(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919314
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】絶縁性樹脂組成物の製造方法、放熱材の製造方法、プリント基板用積層板の製造方法及びプリント基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20160428BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20160428BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20160428BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20160428BHJP
H05K 1/05 20060101ALI20160428BHJP
H01B 3/00 20060101ALI20160428BHJP
H01B 3/02 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
C08L101/02
C01B21/064 M
C08K3/38
C08K9/04
H05K1/05 A
H01B3/00 A
H01B3/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-10678(P2014-10678)
(22)【出願日】2014年1月23日
(65)【公開番号】特開2015-137335(P2015-137335A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2014年1月23日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】許斐 和彦
(72)【発明者】
【氏名】嘉数 恵美里
【審査官】
繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−510168(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/116309(WO,A1)
【文献】
特開2013−082883(JP,A)
【文献】
特表2011−503241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基を有する樹脂と、無機充填材として、アミノ基が表面に直接導入された絶縁体である窒化ホウ素粉末とを少なくとも含有する絶縁性樹脂組成物の製造方法であり、前記窒化ホウ素粉末を、不活性気体雰囲気中でのプラズマ処理により、アミノ基を表面に直接導入して形成することを含む、絶縁性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記窒化ホウ素粉末が、鱗片状窒化ホウ素粉末、鱗片状窒化ホウ素粉末の凝集体、窒化ホウ素の焼結体を粉砕した粉末、又は、窒化ホウ素の結晶体を粉砕した粉末である、請求項1に記載の絶縁性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
窒化ホウ素粉末におけるアミノ基の導入量が、TPD−MSによる測定において、質量数17(m/z)に帰属する気体の発生量が1質量ppm以上に相当する量である請求項1又は2に記載の絶縁性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
アミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基を有する樹脂としてシアネート樹脂を少なくとも含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
アミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基を有する樹脂と、無機充填材として、アミノ基が表面に直接導入された絶縁体である窒化ホウ素粉末とを少なくとも含有する絶縁性樹脂組成物を含む放熱材の製造方法であり、前記窒化ホウ素粉末を、不活性気体雰囲気中でのプラズマ処理により、アミノ基を表面に直接導入して形成することを含む、放熱材の製造方法。
【請求項6】
