(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919105
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】電動ベーン型圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/344 20060101AFI20160428BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20160428BHJP
F04C 28/06 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
F04C18/344 351S
F04C18/344 361B
F04C29/00 T
F04C28/06 A
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-131811(P2012-131811)
(22)【出願日】2012年6月11日
(65)【公開番号】特開2013-256875(P2013-256875A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2014年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】カルソニックカンセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴司
(72)【発明者】
【氏名】宮地 俊勝
【審査官】
所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−005592(JP,A)
【文献】
特開昭62−294792(JP,A)
【文献】
特開2011−106278(JP,A)
【文献】
特開2010−138798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/344
F04C 28/06
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(7)と、このハウジング(7)内に設けられて楕円形状の内壁面(35a)を有するシリンダ室(35)内に回転可能に配置されたロータ(32)と該ロータ(32)の回転によりシリンダ室(35)の内壁面(35a)を摺動するようにロータ(32)に保持されたベーン(37)とを備えた圧縮機構(3)と、前記ロータ(32)を回転駆動する電動モータ部(5)と、この電動モータ部(5)の駆動を制御するモータ駆動回路(9)とを有し、
前記ロータ(32)には、該ロータ(32)の回転中心(52)を通る直径方向の線(53)に対して前記ロータ(32)の逆回転方向(F)にオフセットしたスリットオフセット位置に前記ベーン(37)を出没自在に収容するベーン溝(36)が設けられた電動ベーン型圧縮機(1)であって、
前記電動ベーン型圧縮機(1)の起動直前に、前記ロータ(32)を正回転方向(E)へ回転させて所定角度の位置で急停止させるように前記モータ駆動回路(9)を制御するモータ制御回路(11)を設けたことを特徴とする電動ベーン型圧縮機(1)。
【請求項2】
請求項1記載の電動ベーン型圧縮機(1)であって、
前記電動モータ部(5)は回転駆動軸(51)と、この回転駆動軸(51)に固定された円柱状のロータ本体(54)を有するモータロータ(55)と、該ロータ本体(54)の外周に設けられて前記ハウジング(7)の内壁に固定されたモータステータ(56)とで形成され、
前記ロータ本体(54)には内周側に等間隔で隣接する磁極が異なる6個の磁石(54a)が埋設され、
前記モータステータ(56)には筒状のモータステータコア(57)の前記磁石(54a)が対向する内壁に周方向に等間隔で9個のコイル(58)が設けられ、これらの9個のコイル(58)は3個ずつ直列に接続されて第1、第2、第3コイル(58a、58b、58c)に形成されると共に、第1、第2、第3のコイル(58a、58b、58c)の一端側(59)が接続されて、第1、第2、第3のコイル(58a、58b、58c)の各他端側(60)から通電されるように結線され、
