特許第5918974号(P5918974)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5918974有害ガスの無害化処理方法およびその方法を実施するためのスクラバー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5918974
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】有害ガスの無害化処理方法およびその方法を実施するためのスクラバー
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/40 20060101AFI20160428BHJP
   B01D 53/34 20060101ALI20160428BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20160428BHJP
   B01D 53/18 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   B01D53/40 200
   B01D53/34ZAB
   B01D53/14 200
   B01D53/18 150
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-245001(P2011-245001)
(22)【出願日】2011年11月8日
(65)【公開番号】特開2013-99719(P2013-99719A)
(43)【公開日】2013年5月23日
【審査請求日】2014年7月3日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511164721
【氏名又は名称】エヌ・ティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140006
【弁理士】
【氏名又は名称】渕上 宏二
(72)【発明者】
【氏名】大濱 嘉郎
(72)【発明者】
【氏名】幸松 正彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 正広
【審査官】 松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−179051(JP,A)
【文献】 特開2000−271421(JP,A)
【文献】 特開昭57−094323(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0038171(US,A1)
【文献】 特開平09−029295(JP,A)
【文献】 特開昭54−082375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34−53/85,53/92
B01D 53/14−53/18
H01L 21/205,21/31,21/365,21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピタキシャルウェハの製造過程において排出される有害ガスのうちアルカリ水溶液と接触すると析出物が発生する処理対象ガスを導入するガス導入口と、
前記処理対象ガスを排出するガス排出口と、
前記ガス導入口において前記処理対象ガスに中性水を接触させる中性水供給手段と、
前記ガス排出口において前記処理対象ガスにアルカリ水溶液を接触させるアルカリ水溶液供給手段と、
前記アルカリ水溶液と前記中性水の混合液を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽に貯留された前記混合液を前記ガス導入口において前記処理対象ガスに接触させる混合液供給手段と、
前記ガス導入口の直下から前記貯留槽の直上まで前記処理対象ガスを鉛直下方に移動させる第一の経路と、
前記第一の経路に隣接し、前記処理対象ガスを鉛直上方に移動させる第二の経路と、
前記第二の経路に隣接し、前記処理対象ガスを鉛直下方に移動させる第三の経路を備え、
前記第一の経路は前記ガス導入口と直結され、
前記第三の経路の下部に前記ガス排出口が設けられ、
前記第一の経路は下部に設けられたガス通孔によって前記第二の経路と連通し、
前記第二の経路は上部に設けられたガス通孔によって前記第三の経路と連通する、
スクラバー。
【請求項2】
請求項1に記載のスクラバーを使用して前記処理対象ガスに処理液を接触させて無害化処理を施す無害化処理方法であって、
前記第一の経路において前記処理対象ガスに前記中性水および前記混合液からなる処理液を接触させる第一段階処理と、前記第二の経路において前記処理対象ガスに前記混合液からなる処理液を接触させる第二段階処理と、前記第三の経路において前記処理対象ガスに前記アルカリ水溶液からなる処理液を接触させる第三段階処理を施し、各段階において前記処理液のpH値を段階的に高める、方法。
【請求項3】
前記第一段階処理において、前記処理対象ガスに最初に中性水を接触させ、次に前記処理液を接触させる、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有害ガスの無害化処理に関し、特に半導体製造過程で排出される有害ガスの無害化処理に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造過程、特にエピタキシャルウェハの製造過程においては、モノシラン、ジシラン、トリクロロシラン等の水素化物系ガスが多用されている。これらの水素化物系ガスは、空気中に放出すると発火する自燃性ガスであるため、使用後に大気放出する前段階においてスクラバーによる無害化処理が行われている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−284631号公報
