特許第5919074号(P5919074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919074
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】磁気スタック、磁気素子および方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/39 20060101AFI20160428BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   G11B5/39
   H01L43/08 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-90883(P2012-90883)
(22)【出願日】2012年4月12日
(65)【公開番号】特開2012-230750(P2012-230750A)
(43)【公開日】2012年11月22日
【審査請求日】2012年7月27日
【審判番号】不服2015-2162(P2015-2162/J1)
【審判請求日】2015年2月4日
(31)【優先権主張番号】13/094,530
(32)【優先日】2011年4月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500373758
【氏名又は名称】シーゲイト テクノロジー エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Seagate Technology LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビクター・ボリス・サポツニコフ
(72)【発明者】
【氏名】エリック・ウォルター・シングルトン
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ウィリアム・コビントン
【合議体】
【審判長】 森川 幸俊
【審判官】 酒井 朋広
【審判官】 ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−044490(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0086385(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B5/39
H01L43/00-43/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ヘッドであって、
強磁性自由層が、スペーサ層によって合成反強磁性(SAF)層から分離され、空気軸受面(ABS)によって隣接する媒体に格納された検知済みデータビットから分離されている磁気反応積層構造と、
ABSから所定のオフセット距離を空けて積層構造に結合される少なくとも1つの反強磁性(AFM)タブとを含み、
前記AFMタブは、前記SAF層に直接に結合されて、絶縁物によって、前記ABSと交差する方向に前記電極から分離され、
前記絶縁物は、前記AFMタブの前記SAF層側と反対側の上面を覆い、かつ、前記電極と同じ厚みを有する、磁気ヘッド
【請求項2】
SAF層、自由層およびスペーサ層は各々、共通のストライプ高さを共有する、請求項1に記載の磁気ヘッド
【請求項3】
少なくとも1つのAFMタブは、共通のストライプ高さ未満である低いストライプ高さを有する、請求項2に記載の磁気ヘッド
【請求項4】
SAF層は、1対の強磁性副層間に配置された遷移金属の積層構造である、請求項1に記載の磁気ヘッド
【請求項5】
AFMタブは第1の厚さを有し、SAF層は第2の厚さを有し、第1の厚さは第2の厚さよりも厚い、請求項1に記載の磁気ヘッド
【請求項6】
磁気素子であって、
強磁性自由層が、スペーサ層によって合成反強磁性(SAF)層から分離され、空気軸受面(ABS)によって隣接する媒体に格納された検知済みデータビットから分離されている磁気反応積層構造と、
ABSから所定のオフセット距離を空けてSAF層に直接結合された反強磁性(AFM)タブとを含み、前記AFMタブは、前記SAF層に直接に結合されて、絶縁物によって電極から分離され、前記絶縁物は、前記AFMタブの前記SAF層側と反対側の上面を覆い、かつ、前記電極と同じ厚みを有し、前記AFMタブは、SAF層において所定の設定された磁化を維持する交換結合を提供するよう構成される、磁気素子。
【請求項7】
強磁性自由層を、スペーサ層によって磁気反応積層構造における合成反強磁性(SAF)層から、および、空気軸受面(ABS)によって隣接する媒体に格納された検知済みデータビットから、分離するステップと、
少なくとも1つの反強磁性(AFM)タブを、ABSから所定のオフセット距離を空けて積層構造に直接結合させるとともに、絶縁物によって、前記ABSと交差する方向に電極から分離されるように設けるステップとを含み、前記絶縁物は、前記AFMタブの前記SAF層側と反対側の上面を覆い、かつ、前記電極と同じ厚みを有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
