特許第5919457号(P5919457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5919457
(24)【登録日】2016年4月22日
(45)【発行日】2016年5月18日
(54)【発明の名称】大豆発酵食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 11/20 20160101AFI20160428BHJP
【FI】
   A23L1/202 101
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-242765(P2012-242765)
(22)【出願日】2012年11月2日
(65)【公開番号】特開2014-90693(P2014-90693A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2013年11月28日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592102940
【氏名又は名称】新潟県
(73)【特許権者】
【識別番号】591022254
【氏名又は名称】石山味噌醤油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084102
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 聡
(72)【発明者】
【氏名】小林 和也
(72)【発明者】
【氏名】養田 武郎
【審査官】 山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−103825(JP,A)
【文献】 特開平06−098711(JP,A)
【文献】 特開平03−067556(JP,A)
【文献】 特開昭61−265061(JP,A)
【文献】 特開平06−253733(JP,A)
【文献】 特開2007−006834(JP,A)
【文献】 特開2009−165377(JP,A)
【文献】 上野 義栄,醸 協,2000年,Vol. 95, No. 10,p. 755-758
【文献】 八田 一,飯島記念食品科学振興財団年報,2003年,Vol. 2001,p. 110-115
【文献】 早川 他,日本農芸化学会誌,1995年 8月,Vol. 69, No. 8,p. 1021-1026
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI(STN)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食塩を除いた味噌原材料を所定の水分に調製し、2.5%以下のアルコールを添加して麹由来の雑菌を軽減する雑菌低減処理を施し、50〜70℃、1日〜5日の短期間高温仕込みによって酵素分解処理を促進し、前記の処理終了後に、10℃の低温状態として所望の発酵微生物を添加し、当初1週間は10℃の低温を維持し、その後15℃で2週間、以後順次週間単位程度の期間を以て30℃まで段階的な温度管理を行いながら低温発酵処理を行ってなることを特徴とする大豆発酵食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無塩の味噌様食品である大豆発酵食品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
味噌は、周知のとおり麹の酵素により含塩原料成分を分解し、或いは更に、酵母や乳酸菌により発酵、熟成した含塩大豆発酵食品で、その食塩濃度は、一般的な辛口味噌で約12〜14%である。健康的な食生活のために食品の食塩濃度を低下させることが要望されている。味噌のような大豆発酵食品も同様であるが、醸造過程において使用する食塩量のみを減少させるという単なる低塩化を図ると、変敗・腐造が生じてしまう。
【0003】
この対策として、従前から麹歩合を高め、数日間の高温仕込みを行って麹菌酵素による原材料成分の分解を促進し、その後調熟、冷蔵を行う高温消化法や、エタノール(2〜5%)を仕込み時に添加し、エタノールの抗菌作用を利用するエタノール添加法、更に蒸煮大豆に有機酸を添加しpHを下げて酸性プロテアーゼ製剤を加えて反応させ、その後に食塩(4%)とエタノール(3〜4%)を加えて20℃で5日間酵素分解させる蒸煮大豆酵素分解法等の手法が知られている。
【0004】
また特許文献1(特開平10−57003号公報)には、食塩の一部の代替えとしてグルコン酸のアルカリ金属塩を使用する手段が開示されている。これは蒸煮大豆をすり潰してミンチ状にし、麹、食塩グルコン酸のアルカリ金属塩等の添加剤を添加し混合したものを配合し、常温で6ケ月程熟成させるものである。
【0005】
