特許第5919356号(P5919356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5919356レーザ光による板金の加工方法及びこれを実行するレーザ加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919356
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】レーザ光による板金の加工方法及びこれを実行するレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/38 20140101AFI20160428BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20160428BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20160428BHJP
   H01S 5/022 20060101ALI20160428BHJP
【FI】
   B23K26/38 A
   B23K26/00 N
   B23K26/064 K
   H01S5/022
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-211001(P2014-211001)
(22)【出願日】2014年10月15日
(65)【公開番号】特開2016-78072(P2016-78072A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2015年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】石黒 宏明
(72)【発明者】
【氏名】杉山 明彦
(72)【発明者】
【氏名】迫 宏
【審査官】 青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−114090(JP,A)
【文献】 特開2008−290135(JP,A)
【文献】 特表2012−501855(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0096376(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00−26/70
H01S 5/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが1mm以上で5mm以下の軟鋼板の切断方法であって、
多波長のレーザ光を発振するDDLモジュールと、 前記DDLモジュールからの多波長レーザ光を伝送する伝送ファイバと、前記伝送ファイバにより伝送された多波長のレーザ光を集光して板金へ照射する加工ヘッドと、酸素からなる圧力0.05(MPa)〜0.2(MPa)のアシストガスとを使用し、切断面の表面粗さ(Ra)が0.4μm以下である軟鋼板の切断方法。
【請求項2】
前記加工ヘッドに搭載される集光レンズの焦点距離は150(mm)〜250(mm)である請求項1に記載の切断方法。
【請求項3】
BPPが10.3(mm*mrad)の場合において、 前記加工ヘッドからのレーザ光のパワーは1600(W)〜2000(W)であり、パワー密度は8.9x10^5(W/cm^2)〜2.8x10^6(W/cm^2)であり、ビームウェスト径は300(um)〜480(um)であり、レイリー長は2.2(mm)〜5.6(mm)である請求項1又は2に記載の切断方法。
【請求項4】
アシストガスを噴出するノズルのノズル径は、0.8(mm)〜4(mm)であり、ノズル高さは0.5(mm)〜1.5(mm)である請求項1乃至3の何れかに記載の切断方法。
【請求項5】
厚さが1mm以上で5mm以下のアルミニウム板の切断方法であって、
多波長のレーザ光を発振するDDLモジュールと、 前記DDLモジュールからの多波長レーザ光を伝送する伝送ファイバと、前記伝送ファイバにより伝送された多波長のレーザ光を集光して板金へ照射する加工ヘッドと、窒素からなる圧力0.8MPa以上のアシストガスとを使用し、切断面の表面粗さ(Ra)が2.5μm以下であるアルミニウム板の切断方法。
【請求項6】
前記加工ヘッドに搭載される集光レンズの焦点距離は120(mm)〜190(mm)である請求項5に記載の切断方法。
【請求項7】
BPP は10.3(mm*mrad)の場合において、前記加工ヘッドからのレーザ光のパワーは1600(W)〜2000(W)であり、パワー密度は1.5x 10^6(W/cm^2)〜4.8x10^6(W/cm^2)であり、ビームウェスト径は230(um)〜364(um)であり、レイリー長は1.3(mm)〜3.4(mm)である請求項5又は6に記載の切断方法。
