み線に沿って発泡成形体を手で二分割する。そして、二分割された発泡成形体の破断面の発泡粒子について、100〜150個の任意の範囲について発泡粒子内で破断している発泡粒子の数(a)と、発泡粒子同士の界面で破断している発泡粒子数(b)を計数し、下記式により融着率F(%)を算出する。
F=(a)/[(a)+(b)]×100
融着率Fが80%以上であれば良好とする。
【0075】
<発泡成形体の曲げ強度>
発泡成形体の曲げ強度(平均最大曲げ強度)をJIS K 7221−2:2006「硬質発泡プラスチック」に記載の方法に準拠して測定する。
発泡成形体から縦25mm×横130mm×厚さ20mm(片面スキン下側)の直方体形状の試験片を5個切り出し、23℃±2℃、湿度50%±5%の条件で24時間放置する。この試験片を曲げ強度測定器(オリエンテック株式会社製、型式:UCT−10T)を用いて、下記の測定条件下で曲げ強度を測定する。
(測定条件)
試験速度:10mm/分
支点間距離:100mm
たわみ量:50mm
加圧くさび:5R
支持台:5R
得られた結果の相加平均を曲げ強度とし、下記の基準に基づいて評価する。
○:曲げ強度が0.3MPa以上
×:曲げ強度が0.3MPa未満
【0076】
<発泡成形体の密度>
発泡成形体の密度は、JIS A 9511:1995「発泡プラスチック保温板」記載の方法で測定する。
発泡成形後に得られる発泡成形体の体積Va(cm
3)と、その質量W(g)を測定し、下記式により発泡成形体の密度(g/cm
3)を求める。
発泡成形体の密度(g/cm
3)=W/Va
【0077】
(実施例1)
ポリプロピレン系樹脂(株式会社プライムポリマー製、商品名:F−744NP、融点:140℃)17.88kg、カーボンブラックマスターバッチ(大日精化工業株式会社製、商品名:PPRM−10H381、カーボンブラックコンテント45質量%)2.22kgを押出機に供給し、溶融混練し水中カット方式により造粒して、楕円球状(卵状)のカーボンブラック5.0質量%含有ポリプロピレン系樹脂粒子を得た。得られたポリプロピレン系樹脂粒子の平均質量は約0.6mgであった。
【0078】
次に、撹拌機付100Lオートクレーブに、得られたポリプロピレン系樹脂粒子16kgを入れ、水性媒体として純水40kg、分散剤としてピロリン酸マグネシウム400g、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム10gを加え、撹拌して水性媒体中に懸濁させ、10分間保持し、その後60℃に昇温して水性懸濁液を得た。これ以後の攪拌所要動力が0.20kw/m
3を維持するように回転数を調整した。
次に、得られた水性懸濁液中に、重合開始剤としてジクミルパーオキサイド14gを溶解させたスチレン単量体6.72kgを30分掛けて滴下した。滴下後30分間保持し、ポリプロピレン系樹脂粒子にスチレン単量体を吸収させた。
【0079】
次に、反応系の温度を120℃に昇温して1時間保持し、ポリプロピレン系樹脂粒子の内部にスチレン単量体を吸収させながら重合させ、ポリプロピレン系樹脂粒子の融点と同じ140℃に昇温して2時間保持し、スチレン単量体をポリプロピレン系樹脂粒子中で重合(第1の重合)させた。
次に、第1の重合の反応液をポリプロピレン系樹脂粒子の融点より15℃低い125℃にして、この反応液中に、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム60gを加えた後、重合開始剤としてジクミルパーオキサイド72gを溶解させたスチレン単量体17.28kgを4時間掛けて滴下し、スチレン単量体をポリプロピレン系樹脂粒子に吸収させながら重合(第2の重合)させた。
滴下終了後、反応系の温度を125℃で1時間保持し、さらに140℃に昇温して3時間保持して重合を完結させた(ポリプロピレン系樹脂粒子とスチレン系樹脂との質量比:4/6)。
次に、反応液を常温(30℃)まで冷却させ、約40kgの複合樹脂粒子を100Lオートクレーブから取り出し、20%塩酸を400mL加え、無機分散剤を除去した。
そして、得られた複合樹脂粒子を用いて、その表面の吸光度比ならびに複合樹脂粒子の表層部および最表層部におけるポリスチレン系樹脂の分散状態を測定した。
【0080】