概要
この発明のさまざまな実施例は、概して、磁気状態の変化を検出することのできる磁気素子に向けられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
さまざまな実施例に従うと、磁気素子は磁気反応積層構造を有し、強磁性自由層が、スペーサ層によって合成反強磁性(SAF:synthetic antiferromagnetic)層から分離され、かつ、空気軸受面(ABS:air bearing surface)によって隣接する媒体に格納された検知済みデータビットから分離されている。積層構造は、ABSから所定のオフセット距離を空けて少なくとも1つの反強磁性(AFM:antiferromagnetic)タブに結合される。
【図面の簡単な説明】
【0003】
図1】データ記憶装置の実施例を示す斜視図である。
図2図1のデータ記憶装置における読取センサとして用いることのできる磁気素子の例を概略的に示す図である。
図3】この発明のさまざまな実施例に従って構築されかつ動作する磁気素子を示す図である。
図4】この発明のさまざまな実施例に従った、図2および図3の磁気素子において用いることのできる磁気スタックを示す図である。
図5図2および図3の磁気素子において用いることのできる磁気スタックの実施例を示す図である。
図6図2および図3の磁気素子において用いることのできる磁気スタックの例を示す図である。
図7図2および図3の磁気素子において用いることのできる磁気スタックの実施例を示す図である。
図8】この発明のさまざまな実施例に従って構築されかつ動作する磁気素子の動作特徴を概略的に示す図である。
図9】この発明のさまざまな実施例に従って実行される素子作製ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0004】
詳細な説明
この開示は、概して、データを不揮発に記憶するのに用いられるデータ変換ヘッドおよび磁気メモリ素子において用いられる読取センサの文脈などにおいて、磁気変動を検出することのできる磁気素子に関する。データ記憶装置の面密度は、データ記憶容量が増大するにつれてより重要になってきている。装置の面密度を高めることは、所与の面に対する読取り構成要素の小型化およびデータビットの増大につながる。しかしながら、データ読取装置を小型化すると、ノイズの存在や、不良なクロストラック分解能のせいで、磁気が不安定になり、データの検知が不正確になる可能性がある。
【0005】
したがって、この発明のさまざまな実施例は、概して、強磁性自由層が、スペーサ層によって合成反強磁性(SAF)層から分離され、かつ、空気軸受面(ABS)によって隣接する媒体に格納された検知済みデータビットから分離されている磁気反応積層構造に向けられる。積層構造は、ABSから所定のオフセット距離を空けて少なくとも1つの反強磁性(AFM)タブに結合される。AFMタブを空気軸受面(ABS)からオフセットしてこのように位置決めすることにより、シールド間の間隔をより小さくすることが可能となり、面密度性能の向上およびデータの正確な検知につながる。
【0006】
データ記憶装置100の一例を図1に示す。装置100は、この発明のさまざまな実施例が実施することのできる非限定的な環境例を示す。装置100は、基部デッキ104および上カバー106から形成される実質的に封止されたハウジング102を含む。内部に配置されたスピンドルモータ108は、いくつかの磁気記憶媒体110を回転させるよう構成される。媒体110は、ヘッドジンバルアセンブリ(HGA:head gimbal assembly)112によって各々が支持される対応する配列のデータ変換器(読取/書込へッド)によってアクセスされる。
【0007】
HGA112は各々、ヘッドスタックアセンブリ114(「アクチュエータ」)によって支持可能であり、このヘッドスタックアセンブリ114は、剛性のアクチュエータアーム118によって支持される可撓性のあるサスペンション116を備える。アクチュエータ114は、好ましくは、ボイスコイルモータ(VCM:voice coil motor)122に電流を印加することによってカートリッジ軸受アセンブリ120を中心として回動する。このようにして、制御されたVCM122の動作により、(数字で124で示される)変換器が媒体表面に規定されたトラック(図示せず)と位置合わせされて、そこにデータが記憶されるかまたはデータがそこから検索される。
【0008】
図2は、図1のデータ変換器124において読取センサとして用いることのできる磁気素子130をブロック図で表わした例である。素子130は、外部磁界に対して感度のよい強磁性自由層132を含む。すなわち、自由層132は、隣接するデータ記憶媒体138上のプログラムされた磁気ビット136によってもたらされるような、発生した外部磁界に対応する磁化を有し得る。
【0009】
