【文献】
J. W. BAE et al.,Highly active and stable catalytic performance on phosphorous-promoted Ru/Co/Zr/SiO2 Fischer-Tropsch catalyst,Catalysis Communications,2010年,11,834-838.,DOI: 10.1016/j.catcom.2010.03.003
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記触媒の不純物が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄の単体及び/又は化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
前記触媒中のコバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物の担持率がコバルト金属換算で5〜50質量%、ジルコニウム酸化物の担持量がZr/Coのモル比で0.03〜0.6、貴金属の担持量が1質量%以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
前記触媒担体中に含まれる不純物の内、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量が、それぞれ0.02質量%以下であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
前記担持させるコバルト化合物、ジルコニウム化合物及び貴金属が、前記含浸法、インシピエントウェットネス法、沈殿法、又はイオン交換法における製造原料において、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を5質量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
前記シリカを主成分とする触媒担体は、珪酸アルカリ水溶液と酸水溶液とを混合して生成させたシリカゾルをゲル化し、酸処理、水洗処理の少なくともいずれかを行った後、乾燥させて製造することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
前記シリカゾルのゲル化後の酸処理、水洗処理の少なくともいずれかにおいて、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が0.06質量%以下である水を用いることを特徴とする請求項11記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
前記シリカを主成分とする担体に、水、酸、アルカリの内、少なくとも何れかによる洗浄を施して不純物濃度を低下させてから、前記コバルト化合物及び前記ジルコニウム化合物を担持させることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題が顕在化し、他の炭化水素燃料、石炭等と比較してH/Cが高く、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素排出量を抑えることができ、埋蔵量も豊富な天然ガスの重要性が見直されてきており、今後ますますその需要は増加するものと予想されている。そのような状況の中、東南アジア・オセアニア地域等には、パイプライン・LNGプラント等のインフラが未整備の遠隔地で発見されたものの、その可採埋蔵量が巨額の投資を必要とするインフラ建設には見合わず、未開発のまま残されている数多くの中小規模ガス田が存在し、その開発促進が望まれている。その有効な開発手段の一つとして、天然ガスを合成ガスに変換した後、合成ガスからFischer−Tropsch(F−T)合成反応を用いて輸送性・ハンドリング性の優れた灯・軽油等の液体炭化水素燃料に転換する技術の開発が各所で精力的に行われている。
【0003】
【化1】
【0004】
このF−T合成反応は、触媒を用いて合成ガスを炭化水素に転換する発熱反応であるが、プラントの安定操業のためには反応熱を効果的に除去することが極めて重要である。現在までに実績のある反応形式には、気相合成プロセス(固定床、噴流床、流動床)と、液相合成プロセス(スラリー床)があり、それぞれ特徴を有しているが、近年、熱除去効率が高く、生成した高沸点炭化水素の触媒上への蓄積やそれに伴う反応管閉塞が起こらないスラリー床液相合成プロセスが注目を集め、精力的に開発が進められているところである。
一般的に触媒の活性は、高ければ高いほど好ましいことは言うまでもないが、特にスラリー床では、良好なスラリー流動状態を保持するためにはスラリー濃度を一定の値以下にする必要があるという制限が存在するため、触媒の高活性化は、プロセス設計の自由度を拡大する上で、非常に重要な要素となる。現在までに報告されている各種F−T合成用触媒の活性は、一般的な生産性の指標である炭素数が5以上の液状炭化水素の生産性で高々1(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)程度であり、前記観点からは必ずしも十分とは言えない(非特許文献1参照)。
触媒の活性を向上させる方法の一つとして、担体として用いるシリカ中のナトリウム含有量を低下させることが有効であるとの報告があるが(非特許文献2参照)、ナトリウム含有量が0.01質量%を下回るものと、0.3質量%程度のものを比較したのみであり、ナトリウム含有量をどの程度低下させることで効果が発現するかという具体的な記述は一切無かった。
【0005】
また、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の不純物が触媒の活性に与える影響を詳細に検討した結果、不純物濃度を一定範囲の触媒とすることで、従来の触媒と比較して活性を大きく向上させた例がある(特許文献1参照)。
また、一般的にF−T合成反応触媒の粒子径は、熱や物質の拡散が律速となる可能性を低くすると言う観点からは、小さいほど好ましい。しかし、スラリー床によるF−T合成反応では、生成する炭化水素の内、高沸点炭化水素は反応容器内に蓄積されるため、触媒と生成物との固液分離操作が必ず必要になることから、触媒の粒子径が小さ過ぎる場合、分離操作の効率が大きく低下すると言う問題が発生する。よって、スラリー床用の触媒には最適な粒子径範囲が存在することになり、一般的に20〜250μm程度、平均粒径として40〜150μm程度が好ましいとされているが、以下に示すように、反応中に触媒が破壊、粉化を起こして、粒子径が小さくなることがあり、注意が必要である。
即ち、スラリー床でのF−T合成反応では相当高い原料ガス空塔速度(0.1m/秒以上)で運転されることが多く、触媒粒子は反応中に激しく衝突するため、物理的な強度や耐摩耗性(耐粉化性)が不足すると、反応中に触媒粒径が低下して、上記分離操作に不都合をきたすことがある。更に、F−T合成反応では多量の水を副生するが、耐水性が低く、水により強度低下や破壊、粉化を起こし易い触媒を用いる場合は、反応中に触媒粒径が細かくなることがあり、上記と同様に分離操作に不都合をきたすことになる。
【0006】
また、一般的に、スラリー床用の触媒は、上記したような最適粒径となるように粉砕して粒度調整をして実用に供することが多い。ところが、このような破砕状の触媒には予亀裂が入っていたり、鋭角な突起が生じていたりすることが多く、機械的強度や耐摩耗性に劣るため、スラリー床F−T合成反応に用いた場合には、触媒が破壊して微粉が発生することになり、生成する高沸点炭化水素と触媒との分離が著しく困難になると言う欠点を有していた。また、多孔質シリカをF−T合成反応用の触媒担体として用いると、比較的活性が高い触媒が得られることが広く知られているが、破砕による粒度調整を行った場合には、上述したような理由により強度が低下することは勿論、シリカは耐水性が低く、水の存在により破壊、粉化することが多いため、特にスラリー床で問題となることが多かった。
また、F−T反応により副生する水が多量に存在する反応雰囲気下(特にCO転化率が高い雰囲気下)では、主に活性金属である担持コバルトとシリカ担体の界面でコバルトシリケートを形成したり、担持コバルト自体が酸化されたり、シンタリングが起こることによると思われる、触媒活性が低下すると言う現象が発生することがあり、問題となっていた。また、この現象は触媒の経時劣化速度の促進、即ち触媒寿命を低下させてしまうことにも繋がるため、操業コストを引き上げる要因となっていた。これらは、活性を示すコバルト粒子の耐水性が低いと表現することができる。上記の触媒活性低下は、特にCO転化率が高い雰囲気下において、副生水の分圧が増加することによって劣化速度が大きくなり顕著に現われるが、40〜60%のようなCO転化率が高くない雰囲気下でも、副生水の分圧に応じて比較的小さい速度で進行することになる。従って、触媒寿命の観点からは、CO転化率が比較的低い条件においても、耐水性を向上することが重要である。この、コバルトシリケートの形成抑制、及び活性向上に関しては、ジルコニウムの添加が有効であるとされているが、その効果を発現させるためには、コバルト質量の約半分と言う多量のジルコニウムを必要としたり、多量のジルコニウムを添加した場合でも、その効果は十分ではなかった(特許文献2参照)。
【0007】
このような観点から、多量のジルコニウムを添加しなくとも十分な効果を得る方法として、触媒中の不純物濃度を低下させる方法が開示されている(特許文献3参照)。また、同様の効果を得るため貴金属を助触媒として添加する触媒も検討されており、少量の貴金属でも一定の効果を得る方法として、触媒中の不純物濃度を低下させる方法が開示されている(特許文献4参照)。
触媒活性低下の要因としては、上記の他にコバルト表面上、あるいは担持コバルトとシリカ担体の界面における炭素析出が挙げられる。炭素成分でコバルト表面が覆われることにより、原料ガスと接触可能なコバルト表面積が減少することになり、触媒活性は低下することになる。この他、原料ガス中の硫黄成分、窒素成分等による被毒や、コバルト金属が反応中に凝集してしまうシンタリングが一般的である。