【請求項8】
アシストガスを噴出するノズルのノズル径は、1.5(mm)〜4(mm)であり、ノズル高さは0.3(mm)〜1.0(mm)である請求項5乃至7の何れかに記載の切断方法。
【請求項9】
多波長のレーザ光を発振するDDLモジュールと、 前記DDLモジュールからの多波長レーザ光を伝送する伝送ファイバと、前記伝送ファイバにより伝送された多波長のレーザ光を集光して板金へ照射する加工ヘッドを有するレーザ加工機であって、
厚さが1mm以上で5mm以下の軟鋼板を切断するとき、酸素からなる圧力0.05(MPa)〜0.2(MPa)のアシストガスを使用し、切断された軟鋼板の切断面の表面粗さ(Ra)が0.4μm以下であり、
厚さが1mm以上で5mm以下のアルミニウム板を切断するとき、窒素からなる圧力0.8MPa以上のアシストガスを使用し、切断された軟鋼板の切断面の表面粗さ(Ra)が2.5μm以下であるレーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光による板金の加工方法及びこれを実行するレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板金加工用のレーザ加工装置として、炭酸ガス(CO2)レーザ発振器やYAGレーザ発振器、ファイバレーザ発振器をレーザ光源として用いたものが知られている。ファイバレーザ発振器は、YAGレーザ発振器よりも光品質に優れ、発振効率が極めて高い等の利点を有する。このため、ファイバレーザ発振器を用いたファイバレーザ加工装置は、産業用、特に板金加工用(切断又は溶接等)に利用されている。
【0003】
更に近年では、ダイレクトダイオードレーザ(DDL:Direct Diode Laser)モジュールをレーザ光源として用いるレーザ加工機が開発されている。DDLモジュールは、複数のレーザダイオード(LD:Laser Diode)で生成された多波長(multiple-wavelength)のレーザ光を重畳し、伝送ファイバを用いて加工ヘッドまで伝送する。そして、伝送ファイバの端面から射出されたレーザ光は、コリメータレンズ及び集光レンズ等により被加工材(ワーク)上に集光されて照射される。
【0004】
ところで、レーザ加工においては、切断面の表面粗さが均一となるような加工方法が追求されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−259880
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、定量的議論までされておらず、均一性の保障が十分ではなかった。
【0007】
また、上記種々の発生源からのレーザ光のうち何れのレーザ発生源からのレーザ光が均一性の保証に最適かも検討されていなかった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、切断面の均一性を定量的に保障するレーザ加工方法及びこれを実行するレーザ加工機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、多波長のレーザ光を発振するDDLモジュールと、 前記DDLモジュールからの多波長レーザ光を伝送する伝送ファイバと、前記伝送ファイバにより伝送された多波長のレーザ光を集光して板金へ照射する加工ヘッドを有するレーザ加工機を使用して、厚さが1mm以上で5mm以下の軟鋼板を切断する切断方法であって、
切断された軟鋼板の切断面の表面粗さ(Ra)が0.4μm以下である軟鋼板の切断方法である。
【0010】
前記方法において、アシストガスは、酸素であり、その圧力は0.05(MPa)〜0.2(MPa)であるのが好ましい。
【0011】
前記方法において、前記加工ヘッドに搭載される集光レンズの焦点距離は150(mm)〜250(mm)であるのが好ましい。
【0012】
前記方法において、例えばBPPが10.3(mm*mrad)の場合において、前記加工ヘッドからのレーザ光のパワーは1600 (W)〜2000(W)であり、パワー密度は8.9x10^5(W/cm^2)〜2.8x10^6(W/cm^2)であり、ビームウェスト径は300〜480(um)であり、レイリー長は2.2(mm)〜5.6(mm)であるのが好ましい。ここに10^5は、105(10の5乗)を意味する(以下、同様)。
【0013】
