特許第5919259号(P5919259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5919259-ガスバリア積層フィルムとその製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919259
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】ガスバリア積層フィルムとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20160428BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   C23C14/34 D
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-507750(P2013-507750)
(86)(22)【出願日】2012年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2012058477
(87)【国際公開番号】WO2012133703
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2015年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-81283(P2011-81283)
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22〜24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽エネルギー技術研究開発/太陽光発電システム次世代高性能技術の開発/超ハイガスバリア太陽電池部材の研究開発」に係る共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006172
【氏名又は名称】三菱樹脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】天内 英隆
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 亮
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−238805(JP,A)
【文献】 特開2001−335926(JP,A)
【文献】 特開2003−340971(JP,A)
【文献】 特許第2682124(JP,B2)
【文献】 特開平11−068134(JP,A)
【文献】 特開2010−184409(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/090982(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 − 43/00
C08J 7/04 − 7/06
C23C 14/00 − 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面に、複数層の無機薄膜層を形成するガスバリア積層フィルムの製造方法であって、前記無機薄膜層における前記基材フィルム側の第1層を対向ターゲットスパッタ法により成膜し、該第1層上に、真空蒸着法又は触媒化学蒸着法により無機薄膜層を形成するガスバリア積層フィルムの製造方法
【請求項2】
前記無機薄膜層における前記基材フィルム側の第1層が、典型金属あるいは3d遷移金属と酸素及び/又は窒素を含有する化合物からなる層であることを特徴とする請求項1記載のガスバリア積層フィルムの製造方法
【請求項3】
前記無機薄膜層における前記基材フィルム側の第1層が、酸素及び/又は窒素を含有する珪素化合物、若しくは酸化アルミニウムからなる層である請求項1記載のガスバリア積層フィルムの製造方法
【請求項4】
前記真空蒸着法又は触媒化学蒸着法により形成した無機薄膜層が、酸素及び/又は窒素を含有する珪素化合物からなる層である請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア積層フィルムの製造方法
【請求項5】
前記真空蒸着法又は触媒化学蒸着法により形成した無機薄膜層が、複数層が連続した無機薄膜層における、基材から最も離れた側の最上層である1〜4のいずれかに記載のガスバリア積層フィルムの製造方法
【請求項6】
前記複数層の無機薄膜層を大気開放することなく不活性ガス雰囲気中、あるいは真空中で、連続して形成する請求項1〜のいずれかに記載のガスバリア積層フィルムの製造方法
【請求項7】
前記無機薄膜層における前記基材フィルム側の第1層の厚さが0.1〜500nmである請求項1〜のいずれかに記載のガスバリア積層フィルムの製造方法
【請求項8】
前記無機薄膜層における前記基材フィルム側の第1層の厚さが0.1〜50nmである請求項1〜のいずれかに記載のガスバリア積層フィルムの製造方法
【請求項9】
