(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガスを検知するガス電極として被検知ガスを電気化学反応させる作用電極、前記作用電極に対する対極、前記作用電極の電位を制御する参照電極を、電解液を収容した電解槽の電解液収容部に臨んで備えた定電位電解式ガスセンサであって、
前記各電極は貴金属触媒層を備えており、前記作用電極および前記参照電極の少なくとも何れか一方の貴金属触媒層には、イオン導電性および透水性を有する高分子層が備えてあり、
前記高分子層の一部に前記貴金属触媒層の表面に浸透する浸透領域を備えてある定電位電解式ガスセンサ。
【背景技術】
【0002】
従来の定電位電解式ガスセンサは、電極を電解液が密に収容される電解槽の電解液収容部内に臨んで設けて構成してあり、例えば電極としては、ガスを検知するガス電極として被検知ガスを電気化学反応させる作用電極、当該作用電極に対する対極、作用電極の電位を制御する参照電極の3電極を設けてあり、また、これらが接触自在な電解液を収容した電解槽と、各電極の電位を設定するポテンシオスタット回路等を接続してある。前記3電極の材料としては撥水性を有するガス透過性の多孔質PTFE膜に白金や金、パラジウム等の貴金属触媒等を塗布したものが、電解液としては、硫酸やリン酸等の酸性水溶液等が用いられていた。
【0003】
また、定電位電解式ガスセンサは、周囲の環境変化に対して作用電極の電位を制御して一定に維持することによって、作用電極と対極との間に周囲の環境変化に相当する電流を生じさせる。そして、作用電極の電位が変化せず、またガス種によって酸化還元電位が異なることを利用することにより、ポテンシオスタット回路の設定電位によってはガスの選択的な検知が可能になる。また、ガス電極に用いる触媒を変えることで、目的とするガスに対して高い選択性を持たすことができる。
【0004】
電極に塗布する貴金属触媒としては、例えば粒径が数十nmのカーボンに、数百nm程度の金微粒子を担持させたものを使用することがあった。このようにカーボンに金微粒子を担持させるには、例えば浸漬担持法を使用することがある。当該浸漬担持法で貴金属粒子を担体に担持させる場合、当該担体を金属塩の水溶液中に浸して、金属成分を担体表面に吸着させ、乾燥・焼成・還元を行う。当該浸漬担持法で金担持カーボンを作製した後、多孔質PTFE膜に塗布して電極を作製していた。
【0005】
尚、本発明における従来技術となる上述した定電位電解式ガスセンサは、一般的な技術であるため、特許文献等の従来技術文献は示さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した定電位電解式ガスセンサにおける電極反応は、電子伝導体(電極)とイオン伝導体(電解液)と反応ガスとのいわゆる三相界面において生じる。当該三相界面は、電極に塗布してある貴金属触媒の表面付近に存在している。一般に、三相界面の範囲(貴金属触媒の表面からの深さ)は、気温や電解液の粘性などの変化によって変化し易い。
【0007】
上述の手法によって作製された金担持カーボンは、金微粒子の粒径が担体であるカーボンの粒径より大きく、水溶液中で凝集し易い傾向にあるため、金微粒子を均一に分散させるのが困難であった。このように金微粒子が不均一な状態で作製された金担持カーボンを貴金属触媒として使用すると、気温や電解液の粘性などが変化した場合に三相界面の範囲(貴金属触媒の表面からの深さ)の変化が顕著となる。このように三相界面の範囲が変化すると、ガス検知性能がバラつくなどの影響を与えることがあった。
【0008】
従って、本発明の目的は、三相界面の範囲を安定させてガス検知性能にバラつきが発生しにくい定電位電解式ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る定電位電解式ガスセンサは、ガスを検知するガス電極として被検知ガスを電気化学反応させる作用電極、前記作用電極に対する対極、前記作用電極の電位を制御する参照電極を、電解液を収容した電解槽の電解液収容部に臨んで備えた定電位電解式ガスセンサであって、その第一特徴構成は、前記各電極は貴金属触媒層を備えており、前記作用電極および前記参照電極の少なくとも何れか一方の貴金属触媒層には、イオン導電性および透水性を有する高分子層
