(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係わるポーラスコンデンサの構成図である。
実施形態のポーラスコンデンサ20は、所定の距離を隔てて対向する一対の導電体層(以下、第1の導電体層21及び第2の導電体層22)の間に誘電体層23を介装し、その誘電体層23に、第1の導電体層21及び第2の導電体層22に直交する方向の、略直線的な管形状の多数の孔24を形成するとともに、それらの孔24に電極材料を充填して第1の電極25と第2の電極26を形成し、さらに、第1の電極25を一方の導電体層(ここでは第1の導電体層21)のみに電気的に接続し、且つ、第2の電極26を他方の導電体層(ここでは第2の導電体層22)のみに電気的に接続して構成する点で、先行技術のポーラスコンデンサ1と共通する。
【0014】
なお、第1の電極25の第2の導電体層22と接続されていない側の終端に接する孔24は空隙24aとして残されており、同様に第2の電極26の第1の導電体層21と接続されていない側の終端に接する孔24も空隙24bとして残されている。これらの空隙24a、24bは、「第1の電極25を一方の導電体層(ここでは第1の導電体層21)のみに電気的に接続し、且つ、第2の電極26を他方の導電体層(ここでは第2の導電体層22)のみに電気的に接続」するためのものである。つまり、空隙24a、24bはかかる選択的接続を行うための絶縁部として機能する。
【0015】
前記の先行技術との構成上の相違点は、第1の電極25および/または第2の電極26の、導電体層に接続されていない側、すなわち電極の絶縁部側について、複数の電極終端の位置レベルを不揃いにしたことにある。ここで、不揃いとは、複数の第1の電極25の終端(空隙24aを臨む終端)の高さレベルが揃っておらず、ばらついていることをいい、また、複数の第2の電極26の終端(空隙24bを臨む終端)の高さレベルが揃っておらず、ばらついていることをいう。
【0016】
図1において、破線27は複数の第1の電極25のなかで最も短い電極の、第2の導電体層22に接続されていない側の終端の位置レベルをあらわす。また、破線28は複数の第1の電極25のなかで最も長い電極の、第2の導電体層22に接続されていない側の終端の位置レベルをあらわす。Haはそれらの破線27と破線28の位置レベルの距離、すなわち、第1の電極25の長さの差異を表している。同様に、破線29は第2の電極26のなかで最も長い電極の、第1の導電体層21に接続されていない側の終端の位置レベルをあらわす。また、破線30は第2の電極26のなかで最も短い電極の、第1の導電体層21に接続されていない側の終端の位置レベルをあらわす。Hbはそれらの破線29と破線30の位置レベルの距離、すなわち、第2の電極26の長さの差異を表している。
【0017】
このように、実施形態におけるポーラスコンデンサ20の特徴的構造は、第1の電極25の終端の位置レベル(絶縁部としての空隙24aとの接面)を距離Haの範囲で「不揃い」にしたことにある。同様に、第2の電極26の終端の位置レベル(絶縁部としての空隙24bとの接面)を距離Hbの範囲で「不揃い」にしたことにある。
【0018】
電極の終端の位置レベルをある一定以上の範囲でばらつくように不揃いにすることによって、誘電体層23に電極の終端に沿ったクラックを生じにくくすることができる。すなわち、機械的強度が向上し、実装工程における機械的衝撃や半田付けによる熱的衝撃、高温使用環境下での熱応力などにより、前記電極の終端に沿った境界面で誘電体層23が破壊してしまうことがなくなるので製品の信頼性をより高くすることができる。
【0019】
なお、各部の好ましい材料を列挙すると、第1の導電体層21と第2の導電体層22には金属全般(Cu、Ni、Cr、Ag、Au、Pd、Fe、Sn、Pb、Pt、Ir、Rh、Ru、Alなど)を用いることができる。また、誘電体層23には弁金属(Al、Ta、Nb、Ti、Zr、Hf、Zn、W、Sbなど)の酸化物を用いることができ、さらに、第1の電極25と第2の電極26にはメッキ可能な金属全般(Cu、Ni、Co、Cr、Ag、Au、Pd、Fe、Sn、Pb、Ptなど)やこれらの合金などを用いることができる。
【0020】