前記方法において、前記アシストガスを噴出するノズルのノズル径は、0.8(mm)〜4(mm)であり、ノズル高さは0.5(mm)〜1.5(mm)であるのが好ましい。
【0014】
本発明の他の態様は、多波長のレーザ光を発振するDDLモジュールと、 前記DDLモジュールからの多波長レーザ光を伝送する伝送ファイバと、前記伝送ファイバにより伝送された多波長のレーザ光を集光して板金へ照射する加工ヘッドを有するレーザ加工機を使用して、厚さが1mm以上で5mm以下のアルミニウム板を切断する方法であって、
切断されたアルミニウム板の切断面の表面粗さ(Ra)が2.5μm以下であるアルミニウム板の切断方法である。
【0015】
前記方法において、アシストガスは、窒素であり、その圧力は0.8MPa以上であるのが好ましい。
【0016】
前記方法において、前記加工ヘッドに搭載される集光レンズの焦点距離は120(mm)〜190(mm)であるのが好ましい。
【0017】
前記方法において、例えばBPPが10.3(mm*mrad)の場合において、前記加工ヘッドからのレーザ光のパワーは1600(W)〜2000(W)であり、パワー密度は1.5x 10^6(W/cm^2)〜4.8x10^6(W/cm^2)であり、ビームウェスト径は230(um)〜364(um)であり、レイリー長は1.3(mm)〜3.4(mm)であるのが好ましい。
【0018】
前記方法において、アシストガスを噴出するノズルのノズル径は、1.5(mm)〜4(mm)であり、ノズル高さは0.3(mm)〜1.0(mm)であるのが好ましい。
【0019】
本発明の更に他の態様は、多波長のレーザ光を発振するDDLモジュールと、
前記DDLモジュールからの多波長レーザ光を伝送する伝送ファイバと、前記伝送ファイバにより伝送された多波長のレーザ光を集光して板金へ照射する加工ヘッドを有するレーザ加工機であって、
厚さが1mm以上で5mm以下の軟鋼板を切断するとき、切断された軟鋼板の切断面の表面粗さ(Ra)が0.4μm以下であり、
厚さが1mm以上で5mm以下のアルミニウム板を切断するとき、切断された軟鋼板の切断面の表面粗さ(Ra)が2.5μm以下であるレーザ加工機である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、軟鋼板、アルミニウム板を定量的に保障された表面粗さ(Ra)で切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係るレーザ加工機の一例を示す斜視図である。
図2図2(a)は、本発明の実施形態に係るレーザ発振器の一例を示す側面図である。図2(b)は、前記レーザ発振器の正面図である。
図3】本発明の実施形態に係るLDモジュールの一例を示す概略図である。
図4】板厚1mmから約4.5mmの軟鋼板を、CO2レーザ加工機、ファイバレーザ加工機、DDLレーザ加工機で切断した場合の、切断面の表面粗さを示すグラフである。
図5】板厚1mmから5mmのアルミ板を、CO2レーザ加工機、ファイバレーザ加工機、DDLレーザ加工機で切断した場合の、切断面の表面粗さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係るDDLレーザ加工機の全体構成を示す。同図に示すように、前記実施形態に係るDDLレーザ加工機は、多波長のレーザ光LBを発振するレーザ発振器11と、レーザ発振器11により発振されたレーザ光LBを伝送する伝送ファイバ(プロセスファイバ)12と、伝送ファイバ12により伝送されたレーザ光LBを高エネルギー密度に集光させて被加工材(ワーク)Wに照射するレーザ加工機(レーザ加工機本体部)13とを備える。
【0024】
レーザ加工機13は、伝送ファイバ12から射出されたレーザ光LBをワークへ照射する加工ヘッド17を有する。この加工ヘッド17は、前記ファイバ12からのレーザ光を、コリメータレンズ15で略平行光に変換するコリメータユニット14と、略平行光に変換されたレーザ光LBを、X軸及びY軸方向に垂直なZ軸方向下方に向けて反射するベンドミラー16と、ベンドミラー16により下方へ反射されたレーザ光LBを集光する集光レンズ18とを有する。コリメータレンズ15及び集光レンズ18としては、例えば石英製の平凸レンズ等の一般的なレンズが使用可能である。
【0025】
なお、図1では図示を省略するが、コリメータユニット14内には、コリメータレンズ15を光軸に平行な方向(X軸方向)に駆動するレンズ駆動部が設置されている。また、レーザ加工機は、レンズ駆動部を制御する制御部を更に備える。
【0026】