これらの第1、第2、第3のコイル(58a、58b、58c)には電源回路(13)からモータ駆動回路(9)を介して通電されることにより前記モータロータ(55)が回転し、
前記モータ制御回路(11)は、起動直前に第2のコイル(58b)の他端側(60)から通電してモータロータ(55)を正回転方向(E)へ所定角度回転させて回転駆動軸(51)を介して前記圧縮機構(3)のロータ(32)を正回転方向(E)へ所定角度回転させて通電を停止させることを特徴とする電動ベーン型圧縮機(1)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動ベーン型圧縮機(1)であって、
前記モータ制御回路(11)は、前記電動ベーン型圧縮機(1)の起動直前に、前記ロータ(32)を正回転方向(E)へ回転させて所定角度の位置で急停止させ、連続して逆回転方向(F)へ回転させるように前記モータ駆動回路(9)を制御することを特徴とする電動ベーン型圧縮機(1)。
【請求項4】
請求項2記載の電動ベーン型圧縮機(1)であって、
前記モータ制御回路(11)は、起動直前に第2のコイル(58b)の他端側(60)から通電してモータロータ(55)を正回転方向(E)へ所定角度回転させて回転駆動軸(51)を介して前記圧縮機構(3)のロータ(32)を正回転方向(E)へ所定角度回転させて通電を停止し、連続して第1のコイル(58a)の他端側(60)から通電してモータロータ(55)を逆回転方向(F)へ所定角度回転させて回転駆動軸(51)を介して圧縮機構(3)のロータ(32)を逆回転方向(F)へ所定角度回転させることを特徴とする電動ベーン型圧縮機(1)。
【請求項5】
ハウジング(7)と、このハウジング(7)内に設けられて楕円形状の内壁面(35a)を有するシリンダ室(35)内に回転可能に配置されたロータ(32)と該ロータ(32)の回転によりシリンダ室(35)の内壁面(35a)を摺動するようにロータ(32)に保持されたベーン(37)とを備えた圧縮機構(3)と、前記ロータ(32)を回転駆動する電動モータ部(5)と、この電動モータ部(5)の駆動を制御するモータ駆動回路(9)とを有し、
前記ロータ(32)には、該ロータ(32)の回転中心(52)を通る直径方向の線(53)に対して前記ロータ(32)の逆回転方向(F)にオフセットしたスリットオフセット位置に前記ベーン(37)を出没自在に収容するベーン溝(36)が設けられた電動ベーン型圧縮機(1)の制御方法であって、
前記電動ベーン型圧縮機(1)の起動直前に、前記ロータ(32)を正回転方向(E)へ所定の角度位置まで回転させた後に所定の角度位置で急停止させることを特徴とする電動ベーン型圧縮機(1)の制御方法。
【請求項6】
請求項5記載の電動ベーン型圧縮機(1)の制御方法であって、
前記電動ベーン型圧縮機(1)の起動直前に、前記ロータ(32)を正回転方向(E)へ所定の角度位置まで回転させた後に所定の角度位置で急停止させ、この状態から連続して逆回転方向(F)へ回転させて起動直前の前記ロータ(32)の位置まで戻し、前記電動ベーン型圧縮機(1)を駆動させることを特徴とする電動ベーン型圧縮機(1)の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンを備えた電動ベーン型圧縮機に関し、特に運転起動時におけるチャタリングの発生を簡単な制御によって防止する構造の電動ベーン型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動ベーン型圧縮機においては、電動モータ部に連結されたロータがシリンダ室内に配置されており、電動モータ部の駆動によってロータがシリンダ室内を回転する。ロータにはベーン溝が形成され、このベーン溝にベーンが出没自在に挿入されており、ロータの回転によりベーンがベーン溝から突出してシリンダ室の内壁面を摺動する。電動ベーン型圧縮機は、このことにより冷媒を圧縮する。
【0003】
このような圧縮機において、運転時にはベーン溝の背圧空間に中間圧が入ることによりベーンがベーン溝から押し出されて突出する。圧縮機の停止後には、圧縮機内の圧力が均一となり、中間圧でベーンを突出させる力が作用しない。この停止状態が続くと、先端が上方を向いているベーンは、ベーンの自重によりベーン溝内の油をクリアランスを通じて押し出しながらベーン溝内に収容される。