が備えてあり、前記高分子層の一部に前記貴金属触媒層の表面に浸透する浸透領域を備えた点にある。
【0010】
本構成では、作用電極のみ、参照電極のみ、或いは、作用電極および参照電極の貴金属触媒層にイオン導電性および透水性を有する高分子層を形成することで、電解液と貴金属触媒層とが直接接触しないように構成できる。当該高分子層は、イオン導電性および透水性を有するため、H
+およびH
2O分子は、電解液の側から高分子層を介して貴金属触媒層に移動することができる。即ち、定電位電解式ガスセンサにおける電極反応の場である三相界面は、貴金属触媒層と高分子層との境界付近に存在することとなる。
【0011】
従って、本構成では、電解液と貴金属触媒層とが直接接触しないように、かつ、三相界面を貴金属触媒層と高分子層との境界付近に存在するように構成できるため、仮に気温や電解液の粘性の変化などが起こったとしても、三相界面が形成される範囲が変化し難くなる。
よって、貴金属触媒層に高分子層を形成することにより、三相界面が形成される領域が安定化することで、定電位電解式ガスセンサにおけるガス検知性能にバラつきが発生し難くなる。
【0012】
特に作用電極に高分子層を形成した場合には、温湿度変動に対して感度を安定させることができ、参照電極に高分子層を形成した場合には、急激なノイズの発生を抑制することができる。
【0013】
本発明に係る定電位電解式ガスセン
サは、前記高分子層の一部が前記貴金属触媒層の表面に浸透する浸透領域を
備える。
【0014】
本構成では、当該浸透領域は、高分子層の高分子と貴金属触媒層の貴金属触媒とが混在する領域となる。このように両者が混在する領域を形成することで、貴金属触媒層の表面に高分子層を隙間なく確実に形成することができる。そのため、当該隙間に電解液が浸入してしまうのを未然に防止することができ、ガス検知性能にバラつきが発生し難くなる。
【0015】
本発明に係る定電位電解式ガスセンサの
第二特徴構成は、前記浸透領域を、前記貴金属触媒層と前記高分子層との境界付近に
備えた点にある。
【0016】
本構成では、浸透領域を電極反応の場である三相界面の一部とすることができる。
【0017】
本発明に係る定電位電解式ガスセンサの
第三特徴構成は、前記各電極の貴金属触媒層に前記高分子層を
備えた点にある。
【0018】
本構成では、作用電極、対極および参照電極の全ての電極の貴金属触媒層に高分子層を形成することができる。定電位電解式ガスセンサでは、例えば対極および参照電極を一つのガス透過膜上に形成することがあるが、この場合、対極および参照電極のそれぞれの貴金属触媒層に、同時に高分子層を形成することができるため、効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の定電位電解式ガスセンサを示す断面図である。
【
図2】金担持カーボンの作製の概要を示す流れ図である。
【
図3】電極において貴金属触媒層および高分子層が形成してある領域の断面図である。
【
図4】本発明の定電位電解式ガスセンサにおいてゼロ点指示の変動について調べた結果を示したグラフである。
【
図5】従来の定電位電解式ガスセンサにおいてゼロ点指示の変動について調べた結果を示したグラフである。
【
図6】電極において貴金属触媒層および高分子層が形成してある領域の断面の写真図である。
【
図7A】印刷法によって高分子層を形成した場合において、貴金属触媒層、高分子層および浸透領域の元素分析を行った結果を示したグラフである。
【
図7B】スプレー噴霧法によって高分子層を形成した場合において、貴金属触媒層、高分子層および浸透領域の元素分析を行った結果を示したグラフである。
【