また、図示の構造では、「第1の電極25を一方の導電体層(ここでは第1の導電体層21)のみに電気的に接続し、且つ、第2の電極26を他方の導電体層(ここでは第2の導電体層22)のみに電気的に接続」するために、第1の電極25の終端側に空隙24aを設けるとともに、第2の電極26の終端側にも同様の空隙24bを設けている。しかし、この態様に限定されず、要は、第1の電極25と第2の導電体層22との間、および第2の電極26と第1の導電体層21との間の電気的な接続を絶縁できる態様になっていればよい。たとえば、空隙24a、24bを任意の絶縁体(誘電体を含む)で埋める態様であってもよい。
【0021】
以上のような構造を有するポーラスコンデンサ20は、全体が絶縁フィルム31(外装保護材)で被覆され、さらに、この絶縁フィルム31の所定位置に設けられた開口から引き出されたリード線32、33を介して、絶縁フィルム31の外側に設けられた外部電極(不図示)に接続されている。絶縁フィルム31には、たとえば、SiO2、SiN、樹脂、金属酸化物などを用いることができ、その厚さは数10nm〜数10μm程度とすることができる。
【0022】
なお、実施形態では、複数の第1の電極25の終端の位置レベルを「不揃い」にするとともに、複数の第2の電極26の終端の位置レベルも「不揃い」にしているが、これに限定されない。第1または第2いずれか一方の電極の終端の位置レベルを「不揃い」にする態様であってもその効果は発現される。
【0023】
図2は、複数の第1の電極25の終端の位置レベルを「不揃い」にする一方、複数の第2の電極26の終端の位置レベルについては、同一レベル(破線34の位置)に揃えた状態を示す構成図である。なお、
図2において、
図1と共通する構成要素には同一の符号を付してある。
このように、どちらか一方の電極の終端の位置レベルだけを「不揃い」にしただけでも、ポーラスコンデンサ20の機械的強度の向上を図ることができる。
【0024】
図3は、一方の電極の終端の位置レベルだけを「不揃い」にした具体的構造を示す図である。この図において、(a)はポーラスコンデンサ20の断面を撮影した顕微鏡写真、(b)はその写真の解説図である。この写真(a)と解説図(b)において、一対の導電体層(第1の導電体層21と第2の導電体層22)の間に介装された誘電体層23のなかに細かな縦縞模様が認められる。この縞状の線の1本1本が孔24に相当する。
また、各々の孔24の内部に第1の電極25と第2の電極26が形成されており、且つ、上記のとおり、複数の第1の電極25の終端の位置レベルが「不揃い」になっているとともに、複数の第2の電極26の終端の位置レベルが同一レベル(破線37参照)に揃えられている。
【0025】
図3の実線35は第1の導電体層21と誘電体層23の境界線を示し、実線36は第2の導電体層22と誘電体層23の境界線を示している。また、
図2の破線34に対応する
図3の破線37は、第2の電極26の終端の位置レベル(高さが揃えられたもの)を示している。写真には、破線37に対応する位置に、かすかに見える白い線(矢印38が指し示す先を参照)が写し出されている。この
図3(a)の「かすかに見える白い線」が、機械的強度が弱い境界面の位置に相当する。
【0026】
一方、上記のとおり、第1の電極25の終端面の位置レベルが「不揃い」になっているので、この不揃い部分は明確な線(境界)として現れず、
図3(a)に示す写真の領域39(
図3(b)の破線40で囲んだ部分)には、矢印38に相当するものは何も確認できない。このように、少なくとも
図3(a)に示す写真の領域39((b)の破線40で囲んだ部分)には、機械的強度が弱い境界面がはっきりと存在していないことがわかる。
【0027】
なお、この変形例では、第1の電極25の終端の位置レベルを「不揃い」にする一方、第2の電極26の終端の位置レベルを同一レベル(
図2の破線34または
図3の破線37参照)に揃えているが、逆であってもよい。すなわち、第1の電極25の終端の位置レベルを揃えるとともに、第2の電極26の終端の位置レベルを「不揃い」にしてもよい。同様に、機械的強度の向上を図ることができる。
【0028】
次に、製造工程について説明する。
図4〜
図8は、製造工程図である。以下、工程順に説明する。
<
図4(a)の工程>