【0004】
このようにベーンがベーン溝内に収容された状態で圧縮機を起動した場合、ロータが回転する遠心力によってベーンがベーン溝から突出しようとする力が作用する。ベーンがベーン溝から突出するには、背圧空間の体積が増える必要があるが、クリアランス部から背圧空間内に入り込む油の量が追従できないため、背圧空間が負圧状態となり、ベーンの先端がシリンダ室の内壁面まで突出することができず、ベーンとシリンダ室の内壁面とが離間と衝突を繰り返すことにより騒音(チャタリング)が生じる課題がある。
【0005】
特許文献1には、このようなチャタリングを防止する構造の電動ベーン型圧縮機が記載されている。この圧縮機は、シリンダ室の内側で回転するロータにベーン溝が形成され、このベーン溝にベーンが出没自在に挿入され、ベーン溝とベーンとの間にコイルばねが配置されることにより、コイルばねがベーンを外側に押圧した構造となっている。また、コイルばねの座屈を防止するためにガイド部材をコイルばねの内側または外側に配置している。そして、ロータがシリンダ室内で回転すると、コイルばねの付勢力でベーンがベーン溝から突出し、ベーンの先端がシリンダ室の内壁面を摺動し、シリンダ室の内壁面とベーンとで囲まれる空間内に導入された冷媒を圧縮する。この構造では、コイルばねがベーンを付勢することにより、圧縮機起動時のチャタリングを防止するものである。
【0006】
しかしながら、特許文献1の構造では、ベーンを押圧するコイルばねやコイルばねの座屈を防止するガイド部材を別部品として必要としており、構造が複雑で組立工数が多く必要となっており、コスト高となる問題がある。
【0007】
一方、特許文献2には別部品を必要とすることなく、圧縮機起動時のチャタリングを防止する圧縮機が記載されている。この圧縮機は、ロータの回転中心を通る直径方向の線に対してロータの逆回転方向にオフセットするようにベーン溝を形成しており、圧縮機の起動直前にロータをゆっくりと逆方向に回転させるように制御する構造となっている。すなわち圧縮機の起動直前には、ロータを正回転よりも遅い速度で逆方向に回転させるものである。起動直前にロータを逆方向に回転させることにより、ベーンがベーン溝から突出する方向の力が作用するため、背圧空間に負圧が発生して背圧空間内に油や冷媒が流れ込み、油や冷媒がベーンをベーン溝から出すように作用する。これによりチャタリングを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−156088号公報
【特許文献2】特開2011−106278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2記載の電動ベーン形圧縮機は、特許文献1の圧縮機に比べてコイルばねやガイド部材等の別部品を必要としない簡単な構造となっているが、圧縮機の起動直前にロータを逆方向に回転しても、ベーンがベーン溝から突出しない場合が発生する。ロータの逆方向への回転が正回転よりも遅い速度であり、ベーンに作用する突出力が十分でないことがある。この場合にはベーンを確実に突出させることができない事態となるためである。
【0010】
そこで、本発明は、別部品を必要としない構造であり、しかも起動時のチャタリングを確実に防止することが可能な電動ベーン形圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明の電動ベーン型圧縮機は、ハウジングと、このハウジング内に設けられて楕円形状の内壁面を有するシリンダ室内に回転可能に配置されたロータと該ロータの回転によりシリンダ室の内壁面を摺動するようにロータに保持されたベーンとを備えた圧縮機構と、前記ロータを回転駆動する電動モータ部と、この電動モータ部の駆動を制御するモータ駆動回路とを有し、前記ロータには、該ロータの回転中心を通る直径方向の線に対して前記ロータの逆回転方向にオフセットしたスリットオフセット位置に前記ベーンを出没自在に収容するベーン溝が設けられた電動ベーン型圧縮機であって、前記電動ベーン型圧縮機の起動直前に、前記ロータを正回転方
