【文献】
徳丸正孝ほか2名,“ペン習字(筆記学習)支援システム −行書学習における動画手本の教育効果の検証−”,ヒューマンインタフェースシンポジウム2006 論文集,日本,ヒューマンインタフェース学会,2006年 9月25日,pp. 207〜212
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
文書文字列の外郭線の座標値を、該文書文字列を形成する文字の字画ごとの点列データとして取り込む取込手段と、取り込まれた点列データからなる外郭線内部を升目に区切る分割手段と、該分割手段によって分割された前記文書文字列の升目個々の画面表示開始時刻を指定して運筆表示する画面表示手段を有する文書運筆表示ツール。
前記画面表示手段は、前記文書文字列を文字を識別する文字番号、字画を識別する字画番号、及び2つの行番号と2つの列番号で表される4点からなる升目番号で識別される該升目を特定色に塗りつぶし、且つ該升目ごとに指定される前記画面表示開始時刻により前記文書文字列を表示するようにした調整手段を有する請求項1記載の文書運筆表示ツール。
前記外郭線内部を升目に区切る分割手段は、前記文書文字列を動的に運筆表示するのに必要十分なまでに外郭線内部を行と列の正方形升目に分割することを特徴とする、請求項1記載の文書運筆表示ツール。
前記調整手段は、前記文書文字列全体の推定運筆表示時間を総升目数で除した時間に升目番号に割り当てられる表示順を乗じた該時間を升目ごとの前記画面表示開始時刻の初期値とし、升目ごとの該画面表示開始時刻を指定できるようにしたことを特徴とする請求項2記載の文書運筆表示ツール。
【発明を実施するための形態】
【0015】
運筆表現するために、取り込まれた文書文字列の外郭線内部を、初回の升目分割として例えば、2と入力すると2mm×2mmの正方形升目で分割され、次第に半分、1/4という具合に入力して、外郭線が運筆表示に十分な細かさになるまで分割を繰り返していく。なお長さの単位については文書文字列を取り込む紙や拓本の大きさ、表示画面の大きさを元に決めるとよい。
【0016】
このように文書文字列に対する分割は、最初の正方形升目長が操作者により入力された後、プログラムにより升目分割がなされ、升目からなる文字肉が求められて、画面で運筆を確認し、運筆に十分になるまで半分の半分と再分割を繰り返す。
該画面への文書運筆表示ツールは画面表示の大きさを念頭に、外郭線の点列データの個数が決まり、格子の細かさを操作者が次第に細かく指定して決まっていく。
【0017】
予め紙乃至拓本から取り込んだ文字外郭線の点列データからなる文書文字列を正方形升目に区切り、該升目の集合の文字肉とし、該文字肉をプログラムにより自動的に取り込めるようにした。
【0018】
本ツールは
図1のようにキーボード11、コンピュータ12、メモリー13、マウス14、画面15、タブレット16、スタイラスペン17からなる。
キーボード11から、操作者が文字番号、字画番号を入力して、画面15上で入力を確認して、スタイラスペン17の操作により、タブレット16上に配置された文書文字列18の外郭線の座標値がコンピュータ12経由でメモリー13に取り込まれる。マウス14はコンピュータ12と赤外線接続されており、升目に対する表示順の指定に用いられる(段落67〜76で詳述)。
【0019】
特に座標読取装置20において、タブレット16には座標読み取りのために必要な回路等が組み込まれており、文書文字列18の外郭線上の所望の点においてスタイラスペン17を適度の押圧力をもって操作することで、該点の座標値が読み取られる。
符号10は後で説明する文書文字列18の外郭線上の前記点の座標値読み取りのための原点である。
【0020】
本ツールの全体のフローを
図2に示すが、
図1の全体構成図も参照しながら説明する。
図1に示すスタイラスペン17の操作により、タブレット16にセットされた文書文字列18の外郭線の点列データ取込(S1)を行う。次に取り込んだ外郭線を
図1の画面15で表示(S2)してしてみて点列データの数が運筆表示に十分か否かをみる。
【0021】
次に画面15で升目分割(S3)を行い、外郭線内部に存在する升目の集合を文字肉として、文字肉画面表示(S4)を行ってみる。即ち升目を特定色、例えば黒色に塗りつぶす。このとき、個々の升目に対する画面表示開始時刻(後述)は同一であり、単純には画面表示開始時刻関数の値に0が入り、即ち文書文字列18の画面表示は一斉に、又は瞬時になされる。
【0022】