まず、前述の弁金属からなる、たとえば、アルミ基材41を用意し、その基材41の主面である表面42に、以降の工程で実行する陽極酸化(電極になっている金属を電気分解で酸化処理する手法のこと)の基点となるピット43を最密充填六方配列で形成する。基点となるピットは、基材41より堅い材質のものを押しつけて凹ませればよい。
【0029】
<
図4(b)の工程>
次いで、所定の低い電圧(以下、第1の電圧という)を基材41に印加して低電圧陽極酸化処理を施すことにより、基材41の厚み方向(図面の上下方向)に所定深さ(ないし所定長)の多数の孔44を形成する。なお、この孔44は、最終的に
図2の孔24になるが、今の段階ではまだ孔24の形になっていないため、孔24と区別するために“粗”を付して粗孔44と称することにする。
【0030】
<
図4(c)の工程>
引き続き、前記第1の電圧よりも高い電圧(以下、第2の電圧という)で高電圧陽極酸化処理を施すことによって、粗孔44のうちのいくつかをさらに掘り下げて、掘り下げられた粗孔44の底部に所定深さの拡径部44aを形成する。以下、拡径部44aを有さない粗孔44と拡径部44aを有する粗孔44とを区別するために、拡径部44aを有さない粗孔44を「浅粗孔44」、拡径部44aを有する粗孔44を「深粗孔45」と称することにする。
【0031】
ここで、浅粗孔44と深粗孔45の配列は理想的には交互であることが望ましい。実用上は、部分的に偏りがないランダムな配列になっていればよい。また、陽極酸化で発生する孔のピッチ(粗孔同士の間隔)は印加電圧に比例するため、大きな電圧(第2の電圧)で処理された深粗孔45は発生ピッチが広くなる。適宜、電圧を調整して発生ピッチを調整すればよい。
【0032】
陽極酸化処理の条件は、たとえば、0.1mol/l、15℃のシュウ酸溶液中で第1の電圧が数V〜数100V、この第1の電圧による処理時間が数分〜数日であり、また、第2の電圧が前記第1の電圧の数倍、この第2の電圧による処理時間が数分〜数十分である。具体的にいえば、第1の電圧を40Vとすることにより、孔の間隔が約100nmの浅粗孔44が得られ、第2の電圧を80Vとすることにより、孔の間隔が約200nmの深粗孔45が得られる。
【0033】
また、第2の電圧を上記の範囲内(第1の電圧の数倍)とすることにより、浅粗孔44と深粗孔45の数を概ね同等とすることができる。これにより、後述の工程において、浅粗孔44の内側に形成される第1の電極25と、深粗孔45の内側に形成される第2の電極26の数もほぼ同等にランダムに配列することができ、効率的に容量を取り出すことが可能になる。また、第2の電圧を用いた際の処理時間を上述の範囲内(数分〜数十分)とすれば、
図4(c)の工程で形成される酸化物基材46の厚みを極力小さくすることができる。この酸化物基材46は、後の工程で不要部分が除去されるので、できるだけ薄いことが望ましいためである。
【0034】
<
図4(d)の工程>
次に、ウェットエッチ(化学薬品の水溶液を使い化学反応によって膜を削る手法のこと)などの適宜手法により、基材41の地金部分(酸化されずに残った部分)を除去し、酸化物基材46の裏面47を露出させる。
【0035】
<
図4(e)の工程>
次いで、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive ion etching)などの適宜手法により、酸化物基材46の裏面47を破線48に沿って所定の厚みで切除し、酸化物基材46の裏側に深粗孔45の下端面を開口させる。
【0036】
<
図5(a)の工程>
次いで、酸化物基材46の表面49に、物理気相成長法(PVD:Physical vapor deposition)などの適宜手法により、導電体からなるシード層50を形成する。
図6は、シード層50の形成概念図である。シード層50を形成するには2種類の金属によって段階的に成膜を行う。まず最初に第1層目の成膜材50aとしてチタンやクロムなど電気抵抗の高い金属を成膜したあと、その上から第2層目の成膜材50bとして銅などの電気抵抗の比較的低い金属を成膜する。ここでたとえば、形成された孔の径が100nm程度であれば、第1層目の成膜材50aを前記孔の径の半分未満である45nmくらいを狙っておこなえばよい。このように成膜された第1層目の成膜材50aは
