特許第5919203号(P5919203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919203
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】自動操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/04 20060101AFI20160428BHJP
   G08G 3/00 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   B63H25/04 D
   G08G3/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-6345(P2013-6345)
(22)【出願日】2013年1月17日
(65)【公開番号】特開2014-136509(P2014-136509A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232357
【氏名又は名称】横河電子機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】新沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】桑田 守
【審査官】 中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−104291(JP,A)
【文献】 特開2006−188095(JP,A)
【文献】 特開昭61−119493(JP,A)
【文献】 特開2009−179263(JP,A)
【文献】 特開2008−299573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H,G08G3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め取得された航走体の運動性能及び航走体の航行によって得られた外乱特性に基づいて制御型多次元自己回帰モデルとしての航走体運動モデルを同定し、該航走体運動モデルから得られた最適制御ゲインを用いて航走体の針路偏差に応じた舵角指令値を出力する自動操舵装置であって、
前記外乱特性から外乱パワーが極大値を示す極大周波数を検出する外乱パワー演算部と、
前記針路偏差から前記極大周波数に相当する周波数成分を除去あるいは減衰させる制御フィルタと
を具備することを特徴とする自動操舵装置。
【請求項2】
前記制御フィルタは、前記極大周波数が複数ある場合には、ピーク周波数に相当する周波数成分を除去あるいは当該周波数成分を減衰させることを特徴とする請求項1記載の自動操舵装置。
【請求項3】
前記制御フィルタは、前記極大周波数を減衰中心周波数とするノッチフィルタ及び前記極大周波数をカットオフ周波数とするローパスフィルタを備えることを特徴とする請求項1または2記載の自動操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶等の航走体の針路を自動制御する自動操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、従来のPDI制御方式に代えて、制御型多次元自己回帰モデルを用いた制御方式の自動操舵装置が開示されている。この自動操舵装置は、被制御変数を船体の横揺れ角速度及び針路偏差とすると共に操作変数を舵角とし、操舵対象となる航走体の運動性能を示す運動特性行列に基づいて上記被制御変数に対応する操作変数を出力する制御型多次元自己回帰モデルを用いて航走体の舵(舵角)を制御するものである。上記制御型多次元自己回帰モデルは、航走体の基本的な運動性能を示す船体運動基本モデル(制御型多次元自己回帰モデル)に波浪等の外乱の特性(外乱特性)を示す外乱モデル(自己回帰モデル)を加味した自己回帰モデルである。なお、このような制御型多次元自己回帰モデルを用いた自動操舵装置については、下記特許文献2にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−104291号公報
【特許文献2】特開2009−179263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記外乱モデルは、最大6次の自己回帰モデルであるが、外乱の状態によっては外乱特性を十分に模擬したものになり得ない場合がある。そして、このような場合には、不必要な操舵を行うことになり、この分だけ航走体のエネルギー消費量が増大するという問題がある。