向へ回転させて所定角度の位置で急停止させるように前記モータ駆動回路を制御するモータ制御回路を設けたことを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電動ベーン型圧縮機であって、前記電動モータ部は回転駆動軸と、この回転駆動軸に固定された円柱状のロータ本体を有するモータロータと、該ロータ本体の外周に設けられて前記ハウジングの内壁に固定されたモータステータとで形成され、前記ロータ本体には内周側に等間隔で隣接する磁極が異なる6個の磁石が埋設され、前記モータステータには筒状のモータステータコアの前記磁石が対向する内壁に周方向に等間隔で9個のコイルが設けられ、これらの9個のコイルは3個ずつ直列に接続されて第1、第2、第3コイルに形成されると共に、第1、第2、第3のコイルの一端側が接続されて、第1、第2、第3のコイルの各他端側から通電されるように結線され、これらの第1、第2、第3のコイルには電源回路からモータ駆動回路を介して通電されることにより前記モータロータが回転し、前記モータ制御回路は、起動直前に第2のコイ
ルの他端側から通電してモータロータを正回転方
向へ所定角度回転させて回転駆動軸を介して前記圧縮機構のロータを正回転方
向へ所定角度回転させて通電を停止させることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2に記載の電動ベーン型圧縮機であって、前記モータ制御回路は、前記電動ベーン型圧縮機の起動直前に、前記ロータを正回転方
向へ回転させて所定角度の位置で急停止させ、連続して
逆回転方
向に回転させるように前記モータ駆動回路を制御することを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の電動ベーン型圧縮機であって、前記モータ制御回路は、起動直前に第2のコイ
ルの他端側から通電してモータロータを正回転方
向へ所定角度回転させて回転駆動軸を介して前記圧縮機構のロータを正回転方
向へ所定角度回転させて通電を停止し、連続して第1のコイルの他端側から通電してモータロータを
逆回転方
向へ所定角度回転させて回転駆動軸を介して圧縮機構のロータを
逆回転方
向へ所定角度回転させることを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明の電動ベーン
型圧縮機の制御方法は、ハウジングと、このハウジング内に設けられて楕円形状の内壁面を有するシリンダ室内に回転可能に配置されたロータと該ロータの回転によりシリンダ室の内壁面を摺動するようにロータに保持されたベーンとを備えた圧縮機構と、前記ロータを回転駆動する電動モータ部と、この電動モータ部の駆動を制御するモータ駆動回路とを有し、前記ロータには、該ロータの回転中心を通る直径方向の線に対して前記ロータの逆回転方向にオフセットしたスリットオフセット位置に前記ベーンを出没自在に収容するベーン溝が設けられた電動ベーン型圧縮機
の制御方法であって、前記電動ベーン型圧縮機の起動直前に、前記ロータを正回転方
向へ所定の角度位置まで回転させた後に所定の角度位置で急停止させることを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の電動ベーン型圧縮機の制御方法であって、前記電動ベーン型圧縮機の起動直前に、前記ロータを正回転方
向へ所定の角度位置まで回転させた後に所定の角度位置で急停止させ、この状態から連続して
逆回転方
向へ回転させて起動直前の前記ロータの位置まで戻し、前記電動ベーン型圧縮機を駆動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電動ベーン
型圧縮機によれば、ロータの回転中心を通る直径方向の線に対してロータの逆回転方向にオフセットしたスリットオフセット位置にベーンを出没自在に収容するベーン溝を設け、起動直前にロータを正回転方
向へ回転させて所定角度の位置で急停止させるモータ制御回路を設けているため、所定角度回転後の急停止に基づいた慣性力によりベーンがベーン溝から突出する。このためベーンを確実にベーン溝から突出させることができ、チャタリングを確実に防止することができる。また、チャタリングを防止するための別部品が不要となるため、簡単な構造とすることができる。
