【実施例】
【0013】
以下、本発明を適用した出力制御装置の実施例について説明する。
実施例の出力制御装置は、例えば、バタフライバルブ等のスロットルバルブによって出力調整を行なうガソリンエンジンを走行用動力源とする、乗用車等の自動車に搭載されるものである。
図1は、実施例の出力制御装置の構成を示すブロック図である。
出力制御装置1は、エンジン制御ユニット10、アクセルペダルセンサ20、スロットルアクチュエータ30、スロットルセンサ40等を有して構成されている。
【0014】
エンジン制御ユニット10は、エンジン及びその補機類を統括的に制御するものである。
エンジン制御ユニット10は、CPU等の情報処理装置、RAMやROM等の記憶装置、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバスなどを有して構成されている。
【0015】
アクセルペダルセンサ20は、ドライバがアクセル操作(加速要求操作)を入力するアクセルペダルに設けられ、アクセルペダルの操作量(踏込み量)を位置エンコーダによって検出し、エンジン制御ユニット10に伝達するものである。
【0016】
スロットルアクチュエータ30は、エンジン制御ユニット10からの指令に応じて、エンジンのスロットルバルブを開閉駆動するものである。
【0017】
スロットルセンサ40は、スロットルバルブの開度(角度位置)を位置エンコーダによって検出し、エンジン制御ユニット10に伝達するものである。
【0018】
エンジン制御ユニット10は、アクセルペダルセンサ20からの入力に基づいて、ドライバ要求トルクを演算する。
エンジン制御ユニット10は、ドライバ要求トルクに応じてスロットルバルブの目標開度を設定し、スロットルアクチュエータ30を、スロットルセンサ40からの入力をフィードバックしながら駆動制御する。
また、エンジン制御ユニット10は、スロットルバルブの開度、点火時期、燃料噴射量、吸気管負圧、過給圧などの各種パラメータに基づいて、エンジンの推定トルクを演算する機能を備えている。
【0019】
また、エンジン制御ユニット10は、スナッチ抑制のため、所定の条件が充足された場合に、アクセルペダルの操作に対して、スロットルバルブの開きを遅くするとともに点火時期を遅延させて、エンジントルクの増加を遅延させる
トルク増加遅延制御を行っている。
図2は、
トルク増加遅延制御に関するエンジン制御ユニットの動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0020】
<ステップS01:アクセルオフ判断>
エンジン制御ユニット10は、アクセルペダルセンサ20の出力に基づいて、ドライバが実質的にアクセルペダルを踏み込んでいないアクセルオフ状態であるか否かを判定する。
アクセルオフ状態である場合はステップS02に進み、アクセルペダルが踏み込まれているアクセルオン状態である場合はステップS05に進む。
【0021】
<ステップS02:アクセルオン判断>
エンジン制御ユニット10は、アクセルペダルセンサ20の出力に基づいて、ステップS01において判定されたアクセルオフ状態の後、アクセルペダルが踏み込まれたか(アクセルオン状態となったか)否かを判定する。
アクセルオン状態である場合はステップS03に進み、アクセルオフ状態が継続している場合は、一連の処理を終了(リターン)する。
【0022】
<ステップS03:トルク変化率判断>
エンジン制御ユニット10は、アクセル操作に伴うエンジンの推定トルクの変化率を算出し、算出値を予め設定された所定の閾値と比較する。
推定トルク変化率が閾値以上である場合は、ステップS04に進み、閾値未満である場合は、一連の処理を終了(リターン)する。
【0023】
<ステップS04:
トルク増加遅延制御実行>
エンジン制御ユニット10は、アクセルペダルの踏み込み操作に対して、エンジンの実際のトルク増加が遅延するよう、スロットルアクチュエータ30によるスロットルバルブの遅開き制御、及び、点火時期のリタード制御を含む
トルク増加遅延制御を実行する。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0024】
<ステップS05:アクセルオン時間判断>
エンジン制御ユニット10は、アクセルペダルセンサ20の出力に基づいて、アクセルオン状態が所定時間以上にわたって継続しているか否かを判断する。
アクセルオン状態が所定時間以上継続している場合は、ステップS06に進み、所定時間に満たない場合は、ステップS01に戻って、それ以降の処理を繰り返す。
【0025】
<ステップS06:アクセル踏増判断>
エンジン制御ユニット10は、アクセルペダルセンサ20の出力に基づいて、ドライバがアクセルペダルの踏み増し(踏み込み量の増加)を行なったか否かを判断する。
アクセル踏み増しが行なわれた場合はステップS07に進み、行われなかった場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0026】
<ステップS07:アクセル開速度判断>
エンジン制御ユニット10は、アクセルペダルセンサ20の出力履歴に基づいて、ドライバによるアクセルペダルの踏み込み速度(アクセル開速度)を算出する。
アクセル開速度が所定の閾値以上である場合はステップS08に進み、閾値未満である場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0027】
<ステップS08:直前スロットル開度判断>
エンジン制御ユニット10は、ステップS06においてアクセルペダルの踏み増しが検出された直前の時点におけるエンジンのスロットルバルブ開度を、スロットルセンサ40の出力に基づいて検出する。