【0005】
本発明は、外乱に起因する不必要な操舵を減少させることにより航走体の不必要なエネルギー消費を低減することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、第1の解決手段として、予め取得された航走体の運動性能及び航走体の航行によって得られた外乱特性に基づいて制御型多次元自己回帰モデルとしての航走体運動モデルを同定し、該航走体運動モデルから得られた最適制御ゲインを用いて航走体の針路偏差に応じた舵角指令値を出力する自動操舵装置であって、外乱特性から外乱パワーが極大値を示す極大周波数を検出する外乱パワー演算部と、針路偏差から極大周波数に相当する周波数成分を除去あるいは減衰させる制御フィルタとを具備する、という手段を採用する。
【0007】
第2の解決手段として、上記第1の手段において、制御フィルタは、極大周波数が複数ある場合には、ピーク周波数に相当する周波数成分を除去あるいは当該周波数成分を減衰させる、という手段を採用する。
【0008】
第3の解決手段として、上記第1または第2の手段において、制御フィルタは、極大周波数を減衰中心周波数とするノッチフィルタ及び極大周波数をカットオフ周波数とするローパスフィルタを備える、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、制御型多次元自己回帰モデルが外乱特性を十分に模擬したものになり得ない場合であっても、制御フィルタによって外乱パワーの極大値に相当する周波数成分が針路偏差から除去あるいは減衰されるので、外乱に起因する不必要な操舵を減少させることが可能であり、よって不必要な操舵による航走体の不必要なエネルギー消費を減少させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るオートパイロットA(自動操舵装置)の機能構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態におけるピーク周波数fpの特定方法を示す模式図(a)及びピーク周波数fpに基づく制御フィルタ3の減衰特性を示す特性図(b)である。
図3】本発明の一実施形態における舵角指令値のパワースペクトルの一例を示す特性図(a)及び当該特性図の一部拡大図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。なお、本実施形態に係る自動操舵装置は、船舶用の自動操舵装置(一般的にオートパイロットと称する。)である。
【0012】
図1は、本実施形態に係るオートパイロットA(自動操舵装置)の機能構成を示すブロック図である。本オートパイロットAは、図示するように、針路設定部1、減算器2、制御フィルタ3、微分器4、移動平均フィルタ5、PID制御器6、舵角リミッタ7、船体運動モデル8、ゲインスケジューラ9及び周波数設定部10を備えている。
【0013】
針路設定部1は、操舵者によって設定された設定針路(針路目標値)を記憶すると共に当該針路目標値を減算器2に出力する。減算器2は、上記針路設定部1から入力される針路目標値と船舶に別途備えられたジャイロコンパスから供給される方位(針路検出値)との差分、つまり針路偏差を演算して制御フィルタ3及び船体運動モデル8に出力する。ここで、上記ジャイロコンパスは、周知のように船舶の航行方向を方位として検出する一種の計測装置であり、自らが検出した方位を船舶の針路検出値としてオートパイロットAに出力する。
【0014】
制御フィルタ3は、上記減算器2から入力される針路偏差に所定のフィルタ処理を施すことにより所定の周波数成分を除去あるいは減衰させるフィルタである。すなわち、制御フィルタ3は、針路偏差に含まれる外乱成分(ノイズ成分)を所定の周波数成分として除去あるいは所定の減衰量だけ減衰させ、上記外乱成分が除去あるいは所定の減衰量だけ減衰した針路偏差(外乱処理針路偏差)をPID制御器6に出力する。上記外乱成分(ノイズ成分)は、船舶に作用する波浪や風等に起因するものである。
【0015】
このような制御フィルタ3は、例えば2次のノッチフィルタ及び1次のローパスフィルタから構成されている。ノッチフィルタは、バンドストップフィルタあるいは帯域除去フィルタとも呼ばれるものであり、上記所定の周波数成分だけを非常に低いレベルに減衰させるフィルタである。本明細書では、このようなノッチフィルタにおいて最大減衰量となる周波数を減衰中心周波数という。