次に、撹拌機付5Lオートクレーブに、取り出し後の複合樹脂粒子2000gと水2000g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.0gを再び投入し、発泡剤としてブタン520mL(300g)を注入した。注入後、70℃に昇温し、4時間撹拌を続けた。
その後、常温(30℃)まで冷却して5Lオートクレーブから取り出し、脱水乾燥した後に発泡性複合樹脂粒子2000gを得た。
次に、得られた発泡性複合樹脂粒子を嵩密度0.025g/cm
3に予備発泡させて、予備発泡粒子2000gを得た。
【0081】
次に、得られた予備発泡粒子を1日間室温(23℃)に放置した後、400mm×300mm×30mmの大きさのキャビティを有する成形型のキャビティ内に予備発泡粒子を充填し、成形型に0.18MPaの水蒸気を20秒間導入して加熱し、その後、発泡成形体の最高面圧が0.001MPaに低下するまで冷却して、発泡成形体を得た。
この成形条件により外観、融着とも良好な発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の密度は0.025g/cm
3であった。
【0082】
そして、得られた発泡成形体を用いて、その表層部および最表層部におけるポリスチレン系樹脂の分散状態、加熱寸法変化率、耐薬品性、融着率ならびに曲げ強度を測定した。
また、発泡粒ライフの評価については、予備発泡後7日目および30日目に同条件で成形した発泡成形体を用い、対金型寸法変化率を測定した。
【0083】
図1は、実施例1の複合樹脂粒子の(a)最表層部および表層部ならびに(b)内部のTEM画像である。
図1に基づいて各粒子径を1つずつ測定することで、複合樹脂粒子の表面から0.2μmを超え1.0μmまでの表層部には、ポリプロピレン系樹脂中に粒子径0.2μm以下のポリスチレン系樹脂が分散された状態であり、また複合樹脂粒子の表面から0.2μmまでの最表層部には、ポリプロピレン系樹脂中に粒子長径最大値が1.0μmのポリスチレン系樹脂が分散された状態であることを確認した。
【0084】
図2は、実施例1の発泡成形体の(a)最表層部および表層部ならびに(b)内部のTEM画像である。
図2に基づいて各粒子径を1つずつ測定することで、発泡成形体の表面0.2μmを超え1.0μmまでの表層部には、ポリプロピレン系樹脂中に粒子長径0.2μm以下のポリスチレン系樹脂が分散された状態であり、また発泡成形体の表面から0.2μmまでの最表層部には、ポリプロピレン系樹脂中に粒子長径最大値1.5μmのポリスチレン系樹脂が分散された状態であることを確認した。
【0085】
(実施例2)
第1の重合で、反応系の保持条件を温度130℃、1時間にすること以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を得て、途中の複合樹脂粒子と共に発泡成形体を評価した。
【0086】
(実施例3)
カーボンブラックを使用しなかったこと、ポリプロピレン系樹脂粒子16kgを12kgに、第1の重合におけるスチレン単量体6.72kgを5.04kg、ジクミルパーオキサイド14gを10gに、第2の重合におけるスチレン単量体17.28kgを22.96kg、ジクミルパーオキサイド72gを84gにし、(ポリプロピレン系樹脂粒子とスチレン系樹脂との質量比:3/7)にすること以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を得て、途中の複合樹脂粒子と共に発泡成形体を評価した。
【0087】
(実施例4)
第1の重合で、重合開始剤としてジクミルパーオキサイド14gをジ−t−ブチルパーオキサイド14gに、反応系の保持条件を温度120℃、1時間を温度130℃、1時間にすること以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を得て、途中の複合樹脂粒子と共に発泡成形体を評価した。
【0088】
(実施例5)
ポリプロピレン系樹脂粒子16kgを20kgに、第1の重合におけるスチレン単量体6.72kgを8.40kg、ジクミルパーオキサイド14gを17gに、第2の重合におけるスチレン単量体17.28kgを11.60kg、ジクミルパーオキサイド72gを60gにし、(ポリプロピレン系樹脂粒子とスチレン系樹脂との質量比:1/1)にすること以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を得て、途中の複合樹脂粒子と共に発泡成形体を評価した。