図8A】印刷法によって高分子層を形成した場合においてゼロ点安定性を調べた結果を示したグラフである。
【
図8B】常温プレス法によって高分子層を形成した場合においてゼロ点安定性を調べた結果を示したグラフである。
【
図8C】加熱プレス法によって高分子層を形成した場合においてゼロ点安定性を調べた結果を示したグラフである。
【
図9A】印刷法によって高分子層を形成した場合において応答波形を調べた結果を示したグラフである。
【
図9B】常温プレス法によって高分子層を形成した場合において応答波形を調べた結果を示したグラフである。
【
図9C】加熱プレス法によって高分子層を形成した場合において応答波形を調べた結果を示したグラフである。
【
図9D】スプレー噴霧法によって高分子層を形成した場合において応答波形を調べた結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、定電位電解式ガスセンサXは、ガスを検知するガス電極として被検知ガスを電気化学反応させる作用電極11、当該作用電極11に対する対極12、作用電極の電位を制御する参照電極13を、電解液20を収容した電解槽30の電解液収容部31に臨んで備えている。
【0021】
作用電極11、対極12及び参照電極13は、撥水性を有する多孔質のガス透過膜14の表面に、公知の電極材料より作製したペーストを塗布・焼成して形成してある。作用電極11と、対極12及び参照電極13とは、対向して配置してある。
【0022】
電解槽30は側方に開口する開口部32を形成してガス導通部33を形成している。ガス透過膜14は二枚設けられ、一方のガス透過膜14には作用電極11が配設され、他方のガス透過膜14には対極12及び参照電極13が配設される。作用電極11の側に配設されたガス透過膜14は、開口部32に臨むように電解槽30に取り付けられる。ガス透過膜14は、例えば疎水性でガスを透過する性質を有するものであればどのような膜でもよく、例えば耐薬品性を有する多孔質PTFE膜などを使用することができる。被検知ガスはガス導通部33より導入され、作用電極11上で反応する。
【0023】
それぞれのガス透過膜14とOリング15とは蓋部材16によって固定される。電解槽30の底面には、電解液20の注入等のメンテナンスを行う電解液注入口34が形成されている。
【0024】
このような定電位電解式ガスセンサXは、被検知ガスの反応によって作用電極11上で生じた電子に基づく電流を検知自在な電流測定部と、作用電極11の電位制御自在な電位制御部とを備えたガス検知回路(図外)に接続して、ガス検知装置として用いられる。本発明の定電位電解式ガスセンサXは、例えばシラン、ホスフィン、ゲルマン、アルシン、ジボランなどの水素化物ガスの検知に用いられる。
【0025】
図3に示したように、本発明の定電位電解式ガスセンサXにおける各電極10は貴金属触媒層50を備えており、作用電極11および参照電極13の少なくとも何れか一方の貴金属触媒層50には、イオン導電性および透水性を有する高分子層60が形成してある。本構成では、作用電極11のみ、参照電極13のみ、或いは、作用電極11および参照電極13の貴金属触媒層50に高分子層60を形成することができる。
【0026】
当該高分子層60は、イオン導電性および透水性を有するものであれば、特に限定されるものではない。このような高分子層60は、例えば、パーフルオロカーボン系主鎖にスルホン酸基が導入された高分子を塗布することで形成することができる。具体的には、高分子層60は、ナフィオン(登録商標:デュポン社製)、アシプレックス(登録商標:旭化成社製)、フレミオン(登録商標:旭硝子社製)などを使用することができる。例えば、ナフィオンはプロトン伝導性および透水性を有し、かつ耐酸化性に優れている。
【0027】