ここで文字としての外郭線が保たれているか判断する。即ち運筆に十分な分割精度(S5)が得られているかを見るわけである。十分でなかったら必要に応じて文書文字列18を拡大して、升目分割をさらに細かくする(S6)。
【0023】
運筆に十分な分割精度が得られていると判断できたら、即ち文書文字列18の外郭線が滑らかになるまで分割されたら、全升目について升目番号に対する表示順指定(S7)を行い、次に表示順、等時間間隔の画面表示(S8)を行う。次に升目個々の画面表示開始時刻を調整(S9)して、画面15で運筆確認(S10)し、最適の運筆が得られなかったら(S11)表示順指定からやり直して、最適な運筆が得られたら処理の終了となる。
【0024】
文書文字列18を文字番号、字画番号、2つの行番号と2つの列番号で表される4点からなる升目番号と表示順により各升目の画面表示開始時刻を指定して運筆表示制御を行うこととする。
図3の(A)、(B)、(C)ような「明けましておめでとう」という文書文字列18を例に説明する。
【0025】
文書文字列18の文字を識別するために文字番号として、「明」を文字番号=1、「け」を文字番号=2などと置くこととする。さらに文字或いは漢字の画数を識別するために字画番号として、図の「明」の文字においては日の左側の縦線が 字画番号=1、日の上側の横線と右側の縦線で形成される逆L字が字画番号=2などと置くこととする。
【0026】
このように文書文字列18を文字番号、字画番号単位に制御することにより、運筆調整を柔軟に、自在に行うことが可能となり、名筆の書の筆触・筆尖・筆鋒の転折・脱力・ゆれ・ひねり・減衰などとして動的に画面15に再現できることになる。
【0027】
図3の(A)、(B)、(C)に示すようにX、Y座標値の原点を原点10とし、この原点を起点に
図1の座標読取装置20による座標値読み取りがなされる。これらの図は(A)から(B)へ1/2、(B)から(C)へさらに1/2格子が細かくなっていっていることを示している。
【0028】
図4は
図3の文書文字列18の、「お」の右肩「点」字画を抜粋し、拡大したうえでの分割を示しており、正方形升目に分割した図である。
図5、
図6はそれぞれ、
図4の字画を1/2、1/4と分割しており、その後さらに1/n(nは2の倍数)と分割を繰り返して、運筆表示できる適切な細かさまで分割していくことになる。
【0029】
適切な分割精度に分割して、文字の外郭線からはみ出さない升目の集合を文字肉として表し、この文字肉の各升目の画面表示開始時刻を指定して、特定色、例えば黒色に塗りつぶして、あたかも名筆書家がその場で書いているような運筆を表現する。
【0030】
図4、
図5、
図6における特に原点について、先に述べたように
図3に示した原点10は不変である。格子点に関連して、左上から下方へ行番号、右方へ列番号を1,2,3,・・・nと振ってあるが、原点がこれらの図の直左上にあるのではない。またこれらの図のX、Y軸の→、↓もそれぞれの軸を示しているに過ぎず、矢印の交点はいわばローカル原点である。
【0031】
段落25でも一部説明したが、文字の字画の外郭線取込の詳細について説明する。
本ツールでは
図7のような点列データ関数Aが用意されており第1パラメータとして文字番号、第2パラメータとして字画番号、第3パラメータとして点列番号からなり、これらのパラメータで識別されてX,Y座標値が点列データとして関数Aに取り込まれる。
【0032】
図8は点列データの例である。文字の字画の外郭線の点列データ取込(
図2のS1)に際しては、操作者が文字番号、字画番号を入力して、点列番号が順々にプログラムにより割り当てられて、外郭線のX、Y座標値が取り込まれる。
図8の例では点列番号は、文字番号、字画番号ごとの一貫番号としているが、勿論文字番号、字画番号に依存しない一貫番号としてもよい。
【0033】
このようにして、文字ごと、字画ごとに「・・・おめでとう」と最後の文字にいたるまで適切な細かさで外郭線の点列データが点列データ関数Aに取り込まれる。適切な細かさとは画面表示の大きさに応じて、例えば表示画面が小さければそれだけ取り込まれる点列データの数は少なくなり粗くなるし、表示画面が大きければそれだけ取り込まれる点列データの数は多くなり密になり、このように文字列外郭線が滑らかに表示できる細かさを意味している。
【0034】
図8に示すような点列データを全て取り込むと、適宜点列データ関数によって、外郭線を描くことが出来るようになっている。それは文書文字列全体、文字、字画単位に、任意に行える。
【0035】
外郭線取込が終わると、次に外郭線内部を正方形升目に区切る升目分割となり、そのアルゴリズムの詳細について