【0016】
また、ローパスフィルタは、所定周波数(カットオフ周波数)より低い周波数成分はほとんど減衰させず、上記カットオフ周波数より高い周波数の成分をより大きく減衰させるフィルタである。なお、上記カットオフ周波数は遮断周波数ともいう。このような制御フィルタ3における減衰中心周波数及びカットオフ周波数は、周波数設定部10によって適宜設定されるものであり、例えば同一周波数に設定される。
【0017】
微分器4は、ジャイロコンパスから入力される方位を微分処理することにより方位変化率(船舶の回頭速度)を演算し、当該回頭速度を移動平均フィルタ5に出力する。移動平均フィルタ5は、所定の移動幅(時間幅)で上記回頭速度を移動平均処理することにより、所定時間に亘って平均化された回頭速度(平均回頭速度)をPID制御器6に出力する。このような移動平均フィルタ5による回頭速度の平均化処理は、波浪等による外乱(ノイズ)の影響を低減させるためのものである。
【0018】
PID制御器6は、制御フィルタ3から入力される外乱処理針路偏差、移動平均フィルタ5から入力される平均回頭速度及びゲインスケジューラ9から入力される最適制御ゲイン等に基づいて比例制御量(P制御量)、積分制御量(I制御量)及び微分制御量(D制御量)を演算し、また当該比例制御量、積分制御量及び微分制御量を合算することにより舵角指令値(操作量)を演算して舵角リミッタ7に出力する。
【0019】
より詳細には、PID制御器6は、上記最適制御ゲイン(比例ゲイン)を1制御ステップ前の舵角指令値に乗算することにより比例制御量を計算し、また上記平均回頭速度に所定の微分ゲインを乗算することにより微分制御量を計算し、さらに上記外乱処理針路偏差を積分処理して得られた値に所定の積分ゲインを乗算することによって積分制御量を計算する。また、PID制御器6は、このようにして各々計算された比例制御量、積分制御量及び微分制御量を全て加算することにより舵角指令値を計算する。なお、上記微分ゲイン及び積分ゲインは、制御パラメータとしてPID制御器6に予め記憶されたものである
【0020】
舵角リミッタ7は、上記舵角指令値に対する上限値、つまり右舵(面舵)に対する右上限値及び左舵(取舵)に対する左上限値を保持しており、当該上限値に基づく制限処理を舵角指令値に施すことにより制限舵角指令値とし、当該制限舵角指令値を操舵機に出力する。すなわち、右上限値を超える舵角指令値は舵角リミッタ7によって右上限値に置換され、また左上限値を超える舵角指令値は舵角リミッタ7によって左上限値に置換されてて操舵機に出力される。なお、操舵機は、周知のように船舶の舵を駆動する駆動装置であり、舵を上記舵角指令値に応じた角度(舵角)に設定する。
【0021】
船体運動モデル8は、船舶の基本的な運動性能を示す船体運動基本モデル(制御型多次元自己回帰モデル)と船舶に作用する外乱の特性(外乱特性)を示す外乱モデル(1〜6次元自己回帰モデル)とからなる制御型多次元自己回帰モデルである。この船体運動モデル8は、減算器2から入力される針路偏差及び舵角リミッタ7から入力される舵角指令値に基づく外乱の影響を加味した針路偏差の推定値を示すものである。
【0022】
上記船体運動基本モデルは、船舶の基本的な運動性能を示す基本運動特性行列、減算器2から入力される現在及び過去の制御ステップにおける針路偏差及び舵角リミッタ7から入力される現在及び過去の制御ステップにおける舵角指令値に基づいて次の制御ステップにおける針路偏差の推定値(推定針路偏差)を出力する。なお、上記運動特性行列は、外乱が作用しない状態における船舶の航行によって予め取得され、船体運動モデル8に記憶されたものである。
【0023】
外乱モデルは、上記推定針路偏差に関する複数のサンプリング値を統計処理することによって得られる外乱特性行列及び現在及び過去の制御ステップにおける外乱量に基づいて、次の制御ステップにおける外乱量の推定値(推定外乱量)を出力する。すなわち、上記外乱特性行列は、船舶の実航行に基づく学習によって獲得されるものであり、実航行における外乱特性を示すものである。このような外乱モデルの次数は、例えば1次〜6次の範囲である。なお、上記サンプリング値は、上記推定針路偏差を所定のサンプリング期間かつ所定のサンプリング周期Δtで複数サンプリングして得られる推定針路偏差の標本値である。
【0024】