本構成のように、貴金属触媒層50にイオン導電性および透水性を有する高分子層60を形成すれば、電解液20と貴金属触媒層50とは直接接触しないように構成できる。高分子層60は、例えば公知の印刷法により貴金属触媒層50の表面に塗布することで形成されるが、このとき、高分子層60の一部は貴金属触媒層50の表面に浸透する浸透領域80を貴金属触媒層50の表面に形成することができる。即ち、当該浸透領域80は、高分子層60の高分子と貴金属触媒層50の貴金属触媒とが混在する領域となる。このように両者が混在する領域を形成することで、貴金属触媒層50の表面に高分子層60を隙間なく確実に形成することができる。
【0028】
このとき、浸透領域80は、貴金属触媒層50と高分子層60との境界付近に形成される。即ち、浸透領域80を電極反応の場である三相界面70の一部とすることができる。
【0029】
また、高分子層60は、イオン導電性および透水性を有するため、H
+およびH
2O分子は、電解液20の側から高分子層を介して貴金属触媒層50に移動することができる。即ち、定電位電解式ガスセンサXにおける電極反応の場である三相界面70は、貴金属触媒層50と高分子層60との境界付近に存在することとなる。
【0030】
従って、本構成では、電解液20と貴金属触媒層50とが直接接触しないように、かつ、三相界面70を貴金属触媒層50と高分子層60との境界付近に存在するように構成できるため、仮に気温や電解液の粘性の変化などが起こったとしても、三相界面70が形成される範囲が変化し難くなる。
よって、貴金属触媒層50に高分子層60を形成することにより、三相界面70が形成される領域が安定化することで、定電位電解式ガスセンサXにおけるガス検知性能にバラつきが発生し難くなる。
【0031】
特に作用電極11に高分子層60を形成した場合には、温湿度変動に対して感度を安定させることができ、参照電極13に高分子層60を形成した場合には、急激なノイズの発生を抑制することができる。また、対極12の貴金属触媒層50に高分子層60を形成してもよい。この場合、全ての電極の貴金属触媒層50に高分子層60を形成することができる。
【0032】
図2に示したように、当該貴金属触媒は、溶媒にカーボン粉末および界面活性剤を添加して撹拌するカーボン粉末添加工程Aと、金ナノ粒子を分散させたコロイド溶液を添加する金ナノ粒子添加工程Bと、溶媒の沸点以下に維持した状態で乾燥させる乾燥工程Cと、乾燥して得られた粉末を250〜450℃で焼成を行う焼成工程Dと、を行って作製される。
【0033】
カーボン粉末添加工程Aでは、カーボン粉末を所定量秤量し、界面活性剤、溶媒である水を加え十分攪拌させる。
カーボン粉末は、公知のカーボン粉末、例えばカーボンブラック(粒径5〜300nm程度)を使用することができ、特にアセチレンガスを熱分解して得るアセチレンブラックを使用するのがよいが、これに限定されるものではない。
【0034】
界面活性剤は、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、ベタイン系界面活性剤のいずれも使用できる。
【0035】
金ナノ粒子添加工程Bでは、カーボン粉末添加工程Aで得られた溶液に金ナノ粒子を分散させたコロイド溶液を添加する。
金ナノ粒子を分散させたコロイド溶液は、上述した粒度を有する金ナノ粒子が溶液中に分散している状態となっている。当該コロイド溶液には、必要に応じて保護剤などの添加剤を添加してもよい。
金コロイド溶液は、例えばテトラクロロ金酸(III)などの塩化金酸溶液に還元剤としてクエン酸塩溶液を加えて加熱することにより、金属イオンを還元してコロイドとする溶液内還元反応を利用して作製することができるが、このような手法に限定されるものではない。当該方法においては、塩化金酸に対する還元剤の添加量を増減することにより、金コロイド粒子の大きさを変化させることができる。金ナノ粒子は、約5〜50nm程度の粒径を有する粒子であればよいが、この範囲に限定されるものではない。この場合、5〜50nmの粒子の割合が90重量%以上となるような粒度分布とするのがよい。
【0036】