図9により説明する。
図は同じように、文字「お」の右肩の「点」であり、説明を簡明にするために点列の数を極端に少なくし、分割数も少なくして模式的に表している。
【0036】
先に
図3で示したように原点10として、図は原図を拡大しているが、いくら拡大しても、また分割をいくら細かくしても常に原点10は変わらない。
図9でもx座標値について左から右方向へ、y座標値について上から下方へ増方向として矢印で示している。
【0037】
点列データとこれから説明する格子点データをX、Y座標値それぞれでソートして、文字の字画内部に存在する格子点を抽出し、これらの格子点4点で構成される字画内部に存在する升目の集合を文字肉とする。この文字肉で文字列の外郭線が運筆表示のための滑らかに表示できる細かさまで分割が行われることになる。
【0038】
ここで点列データに対する格子点データという観点で、両者を改めて説明しておく。
点列データとは文字外郭線上の点列番号で識別されるX、Y座標値であり、格子点データとは格子が交わる点のX、Y座標値であり、格子点データの値は常に整数値をとる。
【0039】
点列データP1〜P5はこの順番に連続する点列であり、字画の外郭線を構成する閉曲線を形成するが、P1〜P5を次のように表す。
(XP1 YP1),(XP2 YP2),(XP3 YP3),(XP4 YP4),
(XP5 YP5)
これら点列データのうち最小値はP1点、即ち(XP1 YP1)であるが、最大値はXP3とYP4となっている。
このようにPnは点列データの呼びであり、(XPn YPn)はその座標値を表している。
【0040】
次に点列データと格子点データをX、Y座標値それぞれでソートすることにするが、文字肉の対象となる格子点は、点列データのX、Y座標値の最小値、最大値の間に存在するものだけを対象とすればよい。即ち対象となる格子点は
図9の●で示すP23,P26,P56,P53の太線で囲まれる格子点だけを対象とすればよく、それは表1のようになる。
尚Pk,lは格子点の呼びを表し、kは行番号、lは列番号を表している。
【表1】
【0041】
点列データと上記の文字肉候補として絞られた、格子点データをX、Y座標値それぞれでソートすると、それらは表2、表3のようになる。
尚X座標値のソートはこのように左から右へと座標値が増えるように並べられており、また格子点データについて、同じX座標値をとるものを縦方向に並べている。
同様に、Y座標値のソートは上から下へと座標値が増えるように並べられており、格子点データについて、同じY座標値をとるものを横方向に並べている。
【表2】
【表3】
【0042】
次に図で点列データの内部に存在する格子点を求めて,点列データの内部に存在する升目からなる文字肉を求めることとする。
点列データの内部に存在する格子点を求めるためには、各々の格子点に隣接する点列データ2点を結ぶ上下二直線ではさまれる格子点を求めればよい。
そこで格子点について、X=3,4,5,6の時の上述の2直線のY座標値を検討していくこととする。
このように便宜上、格子について図の列番号をX座標値の目盛、行番号をY座標値の目盛、と兼用して説明している。
【0043】
2点m,nを通る直線の式は
y−Ypn=(Ypm−Ypn)(x−Xpn)/(Xpm−Xpn)
と表せる。従って直線P1P2の式は
y−Yp2=(Yp1−Yp2)(x−Xp2)/(Xp1−Xp2)
となる。
【0044】
上の直線の式から、そのプログラムロジックはまず直線P1P2、直線P1P5の直線の式を求め、X=3の時のY座標値を求めると、(X2,3 Y2,3)のみが2つの直線にはさまれる格子点であることが分かる。
同様にこれら二直線についてX=4の時のY座標値を求めると、(X2,4 Y2,4)、(X3,4 Y3,4)が両直線にはさまれる格子点であることが分かる。
【0045】
次にX=5の格子点について判断することになるがそれには直線P2P3、直線P5P4の直線の式を求め、X=5の時のY座標値を求めると、(X2,5 Y2,5)、(X3,5 Y3,5)、(X4,5 Y4,5)が両直線にはさまれる格子点であることが分かる。
さらにX=6の格子点について判断することになるが、直線P2P3と直線P3P4の直線の式を求め、X=6の時のY座標値を求めると、(X3,6 Y3,6)、 (X4,6 Y4,6)が両直線にはさまれる格子点であることが分かる。
【0046】