図6のように孔部をほぼ埋めるように形成されていたり(a部)、あるいは孔部の周囲に部分的に形成されており(b部)、ひとつひとつの孔ごとにランダムにばらつきをもって形成される。さらにその上から第2層目の成膜材50bを0.5μm〜10μm程度おこなえば第1層目の成膜材50aの形状が維持されたままシード層50が形成される。なお成膜量は成膜形成時間に比例するので、成膜状態や成膜量を顕微鏡やsemによって観察しながら適宜時間を調整すれば成膜量をコントロールできる。
【0037】
<
図5(b)の工程>
次いで、シード層50をシードとして、深粗孔45の内側に適量のメッキ導体51を電解メッキによって埋め込むように形成する。このとき、浅粗孔44は端部が閉じていてメッキのための電解液が接触しないので、浅粗孔44にメッキ導体は形成されない。メッキ導体51を形成する量は、後工程で形成する深粗孔のメッキ導体が浅粗孔のメッキ導体より充分に長くなる程度にすればよい。
【0038】
<
図5(c)の工程>
次いで、反応性イオンエッチング(RIE)などの適宜手法により、酸化物基材46の裏側を破線52に沿って切除し、酸化物基材46の裏側に浅粗孔44を開口させる。このとき、深粗孔45はすでに先の工程で酸化物基材46の裏側に開口させられているので、この段階で浅粗孔44と深粗孔45の双方が酸化物基材46の裏側に開口することになる。したがって、この段階で浅粗孔44と深粗孔45は、前記の実施形態(
図1)やその変形例(
図2)における孔24になる。
【0039】
<
図5(d)の工程>
次いで、シード層50をシードとして、浅粗孔44及び深粗孔45の双方の内側に電解メッキによってメッキ導体53を成長させて形成する。このとき、深粗孔45にはすでに先の工程でメッキ導体51が埋め込まれているので、この深粗孔45に埋め込まれたメッキの量はメッキ導体51とメッキ導体53を足し合わせたものとなり、一方、浅粗孔44に埋め込まれたメッキの量はメッキ導体53のみである。浅粗孔44の内部にメッキ導体53からなる電極、すなわち前記第1の電極25になる電極が形成されるとともに、深粗孔45の内部にメッキ導体51とメッキ導体53からなる電極、すなわち前記第2の電極26になる電極が形成されることになる。
図5(b)のメッキ導体51によってすべての電極26は、電極25より裏面側に長く形成される。
【0040】
図6は、
図5(a)のシード層50の拡大図である。電解メッキの電流は前記シード層50から一様に供給されるが、第1層目の成膜材50a、すなわち電気抵抗の高い金属の形状は、
図6に示すように、ひとつひとつの孔ごとにばらつきをもって形成されている。それぞれの孔ごとに第1層目の成膜材50aの形状が異なりばらつきがあるので、それに伴って電気抵抗値がばらつく。よって電解メッキのときにそれぞれの孔の内部に供給される電流密度がばらつく。
図6において第1層目の成膜材50aが多く介在しているa部の電気抵抗値は高くなるので、電解メッキのときに電流密度は低くなり、a部の孔に形成されるメッキ導体の電極は形成速度が遅い。その一方、第1層目の成膜材50aが比較的少なく介在しているb部の電気抵抗値は低くなるので電流密度は比較的高くなり、b部の孔に形成されるメッキ導体の電極は形成速度が早い。形成速度が遅いメッキ導体は電極として長くならないが、形成速度が早いメッキ導体は、電極として長くなる。
【0041】
このように前記第1層目の成膜材50aが電気抵抗値としてばらつきをもつように形成することによって、
図5(d)の電極53(第1の電極25)の終端の位置レベルを不揃いに形成することが可能となる。
【0042】
なお、
図5(a)の工程において、前記第1層目の成膜材50aが電気抵抗値としてばらつきをもつように形成するためには次のような方法でも可能である。すなわち前記第1層目の成膜材50aを50μm〜300μm程度に厚く形成すれば、厚くなるほど厚さばらつきが大きく発生するので、それぞれの孔部によって電気抵抗値がばらつきをもつようになる。
【0043】
図7は、第1層目の成膜材50aを厚くした場合の概念図である。第1層目の成膜材50aの厚さはおおむね50μm以上から孔部ごとに電気抵抗値がばらつきをもつようになるが、300μmを超えると成膜が剥がれやすくなってしまうので不適な厚さとなる。この場合、成膜材は50aの一層だけでも良いし、50bと合わせて2層としても良い。