乾燥工程Cでは、金ナノ粒子添加工程Bで得られた溶液を、溶媒(水)の沸点以下に維持した状態で乾燥させる。溶媒の沸点以下として設定する温度は、特に限定されるものではないが、溶媒が水の場合、80〜100℃程度とするのがよい。乾燥の手法は、例えば減圧乾燥、真空乾燥、吸引乾燥、熱風乾燥など、公知の手法を適用することができる。これら乾燥の手法における乾燥条件は、公知の条件を適用すればよい。
【0037】
焼成工程Dでは、乾燥して得られた粉末を250〜450℃で焼成を行う。
本実施形態における焼成温度は、空気雰囲気、大気圧下でカーボンの酸化が進まない温度で、使用した界面活性剤等の有機物が蒸発する温度(250〜450℃)としてある。
焼成時間は、界面活性剤、コロイドの保護剤等が蒸発、昇華、熱分解により完全になくなるまでの時間を適宜設定すればよい。そのため、焼成させる粉体の量で、その都度焼成時間の短縮・延長が可能である。しかし、金ナノ粒子の粒成長、焼結による活性の低下などを考慮して、例えば当該焼成時間の上限を3時間程度までと設定してもよい。また、焼成時間を設定せず、所定の温度に達すれば焼成工程Dを終了するように設定してもよい。
【0038】
上記手法によって、金ナノ粒子を分散させた状態で担持する金担持カーボンを作製することができる。即ち、本発明の定電位電解式ガスセンサXは、金ナノ粒子を分散させた状態で担持する金担持カーボンを貴金属触媒として使用することができる。
【0039】
さらに、上記手法で作製した金担持カーボンにおいて、金ナノ粒子は、約5〜50nm程度の粒径で分散させることが可能となる。
【実施例】
【0040】
〔実施例1〕
本発明の定電位電解式ガスセンサXにおいて、気温の変動(0〜40℃)によってゼロ点指示がどのように変動するか、調べた。比較例として、高分子層60を形成しない従来の定電位電解式ガスセンサにおいてゼロ点指示の変動について調べた。それぞれにおいて二つの定電位電解式ガスセンサのサンプルを使用した。それぞれの結果を
図4,5に示した。
【0041】
この結果、本発明の定電位電解式ガスセンサXにおいては、気温の変動が生じたとしてもゼロ点指示の変動は殆ど認められなかった(
図4)。従って、本発明の定電位電解式ガスセンサXは、ガス検知性能にバラつきが発生し難いセンサであると認められた。一方、従来の定電位電解式ガスセンサは、0℃付近の低温の場合、および、40℃付近の高温の場合において、ゼロ点指示が変動するものと認められた(
図5)。
【0042】
〔実施例2〕
本発明の定電位電解式ガスセンサXにおいて、貴金属触媒層50と高分子層60(ナフィオン)との境界付近に形成される浸透領域80について調べた。当該浸透領域80は、高分子層60を印刷法によって貴金属触媒層50の表面にナフィオン樹脂を塗布することで形成することができる。
【0043】
図6に、電極において貴金属触媒層50および高分子層60が形成してある領域の断面の写真図を示した。
図7Aに、印刷法によって高分子層60を形成し、貴金属触媒層50、高分子層60および浸透領域80におけるそれぞれの元素分析を行った結果のグラフを示した。比較例として、
図7Bに、ナフィオン樹脂をスプレー噴霧法によって貴金属触媒層50の表面に塗布して高分子層60を形成し、貴金属触媒層50、高分子層60および浸透領域80におけるそれぞれの元素分析を行った結果のグラフを示した。
図7A,7Bでは、形成した高分子層60における特定の位置(深度)から深層(貴金属触媒層50側)に向かう方向に沿って構成元素の分析を行った結果を示した。即ち、それぞれのグラフの横軸は、当該特定の位置(深度)からの深さを相対的な距離で示している。
尚、貴金属触媒層50の構成元素はH,Au,C,Fであり、ナフィオンの構成元素はH,C,S,Fであるため、何れか一方のみに含まれるAuおよびSを検出することで、貴金属触媒層50および高分子層60(ナフィオン)の存在を確認することができる。
【0044】
この結果、
図7A(印刷法)において、0〜50程度の深度においては貴金属触媒層50および高分子層60(ナフィオン)は混在していないため浸透領域80は形成されていないと認められる。一方、