ベース基板と、該ベース基板の少なくとも片面に設けられた絶縁層と、該絶縁層上に設けられた金属箔とを具備したプリント基板用積層板の製造方法であって、
前記絶縁層が、アミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基を有する樹脂と、無機充填材として、アミノ基が表面に直接導入された絶縁体である窒化ホウ素粉末とを少なくとも含有する絶縁性樹脂組成物を含む絶縁層であり、
前記窒化ホウ素粉末を、不活性気体雰囲気中でのプラズマ処理により、アミノ基を表面に直接導入して形成することを含む、プリント基板用積層板の製造方法。
【請求項7】
前記ベース基板が、銅板、銅合金板、アルミ板及びアルミ合金板から選択される金属基板である、請求項6に記載のプリント基板用積層板の製造方法。
【請求項8】
ベース基板と、該ベース基板の少なくとも片面に設けられた絶縁層と、該絶縁層上に設けられた金属箔とを具備したプリント基板用積層板を用いたプリント基板の製造方法であって、
前記絶縁層が、アミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基を有する樹脂と、無機充填材として、アミノ基が表面に直接導入された絶縁体である窒化ホウ素粉末とを少なくとも含有する絶縁性樹脂組成物を含む絶縁層であり、
前記窒化ホウ素粉末を、不活性気体雰囲気中でのプラズマ処理により、アミノ基を表面に直接導入して形成すること、及び、
前記金属箔をパターニングすること、
を含むプリント基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にアミノ基が直接導入された窒化ホウ素粉末を含有する樹脂絶縁組成物、放熱材、プリント基板用積層板及びプリント基板に関する。本発明はまた、窒化ホウ素粉末の表面にアミノ基を直接導入する表面処理方法及び表面にアミノ基が直接導入された窒化ホウ素粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気電子機器の高性能化及び小型化は急速に進行している。これに伴い、半導体素子の高密度化、高機能化が一層要求されると共に、それを実装するための回路基板も小型で高密度のものが要求されている。そのために、回路基板には、十分な耐熱性に加え、優れた放熱性が求められている。
【0003】
回路基板としてのプリント基板は、一般に、ベース基板の片面もしくは両面に絶縁層を介して回路パターンを形成した構造を有している。プリント基板の放熱性を高めるために、絶縁層には、母材となる樹脂に、熱伝導率が高く且つ絶縁性のシリカやアルミナ等の無機フィラー分散させた樹脂組成物が一般に広く用いられている。また分散させるフィラーとしては、様々な課題を解決する必要があるものの、高熱伝導率を有する窒化ホウ素や窒化アルミナが望ましいことがよく知られている。
【0004】
六方晶窒化ホウ素については、グラファイトと同様の層状の結晶構造を有し、形状が鱗片状であるため、高充填し難いという問題があった。そこで、窒化ホウ素粉末と樹脂との親和性を向上させるという観点からこの問題を解決すべく、例えば、窒化ホウ素粉末を大気下または酸素雰囲気下にて加熱するという技術(例えば、特許文献1等を参照)や、窒化ホウ素粉末を超臨界水又は亜臨界水を用いて酸化し、酸化によって生じる水酸基に任意に有機修飾剤を吸着/結合させる技術(例えば、特許文献2等を参照)が開発されている。
【0005】
上述した技術以外の窒化ホウ素の表面処理技術として、樹脂との親和性を改善することを目的とするものではないが、例えば、所定のカップリング剤又は有機シリコン化合物を含むコーティング層で窒化ホウ素粉末の表面を処理することにより、窒化ホウ素粉末の充填性を高めたり、窒化ホウ素含有樹脂組成物の粘性を低下させる技術が開発されている(例えば、特許文献3又は4等を参照)。また、樹脂との親和性を改善することを目的とするものでもないが、紛体の表面処理技術として特許文献5には、所定のホスホリルコリン基を紛体表面に共有結合により直接導入する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−12771号公報
【特許文献2】特開2012−121744号公報
【特許文献3】特開2006−257392号公報
【特許文献4】特開2008−94701号公報
【特許文献5】特開2006−8661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