以上で点列データの内部に存在する格子点、即ち文字肉判断が終了する。即ちP2,3 P2,4 P2,5 P3,4 P3,5 P3,6 P4,5 P4,6 の格子点が残ることになる。これらの格子点のうち、P2,4 P3,4 P2,5 P3,5 とP3,5 P4,5 P3,6 P4,6 で構成される2個の升目が文字肉として構成されることになる。唯一格子点P2,3 は格子点P3,3 が除外されており、升目を構成しえないので文字肉を構成する格子点とは成り得ず、最後に除外されることになる。以上のように当分割では2個の升目からなる文字肉が生成される。
【0047】
ところで、
図10のような、例えば「ゝ」などの文字字画に関しては、上述の
図9で説明したロジックとは異なってくる。このように同一字画内でY座標値が増えるとき、X座標値が一旦増えた後、次に減っていく、または逆にX座標値が一旦減った後、次に増えていく場合のロジックは異なる。
【0048】
図10では、このように
図9の点列データP3とP4の間にP6、P7、P8の3点を追加しており、同様にこれらの点列は閉曲線を形成し、字画の外郭線を構成するが、これら8個の点列データをつぎのように表す。
(XP1 YP1),(XP2 YP2),(XP3 YP3),(XP6 YP6),(XP7 YP7),(XP8 YP8),(XP4 YP4),(XP5 YP5)
これら点列データのうち最小値はP1点、即ち(XP1 YP1)であり、最大値はXP6とYP7となっている。
【0049】
次に点列データと格子点データをX、Y座標値それぞれでソートする場合、前と同じように考えて、対象となる格子点は
図10の●で示すP2,3 P2,7 P6,7 P6,3 の太線で囲まれる格子点だけを対象とすればよく、それは表4のようになる。
【表4】
【0050】
点列データと上記の文字肉候補として絞られた、格子点データをX、Y座標値それぞれでソートすると、それらは表5、表6のようになる。ソートの要領は前と同様である。
【表5】
【表6】
【0051】
以後、
図9の場合と異なる部分についてだけ、即ち追加された点列データに関してのみ説明する。まず文字肉を形成する升目は
図9の2個に、格子点P5,6 P6,6 P5,7 P6,7からなる升目が追加される。そのプログラムロジックは基本的にこれまでの説明で良いが、図のように、同一x座標値(x=5)線上で、格子点をはさむ2直線対が複数存在する場合は異なってくる。それは図の×印で示す格子点を除外し、○で示す格子点は外郭線内部に存在するという判断のロジックである。
【0052】
X=5の格子点において、直線P5P4とP8P4に挟まれる格子点は除外しなければならない。そして直線P8P4とP8P7については外郭線内部に存在するという判断をするロジックである。
【0053】
さらに同様な検討を進めると、
図11のような比較的複雑な文字字画の場合である。このような場合、文字字画の内側にある格子点(○で示す)か、外側にある格子点(×で示す)かの判断は
図9により説明した処理とは異なる。
【0054】
図11で(A)のように、左上から右下へ降りて来て、やがて左下へ降りていくような場合、或いは同様に右下へ降りて来て、左上へ上がる場合(図示せず)、又は(B)のように、逆に右上から左下へ降りて来て、やがて右下へ降りていくような場合、或いは同様に左下へ降りて来て右上へ上がる場合(図示せず)などである。
【0055】
図から分かるように、字画内の格子点を挟む一対の上下の2直線で判断するということになる。(A)においては直線1と直線2の間に格子点があるか否かを判断し、次に直線3と直線4で判断するということになる。直線2と直線3では一対とはならないということである。
(B)においても同様であり、直線5と直線6、直線7と直線8で判断するということである。直線6と直線7では一対とはならないということである。
それは(C)のような幾重にも曲がる、字画でも同じであり、格子点を挟む2直線において1番目と2番目、3番目と4番目、5番目と6番目という直線対で判断するということである。2番目と3番目、4番目と5番目は対象の直線対とはならないということである。
尚
図11において直線nは格子点の両隣の2つの点列データからなっており、さらにX=5の縦線は、横に引かれた水平線と共に格子点を形成していることを表している。
【0056】
このようなロジックにより、以後分割をさらに1/2、1/4、1/8・・・と細かく分割して、滑らかな文字の運筆表現ができる、即ち推定運筆に必要な最適な分割の文字肉を求めることができる。
【0057】
前にも一部説明しているが、
図4、5、6は「お」の文字の右肩の字画「点」の分割の様子を示しており、18個の点列データで文字肉を升目に分割する過程を説明する図である。