基材フィルムと前記無機薄膜層における前記基材フィルム側の第1層との間にアンカーコート層を形成する請求項1〜のいずれかに記載のガスバリア積層フィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装、液晶表示素子、無機太陽電池、電磁波シールド、タッチパネル、カラーフィルター、真空断熱材や、有機EL(エレクトロルミネッセンス) 、有機太陽電池、有機TFT等の有機デバイス等に使用するガスバリア積層フィルムとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムを基材とし、その表面に無機薄膜を形成したガスバリア性プラスチックフィルムは、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装、例えば、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装に広く利用されている。また、このガスバリア性プラスチックフィルムについては、包装用途以外にも、近年、液晶表示素子、無機太陽電池、電磁波シールド、タッチパネル、カラーフィルター、真空断熱材や、有機EL、有機太陽電池、有機TFT等の有機デバイス等で使用する透明導電シートや真空断熱材などの新しい用途も注目されている。
このような分野において、無機材料の高性能ガスバリア膜を、真空蒸着法、マグネトロンスパッタ法、RFスパッタ法、プラズマCVD法、イオンプレーティング法等によりコーティングする構成が提案されている(例えば、特許文献1〜4)。
しかしながら、上記いずれの製法によっても、得られるプラスチックフィルムのガスバリア性は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3319164号
【特許文献2】特開2006−96046号公報
【特許文献3】特開平6−210790号公報
【特許文献4】特開2009−101548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、無機薄膜層を成膜する基材フィルム、特に、樹脂フィルムに対するダメージが少なく、緻密性の高い無機薄膜層が成膜され、ガスバリア性が高いガスバリア積層フィルムとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、従来の製法における課題が無機薄膜層における膜の緻密性や、成膜時のダメージに起因することを見出した。すなわち、真空蒸着法で無機薄膜層を成膜した場合においては、一般的に膜の緻密性はスパッタ法、CVD法に比べると低く、ガスバリア性を発現させるための膜質としては不十分であることがわかった。さらに、蒸着源からの熱輻射による基材フィルムへのダメージがバリア性能を低下させる要因となっていることもわかった。従来法のスパッタ法であるマグネトロンスパッタ法、RFスパッタ法、あるいはプラズマCVD法で成膜した場合においては、膜の緻密性は高いものの、基材フィルムが直接プラズマにさらされることになるため、プラズマによる基材フィルムへのダメージによりバリア性能が低下する。一方、放電電力を低下させて成膜することによりプラズマダメージを低減することは可能であるが、この場合は成膜速度が大きく低下し、生産性の面で大きな問題となる。イオンプレーティング法で成膜した場合においては、励起源を選択することにより、プラズマダメージ、あるいは熱輻射によるダメージを抑制できるものの、原料ターゲット励起により副次的に生成されるイオン、電子、X線により、基材フィルムがダメージを受けるため、バリア性能が低下する。
この点、無機薄膜層における前記基材フィルム側の第1層を対向ターゲットスパッタ法により成膜すれば、従来法のスパッタ法と同等の緻密性の高い無機薄膜層の成膜が可能であり、かつ、基材フィルムが直接プラズマにさらされることを抑制出来るため、放電電力を低下させて成膜速度を低下させることなく、成膜時の基材フィルムへのプラズマダメージを大きく減少させることができるため、優れたガスバリア性を実現することができる。
すなわち、本発明は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、一層又は複数層の無機薄膜層を形成してなるガスバリア積層フィルムであって、前記無機薄膜層における前記基材フィルム側の第1層が対向ターゲットスパッタ法により成膜されてなるガスバリア積層フィルム、並びに、基材フィルムの少なくとも一方の面に、一層又は複数層の無機薄膜層を形成するガスバリア積層フィルムの製造方法であって、前記無機薄膜層における前記基材フィルム側の第1層を対向ターゲットスパッタ法により成膜するガスバリア積層フィルムの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のガスバリア積層フィルムは、樹脂フィルムに対するダメージが少なく、緻密性の高い無機薄膜層を成膜され、ガスバリア性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】対向ターゲットスパッタ法に用いる装置を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
<ガスバリア積層フィルム>