所定の設定された磁化を有する合成反強磁性(SAF)層134は、自由層の磁気検知に対処するようにさまざまな厚さおよび材料で構築することのできる非磁性スペーサ層140によって、自由層132から分離される。自由層132およびSAF層134は各々、たとえば、製造および動作をともに向上させるシード層142およびキャップ層144などの電極層に結合することができる。しかしながら、電極層142および144の組成、形状および配置は限定されるものではなく、変更または排除可能であることに留意されたい。
【0010】
磁気素子130はさらに、自由層132およびSAF層134のそれぞれの反対側にある電極層に貼付けられたシールド層146および148を含む。シールド層146および148は、不要な磁束を自由層132およびSAF層134の磁気積層構造から遠ざかる方向に向けるように、さまざまな構成および組成で配向することができる。このようなシールドは、ノイズを除去したり、隣接するビットの不用意な検知をなくしたりすることによって、媒体138からのプログラムされたビット136の磁気検知を向上させることを可能にする。
【0011】
図2に図示のとおり、磁気積層構造は磁気スタック150であって、スペーサ層140、SAF層134および強磁性自由層132で構成されており、それぞれの層が、磁気安定性および検知を向上させることのできる高い異方特性をもたらす細長いストライプ高さ152を有する。さらに、SAF層134の設定された磁化は、細長いストライプ高さ152であるにもかかわらず不安定になる可能性があり、データビット136の検知が不正確になるおそれがある。SAF層134に反強磁性(AFM)タブ154を貼付けることにより、外部磁界に応じて、SAF層134の設定された磁化を維持する交換結合によって付加的な磁気安定性を得ることができる。
【0012】
AFMタブ154をSAF層134に沿ってどこにでも貼付けることができる一方で、ABSにおいてAFMを追加することにより、シールド146と148との間の距離(シールド間の間隔)が大きくなって、素子130によって読取り可能な最大電位面密度が制限されるだろう。SAF層134の設定された磁化をストライプ高さ152未満の長さ156で維持するために、AFMタブ152が許容可能なレベルの交換結合をもたらし得ることが確認された。このように長さ156が短いために、AFMタブ154をABSから所定のオフセット距離158に配置することが可能となり、こうして、素子130に高い磁気安定性を与えつつ、空気軸受面(ABS)におけるシールド間の間隔を広げないようにし得る。
【0013】
磁気スタック148にAFMタブ154を追加することにより、動作のばらつきに対抗できる頑強性の成果を高めることができる。AFMタブ154がSAF層134の既存の設定された磁化を補完していることにより、設定された磁化を外部ビット136に応じて付与して維持する必要なしに、タブ長さ156を短くしてSAF層134を補完することが可能となる。このため、自由層132に対してバイアス磁化を与え得る自由層132にタブ154を貼付けるのとは対照的に、AFMタブ154を直接SAF層134に結合する必要がある。
【0014】
図2においては、シールド146および148がABSに近接しており、これにより、所定のデータトラック(図示せず)の外側にあるデータビット136を十分にシールドすることが可能となる。しかしながら、図3の磁気素子160に示されるように、シールド162および164は、そのストライプ高さが磁気スタック166のストライプ高さ以上になるように、X軸に沿ってABSから遠ざかるように延在させることができる。図2の磁気積層構造150と同様に、磁気スタック166は、上部シールド164と強磁性自由層170とSAF層172と底部シールド162との間に配置された非磁性スペーサ層168で構築される。
【0015】
SAF層172はさまざまな異なる材料として構成することができるが、そのいずれも必須ではなく、または限定されるものではない。但し、いくつかの実施例においては、SAF層172は、NiおよびCoのような金属、CoFeおよびNiFeのような合金、ならびにCoFeBのような高い分極比の化合物などの強磁性でアモルファスの副層の間に配置されるRuなどの遷移金属からなる積層構造である。SAF層172は、所定の設定された磁化に副層を留め付けるのを助けるために強磁性副層のうちの1つに直接貼付けられたAFMタブ174を有する。但し、このように直接貼付けることにより、いくつかの実施例においては非磁性シード層が介在する可能性がある。
【0016】
AFMタブ174は、AFMタブ174、SAF層172およびスタック166に悪影響を及ぼさないよう位置ずれした磁界をさらに逸らすことのできる底部シールド162によって部分的に囲まれる。図示のとおり、底部シールド162は、そのストライプ高さ全体に沿って連続的な厚さを有する上部シールド164とは対照的に、AFMタブ174が位置する厚さ特徴の小さい区域(すなわち、切欠き)を有する。それにもかかわらず、1つ以上の特徴の形状、サイズおよび構成は限定されず、上部シールド162と底部シールド164との間で変更することができる。たとえば、底部シールド162の薄厚特徴は、図3に示される直交する側壁の代わりに先細の側壁を有してもよい。