【0018】
さらに、起動直前にロータを正回転方
向へ回転させて所定角度の位置で急停止させ、連続して
逆回転方
向に回転させることにより、より確実にベーン溝からベーンを突出させることができ、チャタリングをより確実に防止することができる。
【0019】
本発明の電動ベーン
型圧縮機の制御方法によれば、起動直前にロータを正回転方
向へ所定の角度位置まで回転させた後に所定の角度位置で急停止させることで、所定角度回転後の急停止に基づいた慣性力によりベーンがベーン溝から突出し、ベーンを確実にベーン溝から突出させることができ、チャタリングを確実に防止することができる。
【0020】
また、この状態から連続して
逆回転方
向へ回転させて起動直前のロータの位置まで戻して駆動させることにより、よりベーンがベーン溝から突出し、ベーンを確実にベーン溝から突出させることができ、チャタリングを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態の電動ベーン形圧縮機の全体断面図である。
【
図3】電動モータ部の磁石とコイルとの関係を示す断面図である。
【
図4】電動モータ部のコイルの結線を示す結線図である。
【
図5】電動モータ部のコイルへの通電を行うためのブロック図である。
【
図8】基準位置における電動モータ部の磁石とコイルとの関係を示す断面図である。
【
図9】基準位置からの正回転方向への回転及び急停止の通電を示す回路図である。
【
図10】正回転方向への回転を急停止させる磁石とコイルとの関係を示す断面図である。
【
図11】基準位置からの逆回転方向への回転及び急停止の通電を示す回路図である。
【
図12】逆回転方向への回転を急停止させる磁石とコイルとの関係を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を図示する実施形態により具体的に説明する。
図1〜
図12は本発明の一実施形態の電動ベーン形圧縮機1を示す。
【0023】
図1、
図2及び
図5に示すように、電動ベーン形圧縮機1は、圧縮機構3と、電動モータ部5と、電動モータ部5の駆動を制御するモータ駆動回路9と、モータ駆動回路9を制御するモータ制御回路11と、これらを収容するハウジング7とを有している。
【0024】
図1に示すように、ハウジング7はフロントハウジング7a、ミドルハウジング7b、リヤハウジング7cによって形成されており、これらが相互に結合されることにより密閉空間12が形成され、この密閉空間12内に圧縮機構3、電動モータ部5が収容されている。
【0025】
圧縮機構3はシリンダブロック31、ロータ32、フロントサイドブロック33、リヤサイドブロック34とを有している。
【0026】
シリンダブロック31はフロントサイドブロック33及びリヤサイドブロック34に挟まれており、フロントサイドブロック33がリヤハウジング7cにボルト止めされて固定されることにより、シリンダブロック31がハウジング7内で固定された状態となっている。
図2に示すように、シリンダブロック31には、内周が滑らかな楕円形状の内壁面35aとなっているシリンダ室35が形成されている。
【0027】
ロータ32は電動モータ部5の回転駆動軸51に取り付けられた状態で(
図1参照)、シリンダブロック31のシリンダ室35の中心部に収納されている(
図2参照)。ロータ32は電動モータ部5の回転駆動軸51が駆動することにより回転駆動する。
図2において、符号52は回転駆動軸51の回転中心であり、ロータ32はこの回転中心52を中心にして回転する。
【0028】
図2に示すように、ロータ32には、複数(5個)のベーン溝36が形成されており、それぞれのベーン溝36にベーン37が個々に出没自在に収容され、このベーン溝36への収容によってベーン37がロータ32に保持されている。ベーン溝36はロータ32の回転中心52を通る直径方向の線53に対してロータ32の逆回転方向F(
図2における反時計方向)に距離Lだけオフセットした位置に形成されており、それぞれのベーン溝36にベーン37が収容されている。ベーン37はロータ32が回転することにより、ベーン溝36から突出してその先端37aがシリンダ室35の内壁面35aを摺動する。