このような船体運動基本モデル及び外乱モデルからなる船体運動モデル8は、外乱の影響を加味した船舶の運動性能を示す外乱適応運動特性行列、また現在及び過去の制御ステップにおける針路偏差及び舵角指令値に基づいて次の制御ステップにおける針路偏差を推定する。すなわち、船体運動モデル8は、外乱適応型の制御型多次元自己回帰モデルであり、外乱モデルが同定されることによって、つまり船舶の実航行によって最終的に同定されるものである。なお、このような外乱適応型の制御型多次元自己回帰モデルについては、特許文献1に詳細が記載されており周知の事柄なので、これ以上の説明を省略する。
【0025】
ゲインスケジューラ9は、上記船体運動モデル8から取得した外乱適応運動特性行列に基づいて操舵に要するエネルギー消費量が最小となる制御ゲイン(最適制御ゲイン)を求める演算部である。すなわち、このゲインスケジューラ9は、操舵に要するエネルギーの最小化条件を求める問題(操舵エネルギー最小化問題)を解くことによって最適制御ゲインを求める。このようなゲインスケジューラ9は、最終的に得られた最適制御ゲインを上記PID制御器6に出力する。
【0026】
周波数設定部10は、上記船体運動モデル8から取得した外乱特性行列に基づいて外乱のパワースペクトル(外乱パワーの周波数特性)を演算し、当該外乱のパワースペクトルにおいて外乱パワーが最大となる周波数(ピーク周波数)を上記制御フィルタ3の減衰中心周波数及びカットオフ周波数に設定する。より具体的には、周波数設定部10は、下式(1)のパワースペクトル関数P(f)に基づいて外乱のパワースペクトルを計算する。
【0027】
【数1】
【0028】
なお、このパワースペクトル関数P(f)において、「f」は周波数であり、例えば0〜0.5Hzの周波数範囲かつ0.05Hz刻みの値である。「σ」は上述した推定針路偏差に関する複数のサンプリング値の分散である。「a」は外乱特性行列の各要素(係数)である。「m」,「M」は外乱モデルの次数である。また、「Δt」は推定針路偏差のサンプリング周期(例えば1秒)である。なお、上記0〜0.5Hzに亘る周波数範囲は、PID制御器6の制御帯域である。
【0029】
周波数設定部10は、このようなパワースペクトル関数P(f)を用いて外乱のパワースペクトルを計算すると、図2(a)に示すように、0.05Hzの周波数差を有する2点fa,fbのパワー値Pa,Pbの大小関係を0〜0.5Hzの周波数範囲に亘って評価することにより上記ピーク周波数fpを特定する。例えば、矢印で示すように0Hzから0.5Hzに向かって評価する場合、ピーク周波数fpの前後において2つのパワー値Pa,Pbの大小関係がPa≦PbからPa≧Pbに変化するので、この大小関係が最初に変化した際の低い方の周波数つまり周波数faをピーク周波数fpとする。
【0030】
周波数設定部10は、このようにしてピーク周波数fpを特定すると、当該ピーク周波数fpを制御フィルタ3の減衰中心周波数及びカットオフ周波数に設定する。すなわち、周波数設定部10は、図2(b)に示すように、ノッチフィルタの減衰中心周波数を及びローパスフィルタのカットオフ周波数がピーク周波数fpとなるように制御フィルタ3の減衰特性を設定する。
【0031】
次に、本オートパイロットAの作用・効果について、図3をも参照して詳しく説明する。
【0032】
上述した構成を備える本オートパイロットAは、ジャイロコンパスから供給される方位に基づいて操舵機(つまり船舶の舵)をフィードバック制御することにより船舶を設定針路に沿って自動航行させる一種の制御装置として機能する。すなわち、操舵機に供給される舵角指令値は、PID制御器6によって、減算器2によって演算された針路偏差、つまり針路設定部1から入力される針路目標値(設定針路)とジャイロコンパスから供給された方位(針路検出値)との差分が「0」になるように生成される。
【0033】
また、本オートパイロットAは、予め設定された制御周期で動作するが、上記舵角指令値は、1制御ステップ前の舵角指令値にゲインスケジューラ9から供給される最適制御ゲイン(比例ゲイン)を乗算して得られる比例制御量、移動平均フィルタ5から供給される平均回頭速度に微分ゲイン(制御パラメータ)を乗算して得られた微分制御量、また制御フィルタ3から供給された外乱処理針路偏差を積分処理した後に積分ゲイン(制御パラメータ)を乗算して得られた積分制御量を合算したものとして計算される。
【0034】
ここで、上記最適制御ゲイン(比例ゲイン)は、ゲインスケジューラ9によって、制御周期毎に船体運動モデル8で同定された外乱適応型の制御型多次元自己回帰モデルに基づいて、操舵に要するエネルギー消費量が最小となるように演算されたものである。また、上記外乱適応型の制御型多次元自己回帰モデルは、外乱の存在下における各舵角に応じた船舶の運動性能を模擬するものである。
