(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
プロペラ型風車は平均風速が毎秒3メートル以上の場所で効率的に作動するものであるが、そのような場所は我が国では多くない。一方、セイル型風車は平均風速が毎秒3メートル未満の比較的弱風の場所でも作動するため、設置可能場所はより多くなる。
風車には、弱風から強風に至る幅広い風速領域で、常に安定した回転動力を発生させると共に、風車の構成部材に対し強風による過大な力が付与されるのを阻止してその破損を防止するため、翼角(ピッチ角)を変更する機構が設けられている。
【0003】
特許文献1に開示された風車は、プロペラ型風車ではあるが回転軸の軸方向に伸縮するバネを有し、これにカムを押し当てることにより、カムの回転に弾力性を与えて翼軸の回転角を調整するものが開示されている。しかしながら、プロペラ型であるゆえに風の弱い地域での使用はできない。
また、特許文献2及び3に開示された風車においては、セイル型風車の羽根を翼弾性体により支え、風が強くなると弾性体が引き伸ばされて、翼角を変更している。しかしながら、風車の回転が速くなると、弾性体自体が遠心力により外周側に追い出され、翼角制御の正確性が損なわれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セイル型風車では、特許文献2や3に示されるように、羽根の後縁とこれに隣接する翼軸との間の距離を変更して翼角を変更する。翼角が大きくなると羽根の後縁は、これに隣接する翼軸との間の距離が開いてゆくため、弾性体の伸縮長さもこれに対応したものでなければならない。例えば、羽根の外周側一辺の長さが1メートルであるとすると、翼角が90度(羽根が風向きに対して平行の状態)を許容するには、最小でも1.4メートル(1×√2)の伸縮長さを有するコイルスプリングが必要である。伸縮長さに匹敵する自由長をもつコイルスプリングを使用すると、この1.4メートルの2倍程度となる3メートル程度の長さを、コイルスプリングとその伸縮のために確保しなければならない。
【0006】
一方、長いコイルスプリングを使用すれば長い伸縮長さに対応できるが、長いコイルスプリングは羽根の後縁と翼軸との間に設置すると、羽根の面積が減少する。また、コイルスプリングの重量が大きくなり、風車の回転が速くなるとコイルスプリング自体が遠心力により外周側に追い出され、セイル型風車の場合、現実には設置が不可能である。また、翼軸に沿って放射状にコイルスプリングを配置しても、遠心力によりコイルスプリングが自重で外周に追い出され、翼角制御の正確性が損なわれる。
本発明は、風車の回転に伴う遠心力に対してコイルスプリングの自重が殆ど影響されることなく翼角を制御することのできるセイル型の風車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る風力発電装置は、中空の回転軸から放射状に張り出した複数のロッドと、隣接したロッドの間であって、回転方向の前側の前記ロッドに前縁を相対角度の変更可能に固定された翼体と、前記回転軸の中空内で回転軸の軸長方向に伸縮範囲を有するコイルスプリングと、前記翼体の後縁を索引し、回転方向後側の前記ロッドに懸架されて前記回転軸内に案内され、前記コイルスプリングの自由端にその他端を接続され
たロープと、入口からローターが固定される位置を越えた奥まで少なくとも中空の管を主軸とする発電機とを有し、前記回転軸が発電機の主軸の中空に挿入され、前記コイルスプリングの伸縮範囲が前記ローターの固定される位置を含む範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、風の無いときには懸架されているロッドに近く、風が強くなると当該ロッドから離れていく翼体の後縁とロッドとの間を長い伸縮長をもって支持するために、長さの長いコイルスプリングを発電機内の主軸に収め、かつこのコイルスプリングの伸縮方向は風車の回転により作用する遠心力の方向と直交させている。従って、風車と発電機の間が開くことなく長いコイルスプリングを利用でき、かつコイルスプリングの伸縮は遠心力の影響を受け難くなり、翼角を正確に制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、実施例であるセイル型の風車100とこれを利用した風力発電装置200を示している。