【0044】
また結果的に孔部ごとにシード層とメッキ形成電極間の電気抵抗値がばらつくようにシード層を形成すれば良いので、第1層目の成膜材50aと第2層目の成膜材50bの成膜の順序を入れ替えたり、さらに第3、第4の成膜を形成するなどの方法をとることも可能である。
なお孔部ごとにシード層とメッキ形成導体間の電気抵抗値がばらつかないようにするには、シード層を均質に形成すれば良い。例えば銅などの電気抵抗値が比較的低い材質だけで孔部を橋渡しするようにシード層を形成した場合は電極長さが一様に揃うことになる。
【0045】
また、各孔の孔部ごとすなわち電極ごとに電気抵抗値がばらつくようにするために、各孔の孔径の大きさを不揃いにする方法も効果的である。以下に参考実施例として説明する。
図10のXY断面に形成する孔の径をばらつきをもつように形成すれば、シード層、導電体層の形成条件をとくに管理することなく容易に
図6のa部、b部、および
図9(b)のc部のような形状ばらつき、を生じさせることができる。孔の大きさがばらつくことによって、各孔に形成される電極の電気抵抗値がばらつくので、電極終端の位置が不揃いになるように形成できる。孔の大きさがばらつくように形成するためには、たとえば表1の実施例のような条件で陽極酸化を行えばよい。表1からわかるように陽極酸化の温度を10℃以下の低温にすると孔径の大きなばらつきが得やすい。最終的に電極終端の位置が不揃いになることによる機械的強度改善の効果が得られるのは、孔径のばらつき:標準偏差σnが5nmより大きくなるときである。なお、表1の機械的強度は以下で述べる熱サイクル試験によって評価したものであり、表1では試験数10のうち1以上にクラックが生じた場合を×とし、クラックが生じないものを○とした。
【0047】
上記のように孔径がばらつくと孔部がいびつに歪んで円形ではない場合が出てくるが、そのような場合を含めて孔径は、測定するスケールを当てる方向を一定に決め当該一定方向における孔の大きさについて測定をおこなえばよい。孔部の形状自体のばらつきによって
図6のa部、b部のようなシード層の形状ばらつき、および
図9(b)のc部のような導電体層の形状ばらつきを生じさせることも可能である。孔部が歪んだ形状になる場合も上述の測定方法で同様にばらつきを計測でき、そのばらつきに応じた同様の効果を得ることができる。また孔径を測定する際は、試料の断面を出すときに切断面が孔部の伸長方向に対して垂直であることに留意する。同一製造ロットからランダムにサンプリングしてn=30の製品を抜き取り、sem像などを使って、それぞれ30カ所の孔径を測定し、標準偏差を算出する。
【0048】
以上のようにして、第1の電極25の終端の位置レベルをランダムに「不揃い」にすることができる。すなわち、
図1および
図2において複数の第1の電極25のうち最も短い電極の終端の位置レベルを破線27で示すとともに、複数の第1の電極25のうち最も長い電極の終端を破線28で示し、それらの破線27と破線28の距離、すなわち電極の長さの差異をHaで示すことにすれば、第1の電極25の終端の位置レベルを距離Haの範囲で「不揃い」にすることができる。距離Haの寸法は、数μmとなるように形成され、後述するように1μm以上で機械的強度の改善効果がみられる。またシード層を形成するときの孔ごとの成膜状態のばらつきが大きいほど距離Haの寸法は大きくなる。
【0049】
<
図5(e)の工程>
次いで、化学的作用と機械的作用を併用する研磨加工(CMP:Chemical
mechanical polishing)などの適宜手法により、酸化物基材46の裏側を破線54に沿って切除し、酸化物基材46の裏側に第2の電極26の下端面を露出させるとともに、第1の電極25の下端面側に所定範囲のランダムな深さの空隙24aを形成する。なお、酸化物基材46は誘電体層23として機能する。
【0050】
<
図8(a)の工程>
次いで、物理気相成長法(PVD:Physical vapor deposition)などの適宜手法により、酸化物基材46の裏側の面に第2の導電体層22として機能する導電体層55を形成する。