これらの要因で活性低下した触媒がある活性レベルを下回ると、反応プロセスの成績を維持するために触媒を交換、あるいは再生する必要がある。スラリー床では、反応を停止すること無く活性低下した触媒を交換することが可能であると言う特徴を有する。しかし、活性低下した触媒を再生することが可能であれば、反応成績維持のための交換触媒が不要、あるいは交換量を減少できるため、製造コストを低減することが可能である。
上述の特許文献3では触媒中の不純物濃度を低下させることで多量のジルコニウムを添加しなくとも耐水性が向上すること、及び活性低下した触媒に水素を含有する還元性ガスを流通させることで触媒を再生できることが示されている。この触媒は不純物濃度が低いため活性が高く、且つ十分な耐水性を持ち、再生も可能な触媒として優れた性能を持つ上、インシピエントウェットネス法のような一般的な手法で比較的安価に製造することができる触媒である。
しかし、活性種のコバルトは金属として活性を示すため、反応に供する前に還元操作を実施する必要があるが、商業規模で大量に触媒を製造する際に適用される通常の条件では、触媒のジルコニウム含有によってコバルトが還元され難くなるため、還元ガス流量を高く設定する必要がある等、触媒製造条件には一定の制限があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、合成ガスから炭化水素を製造する触媒の活性を向上させること、及びシンタリング、炭素析出や副生水による活性低下を抑制し、触媒製造における制限の少ない、比較的容易に製造可能な触媒の提供を目的とするものである。副生水が大量に発生する高いCO転化率条件下でも安定的に使用することが可能であり、触媒寿命が長く、触媒製造条件の制限が少ない合成ガスから炭化水素を製造する触媒及び触媒の製造方法、及び該触媒の再生方法、並びに該触媒を用いた炭化水素の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、高耐水性且つ高活性で寿命の長いF−T合成用
触媒の製造方法及び該触媒を用いた炭化水素の製造方法に関する。更に詳しくは、以下に記す通りである。
(1)シリカを主成分とする触媒担体に、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、ジルコニウム酸化物、並びに貴金属を担持してな
り不純物含有量が0.15質量%以下である
、合成ガスから炭化水素を製造する触媒を製造する方法であって、前記触媒担体に、含浸法、インシピエントウェットネス法、沈殿法、又はイオン交換法を用いて、ジルコニウム化合物を最初に担持させ、その際、ジルコニウム化合物の担持後に、乾燥処理、又は乾燥処理及び焼成処理を行い、コバルト化合物及び貴金属を同時に担持後、還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行い、前記還元処理時に、還元ガスの流量範囲を触媒1gあたり40mL/min以下とすることを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(2)
シリカを主成分とする触媒担体に、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、ジルコニウム酸化物、並びに貴金属を担持してなり不純物含有量が0.15質量%以下である、合成ガスから炭化水素を製造する触媒を製造する方法であって、前記触媒担体に、含浸法、インシピエントウェットネス法、沈殿法、又はイオン交換法を用いて、ジルコニウム化合物を最初に担持させ、その際、ジルコニウム化合物の担持後に、乾燥処理、又は乾燥処理及び焼成処理を行い、次いでコバルト化合物を担持し、乾燥処理、又は乾燥処理及び焼成処理を行い、最後に貴金属を担持し、還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行い、前記還元処理時に、還元ガスの流量範囲を触媒1gあたり40mL/min以下とすることを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(3)前記触媒の不純物が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄の単体及び/又は化合物であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒
の製造方法。
(4)前記貴金属が、ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウムのいずれかであることを特徴とする
(1)〜(3)の何れかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒
の製造方法。
(5)前記触媒中の不純物含有量が0.03質量%以下であることを特徴とする(1)〜(
4)の何れかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒
の製造方法。
(6)前記触媒中のコバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物の担持率がコバルト金属換算で5〜50質量%、ジルコニウム酸化物の担持量がZr/Coのモル比で0.03〜0.6、貴金属の担持量が1質量%以下であることを特徴とする(1)〜(
5)の何れかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒
の製造方法。
(7)前記触媒担体中に含まれる不純物の内、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が、0.1質量%以下であることを特徴とする(1)〜(
6)の何れかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒
の製造方法。
(8)前記触媒担体中に含まれる不純物の内、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムの含有量が、それぞれ0.02質量%以下であることを特徴とする(1)〜(
7)の何れかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒
の製造方法。
(9)前記触媒担体が球状であることを特徴とする(1)〜(
8)の何れかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒
の製造方法。
(10)前記担持させるコバルト化合物、ジルコニウム化合物及び貴金属が、前記含浸法、インシピエントウェットネス法、沈殿法、又はイオン交換法における製造原料において、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を5質量%以下の範囲で含有することを特徴とする(
1)〜(9)の何れかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(11)前記シリカを主成分とする触媒担体は、珪酸アルカリ水溶液と酸水溶液とを混合して生成させたシリカゾルをゲル化し、酸処理、水洗処理の少なくともいずれかを行った後、乾燥させて製造することを特徴とする(
1)〜(10)のいずれかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(12)前記シリカゾルのゲル化後の酸処理、水洗処理の少なくともいずれかにおいて、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が0.06質量%以下である水を用いることを特徴とする(
11)記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(13)前記ゲル化は、前記シリカゾルを、気体媒体中又は液体媒体中に噴霧させて球状に成形して成すことを特徴とする(
11)又は(12)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(14)前記シリカを主成分とする担体に、水、酸、アルカリの内、少なくとも何れかによる洗浄を施して不純物濃度を低下させてから、前記コバルト化合物及び前記ジルコニウム化合物を担持させることを特徴とする(
1)〜(13)のいずれかに記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(15)前記洗浄が、酸又はイオン交換水の一方又は双方を用いた洗浄である(
14)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する触媒の製造方法。
(16)
(1)〜(14)の何れかに記載の方法により製造された触媒を用いて合成ガスから炭化水素を製造する方法であって、スラリー床を用いた液相反応で合成することを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する方法。
(17)(
1)〜(14)の何れかに記載の方法により製造された触媒を用いて合成ガスから炭化水素を製造する方法であって、外部循環方式のスラリー床を用いた液相反応で合成することを特徴とする合成ガスから炭化水素を製造する方法。
(18)前記液相反応において、触媒量、原料ガス供給量、反応温度、反応圧力を調整し、ワンパスCO転化率を40〜95%とすることを特徴とする(
16)又は(
17)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する方法。
(19)前記液相反応において、触媒量、原料ガス供給量、反応温度、反応圧力を調整し、ワンパスCO転化率を60〜95%とすることを特徴とする(
16)又は(
17)に記載の合成ガスから炭化水素を製造する方法。
(20)(
1)〜(15)の何れかに記載の方法により製造された触媒を用いて合成ガスから炭化水素を製造した後、活性低下した触媒を再生する方法であって、前記活性低下した触媒に水素を含む再生ガスを供給して、前記触媒と再生ガスを接触させることを特徴とする触媒の再生方法。
(21)