【0035】
すなわち、上記最適制御ゲイン(比例ゲイン)は、外乱の存在下において操舵に要するエネルギー消費量が最小となるように最適設定されたものなので、上記舵角指令値は、船舶の実航行において操舵に要するエネルギー消費量を最小化しつつ船舶を設定針路に沿って航行させる操作量である。したがって、本オートパイロットAによれば、操舵に要するエネルギー消費量を最小化しつつ船舶を設定針路に沿って航行させることが可能である。
【0036】
一方、ジャイロコンパスから供給された方位(針路検出値)は実航行における外乱の影響を含むものである。また、上記外乱適応型の制御型多次元自己回帰モデルにおける外乱モデルは、現在及び過去における複数の制御ステップの推定針路偏差のサンプリング値から同定されたものであり、現在の外乱に対して多少の誤差を含むものである。したがって、制御フィルタ3及び周波数設定部10を割愛して生成された舵角指令値は、外乱の影響を多少含むものとなる。
【0037】
これに対して、本オートパイロットAでは、制御フィルタ3及び周波数設定部10が設けられているので、PID制御器6で生成される舵角指令値は、制御フィルタ3及び周波数設定部10を割愛した場合に対比して、外乱の影響を排除あるいは減少させたものとなる。
【0038】
すなわち、制御フィルタ3の減衰中心周波数及びカットオフ周波数は、外乱モデルを構成する外乱特性行列の要素(係数)に基づいて、式(1)で計算された外乱のパワースペクトル(外乱パワーの周波数特性)のピーク周波数fpに設定されているので、制御フィルタ3からPID制御器6に入力される外乱処理針路偏差は、減算器2から出力される針路偏差から外乱の影響を効果的に排除あるいは減少させたものとなる。したがって、本オートパイロットAによれば、操舵に要するエネルギー消費量を最小化しつつ船舶を設定針路に沿って航行させるだけではなく、外乱に起因する不必要な操舵を減少させて航走体のエネルギー消費量をさらに低減させることが可能である。
【0039】
図3(a)は、本オートパイロットAにおける舵角指令値のパワースペクトルの一例を示す特性図である。なお、図3(a)において、「バッチ1」のパワースペクトルは、本オートパイロットAのパワースペクトルであり、「バッチ2」及び「バッチ3」のパワースペクトルは、制御フィルタ3及び周波数設定部10を削除した場合のパワースペクトルである。この特性図を見ると、舵角指令値のパワースペクトルの高周波側、つまり0.2〜0.3Hzに着目すると、図3(b)に示すように、外乱成分のレベルが制御フィルタ3及び周波数設定部10の有無によって大幅に異なる。
【0040】
すなわち、本オートパイロットAによれば、減衰中心周波数及びカットオフ周波数が0.25Hz(=ピーク周波数fp)に設定された制御フィルタ3によって針路誤差に含まれる0.2〜0.3Hz(中心周波数=0.25Hz)の外乱成分を減衰させることにより、舵角指令値のパワースペクトルにおける外乱成分を大幅に減衰させることが可能であり、この結果として外乱成分に起因する不必要な操舵を減少させて航走体のエネルギー消費量をさらに低減させることができる。ここで、上記0.2〜0.3Hzの周波数帯域は、制御帯域(0〜0.5Hz)の高周波側に位置しており、本オートパイロットAによる操舵器の制御特性に殆ど影響を与えない周波数帯域である。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、制御フィルタ3をノッチフィルタとローパスフィルタとから構成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、制御フィルタ3をノッチフィルタあるいはローパスフィルタのいずれか一方によって構成してもよい。
【0042】
(2)上記実施形態では、外乱のパワースペクトルのピーク周波数fpを所定の周波数差を有する2点fa,fbのパワー値Pa,Pbの大小関係に基づいて特定したが、本発明はこれに限定されない。例えば、外乱特性行列の要素(係数)の特性根を求め、当該特性根からピーク周波数fpを求めてもよい。すなわち、式(2)に示す方程式を解くことによって特性根zを求め、この特性根zを式(3)に代入することによってピーク周波数fpを求める。
【0043】
【数2】
【0044】
【数3】
【符号の説明】
【0045】
A…オートパイロット、1…針路設定部、2…減算器、3…制御フィルタ、4…微分器、5…移動平均フィルタ、6…PID制御器、7…舵角リミッタ、8…船体運動モデル、9…ゲインスケジューラ、10…周波数設定部
図1
図2
図3