【特許文献2】特開2001−7034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、水素化物系ガスを無害化する手段として、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液と接触させることで水素化物系ガスを吸収分解させる湿式法が紹介されている。しかし、水素化物系ガスと高濃度のアルカリ水溶液が急速に接触すると、特許文献2に記載されているように析出物が発生し、ガスインレット部の先端に付着することがある。付着した析出物は徐々に堆積していき、最終的にはガス通路の閉塞にまで至ることもある。ガス通路が狭くなるとガス流量が低下するため、スクラバーの処理能力を最大限に発揮させることができなくなる。従って、定期的にガスインレット部の分解清掃を行い、付着物を除去する必要があるが、その間はスクラバーの操業を停止せざるを得ない。このように析出物の発生に起因する処理能力の低下は従来のスクラバーが抱える大きな問題であった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、析出物の発生を抑制する有害ガスの無害化処理方法およびその方法を実施するためのスクラバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のスクラバーは、エピタキシャルウェハの製造過程において排出される有害ガスのうちアルカリ水溶液と接触すると析出物が発生する処理対象ガスを導入するガス導入口と、前記処理対象ガスを排出するガス排出口と、前記ガス導入口において前記処理対象ガスに中性水を接触させる中性水供給手段と、前記ガス排出口において前記処理対象ガスにアルカリ水溶液を接触させるアルカリ水溶液供給手段と、前記アルカリ水溶液と前記中性水の混合液を貯留する貯留槽と、前記貯留槽に貯留された前記混合液を前記ガス導入口において前記処理対象ガスに接触させる混合液供給手段と、前記ガス導入口の直下から前記貯留槽の直上まで前記処理対象ガスを鉛直下方に移動させる第一の経路と、前記第一の経路に隣接し、前記処理対象ガスを鉛直上方に移動させる第二の経路と、前記第二の経路に隣接し、前記処理対象ガスを鉛直下方に移動させる第三の経路を備え、前記第一の経路は下部に設けられたガス通孔によって前記第二の経路と連通し、前記第二の経路は上部に設けられたガス通孔によって前記第三の経路と連通することを特徴とする。
【0007】
中性水供給手段を設けることにより、処理対象ガスが処理液と最初に接触するガス導入口における処理液のpH値を低下させることができる。またアルカリ補給手段を設けることにより、処理対象ガスと最後に接触するガス排出口における処理液のpH値を上昇させることができる。またアルカリ水溶液と中性水の混合液を貯留する貯留槽を設け、さらに、この混合液を導入口に移送する混合液移送手段を設けることにより、pH値が低下した混合液をガス導入口における処理液として再利用することができる。
【0008】
本発明の無害化処理方法は、前記スクラバーを使用して前記処理対象ガスに処理液を接触させて無害化処理を施す無害化処理方法であって、前記第一の経路において前記処理対象ガスに前記中性水および前記混合液からなる処理液を接触させる第一段階処理と、前記第二の経路において前記処理対象ガスに前記混合液からなる処理液を接触させる第二段階処理と、前記第三の経路において前記処理対象ガスに前記アルカリ水溶液からなる処理液を接触させる第三段階処理を施し、各段階において前記処理液のpH値を段階的に高めることを特徴とする。
【0009】
この方法では、処理対象ガスが最初に接触する処理液のpH値を低く抑えることにより、活性ガスと処理液との急激な反応を回避し、析出物の発生を抑制することができる。その後は活性力を弱めた処理対象ガスにpH値を高めた処理液を接触させて無害化処理を施すので、安全かつ安定した無害化処理が実現できる。
【0010】
処理対象ガスの無害化処理の過程において、処理液のpH値を段階的に高めることにより、処理対象ガスの活性力が徐々に低下し、処理液との過剰な反応が緩和された安全かつ安定した無害化処理が実現できる。
【0011】
ガス導入口において中性水を供給することにより、処理対象ガスと最初に接触する処理液のpH値を低下させることができる。またガス排出口においてアルカリ水溶液を補給することにより、処理対象ガスと最後に接触する処理液のpH値を上昇させることができる。
【0012】
なお、この方法に用いる処理液には、アルカリ水溶液と中性水が混合された混合液の他に、ガス排出口において補給されるアルカリ水溶液、すなわちガス導入口において補給される中性水と混合されていないアルカリ水溶液を含む。
【0013】
処理液は中性水と混合される前のアルカリ水溶液の段階が最もpH値が高い状態にあるので、ガス排出口において補給するアルカリ水溶液を処理対象ガスに直接接触させることにより、処理対象ガスの無害化処理効果を最大限に高めることができる。
【0014】
ガス導入口において供給した中性水とガス排出口において供給したアルカリ水溶液の混合液は、アルカリ水溶液が中性水によって希釈されてpH値が低下した状態にあるので、この混合液をガス導入口に移送することにより、ガス導入口における処理水のpH値を低下させることができる。