(1)〜(15)の何れかに記載の方法により製造された触媒を反応器に充填し、当該反応器内で合成ガスから炭化水素を製造した後、活性低下した触媒を再生する方法であって、前記反応器に水素を含む再生ガスを供給し、前記触媒と再生ガスを接触させることを特徴とする触媒の再生方法。
(22)(
17)記載の方法により合成ガスから炭化水素を製造した後、活性低下した触媒を再生する方法であって、外部循環部分の何れかに水素を含む再生ガスを供給し、前記触媒と再生ガスを接触させることを特徴とする触媒の再生方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、副生水が大量に生成する高いCO転化率条件下でも、シリカ担体及び活性を示すコバルト粒子を含め触媒としての耐水性が高く、触媒の強度及び活性を損なう程度の小さい、極めて安定性が高く寿命が長い、高活性F−T合成用触媒を触媒製造条件の制限が少ないため、比較的容易に且つ安定的に提供できる。また、活性低下しても再生が可能であり、該触媒により高い炭化水素生産性を有するF−T合成反応を行える。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を更に詳述する。
本発明者らは、シリカを主成分とする担体に、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、ジルコニウム酸化物、並びに貴金属を担持してなる不純物の無いもしくは少ない触媒が、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、並びにジルコニウム酸化物は担持するが、貴金属を担持しない不純物の少ない触媒と比較して、反応に供する前の還元操作において還元ガス流量を高く設定する必要がない等、製造条件の制限が少ないため安定的且つ安価に触媒を製造可能であることを見出し、本発明に至った。
これにより、ジルコニウム化合物による特に高いCO転化率条件下において耐水性が向上する効果、比較的低いCO転化率条件下においても触媒寿命が延長する効果、更には活性が向上する効果、触媒再生が容易になる効果を有効に活用することができるようになるため、安価に炭化水素を製造可能となる。即ち、コバルト系触媒では活性種がコバルト金属であるため、反応前に還元操作によってコバルト酸化物をコバルト金属に還元する必要があるが、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、並びにジルコニウム酸化物は担持するが、貴金属を担持しない不純物の少ない触媒では、還元操作において大過剰の還元ガス流量を使用しないと還元度が不十分で触媒本来の性能を得ることが不可能であった。一方、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、ジルコニウム酸化物、並びに貴金属を担持してなる不純物の無いもしくは少ない触媒では、貴金属の還元促進効果によって、大過剰の還元ガス流量に設定せずとも還元度が十分で触媒本来の性能を得ることができる。
更に、貴金属の添加によって、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、並びにジルコニウム酸化物を担持する触媒においてジルコニウム酸化物の添加効果として見られていた活性向上効果、寿命延長効果、触媒再生を容易とする効果が増大することが判明した。また、特定の物理特性を有し、球形の担体を用いることで活性を損なわずに耐摩耗性の高い高強度の触媒を提供及び製造することが可能である。尚、本発明で言う触媒中の不純物には、シリカを主成分とする触媒担体中の不純物も含まれる。
【0015】
本発明による触媒は、F−T合成反応に活性を有するコバルト系触媒であり、また、担体としてはシリカを主成分とするものを選定し、使用するものである。ここで言うシリカを主成分とする担体とは、シリカ以外にシリカ担体の製造工程における不可避的不純物を少量含む担体、又は、例えば酸点を導入したい場合等に、当該担体にアルミナ及び/又はゼオライトを含めたものを言い、50質量%以上、より好ましくは50質量%超のシリカを含有するものである(以下、シリカを主成分とする担体を、単に「シリカ担体」とも言う)。尚、ここで言う不可避的不純物とは、シリカ担体の製造工程で使用される洗浄水に含有される不純物、出発原料に含有される不純物、及び、反応装置から混入する不純物で、触媒能力に影響を及ぼす金属を含む不純物(金属及び金属化合物)であり、一般的にF−T合成反応に使用される装置、原料、洗浄水を用いると、当該不純物の金属元素としてはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムが挙げられる。但し、不純物元素のアルミニウムは、シリカ担体の出発原料である珪砂に含まれるアルミニウム酸化物が殆どで、シリカ担体中ではアルミナやゼオライトの形態で存在するため、本発明における触媒能力に影響を及ぼす不可避的不純物とはならない。従って、本発明で言うところの触媒中の不純物とは、一般的なF−T合成反応用触媒の製造に使用される装置、原料、洗浄水を用いた場合、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、及び、鉄である。尚、ナトリウム、カリウムはシリカ担体製造の原料として使用する珪酸ソーダより、カルシウム、マグネシウムは洗浄水より、鉄は原料である珪砂や洗浄水より、主に混入する。また、触媒製造において設備や操業条件によっては他の不純物混入も有り得、その場合にはそれらの不純物も考慮する必要がある。
コバルト、ジルコニウムと共に担持する貴金属としては、ルテニウム、ロジウム、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウムを用いることができ、これら貴金属を単独で使用しても、複数を混合して使用しても良い。中でも、ルテニウム、ロジウム、白金、パラジウムでは添加効果が大きく望ましい。
【0016】
触媒の担持方法は、通常の含浸法、インシピエントウェットネス(Incipient Wetness)法、沈殿法、イオン交換法等によれば良い。担持において使用する原料(前駆体)である貴金属化合物、ジルコニウム化合物やコバルト化合物としては、担持後に還元処理、又は焼成処理及び還元処理する際に、カウンターイオン(例えば、酢酸塩であればCo(CH
3COO)
2中の(CH
3COO)
−)が揮散や分解をするものであり、溶媒に溶解するものであれば特に制限はなく、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物等が使用可能であるが、担持操作をする際に水溶液を用いることができる水溶性の化合物を用いることが製造コストの低減や安全な製造作業環境の確保のためには好ましい。具体的には、酢酸ジルコニル、硝酸ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウムや酢酸コバルト、硝酸コバルト等は、焼成時にジルコニウム酸化物や、コバルト酸化物に容易に変化し、その後のコバルト酸化物の還元処理も容易であるため好ましい。貴金属化合物としては、例えば、硝酸テトラアンミン白金、硝酸白金、ジニトロジアミン白金、ニトロシル硝酸ルテニウム、硝酸パラジウム、ジニトロジアミンパラジウム、硝酸ロジウム等を挙げることができる。
コバルトの担持率の適正範囲は、活性を発現するための最低量以上であり、担持したコバルトの分散度が極端に低下して、反応に寄与できないコバルトの割合が増大してしまう担持量以下であればよい。具体的には5〜50質量%であり、好ましくは10〜40質量%である。この範囲を下回ると活性を十分発現することができず、また、この範囲を上回ると分散度が低下して、担持したコバルトの利用効率が低下して不経済となるため、好ましくない。ここでいう担持率とは、担持したコバルトが最終的に100%還元されるとは限らないため、100%還元されたと考えた場合の金属コバルトの質量が触媒質量全体に占める割合を指す。
コバルト、貴金属と共に担持するジルコニウムの担持量の適正範囲は、耐水性向上効果、寿命延長効果、活性向上効果、再生促進効果を発現するための最低量以上であり、担持したジルコニウムの分散度が極端に低下して、添加したジルコニウムの内、効果発現に寄与しないジルコニウムの割合が高くなり不経済となる担持量以下であれば良い。具体的には、コバルトとジルコニウムのモル比で、Zr/Co=0.03〜0.6であり、好ましくは0.05〜0.3である。この範囲を下回ると耐水性向上効果、寿命延長効果、活性向上効果、再生促進効果を十分発現することができず、また、この範囲を上回ると担持したジルコニウムの利用効率が低下して不経済となるため、好ましくない。
【0017】
上述の効果を発現するためには、シリカ担体上にジルコニウム酸化物が存在し、活性を示すコバルト粒子がジルコニウム酸化物上に存在する触媒構造が好ましいと推定している。活性を示すコバルト粒子は、還元処理によって全部が金属化されたコバルト粒子であっても、大部分は金属化されるが一部はコバルト酸化物が残存したコバルト粒子であっても良い。耐水性向上効果は、シリカ担体上にジルコニウム酸化物が存在することで、活性を示すコバルト粒子とシリカ担体の界面を減少することにより、副生水により形成が加速されるコバルトシリケートの形成が抑制されることに加え、ジルコニウム酸化物の酸素吸収能により、副生水が存在する反応場において還元性雰囲気を保持し易くなることによる活性を示すコバルト粒子の酸化抑制に起因すると推定される。また、ジルコニウム酸化物と活性を示すコバルト粒子の相互作用はシリカ担体と活性を示すコバルト粒子の相互作用よりも大きいため、コバルト化合物とジルコニウム化合物を担持してなる触媒の活性を示すコバルト粒子間ではシンタリングが比較的起こり難く、シンタリングが起こり易い副生水が存在する雰囲気においても耐水性は向上すると考えられる。また、上記のようにジルコニウム酸化物は還元性雰囲気を保持し易いため活性を示すコバルト粒子上などへの炭素析出も抑制される。寿命延長効果は、上記の耐水性向上とシンタリング抑制、炭素析出抑制により、活性を発現する触媒構造をより長く保持できることによると考えられる。