【0029】
このようにベーン溝36がロータ32の正回転方向(
図2における時計方向)Eに対し、逆の逆回転方向Fにオフセットした位置に設けることによりベーン37による冷媒の圧縮効率を高めることができる。また、それぞれのベーン溝36の底部とベーン37の後端37bとの間には、油や冷媒が供給される背圧空間36aが設けられている。
【0030】
図1に示すように電動モータ部5は、回転駆動軸51と、円柱状のロータ本体54を有するモータロータ55と、ロータ本体54の外周に設けられたモータステータ56とを備えている。回転駆動軸51は長さ方向の両端部がフロントハウジング7a及びリヤサイドブロック34に保持されることにより回転可能となっている。ロータ本体54は回転駆動軸51が貫通した状態で回転駆動軸51に固定されている。
【0031】
図3に示すように、ロータ本体54には、6個の磁石54a,54b等間隔で埋設されている。6個の磁石54の中で3個の磁石54aは外側がS極、残りの3個の磁石54bは外側がN極に着磁されており、6個の磁石54a、54bが磁極を交互に位置するように隣接している。すなわち磁石54aは隣接する磁石54aとは磁極が異なるように設けられるものである。
【0032】
一方、
図1に示すようにモータステータ56はハウジング7の内壁(この形態では、ミドルハウジング7bの内壁)に固定された筒状のモータステータコア57を有している。
図3に示すように、このモータステータコア57の内壁には、ロータ本体54の磁石54a、54bと対向した9個のコイル58が周方向に沿って等間隔で設けられている。9個のコイル58が周方向で等間隔となっていることにより、隣接するコイル58は40°間隔で周方向に設けられている。
【0033】
コイル58においては、
図4に示すように3個ずつ直列に接続されることにより第1コイル58a、第2コイル58b、第3コイル58cとなっている。
図3及び
図4において、コイルU1、U2、U3が第1コイル58aを形成し、コイルV1、V2、V3が第2コイル58bを形成し、コイルW1、W2、W3が第3コイル58cを形成している。第1コイル58a、第2コイル58b、第3コイル58cは一端側59が結線されることによりそれぞれが接続されており、それぞれのコイル58a、58b、58cの他端側60から通電されるようになっている。これらのコイル58a、58b、58cに対しては、モータ駆動回路9から直流電流が通電される。
【0034】
図7及び
図9に示すように、第1コイル58a、第2コイル58b、第3コイル58cの他端側60はモータ駆動回路(インバータ)9にそれぞれ接続されており、それぞれのモータ駆動回路9がモータ制御回路11により制御される。
【0035】
図5はコイル58a、58b、58cへの通電を行う回路構成を示す。電動モータ部5はモータ駆動回路9によって制御され、モータ駆動回路9はモータ制御回路11に制御される。モータ駆動回路9及びモータ制御回路11に対しては、電源に接続された電源回路13から通電がなされる。
【0036】
この実施形態におけるモータ制御回路11は、圧縮機1の起動直前に圧縮機構3のロータ32を正回転方向Eへ回転させて所定角度(40°)の位置で急停止させ、連続してロータ32を逆回転方向Fへ回転させるようにモータ駆動回路9を制御する。
【0037】
次に、この実施形態の動作を
図6〜
図10により説明する。
図6は動作のフローチャートである。
図7及び
図8は圧縮機1が起動される前の基準状態を示し、第1コイル58aにおけるコイルU1、U2、U3がN極となっており、ロータ本体54の磁石54aはS極となってコイルU1、U2、U3に対向し、これによりロータ本体54は磁気吸引力によって停止している。
【0038】
図6のステップS1で圧縮機1が起動されたか否かが判断され、起動された場合には、圧縮機構3のロータ32を正回転方向Eへ回転させる(ステップS2)。
図9及び