レーザ加工機13は更に、被加工材(ワーク)Wが載置される加工テーブル21と、加工テーブル21上においてX軸方向に移動する門型のX軸キャリッジ22と、X軸キャリッジ22上においてX軸方向に垂直なY軸方向に移動するY軸キャリッジ23とを備える。コリメータユニット14内のコリメータレンズ15、ベンドミラー16、及び加工ヘッド17内の集光レンズ18は、予め光軸の調整が成された状態でY軸キャリッジ23に固定され、Y軸キャリッジ23と共にY軸方向に移動する。なおY軸キャリッジ23に対して上下方向へ移動可能なZ軸キャリッジを設け、当該Z軸キャリッジに集光レンズ18を設けることも出来る。
【0027】
本発明の実施形態に係るレーザ加工機は、集光レンズ18により集光されて所定集光直径のレーザ光LBを被加工材Wに照射し、また同軸にアシストガスを噴射して溶融物を除去しながら、X軸キャリッジ22及びY軸キャリッジ23を移動させる。これにより、レーザ加工機は被加工材Wを切断加工することができる。被加工材Wとしては、ステンレス鋼、軟鋼、アルミニウム等の種々の材料が挙げられる。被加工材Wの板厚は、例えば0.1mm〜100mm程度である。
【0028】
図2及び図3は、レーザ発振器11の詳細を示す。レーザ発振器11には、図2(a)及び図2(b)に示すように、筐体60と、筐体60内に収容され、伝送ファイバ12に接続されているLDモジュール10と、筐体60内に収容され、LDモジュール10に電力を供給する電源部61と、筐体60内に収容され、LDモジュール10の出力等を制御する制御モジュール62等が設けられている。また、筐体60の外側には、筐体60内の温度及び湿度を調整する空調機器63が設置されている。
【0029】
LDモジュール10は、図3に示すように、多波長(multiple-wavelength)λ1,λ2,λ3,・・・,λnのレーザ光を重畳して出力する。LDモジュール10は、複数のレーザダイオード(以下、「LD」という。)3,3,3,・・・3(nは4以上の整数)と、LD3,3,3,・・・3にファイバ4,4,4,・・・4を介して接続され、多波長λ1,λ2,λ3,・・・,λnのレーザ光に対してスペクトルビーム結合(spectral beam combining)を行うスペクトルビーム結合部50を備える。
【0030】
複数のLD3,3,3,・・・3としては、各種の半導体レーザが採用可能であり、その種類と数の組み合わせは特に限定されず、板金加工の目的に合わせて適宜選択可能である。LD3,3,3,・・・3の波長λ1,λ2,λ3,・・・,λnは、例えば1000nm未満で選択したり、800nm〜990nmの範囲で選択したり、910nm〜950nmの範囲で選択したりすることができるが、この実施形態では、910nm〜950nmに設定されている。
【0031】
多波長λ1,λ2,λ3,・・・,λnのレーザ光は、例えば、波長帯域毎に群(ブロック)管理されて制御される。そして、波長帯域毎に個別に出力を可変調節することができる。また、ワークへの所望の吸収率となるように、全波長帯域の出力を調整することができる。
【0032】
切断加工に際しては、LD3,3,3,・・・3を同時に動作させると共に、酸素、窒素等の適宜のアシストガスを焦点位置近傍へ吹き付ける。これにより、当該各LDからの各波長のレーザ光が、相互に協働すると共に、酸素等のアシストガスとも協働してワークを高速で溶融する。また当該溶融ワーク材料がアシストガスにより吹き飛ばされてワークが高速で切断される。
【0033】
スペクトルビーム結合部50は、ファイバ4,4,4,・・・4の射出端側を束ねて固定しファイバアレイ4とする固定部51と、ファイバ4,4,4,・・・4からのレーザ光を平行光にするコリメータレンズ52と、多波長λ1,λ2,λ3,・・・,λnのレーザ光を回折する回折格子(diffraction grating)53と、回折格子53からのレーザ光を集光して伝送ファイバ12へ入射させる集光レンズ54とを備える。なお、回折格子53と、集光レンズ54との間には、LDユニット3,3,3,・・・3後端部に設けた反射面と共に共振器を構成する部分反射カプラ55が設けてある。この部分反射カプラ55は、コリメータレンズ52と集光レンズ54との間に配置されるのが好ましい。
【0034】
再び図1を参照するに、このようなレーザ加工機13による切断加工等の加工においては、多波長λ1,λ2,λ3,・・・,λnのレーザ光の波長毎のビームウエストは、例えば100μm〜400μm程度であって、これら複数の径で以って多焦点をなす。ビームウエストは、集光レンズ18の入射径が2mm〜20mm程度であって、焦点距離が50mm〜300mmである光学要素により形成される。被加工材Wの板厚は例えば0.5mm〜50mm程度である。レーザ発振器11の波長毎又は波長帯域毎の制御の出力可変調節において、被加工材Wの切断面に垂直な軸を入射角0°として、入射角が0〜40°においては短波長側の波長帯域の出力を、長波長側の出力より大きくすることができる。被加工材Wの切断速度は、例えば2m/min〜250m/minの範囲で選択できる。