また、活性向上効果の発現は、ジルコニウム酸化物とコバルト化合物の相互作用がシリカ担体とコバルト化合物の相互作用よりも大きいため、コバルト化合物とジルコニウム化合物を担持してなる触媒は、コバルト化合物は担持するがジルコニウム化合物を担持しない触媒と比較すると、コバルトの分散度が高く活性表面積が大きいことによると推定される。また、ジルコニウム添加による再生促進効果発現は上記したようにジルコニウム酸化物が還元性雰囲気を保持し易いことによると考えられる。
【0018】
コバルト、ジルコニウムと共に担持する貴金属の担持量の適正範囲は、1質量%以下であり、好ましくは0.001〜0.2質量%、より好ましくは0.01〜0.15質量%である。1質量%を超えると還元操作におけるコバルト酸化物からコバルト金属への還元促進効果が発現し易いが、高価な貴金属を多量に使用することで不経済となるため好ましくない。例えば、還元時の触媒1g当たりの水素流量:1.5mL/minでの白金担持率と反応評価におけるCO転化率の関係を
図1に示す。0.2質量%を越える担持率の領域では、担持率増加によるCO転化率の向上は大きくない。
コバルト化合物、ジルコニウム化合物、貴金属化合物のシリカを主成分とする担体への担持は、前述の担持方法によって行うことが可能であるが、3成分を別々に逐次担持しても良く、いずれか2成分を同時に担持後、残りの1成分を担持する逐次担持でも、いずれか1成分を担持後、残りの2成分を同時に担持する逐次担持でも良く、3成分を同時に担持することもできる。触媒性能の点からは3成分を別々に担持することが好ましいが、3成分を別々に逐次担持する場合にはその他の方法と比較して触媒製造に要する時間、コストが増加するため、経済性を勘案して製造方法を選択することができる。
3成分を別々に逐次担持する際には、コバルト化合物の溶液、ジルコニウム化合物の溶液、貴金属化合物の溶液をそれぞれ調製し、最初にいずれかの溶液を用いてシリカを主成分とする担体へ担持し、乾燥または乾燥及び焼成処理後、残りの2成分の内のいずれかの溶液を用いて更に担体へ担持し、乾燥または乾燥及び焼成処理後、残りの溶液を用いて更に担持する。担持後は必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行う。このような処理を施すことにより、コバルト化合物及び貴金属化合物の全部を金属化、又は一部を酸化物化し残りを金属化して、且つジルコニウム化合物を酸化物化する。
【0019】
鋭意検討した結果、3成分を別々に逐次担持する際のコバルト化合物、ジルコニウム化合物、貴金属化合物のシリカ担体への担持は、ジルコニウム化合物、コバルト化合物、貴金属化合物の順に逐次触媒製造時に担持させることが望ましく、その他の担持順で調製した触媒は、前者と比較して活性向上効果、寿命延長効果、耐水性向上効果、及び還元促進効果が低下することが明らかとなった。これは前述のように、ジルコニウム酸化物が活性を示すコバルト粒子とシリカ担体の界面において、コバルトの高分散化による活性向上、副生水存在下におけるコバルトシリケート形成抑制の機能を発現しているためであると考えており、活性を示すコバルト粒子とシリカ担体の間にジルコニウム酸化物を存在させた方が有効であるためと推定される。また、貴金属の還元促進効果は、コバルトと貴金属の存在距離が近い方が発現し易く、還元ガスと貴金属の接触が必要であることから、最後に担持することで外表面に存在させることが効果的であると推定される。
いずれか2成分を同時に担持後、残りの1成分を担持する際にも同様に、コバルト化合物の溶液、ジルコニウム化合物の溶液、貴金属化合物の溶液をそれぞれ調製し、2成分の混合溶液を調製して担持後、乾燥または乾燥及び焼成処理を行い、残りの溶液を用いて更に担持する。担持後は必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行う。
鋭意検討した結果、いずれか2成分を同時に担持後、残りの1成分を担持する際のコバルト化合物、ジルコニウム化合物、貴金属化合物のシリカ担体への担持は、コバルト化合物及びジルコニウム化合物を同時に担持後、最後に貴金属化合物を担持する順において活性向上効果、寿命延長効果、耐水性向上効果、及び還元促進効果が比較的大きいことが判明した。
いずれか1成分を担持後、残りの2成分を同時に担持する際にも同様に、コバルト化合物の溶液、ジルコニウム化合物の溶液、貴金属化合物の溶液をそれぞれ調製し、いずれかの溶液を担持後、乾燥または乾燥及び焼成処理を行い、残り2成分の混合溶液を調製して更に担持する。担持後は必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き還元処理、又は焼成処理及び還元処理を行う。
鋭意検討した結果、いずれか1成分を担持後、残りの2成分を同時に担持する際のコバルト化合物、ジルコニウム化合物、貴金属化合物のシリカ担体への担持は、最初にジルコニウム化合物を担持後、次いでコバルト化合物、貴金属化合物を同時に担持する順において活性向上効果、寿命延長効果、耐水性向上効果、及び還元促進効果が比較的大きいことが判明した。
【0020】
3成分を同時に担持する際にも同様に、コバルト化合物の溶液、ジルコニウム化合物の溶液、貴金属化合物の溶液をそれぞれ調製し、3成分の混合溶液を調製して担持後、乾燥又は乾燥及び焼成処理を行い、引き続き還元処理を行う。
担持操作は一度で済むため、時間とコストの観点からは最も経済性が高い調製方法であるが、活性向上効果、寿命延長効果、耐水性向上効果、及び還元促進効果は発現し難くなり易くなる。
還元処理は、流動床、固定床、スラリー床等で行うことができる。反応器に触媒を充填する前に還元処理を実施する場合には、流動床、固定床等が一般的であり、反応器に触媒酸化物を充填後に還元処理する場合には、溶媒存在下でのスラリー床で行うことができる。スラリー床で水素による還元処理を行う際には、溶媒が水素化分解されないように流動床や固定床での反応温度よりも低く設定する等、条件設定に注意する必要がある。
還元処理に使用する還元性ガスは特に制限されないが、水素、一酸化炭素の純ガスが一般的である。ただし、還元性ガスが含有されていれば適切な条件に設定することで還元は進行し、これらガスの混合ガスや、不活性ガス、酸化性ガスが一定量混合されたガスも使用することができる。
【0021】
以下に、本発明の触媒を得る方法の一例を示す。まずジルコニウム化合物からなる前駆体水溶液を、シリカを主成分とする不純物の少ない担体に含浸担持し、次いでコバルト化合物からなる前駆体の水溶液を担持後、必要に応じて乾燥、焼成を行い、次いで貴金属化合物からなる前駆体の水溶液を担持後、必要に応じて乾燥、焼成、還元処理を行い、F−T合成触媒を得ることができる。ジルコニウム化合物の担持後には乾燥処理(例えば、空気中100℃−1h)を行い、引き続き焼成処理(例えば、空気中450℃−5h)を行っても、乾燥処理を行うだけで次工程であるコバルト含浸担持を行っても良いが、ジルコニウム化合物がコバルト含浸担持操作中にコバルト化合物の中に取り込まれることでジルコニウムの添加効率が低下しないようにするためには、焼成処理を行ってジルコニウム酸化物に変換しておくと良い。同様に、コバルト化合物の担持後には乾燥処理を行い、引き続き焼成処理を行っても、乾燥処理を行うだけで次工程である貴金属含浸担持を行っても良いが、コバルト化合物が貴金属含浸担持操作中に貴金属溶液中に取り込まれた後、最終的に外表面に担持されることで、貴金属が外表面ではなくコバルト化合物中に存在することを避けるためには、コバルト化合物の含浸担持を行った後、焼成処理を行ってコバルト酸化物に変換しておくと良い。貴金属化合物の含浸担持を行った後、必要に応じて乾燥処理を行い、引き続き担体表面のコバルト化合物をコバルト金属に還元(例えば、常圧水素気流中350℃−15h、水素流量は触媒1g当たり100mL/min)することでF−T合成触媒が得られるが、焼成して酸化物に変化させた後に還元処理を行っても、焼成せずに直接還元処理を行っても良い。尚、このような還元処理において、一部のコバルト化合物は還元されずに残存することがあるが、良好な活性を発現するためにはコバルト金属に還元されるコバルト化合物が、還元されないコバルト化合物よりも多い方が好ましい。これは化学吸着法によって確認することが可能である。還元処理後の触媒は、大気に触れて酸化失活しないように取り扱う必要があるが、担体上のコバルト金属の表面を大気から遮断するような安定化処理を行うと、大気中での取り扱いが可能となり好適である。この安定化処理には、低濃度の酸素を含有する窒素、二酸化炭素、不活性ガスを触媒に触れさせて、担体上のコバルト金属の極表層のみを酸化するいわゆるパッシベーション(不動態化処理)を行ったり、F−T合成反応を液相で行う場合には反応溶媒や溶融したFTワックス等に浸漬して大気と遮断したりする方法があり、状況に応じて適切な安定化処理を行えばよい。
【0022】
上記の触媒を得る方法の一例では、コバルト化合物をコバルト金属に還元する際の還元ガスとしては水素を使用し、水素流量は触媒1g当たり100mL/minの大過剰な流量である。このような大過剰の水素流量においては温度や保持時間にもよるが、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、並びにジルコニウム酸化物を担持してなる不純物の少ない触媒であっても、コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、ジルコニウム酸化物、並びに貴金属を担持してなる不純物の無いもしくは少ない触媒であっても、還元は十分に進行する。貴金属種や添加量といった触媒組成、還元温度や保持時間といった製造条件によって異なるが、水素流量10〜20mL/min程度まで低下させると、貴金属含有有無によって触媒活性やコバルトの還元度に差が生じ始め、更に減少させると差が大きくなる(