図10は、この方向Eへのロータ32の回転を行うための通電を示し、モータ制御回路11は電動モータ部5に対して第2コイル58b側の他端側60から直流電流Ivが通電されるようにモータ駆動回路9を制御する。この通電により、電動モータ部5のモータロータ55(ロータ本体54)が正回転方向Eに向かって回転する。この回転によりロータ本体54の磁石54aは正回転方向Eに回転する。すなわち、磁石54aはコイルU1、U2、U3に隣接しているコイルV1、V2、V3に向かってコイルU1、U2、U3側から回転する。圧縮機構3においては、このモータロータ55の正回転方向Eへの回転に伴ってロータ32が同方向に一体回転し、ロータ32に設けられているベーン37に遠心力が作用する。
【0039】
第2コイル58bからの通電により第2コイル58bにおけるコイルV1、V2、V3がN極となり、正回転方向Eに沿って回転しているロータ本体54の磁石54aは、S極がコイルV1、V2、V3と対向する。このため、ロータ本体54は所定角度(40°)回転したときに磁気吸引力により回転が急停止する(ステップS3)。これにより圧縮機構3のロータ32も急停止する。
【0040】
このようなロータ32の回転の急停止を行うことにより、ロータ32に設けられているベーン37は慣性力によってベーン溝36からシリンダ室35の内壁面35aに向かって突出する。ベーン37がベーン溝36から突出することにより、ベーン溝36の背圧空間36a内に負圧が発生し、背圧空間36a内に油や冷媒が流れ込む。そして、流れ込んだ油や冷媒がベーン37をベーン溝36から出すように作用するため、チャタリングを確実に防止することができる。
【0041】
次に、この急停止に連続して、ロータ32を逆回転方向Fに回転させる(ステップS4)。このためモータ制御回路11は、
図7に示すように、第1コイル58a側の他端側60から直流電流Iuが通電されるようにモータ駆動回路9を制御する。この通電により、電動モータ部5のモータロータ55(ロータ本体54)におけるコイルU1、U2、U3がN極となり、ロータ本体54の磁石54aを磁気吸引し、ロータ本体54が逆回転方向F(すなわちコイルU1、U2、U3)に向かって回転し、圧縮機構3のロータ32が同方向に一体回転する。このときにおいては、背圧空間36a内に油や冷媒が流れ込んでいるためベーン37がベーン溝36内に入り込むことがない。
【0042】
この逆回転方向Fの回転については、所定角度(40°)で停止するようにモータ制御回路11が制御する。すなわちロータ本体54の磁石54aが第1コイル58aのコイルU1、U2、U3に対向することにより逆回転方向Fの回転が停止する。
【0043】
この回転停止により、圧縮機構3のロータ32は元の位置に復帰する。その後においては、圧縮機1を正回転方向Eに連続的に回転させて冷媒の圧縮運転を行い(ステップS5)、圧縮機1の運転停止で終了する(ステップS6)。
【0044】
なお、上記実施形態では、ステップS3にて正回転動作を停止した後に、連続してステップS4にて逆回転動作を行って、元の位置に戻してステップS5にて正回転圧縮回転を行っているが、ステップS3にて正回転動作を停止した状態から、そのままステップS5の正回転圧縮運転動作を行っても良い。
【0045】
そして、ステップS3にて正回転動作を停止した後に、連続してステップS4にて逆回転動作を行うことにより、ベーン37がベーン溝36から突出した状態で取り残されることでベーン37がよりベーン溝36から飛び出す。これにより起動時におけるチャタリングの発生を確実に防止することができる。
【0046】
このような実施形態では、圧縮機1の起動直前に圧縮機構3のロータ32を正回転方向Eに所定角度回転させて急停止させるため、慣性力によってベーン37をベーン溝36から確実に突出させることができる。そして、ベーン37の突出によりベーン溝36の背圧空間36a内に油や冷媒が流れ込んでベーン37がベーン溝36から出た状態となるため、チャタリングを防止することができる。また、チャタリングを防止するためにコイルばねやガイド部材等の別部品を必要としない簡単な構造とすることができ、安価に提供することができる。
【0047】
以上の実施形態では、ロータ32を正回転方向Eに所定角度回転させて急停止し、その後、ロータ32を逆回転方向Fに回転させて基準位置に復帰させているが、これに限らず、ロータ32を逆回転方向Fに所定角度回転させて急停止し、その後、ロータ32を正回転方向Eに回転させて基準位置に復帰させても良い。