【0035】
(板金切断加工方法)
以下、前記レーザ加工機を用いて、板厚1mmから約4.5mmの軟鋼板及び、板厚1mmから5mmのアルミ板を切断する本発明の板金加工方法の一実施形態を説明する。
【0036】
1.板厚1mmから約4.5mmの軟鋼板を切断する方法
この方法は、多波長のレーザ光を発振するDDLモジュールと、
前記DDLモジュールからの多波長レーザ光を伝送する伝送ファイバと、前記伝送ファイバにより伝送された多波長のレーザ光を集光して板金へ照射する加工ヘッドとを有するレーザ加工機を使用して、厚さが1mm以上で4.5mmの軟鋼板を切断し、
表面粗さ(Ra)が0.4μm以下である切断面を得るものである。
【0037】
ここに表面粗さ(面粗度(Ra))は、算術平均荒さを意味する。
【0038】
前記表面粗さ(Ra=0.4μm)は、同じ厚さの軟鋼板をCO2レーザ加工機で切断したときに比べてはるかに小さいものである(CO2レーザ加工機で切断したときは表面粗さはRa>1.2μmとなる)。
【0039】
前記方法において、アシストガスは、酸素であり、その圧力は0.05(MPa)〜0.2(MPa)であるのが好ましい。
【0040】
前記方法において、前記加工ヘッドに搭載される集光レンズの焦点距離は150(mm)〜250(mm)であるのが好ましい。
【0041】
前記方法において、例えばBPPが10.3(mm*mrad)の場合において、前記加工ヘッドからのレーザ光のパワーは1600(W)〜2000(W)であり、パワー密度は.9x10^5(W/cm^2)〜2.8x10^6(W/cm^2)であり、ビームウェスト径は300(um)〜480(um)であり、レイリー長は2.2(mm)〜5.6(mm)であるのが好ましい。
【0042】
前記方法において、前記アシストガスを噴出するノズルのノズル径は、0.8(mm)〜4(mm)であり、ノズル高さは0.5(mm)〜1.5(mm)であるのが好ましい。
【0043】
2.板厚1mmから約5mmのアルミ板を切断する方法
この方法は、多波長のレーザ光を発振するDDLモジュールと、 前記DDLモジュールからの多波長レーザ光を伝送する伝送ファイバと、前記伝送ファイバにより伝送された多波長のレーザ光を集光して板金へ照射する加工ヘッドとを有するレーザ加工機を使用して、厚さが1mm以上で5mm以下のアルミニウム板を切断し、表面粗さ(Ra)が2.5μm以下である切断面を得るものである。
【0044】
この表面粗さ(Ra=2.5μm)は、同じ厚さのアルミニウム板をファイバレーザ加工機で切断したときに比べて小さいものである(ファイバレーザ加工機で切断したときは表面粗さはRa>2.7μmとなる)。なおこれは板厚2mmの場合であり、後述するように板厚が2mm以上の場合は、その差は更に大きくなる。
【0045】
前記方法において、アシストガスは、窒素であり、その圧力は0.8MPa以上であるのが好ましい。
【0046】
前記方法において、前記加工ヘッドに搭載される集光レンズの焦点距離は120(mm)〜190(mm)であるのが好ましい。
【0047】
前記方法において、例えばBPPが10.3(mm*mrad)の場合において、前記加工ヘッドからのレーザ光のパワーは1600(W)〜2000(W)であり、パワー密度は1.5x 10^6(W/cm^2)〜4.8x10^6(W/cm^2)であり、ビームウェスト径は230(um)〜364(um)であり、レイリー長は1.3(mm)〜3.4(mm)であるのが好ましい。
【0048】
前記方法において、アシストガスを噴出するノズルのノズル径は、1.5(mm)〜4(mm)であり、ノズル高さは0.3(mm)〜1.0(mm)であるのが好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、前記実施形態の実施例を説明する。
【0050】
1.加工評価の指標
以下の実施例では、前記実施形態のレーザ加工機(DDLモジュールを用いたレーザ加工機)で軟鋼板及びアルミ板を切断した実施例、及び、CO2レーザ発振器を有するCO2レーザ加工機で軟鋼板及びアルミ板を切断した比較例、及び、ファイバレーザ発振器を有するファイバレーザ加工機で軟鋼板及びアルミ板を切断した比較例を示す。
【0051】
そしてこの発明の実施形態によるDDLモジュールからのレーザ光及び、CO2レーザ発振器からのレーザ光及び、イットリビウムファイバレーザ発振器からのレーザ光により前記板金を切断しその切断面の表面粗さを比較した。