図2参照:各触媒の還元時水素流量と反応評価におけるCO転化率の関係)。商業規模での大量製造において採用される通常の還元ガス流量範囲は、触媒1g当たり20mL/min以下とする場合が多い。コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、ジルコニウム酸化物、並びに貴金属を担持してなる不純物の無いもしくは少ない触媒の還元処理における好ましい水素流量範囲は、温度や保持時間にもよるが、触媒1g当たり0.1〜40mL/minであり、更に好ましくは触媒1g当たり0.5〜20mL/minである。触媒1g当たり0.1mL/minを下回ると、貴金属による還元促進効果を増加させるために触媒中の貴金属量を増加させる必要性が生じて不経済となることや、還元操作において著しく温度を向上させる必要性が生じ、高温での還元中にコバルト金属や貴金属のシンタリングが生じることで性能低下したり、時間延長が必要となり処理コストが増加することとなる。また、触媒1g当たり40mL/minを上回ると、大過剰な還元ガスを確保できる際には貴金属による還元促進効果が無くとも十分な触媒活性が得られるが、触媒量当たりの還元ガス量を確保しようとするあまり一度に処理可能な触媒量が相対的に少なくなることで、製造コストが増加し不経済となる。
コバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、並びに貴金属を担持してなる不純物の少ない触媒は特許文献4で開示されているが、ジルコニウム酸化物を含有しないため還元時の水素流量は特に注意する必要はなかった(
図3参照:ジルコニウム酸化物を含有しないPt/Co/SiO
2(Pt:0.1wt%)触媒での還元時の水素流量と反応評価におけるCO転化率の関係)。
ここで言う不純物の無い触媒とは、不純物量を分析する際の分析下限値を下回る触媒のことであり、不純物を含有する触媒とは、分析下限値以上の不純物量を含有する触媒である。
【0023】
また、活性金属、助触媒、担体構成元素以外の触媒中の不純物を低減し、ある範囲内に制御することが、活性向上、寿命延長及び耐水性向上に対して極めて効果的である。本発明のシリカを担体とした場合では、前記したように、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属や、鉄、アルミニウム等が不純物としてシリカ担体中に含まれることが多い。これら不純物の影響を、活性金属にコバルトを用いて詳細に検討したところ、アルカリ金属やアルカリ土類金属が多量に存在すると、F−T合成反応における活性が大きく低下する。中でも、ナトリウムの存在の影響が最も強い。
不純物であるナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄は主に化合物の形態で存在し、特に酸化物の形態で存在するが、金属単体や酸化物以外の形態でも少量存在し得る。良好な触媒活性、寿命及び高い耐水性を発現させるためには、触媒中の不純物の総量は金属換算で0.15質量%以下に抑える必要がある。この量を上回ると活性が大きく低下するため、著しく不利となる。好ましくは金属換算で0.04質量%以下であり、特に好ましくは金属換算で0.03質量%以下である。しかし、不純物量を必要以上に低減することは純度向上にコストがかかり不経済となるため、触媒中の不純物量は金属換算で0.005質量%以上とすることができ、0.01質量%以上とすることが好ましい。担持率や前駆体の種類にもよるため限定することが困難ではあるが、触媒中の不純物量を低減するためには、前記したようなコバルト化合物及びジルコニウム酸化物の前駆体中の不純物量を低減することが有効であり、アルカリ金属、アルカリ土類金属の各元素の含有量はそれぞれ金属換算で5質量%以下に抑えることが効果的である。
【0024】
触媒中の不純物の中で触媒の活性に最も悪い影響を及ぼす元素は、アルカリ金属とアルカリ土類金属である。これらの金属は主にシリカ担体の製造工程で使用する洗浄水や出発原料に由来するもので、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムが問題となることが多い。
図4に触媒としてジルコニウム酸化物を含有する場合と、含有しない場合に、シリカ担体中のナトリウム濃度と、触媒活性の指標となるF−T合成反応に用いた際のCO転化率の関係を調べた結果を示す。ここでジルコニウム酸化物を含有する触媒は、最初にジルコニウム化合物を担持し、次いでコバルト化合物を逐次担持して調製した触媒である。ジルコニウム酸化物、白金を含有する触媒は、ジルコニウム化合物、コバルト化合物、白金化合物の順で逐次担持して調製した触媒である。この図から明らかなように、ジルコニウム酸化物を含有した触媒では、ナトリウム濃度の増加によるCO転化率の低下は比較的小さいことが判るが、ジルコニウム酸化物含有の有無で、ナトリウム濃度による変化の傾向は変わらない。更に白金を添加した際には傾向は変わらず、活性が向上する。また、
図5に、触媒としてジルコニウム酸化物や貴金属を含有しない場合(シリカ担体にコバルトを担持した触媒の場合)に、アルカリ金属、アルカリ土類金属のシリカ担体中の濃度と、触媒活性の指標となるF−T合成反応に用いた際のCO転化率の関係を調べた結果を示す。これら金属の担体中の含有量が金属換算で0.01質量%を下回る範囲内ではアルカリ金属とアルカリ土類金属の影響は殆ど見られないものの、金属換算で0.1質量%を上回ると活性は徐々に低下すると言える。
図4よりジルコニウム酸化物や貴金属含有の有無によらず、アルカリ金属、アルカリ土類金属の濃度によるCO転化率の変化の傾向は同一であると推定できる。よって、本発明の触媒でも同様の範囲で規定できる。従って、担体中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量は金属換算で0.1質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは金属換算で0.07質量%以下、更に好ましくは金属換算で0.04質量%以下、特に好ましくは金属換算で0.02質量%以下である。即ち、通常のシリカ担体製造においては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムのそれぞれを、金属換算で0.1質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは金属換算で0.07質量%以下、更に好ましくは金属換算で0.04質量%以下、特に好ましくは金属換算で0.02質量%以下とすることである。
担体中の不純物の総量としては前述したように金属換算で0.15質量%を上回ると、触媒の活性が大きく低下する。ここでも上記と同様に、担体中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量を必要以上に低減することは不経済となるため、触媒中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属は触媒活性に悪影響を与えない範囲で含有していても構わない。上記したように、担体中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量を金属換算で0.01質量%程度まで低下させれば、十分な効果が得られることから、担体中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の各元素の含有量はそれぞれ金属換算で0.01質量%以上とすることが、コスト面から好ましい。
尚、ここでいう不純物濃度の測定方法としては、フッ化水素酸を用いて担体や触媒を溶解した後、フレームレス原子吸光分析の手法を用いれば良い。また、担体のみで不純物分析を行い、触媒全体の不純物分析を別途実施することで、シリカ担体中に含まれている不純物とそれ以外の不純物を区別することができる。例えば、アルミニウムについては、シリカ担体中にアルミナやゼオライトとして存在しているアルミニウムと、シリカ担体以外の部分に含まれているアルミニウムとを判別することが可能である。尚、シリカ担体中の不純物の測定においては、フレームレス原子吸光分析に替えて、ICP発光分光分析により分析することもできる。
【0025】
製造工程で不純物が入らないような工夫が可能な担体であれば、製造中に不純物が混入しないような施策を施すことが好ましい。一般にシリカの製造方法は、乾式法と湿式法に大別される。乾式法としては燃焼法、アーク法等、湿式法としては沈降法、ゲル法等があり、いずれの製造方法でも触媒担体を製造することは可能であるが、ゲル法を除く上記方法では球状に成形することが技術的、経済的に困難である為、シリカゾルを気体媒体中又は液体媒体中で噴霧させて容易に球状に成形することが可能であるゲル法が好ましい。
例えば、上記ゲル法にてシリカ担体を製造する際には、通常多量の洗浄水を用いるが、工業用水等の不純物を多く含んだ洗浄水を用いると、担体中に多量の不純物が残留することになり、触媒の活性が大幅に低下して好ましくない。しかし、この洗浄水として不純物の含有率が低い、あるいはイオン交換水等の不純物を全く含まないものを用いることで、不純物含有量の無いもしくは少ない良好なシリカ担体を得ることが可能となる。この場合、洗浄水中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の各元素の含有量はそれぞれ金属換算で0.06質量%以下とすることが好ましく、これを上回ると、シリカ担体中の不純物含有量が多くなり、調製後の触媒の活性が大きく低下するため好ましくない。理想的にはイオン交換水の使用が好ましく、イオン交換水を得るためには、イオン交換樹脂等を用いて製造しても良いが、シリカの製造ラインにて規格外品として発生するシリカゲルを用いてイオン交換を行い、製造することも可能である。原理的に、洗浄水中の不純物をシリカが捕捉するのは、シリカ表面のシラノール中水素とアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン等の不純物イオンとがイオン交換することによる。よって、少々不純物を含んだ洗浄水であっても、洗浄水のpHを低めに調整することで、不純物の捕捉をある程度防ぐことが可能となる。また、イオン交換量(不純物混入量)は用いる洗浄水の量に比例するため、洗浄水量を低減すること、換言すれば水洗終了までの水の使用効率を上げることでも、シリカ担体中の不純物量の低減が可能となる。
触媒担体の物理的、化学的特性を大きく変化させずに水による洗浄、酸による洗浄、アルカリによる洗浄等の前処理を施すことで、シリカ担体中の不純物を低下させることができる場合には、これらの前処理が触媒の活性向上に極めて有効である。