未処理の窒化ホウ素粉末を樹脂組成物に充填材として使用した場合、高充填し難いという問題に加え、樹脂に対する密着性が悪いという問題がある。本発明者等が上述した先行技術に基づき表面処理した窒化ホウ素粉末を用いて樹脂絶縁組成物を調製し、これをプリント基板の絶縁層として使用した結果、耐熱衝撃性、耐ヒートサイクル性、熱抵抗性などのプリント基板としての特性を十分に満たすものは得られなかった。本発明者等の鋭意検討により、その主な原因は、窒化ホウ素粉末と樹脂との密着性が上述したような先行技術では十分に改善されないために、例えば放熱性シートとして成形された場合に所望とされる機械的強度が得られないことにあると推測された。
【0008】
そこで、本発明は、マトリクスとしての樹脂と充填材としての窒化ホウ素粉末との密着性が改善された絶縁性樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、機械的強度に優れる放熱材、この放熱材からなる絶縁層を具備するプリント基板用積層板及びプリント基板を提供することを目的とする。また、本発明は、マトリクスとしての樹脂との密着性に優れた窒化ホウ素を得るための窒化ホウ素粉末の表面処理方法及びこの方法により得られる窒化ホウ素粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1側面によると、樹脂と無機充填材を含有する絶縁性樹脂組成物であって、上記無機充填材として、アミノ基が表面に直接導入された窒化ホウ素粉末を少なくとも含有し、且つ、上記樹脂として、アミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基を有する樹脂を少なくとも含有する絶縁性樹脂組成物が提供される。
【0010】
本発明の一形態において、上記絶縁性樹脂組成物における窒化ホウ素粉末表面に対するアミノ基の直接導入は、プラズマ処理により形成され得る。
【0011】
また、本発明の他の形態において、上記絶縁性樹脂組成物の窒化ホウ素粉末におけるアミノ基の導入量は、TPD−MSによる測定において、質量数17(m/z)に帰属する気体の発生量が1質量ppm以上に相当する量であり得る。
【0012】
また、本発明の他の形態において、上記絶縁性樹脂組成物は、アミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基を有する樹脂としてシアネート樹脂を少なくとも含有し得る。
【0013】
本発明の第2側面によると、上記絶縁性樹脂組成物を含む放熱材が提供される。
本発明の第3側面によると、ベース基板と、該ベース基板の少なくとも片面に設けられた絶縁層と、該絶縁層上に設けられた金属箔とを具備し、絶縁層が上記絶縁性樹脂組成物を用いて形成されたプリント基板用積層板が提供される。
【0014】
本発明の一形態において、プリント基板用積層板におけるベース基板は、銅板、銅合金板、アルミ板及びアルミ合金板から選択される金属基板であり得る。
【0015】
本発明の第4側面によると、上記プリント基板用積層板の金属箔をパターニングすることによって得られるプリント基板が提供される。
【0016】
本発明の第5側面によると、窒化ホウ素粉末の表面にアミノ基を導入する窒化ホウ素粉末の表面処理方法であって、アミノ基の導入が、プラズマ処理により窒化ホウ素粉末の表面にアミノ基を直接導入することにより行われる、窒化ホウ素粉末の表面処理方法が提供される。
【0017】
本発明の第6側面によると、表面にアミノ基が直接導入された窒化ホウ素粉末が提供される。
本発明の一形態において、上記窒化ホウ素粉末におけるアミノ基の直接導入は、プラズマ処理により形成され得る。
【0018】
また、本発明の他の形態において、上記窒化ホウ素粉末の表面に直接導入されたアミノ基の導入量は、TPD−MSによる測定において、質量数17(m/z)に帰属する気体の発生量が1質量ppm以上に相当する量であり得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、マトリクスとしての樹脂と充填材としての窒化ホウ素との密着性が改善された絶縁性樹脂組成物の提供が可能となった。また、本発明により、機械的強度に優れる放熱材、この放熱材からなる絶縁層を具備するプリント基板用積層板及びプリント基板の提供が可能となった。このプリント基板用積層板及びプリント基板は、特に耐熱衝撃性、耐ヒートサイクル性、熱抵抗性に優れる。また、本発明により、マトリクスとしての樹脂との密着性に優れた窒化ホウ素粉末の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】表面にアミノ基が直接導入された窒化ホウ素粉末の一例を示す図。