風車100は、ボス15から放射状に張り出した複数のロッド4と、ロッド4の間に展開された翼体5を備えている。風車100は、支柱1上のナセル2に設置された発電機300に接続されて風力発電装置200を構成している。ナセル2は、図示しない方位制御機構により支柱1上で旋回し、風車100が常に風上b1に向かうように制御される。
【0011】
ロッド4は中空の管であり、回転軸3の先端に位置するボス15(
図2)の外周から放射状に張り出されている。回転軸3は、発電機300を貫通しその後方まで延びている。ロッド4は複数本設けられ、図示例では8本である。翼体5は、前縁5aを回転方向b2前側のロッド4に結合されている。
【0012】
図2はロッド4の間に展開された翼体5を示している。翼体5は羽根6及び紐状部材7で形成されている。羽根6は概ね三角形であり、羽根6の頂点箇所には、ボス15から反時計回り方向にそれぞれ紐通し用の円孔c1、c2、c3が形成されている。羽根6としては、薄板状のポリカーボネイトを利用する。軽く粘りがあり割れにくく、風を受けてしなることにより翼形状をなすからであり、耐候性も期待出来るからである。
【0013】
翼体5の前縁5aは、羽根6の前辺6aと紐状部材7とからなっている。前辺6aは筒状に成形されており、紐状部材7がこれに通されている。ロッド4の外周面にはその長手方向に沿って断面C形の条部材8が固着されている。開口8bは、羽根6の板厚とほぼ同じ間隔であり、羽根6の前辺6aを条部材8の内方にその外方側の開口8aから挿通することにより、条部材8に固定される。また、ロッド4の元側(ボス15側)及びロッド4の先端側の紐通し部材9a、9bと、羽根6の円孔c1、c2には、紐状部材7が挿通されて結び止められる。このようにして、翼体5の前縁5aはロッド4に固定される。風圧を受けることにより、紐状部材7のねじり或いは、羽根6自体の柔軟性に加えてロープ10が図示のように移動し、ロッド4に対して翼体5が後方に傾くことにより、翼角θを持つことができる。
【0014】
翼体5の後縁5bにおいては、ロープ10が各翼体5の後部の円孔c3にその一端を止められ、翼体5を索引している。ロープ10は、ロッド4の先部e1に懸架され、ロッド4の中空内に案内される。ロッド4の先部e1にはロープ10の繰り出しに伴う摩擦力を減少させる第一摺動材14aが固定されている。第一摺動材14aは90度曲がり状の筒部材であって全体がロッド4の材料に較べて摩擦係数の小さい素材(例えばポリテトラフルオロエチレンなど)で形成されている。
【0015】
尚、
図2において、d1はロッド4の回転面を示し、d2は翼体5が風下側に後退した状態を示している。また、d3は風が強くなり翼体5が翼角90度近くにまでしなって後退した状態を示している。翼角θは翼体5とロッド4の回転面とがなす角度である。
図3はボス15及びこれに続く円筒状の軸体16からなる回転軸3の断面構造を示しており、ボス15は、軸体16の前側に同心状に配置され、2つの環状板15aを介して一体状に結合されている。ボス15の前端面にはボルトを介してカバー15bが開放可能に装着されている。ボス15の内側の空間は、ロッド4の中空と連通しており、ロッド4の元側に到達したロープ10はボス15の内部空間に導かれる。
【0016】
軸体16の中空は、ボス15の内側空間と連通している。軸体16の前端箇所e2はロッド4の根元の位置に位置決めされている。各ロッド4の中空を経てボス15内に達したロープ10は軸体16前端箇所e2に導かれた後、90度曲げられて軸体16の中空へ導かれる。前端箇所e2はロープ10を曲がり状に案内しており、ロープ10の摺動に伴う摩擦力を減少させるための第二摺動材14bが固定されている。第二摺動材14bは前半部外面の断面形状を円弧状であり、全体が金属よりも摩擦係数の小さい素材(例えばポリテトラフルオロエチレンなど)で形成されている。