例えば、シリカ担体の洗浄には、硝酸、塩酸、酢酸等の酸性水溶液にて洗浄することや、イオン交換水にて洗浄することが特に効果的である。これらの酸による洗浄処理の後に、酸の一部が担体中に残留することが障害となる場合には、イオン交換水等の清浄な水で更に洗浄するのが効果的である。
また、シリカの製造においては、粒子強度向上、表面シラノール基活性向上等を目的とした焼成処理が良く行われる。しかしながら不純物が比較的多い状態で、焼成を行うと、シリカ担体を洗浄して不純物濃度を低下させる際に、シリカ骨格内に不純物元素が取り込まれて、不純物含有量を低減させることが困難となる。よって、シリカ担体を洗浄して不純物濃度を低下させたい場合には、未焼成シリカゲルを用いることが好ましい。
【0026】
以上述べたような触媒及び担体を用いることにより、F−T合成反応における活性が非常に高く、長寿命で、また耐水性の高い触媒を得ることが可能となる。
金属の分散度を高く保ち、担持した活性金属の反応に寄与する効率を向上させるためには、高比表面積の担体を使用することが好ましい。しかし、比表面積を大きくするためには、気孔径を小さくする、細孔容積を大きくする必要があるものの、この二つの要因を増大させると、耐摩耗性や強度が低下することになり、好ましくない。担体の物理性状としては、細孔径が4〜30nm、比表面積が60〜550m
2/g、細孔容積が0.2〜1.5mL/gを同時に満足するものが、触媒用の担体として、極めて好適である。細孔径が6〜20nm、比表面積が80〜350m
2/g、細孔容積が0.25〜1.0mL/gを同時に満足するものであればより好ましく、細孔径が6〜16nm、比表面積が100〜300m
2/g、細孔容積が0.3〜0.9mL/gを同時に満足するものであれば更に好ましい。上記の比表面積はBET法で、細孔容積は前記水銀圧入法や水滴定法で測定することができる。また、細孔径はガス吸着法や水銀ポロシメーター等による水銀圧入法で測定可能であるが、比表面積、細孔容積から計算で求めることもできる。
F−T合成反応に十分な活性を発現する触媒を得るためには、比表面積は60m
2/g以上であることが必要である。この比表面積を下回ると、担持した金属の分散度が低下してしまい、活性金属の反応への寄与効率が低下するため好ましくない。また、550m
2/g超とすると、細孔容積と細孔径が上記範囲を同時に満足することが困難となり好ましくない。
細孔径を小さくするほど比表面積を大きくすることが可能となるが、4nmを下回ると、細孔内の水素と一酸化炭素のガス拡散速度の差が大きくなり、細孔の奥へ行くほど水素分圧が高くなるという結果を招き、F−T合成反応では副生成物と言えるメタン等の軽質炭化水素が、多量に生成することになるため、好ましくない。加えて、生成した炭化水素の細孔内拡散速度も低下し、結果として、見かけの反応速度を低下させることとなり、好ましくない。また、一定の細孔容積で比較を行うと、細孔径が大きくなるほど比表面積が低下するため、細孔径が30nmを超えると、比表面積を増大させることが困難となり、活性金属の分散度が低下してしまうため、好ましくない。
細孔容積は0.2〜1.5mL/gの範囲内にあるものが好ましい。0.2mL/gを下回るものでは、細孔径と比表面積が上記範囲を同時に満足することが困難となり好ましくなく、また、1.5mL/gを上回る値とすると、極端に強度が低下してしまうため、好ましくない。
【0027】
前述したように、スラリー床反応用のF−T合成触媒には、耐摩耗性、強度が要求される。また、F−T合成反応では、多量の水が副生するために、水の存在下で破壊、粉化するような触媒又は担体を用いると、前述したような不都合が生じることになるために注意を要する。よって、予亀裂が入っている可能性が高く、鋭角な角が折損、剥離し易い破砕状の担体ではなく、球状の担体を用いた触媒が好ましい。球状の担体を製造する際には、一般的なスプレードライ法等の噴霧法を用いればよい。特に、20〜250μm程度の粒径の球状シリカ担体を製造する際には、噴霧法が適しており、耐摩耗性、強度、耐水性に優れた球状シリカ担体が得られる。
このようなシリカ担体の製造法を以下に例示する。珪酸アルカリ水溶液と酸水溶液とを混合し、pHが2〜10.5となる条件で生成させたシリカゾルを、空気等の気体媒体中又は前記ゾルと不溶性の有機溶媒中へ噴霧してゲル化させ、次いで、酸処理、水洗、乾燥する。ここで、珪酸アルカリとしては珪酸ソーダ水溶液が好適で、Na
2O:SiO
2のモル比は1:1〜1:5、シリカの濃度は5〜30質量%が好ましい。用いる酸としては、硝酸、塩酸、硫酸、有機酸等が使用できるが、製造する際の容器への腐食を防ぎ、有機物が残留しないと言う観点からは、硫酸が好ましい。酸の濃度は1〜10mol/Lが好ましく、この範囲を下回るとゲル化の進行が著しく遅くなり、また、この範囲を上回るとゲル化速度が速すぎてその制御が困難となり、所望の物性値を得ることが難しくなるため、好ましくない。また、有機溶媒中へ噴霧する方法を採用する場合には、有機溶媒として、ケロシン、パラフィン、キシレン、トルエン等を用いることができる。
以上のような構成あるいは製造法を用いれば、強度や耐摩耗性を損なうことなく、高活性を発現するF−T合成用触媒の提供が可能となる。
また、本発明によるF−T合成用触媒を用いることにより、高効率かつ低コストでF−T合成反応を行い、製品を製造することが可能となる。即ち、本発明に得られる触媒を用いてスラリー床を用いた液相反応でF−T合成反応を行うと、主製品である炭素数が5以上の液体生成物の選択率が高く、また、触媒単位質量当たりの液体生成物の製造速度(炭化水素生産性)も極めて大きい。更に、使用中の触媒粉化の程度や副生水等による活性の低下も非常に小さいために触媒寿命が長いと言う特徴を有する。これらの特徴により、効率の高い低コストでのF−T合成反応の実行が可能となる。
【0028】
本発明による触媒を用いれば、副生水等による活性の低下が非常に小さいために、副生水の分圧が非常に高くなるワンパスCO転化率が60〜95%と言う条件下でも良好なF−T合成反応を行うことができる。ここで言うワンパスCO転化率とは、反応器から排出される未反応原料ガスを含むガスを再度反応器に供給するものとは異なり、原料ガスを反応器に一度通すのみでCOの転化率を求めたものである。ワンパスCO転化率が40〜60%の比較的低い場合でも、副生水等による活性低下が非常に小さいため触媒寿命が長くなり、触媒コストを低減することが可能となる。ワンパスCO転化率が40%未満になるとテールガスリサイクル設備の設備コストが増大するため、40%以上で操業することが一般的である。
また、著しく転化率が高い、あるいは反応時間が長いことで、活性低下が生じた場合には、合成ガスの代わりに水素を含むガスを供給することで、触媒を再生することができる。触媒の再生方法としては、合成ガスの替わりに再生ガスを反応器に供給して触媒と再生ガスを接触させる反応器内部再生法や、触媒或いは触媒を含むスラリーを抜出した後、再生塔と呼ばれる別の容器に充填して再生ガスを供給する反応器外部再生法がある。また、F−T合成反応器が触媒を含むスラリーを反応容器外部に循環しながら運転する外部循環方式を採用する場合には、通常の反応を継続しながら外部循環部分の何れかで再生ガスと触媒を含むスラリーを接触させるin−situ(その場)再生法が採用可能となるが、このような運転形式においても反応器内部再生法、反応器外部再生法を採用することもできる。反応器内部再生法では再生塔の設備やin−situ再生設備が不要となる利点を有する反面、再生操作中は製造が完全に停止するという欠点があり、再生塔の設備やin−situ再生設備コスト、再生に必要な時間(製造停止時間)等を勘案して再生方法を決定する必要がある。また、in−situ再生法を採用する場合には、製造を継続しながら触媒再生を行えると言う利点がある。尚、in−situ再生法では再生ガスと触媒との接触時間は余り長く取れないことや、後述するように再生圧力、温度等はF−T合成反応条件と同一とすることが好ましいために再生条件の自由度が若干低下する等の欠点を有するが、実プロセスにおいて実現可能な再生条件で寿命延長効果が期待できる触媒を用い、外部循環運転形式の反応プロセスである場合には、このin−situ再生法が好ましい。
再生ガスの水素含有量は5体積%以上であることが好ましく、100%でも良い。他に窒素、アルゴン等の不活性ガスを含有しても良い。再生条件としては、触媒再生が進行する条件であれば良く、特に限定されるものではない。水素を含む再生ガスと触媒を接触させることによる触媒再生機構としては、副生水により酸化したコバルトの再還元と、水素による析出炭素の除去によるものと推察される。
また、溶媒の液状炭化水素中に触媒が分散したスラリー床における反応器内部再生法では、再生後の再起動オペレーションの観点から、液状炭化水素の水素化分解によるガス成分への変換や液状炭化水素の揮散によって、溶媒が無くならないような再生条件(温度、圧力、時間、ガス流量等)を採用することが好ましいが、溶媒容量が減じてしまうような条件下で再生する場合には、ポリアルファオレフィンのようなF−T合成反応に悪影響を与えない高沸点の溶媒を注入しながら再生すればよい。反応器内部再生法で再生する場合、再生温度は100〜400℃、再生圧力は常圧〜反応圧、再生時間は5分〜50時間、再生ガス流量は再生ガス中の水素流量が、反応における合成ガス中の水素流量と同程度が好適である。反応器内部再生法では、再生圧力は反応圧以下にすると、反応において反応圧に昇圧するためのコンプレッサーを利用することが可能となり、再生のために新たにコンプレッサーを設置する必要がなくなるため、設備コストの面から有利となる。
反応を継続しながら外部循環部分の何れかで再生ガスとスラリー中の触媒を接触させるin−situ再生法では、F−T合成反応条件とは異なる再生温度や圧力を採用すると、スラリー温度や圧力の変換設備が新たに必要になるため、設備コストが増大することになる。よって、F−T合成反応条件と同一の圧力、温度で再生が可能であればそのような再生条件を採用することが好ましい。再生ガスは外部循環ラインの何れかに導入して再生を行えばよい。外部循環ライン中に容器を設けて、その容器の下から再生ガスを導入するような再生専用容器を設置しても良いが、外部循環ライン中に触媒分離槽等の容器が存在する場合には、その容器内に再生ガスを導入して再生することも可能である。