【0017】
図4は、さまざまな実施例に従って図2および図3の磁気素子130および160において用いることのできる磁気スタック180の実施例を概略的に示す。スタック180は、MgOトンネル接合182を有しており、このことは、厚みが薄いために自由層184がSAF層186により近づくことによってトンネル磁気抵抗(TMR:tunnel magnetoresistance)が生成されることに寄与し得る。構成されるとおり、SAF層186は十分なストライプ高さ188を有し、接合部182および自由層184は各々、AFMタブ192がABSから離れている所定のオフセット距離に対応する低いストライプ高さ190を有する。
【0018】
AFMタブ192が自由層184に横方向に隣接して位置していることにより、図2および図3の突出たAFMタブとは対照的に、磁気スタック180に厚みを加えることなくSAF層186に直接貼付けることが可能となる。AFMタブ192は、図2のビット136などのデータビットに関して、自由層184によって高い磁気反応性を提供するよう調整することのできる長さ194に構築される。自由層184は、任意には、絶縁特徴(INS:insulating feature)196によってAFMタブ192と直接接触しないよう緩衝され得るので、バイアス磁化がAFMタブ192から自由層184に漏れることなく自由層184が磁界に自由に反応することが可能となる。
【0019】
ストライプ高さ188全体にわたって連続的な厚さを設けるようAFMタブ192をスタック180に組込むことができる一方で、タブ192は、磁気スタック180の付属物として位置決めされた場合には自由層184とは異なる厚さを有し得る。図5は、AFMタブ202の厚さが自由層204の厚さを上回っている磁気スタック200の例を示す。図5においては、AFMタブ202は、自由層204の反対側でSAF層206に貼付けられ、SAF206、非磁性スペーサ210または自由層204のそれぞれの厚さを上回る厚さ208を有する。このように厚さ208が増していることで、SAF層206の所定の設定された磁化を維持するのに使用される、より強い交換結合を生成することができる。
【0020】
AFMタブ202はまた、SAF層206に与えられる交換結合の強度を変えるためにさまざまな位置および長さで操作することができる。タブ202は、延長された長さ212を有していてもよく、この延長された長さ212よりも短い距離214だけABSからオフセットされているが、SAF層206の後方の境界にまでは延在しない。すなわち、オフセット距離214は、SAF206、自由層204およびスペーサ210のストライプ高さ216の後方の範囲にまでは延在しないタブ202の長さ212よりも短い。SAF206のストライプ高さ216内にAFMタブ202を位置決めすることにより、交換結合を変更することができ、AFMタブ202の交換結合を適合させることができる。
【0021】
認識され得るように、磁気スタックの動作特徴は、SAF上のAFMタブのサイズ、形状および位置を変えることによって調整しかつ適合させることができる。いくつかの実施例においては、AFMタブは、図5と同様に、交換結合を増大させるよう構成される。しかしながら、自由層はまた、AFMタブによってSAFに対して付与される交換結合の有効性を高めるよう変更することができる。図6は、磁気スタック220の構成のこのような実施例を示す。図5におけるAFMタブの厚さが増していることとは対照的に、自由層222のストライプ高さ224は小さくなっており、このため、自由層222の磁化強度が低下し、SAF層228に対するAFMタブ226の交換結合の影響が有効に高められる。
【0022】
図6に図示のとおり、AFMタブ226は、自由層222のストライプ高さ224と部分的に重なる長さ230を有する。スタック220の構成とこのように部分的に重ねることができる機能は、AFMタブ192が自由層184に横方向に隣接している図4のスタック180におけるAFMタブの長さ性能とは対照をなしている。このように、SAF層228のうち自由層222とは反対側にAFMタブ226を貼付けることにより、ABSの遠位側で増しているスタックの厚さを犠牲にしてタブ226の構成をより広範囲なものにすることができる。AFMタブ226は、非限定的な実施例においては、側壁が先細になるよう構成されてもよく、これにより、SAF層228のストライプ高さ232全体にわたってタブ226の厚さが薄くなり得る。
【0023】
他のさまざまな実施例においては、スタック220は、スペーサ層234の厚さを、図2のスペーサ層140と比べて、薄くなるよう構成する。厚さを薄くすることにより、自由層222に対するSAF層228の設定された磁化の影響を大きくすることができ、AFMタブ226が、SAF層228の磁化強度の低下に応じてより小さな面範囲を有することが可能となり得る。AFMタブ226が自由層222の反対側に位置していると、SAF層228に対する自由層222の最適化が分断されるために、ノイズがさらに低減されることとなる。
【0024】