本発明のガスバリア積層フィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の面に、一層又は複数層の無機薄膜層を形成してなるガスバリア積層フィルムであって、前記無機薄膜層における前記基材フィルム側の第1層が対向ターゲットスパッタ法により成膜されてなる。
【0009】
[基材フィルム]
本発明のガスバリア積層フィルムの基材フィルムとしては、透明高分子フィルムであることが好ましく、この点から熱可塑性高分子フィルムからなるものがより好ましい。その原料としては、通常の包装材料に使用しうる樹脂であれば特に制限なく用いることができる。具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体などのポリオレフィン;環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド;ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体部分加水分解物(EVOH)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリアリレート、フッ素樹脂、アクリレート樹脂、生分解性樹脂などが挙げられる。これらの中では、フィルム強度、コストなどの点から、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、生分解性樹脂が好ましい。
また、上記基材フィルムは、公知の添加剤、例えば、帯電防止剤、光線遮断剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、フィラー、着色剤、安定剤、潤滑剤、架橋剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤等を含有することができる。
【0010】
上記基材フィルムとしての熱可塑性高分子フィルムは、上記の原料を用いて成形してなるものであるが、基材として用いる際は、未延伸であってもよいし延伸したものであってもよい。また、他のプラスチック基材と積層されていてもよい。かかる基材フィルムは、従来公知の方法により製造することができ、例えば、原料樹脂を押出機により溶融し、環状ダイやTダイにより押出して、急冷することにより実質的に無定形で配向していない未延伸フィルムを製造することができる。この未延伸フィルムを一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸などの公知の方法により、フィルムの流れ(縦軸)方向又はフィルムの流れ方向とそれに直角な(横軸)方向に延伸することにより、少なくとも一軸方向に延伸したフィルムを製造することができる。
【0011】
基材フィルムの厚さは、本発明のガスバリア積層フィルムの基材としての機械強度、可撓性、透明性等の点から、その用途に応じ、通常5〜500μm、好ましくは10〜200μmの範囲で選択され、厚さが大きいシート状のものも含む。また、フィルムの幅や長さについては特に制限はなく、適宜用途に応じて選択することができる。
【0012】
[無機薄膜層]
本発明において、無機薄膜層を構成する無機物質としては、典型金属、あるいは3d遷移金属と酸素、窒素、炭素を含有する化合物、例えば、珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、インジウム、ガリウム等、あるいはこれらの酸化物、炭化物、窒化物またはそれらの混合物が挙げられるが、高いガスバリア性が安定に維持できる点で、好ましくは典型金属、あるいは3d遷移金属と酸素及び/又は窒素を含有する化合物、より好ましくは酸素及び/又は窒素を含有する珪素化合物、若しくは酸化アルミニウムであり、この中でも酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウムが特に好ましい。また、前記無機物質以外に、例えば、ダイアモンドライクカーボンなどの炭素を主体とした物質を用いても良い。
【0013】
前記無機薄膜層における前記基材フィルム側の第1層(以下、「下地層」ということがある)を構成する物質としては、例えば、ガスバリア性と基材フィルムとの密着性の点から、酸素及び窒素を含有する珪素化合物(SiOxNy)、又は酸化アルミニウム(AlOz)が好ましく、酸化アルミニウム(AlOz)が特に好ましい。
ここで、xとyは、0≦x≦2.0、0≦y≦1.3、0≦x/2.0+y/1.3≦1であり、yは好ましくは0.1〜1.3あるが、より好ましくは0.5〜1.1である。zは0≦x≦1.5であり、好ましくは1〜1.5であるが、より好ましくは1.2〜1.5である。
前記無機薄膜層全体の厚さは、通常0.1〜1000nm、好ましくは10〜500nm、より好ましくは10〜300nm、最も好ましくは10〜150nmである。
前記下地層の厚さは、通常0.1〜500nmであるが、薄い方がガスバリア性が高い場合もある。その場合には、好ましくは0.1〜200nm、より好ましくは0.1〜100nmであり、特に好ましくは0.1〜50nm、最も好ましくは0.1〜25nmである。