【0089】
(実施例6)
ポリプロピレン系樹脂粒子16kgを8kgに、第1の重合におけるスチレン単量体6.72kgを3.36kg、ジクミルパーオキサイド14gを7gに、第2の重合におけるスチレン単量体17.28kgを28.64kg、ジクミルパーオキサイド72gを96gにし、(ポリプロピレン系樹脂粒子とスチレン系樹脂との質量比:2/8)にすること以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を得て、途中の複合樹脂粒子と共に発泡成形体を評価した。
【0090】
(比較例1)
ポリプロピレン系樹脂の代わりに、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、日本ポリエチレン製、商品名:LV−115、融点:105℃)を用いること以外は実施例1と同様にして、ポリエチレン系樹脂粒子を得た。得られたポリエチレン系樹脂粒子の平均質量は約0.4mgであった。
次に、ポリプロピレン系樹脂粒子の代わりに、ポリエチレン系樹脂粒子を用い、攪拌所要動力を1.05kg/m
3にしたこと以外は実施例1と同様にして、水性懸濁液を得た。
次に、実施例1と同様にして、得られた水性懸濁液中に、重合開始剤としてジクミルパーオキサイド14gを溶解させたスチレン単量体6.72kgを30分掛けて滴下した。
滴下後30分間保持し、ポリエチレン系樹脂粒子にスチレン単量体を吸収させた。
【0091】
次に、反応系の温度を130℃に昇温して2時間保持し、スチレン単量体をポリエチレン系樹脂粒子中で重合(第1の重合)させた。
次に、第1の重合の反応液をポリエチレン系樹脂粒子の融点より15℃低い90℃にして、この反応液中に、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム60gを加えた後、重合開始剤としてジクミルパーオキサイド72gを溶解させたスチレン単量体17.28kgを3時間掛けて滴下し、スチレン単量体をポリエチレン系樹脂粒子に吸収させながら重合(第2の重合)させた。
滴下終了後、反応系の温度を140℃に昇温して3時間保持して重合を完結させた(ポリエチレン系樹脂粒子とスチレン系樹脂との質量比:4/6)。
以降は、成形型に0.10MPaの水蒸気を20秒間導入して加熱したこと以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を得て、途中の複合樹脂粒子と共に発泡成形体を評価した。
【0092】
(比較例2)
第1の重合において反応系を120℃で1時間保持しないこと、以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を得て、途中の複合樹脂粒子と共に発泡成形体を評価した。
図3は、比較例2の複合樹脂粒子の(a)最表層部および表層部ならびに(b)内部のTEM画像である。
図4は、比較例2の発泡成形体の(a)最表層部および表層部ならびに(b)内部のTEM画像である。
【0093】
(比較例3)
第1の重合で、反応系の保持条件を120℃に昇温して1時間保持から温度135℃に昇温して1時間保持すること以外は、実施例1と同様にして発泡成形体を得て、途中の複合樹脂粒子と共に発泡成形体を評価した。
図5は、比較例3の複合樹脂粒子の(a)最表層部および表層部ならびに(b)内部のTEM画像である。
図6は、比較例3の発泡成形体の(a)最表層部および表層部ならびに(b)内部のTEM画像である。
【0094】
実施例1〜6および比較例1〜3の結果を表1および2にまとめて示す。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
表1および2の結果から、実施例1〜6の複合樹脂粒子は、耐薬品性や耐熱性、曲げ強度に優れ、省エネルギー成形が可能で発泡成形性に優れることがわかる。
また、表2の結果から、実施例1〜6の複合樹脂粒子は、発泡剤を含ませたときに発泡粒ライフが良好であることがわかる。