【
図2】樹脂と窒化ホウ素粉末との間の密着性向上のメカニズムを説明するためのイメージ図。
【
図3】本発明の一態様に係るプリント基板用積層板を概略的に示す斜視図。
【
図4】
図3に示す回路基板用積層板のII−II線に沿った断面図。
【
図5】
図3及び
図4に示す回路基板用積層板から得られる金属プリント基板の一例を概略的に示す断面図。
【
図6】導体の引き剥がし強さ測定後の、銅箔が剥離した部分のベース基板上の絶縁層表面を示す図面に代わるSEM写真であって、(a)は実施例4、(b)は比較例2のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る絶縁性樹脂組成物は、マトリクスである樹脂と無機充填材である窒化ホウ素粉末との密着性が改善された絶縁性樹脂組成物であり、窒化ホウ素粉末として、表面にアミノ基が直接導入された窒化ホウ素粉末(以下、「官能化窒化ホウ素粉末」ともいう)と、樹脂として、アミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基を有する樹脂を含有することを特徴とする。ここで「アミノ基」とは、−NH
2基又は−NH−基を意味する。
【0022】
窒化ホウ素粉末の表面に直接導入されたアミノ基とマトリクス樹脂中の官能基とが反応して化学結合を形成することにより、窒化ホウ素粉末とマトリクス樹脂との密着性が向上する結果、この絶縁性樹脂組成物を用いて形成される放熱材の機械的強度が向上する。そして、この放熱材を絶縁層としてプリント基板用積層板又はプリント基板に使用した場合、機械的強度が向上すると共に、耐熱衝撃性、耐ヒートサイクル性、熱抵抗性に優れたプリント基板用積層板又はプリント基板を得ることが可能となる。
【0023】
本発明に係る絶縁性樹脂組成物が含有する官能化窒化ホウ素粉末は、上記の通り、窒化ホウ素粉末の表面にアミノ基(−NH
2基)が直接導入されたものである。ここで「直接導入」とは、アミノ基が、窒化ホウ素粉末表面との間に他の原子や基を介さずに窒化ホウ素粉末表面に導入されることを意味し(
図1を参照)、例えば、アミノ基を含む有機物によって窒化ホウ素が被覆されている状態や、アミノ基がヒドロキシ基などに吸着/結合する形で間接的に窒化ホウ素粉末の表面に連結している状態と明確に異なる。
【0024】
窒化ホウ素粉末表面に対するアミノ基の直接導入は、プラズマ処理により形成される。ここでプラズマ処理とは、特に限定されるものではなく、大気圧プラズマ処理や、低/高気圧プラズマ処理、液中プラズマ処理などが挙げられるが、例えば、簡便性などの観点から、大気圧下においてグロー放電プラズマを利用したプラズマ処理が好ましい。
【0025】
大気圧プラズマ処理は、不活性気体雰囲気中で行うことが好ましく、特に、窒素ガスとヘリウムガス、又は、窒素ガスとアルゴンガスの混合ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0026】
官能化窒化ホウ素粉末において、窒化ホウ素粉末に対するアミノ基の導入量は、本発明の一形態において、TPD−MSによる測定において、質量数17(m/z)に帰属する気体の発生量が1質量ppm以上に相当する量であることが好ましい。より好ましくは、1〜50質量ppmであり、更に好ましくは、2〜40質量ppmである。
【0027】
本発明において、アミノ基が導入される前の窒化ホウ素粉末は、特に限定されるものではないが、例えば、鱗片状窒化ホウ素粉末、鱗片状窒化ホウ素粉末の凝集体、または窒化ホウ素の焼結体および結晶体を粉砕した粉末を用いることができる。
【0028】
本発明の一形態において、本発明に係る絶縁性樹脂組成物中に含有される官能化窒化ホウ素粉末の含有率は、絶縁性樹脂組成物を基準として40〜90体積%であることが好ましく、50〜80体積%であることがより好ましい。
【0029】
本発明に係る絶縁性樹脂組成物は、上述した官能化窒化ホウ素以外の無機充填材を本発明の効果を損なわない範囲において更に含有していてもよい。そのような無機充填材としては、例えば、窒化アルミ、アルミナ、酸化亜鉛、シリカ等が挙げられる。
【0030】
次にマトリクスとしての樹脂について説明する。
アミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基を有する樹脂としては、一般的に室温又は加熱下でアミノ基と化学結合を形成し得る官能基を有する樹脂であれば特に限定されるものではない。
【0031】
アミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基としては、例えば、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基が挙げられる。そして、アミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基を有する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられ、また、側鎖にアミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基を有する各種の変性樹脂であってもよい。本発明の一形態において、このような樹脂として、シアネート樹脂が好ましい。
【0032】
シアネート樹脂を例に挙げて、官能化窒化ホウ素粉末とマトリクス樹脂との密着性向上のメカニズムを、
図2を参照しながら説明する。すなわち、シアネート基の環化三量化反応と、シアネート基とアミノ基との反応では、シアネート基に比べてアミノ基の方が極性が高いため、樹脂中のシアネート基と窒化ホウ素粉末に直接導入されたアミノ基との反応が優先して進行する(
図2の(a))。シアネート基とアミノ基との反応が進行した後でシアネート基の環化三量化反応による樹脂同士の重合が進行する結果(
図2の(b))、樹脂と窒化ホウ素粉末との密着性が向上するものと推測している。
【0033】
本発明に係る絶縁性樹脂組成物は、アミノ基と反応し化学結合を形成可能な官能基を有する樹脂を2種以上含有していてもよく、また、このような官能基を有さない1種以上の樹脂を本発明の効果を損なわない範囲において更に含有していてもよい。
【0034】
本発明に係る絶縁性樹脂組成物は、上述した樹脂及び無機充填材以外に溶剤を含有していてもよい。溶剤の配合量としては、例えば、樹脂100質量部に対して好ましくは100〜900質量部であり、より好ましくは150〜600質量部である。溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルセロソルブ、トルエン、ジメチルアセトアミド、Nメチルピロリドン、エチレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。
【0035】
また、本発明に係る絶縁性樹脂組成物は、上述した樹脂及び無機充填材以外に種々の添加剤を更に含有していてもよい。そのような添加材としては、例えば、シランカップリング剤及びチタンカップリング剤などのカップリング剤、イオン吸着剤などが挙げられる。
【0036】
本発明に係る絶縁性樹脂組成物は、例えば、以下の方法により調製することができる。
【0037】
シアネート樹脂と硬化促進剤(例えば、リン酸系ボレート錯体)をエチレングリコールモノメチルエーテルに溶解し、官能化窒化ホウ素粉末を添加して撹拌することで、本発明に係る絶縁樹脂組成物を調製することができる。撹拌方法として特に限定するものではないが、撹拌脱泡機を用いることで気泡の無い分散液(組成物)が得られる点で望ましい。
【0038】
本発明に係る絶縁性樹脂組成物は、放熱材として各種用途に広く使用することができ、本発明に係る絶縁性樹脂組成物を用いて形成された放熱材は、機械的強度に優れるという特性を有する。このような放熱材としては、例えば、放熱シート、放熱接着剤・粘着剤、放熱封止材等が挙げられる。
【0039】
本発明の一態様において、本発明に係る絶縁性樹脂組成物を用いて形成された接着剤は、プリント配線板を構成する絶縁層として好適に用いられる。
図3及び
図4は、本発明に係る絶縁性樹脂組成物を用いて形成された接着剤を絶縁層として具備するプリント基板用積層板の一態様を示す。ここに示されるプリント基板用積層板1は、ベース基板2の片面に絶縁層3が形成され、絶縁層3の上に金属箔4が形成された3層構造をしている。本発明の他の形態において、ベース基板2の両面に絶縁層3が形成され、更に各絶縁層3の上に金属箔4が形成された5層構造をしていてもよい。なお、
図3及び
図4において、X及びY方向はベース基板2の主面に平行であり且つ互いに直交する方向であり、Z方向はX及びY方向に対して垂直な厚さ方向である。