上記範囲内であれば、十分なガスバリア性が得られ、また、薄膜に亀裂や剥離を発生させることなく、透明性にも優れている。
【0014】
前記無機薄膜層は、前記基材フィルムに対して一層又は複数層を形成してなるが、より優れたガスバリア性を実現する目的から、複数層有するものであることが好ましい。
この場合、下地層以外の層である前記基材フィルム側から第2層以降の層の形成方法は特に限定されず、化学蒸着法、物理蒸着法が挙げられ、例えば、真空蒸着法、マグネトロンスパッタ法、RFスパッタ法、プラズマCVD法、イオンプレーティング法、対向ターゲットスパッタ法、触媒化学蒸着法等の様々な方法で形成することができる。
また、前記複数層の無機薄膜層を大気開放することなく不活性ガス雰囲気中、あるいは真空中で連続して形成してなると、非連続の場合に比べバリア性能が向上するため好ましい。これは大気成分による表面の過剰酸化、あるいは不活性化が生じないためと考えられる。
【0015】
また、前記基材フィルム側の第1層(下地層)上に形成してなる層としては、特に限定されないが、形成した下地層、あるいは他の無機薄膜層に、プラズマによるダメージを与えないことから、真空蒸着法、触媒化学蒸着(Cat−CVD)法等の非プラズマ成膜法により形成された層とすることが好ましい。また、成膜速度が速く、短時間で十分な膜厚の無機薄膜層を形成できることから、生産性の観点から真空蒸着法により形成された層とすることが好ましい。真空蒸着法としては、特に真空加熱蒸着法がさらに好ましい。Cat−CVD法は緻密性が高い膜ができるという点で好ましい。
なお、Cat−CVD法は、触媒化学蒸着装置を使用して行う方法であって、真空下で加熱触媒体である金属触媒線を加熱し、材料ガスをこの金属触媒線と接触させ、触媒分解することにより基材フィルム上に主原料ガスを構成する元素を主要骨格物質とする薄膜を形成する方法である。
真空蒸着法又は触媒化学蒸着法で下地層の上に形成する層としては、耐湿熱性、耐食性等の耐久性の観点から、酸素及び/又は窒素を含有する珪素化合物からなる層が好ましく、酸化珪素からなる層が特に好ましい。
また、上述の効果は、前記真空蒸着法又は触媒化学蒸着法により形成した無機薄膜層が、複数層が連続した無機薄膜層における、基材から最も離れた側の最上層である場合が最も効果が高いため、好ましい。なお、基材から最も離れた側の最上層である場合とは、例えば、無機薄膜層が、無機複数層1/有機層/無機複数層2という構成の場合、最上層とは、無機複数層1,2のそれぞれの最上層を意味する。
【0016】
[成膜方法]
本発明において、無機薄膜層の下地層は、対向ターゲットスパッタ法(FTS法)により成膜される。
FTS法は、スパッタターゲットが成膜基材と垂直に向かい合う形で配置された装置(例えば、特開2007−23304の[0051]〜[0053]及び図3参照)を用いて成膜する方法であり、図1を用いて説明すると、ターゲット2、3を対向させて設置した装置内にガスを入れ、電極(陽極)4と電極(陰極)5により磁場を発生させ、プラズマ雰囲気(破線内)とする。当該雰囲気下でターゲットがスパッタされることで、ターゲットから無機材料を飛散させて、基材フィルム1の表面に被着させて無機薄膜層を形成する。
FTS法は、ターゲット間に挟まれた領域にプラズマが閉じ込められているため、基材がプラズマや2次電子に直接さらされず、その結果として低ダメージで成膜が可能であると同時に、従来のスパッタ法同様、緻密性の高い薄膜が成膜可能である。このように成膜すべき基材フィルムへのダメージを抑え、緻密性の高い無機薄膜層を成膜できるため、FTS法は、バリアフィルムの薄膜成膜法として適している。
【0017】
本発明で用いるFTS法の条件としては、状況により適宜選定すれば良いが、成膜圧力0.1〜1Pa、電力0.5〜10kW、周波数1〜1000kHz、パルス幅1〜1000μsecであると好ましい。上記範囲内であれば、成膜するバリアフィルムは十分なガスバリア性が得られ、また、成膜時に亀裂や剥離を発生させることなく、透明性にも優れている。
導入ガスであるAr、N2、O2は、成膜圧力により導入量を調整し、Ar、N2,O2の流量割合は、成膜する層が所望の組成になるよう調整する。
【0018】
[アンカーコート層]
本発明においては、前記基材フィルムと前記無機薄膜層との密着性向上のため、基材フィルムと下地層の間に、アンカーコート剤を塗布してアンカーコート層を設けることが好ましい。アンカーコート剤としては、生産性の点から、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、シリコーン系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、ビニル系変性樹脂、イソシアネート基含有樹脂、カルボジイミド系樹脂、アルコキシル基含有樹脂、エポキシ系樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、変性スチレン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、アルキルチタネート系樹脂、ポリパラキシリレン系樹脂等を単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0019】