【0017】
軸体16内には、同心状に弾性体であるコイルスプリング12が軸長に沿って配置されている。コイルスプリング12は後端を軸体16の奥部に止められており、前端(ボス15側)が自由端となっている。
【0018】
コイルスプリング12の自由端には円板体13が固定されている。円板体13には同心状に8個のロープ止着孔g1が形成されており、各ロープ止着孔g1にはコイルスプリング12の内側を通じて自由端側まで導かれたロープ10の他端が止着されている。軸体16の中空内には環状突条部f1が形成されており、円板体13が衝接するようになっている。コイルスプリングの自由長及び伸縮長を合計した伸縮範囲Hは、軸体16の奥部から環状突条部f1までの範囲であり、この伸縮範囲Hにおいてコイルスプリングが伸び縮みする。各ロープ10は翼体5が風を受けていなくてもコイルスプリング12の初期圧縮による弾力に基づく比較的小さい引張力で第二摺動材14bに接触するように調整するのがロープ10の位置の安定化にとって好ましい。
【0019】
翼体5が翼角90度となっても良いように長い伸縮長さを持たせるため、コイルスプリング12の長さも長くなり、これを収容する軸体16の長さも長くなる。仮に軸体16の後に発電機を配置すると風車100から発電機300までの回転軸が長いものになってしまうため、本実施例においては、発電機300の主軸11を中空の管で構成して、その中に軸体16を挿入することにより、風車100と発電機300との間を狭くする。
【0020】
図4に、発電機300とボス15及び軸体16の接続の様子を示す。発電機300は、どのような発電機でも良いが、先端11aからローター301が固定される位置301aを超えて奥まで続く範囲において、主軸11が少なくとも中空となっている(実施例では、主軸11は管であるって、入口から出口まで貫通した中空を有する管である。)。この主軸11に軸体16を挿入して固定する(
図4B)。
【0021】
主軸11を中空の管とすることにより、風車100の組立てが容易になる。また、ローター301の固定位置301aを通過して軸体16が配置されることにより、コイルスプリング12の伸縮範囲H及び軸体16が、ローター301の固定される位置301aを含む範囲となる。このため、回転を伝達するのに別途の接続軸を必要としない。尚、実施例では、軸体16は主軸11を貫通して、発電機300の後側に伸びている。
【0022】
このような発電機としては、例えば、本出願人による特願2011−236601号に開示された発電機が利用できる。この発電機は、ローター301の複数の永久磁石302を主軸方向に向けて配置したアキシャルギャップ型の発電機であり、主軸方向にステータポール303を配置しており、ステータポール303を長くして巻線量を増やすことにより主軸方向の長さが長くなる発電機である。このため、長いコイルスプリング12を主軸内に収容できる。
【0023】
次に上記した本実施例の風車の作動について説明する。
無風状態の下では、この状態では、各ロープ10はコイルスプリング12の初期張力による弾力に基づく比較的小さい引張力を付与されるのみであり、各翼体5はその後部をロープ10により第一摺動材14aの位置においてロッド4に引張懸架されるため、
図2に示すように翼角θがほぼゼロの展開状態に保持される。
【0024】
風車が風を受けると、図示しない方位制御機構の作用により、風上に向かうようにナセル2が旋回される。これにより各翼体5は風を常に前方から受けるようになり、風のエネルギーにより各翼体5は後部が後側へ後退する力を付与される。この力は対応するロープ10に伝達された後、円板体13を介してコイルスプリング12に伝達される。その結果、コイルスプリング12が弾性変形され、この弾性変形量だけ各ロープ10が第一摺動材14aから繰り出され、各翼体5は翼角θを増加する。風車100は、風のエネルギーにより回転し、ナセル2内の負荷装置に伝達する。この際、遠心力がコイルスプリング12に作用するが、コイルスプリングの弾性変形の方向と遠心力の働く方向は直角であるため、コイルスプリング12の弾性変形に対して与える影響は殆ど無い。