【0052】
なお、前記表面粗さ(面粗度(Ra))は算術平均荒さを意味する。これは「粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f (x)で表したときに、次の式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したもの」をいう(JIS B 0601(1994), JIS B 0031 (1994))。
【数1】
【0053】
2.実施例1(軟鋼板の切断方法)
図4は、厚さ1mm〜4.5mmの軟鋼板を、前記実施形態のDDLモジュールを有するレーザ加工機で切断した実施例と、CO2レーザ加工機で切断した比較例1と、ファイバレーザ加工機で切断した比較例2の試験結果を示すものである。
【0054】
ここに、DDLモジュールを用いるレーザ加工機におけるレーザ光及び光学要素のパラメータの値は以下の表1に示すとおりであった。
【0055】
【表1】
【0056】
なお図4において、横軸は軟鋼板の厚さを意味し、縦軸は切断面の表面粗さを示す。また、実線(▲三角印)は前記実施形態のレーザ加工機を用いて切断した切断面の表面粗さを示し、点線(◆菱形印)は、CO2レーザ加工機を用いて切断した切断面の表面粗さを示し、一点鎖線(■四角印)は、ファイバレーザ加工機を用いて切断した切断面の表面粗さを示す。
【0057】
図4から分かるように、厚さ1mm〜4.5mmの軟鋼板を、前記実施形態のレーザ加工機で切断した場合、切断面の表面粗さは、Ra=0.2〜0.4の程度となる。これに対して、前記軟鋼板を、CO2レーザ加工機で切断した場合、切断面の表面粗さは、Ra=1.2〜1.6の大きさとなる。
【0058】
従って、前記実施形態のレーザ加工機で切断した切断面の表面粗さは、CO2レーザ加工機で切断した切断面の表面粗さよりも遙かに小さくなることが理解される。
【0059】
なお、ファイバレーザを用いたレーザ加工機で切断した切断面の表面粗さは、前記実施形態のレーザ加工機での切断面とほぼ同様となる。
【0060】
以上により、前記軟鋼板を、実施形態のレーザ加工機で切断した切断面の表面粗さは、ファイバレーザを用いたレーザ加工機で切断した切断面の表面粗さとほぼ同様の大きさになるが、CO2レーザ加工機で切断した切断面の表面粗さよりも遙かに小さくなることが分かる。
【0061】
3.実施例2(アルミニウム板の切断加工方法)
図5は、板厚1mm〜5mmのアルミニウム板を、前記実施形態のレーザ加工機で切断した実施例と、CO2レーザを有するレーザ加工機で切断した比較例1と、ファイバレーザを有するレーザ加工機で切断した比較例2とを示すものである。
【0062】
この場合において前記実施例のレーザ加工機におけるレーザ光の及び光学要素のパラメータは以下のとおりである。
【0063】
【表2】
【0064】
図5において、横軸はアルミニウム板の厚さを意味し、縦軸は切断面の表面粗さを示す。また、実線(▲三角印)は前記実施形態のレーザ加工機を用いて切断した切断面の表面粗さを示し、点線(◆菱形印)は、CO2レーザ加工機を用いて切断した切断面の表面粗さを示し、一点鎖線(■四角印)は、ファイバレーザ加工機を用いて切断した切断面の表面粗さを示す。
【0065】
図5から理解されるように、板厚1mm〜5mmのアルミニウム板を、前記実施形態のレーザ加工機で切断した場合には、切断面の表面粗さはRa=1μm〜2.5μmとなる。
【0066】
これに対してファイバレーザ加工機で当該アルミニウム板を切断した場合には、切断面の表面粗さは2.5μm以上となる。また、板厚3mm以上では表面粗さは3.0μm以上となる。
【0067】
従って、前記アルミ板を、実施例のレーザ加工機で切断した切断面の表面粗さは、ファイバレーザ加工機で切断した切断面の表面粗さよりも相当に小さくなることが理解される。
【0068】
なおCO2レーザ加工機で前記アルミニウム板を切断加工した場合にはその切断面の表面粗さは1.5um〜2.5um程度であった。
【0069】
従ってこの試験例によれば、前記アルミニウム板を切断する場合、ファイバレーザ加工機による切断面よりも、本発明の実施形態によるレーザ加工機による切断面の方が、表面粗さRaが相当小さいことが分かる。
【0070】
4.上記2,3によれば、前記実施形態のレーザ加工機を使用すれば、軟鋼板とアルミニウム板の両方を切断加工する場合、何れの板金の場合にも、表面粗さが非常に小さい切断面を得ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5