図3には、一例として矩形上のプリント基板用積層板1を示しているが、プリント基板用積層板1は他の形状を有していてもよい。
【0040】
本発明に係る絶縁樹脂組成物を用いて形成された絶縁層3は、機械的強度が高いため、絶縁層3を具備するプリント基板用積層板1は、プリント基板用として重要な特性である機械的強度が向上すると共に、耐熱衝撃性、耐ヒートサイクル性及び熱抵抗性に優れる。
【0041】
ベース基板2は、例えば、単体金属、合金又は無機充填材を含む複合金属からなる。本発明の一形態において、ベース基板2は、銅板、銅合金板、アルミ板、アルミ合金板から選択される。
【0042】
金属箔4は、例えば、単体金属又は合金からなる。金属箔4の材料としては、例えば、銅又はアルミニウムを使用することができる。金属箔4の厚さは、例えば、10〜500μmの範囲である。
【0043】
このプリント基板用積層板1は、例えば、以下の方法により製造する。
まず、上述した本発明に係る絶縁樹脂組成物を、ベース基板2及び金属箔4の少なくとも一方に塗布する。分散液の塗布には、例えば、ロールコート法、バーコート法又はスクリーン印刷法などを使用することができる。連続式で行ってもよく、単板式で行ってもよい。
【0044】
次いで、ベース基板2と金属箔4とが塗膜を挟んで向き合うように重ね合わせる。組成物が溶剤を含む場合は、重ね合わせる前に塗膜を乾燥させてもよい。塗膜を挟んで金属基板2と金属箔4とを重ね合わせた後、それらを熱プレスする。以上のようにして、プリント基板用積層板1を得る。
【0045】
この方法では、本発明の組成物である分散液をベース基板2及び金属箔4の少なくとも一方に塗布することにより塗膜を形成するが、他の態様において、分散液をPETフィルム等の基材に塗布し乾燥することにより予め塗膜を形成し、これをベース基板2及び金属箔4の一方に熱転写してもよい。
【0046】
次に、上述したプリント基板用積層板1から得られるプリント基板1’について説明する。
【0047】
図4に示すプリント基板1’は、
図3及び
図4に示すプリント基板用積層板1から得られるものであり、ベース基板2と、絶縁層3と、回路パターン4´とを含んでいる。回路パターン4´は、
図3及び
図4を参照しながら説明したプリント基板用積層板1の金属箔4をパターニングすることにより得られる。このパターニングは、例えば、金属箔4の上にマスクパターンを形成し、金属箔4の露出部をエッチングによって除去することにより得られる。プリント基板1’は、例えば、先のプリント基板用積層板1の金属箔4に対して上記のパターニングを行い、必要に応じて、切断及び穴あけ加工などの加工を行うことにより得ることができる。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の例を記載する。本発明はこれらに限定されるものでない。
<実施例1−3>
窒化ホウ素粉末へのアミノ基の導入
窒化ホウ素粉末(以下、「BN紛体」という)として、HP−40(水島合金鉄株式会社製、平均粒径18μm)を使用した。粉体用大気プラズマ処理装置(九州計測器株式会社製)を用い、BN粉体を以下の条件で処理した。
【0049】
処理条件1:BN紛体40gと、1片約5mmの四角に切ったナイロン製絶縁紙2gとを、上記装置の反応セルに投入し、アルゴンガス2.0L/分と、窒素ガス0.2L/分を流しながら、プラズマ出力300Wで10分間処理を行い、TPD−MSによる測定において、アミノ基に由来するアンモニアガスの発生量が13質量ppmに相当するアミノ基が導入された窒化ホウ素粉末BN1を得た。
【0050】
処理条件2:プラズマ処理におけるガス雰囲気として、ヘリウムガス4.0L/分と、
窒素ガス0.2L/分を使用した以外は、処理条件1と同様に処理し、TPD−MSによる測定において、アミノ基に由来するアンモニアガスの発生量が23質量ppmに相当するアミノ基が導入された窒化ホウ素粉末BN2を得た。
【0051】
処理条件3:プラズマ処理におけるガス雰囲気として、ヘリウムガス2.0L/分と、窒素ガス0.2L/分を使用した以外は、処理条件1と同様に処理し、TPD−MSによる測定において、アミノ基に由来するアンモニアガスの発生量が40質量ppmに相当するアミノ基が導入された窒化ホウ素粉末BN3を得た。
【0052】
ここで、BN粉末表面にアミノ基が直接導入されたことの確認は、FT−IR分析により行った。すなわち、プラズマ処理したBN粉末(BN1、BN2、BN3)のFT−IR分析結果においては、未処理のBN粉末の分析結果からは確認できない3200〜3500cm