しかしながら、いくつかの状況においては、より大きな交換結合およびAFMタブサイズを用いることにより、SAF層の設定された磁化に強い影響が及ぼされる。図7は、面範囲の広いAFMタブ242を有する磁気スタック240の実施例を概略的に示す。すなわち、AFMタブ242は、SAF層244と接触する表面積がより広くなっており、これは、交換結合の増大につながる。AFMタブ242およびSAF層244の磁化がより強い場合、絶縁層246をタブ242のまわりに構築して、タブ242と上部電極層248との間の如何なる不用意な磁気短絡からも保護して、検知されたデータをホストに伝送するよう電流(I)250をスタック240を介して流し得る。
【0025】
上部電極層248は、図示のとおり、厚さが増していてもよく、この厚さは、AFMタブ242を上回り、かつ、タブ242および絶縁層246を組合せた厚さに等しくてもよい。上部電極層248の厚さが増していることにより、SAF層244の設定された磁化の増大によって影響を受けることなく、電流250が自由層252、スペーサ254およびSAF層244を通過するように安定した導電性経路をもたらすことができる。言いかえれば、上部電極248がより厚いことにより、電流250が、AFMタブ242またはSAF層244の磁化によって変えられることなくスタック240を通過することが確実にされる。
【0026】
スタック240は、さらに、上部電極層248以下の厚さを有する底部電極層256で構成することができる。より厚い底部電極層256がスタック240を通過する電流250の安定性を促進し得る一方で、厚さの薄い底部電極層256を構築することにより、シールド間の間隔をより小さくすることができる。より厚い底部電極層256の構成はさらに、延長されたストライプ高さを有していてもよく、これが、絶縁層(図示せず)と組合されると、結果として、図7に示される連続的な上面に合致するスタック240の連続的な底面が得られることとなる。
【0027】
AFMタブ242、上部電極層248、底部電極層256および絶縁246のさまざまな構成にかかわらず、スタック240においては、タブ242がABSからオフセット距離258を空けて配置されていることによりシールド間の間隔を最小限にしつつ、SAF層244にAFMタブ242を貼付けることによって安定性が高められた。電極層248および256によってスタック240に厚さが追加されている場合であっても、AFMタブ242を引込んだ位置に配置することにより、AFM層がABSに存在している他の構成に比べてスタック240の全体的な厚さが低減される。
【0028】
図8は、シールド間の間隔がより広くなるよう構成された素子と比べて、ABSからオフセット距離を空けて位置決めされたAFMタブを用いる磁気素子の実施例についての正規化された反応をグラフで示す。磁気素子が図2のビット136などのプログラムされたデータビットに遭遇すると、測定可能なパルス幅でパルスが生成される。認識され得るように、パルス振幅(PW50)の50%での磁気素子のパルス幅は、素子の空間分解能を示す。
【0029】
測定されたとおり、シールド間の間隔(SSS)に対する磁気素子のPW50の依存性を以下の式1によって表わす。
【0030】
ΔPW50=0.3(ΔSSS) [式1]
PW50が低下すると、磁気素子は、素子のダウントラック分解能が部分的に高められることにより、データビットの線密度および面密度を高めることができる。
【0031】
図8のグラフは、実線262として示される増大するSSSを有する素子に対して、破線260によって表わされるように、オフセットされたAFMを有する素子のPW50動作特性を示す。各々の素子についてのデータビットに対する反応は同様であるが、振幅およびPW50幅によって区別される。オフセットされたAFMの素子260については、増大したSSSの素子262に対して振幅が小さくなり、PW50が狭くなる。より狭いPW50と組合わされたシールドの振幅264の差により、より広いSSSを有する素子に対するオフセットされたAFM素子についての高い動作特徴と磁気安定性とが支援される。
【0032】
オフセットされたAFMの素子260とより広いSSSの素子262との差は、AFMタブをABSから遠ざけるよう構成する動作結果を示す。そのため、素子は、ABS上の比較的薄いAFMで構築することができるが、このような構成は、AFMが如何に薄く構成されようとも高い振幅に対して狭いPW50をもたらし得ない。
【0033】
図9は、この発明のさまざまな実施例に従って行われる素子作製ルーチン270の例を示す。最初に、ルーチン270は、図4に概略的に示されるように、側方の反強磁性(AFM)層を用いるべきかどうかを判断ステップ272において判断する。判断ステップ272では、強磁性自由層が所定のストライプ高さを占めるようAFM層と横方向に組合せるべきかを評価する。
【0034】
側方のAFMを使用しないと判断した場合、ルーチン270がステップ274に進み、ここで、強磁性自由層が、所定の厚さで、かつ、異方性の磁気安定性を促進する長いストライプ高さで堆積される。自由層は、物理気相蒸着法(PVD:physical vapor deposition)、化学蒸着法(CVD:chemical vapor deposition)およびスパッタリングなどを含むがこれらに限定されないさまざまな堆積技術を用いて、図2のシード層142などの基板上に堆積されてもよく、または堆積されなくてもよい。