基材フィルム上に設けるアンカーコート層の厚さは通常0.1〜5000nm、好ましくは1〜2000nm、より好ましくは1〜1000nmである。上記範囲内であれば、滑り性が良好であり、アンカーコート層自体の内部応力による基材フィルムからの剥離もほとんどなく、また、均一な厚さを保つことができ、更に層間の密着性においても優れている。
また、基材フィルムへのアンカーコート剤の塗布性、接着性を改良するため、アンカーコート剤の塗布前に基材フィルムに通常の化学処理、放電処理などの表面処理を施してもよい。
【0020】
[ガスバリア積層フィルムの構成]
本発明のガスバリア積層フィルムとしては、ガスバリア性、密着性の点から、以下のような態様を好ましく用いることができる。
下記で、例えば、A/B/Cの表記は、下から(あるいは上から)A、B、Cの順に積層していることを示す。
(1)基材フィルム/FTS無機薄膜層
(2)基材フィルム/FTS無機薄膜層/無機蒸着薄膜層
(3)基材フィルム/FTS無機薄膜層/FTS無機薄膜層
(4)基材フィルム/AC/FTS無機薄膜層
(5)基材フィルム/AC/FTS無機薄膜層/無機蒸着薄膜層
(6)基材フィルム/AC/FTS無機薄膜層/FTS無機薄膜層
等の積層構成を挙げることができる。
なお、ACはアンカーコート層、FTS無機薄膜層はFTS法により形成された無機薄膜層、無機蒸着薄膜層は、物理蒸着法、好ましくは真空蒸着法により形成された無機薄膜層であり、前記無機蒸着薄膜層が触媒化学蒸着法により形成された無機薄膜層であっても良い。
【0021】
このようにして得られる本発明のガスバリア積層フィルムは、ガスバリア性に優れることから、40℃、90%RH条件下での透湿度が、0.3g/m2/day以下、更には、0.1g/m2/day以下とすることができる。また、更には0.05g/m2/day以下とすることができる。
また、薄膜に亀裂や剥離を発生させることなく、透明性にも優れていることから、本発明のガスバリア積層フィルムは、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装、液晶表示素子、無機太陽電池、電磁波シールド、タッチパネル、カラーフィルター、真空断熱材や、有機EL、有機太陽電池、有機TFT等の有機デバイス等あらゆる用途に使用できることができるが、特に優れたバリア性を必要とする液晶表示素子、太陽電池、有機デバイス、真空断熱材等の電子デバイス用の保護シートとして好ましく使用される。
【実施例】
【0022】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、各例で得られたガスバリア積層フィルムの性能評価は、下記のように行った。
<水蒸気透過率>
JIS Z0222「防湿包装容器の透湿度試験方法」、JIS Z0208「防湿包装材量の透湿度試験方法(カップ法)」の諸条件に準じ、次の手法で評価した。
透湿面積10.0cm×10.0cm角の各ガスバリア積層フィルムを2枚用い、吸湿剤として無水塩化カルシウム約20gを入れ四辺を封じた袋を作製し、その袋を温度40℃相対湿度90%の恒温恒湿装置に入れ、48時間以上間隔で重量増加がほぼ一定になる目安として6.9日間まで、質量測定(0.1mg単位)し、水蒸気透過率を下記式から算出した。
水蒸気透過率[g/m2/day]=(m/s)/t
m; 試験期間最後2回の秤量間隔の増加質量(g)
s; 透湿面積(m2
t; 試験期間最後2回の秤量間隔の時間(day)/5.97(day)
【0023】
<FTS法により形成した無機薄膜層の膜厚の調整>
無機薄膜の膜厚については、予めそれぞれの成膜条件で成膜した単層薄膜の膜厚を段差計により測定し、その成膜時間と膜厚から、それぞれの成膜条件での成膜速度を算出する。以後、それぞれの成膜条件での成膜速度から、成膜時間を調整して成膜することにより、無機薄膜層の膜厚を調整した。
【0024】
<PVD法により形成した無機薄膜層の膜厚の測定>
無機薄膜の膜厚の測定は蛍光X線を用いて行った。この方法は、原子にX線を照射すると、その原子特有の蛍光X線を放射する現象を利用した方法で、放射される蛍光X線強度を測定することにより原子の数(量)を知ることが出来る。具体的には、フィルム上に既知の2種の厚みの薄膜を形成し、それぞれについて放射される特定の蛍光X線強度を測定し、この情報より検量線を作成する。測定試料について同様に蛍光X線強度を測定し、検量線からその膜厚を測定した。
【0025】
以下、上記下地層等の「層」について、「SiOxNy膜」等の「膜」と表記している場合がある。
実施例1
基材フィルムとして、厚さ12μmのポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン製、「Q51C」)を用い、そのコロナ処理面に、イソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業製「コロネートL」)と飽和ポリエステル(東洋紡績製「バイロン300」、数平均分子量23000)とを1:1質量比で配合した混合物を塗布乾燥して厚さ0.1μmのアンカーコート層を形成した。