図9(a)は、導電体層55の形成概念図である。導電体層55を形成するには2種類の金属によって段階的に成膜を行う。まず最初に第1層目の成膜材55aとしてチタンやクロムなど電気抵抗の高い金属を成膜したあと、その上から第2層目の成膜材55bとして銅などの電気抵抗の比較的低い金属を成膜する。前記第1層目の成膜材55aを50μm〜300μm程度に厚く形成すると、第1層目の成膜材55aが厚くなるほど厚さばらつきが大きく発生する。このように形成された導電体層55を経ると、各孔のそれぞれのメッキ導体ごとに電気抵抗値がばらつきをもつようになる。後工程で実施するメッキ導体(電極26)先端部の電解エッチングにおいては導電体層55を経て電流が供給されるので、各孔の電極ごとに電気抵抗値がばらついていれば、電解エッチングの速度がばらつき、従って電極26長さがばらつくように形成される。この厚さは50μm以上から有効となる電気抵抗値のばらつきをもつが、300μmを超えると成膜が剥がれやすくなってしまうので不適な厚さとなる。
【0051】
なお第2層目の成膜材55bは0.05μm〜10μm程度形成するようにおこなえばよい。
【0052】
図9(b)は、導電体層55の他の形成概念図である。この図に示すように、電気抵抗値の高い第1層目の成膜材55aを10〜200nmになるようにすると、第1層目の成膜材55aは、メッキ導体電極26の終端部をほぼ覆うように形成されていたり(d部)、あるいはメッキ導体電極26の終端部に部分的に形成されており(c部)、ひとつひとつの孔ごとにばらつきをもって形成される。
なお、第1層目の成膜材55aは、10nm未満を狙って形成すると導電体層として機能せず、一方で200nmを超えるとすべて
図9(b)のd部のような形状となってしまう。
【0053】
さらにその上から第2層目の成膜材55bを0.05μm〜10μm程度おこなえば第1層目の成膜材55aの形状が維持されたまま導電体層が形成される。このようにして各孔のそれぞれのメッキ導体ごとに電気抵抗値がばらつきをもつように導電体層55を形成することができる。
【0054】
また結果的に孔部ごと、すなわち第2の電極ごとに導電体層とメッキ導体間の電気抵抗値がばらつくように導電体層55を形成すれば良いので、導体層55を第1層目の成膜材55aだけとしたり、第1層目の成膜材55aと第2層目の成膜材55bの順序を入れ替えたり、第1、第2層目の成膜材に加えてさらに第3、第4の成膜を形成するなどの方法をとることも可能である。
【0055】
<
図8(b)の工程>
次いで、CMPなどの適宜手法により、シード層50を除去して、酸化物基材46の表側の面に第1の電極25と第2の電極26の双方の上端面を露出させる。
【0056】
<
図8(c)の工程>
次いで、第2の電極26の長さを電解エッチングにより調整し、第2の電極26の上端面側に所定深さの空隙24bを形成する。
電解エッチングの電流は前記導電体層55から一様に供給されるが、前記導電体層55の第1層目の成膜材55a、すなわち電気抵抗値の高い金属は例えば
図9のようにひとつひとつの第2の電極26ごとにばらつきをもって形成されている。このため電気抵抗値がばらつき、それぞれ第2の電極26の終端に供給される電流密度がばらつく。電流密度の低い第2の電極26の終端は比較的電解エッチングが遅くなり、電流密度の高い第2の電極26の終端は比較的電解エッチングが早くなる。電解エッチングが遅い電極は最終的に比較的長くなり、電解エッチングが早い電極は、最終的に比較的短くなる。
【0057】
このように前記導電体層55が電気抵抗値として各孔の電極ごとにばらつきをもつように形成されることによって、
図8(c)の第2の電極26の終端の位置レベルを不揃いにばらつきをもって形成することが可能となる。
【0058】
以上のようにして、第2の電極26の終端の位置レベルもランダムに「不揃い」にすることができる。すなわち、
図1において複数の第2の電極26のうち最も短い電極の終端の位置レベルを破線30で示すとともに、複数の第2の電極26のうち最も長い電極の終端を破線29で示し、それらの破線30と破線29の距離、すなわち電極の長さの差異をHbで示すことにすれば、第2の電極26の終端の位置レベルを距離Hbの範囲で「不揃い」にすることができる。距離Hbの寸法は、数μmとなるように形成されればよく、後述するように1μm以上で機械的強度の改善効果がみられる。