更に全く塩を添加しない無塩味噌と称される大豆加工食品についても、特許文献2(特開2007−6834号公報)には、前記のエタノール添加法と同様に、蒸煮大豆(50〜70重量%)と麹(30〜50重量%)に、発酵アルコール(3〜6重量%)を添加して発酵アルコールの使用によって酸敗を防止しながら、所定期間(2〜14日)所定の品温(40〜70℃)を維持して熟成させる手法が開示されている。
【0006】
また特許文献3(特開2008−131930号公報)には、麹菌を乳酸菌培養液で培養して液体麹を調製し、この液体麹を食品素材に添加し、更に除菌空気を連続的又は間欠供給しながら、密閉された状態で製麹し、得られた麹に、乳酸菌培養液、食品素材(加熱処理した米・大豆胚芽・大豆)を混合し、混合物をそのまま又はペースト状にして諸味を形成し、該諸味を食塩非存在下で熟成して味噌様食品を得る手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−57003号公報。
【特許文献2】特開2007−6834号公報。
【特許文献3】特開2008−131930号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記した減塩味噌の醸造法として知られている高温消化法、エタノール添加法、及び蒸煮大豆酵素分解法等の手法は、熟成中の酵母・乳酸菌の活動が見られない非発酵型の味噌であり、熟成時の発酵による香気・風味に欠けるものである。
【0009】
また特許文献3は、麹菌の液体培養及び無菌空気による製麹という特殊な条件でしか採用できず、食品素材を大豆に特定すると製出品の多様性が狭められてしまう。
【0010】
そこで本発明は、無塩状態で変敗・腐造を生じない大豆発酵処理を行う新規な手法を提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る大豆発酵食品の製造方法は、食塩を除いた味噌原材料を所定の水分に調製し、2.5%以下のアルコールを添加して麹由来の雑菌を軽減する雑菌低減処理を施し、50〜70℃、1日〜5日の短期間高温仕込みによって酵素分解処理を促進し、前記の処理終了後に、10℃の低温状態として所望の発酵微生物を添加し、当初1週間は10℃の低温を維持し、その後15℃で2週間、以後順次週間単位程度の期間を以て30℃まで段階的な温度管理を行いながら低温発酵処理を行ってなることを特徴とする。
【0012】
通常の味噌醸造と同様に大豆ペーストに麹を加えて無塩発酵を意図しても、耐塩性を備えていない麹由来の雑菌が繁殖してしまう。そこで静菌効果が認められる最小限のアルコール(2.5%以下)を添加して、仕込み温度50〜70℃で1〜5日の仕込みを行う。この仕込みでは、一般の乳酸菌の生育温度は15〜45℃であるために、雑菌の異常繁殖が抑えられ、麹菌酵素による速やかな糖化がなされ、酵母(発酵微生物)のエネルギー源となる糖類・アミノ酸の含量を高めると共に、最終製品の「旨味・甘味」を増強する。
【0013】
尚前記のアルコール添加量2.5%以下が限界値となるのは、一般的に味噌醸造において2%のアルコール添加で酵母の活動が停止するとされており、アルコール添加量が多くなってしまうと、低温発酵処理に際して発酵微生物として味噌用酵母を採用した場合、前記のアルコール添加が発酵進行の阻害要因となってしまう。また高温仕込みに際して添加アルコールの一部は蒸発してしまうので、静菌作用としては最大2.5%以下のアルコール添加量とし、この限界値は実験で裏付けられた。
【0014】
前記の高温仕込みの後に、10℃の低温状態として所望の発酵微生物(酵母・乳酸菌)を相当量添加し、当初1週間は10℃の低温を維持し、その後15℃で2週間維持することで、雑菌の生育範囲を外して残存する雑菌(腐敗菌)の増殖を抑制し、生菌数の多い添加発酵微生物の優先発酵を確実に促進させ、その後例えば20〜25℃で1〜2週間、30℃で2週間以上のように、発酵微生物が優勢な状態を継続維持させて、当該発酵微生物による発酵を優先的に進行させて無塩の大豆発酵食品を得ることができるものである。製出される大豆発酵食品は、当初の水分量(ペースト状或いは液状)、使用する麹の歩合、仕込み温度と発酵期間の調整によって、最終品製品の色合いや風味が特徴づけられるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記のとおり、高温仕込みによる原材料の酵素分解処理の後に、発酵微生物を追加して低温仕込みを行うことで、無塩状態でも追加発酵微生物の増殖・発酵が促進され、変敗・腐造を防止して、成分構成(発酵生成物)の異なる種々の無塩の大豆発酵食品を得ることができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例(第一試醸)の水分量、使用麹菌、麹歩合、発酵微生物の種別、熟度の組み合わせ表。
図2】同第一試醸品(発酵条件が相違する)の表1。
図3】同表2。
図4】同第二試醸品(発酵条件同一とした):ペーストの評価表。