次いで、FTS法により、成膜圧力0.3Pa、電力2000W、周波数100kHz、パルス幅4μsecの条件で、アンカーコート層上に厚さ50nmのSiOxNy膜を形成し、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
得られたSiOxNy膜の組成をXPS法で評価したところ、x=0.20、y=0.99であった。
【0026】
実施例2
実施例1において、SiOxNy膜上に、真空蒸着装置を使用して2×10-3Paの真空下でSiOを蒸発させ、厚さ50nmのSiOxの真空蒸着膜(PVD膜)を形成した以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
実施例3
実施例2において、SiOxNy膜の厚さを10nmとした以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0027】
実施例4
実施例1において、SiOxNy膜の代わりに、FTS法により表1に記載の条件で厚さ50nmのAlOz膜を形成し、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
得られたAlOz膜の組成をXPS法で評価したところ、z=1.25であった。
実施例5
実施例2において、SiOxNy膜の代わりに、FTS法により表1に記載の条件で厚さ100nmのAlOz膜を形成し、その上に厚さ30nmのSiOxの真空蒸着膜(PVD膜)を形成した以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0028】
実施例6
実施例5において、AlOz膜の厚さを50nmとし、SiOxの真空蒸着膜(PVD膜)の厚さを50nmとした以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
得られたAlOz膜の組成をXPS法で評価したところ、z=1.25であった。
実施例7
実施例6において、AlOz膜の厚さを25nmとした以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0029】
実施例8
実施例5において、AlOz膜の厚さを10nmとした以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
実施例9
実施例5において、AlOz膜からPVD膜の成膜まで、大気開放しない真空連続で行った以外は表1に記載の条件で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
得られたAlOz膜の組成をXPS法で評価したところ、z=1.23であった。
【0030】
実施例10
実施例9において、AlOz膜の厚さを50nmとし、その上に触媒化学蒸着(Cat−CVD)法により、成膜圧力100Pa、触媒体供給電力1.8kW、HMDS流量10sccm、H2流量1000sccmの条件で厚さ20nmのSiOx1膜を形成し、その上に厚さ30nmのSiOxの真空蒸着膜(PVD膜)を形成した以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0031】
実施例11
実施例1において、SiOxNy膜の厚さを10nmとし、SiOxNy膜上に、さらにFTS法により、表1に記載のガス流量で、成膜圧力0.3Pa、電力2000W、周波数100kHz、パルス幅2μsecの条件でAlOz膜を形成し、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
実施例12
実施例2において、アンカーコート層を形成すること無く、基材フィルム上に直接FTS法以降の薄膜形成をした以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0032】
比較例1
実施例1で用いたポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン製、「Q51C」)について、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
比較例2
実施例1において、アンカーコート層上に、SiOxNy膜を形成する代わりに、真空蒸着装置を使用して2×10-3Paの真空下でSiOを蒸発させ、厚さ50nmのSiOxの真空蒸着膜(PVD膜)を形成した以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0033】
参考例1
基材フィルムとして、厚さ12μmのポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン製、「Q51C」)を用い、そのコロナ処理面に、イソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業製「コロネートL」)と飽和ポリエステル(東洋紡績製「バイロン300」、数平均分子量23000)とを1:1質量比で配合した混合物を塗布乾燥して厚さ0.1μmのアンカーコート層を形成した。