図9に対して点列データを5点から18点に増やした上で、分割を1/2、1/4と細かくした図になっている。
【0058】
その結果即ち、
図5は
図4の升目をさらに半分に分割し、
図6は
図5の升目をさらに半分に分割している。
図4では文字肉が升目2個で表され、
図5では文字肉が升目20個で表され、
図6では升目119個で表されている。これまで述べてきた文字肉を求めるプログラムロジックは分割がいくら細かくなっても有効であり、変わらない。
【0059】
これらの説明は、「お」の文字の右肩の字画「点」に着目して、升目分割して文字肉を求める方法について、本ツールのプログラムがどのようなロジックで作られているかを述べている。一旦運筆に十分な分割精度まで分割がなされると、
図3に示すような文書文字列全体に対して、その分割精度まで一気に分割を行うことになる。その時升目の数は数万から数十万、場合によっては百万に達する場合も有り得よう。このように升目数が膨大になって、段落41或いは50で説明したX、Y座標値それぞれにおけるソートのデータが、文字肉を求める際のプログラムの基礎データとなってくる。
【0060】
正方形升目からなる文字肉が求まるとこれらの升目にはプログラムにより、升目番号が振られることになる。升目番号は、左から右へ、上から下へと順々に一貫番号で振っていくこととする。文字の一部即ち「お」の文字の右肩の字画「点」の場合、文字肉の正方形升目に図のような升目番号が振られる。
【0061】
まず
図4では2個の升目から文字肉が形成され、升目番号に対し表7のような格子点により構成されている。
【表7】
【0062】
図5は
図4に対しさらに細かく、その1/2の升目の大きさに分割しており、20個の升目から文字肉が形成され、升目番号に対し表8のような格子点により構成されている。
【表8】
【0063】
図6は
図5に対しさらに細かく、1/2の升目の大きさに分割して、119の升目から文字肉が形成され、升目番号に対し表9のような格子点で構成されているが、ここでは中間の升目番号、即ち4〜116とそれに対する格子点を省いており、前後3個の升目についてだけ記述している。
さらに
図6では
図4、5では図示した升目を形成する、4隅の格子を“k,l“(kは行番号、lは列番号)のように示していない。
【表9】
【0064】
図6のように
図4の升目を細かくして、1/4の正方形升目に分割しても、適切な運筆表示には分割精度として、まだまだ不十分である。しかも
図6の分割は「お」の字の右肩の「点」についての分割についての説明であり、文書文字列全体、即ち「明けましておめでとう」について分割したときの升目数は膨大なものになるということは先にも述べた。
【0065】
しかし一方、運筆表示に十分な点列データの取り込みを行った後、分割がいくら細かくなって、升目数が膨大になっても、先述のプログラムロジックにより、文字肉を機械的に求めることができる。即ち段落59でも触れたように点列データと格子点データのX、Y座標値それぞれのソートのデータが極めて重要となってくる。
【0066】
運筆表示に十分な数の升目数の文字肉が求まると、即ち分割精度が十分であると判断する(
図2のS5)と、升目番号に対する表示順指定(同S7)を行い、次に表示順、等時間間隔の画面表示(同S8)を行う。そして最後に個々の升目に対する画面表示開始時刻の調整(同S9)を行うことになる。
【0067】
個々の升目に対する画面表示順番を示す表示順の振り方について説明する。説明するのに丁度適当な升目数である
図6を流用した
図12を使って説明する。
表示順指定(
図2のS7)作業は、
図1の画面15に
図12のように、プログラムにより個々の升目に振られた升目番号が升目内の右上に表示された状態で始まる。
このように以下の作業は画面15上でマウス14を使用して行われ、必用に応じて画面15に表示される
図12のような図を拡大、縮小して行われる。
升目番号、1の升目内でマウス14押下により、表示順は1となり、この表示順が升目内の左下に下線付き数字で表示される。
【0068】
同様に升目番号、2のマウス14押下により、表示順は2となり、升目番号、11のマウス14押下により、表示順は3となる。同じような操作で、升目番号23,3,12,24にはこれらの順番で表示順4〜7が振られる。このように1個ずつ升目を指示して表示順指定を基本とするが、次のような半自動で表示順を連続して指示していく方法が備わっている。
【0069】