直前のスロットルバルブ開度が、所定の閾値以下である場合は、エンジンの負荷が所定値以下である低負荷状態であるとしてステップS09に進み、閾値を越えている場合は、エンジンの負荷が所定値を超えている高負荷状態であるとして一連の処理を終了(リターン)する。
【0028】
<ステップS09:トルク変化率判断>
エンジン制御ユニット10は、アクセル操作に伴うエンジンの推定トルクの変化率を算出し、算出値を予め設定された所定の閾値と比較する。
推定トルク変化率が閾値以上である場合は、ステップS10に進み、閾値未満である場合は、一連の処理を終了(リターン)する。
【0029】
<ステップS10:
トルク増加遅延制御実行>
エンジン制御ユニット10は、アクセルペダルの踏み込み操作に対して、エンジンの実際のトルク増加が遅延するよう、スロットルアクチュエータ30によるスロットルバルブの遅開き制御、及び、点火時期のリタード制御を含む
トルク増加遅延制御を実行する。
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0030】
以下、実施例の出力制御装置を搭載した車両における、アクセル開度、アクセル開速度、推定トルク変化率、直前スロットル開度の推移の例について説明する。
図3乃至
図5は、これらの時間履歴の一例を示すグラフである。
図3に示す例では、直前スロットル開度が閾値未満の状態から、アクセルペダルが踏み込まれ、そのアクセル開速度は閾値以上となっている。このとき、エンジンの推定トルク変化率も閾値以上となり、その結果、
トルク増加遅延制御が実行されている。
このように、直前のアクセル開度が小さい状態からアクセルペダルが急激に踏み込まれた場合には、
トルク増加遅延制御を実行しなければスナッチが発生しやすいため、本実施例においては、適切にスナッチの予防が行なわれていることがわかる。
【0031】
これに対し、
図4に示す例では、
図3と同様にアクセルペダルは急激に踏み増しされているものの、踏み増しされる直前のスロットル開度は閾値以上となっており、その結果
トルク増加遅延制御は実行されていない。
このように、スロットル開度が大きい状態からさらに踏み増しを行なった場合には、駆動系のバックラッシュが詰まっておりショックが発生しにくいことから、
トルク増加遅延制御を行わなかったとしてもスナッチは発生しにくく、また、
トルク増加遅延制御を行なうことによって、かえって車両がドライバの意図通りに加速しないヘジテーション現象が発生してしまう。
本実施例によれば、このようなヘジテーションを防止し、車両を直ちに加速させてドライバビリティを改善することができる。
【0032】
また、
図5に示す例では、
図3と同様に直前のスロットル開度は閾値以下であるが、ドライバがアクセルペダルを比較的ゆっくりと踏み込んだ結果、アクセル開速度及び推定トルク変化率がそれぞれ閾値以下となり、
トルク増加遅延制御は実行されていない。
このように、アクセルペダルを緩慢に踏み増した場合にもスナッチは発生しにくい一方、このような緩慢なアクセル操作に対して
トルク増加遅延制御を行なった場合には、上述したヘジテーションや、微妙なアクセルペダル位置の変化を踏み増しと誤検出することによる誤作動が問題となる。
本実施例によれば、このようなヘジテーションを防止するとともに、誤作動も低減することができる。
【0033】
以上説明したように、本実施例によれば、アクセルペダルの操作速度及びエンジンのトルク変化率がそれぞれ所定の閾値以上であり、直前のスロットル開度が所定の閾値以下の場合にのみ
トルク増加遅延制御を実行することによって、スナッチ対策上不可避の条件が揃った場合にのみ
トルク増加遅延制御を行うことが可能となり、
トルク増加遅延制御を行なう必要がない状況でも制御を介入させてドライバビリティが損なわれたり、誤作動が発生することを防止できる。
また、エンジンの負荷変化の状況を、アクセルペダルの踏み込み速さ及び推定トルクの変化を併用して把握することによって、制御の精度を高めることができる。
【0034】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)出力制御装置の構成は、上述した実施例のものに限らず、適宜変更することが可能であり、また、適用対象となる車両も、4輪の乗用車に限らず、他種の車両であってもよい。
例えば、ハンドルに設けられたグリップを軸回りに回動させてアクセル操作を行なう2輪車、ATV等や、アクセルペダル以外の手段によってアクセル操作を行なう福祉車両等にも本発明は適用することができる。
(2)実施例では、走行用動力源は例えばガソリンエンジンであり、
トルク増加遅延制御を例えばスロットル制御や点火時期制御によって行なっているが、走行用動力源の種類や
トルク増加遅延制御を行なう手法はこれらに限定されない。
例えば、ディーゼルエンジンの場合には、燃料の噴射量や噴射時期を制御して
トルク増加遅延制御を行なうことができる。
また、走行用動力源は、電動モータや、電動モータをエンジンと組み合わせたエンジン−電気ハイブリッドシステムであってもよい。この場合、
トルク増加遅延制御は、システム全体のトルク増加を遅延させられる手法であれば、いかなる手法で行なってもよい。
(3
)実施例では、アクセル操作直前のエンジン負荷を判別するためのパラメータとしてスロットル開度を用いているが、他のパラメータを用いて走行用動力源の負荷を判別してもよい。
例えば、エンジンの推定トルクや、アクセル操作量に基づいてエンジン負荷を判別してもよい。
また、モータ駆動車両の場合には、モータへの供給電力に基づいて負荷を判別してもよい。