触媒を抜出した後、再生塔に充填して再生ガスを供給する反応器外部再生法では、スラリー床の他、流動床、固定床等を選択することが可能であるが、流動床、固定床等の気−固反応では溶媒の水素化分解を考慮する必要が無い為、再生温度は再生速度とコバルトのシンタリングを考慮して決定すれば良い。また、再生圧力は反応圧に拠らず再生設備のコンプレッサーの能力に応じて選択することができるが、昇圧能力が増加するほどコンプレッサーの設備コストが増加するため、再生速度の圧力依存性を勘案して決定する必要がある。
この触媒再生はコバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、並びにジルコニウム酸化物は担持するが、貴金属を担持しない不純物の少ない触媒でも効果的に実行できるが、本発明のコバルト金属又はコバルト金属及びコバルト酸化物、ジルコニウム酸化物、並びに貴金属を担持してなる不純物の無いもしくは少ない触媒では更に効果が増大する。同一の再生条件において、貴金属を添加した触媒では再生効果が顕著に発現し、また、再生条件をマイルドに設定することができる。即ち、再生温度を低く設定することが可能となり、in−situ再生等のスラリー床還元において、溶媒の水素化分解が起こる比較的高い温度領域を回避することができる。
【0029】
尚、本発明でF−T合成反応に使用する合成ガスには、水素と一酸化炭素の合計が全体の50体積%以上であるガスが生産性の面から好ましく、特に、水素と一酸化炭素のモル比(水素/一酸化炭素)が0.5〜4.0の範囲であることが望ましい。これは、水素と一酸化炭素のモル比が0.5未満の場合には、原料ガス中の水素の存在量が少な過ぎるため、一酸化炭素の水素化反応(F−T合成反応)が進み難く、液状炭化水素の生産性が高くならないためであり、一方、水素と一酸化炭素のモル比が4.0を超える場合には、原料ガス中の一酸化炭素の存在量が少な過ぎるため、触媒活性に関わらず液状炭化水素の生産性が高くならないためである。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
内容積300mLのオートクレーブを用い、インシピエントウェットネス法で最初にZrを担持して乾燥処理、焼成処理後、次いでCoを担持して乾燥処理、焼成処理後、最後に貴金属を担持して乾燥処理、焼成処理、還元処理、パッシベーションを施して調製した1gのCo/貴金属/ZrO
2/SiO2触媒(SiO
2担体はイオン交換水による洗浄を経て製造しており平均粒径100μmの球形、Co担持率は20〜30質量%、Zr/Co=0〜0.3、貴金属担持率は0.001〜0.3質量%)と50mLのn−C
16(n−ヘキサデカン)を仕込んだ後、230℃、2.2MPa−Gの条件下、撹拌子を800min
−1で回転させながら、W(触媒質量)/F(合成ガス流量);(g・h/mol)=1.5となるようにF(合成ガス(H
2/CO=2)流量)を調整し、供給ガス及びオートクレーブ出口ガスの組成をガスクロマトグラフィーにより求め、CO転化率、CH
4選択率、CO
2選択率、炭化水素生産性を得た。尚、上記とは異なる方法で触媒を調製した場合には、以下の当該実施例に記載する。
また、触媒の耐水性(安定性)を評価するため、以下の実験を実施した。
内容積300mLのオートクレーブを用い、上述の方法で調整した1gのCo/貴金属/ZrO
2/SiO
2触媒と50mLのn−C
16を仕込んだ後、230℃、2.2MPa−Gの条件下、撹拌子を800min
−1で回転させながら、最初はCO転化率が約70%になるようにW/FのF(合成ガス(H
2/CO=2)流量)を調整し、数時間の安定運転後、CO転化率が約90%となるように、W/FのF(合成ガス(H
2/CO=2)流量)を調整した。この状態で24時間運転後、最初のW/Fに戻し、さらに数時間の安定運転を実施した。約90%のCO転化率ではH
2O分圧が増大し、耐水性が悪い触媒ほど活性低下が大きくなる。
以下の実施例に記載したCO転化率、CH
4選択率、CO
2選択率、活性保持率は、それぞれ次に示す式により算出した。
【0031】
【数1】
【0032】
以下、実施例、比較例により、本発明の効果を示す。尚、表1〜4のアルカリ金属、アルカリ土類金属合計量はナトリウム、カルシウム、マグネシウムの合計量である。カリウムはこれらと比較して極少量のため、記載せず、合計量からは除いた。また、触媒中不純物合計量はナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄の合計量を表す。触媒調製は特に注釈の無い限り、ジルコニウム化合物、コバルト化合物、貴金属化合物の順に逐次担持した方法を採用した。
(実施例1)
表1のAに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率56.5%、CH
4選択率6.2%、CO
2選択率0.3%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.70(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は87.5%であった。
(実施例2)
表1のBに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行った。この触媒は最初にジルコニウム化合物とコバルト化合物を同時に担持後、次いで貴金属化合物を担持して調製した。CO転化率49.8%、CH
4選択率7.5%、CO
2選択率0.2%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.48(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は72.6%であった。
(実施例3)
表1のCに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行った。この触媒は最初にジルコニウム化合物を担持後、次いでコバルト化合物と貴金属化合物を同時に担持して調製した。CO転化率54.8%、CH
4選択率6.5%、CO
2選択率0.3%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.64(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は83.3%であった。
(実施例4)
表1のDに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行った。この触媒はジルコニウム化合物、コバルト化合物、貴金属化合物を同時に担持して調製した。CO転化率48.7%、CH
4選択率7.7%、CO
2選択率0.2%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.45(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は69.6%であった。
(実施例5)
表1のEに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率71.1%、CH
4選択率4.6%、CO
2選択率0.6%、炭素数5以上の炭化水素生産性は2.16(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は86.6%であった。
(実施例6)
表1のFに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率71.5%、CH
4選択率4.5%、CO
2選択率0.6%、炭素数5以上の炭化水素生産性は2.16(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は86.2%であった。
【0033】
【表1】
【0034】
(実施例7)
表2のGに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率50.3%、CH
4選択率7.0%、CO
2選択率0.2%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.49(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は86.7%であった。
(実施例8)
表2のHに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率70.7%、CH
4選択率4.6%、CO
2選択率0.6%、炭素数5以上の炭化水素生産性は2.15(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は85.9%であった。
(実施例9)
表2のIに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率46.5%、CH
4選択率7.2%、CO
2選択率0.1%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.37(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は86.1%であった。
(実施例10)
表2のJに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率70.0%、CH
4選択率4.7%、CO
2選択率0.6%、炭素数5以上の炭化水素生産性は2.11(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は86.0%であった。
(実施例11)
表2のKに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率55.9%、CH
4選択率6.5%、CO