【0015】
また混合液は、ガス排出口におけるアルカリ水溶液よりはpH値が低く、ガス導入口において中性水と混合することによって希釈された混合液よりはpH値が高いため、この混合液をガス導入口からガス排出口へ向かう処理対象ガスに接触させることにより、処理対象ガスの活性力が徐々に低下し、処理液との過剰な反応が緩和された安全かつ安定した無害化処理が実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水素化物系ガスを含む処理対象ガスが最初に接触する処理液のpH値を低く抑えることにより、活性ガスと処理液との急激な反応を回避し、導入直後の析出物の発生を抑制することが可能になる。処理対象ガスは、最初にpH値の低い処理液に接触することで活性力を弱め、その後にpH値を高めた処理液と接触して無害化処理が施されるため、反応が緩和され、安全かつ安定した無害化処理が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態のスクラバーにおける処理対象ガスの処理工程を示すシステム図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態のスクラバーについて、添付した図面を参照して説明する。スクラバー10は、処理対象ガスを導入するためのガス導入口12、処理対象ガスを排出するためのガス排出口14、ガス導入口12とガス排出口14を結ぶ第一の経路16、第二の経路18および第三の経路20、処理水を貯留するための貯留槽22を主要な構成としている。
【0019】
ガス導入口12はスクラバー10の最上部に設けられている。貯留槽22はスクラバー10の最下部に設けられている。貯留槽22に貯留された処理水は処理液循環ポンプ24によってガス導入口12に移送される。またガス導入口12には中性水補給装置26から中性水が供給される。ガス導入口12から導入された処理対象ガスは最初に中性水と接触し、その後、中性水と処理液の混合液と接触する。
【0020】
ガス導入口12の直下から貯留槽22の直上までは、鉛直下方に向かうガス流路を有する第一の経路16が設けられている。第一の経路16の上部はガス導入口12と直結されており、ガス導入口12から導入された処理対象ガスは中性水および処理液とともに第一の経路16を鉛直下方に向けて移動する。この過程において処理対象ガスには最初の無害化処理(第一段階処理)が施される。第一段階処理に用いられた中性水および処理液はそのまま貯留槽22に落下し、貯留される。また第一段階処理を経た処理対象ガスは第二の経路18に移動し、そこで第二段階処理が施される。
【0021】
第一の経路16に隣接する位置に、鉛直上方に向かうガス流路を有する第二の経路18が設けられている。第一の経路16と第二の経路18は下部に設けられたガス通孔28によって内部のガス流路が連通している。第二の経路18には複数の噴霧器30が鉛直方向に適宜の間隔をおいて設けられている。各噴霧器30には処理液循環ポンプ24によって処理液が供給される。各噴霧器30は処理液を噴霧し、第二の経路18のガス流路内に霧状の処理液を充満させる。この霧状の処理液に晒されながら処理対象ガスは第二の経路を鉛直上方に移動する。この過程において処理対象ガスには二回目の無害化処理(第二段階処理)が施される。第二段階処理に用いられた処理液はそのまま貯留槽22に落下し、貯留される。第二段階処理を経た処理対象ガスは第三の経路20に移動し、そこで第三段階処理が施される。
【0022】
第二の経路18に隣接する位置に、鉛直下方に向かうガス流路を有する第三の経路20が設けられている。第二の経路18と第三の経路20は上部に設けられたガス通孔32によって内部のガス流路が連通している。第三の経路20の下部には噴霧器34が設けられている。噴霧器34はアルカリ補給装置36から供給されたアルカリ水溶液を下方に向けて噴霧する。ガス排出口14は噴霧器34の直下に設けられており、ガス排出口14を通る処理対象ガスは霧状のアルカリ水溶液に晒されながら大気に排出される。この過程において処理対象ガスには三回目の無害化処理(第三段階処理)が施される。第三段階処理に用いられたアルカリ水溶液はそのまま貯留槽22に落下し、貯留される。
【0023】
このようにスクラバー10においては処理対象ガスに対して三段階の無害化処理が施される。各段階の無害化処理に用いられる処理液はそれぞれpH値が異なるように設定されている。第三段階処理において用いられる処理液は、アルカリ補給装置36から補給されたアルカリ水溶液そのものであるため、最もpH値が高い。逆に第一段階処理で用いられる処理液は、アルカリ水溶液と中性水が混合した循環液にさらに補給水として中性水が混合したものであるため、最もpH値が低い。第二段階処理において用いられる処理液は循環液であるため、pH値は第三段階処理において用いられる処理液と第一段階処理で用いられる処理液との間となる。
【0024】
スクラバー10では、水素化物系ガスを含む処理対象ガスが最初に接触する処理液のpH値を低く抑えることで、活性ガスと処理液との急激な反応を回避し、析出物の発生を抑制する。その後は活性力を弱めた処理対象ガスにpH値を高めた処理液を接触させて無害化処理を施すので、安全かつ安定した無害化処理が実現できる。
【符号の説明】
【0025】
10 スクラバー
12 ガス導入口
14 ガス排出口
16 第一の経路
18 第二の経路
20 第三の経路
22 貯留槽
24 処理液循環ポンプ
26 中性水補給装置
30 噴霧器
34 噴霧器
36 アルカリ補給装置
図1