升目番号、4のマウス14押下により表示順は8となり、次に間を飛ばして升目番号、37のマウス14押下により表示順は11となり、飛ばした、升目番号、13と25には、プログラムが判断して、表示順9と10が入るようになっている。
【0070】
間を省略して、同様に升目番号、21のマウス14押下により表示順は49となり、間を飛ばして升目番号、87のマウス14押下により表示順は56が入り、飛ばした、升目番号、33から79には、プログラムが判断して、表示順50〜55が入るようになっている。
【0071】
尚
図12の升目内の右上P、左下
Q(下線付き)はそれぞれ今説明している升目番号と表示順を表しており、即ち具体的な数値を書かずに省略して表している。
【0072】
運筆表示に十分な升目の数は前述したように、数万否、百万に達する場合がありえよう。従って升目番号に対する表示順指定には、このような方法以外にも、種々プログラムにより自動的に振られていくような方法が考慮されている。ここで、それらの方法について、これ以上の説明はしない。
【0073】
以上のようにして、全ての文字、字画について、即ち本発明の例では「あけまして・・・」の文字列に対して、文字番号、字画番号、升目番号、表示順が決定されることになり、文書文字列の画面15表示のための準備が整ったことになる。
【0074】
画面15表示については、
図13に示すような画面表示開始時刻関数Bが用意されており、これまでに整った文字番号、字画番号、升目番号、表示順が埋められたことになるわけである。
【0075】
個々の升目に対し画面表示開始時刻の、升目総数it、推定画面表示総時間tとしたとき、各升目の画面表示開始時刻はt/it * i4(i4は表示順)となり、まず、この画面表示開始時刻を初期値として運筆の様子を見てみることとする。
【0076】
仮に
図3の「あけまして・・・・」文字列全体の升目総数itを百万(個)、画面表示総時間tを10秒としたとき、画面表示開始時刻は
10/1,000,000 * i4(表示順)=10μ秒 * i4
となり、即ち升目1個1個が10μ秒間隔で、表示順の順序で特定色に塗られて、例えば黒く塗られて画面15表示がなされていくことになる。即ち表示順、等時間間隔の画面表示(
図2のS8)が行われることになる。
【0077】
以上のようにして表示順の確認が終わると、
図13の画面表示開始時刻関数Bの値、即ち本ツールが目標とする運筆に近づけるため、升目個々の画面表示開始時刻を調整(
図2のS9)していくことになる。
【0078】
図14は画面表示開始時刻関数Bのデータ例である。このように文字の字画ごとに升目の画面表示開始時刻を調整することを基本とするが、後の段落82で述べる運筆行程の中の例えば起筆・走筆・終筆これらのサブルーチンが用意されており、効率的に画面表示開始時刻を指定できるようになって、便利になっている。
これらサブルーチンの詳細については説明しない。
【0079】
文字或いは字画ごとに運筆調整をして確認後、
図3の文書文字列18「あけまして・・・」の最後の分割が終わり、即ち「お」の文字の右肩字画「点」について例えば1/512の分割で運筆調整を確認して、他の字画についても運筆調整が完了すると、文書文字列18「あけまして・・・」全体に対して1/512で分割して最終の確認を行うことになる。
【0080】
最終的に文字列を
図1の画面15に表示してみて、推定運筆表示に合致していることを確認して、表現(出力)の完了となる。このようにして、文字や字画で表示順や画面表示開始時刻を調整することにより名筆の運筆を、動的に詳細に表現できることになる。
【0081】
2009年の大仏次郎賞を受賞した、石川九楊氏の『近代書史』の補完的ツールをめざして、画面上に運筆感を再現できたらと、即ち『近代書史』で描かれた言葉による説明に対して、動的に運筆を表現できたらとの思いから本発明に至った。
【0082】
宇宙物理学者の池内了氏が選評の弁として述べる「 一つの字の起筆・走筆・終筆と続く流れのなかでの筆触・筆尖・筆鋒を転折・脱力・ゆれ・ひねり・減衰などとして詳細に分析するとともに、例えば西田幾多郎の書の特徴を垂直筆、速度感、表現の変化、筆圧感、云々」というような概念を画面上に動的に表現できることになる。
【0083】
また文字や字画を升目に分割した、即ち文書文字列外郭線内部が微細な升目に分割され、各升目に対して筆順を指定し、その筆順指定された個々の升目に対し画面表示開始時刻を指定することにより“かすれ”さえ表現できることになる。
【0084】
尚升目分割に際して、正方形の升目に分割してと説明してきたが、必ずしも正方形升目である必要はなく、要は方形の升目を半分、さらにその半分と分割を繰り返していけばよい。