2選択率0.2%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.67(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は87.4%であった。
(実施例12)
表2のLに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率71.0%、CH
4選択率4.9%、CO
2選択率0.5%、炭素数5以上の炭化水素生産性は2.15(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は86.4%であった。
【0035】
【表2】
【0036】
(実施例13)
表3のMに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率54.7%、CH
4選択率6.8%、CO
2選択率0.2%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.63(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は85.5%であった。
(実施例14)
表3のNに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率70.7%、CH
4選択率4.5%、CO
2選択率0.7%、炭素数5以上の炭化水素生産性は2.14(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は85.9%であった。
(実施例15)
表3のOに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率53.8%、CH
4選択率7.0%、CO
2選択率0.1%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.61(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は89.2%であった。
(実施例16)
表3のPに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率73.2%、CH
4選択率4.2%、CO
2選択率0.7%、炭素数5以上の炭化水素生産性は2.23(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は89.0%であった。
(実施例17)
表3のQに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率47.5%、CH
4選択率7.2%、CO
2選択率0.1%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.42(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は84.6%であった。
(実施例18)
表3のRに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率61.8%、CH
4選択率5.7%、CO
2選択率0.4%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.87(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は85.9%であった。
【0037】
【表3】
【0038】
(実施例19)
表4のSに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率38.1%、CH
4選択率8.2%、CO
2選択率0.1%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.13(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は86.4%であった。
(実施例20)
表4のTに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率69.5%、CH
4選択率4.6%、CO
2選択率0.5%、炭素数5以上の炭化水素生産性は2.09(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は86.5%であった。
(実施例21)
表4のUに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率63.8%、CH
4選択率5.1%、CO
2選択率0.4%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.93(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は87.7%であった。
(実施例22)
表4のVに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率70.6%、CH
4選択率4.4%、CO
2選択率0.6%、炭素数5以上の炭化水素生産性は2.15(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は87.6%であった。
(実施例23)
表4のWに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率55.7%、CH
4選択率6.4%、CO
2選択率0.3%、炭素数5以上の炭化水素生産性は1.67(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は88.5%であった。
(実施例24)
表4のXに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率69.9%、CH
4選択率4.6%、CO
2選択率0.6%、炭素数5以上の炭化水素生産性は2.11(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は87.9%であった。
【0039】
【表4】
【0040】
(実施例25)
内容積300mLのオートクレーブを用い、表1のAに示す触媒と50mLのn−C
16を仕込んだ後、230℃、2.0MPa−Gの条件下、撹拌子を800min
−1で回転させながら、最初はCO転化率が約70%になるようにW/FのF(合成ガス(H
2/CO=2)流量)を調整し、数時間の安定運転後、CO転化率が約90%となるように、W/FのF(合成ガス(H
2/CO=2)流量)を調整した。この状態で24時間運転後、最初のW/Fに戻し、さらに数時間の安定運転を実施することで約90%のCO転化率における高水分圧条件下での活性低下を確認後、圧力は維持し、温度を150℃に降温して、水素を100mL/minで供給してin−situで触媒再生を行った。この状態で30時間保持した後、合成ガスを最初のW/Fとなるように供給して230℃に昇温し、F−T合成反応を行った。
最初のCO転化率は71.8%、高いW/Fにおいて活性低下後、再度最初のW/Fに設定した際のCO転化率は62.8%、水素による再生後のCO転化率は68.5%であった。高いW/F条件に触媒を曝すことで活性低下し、CO転化率は9.0%減少したが、水素による再生によってCO転化率は5.7%回復した。
(比較例1)
表5のYに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率30.2%、CH
4選択率8.4%、CO
2選択率0.2%、炭素数5以上の炭化水素生産性は0.84(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は86.8%であった。
(比較例2)
表5のZに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率18.8%、CH
4選択率9.2%、CO
2選択率0.8%、炭素数5以上の炭化水素生産性は0.51(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は85.8%であった。
(比較例3)
表5のAAに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率67.8%、CH
4選択率4.8%、CO
2選択率0.4%、炭素数5以上の炭化水素生産性は2.04(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は77.6%であった。
(比較例4)
表4のABに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率72.5%、CH
4選択率4.5%、CO
2選択率0.7%、炭素数5以上の炭化水素生産性は2.18(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は78.1%であった。
(比較例5)
表4のACに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率18.5%、CH
4選択率9.5%、CO
2選択率0.9%、炭素数5以上の炭化水素生産性は0.50(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は80.3%であった。
(比較例6)
表5のADに示す触媒を用いて、F−T合成反応を行ったところ、CO転化率29.8%、CH
4選択率8.7%、CO
2選択率0.7%、炭素数5以上の炭化水素生産性は0.82(kg−炭化水素/kg−触媒/時間)、活性保持率は81.0%であった。
(比較例7)
表5のYに示す触媒を用いる他は、実施例25と同様の試験を実施した。最初のCO転化率は70.3%、高いW/Fにおける活性低下後のCO転化率は60.3%、水素による再生後のCO転化率は65.1%であった。高いW/F条件に触媒を曝すことで活性低下し、CO転化率は10.0%減少したが、水素による再生によってCO転化率は4.8%回復した。
【0041】
【表5】