【0025】
このような作動状態の下で、風車が受ける風のエネルギーが増大したときは、各翼体5は翼角θをさらに増大して、風のエネルギーを後方側へ流下させるようになる。これにより、風車100の回転数が上がり過ぎることを抑制する。これとは逆に、風車が受ける風の速度が減少してそのエネルギーが減少したときは、各翼体5は翼角θを減少して風のエネルギーの活用を促進させるようになる。
【0026】
ロープ10は軽量であるため、その発生する遠心力の大きさは比較的小さい。一方、コイルスプリング12は回転軸3の軸長方向に伸縮するものであるため、遠心力が働く方向とは異なっている。従って、風車100が受ける風の速度が大きくなっても、翼角θの制御は遠心力の影響を受けずに安定化する。
【0027】
また、コイルスプリング12及び円板体13は回転軸3の内側に同心に位置しているため、回転軸3の回転による遠心力の影響が抑制される。コイルスプリング12や円板体13が風雨に晒されるのを防止でき、翼角制御の機能を長期に亘って良好に維持させることができる。また、ロープ10はロッド4の内側及び回転軸3の内側を経て円板体13に結合しているため、ロープ10を翼体5に干渉し難くすることができる。
【0028】
ロッド4及び回転軸3のうちロープ10を曲がり状に案内する箇所に、摩擦力を減少化させ得る材料からなる第一摺動材14a及び第二摺動材14bが固定され、ロープ10がこれら摺動材14a、14bの円弧状表面に受け止められることにより曲がり状に変形され摺動する。このため、ロープ10を滑車で案内する場合よりも、騒音少なくできる。
【0029】
本実施例では翼体5としてポリカーボネイト板を使用したが、他種のプラスチック薄板を使用することも差し支えない。或いは、ポリカーボネイトの代わりに帆布を利用しても良い。また、翼体5とロッド4との接続は、
図5に示すように、羽根6の円孔c1、c2側の辺を筒状に形成或いは縫合して筒状の前縁5aを形成し、ロッド4をその中に通すようにしてもよい。このようにすれば、前縁5aの形状が流線型となるため、空気抵抗が減少する。
【0030】
また、第一摺動材14a及び第二摺動材14bをそれぞれ回転自在な滑車として、これら案内輪の回転によりワイヤーロープを案内させるようにしても良い。
さらに、実施例においては、コイルスプリング12を伸張することにより翼角θを増加したが、圧縮することにより翼角θを増加させても良い。この場合は、コイルスプリング12の前端を軸体16の環状突条部f1で受け止め、後端を自由端とする。円板体13はコイルスプリング12の後端に衝接されるように配置する。円板体13にはロープ10の他端を止着する点は、先の実施例と同じであるが、ロープ10はコイルスプリング12の中を通って第二摺動材14bに向けて配置する。
【0031】
本実施例においては、ロッド4は中空管を用いたが、中空でなくとも良い。この場合、ロープ10はロッド4に沿って配置される。しかしながら、例えば
図5の実施例において、回転方向で後ろ側に位置した翼体5の筒状の前縁5aが流線型となったときに、当該筒の中に入るロッド4の後ろ側にできる空間5c内にロープ10を配置しても良く、この場合はロープ10の周囲を、筒状の前縁5aで囲うことができる。
本実施例においては、風車100を発電機300の風上側に配置したが、風下側に配置しても良い(ダウンウインド型)。
【0032】
本実施例においては、8本のロープ10に対して、1本のコイルスプリング12を用いたが、複数のコイルスプリングを用いて、夫々のロープ10に対して個別に、或いは数本ずつに対してコイルスプリングを割り当てるようにしても良い。各翼部5の位置によって翼角θが夫々異なり、ロープ10の伸張の程度が変わることを許容できるようになる。