【0059】
<
図8(d)の工程>
最後に、PVDなどの適宜手法により、酸化物基材46の表側に第1の導電体層21としての導電体層56を形成した後、導電体層56(第1の導電体層21)と導電体層55(第2の導電体層22)から各々リード線(
図2のリード線32、33)を引き出し、全体を絶縁フィルム(
図2の絶縁フィルム31)で被覆する。さらに、リード線の先を絶縁フィルムの外側に設けられた外部電極(図示しない)に接続する。
【0060】
以上の工程によって、本願
図1の特徴的構造、すなわち第1の電極25の終端を距離Haの範囲で「不揃い」にし、第2の電極26の終端を距離Hbの範囲で「不揃い」にした構造を有するポーラスコンデンサ20が完成する。
【0061】
なお
図5(a)のシード層50の形成工程において、第1層目の成膜材50aの形状がばらつかないように形成すれば第1の電極25の終端は不揃いにならない。たとえば、孔の径が100nm程度であれば、シード層50の第1層目の成膜材50aの厚さを300nm〜30μm程度にすれば孔部の上を橋渡しするようにシード層が形成されるので各孔間の電気抵抗値のばらつきが抑えられて、
図5(d)で第1の電極25の終端は不揃いにならない。あるいは、
図5(a)のシード層50の形成工程において、第1層目の成膜材50aの成膜をおこなわずに電気抵抗値の比較的小さい第2層目の成膜材50bだけで孔部の上を橋渡しするようにシード層50を形成すれば
図5(d)の工程で第1の電極25の終端は不揃いにならない。
【0062】
第1の電極25と第2の電極26をどのような組み合わせで不揃いに形成するかは、要求される製品の信頼性やコストなどによって任意に選択して組み合わせればよい。
【0063】
電極の終端の位置レベルを確認する方法は、電極の長手方向に垂直な方向に研削研磨をしながら面内に確認される電極の数を数えればよい。
図10は、電極の終端位置レベルを確認する方法を示す図である。この図において、たとえば、ポーラスコンデンサ20の中央部でXY平面に平行な断面をZ方向上部から観察する。0.05μm程度の一定量を研削しながら同一視野で確認できる電極をn=100±10として、視野を定めた後、一定量の研磨ごとに電極の数を記録する。観察できる電極の数が最も多くなる中央断面付近から観察と研磨を繰り返し、電極の数が減り始めたらその研削位置を基準位置:0とする。さらに研磨をつづけながら電極の数を確認し、上記の基準位置から電極の数が確認できなくなった研削位置までの距離をHaとする。
【0064】
この作業を、たとえば、同一製造ロットからランダムに抜き取った5試料でおこなって5データを取得し、そのうち最大値、最小値を除いた3データの平均値を第1電極25の終端の平均距離Haとする。本願においては距離Haおよび/または距離Hbが1.00μm以上であれば電極の終端が不揃いであると定義する。また距離Hbについての測定方法もHaと同様である。
【0065】
電極が不揃いとなったポーラスコンデンサと電極が不揃いではないポーラスコンデンサを作成し、熱サイクル試験を行った。熱サイクルは半田付け実装を想定して常温から温度320℃への昇温後、常温に戻す操作を1サイクルとし、10サイクルを製品に負荷した。この熱サイクル後にポーラスコンデンサを50〜100倍の顕微鏡でクラックの有無を確認した。なお、試験数はn=10をおこない、クラックが1以上発生した場合を×と判定した。
不揃いのレベルを示す距離HaおよびHbは、前記の研削研磨による測定方法によって測定した。測定したサンプルと同一製造ロットのものを試験に使用した。
なお、HaおよびHbの距離と熱サイクルによるクラックはHaとHbの大きさが相互に影響を及ぼし合うことはない。別途試験で距離HaおよびHbによってそれぞれの脆弱になる箇所に独立にクラックが発生することが確認されたので、今回の試験もHaおよびHbの数値は相互に干渉しない独立なものとして評価した。評価の結果を表2に示す。
【0067】
表2に示すとおりHaおよびHbは1μm以上の数値になると熱サイクル試験でクラックが発生しなくなる。これは電極の終端位置のばらつきが1μm以上になると直線的に生じ易いクラックが伸長しにくくなるためである。