【0035】
次いで、ステップ276において、スペーサ層が所定の厚さで自由層上に堆積される。次いで、ステップ278において、合成反強磁性(SAF)層が所定の厚さでスペーサ層上に堆積される。いくつかの実施例においては、SAF層、スペーサおよび自由層は同じストライプ高さを有しているが、このような構成は図6に図示されるようには必要とされない。SAF層が堆積されると、ステップ280では、素子の空気軸受面から所定のオフセット距離を空けてSAF層の上にAFMタブを堆積させる。AFMタブは、所定の量の交換結合をもたらすようSAF層上で所定の長さ、厚さおよび位置で構成される。
【0036】
判断ステップ272に戻り、側方のAFMが必要とされる場合、ステップ282では、SAF層が所定のストライプ高さで堆積され、その後、ステップ284において、スペーサ層を、SAF層のストライプ高さよりも低いストライプ高さで、SAF層の上に堆積させる。すなわち、スペーサ層は、次に堆積されるAFMタブが下にあるSAF層と直接接触するように構築される。ステップ286では、既存のスペーサ層と合致する所定の厚さおよびストライプ高さで強磁性自由層を堆積させる。こうして、ルーチン270が判断ステップ288に到達すると、SAF層は第1のストライプ高さを有し、スペーサおよび自由層は各々、第2のストライプ高さを有する。
【0037】
判断ステップ288においては、自由層およびスペーサ層の側方に位置決めすべきAFM材料の種類が決定される。NiOなどの酸化物AFMを選択した場合、ステップ290に進み、ここで、AFMタブが、SAF層と自由層との間のストライプ高さの差によって規定される空き領域を占めることによって、自由層、スペーサ層およびSAF層に接触するよう堆積される。IrMn、PtMnまたはFeMnなどの金属AFMを用いると判断された場合、付加的なステップ292では、SAF層の上に残っている空き空間に金属性のAFMタブを堆積させるステップ294の前に、自由層およびスペーサ層に横方向に隣接して絶縁材料を堆積させる。
【0038】
なお、さまざまなストライプ高さの構成が、多種多様なさまざまなプロセスで実現可能であるが、そのいずれも必須ではなく、または限定されないことに留意されたい。たとえば、基本的なマスクおよびエッチング技術を用いて、SAF層および自由層をさまざまなストライプ高さで構築することができる。その一方で、AFMタブは、表面に付着させる準備をするために、SAF層上での自己整合された異方性エッチングの後に堆積されてもよい。しかしながら、ルーチン270のステップのいずれも必須ではなく、個々に任意に変更、再配置および除去され得ることに留意されたい。
【0039】
上述のとおり、AFMタブは、SAF層に与えられる交換結合の量を調整するためにさまざまな態様で位置決めされ、その大きさを変更することができる。上述したが明確にするためにここで繰り返すように、SAF層は、共通の厚さまたは異なる厚さを有する遷移金属および強磁性の自由副層などのさまざまな材料からなる積層構造であり得る。そのため、ステップ278および284は、SAF積層構造として作用するよう組合された連続した副層の堆積物を含み得る。
【0040】
この開示に記載される磁気素子の構成および材料特徴が、シールド間の間隔を狭めつつも高い磁気安定性を可能にすることが理解され得る。SAF層の延長されたストライプ高さをABS表面からオフセットされたAFMタブと組合せると、ノイズの低減および安定性の向上によって磁気性能が向上する。さらに、AFMタブのサイズを変えたりその位置を調整したりすることによって磁気素子の磁気動作特性を調整する能力により、クロストラック分解能および面密度性能を高めつつ素子の厚さを最小限にすることが可能となる。加えて、実施例は磁気検知に向けられてきたが、クレームされている発明がデータ記憶装置の応用例を含む他のいくつもの応用例において容易に利用可能であることが認識されるだろう。
【0041】
たとえ、この発明のさまざまな実施例の多数の特徴および構成が、本発明のさまざまな実施例の構造および機能の詳細と共に上述の説明に記載されていたとしても、この詳細な説明が単に例示的なものにすぎず、特に、添付の特許請求の範囲に記載される用語の広範な一般的な意味によって十分に示されているこの発明の原理の範囲内の部分の構造および配置に関しては、変更が詳細になされ得ることが理解されるべきである。たとえば、特定の要素は、この発明の精神および範囲から逸脱することなく特定の用途に応じて異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0042】
100 データ記憶装置、102 ハウジング、104 基部デッキ、106 上カバー、108 スピンドルモータ、110 磁気記憶媒体。
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