−1にN−Hに起因する吸収ピークが確認できた。以上の結果より、BN粉末表面にアミノ基が直接導入されたことわかる。
【0053】
[アミノ基導入量の測定]
アミノ基の導入量については、TPD−MS(Tempereture Programmed Desorption - Mass Spectrometry)により、ヘリウムガス雰囲気で室温〜1000℃を昇温速度20℃/分で測定し、質量数17(m/z)に帰属する気体(アンモニアガス)の発生量で比較した。対照用に、プラズマ処理をしていない未処理BN粉末(BN4:HP−40、水島合金鉄株式会社製、平均粒径18μm)についても同様の測定を行った。
【0054】
プラズマ処理したBN粉末(BN1、BN2、BN3)から、未処理のBN粉末(BN4)からは確認できなかったアミノ基に由来するアンモニアガスの発生量が定量できた。測定結果を表1に示す。
【表1】
【0055】
<実施例4−6、比較例2>
[絶縁性樹脂組成物の調製]
ビスフェノール型シアネート樹脂(ロンザ製、「BA200」)と、ノボラック型シアネート樹脂(ロンザ製、「PT30」)を、質量比3:1の割合で合計100質量部と、硬化促進剤としてテトラフェニルホスホニウムテトラ・P・トリルボレート(北興化学製、「TPP−MK」)1質量部を、エチレングリコールモノメチルエーテル595質量部に溶解した。このシアネート樹脂溶液に、上記の各BN粉末(BN1、BN2、BN3、又はBN4)を、シアネート樹脂とBNを合わせた体積の65体積%になるよう添加し、撹拌脱泡機を用いて撹拌することで気泡のない分散液(絶縁樹脂組成物)1〜4を得た。
【0056】
得られた分散液1〜4を用いて、以下に示す方法でサンプルを作製し、引っ張り強度及び導体の引き剥がし強さを測定した。
【0057】
[引っ張り強度]
各分散液を導体(厚さ70μm銅箔)に塗布し100℃で溶剤を乾燥させた後、300℃で加熱硬化させて厚さ120μmのシート状放熱材を作製した。これをダンベル形状に機械加工し、エッチングによって導体を除去することで引張試験片を得た。得られた引張試験片を、インストロン引張試験機を用い、JIS K7127の規格に則って下記条件で試験した。
【0058】
・引張速度:20±1mm/min
・引張試験片サイズ:ダンベル4号形(全長100mm、平行部長:20mm、平行部幅:5mm)
測定された応力の最大値を引張破断応力としてMPaに換算し、これを引っ張り強度とした。引張強度の換算にあたっては、引張試験片平行部幅を測定して算出した。測定結果を表2に示す。
【0059】
[導体の引き剥がし強さ]
各分散液を導体(厚さ70μm銅箔)に塗布し100℃で溶剤を乾燥させた後、塗膜を挟むようにベース板(厚さ2mmAl板)を積層し300℃で加圧加熱して、導体とベース板に挟まれた厚さ120μmの絶縁層を有する金属ベース基板を作製した。得られた金属ベース基板の導体を幅10mmになるように切断して導体の引き剥がし強さの試験片を得た。得られた試験片を、インストロン引張試験機を用い、JIS C5012の規格に則って下記条件で試験した。
【0060】
・引き剥がし速度:100mm/min
・引き剥がし角度:90度
測定によって得られた引き剥がし荷重を導体幅で割って、単位N/cmの導体の引き剥がし強さを得た。測定結果を表2に示す。
【表2】
【0061】
上記結果から、プラズマ処理されたBN粉末を使用した実施例4−6は、未処理のBN粉末を使用した比較例1に比べ、引っ張り強度及び導体の引き剥がし強さが高く、機械的強度に優れることがわかる。
【0062】
また、
図6(a)及び
図6(b)は、導体の引き剥がし強さ試験後のサンプルにおける、銅箔が剥離した部分のベース基板上の絶縁層表面を示すSEM写真であり、
図6(a)は実施例4、
図6(b)は比較例2のサンプルのSEM写真である。
【0063】
図6(b)では、BN表面に樹脂が付着しておらず、界面剥離が起こっているのに対し、
図6(a)では、樹脂がBN表面に付着していることから、界面剥離ではなく樹脂の脆性破壊が起こっていることがわかる。このことからも、アミノ基が表面に直接導入された窒化ホウ素粉末を使用することにより、窒化ホウ素粉末とマトリクス樹脂との密着性が向上することがわかる。
【符号の説明】
【0064】
1・・・プリント基板用積層板、1’・・・プリント基板、2・・・ベース基板、3・・・絶縁層、4・・・金属箔、4’・・・回路パターン