次いで、アンカーコート層上に、真空蒸着装置を使用して2×10-3Paの真空下でSiOを蒸発させ、厚さ30nmのSiOxの真空蒸着膜(PVD膜)を形成した。
さらに、PVD膜上に、FTS法により表1に記載の条件で厚さ100nmのAlOz膜を形成し、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0034】
比較例3
実施例4において、FTS法の代わりに、通常の平行平板DCマグネトロンスパッタ法で、表1に記載のガス流量で、成膜圧力0.3Pa、電力300W、電圧385V、電圧0.8A、印加バイアス無しの条件で厚さ50nmのAlOz膜(通常スパッタ膜)を形成し、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0035】
実施例13
厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱化学(株)製「ノバペックス」を溶融押出してシートを形成し延伸した二軸延伸PETフィルム)に、実施例1に記載のアンカーコート層を厚さ0.05μm積層したフィルム上に、FTS法により、成膜圧力0.3Pa、電力2000W、周波数100kHz、パルス幅4μsecの条件で、厚さ50nmのSiOxNy膜を形成し、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0036】
実施例14
実施例13において、SiOxNy膜上に、真空蒸着装置を使用して2×10-3Paの真空下でSiOを蒸発させ、厚さ50nmのSiOxの真空蒸着膜(PVD膜)を形成した以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0037】
実施例15
実施例14において、SiOxNy膜の厚さを10nmとした以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0038】
実施例16
実施例13において、SiOxNy膜の代わりに、FTS法により表1に記載の条件で厚さ50nmのAlOz膜を形成し、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0039】
実施例17
実施例14において、SiOxNy膜の代わりに、FTS法により表1に記載の条件で厚さ50nmのAlOz膜を形成し、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0040】
実施例18
実施例17において、AlOz膜の厚さを25nmとした以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0041】
実施例19
実施例13において、SiOxNy膜の厚さを10nmとし、SiOxNy膜上に、さらにFTS法により、表1に記載のガス流量で、成膜圧力0.3Pa、電力2000W、周波数100kHz、パルス幅2μsecの条件で厚さ50nmのAlOz膜を形成し、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0042】
比較例4
実施例13で用いた、ポリエチレンテレフタレートフィルムにアンカーコート層を積層したフィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
比較例5
実施例13において、アンカーコート層上に、SiOxNy膜を形成する代わりに、真空蒸着装置を使用して2×10-3Paの真空下でSiOを蒸発させ、厚さ50nmのSiOxの真空蒸着膜(PVD膜)を形成した以外は同様にして、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
このように、本発明の構成を有する実施例1〜19のガスバリア積層フィルムは、優れたガスバリア性を有するものであることが明らかとなった。また、特に、無機薄膜層における下地層を酸化アルミニウムとしたり、無機薄膜層を複数層有することにより、本発明のガスバリア積層フィルムはいっそう優れたガスバリア性を示すことが明らかとなった。
一方、無機薄膜層のない比較例1,4や、本発明の構成によらず下地層を真空蒸着法により形成された無機薄膜層とした比較例2,5や、FTS以外の通常スパッタ法で無機薄膜層を形成した比較例3のガスバリア積層フィルムにおいては、ガスバリア性が不十分であった。これは、下地層がPVD法や通常スパッタ法により形成されたことによる緻密性の低さや基材フィルムへの熱輻射やプラズマによるダメージに起因すると思われる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のガスバリア積層フィルムは、食品や工業用品及び医薬品等の変質を防止するための包装、液晶表示素子、太陽電池、電磁波シールド、タッチパネル、カラーフィルター、真空断熱材や、有機EL、有機太陽電池、有機TFT等の有機デバイス用基板等の保護シートに好適に使用できる。
【符号の説明】
【0046】
1.基材フィルム
2,3.ターゲット
4.電極(陽極)
5.電極(陰極)
図1