【0048】
図11及び
図12は、
図7及び
図8の基準位置からロータ32を逆回転方向Fに所定角度回転させる場合のモータ制御回路11による制御を示す。モータ制御回路11は第3コイル58c側の他端側60から直流電流Iwが通電されるようにモータ駆動回路9を制御する。この通電により、電動モータ部5のモータロータ55(ロータ本体54)が逆回転方向Fに向かって回転する。すなわち磁石54aはコイルU1、U2、U3に隣接しているコイルW1、W2、W3に向かってコイルU1、U2、U3側から回転する。圧縮機構3においては、このモータロータ55の逆転方向Fへの回転に伴ってロータ32が同方向に一体回転し、ロータ32に設けられているベーン37に遠心力が作用する。
【0049】
第3コイル58cからの通電により第3コイル58cにおけるコイルW1、W2、W3がN極となり、逆回転方向Fに沿って回転しているロータ本体54の磁石54aは、S極がコイルW1、W2、W3と対向する。このため、ロータ本体54は所定角度(40°)回転したときに磁気吸引力により回転が急停止する。これにより圧縮機構3のロータ32も急停止する。
【0050】
このようなロータ32の回転の急停止を行うことにより、ロータ32に設けられているベーン37は慣性力によってベーン溝36からシリンダ室35の内壁面35aに向かって突出する。ベーン37がベーン溝36から突出することにより、ベーン溝36の背圧空間36a内に負圧が発生し、背圧空間36a内に油や冷媒が流れ込む。そして、流れ込んだ油や冷媒がベーン37をベーン溝36から出すように作用するため、チャタリングを確実に防止することができる。
【0051】
次に、この急停止に連続してロータ32を正回転方向Eに所定角度(40°)回転させる。このためモータ制御回路11は、
図7に示すように、第1コイル58a側の他端側60から直流電流Iuが通電されるようにモータ駆動回路9を制御する。この通電により、電動モータ部5のモータロータ55(ロータ本体54)におけるコイルU1、U2、U3がN極となり、ロータ本体54の磁石54aを磁気吸引し、ロータ本体54が正回転方向E(すなわちコイルU1、U2、U3)に向かって回転し、圧縮機構3のロータ32が同方向に一体回転する。このときにおいては、背圧空間36a内に油や冷媒が流れ込んでいるためベーン37がベーン溝36内に入り込むことがない。
【0052】
この正回転方向Eの回転については、所定角度(40°)で停止するようにモータ制御回路11が制御する。すなわちロータ本体54の磁石54aが第1コイル58aのコイルU1、U2、U3に対向することにより正回転方向Eの回転が停止する。
【0053】
この回転停止により、圧縮機構3のロータ32は元の位置に復帰する。その後においては、圧縮機1を正回転方向Eに連続的に回転させて冷媒の圧縮運転を行い、圧縮機1の運転停止で終了する。
【0054】
なお、上記実施形態では、逆回転動作を停止した後に、連続して正回転動作を行って、元の位置に戻して正回転圧縮回転を行っているが、逆回転動作を停止した状態から、そのまま正回転圧縮運転動作を行っても良い。
【0055】
そして、逆回転動作を停止した後に、連続して正回転動作を行うことにより、ベーン37がベーン溝36から突出した状態で取り残されることでベーン37がよりベーン溝36から飛び出す。これにより起動時におけるチャタリングの発生を確実に防止することができる。
【0056】
以上の実施形態では、ロータ32の所定角度を40°としているが、これに限らず、40°以外の角度に変更することができる。この場合には、電動モータ部5のコイルの周方向間隔を設計に合わせて変更することにより容易に可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 電動ベーン形圧縮機
3 圧縮機構
5 電動モータ部
7 ハウジング
9 モータ駆動回路
11 モータ制御回路
32 ロータ
35 シリンダ室
35a 内壁面
36 ベーン溝
37 ベーン
51 回転駆動軸
52 回転中心
53 直径方向の線
54 ロータ本体
55 モータロータ
57 モータステーコア
58 コイル
58a 第1コイル
58b 第2コイル
58c 第3コイル
E 正回転方向
F 逆回転方向