図7Aにおいて50〜150程度の深度においては貴金属触媒層50のAuおよび高分子層60(ナフィオン)のSが混在するようになり、この深度が浸透領域80となっているものと認められた。
また、
図7B(スプレー噴霧法)において、0〜120程度の深度においては貴金属触媒層50および高分子層60(ナフィオン)は混在していないため浸透領域80は形成されていないと認められる。一方、
図7Bにおいて120〜300程度の深度においては貴金属触媒層50のAuおよび高分子層60(ナフィオン)のSが混在するようになり、この深度が浸透領域80となっているものと認められた。これにより、スプレー噴霧法(
図7B)によって高分子層60を形成した場合は、印刷法(
図7A)によって高分子層60を形成した場合に比べて、高分子層60の一部が貴金属触媒層50の深層まで浸透しているものと認められた。
【0045】
〔実施例3〕
高分子層60を、上述した印刷法と、他の手法によって形成した場合とにおいて、ゼロ点安定性および応答波形がどのように変化するかを調べた。
【0046】
図8A〜8Cにゼロ点安定性を調べた結果を示した。
図8Aは、印刷法によって高分子層60を形成した場合の結果であり、ゼロ点指示は安定しており、突発的な指示変動は認められなかった。これは、貴金属触媒層50の表面に高分子層60を隙間なく確実に形成できているためと考えられた。
図8Bは、常温プレス法によって貴金属触媒層50の表面に高分子層60を形成した場合の結果であり、経過時間7時間付近の約20℃において突発的な指示変動が認められた(図中の経過時間7時間付近の矢印が示す箇所)。これは、貴金属触媒層50および高分子層60の間に隙間が形成され、当該隙間に電解液が浸入してしまったために突発的な指示変動が発生したと考えられた。
図8Cは、加熱プレス法(130℃)によって貴金属触媒層50の表面に高分子層60を形成した場合の結果であり、経過時間9時間付近の約40℃において突発的な指示変動が認められた(図中の経過時間9時間付近の矢印が示す箇所)。これは、熱を加えたとしても貴金属触媒層50および高分子層60の間に隙間が形成され、当該隙間に電解液が浸入してしまったために突発的な指示変動が発生したと考えられた。
【0047】
図9A〜9Dに応答波形を調べた結果を示した。
ガス感度は、ホスフィン0.5ppmに3分曝すことにより測定した(ベースガス:大気エアー)。
図9Aは、印刷法によって高分子層60を形成した場合の結果であり、ホスフィン暴露後に直ちに高いガス感度が得られ(応答性が高い)、その後も安定した感度が得られた。
図9Bは、常温プレス法によって貴金属触媒層50の表面に高分子層60を形成した場合の結果であり、得られたガス感度は非常に低かった。これは、貴金属触媒層50と高分子層60とが接触して形成される三相界面が、印刷法において形成される三相界面に比べて非常に少ないためと考えられた。
図9Cは、加熱プレス法(130℃)によって貴金属触媒層50の表面に高分子層60を形成した場合の結果であり、ホスフィン暴露後に高いガス感度を得るのに時間を要したため、応答性が低いと考えられた。これは、加熱プレス法は貴金属触媒層50と高分子層60との接触部位は常温プレス法の場合よりも多くなるため、ガス感度は向上するが、加熱プレスによって貴金属触媒層50が押しつぶされてガス拡散性が損なわれたため、応答性が低下したと考えられた。
図9Dは、ナフィオン樹脂をスプレー噴霧法によって貴金属触媒層50の表面に塗布して高分子層60を形成した場合の結果であり、ホスフィン暴露後に高いガス感度を得るのに時間を要したため、応答性が低いと考えられた。これは、高分子層60の一部は貴金属触媒層50の深層まで浸透したため、電極反応の場である三相界面70が貴金属触媒層50の深層まで広がり、応答性が低下したと考えられた。
【0048】
そのため、高分子層60を貴金属触媒層50の表面に形成するのは、スプレー噴霧法や加熱プレス法ではなく、印刷法で行うのがよいと認められた。