図5】同:液体の評価表。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明の実施形態を、その試醸例に基づいて説明する。試醸は、食塩を除いた味噌原材料(蒸煮大豆ペーストに麹を加えたもの)を使用し、この大豆を含んだ原材料を発酵処理して無塩発酵食品を得るもので、原材料については、図1に示すように麹歩合の選択(3歩〜50歩)、水分量の選択(ペースト状又は液体)、使用する麹菌の種類の選択(味噌用麹菌又は焼酎用麹菌)を行い、これらにアルコール2.5%を添加し、50〜70℃の高温で1〜5日間の仕込みを行った。
【0019】
前記の高温仕込みは、アルコール添加で麹由来の各種雑菌の繁殖(活性)は抑えられ、麹菌酵素による分解が進行して、追加される発酵微生物のエネルギー源となる糖・アミノ酸が生成される。
【0020】
次に品温を10℃の低温状態とした後に、選択した発酵微生物(味噌用酵母:Zygosaccharomyces rouxii、清酒用酵母:Saccharomyces
cerevisiae、ワイン用酵母:Saccharomyces cerevisiae、パン用酵母:Saccharomyces cerevisiae、パネトーネ:酵母・乳酸菌混合、ヘテロ乳酸菌:Leuconostoc mesenteroides、ホモ乳酸菌:Lactobacillus
brevis)
を追加して発酵を進行させ、発酵微生物の優勢状態を維持しながら、10℃で1週間、15℃で2週間、20℃で1週間(但し20℃のまま熟成する場合もあり)、30℃で1〜4週間のように順次週間単位で温度を高めていき、適宜な期間の発酵熟成を行ったものである。
【0021】
前記の試醸(第一試醸)は、図2,3に示すように麹歩合、水分量、麹菌、発酵微生物、熟成期間を選択組み合わせて行ったもので、その結果、高温仕込み及び追酵母等による低温仕込みの組み合わせで、種々の大豆発酵食品を得ることができた。
【0022】
この第一試醸品について、発酵処理の結果(製出された大豆発酵食品の内容)を確認するために、第一試醸品の各「アルコール量」と「乳酸量」の散布図を作成し、選択組み合わせとの相関関係を確認したところ、以下の「表1」のとおりの結果が認められた。
【表1】
【0023】
次に呈味性の確認のために、「アミノ酸量」と「グルコース量」の散布図を作成し、選択組み合わせとの相関関係を確認したところ、以下の「表2」のとおりの結果が認められた。
【表2】
【0024】
次に、味認識装置による「旨み強度(AAE)」と「酸味強度(CAO)」の散布図を作成し、選択組み合わせとの相関関係を確認したところ、以下の「表3」のとおりの結果が認められた。
【表3】
【0025】
次に、香り成分の確認のために、ガスクロマトグラフィ及び質量分析装置を使用して「イソアミルアルコール量」と「アルコール量」の散布図を各々作成し、選択組み合わせとの相関関係を確認したところ、以下の「表4」のとおりの結果が認められた。
【表4】
【0026】
前記の第一試醸品のとおり、アルコールを添加しての短期高温仕込みと長期低温仕込を組み合わせて発酵処理する手法を採用した結果、所望の発酵微生物を使用して無塩の大豆発酵物を得ることができたもので、麹歩合、水分量、麹菌、発酵微生物、熟成期間を選択組み合わせることで、所望の性質を備えた製出品を得ることができる。
【0027】
尚高温仕込み時の水分量が40%以下であれば、通常の酵母及び乳酸菌が発酵せず、また70%では酒醸造に近似した発酵処理となることが確認できた。
【0028】
更に発酵条件を一致させ、麹歩合、水分量(ペースト又は液体)、麹菌の種別、発酵微生物の種別を変えて第二試醸を実施した。第二試醸の発酵条件は、2.5%アルコール添加で、55℃3日間の高温仕込みを行い、発酵微生物を加え、10℃・1週間、15℃・2週間、20℃・1週間、30℃・2週間の発酵処理を施すものである。
【0029】
第二試醸品の官能評価結果は図4,5に示した通りであり、麹歩合、水分量(ペースト又は液体)、麹菌の種別、発酵微生物の種別を選択することで、風味が大きく異なる大豆発酵食品を得ることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、無塩の大豆発酵食品を得ることができたもので、特に前記の大豆発酵食品は、麹歩合、水分量(ペースト又は液体)、麹菌の種別、発酵微生物の種別を選択することで、多様な風味の食品となるので、この発酵生成物である大豆発酵食品は、直接的又は間接的(食品加工用添加物)に広く食品素材として利用することができるものである。
【0031】
耐塩性を有せず機能性アミノ酸への変換能が高い乳酸菌での大豆発酵処理も可能であり、且つ高温消化殺菌時の機能性アミノ酸の前駆物質(アルギニン等)を大量に生成するので、発酵条件(麹菌の種別、発酵微生物の種別)を選択することによって、特定の発酵生成物(機能性アミノ酸)を多量に生成し、当該生成物を抽出することで各種の機能性食品を得ることもできる。
図1
図4
図5
図2
図3